コカ・コーラ社が新製品戦略にA/Bスプリットテストを利用したワケとは?

日本コカ・コーラ社はなぜ新製品開発戦略にA/Bスプリットテストを取り入れたのか?
一般的にはプロモーション戦略で活用されるA/Bスプリットテストを、なぜコカ・コーラ社は新製品戦略に取り入れたのでしょうか?
一つはAKB48の国民総選挙が実施するたびに話題となるように、メジャーブランドのリニューアルにあたって、消費者を巻き込んで注目を高めるためにイベントマーケティングとして導入したということもあるでしょう。
ただ、他にも大きな理由が考えられます。
それは、ブレンド茶市場で圧倒的な支持を集める爽健美茶だけに、リニューアルによって顧客が新たな味に失望し、他のブランドに流れるリスクを最大限予防するということです。
もし、消費者に新しい味が受け入れられなければ、ライバル他社の攻勢も激しい市場だけに大きくマーケットシェアを落とすことも考えられます。
やはり、圧倒的な人気を誇るメジャーブランドだけに、大胆なリニューアルには大きなリスクが伴うのです。
メジャーブランドのリニューアルでの大きな失敗
コカ・コーラ社には、かつてメジャーブランドの味のリニューアルに際して、大きな失敗を犯した経験があります。
それは、1970年代のアメリカ。
コカ・コーラとペプシコーラのブランドを隠したまま消費者に飲み比べてもらい、おいしい方を指摘してもらうというブラインドテストを実施したところ、大半の消費者がペプシコーラの方がおいしいという評価を下したのです。
このテスト結果に危機感を抱いたコカ・コーラ社は、『カンザス計画』という名のもとに、味覚の大改革に挑みます。消費者テストを繰り返しながらペプシコーラを上回る味を追求して、1985年、遂に『ニューコーク』というネーミングで大々的に販売を開始するまでに至りました。
ところが、この新しいフレーバーは消費者に受け入れらることはありませんでした。
コカ・コーラ社としては、自信を持って投入した新製品だけに、旧製品の販売を止めてまで臨んだ大きなチャレンジが完全に裏目に出てしまいました。結果として、コカ・コーラのシェアは急落し、ライバルのペプシコーラに追い抜かれてしまったのです。
そして、消費者の予想外の大きな反発に、新製品発売からわずか3か月後、コカ・コーラ社は昔の味を復活させて『コカ・コーラ・クラシック』として販売せざるを得ない状況にまで追い込まれたのです。
消費者の嗜好が多様化した時代に求められる難しい舵取り
今や消費者の嗜好は多様化し、企業側が完全に把握することはますます難しくなってきています。
特に飲料業界に限っていえば、毎年各社が数多くの新製品を市場に投入してきますが、消費者から一定の評価を得て、商品棚に残り続ける製品は“千に三つ”といわれています。
つまり、ほとんどの製品が短期間のうちに消え去る運命にあるのです。
現在では主要な流通網はコンビニエンスストアであり、スペースに限りのある売り場では、POSデータを分析して、短いものであれば1週間程度で棚から撤去されます。
売れなければ、プロダクトライフサイクルがわずか1週間という厳しい現実を突きつけられているのです。
ただ、飲料メーカーにとっては莫大なコストをかけて新製品を開発しているのですから、大きな失敗は避けたいものです。
そこで、企業側から「この製品であれば売れるだろう」というプロダクトアウト的な視点から新製品を開発して投入するのではなく、消費者に「どの製品がいいですか?」と直接訊ね、実際に評判のいい方を残すマーケットイン的な手法を導入すれば、失敗する確率は低くなることにつながるでしょう。
やはり、ビジネスのリスクを低くするためには、いきなり仮説に基づいて大規模なマーケティングを展開するのではなく、小規模なテストで数値を検証したうえで本番を実施するという慎重なマーケティングが効果的なのです。
今や消費者はインターネットを通じて、いつでも、どこでも、いくらでも情報が入手できる時代となりました。このような環境の中では、消費者の変化は非常に激しく、企業側にとってはマーケティングの舵取りがますます難しくなる状況が続いています。
そこで、日本コカ・コーラ社が実施する『爽健美茶。国民投票』のように、少しでも消費者に近づき、望むものを提供できるマーケティングを実践していくことが、今の企業に求められていることだといえるのではないでしょうか。