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正午前。
桐原は午前7時から午前11時までの工場のバイトが終わるといつものように国道57号線沿いにあるコンビニエンスストアに立ち寄る。
そして決まって甘い缶コーヒーとソーセージパンを買う。
"飽きもせずまたこのお客さん缶コーヒーとソーセージパンだよ。うふふ"
なんて、
いつもレジに立っている若い女性二人組の店員はそう思っているんじゃないだろうか、
と思わせてくれるくらい女性二人組の桐原に対する接客対応はいつも朗らかだった。
商品の入ったビニール袋をぶら下げ、
コンビニの店舗の正面すぐに設けられた駐車スペースに止めた自分の車に乗り込もうと車のドアに手を掛けたとき、
桐原は"ミャーン"という鳴き声を確かに耳に止めた。
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作詞 木村カエラ 作曲 會田茂一
発売日 2005年 アルバム「Circle」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
「どこ行ったんだろう?」
奈津美は、100台はあると思われる放置された車一台一台の横や下を見てまわった。事務所の回りも何周とまわった。
しかしミーニャの姿はなかった。気配がなかった。
奈津美は中古車販売店の敷地を出て、歩道に立ち考える。
目の前のこの往復4車線の国道は渡ることは出来ないだろう。
そう踏んで、熊本市内の方、左に行く。
中古車販売店は、国道57号線と県道が交わる交差点の角にある。
奈津美は歩道に沿って左に折れ中古車販売店の横を行く。
すると左手、つまり中古車販売店の裏には20万平方メートル超の広大な田んぼを目にすることができる。
奈津美は歩道から田んぼの間を通るあぜ道に入り、草むらの中などを見て進んだ。
きょうは中間テスト初日だ。
でもいい。そんなことよりミーニャの方が大事だ。
どうせ担任は家に電話なんかしてこない。
今まで何度か学校をサボったことがあるが一回も家に電話は無かった。
担任はそういう事がきっと面倒くさいんだろう。
と、奈津美は高を括っていた。
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作詞 作曲 田中拡邦
発売日 2002年 アルバム「MAMALAID RAG」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
朝。藤倉奈津美はいつものように学校に行く前にミーニャに会いに行く。
国道57号線を熊本市内方面に向かって進み、左手にあるコンビニエンスストアのすぐ先の閉鎖された中古車販売店。
その敷地内にミーニャはいる。
奈津美は、コンビニでミーニャの朝ごはんの125ミリリットルパックの牛乳を買い、中古車販売店の入り口から入り、放置された車のあいだを抜け、敷地奥の事務所の横に置かれた段ボール箱を見る。
それは、いつもとは違う光景だった。
段ボール箱の開き口が無造作に奈津美の方を向いていた。
「えっ?」
奈津美は咄嗟に段ボール箱に駆け寄った。
段ボール箱の中は、奈津美の着古したグレーのトレーナーだけだった。
「あれー?・・・」
と、奈津美は事態がよく飲み込めずにいたが、
すぐに「ミーニャ」とあたりに向かって呼び求めた。
そして次に「ミーニャ!」と、今度は大きな声で言った。
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作詞 作曲 松本素生
発売日 2003年 アルバム「ハートビート」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
健介の妻浩子から、もうかれこれ6カ月、そう浩子が熊本を離れ実家のある大阪に帰って以来、まったく電話が無い。
ただ、写真が添付されただけのメールはしばしば送られて来る。それらはすべて娘彩香の写真だ。
大阪の小学校に登校しているようで、制服姿や、はたまた、おやつや晩御飯を食べている姿などが送られて来ていた。
どの写真も彩香はこの上なくたのしそうに大笑いしている。健介にはあまり見せたことがない表情だった。
浩子の実家は大阪では名の知れた老舗の呉服店だ。
浩子はその呉服店で、結婚前の証券会社での事務職の経歴を活かして、経理を任せられているらしい。
健介は、腰痛予防のための両脚を広げたままでの上体前屈と上体反らしを繰り返していた。
すると、パソコンからメールの受信を知らせる音が鳴った。城崎太一からだった。メールの内容は、一行の極めてシンプルな文。
<オレ、アフガニスタンに行ってくる!>
"マジかよ。"健介はまたも思わず呟いた。
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発売日 2004年 アルバム「一青想」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
夜。桐原健介は、自宅の1LDKのアパートの部屋で、デスクトップパソコンと向き合っていた。
きょう訪問したラーメン店『白龍亭』の原稿をまとめている。
殺風景なこの畳の部屋はパソコンから出ているファンの音以外は無く静かだ。
アパートの周辺も日中も人通りが少なく閑散としていて、
健介の住む部屋の両隣の部屋からも物音は聞こえて来ず、ひっそりとしている。
健介は、原稿を打ち終えると、誤字脱字をチェックして、
タウン情報誌「クマタン」に宛てて原稿を添付しメールを送信した。
"・・・にしても"
健介は椅子から立ち上がり両脚を広げて上半身を前屈させながら、そう思わず声に出した。
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発売日 2002年 アルバム「ケツノポリス3」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
しかし今年の4月頃から、父三郎そして兄健斗も家にいるようになり奈津美は家で歌うことができなくなっていった。
そんな中、ついこないだの或る日の夜、
母はいつものように仕事、
そして父は、前の勤務先、倒産した会社の元上司と飲み会、
兄も珍しく友だちの家に泊まりに行って、
家に奈津美ひとりという状況が出来上がった。
奈津美はその時、自分の部屋で、いま一番のお気に入りの曲、
ミニー・リパートンの「ラヴィン・ユー」を歌い、
それをラジカセでカセットテープに録音した。
奈津美はそのカセットテープを宝物のように大事にしていて、学校でも制服のスカートのポケットの中に入れて肌身離さず持っている。
高く透き通った奈津美の声が、静かな部屋をつつみこむ。
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発売日 2000年 アルバム「MARVELOUS」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
小学校に上がると奈津美は、学校から家に帰ってくると、誰もいないリビングをステージに見立てて、ひとり熱唱した。
その頃その時間帯は、両親は共働きで兄はジュニアサッカーの練習に行っていて、家には奈津美ひとりしかいなかったのだ。
ドリカムや大黒摩季、安室奈美恵やglobeの曲を次から次にマスターしていった。
そして中学生になると洋楽にも興味がいくようになった。
デスティニーズ・チャイルドやTLC、ブリトニー・スピアーズといった最近のアーティストから、80年代や70年代のアーティストもラジオからながれてくると近所のCDレンタルショップや書店に行ったりして曲を調べて歌った。
ただ、学校の音楽の授業では、奈津美は本気を出して歌わない。
目立ちたくないのだ。だから、極力小さな声で歌う。
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発売日 2001年 アルバム「雲をも摑む民」に収録
〜この物語のあらすじ〜
妻子と別居中、小説家志望の中年男性[桐原健介]と、学校ではいじめを受け、複雑な家庭環境に身を置く、天性の美しい歌声を秘めた女子中学生[藤倉奈津美]。この全く面識のない二人の、それぞれのライフが、ある日、一瞬だけすれ違う。そしてそのあと二人のライフは新たな章へと展開してゆく。
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