この記事は食べログアドベントカレンダー2025 の15日目の記事です🎅🎄
食べログでプロダクトマネージャーをしている香西(こうざい) 利彦です。
カカクコムが掲げるミッションは「ユーザーファーストで、新しい常識を作る」。私たちは、ユーザー自身もまだ気づいていないニーズを見つけ出し、「10%」ではなく「3倍」「10倍」「非連続」な成長を作るというマインドセットで、事業のダイナミックグロースを目指しています。
20年の歴史を持つ食べログですが、ここ数年で主要なKPIを非連続的に成長させています。この成長の要因は、私たちが徹底的にこだわり抜いた「ユーザーの声」を起点とするユーザーファースト グロースハックの思想と、それを実現する具体的なプロダクトマネジメントの仕組みにあると考えています。
本記事では、成熟期と言われる食べログというサービスが、なぜまだまだ成長角度を上げ続けられているのか、その要因である「ユーザー理解」を深めるための仕組みと、N1(たった一人のユーザー)の声から非連続な成果を生み出す企画術について、具体的な事例とともにご紹介させてください。
食べログは2005年、当時のグルメ情報サイトが店舗側に偏り、どの店も「おいしい」としか書かれていない点に不便さを感じた創業者の課題意識からスタートしました。仕事の接待などで使う店を選ぶには、「個室があるか」「サービスの質はどうか」といった、「利用者の生の声」が必要であるという創業者の先見の明ですね(ありがとう村上さん)。
この課題を解決するため、食べログは「食を愛する人がつづるブログの集合体のようなサイトを目指す」というコンセプトのもと、ユーザーの皆様の助けを借りながら成長してきました。その結果、多くの方に魅力的な口コミを投稿していただける場となり、食べログに掲載されている口コミは年々拡大しています。ここ数年はさらに投稿数の伸びが加速し、累計の口コミ数は8500万件、写真数は2憶2000万件を超える規模にまで成長しています。

サービス開始から長い年月が経ちましたが、私たちが追求するグロースハックの結果、成長しているのは口コミだけではありません。以下は一例ですが、ここ3年程度で多くの主要なKPIが非連続的な成長、ダイナミックグロースを実現しました。

この非連続な成長は、トレンドや外部要因によるものではなく、施策の起点を常に「ユーザーの声」に置き、その解像度を徹底的に上げ、高速でプロダクトに反映し続けてきた結果によるものです。
食べログが成長角度を上げ続けられる秘密は、全社で「徹底したユーザー理解」を実現するための仕組み、「カスタマーフライデー」にあります。
カスタマーフライデーとは、毎週金曜日に定期開催されるユーザーインタビューのことで、累積で200回以上も実施実績があります。ユーザーの声を単発で収集するだけで終わらせずに継続することにこだわることで、ユーザーの課題を自分事として捉え、全社横断的な「共通言語」としてユーザー目線の発想を定着させることを目指しています。
カスタマーフライデーでは、ユーザーインタビューの様子をZoomで実施し、それを社内のTeamsに中継配信し、自由に参加できる状態を作っています。これにより、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニア、カスタマーサポート、営業など、あらゆる職種の社員が、いつでもユーザーの生の声を聞くことが可能になっています。
特に、インタビューの後半でユーザーに画面共有をお願いし、実際にお店を探す様子を再現してもらうシーンは、社内チャットが最も盛り上がります。「自分たちがつくったプロダクト」が使われるのを目の前で見たほうが、体験を意識しやすいですし、抽象的な議論ではなく、目の前の事実を通じてリアルなユーザー体験を意識することができるかなと思っています。
この継続的な取り組みによって、組織文化をユーザー目線に変え、改善アイデアが自然と湧き出し、意思決定のスピードアップと判断への自信と納得感を醸成できているんじゃないかと思います。

カスタマーフライデーで得られたN1(個別のユーザーの声)からの気づきは、フィードバックの分析、データとの突合、課題の特定、規模の評価を経て、施策となり実行されていきます。
施策の優先度をつけるフレームワークとして、私たちはRICEフレームワーク(Reach, Impact, Confidence, Effort)を活用しています。

このRICEフレームワークは一般的なものでご存じの方も多いかなと思いますが、食べログでは、このRICEフレームワークを単なる優先度付けに留めず、「RICEクリティカルプランニング」という独自の企画術として応用しています。

RICEクリティカルプランニングにおける各要素の考え方は、以下の点を特に重視しています。

カスタマーフライデーとRICEクリティカルプランニングの組み合わせにより、食べログは非連続的な成長に繋がる施策を次々と実行してきました。
事例1:検索誤ヒットを10分の1に。ユーザーのガッカリ体験を改善 食べログのトップにあった「日時人数検索」(ネット予約検索機能)が、ユーザーに「お店の営業時間」の検索機能だと誤認され、「検索結果0件」というガッカリ体験を量産していました。ユーザーアンケートでは45%ものユーザーが検索にガッカリ体験を抱えていたことが判明。更にデータを深ぼると、この機能は「最初だけは利用率が高いが、ガッカリして誰も使わなくなっていく『ガッカリ体験の量産機』」であることが判明しました。機能の削除や表記揺れ(例:「串かつ」と「くしかつ」)など検索精度を改善する施策をPDCAを回しながら高速に実行した結果、「0件ヒット率」を大幅に減らすことに成功しました。

事例2:口コミ投稿数を4倍に成長させた来店判定によるモーメントハック(特許取得) 口コミを書きたいと思っているが、きっかけがないユーザーが多いという課題に対し、ネット予約者に対し、予約時間から推測して「来店後」のモーメントで口コミ投稿を促すポップアップを表示しました。これは、リーチ規模もインパクトも大きく、更にB=MAPモデルにおけるP(きっかけ)を作る打ち手であることから成功確度が高いとRICEクリティカルプランニングを使い予測しました。結果として、口コミ投稿数は数倍(グロース前比8倍)にグロースし、今まで口コミを書いたことのなかった新規投稿者の大幅な増加に貢献しました。

事例3:アプリ誘導UIの刷新 アプリインストールを6倍に成長させました。Webサイトでのアプリ誘導を、広告色の強いデザインから、メリットを3点に絞って箇条書きで伝える「機能然としたUI」に刷新し、ダウンロード数を月間で約6倍に伸ばしました。かかった工数は数日程度でリターンはCPI換算すると数億/年規模。成功確度を上げるため、世界中のアプリ誘導を徹底的に研究することで実現できました。とはいえ、アプリ誘導は、Webで利用したいユーザーにとっては邪魔でしかありません。本グロースは既存のアプリ誘導のUI変更のみを実施し、データドリブンに機能していないアプリ誘導はどんどん削除していきました。

食べログは、「ユーザーファースト」を徹底し、その精度を「カスタマーフライデー」で高め、「RICEクリティカルプランニング」で実行することで非連続的な成長を遂げてきました。
私たちは今、スタートアップさながらのスピードで進化しており、カカクコム社は今、「テックカンパニー」として、そして「AIネイティブ」な企業へと変革していっています。
生成AIという技術を「正しく、徹底的に活用する」こと。私たちは、プロダクトマネジメント、グロースハックにもAI活用を織り込んだAIネイティブなアプローチを採用し、企画から実行まで広範な領域でのAI活用を推進。更に事業成長のスピードを上げていっています。
「AIネイティブ」への変革を加速させる中で、AIの持つポテンシャルと、それを活用する上での人間の役割について、日々、深く考えさせられています。
例えば、生成AIが出力したアイデア、デザインやドキュメントを見る機会が増えましたが、中には、一見それらしく見えるけれど、よくよく見ると完成度が著しく低いケースも多々あります。
結局のところ、ユーザーの真の課題を解決するためには「審美眼と洞察力」が重要で、それを持たずにどれだけ最先端のAIを使っても、プロダクトとしての品質は上がるどころか、改悪していく危険性もあります。AIはインプットされたデータに基づいて合理的な解を出しますが、その解がユーザーに価値をもたらすかどうかは、それを正しく評価し、正しく意思決定し、次の方向性を示せる人間のスキルにかかっていると考えています。
私たちが掲げる「AI EXCELLENCE」は、単にAIを導入することではなく、AIを「正しく、徹底的に活用する」ことにあります。
AIは強力な武器ですが、それを扱うのは今のところ人間であるからこそ、プロダクト、ユーザー体験に責任を持つ私たちは、AIが生み出したアウトプットが真にユーザーの課題を解決できるアウトカムになっているのかを見極める審美眼と洞察力を、これからも磨き続けなければならないと考えています。AI時代においては、この人間の能力こそが、ダイナミックグロースを実現するための決定的な差別化要素となる、と考えています。
今後の大きなテーマとして、私たちは日本の食べログから、世界の食べログへと進化を目指します。
日本政府は2030年までに訪日外客数を6,000万人に、消費額を15兆円にすることを目標としていますが、成長を継続させる上での課題として、訪日旅行客の地方分散が進まずに人気空港に一極集中した場合、受け入れキャパシティの限界により成長が鈍化すると予測されています。
現在、食べログにおけるインバウンド予約(訪日旅行客による予約)は大幅に伸長しています。この大きなポテンシャルを捉えるべく、圧倒的なスピードでインバウンド需要の取り込みを進めていますが、訪日外国人の方々に認知されているのは、まだ日本に存在するおいしい店のごく一部にすぎません。食べログは、国内に掲載されている89万店舗以上の膨大な情報と、ユーザーによる信頼性の高い口コミデータを持っています。これらのアセットを活用し、日本のおいしい店や素敵な体験を世界中に広めることは食べログにしか実現できないと確信しており、地方の隠れた名店や多様な食の魅力を世界に伝えることで、特定の観光地への一極集中を避けるオーバーツーリズムの課題解決にも貢献し、健全な社会発展に寄与できると考えています。
プロダクトマネージャーとして、こんなに大きな社会課題や世界中のユーザーさんたちに対し取り組むことのできる機会はそうそうないと思いますし、世界に日本の食の素晴らしさを知ってもらうことは私の責任であると思っています。
これからも「ユーザーファースト」を貫き、社会に貢献していきます。
プロダクトマネージャーってとっても楽しい仕事だと思います。いろんな志を持った方と話したいので、どこかで出会った際は是非お声がけください!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
明日はe-ronny さんの「食べログ老人会 × Z世代!? 入社14年目と若手が語り尽くす、激動の技術変遷」です。お楽しみに!
食べログでは、20年の歴史を未来へ繋いでいく仲間を募集しています!
ご興味のある方は、ぜひこちらもチェックしてみてください。
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