書籍ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] リーダーの持つ力 を読んでいてレガシーの話題がありました。
システム開発に関わった経験があると、レガシーといえばレガシーコード=『古いテクノロジーで作られ、保守や拡張が困難で、バグを含みやすい、既存のソフトウェアコード』 という連想がありがちです。
一方で、レガシーそのものは遺産の意味であり、レガシーコードの場合はネガティブなレガシーですが、ポジティブなレガシーもあるはずです。そこで、この記事では、ポジティブなレガシーについて掘り下げます。
ポジティブなレガシー(正の遺産)とは、組織や後任者にとって、将来的な競争優位性や業務の効率化をもたらす、価値のある遺産です。
大きな節目としては退職・異動・役割の交代など引き継ぎをするタイミングで遺産の正負が影響することになりますが、今と未来という時間の流れで考えるのであれば、未来の自分や、周囲のチーム・部門・組織全体に対する遺産でもあります。
ポジティブなレガシーには以下のような種類があります。
| 分野 | 種類 | ポジティブなレガシーの具体的な内容 |
|---|---|---|
| 技術・システム | 保守性の高いコードと設計 | 拡張性、テスト容易性が確保され、将来の変更や改善が容易な基盤となるシステム。 |
| 技術・システム | 明確なドキュメントと技術資産 | ブラックボックス化を避け、後任者がすぐに理解できる技術仕様や設計思想。 |
| 業務・プロセス | 効率的で体系化された仕組み | 属人化を排除し、誰でも高い品質で業務を遂行できる標準化された手順やワークフロー。 |
| 業務・プロセス | データ・知識の活用基盤 | 組織の知見を蓄積・共有するための洗練されたナレッジマネジメントシステム。 |
| 文化・人材 | 成長を促す企業文化 | 挑戦を尊重し、失敗から学ぶことを許容する心理的安全性の高い風土。 |
| 文化・人材 | 育成・指導の仕組み | 後進を継続的に育て、スキルと知恵を継承するためのメンター制度や研修プログラム。 |
| 人間関係 | 強固な信頼関係とネットワーク | 顧客、パートナー、社内メンバーとの間で築かれた、協力的な関係や信用力。 |
先程の分類を元にポジティブなレガシーを残す方法の例をまとめます。
| 分野 | 方法 | ポジティブなレガシーを残すためのノウハウの例 |
|---|---|---|
| 技術・システム | 「なぜ」を記録する | 設計や実装で難しい判断をした理由、将来的な課題、解決の意図などをコードコメントや設計ドキュメントに明記する。Architecture Decision Recordが典型例 |
| 技術・システム | テスト文化を徹底する | テストコードを充実させ、品質保証の仕組みそのものを遺す。 |
| 業務・プロセス | 暗黙知を形式知にする | 「誰でもできる」標準手順書やチェックリストを作成し、属人化している業務を体系化する。 |
| 業務・プロセス | オンボーディングプロセスの整備 | 新規の入社者や異動者が迷わないように、必要な設定や基礎知識を整備し、即座に業務に入れる状態を整える。 |
| 文化・人材 | 失敗を共有財産にする | 失敗事例とその教訓をドキュメント化し、組織全体の知恵として活用する仕組みを作る。 |
| 文化・人材 | メンター・バディ制度を整備する | 後任や若手が質問しやすい仕組みを作り、スムーズな知識継承を制度として定着させる。 |
| 人間関係 | 関係性のマップを遺す | 重要な顧客や協力会社、社内キーパーソンとの過去の経緯や人となり、信頼構築のポイントなどを共有する。 |
| 人間関係 | 意思決定の透明性を保つ | 重要な決定の過程を記録し、なぜその結論に至ったかを後から辿れるようにする。 |
ポジティブなレガシーを残すきっかけとして最適なのはチームや個人のふりかえりです。立ち止まり、ふりかえることでより良くできる場所に気づいたり、課題があった場所の解決方法として仕組みなど遺産として残せる形の解決法に繋がる場合があります。
眼の前の業務について、期日に追われ、着地させる必要があるときはポジティブなレガシーを作り込むどころではありません。一定の余力があり、タイトな期日に追われていないときに対応するのが好ましいでしょう。
ポジティブなレガシーを残すことは、単発の業務の成果だけではなく、所属企業の組織力そのものを高める二重の貢献です。
まずは未来の自分が楽をできるように、そしてチーム・部門・組織へとポジティブな遺産を残せる範囲を広げていけると重宝されるでしょう。
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sp.8a【ゲスト: tbpgr】楽しくない7次受けSIer引用をストックしました
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