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一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

齢のせい



 二の酉である。
 今年も出かけないことにした。人混みがしんどそうだ。それに、商売にも事業にも無縁な私に「商売繁盛」でもあるまい。家族もない独居老人に「家内安全」でもあるまい。自分一個の身の始末であれば、わが町の神社へも菩提寺さまへも、頻繁にお願いしてある。埃を被っちゃいるが、拙宅にだって神棚も仏壇もある。
 どう考えても、ひがみっぽい、ひねくれた思いだ。齢のせいだ、きっと。

 源ちゃんメモへの記載がだいぶ増えてきた。昨日せっかく視察して歩いたんだから、線路向うのマルマンストアやマイバスケットで、買物をしてみようか。ビッグエーとダイソーとが改装休業中の今だからこそ。うん、それは好い思いつきだ、と一度は思った。
 しかしそうなると、またぞろ品揃えの微妙な相違だの価格体系だのと、二店のあいだを往ったり来たりすることとなりそうだ。揺るがせにしたくないし、自分なりの考えももちたい。だいいちそうした面倒は、愉しくないこともない。時間をとりそうだな。
 結局はサミットストアにて済ませようか。時間の節約だ。とはいえ、待っていられぬ品ばかりとするつもりだった。玉子は一日一個と決めてあるのに、冷蔵庫には残り一個だ。牛乳はなにかにつけて口にするが、数日前に切らせたままだ。豆腐もしくは納豆を、チャント飯の食膳から消すわけにはゆかない。
 ウインナも6ピーチーズも、魚缶も削り節も、なんとかやり繰りすればいい。レトルトカレーだのビーフシチューだのにいたっては、もともと私には贅沢品ではないか。
 それよりも今日こそは、溜りに溜ったペットボトルキャップを、サミットストア裏口脇へと移動した専用回収箱に、ザラザラと流しこむのだ。キャップを溜めこんであったネット袋を、トートバッグに押しこんで出かけた。


 フロアを巡りながら、ふと別な考えが浮んだ。粉と砂糖をどうしたもんか。いずれも源ちゃんメモに記載がある。28日までビッグエーが休業と考えて逆算すると、きわめて微妙な問題だ。はっきり申せばピンチである。しかも両品ともお徳用の廉価大袋を買うから、数か月かけて、うっかりすると半年かけて使いきる商品だ。「同じ品ならどこより安い」ビッグエーとの価格差が数十円。どんなに差があっても百円。使いきりに半年かかる商品の百円差を、今我慢すべきだろうか。グイッと飲んでしまえばそれで了りの缶珈琲における価格差とは、わけが違う。
 あれこれ迷ったすえに、小麦粉も砂糖も買ってしまった。


 明日になれば連休明けで、川口青果店が開くから、野菜を補充する。煮ても炊いても揚げても、粉と砂糖の心配はないなんぞと、ラジオを聴きながら自分を慰める。

 足立区では大きな交通事故があったという。お一人が亡くなり、お一人が意識不明の重態で、九名が怪我されたそうだ。なんとも申しようのないご災難だ。歩道へと突っこんだ運転者は車を出て「走り去った」と、ニュースは云う。後刻確保されたそうだけれども。「走り去った」んじゃあるまい。「逃げた」んだろう。逃走を図ったか、動転してその場に居たたまれなかったかの、心理問題はさておいて。
 外国軍隊が発射したミサイルが近海に「落下した」とニュースが報じたときも、そりゃ「着弾した」んだろうと思ったことがあった。演説中の元首相を、とある青年が「狙撃した」「発砲した」と報道されたときにも、そりゃ「暗殺した」んだろうと思ったものだ。

 気を遣うポイントが、どうやら世間とズレてきてしまった。齢のせいだ、きっと、なんぞと考えているうちに、じゃが芋が炊けた。これでじゃが芋は使いきった。茄子はとうにない。玉ねぎはあと一個だ。酉の市へは、今年も出向かない。

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