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一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

存立危機



 いま食べてるのは、オニオンスライス? スライスオニオン?

 『深夜食堂』のとある回に、レバニラかニラレバかという大問題に、正面から取組んだ噺があった。
 バディを組む先輩男刑事と後輩女刑事とが、連れだって来店。職務中の深夜休憩だ。一人はレバニラ炒めを注文し、もう一人はニラレバ炒めを注文する。呼吸の合ったバディだが、これだけは互いに譲ったことがない。
 先刻承知之助のマスターは二人前を一緒に炒め、ふた皿に盛って出す。
 「はい、レバニラ。で、こっちがニラレバ」
 二人は機嫌よく夜食を摂る。好きな噺のひとつだ。

 わが台所には、オニオンスライスかスライスオニオンかという問題が、かねてからあった。レバニラ・ニラレバ問題に似ていると気軽に思ってきた。が、とんだ短慮と今さらながらに気づく。
 ニラの力で臭みを消して、レバーを美味しく食う料理なのか、レバーの出汁や脂味でニラを美味しく食う料理なのか。食材の華はレバーとしても、調理のコツはレバーにあるのかニラにあるのか。にわかには断じがたい。双方に云い分があるのももっともだ。
 そこへゆくとオニオンのほうは、上から視ても下から視ても、つまりは玉ねぎである。一方は、オニオンを‐スライスした‐もの。平叙文の完了形に「もの」をつけて名詞化した表現。もう一方は、スライスされた‐オニオン。過去分詞を形容詞化して頭に乗せた。英語ではスライスドオニオンであるはずが、和製英語化したものだろう。いずれも薄切り玉ねぎには相違なく、そこに味覚問題も調理法問題も、ましてや美意識におけるけわしい相剋なんぞは存在していない。レバニラ・ニラレバ問題に較べれば、だいぶ格調の低い対立だった。
 


 目論見にたがわず、ヒジキ豆を三日で食い了る。居酒屋小鉢なら五食六食分かそれ以上にもなるほど毎回仕立てるが、ヒジキライスとして飯碗ないし飯皿にどっさり盛るから、三日で消費してしまう。
 麻婆茄子の残り茄子一個を揚げる。ビリヤード球ほどの小ぶり玉ねぎ一個丸ごとを、スライスして酢味噌和えにする。
 とにかく野菜をたっぷり摂ろう。海藻も摂ろう。繊維質を摂ろう。発酵食品を摂ろう。腸内細菌への支援だ。もしくは兵力増援派遣だ。腸内存立危機事態に備えるのだ。


 よしっ!

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