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一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

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胡内昔語り

今宵もお運びさまで、ありがとうございます。昆林斎胡内にございます。 とある劇団の稽古場で起きました、ちょいとした事件のお噂。公演日迫りまして、稽古もいよいよ熱を帯びようかというとき、なにやらわけあり気な六人が闖入してまいりました。訊けば彼ら…

はてなブックマーク - 虚実喪失(二十世紀の台詞たち⑥)【6夜連続・最終夜】

今回もちょいとした、お古いお噂をひとつ。昆林斎胡内でございます。 いずれの芸術分野におきましても、二十世紀は懐疑の時代、疑いの時代でございました。 画家たちは色や形を疑いましたですな。音楽家たちは音色やリズムや音階や和音を、疑いましたようで。…

はてなブックマーク - 作者を探す(二十世紀の台詞たち⑤)【6夜連続】

性懲りもなくお古い噺を申しあげます。昆林斎胡内にございます。 いかなる才能人も、先行者なしに世に現れた試しはございません。ベルリンの小劇場にて『動物園物語』観劇の帰り途、「待てよぉ」と足を停めるほどの観客であれば、おそらくは先行するあるお芝…

はてなブックマーク - ゴドー(二十世紀の台詞たち④)【6夜連続】

またこの顔か。申しわけございません。昆林斎胡内でございます。 今日では不条理演劇なんぞと称ばれまして、辻褄が合わない、理由・動機に見当がつかない、奇妙な設定やら展開やらをもった芝居を、多くのかたが面白がってご覧になる時代となりました。 しか…

はてなブックマーク - バラスト(二十世紀の台詞たち③)【6夜連続】

あい変りませず、お古い噺を申しあげます。胡内でございます。 一九五九年に突如現れまして、アメリカ演劇の旗手と目されるまでになりますエドワード・オールビー。その衝撃的出世作『動物園物語』とは、かようなお芝居でございました。 ――所はニューヨーク…

はてなブックマーク - 動物園(二十世紀の台詞たち②)【6夜連続】

浮世ばなれの昔噺にて、お耳を汚します。昆林斎胡内と申します。 わが国近代の文士がたは、諸外国の文学をよぉく勉強なさいまして、上手に摂取いたしました。しかし何事におきましても、追いつき追いこせと励みます者の哀しさ。とかく急ぎ足にて事を運ばねば…

はてなブックマーク - 世に出る(二十世紀の台詞たち①)【6夜連続】

今宵も、老いの繰りごと。昆林斎胡内にございます。 浪漫主義、ロマンチックって、どういうこと? 正面切って訊ねられますと、答に窮します。ロマンっていうから、恋愛的なことかしらん? 専門的にご研究の先生がたは、どうおっしゃるか存じませんが、まぁあ…

はてなブックマーク - ゴールポスト芸術論(小説の起源⑤)完

明治二十年代は紅露逍鴎の時代。文学史研究の業界用語では、さようにおっしゃいます。尾崎紅葉、幸田露伴、坪内逍遥、森鴎外の四人が、文壇の中心人物として充実した仕事をなさった時代、という意味だそうで。 しかしその二十年代はまた、前回申しました浪漫…

はてなブックマーク - どうかして論(小説の起源④)

泰平の眠りを醒ます蒸気船、たった四杯で夜も眠れず。 神奈川県は浦賀の沖合い、ある日突如として、それまで視たこともない巨きな、しかも船影黒ぐろ鉄の船が一二三と四艘も、不気味な黒煙をたなびかせて現れました。 世に云う黒船来航。嘉永六年(1853)、…

はてなブックマーク - 花形青年論(小説の起源③)

坪内逍遥『小説神髄』、明治十八年刊行。わが国の文学評論に「小説」の文字が記された最初ということになっております。 明治という新しい時代、文学もこれからは、江戸時代までの約束事をうち破って、文明開化しなければならない。勧善懲悪ですとか因果応報…

はてなブックマーク - 小人論(小説の起源②)

お噺、物語――。自分とは異なる、そしておそらくは作者その人とも異なる人物が出てきちゃあ、あんなことこんなことして、こんなふうになる。これを小説というんだと、初めて知った日を、憶えておいででしょうか。 思われませんでしたか。じゃあ「大説」はどこ…

はてなブックマーク - 吉良常文学論(小説の起源①)五夜連続

毎度、変り映えもなく、胡内にございます。 敗戦となりまして、八か月あまり経ちました昭和二十一年の四月二十九日、復員命令がくだりました。武昌にある武漢大学の階段教室が、大相撲の升席のように狭く区切られていて、そこで手足を伸ばすこともできずに寝…

はてなブックマーク - 寝台の穴

頭で考えたことってもんは、おゝむね言葉にできますな。当然です。だって言葉を用いて考えたんですから。そこへゆくと、心に感じたことってのは、言葉で云い表せない場合がございます。手持ちの言葉の数が足りないんですな。 ましてや視ただけのこと、たゞ在…

はてなブックマーク - 北川はぼくに

どういうもんでございましょうかねぇ。いつの世にも、戦争というものは、絶えることのないもんのようで。 「奥地では、塩はまことに貴重である。よって一人ひとりが運ぶのだ。もしこれを失ったり、自分で摂取しようものなら、軍法会議ものである」 曹長殿は…

はてなブックマーク - 岩塩の袋
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