予定外だったが、最近眼醒めた「めかぶサラダパン」を食べたくて、タカセ珈琲サロンへ入ってみたのである。しかし……。 土曜日曜の池袋は、私ごときが歩いてよろしい地域ではないと、かねてより承知している。が、人と会うわけでも、買物をするわけでもない。…
学生時分には、あんなにお世話になったのに、永谷園さんのお世話にならなくなって久しい。常備品ですらあったのに。いつからだろう。記憶がない。 起床すると、今日こそは洗濯を済ませようと思う。思いながらも来信に眼を通したり、ついついユーチューブ動画…
「アッという間に、師走ですねえ」 「ほんとに。早いですねえ」 往来でお顔見知りのかたとすれ違うと、判で捺したようなご挨拶になってしまう。 やらねばならぬことは、山ほどある。溜りに溜っている。が、今日じゅうに済まさねば世間が渡れぬというほどの用…
名残りの法事ということもある。 道祖神の役目をも担ってきた石地蔵に水をかけて、法事は済ませたようなもんだが、じつはまだひとつ、済ませるべきことが残っている。 かつて馴染だった寿司屋の親方とおかみさんとに、ご挨拶に寄る。 父がまだ要介護低レベル…
親父、十七回忌だぜ。あの日から、満十六年ってことだよね。 昼飯を摂らせるのに、えらく時間を食った日だった。予定の量をどうにか食べきって、すぐに横臥させるもなんだから、しばらくは斜めになっててはどうかと、毛糸帽と毛布とでくるんで蓑虫のようにし…
幸せ、と云うべきなんだろうなあ。 どうやら雨があがったようなので、外出には遅い午後となったが、池袋まで出る。明日の足廻り先が多いと、とかくウッカリのもとだ。自分のテキパキ能力に自信がもてない。今日のうちに足せる用意は、済ませてしまおう。 駅…
二の酉である。 今年も出かけないことにした。人混みがしんどそうだ。それに、商売にも事業にも無縁な私に「商売繁盛」でもあるまい。家族もない独居老人に「家内安全」でもあるまい。自分一個の身の始末であれば、わが町の神社へも菩提寺さまへも、頻繁にお…
歩かねば。躰を動かさねば。 肌寒くはあっても、日和の好い日曜だ。とりあえず家を出る。まずは神社の境内で、公孫樹の幹に手を当ててみる。昨日、百日紅の紅葉をしげしげと眺めたからだろうか。今日は黄葉を観たくなった。世話役さんが掃除をなさってほどな…
児童公園にただ一本の百日紅(さるすべり)が、見事に紅葉している。 花たちの主張も遠慮がちに見えた猛暑のころ、独り気を吐いていたのが百日紅だった。徒歩五分圏内のごくご近所に、ここにもあったかと思うほど百日紅を庭木とされるお宅がいく軒もあって、…
陽射しが好いので、歳末の支度に出かけようとした。 郵便受に電気料金の請求書が届いていた。待てよ。先月分は払い込んだかしらん。戻ってカレンダーを視ると、ゼムクリップで封筒が留めてある。太マーカーで「11/14〆切」と、私の字で書いてある。イケネッ…
いま食べてるのは、オニオンスライス? スライスオニオン? 『深夜食堂』のとある回に、レバニラかニラレバかという大問題に、正面から取組んだ噺があった。 バディを組む先輩男刑事と後輩女刑事とが、連れだって来店。職務中の深夜休憩だ。一人はレバニラ炒…
老舗の文芸同人誌『朝』47号のご恵送に与った。発行人である村上玄一さんのご好意による。 村上さんによる連載『自慢風まかせ』も、はや十回となった。文芸編集者として数かずのお仕事をなさった半生の交友を懐かしく回想した、自伝風文章だ。目次区分として…
老人にだって、食欲の秋はある。クマやリスじゃなくたって、冬に備えての体力づくりは必要だ。 野菜を買い整えたと記したのは三日前だ。さっそく惣菜に仕立てたと記したのは一昨日だ。そして昨日と今日との三日間食べ続けて、目論見どおり麻婆茄子がめでたく…
おやッ、末っこがいない。 花梨樹のひと枝が、往来に身を乗出している。枝の中どころに実を着けたらよろしかったものを、選りにも選って梢近くに、あろうことか三個連続するように身を着けてしまった。さながら団子三兄弟みたいに。末成り(うらなり)という…
顔を立てる、という気遣いも、そりゃ必要でしょう。 今秋の秋刀魚漁獲量の全国集計がまとまったそうだ。対昨年比では、1,6倍の総水揚げ量だったという。宮城県気仙沼のリポーター氏によれば、気仙沼港の水揚げ量は、対昨年比2倍を記録したそうだ。全国四位の…
食材がいっせいに切れた。調味料類にも底衝き間近のものがある。食糧買出しの週末となりそうだ。 かような巡り合せとなるのは、当然とも云える。なにかを切らせたら、どうすればそれなしに食事できるかと考える。あり合せで済ませる。とりあえず我慢するわけ…
「あァ、あとザーサイね」 隣のテーブルに腰かける中年男性から声がかかった。 商店街の中華料理店だ。ラーメン屋と称ぶのが正しいか。ご店主は奥の厨房にいたきりで、ホールは女性店員さん一人でとり捌いている。四人掛けテーブルが五脚だけの店だ。男はモ…
出掛ける予定がある。炊事の時間がない。で、ベーカリーのお世話になって、いつもの他愛ないゲン担ぎ。今日はチーズかつサンドイッチとした。相棒はベーコンチーズとコーンマヨだ。 「お~さぶい。冷えるわけだぁね、気がついてみりゃあ、お酉さまだぜ」 芝…
「あのゥ、ひとつ教えてください。以前ここにあった、ほら、ボトルキャップを回収する小型ボックスは、廃止されちゃったんでしょうか?」 しばらく疑問を抱き続けたあげくに、とうとうやむにやまれぬ気分になって、今日訊ねた。愛くるしいショートカットの小…
♬ 麦わら帽子は もう消えた 田んぼの蛙は もう消えた(吉田拓郎) 当りめえだろうがよ。季節が違わい。そりゃそうだけどもね、眼の前の景色は、俺が知ってる池袋とは、あんまりにも違う。 三越がない。今はヤマダ電機だってさ。ビックカメラだって? 知らね…
『深夜食堂』に、こんな噺があった。 男はかつて人気を博した新進作家だった。業界人としてついつい浮ついて過すうちに仕事は粗くなり、妻や娘とのあいだもぎくしゃくするようになっちまった。なんとかしなければ……。男は初心に還って、身の丈に合った手堅い…
「曇り時どき小雨」と、昨夜のラジオは云っていた。ここのところ、天気予報がよく当る。屋外作業には適さない。 東北地方ではまた地震だ。震源地は三陸沖という。宮古港、久慈港、釜石港、大船渡港。訪れたこともないのに、すっかり耳馴染となってしまった沿…
読み返したくなるような余生でありたい。けれど自分にはもはや、その時間は残されてはあるまい。さよう思わせる作家たちがある。 主人公は幼き日に、性的悪戯の被害を受けた。母親にただただ抱きしめてもらいたかった。大丈夫、たいしたことじゃないと、背中…
林達夫(1896 - 1984) 立冬である。陽射しはあるものの、肌寒い日だ。 草むしりが遅れているが、気分が向かない。一昨夜半から昨朝にかけて、雨が降ったのだ。土がまだ湿っている。作業すると、軍手がどろどろになる。古い穴あき軍手を処分したばかりで、ま…
カカコン『赤い布の少女』(部分)油彩・パネル 画学生のグループ展にて、一枚の女性像の前で、立ち停まった。モデルの視線上に立って、睨めっこした。美しくはあったが、やがて怖ろしさを覚えた。そう気づいたら、怖ろしさ以外なにも感ないほどになってしま…
数字の偶然というものに、妙に心惹かれる場合がある。因縁や天命を感じるほど信仰的ではない。ひたすら無邪気に面白がっているだけのことではあるが。 大学祭も了り、今週中には立冬となる。歳時記に云う「暮の秋」だ。「秋惜む(をしむ)」とも云う。たんに…
大学祭から一夜明けて、店舗会場を引払ってきた会員たちが、資材と在庫とを堂々堂倉庫へと運び込んできた。 今年の堂々堂の品揃えのなかに、もしも売れ残ったら私が引取ってもよろしいがと思える商品があった。 開催前の頭刎ねはよろしくない。つまみ食いに…
とうとうやらかしちまった噺。こうなってはいかんと、あらかじめ薄うす感じていたのにも関わらず。夕雲が赤い。 今年の堂々堂の品揃えには眼玉と称べる魅力商品群がいくつかあって、日本近代文学の名作復刻シリーズがそのひとつだ。鴎外・二葉亭・漱石に始ま…
開店十分前の堂々堂。店構えはすべて準備できた。 今しがた通ってきた正門から守衛所へ向うあたりに、異様に長い行列ができていた。揃いのユニフォームティーシャツを着込んだ委員学生に訊ねると、定刻開門と同時に入構したい来場者がたの行列だという。 昨…
三原堂の「池ぶくろうもなか」を用意した。手土産である。 守衛所と学科事務室とに、挨拶することになる。毎年恒例だ。時代劇のお約束において、江戸八百八町の貧乏庶民が、地域の番屋と長屋の差配とに挨拶するに似ている。 夜鍋して、新たに豆ごはんを炊い…
多岐祐介1949年生れ無職半ボケ老人
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