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2026年2月13日 (金)

パリの美術修復家がセルフリノベした43平米アパルトマンが素敵すぎる! ”道端で拾ったもの”で自作した「侘び寂び」空間 パリの暮らしとインテリア[21]

美術修復家がセルフリノベーションしたコンパクトな住まいは、本やアート、日本の古美術がいっぱい!
(撮影/Manabu Matsunaga)
「住まいはそこに住む人の鏡」と、パリの人たちは言います。住まいを見れば、その人のファッションを見る以上に、人となりがわかるものだと。美術修復家エドワー・ヴァティネルさんのお住まいも、まさにその通り。住む人のフィロソフィー(哲学)までも、空間が語ってくれました。(文・角野恵子)

住み慣れたエリアに暮らして41年

美術修復家のエドワー・ヴァティネルさんは、パリきっての若者エリア11区の住人です。
62歳の大人のひとり暮らし、しかもオブジェや額などの芸術品を修復する職人さんが、流行最前線のにぎやかな場所を拠点に選んだのはなぜ?と思ってしまいますが、実は今の住所に引越してきたのは41年前、1985年のこと。以来ずっと賃貸で住み続けていたところ、縁あって5年前に同じ建物の3階にある2LDKを購入し、現在に至るのだそうです。

「ここに引越した当時は、今のような流行のお店は1軒もなくて、通りには職人の工房や資材の店が並んでいました。家具や額装などの木を扱う、職人の街だったのです。20代だった私はそんな一角の工房に就職が決まり、近くに引越してきたわけです。そんなふうにしてこのエリアの住人になりました」
と、エドワーさん。

そのころの庶民的な雰囲気が、エドワーさんはとても気に入っていたといいます。
残念ながら、今では当時の面影はもうありません。が、プロ向けの店はいくつか残っていて、エドワーさんのような仕事をしている人たちには相変わらず便利なエリアなのだそう。
「それに、アリーグル市場は今も健在ですからね! ここは今でも変わらず庶民的で、私は毎朝欠かさず足を運んでいます。はい、例外なく、毎日です。新鮮な野菜や魚を買って、カフェでエスプレッソを飲んで。そんなシンプルな日常が好きなのです」

アリーグルの市場。食品の市場と、蚤の市がある(撮影/Manabu Matsunaga)

アリーグルの市場。食品の市場と、蚤の市がある(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

贔屓にしているチーズ屋(撮影/Manabu Matsunaga)

贔屓にしているチーズ屋(撮影/Manabu Matsunaga)

アリーグルの市場で買い物をした後に立ち寄るカフェ。良心的な値段で美味しい店が少なくなったが、ここは今でも家族経営でフレンドリー、手ごろな値段で美味しい(撮影/Manabu Matsunaga)

アリーグルの市場で買い物をした後に立ち寄るカフェ。良心的な値段で美味しい店が少なくなったが、ここは今でも家族経営でフレンドリー、手ごろな値段で美味しい(撮影/Manabu Matsunaga)

43平米を自力でフル改装!

本とオブジェ、植物が共存するリビング。スタイルも時代もさまざまなものたちが、調和しつつ、そこにある(撮影/Manabu Matsunaga)

本とオブジェ、植物が共存するリビング。スタイルも時代もさまざまなものたちが、調和しつつ、そこにある(撮影/Manabu Matsunaga)

室内のあちこちに置かれた植物。鉢植えのほかに、夏場になると窓は緑のカーテンで覆われる(撮影/Manabu Matsunaga)

室内のあちこちに置かれた植物。鉢植えのほかに、夏場になると窓は緑のカーテンで覆われる(撮影/Manabu Matsunaga)

さあ、それではさっそくお宅にお邪魔しましょう。
エドワーさんが暮らす2LDKは43平米。玄関を入るとリビング、その奥にキッチンとベッドルーム、バスルームという間取り。

どの空間も、壁と天井が真っ白で、とても清潔な印象です。
「入居前にフルリノベーションしました。5年前の購入時、キッチンとバスルームがあまりにも古すぎたので、改装は不可欠だったのです。そこで、どうせ工事をするのならすべてきれいにしてしまおう、と。業者にはたのまず、自分ひとりで工事をして、完成には3カ月くらいかかったかな。必要なものはすべて日曜大工店でそろえました。工事の経験ですか? まったくありません!(笑) でも、急がず、時間をかけて、楽しみながら取り組みましたよ。住まいづくりはクリエイティブな行為ですから」

キッチン周りやバスタブなどを新しいものに取り替えたほか、リビングの天井を覆っていた古いレリーフを撤去したり、キッチンの入り口にあったドアを外してオープンにしたり。かなりの大工事だったことが想像できます。それを全部ひとりで実現したとは驚きですが、こうして眺める限り、経験のないシロウト仕事にはとても見えない完成度ではありませんか ?! これはエドワーさんの職業・美術修復に由来しているはず。空間全体のバランスを見極める審美眼と、細部にまで手を抜かないこだわりに、唸らされることの連続なのでした。

キッチンとリビングを仕切る壁は、全面が本棚。キッチン側の壁は食材の棚になっている(撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンとリビングを仕切る壁は、全面が本棚。キッチン側の壁は食材の棚になっている(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

機能性と見た目の良さをかなえてくれるバスルームの収納も、もちろんエドワーさんがDIYでつくった(撮影/Manabu Matsunaga)

機能性と見た目の良さをかなえてくれるバスルームの収納も、もちろんエドワーさんがDIYでつくった(撮影/Manabu Matsunaga)

美しいものたちは、飾りではなく必需品

つくり付けの本棚が印象的なリビングには、オブジェやアートがたっぷり。それでいて、すっきりシンプル、整然とした雰囲気が漂っています。本棚に収まりきらない本は、床に積み重ねて。照明はイサム・ノグチ。木製の仏像は、日本で購入し、スーツケースに入れてパリに持ち帰ったものなのだそう。
「日本贔屓なので、住まいも当然、日本の影響を強く受けています。日本に友人がいて、家族同然の付き合いをして20年くらいになるでしょうか。毎年夏と冬の2回、彼らを訪ねて1カ月以上を日本で過ごしています。日本で過ごす時間は、私にとってとても重要なのです」
と、エドワーさん。

自身の出身地リール(フランス北部の街)の親戚に会いにゆくよりも、日本に足しげく通い、もっというと、バカンスの予算や時間はすべて日本滞在に費やしている、と。そこまで日本を愛するエドワーさんだけあって、木製の地蔵以外にも日本から持ち帰った骨董(こっとう)が、住まいのあちこちに点在していました。

隙間なく本で埋め尽くされた本棚、そのそばに木製の仏像、その足元には現代アート。一見関連のなさそうに見えるものたちが、違和感なくそこにある(撮影/Manabu Matsunaga)

隙間なく本で埋め尽くされた本棚、そのそばに木製の仏像、その足元には現代アート。一見関連のなさそうに見えるものたちが、違和感なくそこにある(撮影/Manabu Matsunaga)

日本から持ち帰った木製の仏像。日本の古美術は日本で購入し、スーツケースに入れて持ち帰ったものばかり(撮影/Manabu Matsunaga)

日本から持ち帰った木製の仏像。日本の古美術は日本で購入し、スーツケースに入れて持ち帰ったものばかり(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

本が重なり合うリビングのコーナー。乱雑な印象にならないのは、中央にある白い40年代オブジェの効果か?(撮影/Manabu Matsunaga)

本が重なり合うリビングのコーナー。乱雑な印象にならないのは、中央にある白い40年代オブジェの効果か?(撮影/Manabu Matsunaga)

驚くのは、個性の強い日本のオブジェたちが、ほかのアートと心地よく共存していること。そして住まい全体に漂う印象が、いわゆる日本趣味一辺倒ではないことです。

大勢を招待できる大テーブルがドーンとリビングにあるのはパリらしいですし、カーテンをつけず、そのせいでリビングがちょっとギャラリー風にも見えるのも、いかにもパリのアパルトマン(アパート)という感じ。そんな中に、古い革装本が並ぶ本棚があり、日本の古美術があり、床に直接置いた現代アートの油絵があり。時代も、国籍も、スタイルも違うこれらのものたちが、こんなふうに心地よく調和しているのはなぜでしょう? 折衷スタイルを成功させるコツがあるのなら、ぜひ教えてほしいです。

「そう言ってもらえると嬉しいですね。日本の古美術以外にも、アフリカアートも好きなのでたくさん所有していますし、紀元前の発掘品なども持っていますが、それぞれがもっともいい状態でそこに居られる場所を探す、というのでしょうか。この点はとても注意をしています。一度置いてみてしっくりしないときは、別の場所に置き変えます。例えば、鎌倉時代の地蔵の足元に現代アートを置いてみて、もし違和感があれば別の場所を探すのです。それから、風景を見るような気持ちで室内を整えることにも留意しています」

小さくて壊れやすい紀元前の発掘品は、飾るのが難しそうですが、白くすっきり整えた空間にとてもよくなじんでいます。確かに、ここが彼らの居場所という感じ。
そもそも、エドワーさんはこれらのオブジェを「装飾」とは思っていません。彼いわく、本も、アートも、古美術も、もっというと道で拾った石までも、すべてが生活必需品なのです。

「インテリアとか、デコレーションなどと言われると、違和感を感じますね。ここにあるものはすべて、生活に必要なものばかりです。飾りなどではなく、私の毎日に欠くことのできない存在です」

積み重ねられた本の脇に置いてある木製の玉は、エドワーさんの「犬」。理由は、いつも足元にまとわりついてくるから。
そう語るエドワーさんを見ていると、家具やアートに対する私たちの認識にも、変化が起こる気がします。飾りではなく、必需品。その認識で、自分の家の中にあるいろいろを、もう一度見つめ直してみたくなります。

積み重ねた本に寄り添うベージュの玉を、エドワーさんは「犬」と呼ぶ。理由は「いつも足元にまとわりついてくるから」(撮影/Manabu Matsunaga)

積み重ねた本に寄り添うベージュの玉を、エドワーさんは「犬」と呼ぶ。理由は「いつも足元にまとわりついてくるから」(撮影/Manabu Matsunaga)

石は外から持ち帰ったもの。これも一つの出会いの賜物(撮影/Manabu Matsunaga)

石は外から持ち帰ったもの。これも一つの出会いの賜物(撮影/Manabu Matsunaga)

本があまりにも好きすぎて、本棚に収まりきらなくても出会いがあれば購入する。日本語の書籍もある。読むことはできなくとも、手にとって開くその感覚こそが宝(撮影/Manabu Matsunaga)

本があまりにも好きすぎて、本棚に収まりきらなくても出会いがあれば購入する。日本語の書籍もある。読むことはできなくとも、手にとって開くその感覚こそが宝(撮影/Manabu Matsunaga)

モノクロ写真のポートレートは、アリーグルの市場で購入した。身内でもなければ著名人でもないが、顔が気に入っている(撮影/Manabu Matsunaga)

モノクロ写真のポートレートは、アリーグルの市場で購入した。身内でもなければ著名人でもないが、顔が気に入っている(撮影/Manabu Matsunaga)

室内のあちこちに置かれた植物。鉢植えのほかに、夏場になると窓は緑のカーテンで覆われる(撮影/Manabu Matsunaga)

室内のあちこちに置かれた植物。鉢植えのほかに、夏場になると窓は緑のカーテンで覆われる(撮影/Manabu Matsunaga)

茶道や香道のためにつくった「日本コーナー」

好きなもの、大切なものに囲まれて暮らすエドワーさん。その中でもとりわけ好きなコーナーがあります。それがここ、日本コーナー。リビングの一角に畳3畳を敷いてつくった茶室風の一角です。ここにいると空想の旅に飛んで行けるという、エドワーさんにとってとても重要な場所ですが、なんと畳以外はすべて道端で拾い集めたものでつくったと聞き、また驚いてしまいました。

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

「茶の湯と香道をたしなむようになって、8年になります。毎週金曜日の夜は、親しい人たちを招いてお香を振る舞うことを、習慣にしてもいるのですよ。パリにも茶道を教える場所はありますが、香道はまだありません。私は日本の名古屋で香道を学びました。日本の美を表現するとき、貧しくあることが重要ですから、道で拾ったものだけを使ってこの空間をつくったのです」

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

それはつまり、エドワーさんが解釈する侘び寂び、ということ。そう理解して彼の日本コーナーを眺めると、日本固有の美意識を理解するエドワーさんの探究心と日本への愛情に、頭の下がる思いがするのでした。

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

ではエドワーさん、今後引越しを考えていますか? または、家の中で改善したいところはありますか?
「引越しはしませんし、家に手を入れる予定もありません。長く暮らしたこの建物に愛着があるのです。それに私は、今あるものでもう十分満足。早起きをして、煎茶を飲んで、アリーグルの市場へ行って、食材を調達した帰りにカフェに寄って。家に帰ったら料理をし、お昼を食べた後7階のアトリエで仕事をして、夜になったら音楽を聞いて。そんな毎日を幸せだと感じます。日本コーナーに座れば空想の旅にも出られます。きっとどこで暮らしても、今しているのと同じように、その時その時を味わうことでしょう」

若者エリアの喧騒は、ここには届きません。エドワーさん、いいお住まいを見せていただきました。自分の暮らしを愛してこそ、夢に描く理想の暮らしを手に入れられる。きっとそういうことなのだろうと、教えていただいた気がします。

桜の木で作った「紙の木」を、日本コーナーの入り口に。ドアや壁をつくらずとも、「紙の木」が精神的な仕切りとなっている(撮影/Manabu Matsunaga)

桜の木で作った「紙の木」を、日本コーナーの入り口に。ドアや壁をつくらずとも、「紙の木」が精神的な仕切りとなっている(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

(撮影/Manabu Matsunaga)

●参考サイト
アリーグルの市場
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/09/166881_main1.jpg
連載パリの暮らしとインテリアフランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。
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