警視庁公安部の倉島警部補は、後輩の西本とサイバーテロに立ち向かう。
倉島と西本は、ともに警備局の諜報活動研修を経験しているが、西本にはまだ諜報活動(いわゆるオペレーション)の経験がない。
研修から帰った西本の様子が変であることに、倉島も気づいたが、台北にある日系企業がサイバー攻撃を受けた件の捜査で、表向きは倉島が研修講師を依頼されたという形で、西本と台北へ行くことになるのである。
ゼロの研修から復帰した西本は、復帰祝いで行った赤坂の料亭で、「日本の製薬会社の台湾法人が、ロシアのハッカーからサイバー攻撃を受けた件について」問題提起し、倉島が応じることになった。
翌日、倉島は生活安全部に連絡し、三十代と思われる宇佐美に話を聞くことになった。
倉島警部補が台湾の食堂に行って驚いたということに、こっちが驚いた。
それは、台湾の食堂が上品で静かであるという点だ。
中国の食堂は、食べた鶏ガラを床に捨てたり、大声で話して喧騒という感じなので、ここは全く別の国だと感じたという。最近の中国の怒りのさまが頭に浮かび、統一されるとこの上品な日本統治時代の習慣も失われるのかと思うと、少し寂しい気がした。
台湾での捜査で、日本の製薬会社の台湾法人以外にサイバー攻撃を受けた(液晶を作っている)ニッポンLCという会社があるという情報を得た。
また、ロシアは戦争と経済制裁の影響で、銀行取引を停止しているため、身代金を要求しても回収できない状態なので、犯人はロシアの犯罪集団レビルではないと考えているという。
今後の窓口として、CTO秘書で並外れた美貌の林春美(リン・チュンメイ)さんが紹介された。
後日、そのリン・チュンメイさんから、重大な相談を受ける。
ハッカー集団は、ひょっとしたら日本企業を敵視するものではないか、というものだった。
そして、政治的なスローガンとして日本を排除しようとする勢力があり、基本的に反日である中国や韓国が被疑者の可能性が高いという。
そこで、ニッポンLCのシステム管理の担当者と台北警政署・保安組の蔡俊宏 警佐を交えて情報交換することになった。
その結果、いまのところはニッポンLCのセキュリティ対策には問題はないことが分かった。
倉島警部補が研修は無事終了したことを、公安部総務課の佐久間課長に報告すると、すぐに帰国しろと指示され、ニッポンLCへのサイバー攻撃について引き続き捜査したいという申告は認められない。
捜査延長に思案していたところに、ニッポンLCの工場システム担当者の李宗憲(リー・ソンシエン)が、他殺体で発見されたとの連絡が入った。
死亡推定時刻には、倉島と西本は島津CTOと秘書の林春美(リン・チュンメイ)と食事を取っていた。
倉島と西本は、ニッポンLCを訪問し、島津CTOらと工場システムの担当者らに殺された李宗憲のことを聞いた。彼らはドライで個人的な付き合いはあまりしないし、自分と意見が違えば、同僚や上司とも衝突するそうだが、技術者はとくに引く手あまたなためクビになることを恐れず、その傾向が強いらしい。
倉島は今回の殺人事件により、公安部総務課の佐久間課長の説得に成功し、警備企画課の管理官から作業の費用を送ってもらうことになった。
倉島は、西本に作業(オペレーション)の計画を立てるよう指示してみた。
はじめて、オペレーションの計画を立てるよう指示された西本は手順が分からず、倉島警部補にそのやり方を聞いた。倉島警部補の回答が、私が学習したプロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)の計画の立て方と同じであることに驚いた。よくよく考えてみれば、PMP資格は職種を選ばないので、それもそうかと思った。P182
ついに、凶器が発見された。
凶器は、ゴルフクラブのドライバーだった。
そして、持ち主が特定されたが、その名前に倉島をはじめ全員が驚きの表情で固まった・・・。
ここから核心に迫っていきます。
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〆
猫の本だと思って買うと、まったく猫は関係ないことに首をかしげる人、あきれる人、しまいには怒り出す人がいるとは思うが、推理小説としては、まあコミカルな感じは悪くない。描写も細かい。あとは好みかどうかだけのことである。
主人公の冷泉彰成は、自らを売れない覆面作家と設定している点は、共感が持てて、それはそれで著者の思う壺なのかも知れない。売れてないなら覆面をやめたほうがいいのではないか、などと余計なことまで考えてしまう。
出だしも独特である。
この小説に出てくる<犯人が書いた文章>は、紛れもなく犯人が書いたものである。
ただし、その内容が真実を語っているとは限らない。
と言って、読者に挑戦状を叩きつけるのである。
これは、相当自信があるのだろう。
そして、アシスタントの久高くんは作家志望で、警察の聞き取りにも同席する。
事件の概要は、冷泉彰成先生にファンレターを送ってきた女性が殺された。
ファンレターに先生から返事があって、先生と会うことになっていたという捜査結果から、冷泉彰成にも事情聴取の手が及び、刑事二人がちょくちょく訪れるようになったという流れである。一応、先生は容疑者ではないという流れである。
ファンレターを受け取ったころ、怪文書<犯人が書いた文章>も受け取っていたので、それを警察に話して、警察に調査してもらった。警察は、この怪文書を書いた人物が犯人だと結論付けて、それを前提に捜査を進めているのである。
先生と弟子の久高は、お互いに犯人像を推理する。
賢い弟子の久高は、覆面作家である先生の顔は、犯人にはバレていると推理し、どうやって正体を暴いたのかを説明している。なるほど、そういう手があるのね。こんなこと書いたら、ほかの覆面作家の正体も掴めそうだけど、いいのかなあ・・・。P129
そして、二通目の<犯人が書いた文章>である封筒が届く。
だが、警察に届けるか迷う先生。しばらく静観する。
そこへ、先輩作家の石動山が、暇つぶしにふらりとやって来る。
編集担当から事件のことを聞いてきたらしい。
石動山は勝手に推理を披露する。犯人は内部関係者説。編集部の人間なら誰でも<犯人が書いた文章>の封筒を開封して中身と差出人を読んだ後、元通りに封をする方法はミステリーの手口によくあるから誰でもできると主張した。
へえー、そうなのか・・・
そして、第二の殺人が起こってしまった。
二十五歳の会社社員の羽入美鳥さん。
その女性からのファンレターも警察に見せた。
冷泉と弟子の久高は、アリバイを確認された。
犯人は、冷泉に成りすました者である。
とは言うものの、二人の被害者の共通点は、売れない作家の冷泉だけなのである。
疑われてもしかたがないが、冷泉にはどうしようもない。
二人とも、冷泉が書いたミステリーの見立て殺人である。今回の被害者は、背中を焼かれたはずであるが、実際には着ていた服が燃やされただけであった。
ところが、刑事からの聞き取りの途中で、この小説が不思議な展開を見せる。
「いや、もうダメだ これ以上は誤魔化せない」
から殺人の懺悔のような詩が現れた。
そして、犯人は冷泉だったというのである。
さっぱり分からない。
アシスタントの久高が語る。
これは、願望充足小説なのではないか。
この小説を書いているときだけ、自分は犯人だという事実から逃避できるという願望。
言っていることが分からない。
そして、小説は突然幕が下りる。
・・・
・・・
・・・
なぜか、犯人は冷泉彰成先生で、その真相を書いた弟子の久高は、一躍脚光を浴びているのである。
さて、文頭で挑戦状を叩きつけた先生が逮捕された今、われわれ読者が真相をあばくまでもなく、勝負はついたのだった。
と、誰もが思った瞬間・・・
さて、ことの展開と真相はいかに!
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本の紹介 『タイガー理髪店心中』 小暮夕紀子
第一話 タイガー理髪店心中
子供のころ、昭和30年代の話だろうか。
むかしながらのスタイルを貫く理髪店は、古くからの常連さんしか来なくなり、毎日閑古鳥が鳴いている。
奥さんのやすこさんは、まめによく働く人で、お店の掃除や理髪椅子磨きは毎日欠かさない人なのだ。
だが、店主で八十を超えた寅雄さんは、最近やすこさんの認知症が始まったことに気付いていた。
好きな花の名前が思い出せない。
フジウツキ
寅雄さんも、閉店後店の前で大声でひとりごとを言うようになっていて、人のことは言えないと感じた。
ふと、常連の同級生で写真屋のノブヤンが散髪に来たりして、むかしサムイチをいじめて、やまのてっぺんの穴に落としたことを思い出しました。
因果応報か、寅雄の子供は六歳のとき、この穴にハマって亡くなりました。
読者のわたしも、子供の頃、いじめる子といじめられる子がいたことを思い出しました。
どちらかと言うと、いじめるというか、ふざけていただけのつもりでしたが、ふざけられた方は、そうは思っていなかったかも知れません。
そんなある日、品のいい紳士が理髪店に来ました。 そのとき、やすこさんが、徘徊に出て行くと、動揺した寅雄さんは、紳士の顔を少しカミソリで切ってしまうのです。
紳士は、私の血は青く無いですか、と聞いて、昔そう言ってからかわれたので、と語ると、またも寅雄さんは動揺します。自分がむかしサムイチに言った言葉だったからです。
後日、紳士がノブヤンの写真店にも来て、散髪した姿で、写真を撮って行ったけど、誰だろうなんてノブヤンが言っていたので、ノブヤンは気付いていないようです。
さて、妻のやすこさんの認知症は、突如、第二段階へ突入します。
夜中に山へ行き、取り憑かれたように何か呟いているのです。毎晩続くようになり、後をつける寅雄さんもクタクタです。
ある雨の日も、やすこさんは夜中に山頂へ向かいました。ところが、やすこさんの姿が穴の辺りで見えなくなりました。
そうです。穴に落ちたのです。雨が降り続いています。穴に落ちたやすこさんは、うつむいたまま動きませんし、穴は深く寅雄が穴に入っても上がれないので、うっかり穴に入ろうものなら、明日の朝には、はたからみたら心中に見える状態で発見されることでしょう。これぞ、理髪店心中です。
寅雄には、このままにしておけば楽になる、という殺意が生まれます。そのとき、穴の底から寅雄を見上げるやすこさんの鋭い目線に気づき、かなり動揺する寅雄でした。そうやって息子も殺したのね! 妻は何もかも、お見通しなのか。
翌朝、何事もなかったように一日が始まるのです。 そして、定刻になり店を閉めたとき、やすこさんが放った言葉で、寅雄はトドメを刺されました。
『あなたの、名前、なんでしたか?』
(-_-;)
| 第二話へ続く |
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本の紹介
『 虚ろまんてぃっく 』 吉村萬壱
人間の理屈通りに物事が運ぶはずがない。
戦争などはいったん始まれば狂気の沙汰である。
人間はおそらく生物として狂っている。
という前提で小説を書いているのが、吉村萬壱さん。
吉村萬壱が書いたこの小説は、人間が大嫌いになったり、我慢ならなくなったり、耐えられなくなったりしたとき以外は、まず読み返さない。
これは作者本人のあとがきでの弁である。
読まないの間違いではないのか、と思った。
興味があれば、宇宙人のふりをしているという人間様の彼が書いたこの小説を読んでみるといい。頭がおかしくなるから。
| あらすじ 👈こちら |
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この物語は、伊藤内閣で外務大臣となった陸奥宗光の、それまでの人生を描いている。それからの人生を描く前に葉室麟先生は逝かれてしまったため「未完」となっている。
葉室麟さんの本は、初めて読んだのだけれども、とても読みやすい。本作が完結していないのは、なんとも残念ですが、直木賞や司馬遼太郎賞を受賞された作品などは読んでみたい。
さて、物語ですが、陸奥宗光の外務大臣になるまでの浮き沈みの激しい人生と、鹿鳴館の華と呼ばれた妻の亮子との二人三脚の生涯が描かれている。大変ではあったろうけど、凡庸なわれら読者の人生に比べれば、なんとうらやましいことかと思われる。上でも書きましたが、とても読みやすく二夜のうちに読み終えてしまった。
あらためて、明治からの日本史に登場する人物たちの思慮深さ、行動力に驚かされるとともに、自分を含めた現代人や政治家の思慮浅さや子供じみた行動との落差に愕然とします。
特別収録の「乙女がゆく」は超短編。
乙女とは、可愛らしい女性のことではなく、巨漢であった坂本龍馬の姉の「おとめ」のこと。この物語の主人公である。
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