
「いくらアイデアを出しても、使えるものが見つからない……」
「このアイデアを、取引先におもしろいと思ってもらえるだろうか……」
このように悩んでしまうのは、アイデアの質を、いまひとつ高めることができていないから。
とはいえ、アイデアの質が高まらないのは、そうするための方法を単に知らないだけの話かもしれません。その方法とは、「トリーズの9画面法」。今回は、よりよいアイデアを生むのに役立つトリーズの9画面法のやり方を、筆者の実践例もあわせてご紹介しましょう。
あなたのアイデアの質が低いままなのには、ふたつの理由が考えられます。
人材育成コンサルタントの清水久三子氏によると、いいアイデアを出せない人には、アイデアの「幅」「深さ」「角度」が欠けているそうです。
清水氏は、幅・深さ・角度がある理想の状態を、以下のように示します。
「幅」がある状態:検討対象に漏れがないこと
「深さ」がある状態:結論の根拠が十分にあること
「角度」がある状態:さまざまな視点で検討できていること
重要なことを検討しそびれたり(幅が足りない)、どうしてそう言えるのかが曖昧だったり(深さが足りない)、ありきたりな案しか思い浮かばなかったり(角度が足りない)……というように、3要素がそろわないとアイデアの質は上がらないのです。
『使えるアイデアがあふれ出るすごいブレスト』著者の石井力重氏によると、いいアイデアを生みたいときは、「ダメなアイデア」でも「微妙なアイデア」でもいいので、とにかく書き出してみるといいそうです。
つまり、初めから「ベストなアイデア」を出そうとしなくていいということ。
質を問わず、思い浮かんだアイデアをどんどん書き出すと、頭のなかに余裕が生まれて、“快適に発想できる状態” になるとのこと。書き出すうち、しだいに「よさそうなアイデア」が生まれてくると言います。
そのようにして書き出したアイデアのなかから、「使えるかもしれない」と感じるアイデアを選んで磨き上げていくことで、最終的にいいアイデアが生まれると石井氏。微妙なアイデアやダメなアイデアも、ひとまず出してみることに意味があるのですね。

では、どうすればアイデアを磨き、質を高めていけるのでしょうか。その答えが、「トリーズの9画面法」です。
『トリーズの9画面法 問題解決・アイデア発想&伝達のための[科学的]思考支援ツール』著者で、ソニーグループで人材開発を手がける高木芳徳氏によると、トリーズ(TRIZ)とは、200万件以上の特許研究をベースにした発明と問題解決の理論の総称。1950年代に旧ソビエト連邦で生まれました。
「9画面法」はそのうちのひとつで、アイデアの発想や整理、伝達に役立つフレームワークです。ソニーグループの社内研修や、東京大学の講義でも導入され、高く評価されているそう。
トリーズの9画面法の実践手順は、次のとおりです。

縦軸に設定した空間軸の「システム」について補足します。高木氏は、システムを、ある目的のために関係性のある諸要素が集まって、まとまりとしての包含関係によって、上下関係を生み出すものだと定義します。
たとえば「社会」「製品」「部品」の関係性を考えてみましょう。製品は社会で消費されるので、社会は製品より上位のシステムです。また、製品に使われその価値を見いだされるという点で、部品は製品よりも下位のシステムだと言えます。
このように、システムについてはマクロとミクロの両視点で関係性を考えていくのです。

トリーズの9画面法が、アイデアの質を高めるのに役立つ理由は、要素を「ずらす」ことがしやすくなるからです。
前出の石井氏は、新しいアイデアを生む方法として「ずらしのテクニック」を挙げています。アイデアを構成する以下6つの要素について、違う観点から見るというものです。とある商品をリニューアルする場面を例に、要素をずらしながら考えてみます。
アイデアの質が低くありきたりだと感じたら、これらの要素をずらしてみると、斬新なアイデアになる可能性が高まると石井氏は言います。こうした「ずらす」作業を行なうには、トリーズの9画面法はうってつけなのです。
また、先述のとおり、アイデアは書き出してみることでブラッシュアップしやすくなるもの。その点でも、アイデアを紙に書いて見える化する9画面法は、アイデア発想に効果的だと言えます。

実際に筆者も、トリーズの9画面法を使って「文学の需要を今後高めるにはどうすればよいか」をテーマに考えてみました。
筆者は大学で文学を専攻しており、「本の売れない時代」と呼ばれる現代で作家が商業的に成功するため、また過去の作品がより多くの人に受容されるためにはどうすればよいかを日々考えています。
以下のように、「現在の文学需要」を時間軸・空間軸に沿ってずらし、考えてみることとしました。

そして、各マスを順番に埋めていった様子が、次のとおりです。

実際に9画面法を実践してみて感じたこと、みなさんへ提案したいことをまとめます。
「将来はこうなったらいいな」という素朴な思いを、時間軸・空間軸に沿ってずらしてみたところ、より具体的で価値のあるアイデアに高めることができました。
たとえば今回なら、未来について、文学の需要だけでなく出版業界の労働倫理やサステナビリティにまで考えを広げ、労働者や地球により優しい書籍をつくることが求められるだろうと予測を立てられました。
もし仕事でアイデアを出すよう頼まれ困ったとしても、トリーズの9画面法を使えば、ちょっとした考えからその質を高めていけるのではないかと感じました。
「アイデアの質を高めるテクニック」と聞いて、当初は特に仕事に役立つ方法なのだろう、と考えていました。でも、あえて勉強に応用させてみたところ、仕事の場面に限らず、勉強でも「トリーズの9画面法」は役立つと感じました。
筆者はトリーズの9画面法を使って、卒業論文の構想を友人に伝えてみました。卒業論文で書きたいこと、現状の問題点、先行研究に対する建設的な批判などを図を見せながら行なったところ、「とてもわかりやすかった」と言ってもらえたのです。と同時に、自分自身の論文アイデアを整理するのにも役立ちました。
また、みなさんが実践する際は、各マスを大きめに用意することをおすすめします。頭に浮かんだことをすべて視覚化できるからです。仮に余白ができても、あとで内容を足せるので、もったいないと感じる必要はありませんよ。
***
アイデアの質を高めるには、とにかく頭のなかのアイデアを書き出してアウトプットすることが重要です。一見難しそうなトリーズの9画面法も、やってみると簡単に思えることでしょう。ぜひ、みなさんも実践してみてくださいね。
(参考)
高木芳徳 (2021), 『トリーズの9画面法 問題解決・アイデア発想&伝達のための[科学的]思考支援ツール』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
PR TIMES|旧ソ連の技術力を支えた最強のフレームワーク「トリーズの9画面法」で、アイデアを量産しわかりやすく伝えるスキルを身につけよう
CHANTO WEB|「斬新なアイディアないの?」仕事のピンチに使える発想法
東洋経済オンライン|考えが「浅い」と言われる人が知らない思考法
【ライタープロフィール】
YG
大学では日韓比較文学を専攻し、自身の研究分野に関する論文収集に没頭している。言語学にも関心があり、文法を中心に日々勉強中。これまでに実践報告型の記事を多数執筆。効果的で再現性の高い勉強法や読書術を伝えるべく、自らノート術や多読の実践を深めている。
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