
「あと一日で締め切りなのに、まだ半分も終わってない…」
パソコンの前で頭を抱える。一方で隣の席では、いつもゆったりとしたペースで仕事をしている同僚が窓の外を眺めたり、短い雑談を挟んだりしながらも着実に業務を進めている。
「なぜあんなに余裕があるのに、私より早く仕事を終わらせられるんだろう?」
「怠けているように見えるのに有能な人」を見て、不思議に思った経験はありませんか? じつは、仕事ができる人ほど「仕事の質を高める息抜きの技術」を使っています。
現代のビジネス環境では、単に長時間作業することよりも、「質の高い集中と効果的な休息のバランス」が成果を左右します。あなたも今日から、有能な人が実践する「休み方」の秘訣を取り入れて、仕事の効率を劇的に変えてみませんか?
仕事中に「何もしない」のは、怠惰だと思われるかもしれません。ですが、有能な人は切れ目なく仕事をするのではなく、あえて何もしない時間をつくることで生産性を上げています。
脳神経科学を研究している、早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦氏は、「社会性、コミュニケ―ション、感情のコントロール」などを担う「前頭前野」は疲れやすいと説明します。前頭前野は社会的な機能だけではなく、一時的に「記憶をするワーキングメモリー」も担う部位。ですから、この部位が疲れると——
大量の情報や複雑な情報が入ってくると、そこに書類が山積みで散らかっている状態になります。だから、処理ができなかったり、ミスをしたりしてしまいます。*1
ワーキングメモリーは個人のデスクのようなもの。スペースには限界がありますから、パソコンを使う知的作業をすれば、情報が山積みとなり、作業の邪魔となってしまうのです。そこでカギとなるのが、脳を休ませる時間をつくること。
「仕事が全然進まない……」と焦って作業を進めても、さらに頭のなかがごちゃごちゃしてイライラするだけ。いっそのこと「ぼーっとする」ほうが効率が上がるわけです。
前頭前野の疲労とパフォーマンス低下
何もしない時間は、何も生み出していないわけではありません。枝川氏は、このぼーっとする時間に「デフォルトモードネットワーク(以下はDMN)の働き」が高まると述べます。このDMNが働くと、脳の疲労回復のみならず「記憶を編集して整理」し「ひらめきが生まれやすい」とのこと。*1
忙しくて頭が働かないのなら、あえて手を止めてみましょう。窓の外を見たり、コーヒーを淹れたり、できるのなら席を離れて歩いてみたり……。集中力を手放して、考えを広げれば、疲れも軽減され、新たなひらめきが生まれますよ。
「ぼーっとする時間」の効果

「仕事は真面目に黙って取り組むべき」と考えているのなら、少し肩の力を抜いてみたほうがいいかもしれません。有能な人は、ユーモアのある雑談を通して仕事力を上げています。
雑談が生産性や創造性を高める——と聞けば、飛躍していると思われるかもしれませんね。しかし、実際の調査で、仕事における雑談の恩恵は大きいと判明しています。
米ラトガース大学で組織行動学を専門とする、ジェシカ・R・メト准教授らは、従業員151人を対象に15日間連続で毎日3回のEメール調査を実施しました。すると、雑談は以下の効果が見られたのだそうです。*2
近年、「心理的安全性」を高める働きが注目されていますが、上記の結果を見れば、雑談は心理的安全性を高めるものだとわかりますね。
心理的安全性とは、チーム内で安心して発言・行動できる状態を指します。心理的安全性が高いチームでは、メンバーが失敗を恐れず新しいアイデアを提案したり、率直に意見を述べたりできるため、イノベーションが生まれやすく、問題解決も迅速に行なわれます。
雑談のメリット
仕事のできる人は雑談を通して職場の雰囲気をよくするのみならず、チームの生産性を上げることに貢献しているのです。チームにとって重要な存在であるのはいうまでもなく、結果的に周囲のサポートを得られやすいとも言えるでしょう。
ただ、否定的な話題や下品な話題は、「仕事へのモチベーションが低下したり、ストレスレベルが上がったり」するため逆効果。悪口や不満など、対立を生みやすいテーマは避けましょう。好ましいのは、ユーモアあふれる雑談です。
加えて、上智大学・言語教育研究センター/大学院言語科学研究科、教授の清水崇文氏は自身の失敗話は、聞いている人の「失敗することや他者から非難されることへの不安が軽減され」、「心理的安全性が促進される」と述べています。*2
効果的な雑談のコツ
プレゼンの失敗談を例にすると——
自分「昨日のプレゼンでしくじりまして……まずいなぁ」
相手「何かトラブルでも?」
自分「いや、ちょっとしたことです。間違えてスクリーンに自分の家族写真を映しちゃったんですよ」
相手「笑 漫画みたいなことがあるんですね」
失敗談を語れば笑いを誘うだけではなく、こちら側の「人間味」も感じてもらえます。仕事のできる人は、ユーモアで相手をリラックスさせ、お互いにサポートしやすい関係を築くのです。

「スマートフォンの使用は脳疲労を悪化させる原因」と一般的に言われています。しかし、意外にも研究者によれば、適度なネットサーフィンは仕事の生産性を向上させるのだそうです。
「ネットサーフィンをすると、脳疲労が解消されないのでは」と考える人も多いでしょう。もちろんそれは事実ですが、「気分を変える」という点でネットサーフィンは有効です。
イリノイ大学のマイクロブレイクの専門家、スヨル・キム氏らの研究(2018)では、感情をコントロールする必要がある職種に、マイクロブレイク(=数分の短い休憩)が役立つのかを調査しました。調査対象となったのはコールセンター。従業員に2週間にわたり、販売実績を報告してもらうとともに「ポジティブな感情の度合い」「仕事量」「短時間の休憩の有無」を含むアンケート調査を実施。
すると、仕事への関与度が低い人ほど、マイクロブレイクを取ることで生産性が向上し、ポジティブな感情が増加することがわかりました。
特筆すべきは「休憩の内容」です。研究によると、「軽食をとる休憩」は効果がなく、代わりに効果があったのは「リラックス」「同僚とのおしゃべり」——、そして少し負荷のかかるネットサーフィンだったのです。*3
意外かもしれませんが、そもそも息抜きとは「仕事から離れる」こと。インターネットで動画を視聴したり、自分の興味あるニュース記事を閲覧したり、注目の起業家が発信しているSNSを読んだり……。これらの活動はすべて認知的に切り替えができるものです。
もちろんダラダラと続けていたら仕事の先延ばしになりかねません。シンガポール国立大学経営学部教授のヴィヴィアン・リム氏は、個人差はあるものの、15~20分が適切だと述べています。*3
適切なネットサーフィンのコツ
時間を決める(推奨:15〜20分)
自分の興味ある内容を選ぶ
情報収集と気分転換を兼ねる
ネットサーフィンをすると、罪悪感を抱くかもしれません。でも、それが仕事の気晴らし、そして新たなアイデアに結びつく情報収集と考えれば、有益なことに思えてきませんか? 無理に仕事に向き合い続けるよりも、仕事から離れる時間をつくるほうが生産性は高まるのです。
まとめ:生産性向上のための「戦略的気分転換術」
成果を出す人の生産性が高いのは、‟切り替え"の方法を知っているから。
*1 MISAWA HOME LOUNGE|脳によりよい休息で 在宅ワークを快適に
*2 RICOH|生産性、創造性を高める職場の雑談 「無駄な話」を「好機」に変える
*3 BBC|The tiny breaks that ease your body and reboot your brain
*4 BBC|Cyberloafing: The line between rejuvenating and wasting time
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