
翌日中隊は、早朝から、烏が渦巻いている空の下へ出かけて行った。烏は、既に、浅猿しくも、雪の上に群がって、貪慾な嘴で、そこをかきさがしつついていた。
兵士達が行くと、烏は、かあかあ鳴き叫び、雲のように空へまい上った。
そこには、半ば貪り啄かれた兵士達の屍が散り散りに横たわっていた。顔面はさんざんに傷われて見るかげもなくなっていた。
雪は半ば解けかけていた。水が靴にしみ通ってきた。
や
かましく鳴き叫びながら、空に群がっている烏は、やがて、一町ほど向うの雪の上へおりて行った。
兵士は、烏が雪をかきさがし、つついているのを見つけては、それを追っかけた。
烏は、また、鳴き叫びながら、空に廻い上って、二三町さきへおりた。そこにも屍があった。兵士はそれを追っかけた。
烏は、次第に遠く、一里も、二里も向うの方まで、雪の上におりながら逃げて行った。
――黒島傳治「渦巻ける烏の群」
大貧に、大正義、望むべからず――
フランソワ・ヴィヨン……かなしい土曜日