今年は読んだというより書いた年だったのでまったく頭が働いた気がしない。 1、マルクス・ガブリエル他『未来への大分岐』……はじめはこの本についての評論をやろうとしてたのだが、途中で挫折。この本を読んで勉強になったとかいうてるひとにわたくしはいろ…
猶俤の露忘れがたく、しばしまどろむ暁の夢に、かの真女児が家に尋ねいきて見れば、門も家もいと大きに造りなし、蔀おろし簾垂こめて、ゆかしげに住みなしたり。真女児出で迎ひて、「御情わすれがたく待ち恋奉る。此方に入られ給へ」とて、奥の方にいざなひ…
こは正太郎が身のうへにこそと、斧引き提げて大路に出れば、明けたるといひし夜はいまだくらく、月は中天ながら影朧々として、風冷やかに、さて正太郎が戸は明けはなして其の人は見えず。内にや迯げ入りつらんと走り入りて見れども、いづくに竄るべき住居に…
正太郎かなたに向ひて、「はかなくて病にさへそませ給ふよし。おのれもいとほしき妻を亡なひて侍れば、同じ悲しみをも問ひかはしまゐらせんとて推て詣で侍りぬ」といふ。あるじの女屏風すこし引きあけて、「めづらしくもあひ見奉るものかな。つらき報ひの程…
一日父が宿にあらぬ間に、正太郎磯良をかたらひていふ。「御許の信ある操を見て、今はおのれが身の罪をくゆるばかりなり。かの女をも古郷に送りてのち、父の面を和め奉らん。渠は播磨の印南野の者なるが、親もなき身の浅ましくてあるを、いとかなしく思ひて…
死て蠎となり、或は霹靂を震うて怨みを報ふ類は、其の肉を醢にするとも飽べからず。さるためしは希なり。夫のおのれをよく脩めて教へなば、此の患おのずから避べきものを、只かりそめなる徒ことに、女の慳しき性を募らしめて、其の身の憂をもとむるにぞあり…
淡路と聞えし人、にはかに色を違へて、「はや修羅の時にや。阿修羅ども御迎ひに来ると聞え侍る。立たせ給へ」といへば、一座の人々忽ち面に血を灌ぎし如く、「いざ石田・増田が従に今宵も泡吹せん」と勇みて立ち躁ぐ。秀次、木村に向はせ給ひ、「よしなき奴…
一人の武士かつ法師に問ひていふ。「此の山は大徳の啓き給うて、土石草木も霊なきはあらずと聞く。さるに玉川の流には毒あり。人飮時は斃るが故に、大師のよませ給ふ歌とて、 わすれても汲やしつらん旅人の高野の奥の玉川の水 といふことを聞き伝へたり。大…
最近、戦前の、いまからみると「→」にみえる人たちの著作を勉強しているが、上は今日読んだ本。マルクス主義の本が近づきがたい人は、こういう批判的な本から入るという手もあるであろう。非常に簡潔にまとめてくれているからである。そして、それは、半端な…
我そのとき人々にむかひ、声をはり上げて、『旁等は興義をわすれたまふか。宥させたまへ。寺にかへさせたまへ』と連りに叫びぬれど、人々しらぬ形にもてなして、ただ手を拍つて喜びたまふ。鱠手なるものまづ我が両眼を左手の指にてつよくとらへ、右手に礪ぎ…
傍にひとつの大魚ありていふ。『師のねがふ事いとやすし。待たせ給へ』とて、杳の底に去と見しに、しばしして、冠装束したる人の、前の大魚に跨がりて、許多の鼇魚を牽ゐて浮かび来たり、我にむかひていふ。 『海若の詔あり。老僧かねて放生の功徳多し。今江…
面は望の夜の月のごと、笑ば花の艶ふが如、綾錦に裹める京女﨟にも勝りたれとて、この里人はもとより、京の防人等、国の隣の人までも、言をよせて恋ひ慕ばざるはなかりしを、手児女物うき事に思ひ沈みつつ、おほくの人の心に報ひすとて、此の浦回の波に身を…
水向の具物せし中に、木の端を刪りたるに、那須野紙のいたう古びて、文字もむら消して所々見定めがたき、正しく妻の筆の跡なり。法名といふものも年月もしるさで、三十一字に末期の心を哀れにも展たり。 さりともと思ふ心にはかられて世にもけふまでいける命…
いづれか我が住みし家ぞと立ち惑ふに、ここ二十歩ばかりを去て、雷に砕かれし松の聳えて立るが、雲間の星のひかりに見えたるを、げに我が軒の標こそ見えつると、先嬉しきここちしてあゆむに、家は故にかはらであり。 画に過ぎるような場面である。むかし、こ…
さぬきいろいろ33
身のうさは人しも告じあふ坂の夕づけ鳥よ秋も暮れぬと かくよめれども、国あまた隔ぬれば、いひおくるべき伝もなし。世の中騒がしきにつれて、人の心も恐ろしくなりにたり。適間とふらふ人も、宮木がかたちの愛たきを見ては、さまざまにすかしいざなへども、…
仕事茸
「兄長今夜菊花の約に特来る。酒肴をもて迎ふるに、再三辞給ふうて云ふ。しかじかのやうにて約に背くがゆゑに、自刃に伏て陰魂百里を来るといひて見えずなりぬ。それ故にこそは母の眠をも驚かしたてまつれ。只々赦し給へ」と潸然と哭入るを、老母いふ。「『…
もしやと戸の外に出でて見れば、銀河影きえぎえに、氷輪我のみを照して淋しきに、軒守る犬の吼る声すみわたり、浦浪の音ぞここもとにたちくるやうなり。月の光も山の際に陰くなれば、今はとて戸を閉て入らんとするに、ただ看、おぼろなる黒影の中にありて、…
九日はいつもより疾く起出て、草の屋の席をはらひ、黄菊しら菊二枝三枝小瓶に挿、嚢をかたふけて酒飯の設をす。老母云ふ。「かの八雲たつ国は山陰の果にありて、ここには百里を隔つると聞けば、けふとも定めがたきに、其の来しを見ても物すとも遅からじ」。…
よしや君昔の玉の床とてもかからんのちは何にかはせん 刹利も須陀もかはらぬものをと心あまりて高らかに吟ひける 此ことばを聞しめして感でさせ給ふやうなりしが御面も和らぎ陰火もややうすく消えゆくほどにつひに龍体もかきけちたる如く見えずなれば化鳥も…
汝家を出でて仏に婬し、未来解脱の利欲を願ふ心より、人道を持て因果に引入れ、堯舜のをしへを釈門に混じて朕に説くや」と、御声あららかに告せ給ふ。 崇徳院は顔色を変えて反論する。周王朝のはじまりのように、天に応じ民に従う場合は臣下が君主を討つのは…
新院呵々と笑はせ給ひ、「汝しらず、近来の世の乱れは朕なすこと事なり。生てありし日より魔道にこころざしをかたふけて、平治の乱れを発さしめ、死て猶、朝家に祟をなす。見よみよ、やがて天が下に大乱を生ぜしめん」といふ。西行此の詔に涙をとどめて、「…
羅子は水滸を撰し、而して三世唖児を生み、紫媛は源語を著し、而して一旦悪趣に堕つる者、蓋し業を為すことの迫る所耳。然り而して其の文を観るに、各々奇態を奮ひ、あん哢真に迫り、低昂宛転、読者の心気をして洞越たらしむる也。事実を千古に鑑せらるべし…
うまれしもかへらぬものを我がやどに小松のあるを見るがかなしさ とぞいへる。猶あかずやあらむ、またかくなむ、 見し人の松のちとせにみましかばとほくかなしきわかれせましや わすれがたくくちをしきことおほかれどえつくさず。とまれかくまれ疾くやりてむ…
十一日。雨いささかに降りて、やみぬ。かくてさし上るに、東の方に、山の横ほれるを見て、人に問へば、「八幡の宮」といふ。これを聞きて、喜びて、人々拝み奉る。山崎の橋見ゆ。うれしきことかぎりなし。ここに、相応寺のほとりに、しばし船をとどめて、と…
かく、上る人々の中に、京より下りし時に、みな人、子どもなかりき、到れりし国にてぞ、子生める者ども、ありあへる。人みな、船の泊まるところに、子を抱きつつ、降り乗りす。これを見て、昔の子の母、悲しきに堪えずして、 なかりしもありつつ帰る人の子を…
むかし呉に行ったことがあった。
ここに、人々のいはく、「これ、昔、名高く聞こえたるところなり。故惟高親王の御供に、故在原業平の中将の、 世の中に絶えて桜の咲かざらば春の心はのどけからまし といふ歌よめるところなりけり。」 今、今日ある人、ところに似たる歌よめり。 千代経たる…
八日。なほ、川上りになづみて、鳥飼の御牧といふほとりに泊まる。今宵、船君、例の病おこりて、いたく悩む。ある人、あざらかなる物持て来たり。米して返り事す。男ども、ひそかにいふなり。「飯粒して、もつ釣る」とや。かうやうのこと、ところどころにあ…
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