毎年恒例のテレビアニメベスト10をお送りする。今年は「2025年1月の新作アニメ第一話レビュー」で44作品も感想を書いたり、袋麺データブック2の編集に注力したりしていたので、ものすごく遅くなってしまった。これ以上遅くなると2025年テレビアニメベスト記事が出てきてしまうので、ようやく重い腰を上げて記事を完成させた。この先延ばし体質が、私の人生の様々な面に悪影響を与えているように感じる。
致命的なネタバレはしないよう気を付けているが、ある程度内容に触れているので、ご留意頂きたい。
1)夜のクラゲは泳げない(原作:JELEE、監督:竹下良平、アニメーション制作:動画工房)
動画工房のオリジナルアニメ。渋谷を舞台に、イラストレーターのまひる、シンガーの花音、ピアニストのめい、VTuberのキウイがJELEEというグループを結成して歌い手動画で成功を目指す。
2024年で一番泣いた作品。毎回のようにボロボロ泣きながら観ていた。
何者かになりたいが自信が持てないまひるを始め、四人の心情が丁寧に描かれていて共感できる。創作の葛藤が主題に据えられていて、私も小説を書いているだけに葛藤がザクザク刺さり、もっと頑張らなくちゃと励まされた。
本作はとにかく脚本が素晴らしい。
最初に課題を提示して、ミッドポイントでどん底に落として、最後にきれいに解決して終わるという構成がしっかりしていて、その上で話ごとに変化をつけてきて飽きさせない。しかも、トラブルの起こし方が非常に自然でリアリティがある。こういう練り込まれた脚本の作品を観ると勉強になる。
「流されていないで自分一人で立て」というテーマの作品は良くあるが、自分では泳げないが外からの光をため込んで光ることはできるというクラゲを象徴的に用いて、自分一人で泳げなくたって良いんだというメッセージを打ち出してきたのが新鮮。他にも髪を染めて違う自分になることを肯定的に捉えたりと、既存の物語の定型をずらしてきているのが面白い。
映像の美しさも印象深い。光にあふれた夜の渋谷の情景が美しく、しっとりとした詩情を漂わせている。
2)ダンジョン飯(原作:九井諒子、監督:宮島善博、アニメーション制作:TRIGGER)
ライオス達四人のパーティーが、竜に飲まれたファリンを助けるため、ファンタジーに登場するモンスターを調理して食べながらダンジョンを踏破していく様を描くファンタジーアニメ。
本作はとにかく発想がユニーク。霊によってキンキンに冷えた聖水がアイスになって美味しいとか、クラーケンを食べるのかと思いきやクラーケンの寄生虫を食べるとか。
マルシルが最初に着せられた服が見事なまでに見たことのない形状で、作者の想像力に感心した。良くここまで見たことのない服を思いつけるものだ。
魔物食に関するディティールは作者が実際に食べたのではと思うほど作り込まれている。
旅の目的がライオスは肉親の情、マルシルは友情、チルチャックは前金を貰ったから、センシは食べ物とそれぞれ思惑が異なっている。心を一つに敵を倒すぞという体育会系的なノリと真逆なのが面白い。
ライオスが「前回は空腹で挑んだから負けたのだ」と言う流れは食べることは生きることという本作のテーマを象徴していて心に残った。
食べるというのは人間の本質に繋がっている行為なのだと再認識した。
人によって物の見え方が全然違うということがこれほど意識されている作品は珍しい。特にシェイプシフターのエピソードはそれが視覚的に明瞭になっていてとても面白かった。
ダンジョン飯で思うのは日々の積み重ねによって愛着がわくということ。マルシルは初回を観た時点では魔物を食うのを嫌がってばかりの常識人で、原作ファンが絶賛するほど可愛いかな、という印象だった。その後も、このエピソードによって決定的に好きになったというのはないのに、いつの間にか大好きになっている。これは知り合いを好きになるプロセスと同じである。生きることは日々の積み重ねであるという作品のメッセージを裏付けている。
3)負けヒロインが多すぎる!(原作:雨森たきび、監督:北村翔太郎、アニメーション制作:A-1 Pictures)
負けヒロインが次々登場するという斬新なコンセプトのラノベが原作のアニメ。
可哀そうは可愛いに通じる所があり、負けヒロインというのは健気で可愛いものだが、メインヒロインの方が可愛い(それ故に主人公がメインヒロインを選択する)という扱いをされてしまうという問題点があった。
本作は高校生の恋愛を横から見ている奴を視点人物にすることで、負けヒロインをメインヒロインにするというアクロバットを成立させている。これにはその手があったか!と膝を打った。
本作の主人公温水は、ヒロイン達にとっての移行対象、ライナスの毛布だ。辛い時に一時寄り添ってただ側にいて上げるだけで、何かを変革する存在ではない。ラブコメの主人公がライナスの毛布というのは初めてではないか。
バトルものは超能力なのか、魔法なのか、肉弾戦なのかといったモチーフによって新味を出すことができるが、恋愛はどんな属性の人がやっても恋愛は恋愛なのでモチーフによる新味が出しにくく、より発想力が問われている。100カノとか疑似ハーレムとか、本作とか、コンセプトによる新機軸を打ち出す努力がすごい。恋愛ものは最もロジカルな発想力が問われる分野なのではないか。
ロケット花火が激しく火を噴いた後に消えたり、時計の長針が短針に追いついて一瞬重なり、また離れていったりと、アニメならではの演出が印象的で心に残った。
4)【推しの子】(原作:赤坂アカ×横槍メンゴ、監督:平牧大輔、アニメーション制作:動画工房)
推しアイドルの子供に転生するという新機軸の転生もの。今期は2.5次元舞台編とプライベート編を描く。
東京ブレイド編はアビ子とGOA、かなとあかねというどちらかが悪いわけではないのに対立してしまった二人の関係が主軸になっている。どちらも共感できる、応援したくなる人物として造形しているので、視聴者に何とかうまくこの対立を解消してくれ!と思わせておいて、解決するからカタルシスが倍になっている。
本作が絶妙なのは、対立関係になる際の匙加減だ。例えば、かなとあかねが仲たがいするきっかけになったエピソード。二人とも性格が良く、どちらが悪いわけでもないのに、確かにこれは仲たがいするわ、と納得できるエピソードになっていて舌を巻いた。
原作者の赤坂先生はロジックで作劇するタイプなので非常に勉強になる。
アクアの「これはエンタメの基本だから覚えておけ。例えばクラスのいじめられっ子が(中略)下手だと舐めていた役者がいきなり滅茶苦茶すごいことを始めたら激熱だろ。」というアドバイスは即使えるアドバイスで素晴らしい。
世の中の大半の人は天才ではないので、持たざる者が手持ちのカードで必死に天才に立ち向かう話が好きなんだよね。
アクアが今まで感情を押し殺してきた封印をついに解くシーンでは、漆黒の星を目に宿したアクアの凄みにゾクゾクした。これは動画工房の神作画あってこそで、並みのアニメスタジオが作ったら全然凄みが出なかっただろう。
5)ゆるキャン△SEASON3(原作:あfろ、監督:登坂晋、アニメーション制作:エイトビット)
キャンプブームを引き起こしたキャンプアニメの第三期。今シーズンから制作がC-Stationからエイトビットに変更された。今までのC-Stationはオリジナル演出に天才的な冴えを見せていたが、原作理解度という点ではエイトビットの方が勝っている。オリジナルエピソードがあfろ先生が考えたと見紛う出来だったのには舌を巻いた。バス停まで遠いのでなでしこを先に行かせる下りとか、実際にロケハンしてみないと描けないエピソードだ。
SEASON3では原作で一番好きな大井川編がアニメ化された。
なでしこと綾乃がテントの中で小声で話している様が芝居じゃなくて素の会話という感じで、本当に気の置けない幼なじみということが伝わってきた。綾乃が「いつか行く」と言って寝落ちするシーンは尊すぎて泣いてしまった。夜明けのシーンも二人の声が本当にまだ血が十分に巡っていない朝という感じで素晴らしい。
見終わったら、あくせくしていた心がすっかり休まって、温泉に入ってさっぱりしたような気分になった。こんな癒されるアニメ、他にない。
基本的にフィクションというのは話が劇的で密度が濃い程良いとされている。作り手はいかに視聴者の心を強く揺さぶるかを競っている。ゆるキャン△は全く逆で視聴者の心をリラックスさせるように作っている。
SEASON2までの京極監督は感動させる名手で何度もボロボロ泣かされた。基本的にフィクションでは感動したい人が多いので、ゆるキャン△をメジャー化させたのは京極監督の功績が大きい。ただ、本来のゆるキャン△は感動的な話、劇的な話ではなく、キャンプのようにリラックスして楽しむ作品なのだ。盤石のファン層が形成された所で、より原作イズムを深く理解されており、原作に忠実な登坂監督にバトンタッチしたのは非常に良いタイミングだったと言えよう。
6)葬送のフリーレン(原作:山田鐘人、アベツカサ、監督:斎藤圭一郎、アニメーション制作:マッドハウス)
勇者パーティーの一員として魔王を討伐したフリーレンが、新たなパーティーと共に過去の旅路をなぞる旅に出るファンタジー。
「反劇的物語としての葬送のフリーレン」に書いたように、本作はあらゆる設定が通常の劇的物語のアンチテーゼになっている。
本作が逆になっている点として1)主人公に達成すべき外的目的がない、2)主人公に内的動機がない。3)主人公に感情の起伏が乏しい。4)主人公がピンチにならない。の4つをあげたが、5)主人公が他人を助けないを追加したい。
フリーレンが蜜柑を散乱させたおばあさんを助けなかったのには新鮮な驚きがあった。他の少年漫画の主人公、ルフィやナルトや炭治郎や虎杖なら助けるだろう。主人公なのに他人が困っていてもあまり助けないという点も、既存の劇的物語の真逆になっている。
アウラは「ヒンメルはもういないじゃない」と言っていたが、現在のフェルン達との旅と、過去のヒンメル達との旅が同時並行的に等価なものとして語られるので、現在と過去に違いはない。過去の旅のこともこれから語られるので、読者からすれば未来のことと同じなのだ。この形式はすごい発明だ。
本作の大きな魅力の一つは引きのセリフの格好良さだ。
「私は強いよ。」「へえ、俺よりも?」「断頭台のアウラよりも。」とか「人類のゾルトラークの研究解析に大きく貢献し、歴史上で最も多くの魔族を葬り去った魔法使い「葬送のフリーレン」。私の嫌いな天才だ」とか、めちゃくちゃ格好良くて痺れた。
7)アンデッドアンラック(原作:戸塚慶文、監督:八瀬祐樹、アニメーション制作:david production)
不死者のアンディと不幸体質の風子のボーイミーツガールアクション。
本作は設定の見事さに唸った。設定の良さだけなら私が見たあらゆる作品の中で一位と言っても過言ではない。
普通、バディものは互いの欠点を補いあう。本作はさらに一歩進んで欠点を長所に反転している。しかも、「触れた人を不幸にする」という最悪な資質を長所に反転して見せたのだ。こんな見事な設定が他にあるだろうか。
他にも全世界言語統一によって否定者があぶり出されるとか、アンディは不死なので地球が破壊されても死なずに生き続けるとか、発想が壮大で素晴らしい。
不変を望むジーナにアンディが本質は不変だと告げるとか、誰からも認知されなくなってしまった明が何とかして伝えようとして「君に伝われ」を書くとか、否定者の能力の本質を深掘りして強い想いを描き出している所に心打たれた。
不死者故、倫理観がぶっ飛んでおり、デリカシー皆無なアンディのキャラが良い。世の中どんどん上品になっており、恋愛関係も同意を得てから一歩ずつ進めねばならなくなっている。それ自体は良いことなのだが、フィクションとしては上品で常識的なキャラばかりではつまらない。アンディの破天荒なキャラは本作の物語を力強く駆動し、展開を予測不能なものにしている。
一方で、本作にはいまいち納得いかない部分も多い。最大のものはジーナの下り。その後に新たなメンバーを探したりしているからなおさらだ。
細かい齟齬は気にせずに、その時々で最高に面白い展開を追及している昔ながらの週刊連載漫画という印象だ。
8)杖と剣のウィストリア(原作:大森藤ノ、監督:吉原達矢、アニメーション制作:アクタス)
ダンまちの大森藤ノ先生原作のファンタジー。
強敵相手に大剣を振るうシオンのアクションが圧巻。そこに被せられるワークナー先生の「確かに彼は一切の魔法が使えない。しかし彼はこの魔法世界の中で唯一の戦士」という解説が最高に格好良く、テンション爆上がりになった。
「魔法世界で魔法が使えない」というのはマッシュルなど良くある設定だが、そいつを世界唯一の戦士にすることで最高に格好良くなっている。
圧倒的劣位の主人公が、知恵と勇気で強大ないけ好かない奴を叩きのめす展開が爽快。同時に、いけ好かない奴にも彼らなりのコンプレックスがあり、それを克服するため努力していることが描かれ、キャラに深みがある。
特に11話「臆病者の真名」は激熱展開で鬼滅の刃の「ヒノカミ神楽」に迫る神回だった。未見の人は11話だけでも見てほしい。
「ドワーフの豆は不毛の大地でなお育てられた知恵の結晶だ。ドワーフの汗は過酷な環境でなお働く熱誠の証だ。決して嘲笑されるべきものじゃない」とか「どんなに怯えても、どんなに情けなくても逃げることを怖がるただの臆病者。人はそれを勇気と呼ぶの!」とか決めのセリフがめちゃくちゃ格好良くてしびれた。
9)ケンガンアシュラ Season2(原作:サンドロビッチ・ヤバ子、だろめおん、監督:岸誠二、アニメーション制作:LARX ENTERTAINMENT)
企業同士が利権をかけて闘技者を戦わせる拳願絶命トーナメントを描くアニメの2期。
本作の魅力はアドレナリンがドバドバ出る熱い肉弾戦でありながら、詰将棋のように理詰めで相手を追い込んでいく戦いでもある所。必殺技を繰り出す格闘家に対し、相手が対抗策を出してきて、さらにそれに対する対抗策を出してという攻防がロジカルに語られ、勝因にも合理的理由があるのでなるほどと唸らされる。
対戦カードもユリウスvs若槻のようなパワー対決から、刹那vs黒木のような技の対決、果ては武器ありバトルみたいな荒唐無稽な対決までバラエティに富んでいて飽きさせない。
一番面白かったのはやはり二回戦最終仕合"滅堂の牙"加納アギトvs"タイの闘神"ガオラン。アギトがパンチ以外の蹴りやひじうちを放とうとするとガオランにパンチを決められてしまうため、ボクシングスタイルを強いられるという展開はケレン味があって痺れた。それに対するパンチをかわすのではなく、打ち終わりや打つ前に掴んで止めるという対抗策は、実際に原作者が組み手をやって描いているだけあって、圧倒的リアリティがあって面白い。
本作はトーナメントの全ての戦いを描いているため、主人公以外のバトルが大半となっており、どちらが勝つか分からない。さらに文字通りの必殺技を放つ格闘家も多数登場し、魅力的なキャラが死んでしまうのではないかとハラハラさせられた。
10)転生貴族、鑑定スキルで成り上がる(原作:未来人A、監督:加戸誉夫、アニメーション制作:studio MOTHER)
領主の息子に転生した現代人が、他人の能力が分かる鑑定スキルを使って有能な人材を集めていくというファンタジー。本人が強大な力で無双するのではなく、鑑定スキルで有能な人材を集めるというのはユニーク。
鑑定スキルはチートではあるのだが、アルスは地方の小領主なので、コツコツ武功を積み重ねて出世していく所にリアリティがある。
特に切れ者なロルト城城主ジャンとの攻防戦は大ピンチの連続で、手に汗を握った。味方の妻を人質にとって死ぬまで戦わせる冷酷なジャンと、敵の将すら思いやるアルス。二人の対比が鮮やかだ。
アルスが戦死者の家族に向けて大量の手紙を書くシーンはちゃんとそれぞれ家族がいて名前もある兵が死んだのだということを逃げずに描いている所に好感を持ったし、アルスは本当に良い領主だなあとしみじみ感じた。アルスの最大の強みは鑑定スキルじゃなくて、仲間のことを思いやれる優しさではないだろうか。
敵方も想いを背負って戦っていることを描いていて、負けても大切なものは捨てずに最後まで戦う姿が格好良い。
特にミレーユの弟トーマスは最後まで忠義を貫いていて格好良かった。
他にも『ダンダダン』、『無職転生』、『時光代理人II』、『俺は全てを【パリイ】する~逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい~』、『私の推しは悪役令嬢』、『怪獣8号』、『マッシュル-MASHLE-』、『鬼滅の刃 柱稽古編』、『<物語>シリーズ オフ&モンスターシーズン』、『俺だけレベルアップな件』、『シャングリラフロンティア』、『姫様"拷問"の時間です』、『魔王2099』、『異修羅』、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』、『ヴァンパイア男子寮』、『最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました』、『疑似ハーレム』、『ぷにるはかわいいスライム』、『百姓貴族 2nd Season』などが面白かった。
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