★★★★:読んでよい
★★★☆:読んでもよい
★★☆☆:読まなくてもよい
★☆☆☆:読まなくてよい
☆☆☆☆:これは何?
デスゲームラノベを10冊読んだ。
『死亡遊戯で飯を食う。』が面白かったのでどこかでガッと読みたかったのと、デスゲームラノベを書くための事前調査を兼ねている。今はキミラノという便利なサイトでジャンルやタグに応じてラノベをレーベル横断検索でき、「#デスゲーム」タグから目についたもの、特に最近出たものやシリーズでないものを中心に10冊読んだ。
kimirano.jpデスゲームはフォーマットが確立されているし根強い人気があるジャンルかと勝手に思っていたが、刊行数ベースで見ると思ったよりは遥かに少ない。デスゲームタグが付いている作品を新しい順にソートすると100冊目が2016年2月発刊なので、年あたりの刊行数はざっくり平均して12~13冊程度。ラブコメタグは同様のソートで100冊目が2024年8月発刊、つまり年あたり500~600冊くらいは出ていることになるので、概算でデスゲームのパイはラブコメの2~3%くらい。
しかもこれでもデスゲームタグはけっこう緩く付けられているようだ。「参加者が密室に集められて謎の司会者によって殺し合いが始まる」という古典的な狭義のデスゲームはほとんどなく、「負けたら死ぬタイプのゲーム」であれば広義のデスゲームとされている。確かに人が死ぬゲームをデスゲームと呼称することに違和感はない。
ふだん日常的にラノベを読んでいるわけではないため、全体的に文章の低質さに対してイラストが極めて高品質になっているギャップが印象的だった。ネットからの書き手の流入に伴って文章のレベルはどんどん落ちる一方、逆にイラストレーターの質と量はSNSの隆盛に伴ってどんどん上がっているのかもしれない。権威の分散と大衆化に伴って文章とイラストの水準が逆方向に動くというのは、何らかの芸術特性を示唆していそうで少し面白い。
補足562:念のため書いておくが、俺はラノベの文章の質が低いこと自体は問題だと思っていないし、文句を言いたいわけでもない(個人的には質が高い方が嬉しいがそれは好みの問題で、書き手や出版側の瑕疵ではない)。文章の質はターゲット層に応じて柔軟に設定すべき要素にすぎず、質が高いからといって商業的に優れるわけでは全くない。読者の高いリテラシーを前提した文章は消費の敷居を上げるだろうし、国語教育を受けていない層が物語を享受するための福祉のセーフティネットとしてラノベという文芸領域が存在するのは文化的にも善いことだと思う。もう少し気が利く記事なら「マス向けに最適化された筆致」のように表現する方が正しいのだが(ここでエアクオート)、それはそれで却ってわかりにくいので今はそのまま書いている。
デスゲームものはネタバレが特に致命的になりやすいジャンルなので積極的にはネタバレを書かないように心がけるが(ラスボスが誰とかデスゲームの真相が何とかは意味もなく書かないようにするが)、自己責任で読んでほしい。
以下、面白かった順。
【王位戦争】――次代の国王の座を王の子たちが奪い合うロイヤルゲーム。
傑物ぞろいの王族が通うロアノーク王立学園に足を踏み入れたのは、奴隷の少女・イヴ。現王と奴隷の間に生まれ、このゲームに巻き込まれた頭脳明晰な才女。そして、彼女を補佐する少年・カイは、国益のために傀儡政権の樹立を狙う敵国のスパイだった。
人間の本質をさらけ出す数々の頭脳戦。候補者同士が《騙し》《謀り》《裏切り》《潰し合う》、このゼロサムゲームの先に待ち受ける揺るぎない真実とは――?
女王になれなければ無惨な死と嘲笑を運命づけられた少女と、彼女を利用しようとするスパイの少年――奇妙な共謀関係にある二人による、命を賭した国奪りゲームが始まる。
面白かった。今回読んだうちで胸を張って明確に薦められるのはこの一冊のみ。この記事のオススメ紹介としての価値はこの一冊で終わるので、プリンセス・ギャンビットだけ覚えて帰ってください。
補足563:以前に100冊近くまとめて読んだときも思ったが、ラノベの当たりレートはだいたい10%くらいだ。つまり無作為にラノベを掴み取りすると10冊に1冊くらいは明確に面白いものがある。dig系の趣味としてこのコスパが良いかどうかは諸説である。
内容は学園を舞台とした王位争奪ゲームで、基本的には負けても王位を剥奪されるだけだが、奴隷出身のヒロインだけは負けたら処刑されるのでデスゲームとして括られている。
この立て付けのラノベとしてはやや意外なことに、いわゆる能力の類は特に設定されていない。代わりに参加者が揃って王族なので政治的なパワーバランスやスキャンダルから攻略の糸口を見つけていくことになり、いつどうやって誰とゲームを成立させるか自体もプレイヤーに任されているためゲーム外の駆け引きも光る。とはいっても皆まだ学生ではあるので、軍事もの・国政ものと名乗るほどその辺りの設定がガチガチに組まれているわけではなく、適度に肩の力を抜いて読める絶妙な温度感がラノベっぽくて好き。
ゲームとゲーム外の駆け引きが根本的に極めて斬新であるというよりは、むしろ既視感のあるフォーマットでやるべきことをきっちりやっているタイプの作品。
「どうやっても無理そうな盤面から奇策できちんと捲る」とか「頭が良いヒロインがきっちり知略で勝つ」みたいな「それはそう」という展開をちゃんとやって程よく期待を裏切ってくれる。一緒に読んだ他の作品がほとんど出来ていなかったせいでちょっと評価が甘くなっている自覚はあり、同じ品質の作品と並べたときに突出するかは疑わしくはあるが、そうはいってもこれが面白いセグメントの作品であることまでは俺の責任で保証できる。
Twitterで人気のスコッティ先生が描くメインヒロインも萌えでよかった。
明確に作中で最も頭が良いキャラとして設定されており、裏表があるというよりは自然体で底が見えず、最初から最後まで一貫して強キャラである格の高さが良い。挿絵ノルマ用の事故って裸を見られるシーンでも「セックスしときます?」みたいな感じなのはそれはそれであざとくて賛否ありそうだが、頬を染めて取り乱すよりは遥かによい。
ヒロインとタッグを組む主人公くんも驚き役ではなくきっちりサポートする有能役の静かなキャラなので読んでいてうざったくない。主人公のスパイ能力が若干便利すぎるきらいもなくはないが、最終的に美味しいところはちゃんとヒロインの頭で持っていくので実働と知略の分担がしっかり出来ていてヨシとしたい。
一巻は一区切りしたところで終わっていてゲーム全体は全然決着していないが、こんなに面白いのに続刊が出ていない! 皆で買って続編を出そう。
オーディションへご参加ください。――生き残った者こそ、次の歌姫です。
トップバズを目指し動画投稿する配信者たち。その中でも己の歌声で人々を魅了する少女たちは、新時代の歌姫を目指し日々新曲をアップしていた。
頂きを求める彼女らは、人気イベント【少女サーカス】の名を掲げる怪しげなオーディションへ挑むことになり――。
より優れたパフォーマンスでPVを稼ぎ、人々の心を掴み生き残ったものが歌姫の座を勝ち取るれる.....そう思っていた。しかしそのオーディションの実態は「本当」の生き残りを賭けたコロシアイで……!?
バーチャルシンガー×デスゲームもの。ぼちぼち面白かった。
芸能系とデスゲームは「生き残りを賭けて戦う」という前提を共有しており、かつ、キラキラ要素とシリアス要素をギャップ込みで混ぜられるので相性が良いことが知られている。一時期、アイドル文脈で似たようなコンテンツが流行っていたような記憶が朧げにある(一番最初に思い出したのは『アイドルデスゲームTV』だが、これはマイナーすぎるかもしれない→■)。
「アバターを使ったバトルロイヤル」という立て付けは令和風の『魔法少女育成計画』とも言える(あちらが刊行された2012年時点ではアバターを利用した芸能活動はほぼ存在しなかった)。美少女キャラクターとしての外見や運動神経や能力を外付けで与えることによって、男性やミドル世代の女性までをも美少女キャラとして扱えるようになり、キャラクターの描画幅が一気に広がるのはいつか『魔法少女育成計画』の感想で指摘した通りだ。
コンセプトを成す二要素のうち、バーチャルシンガー要素はとてもよく書けていた。
やはりアバターを経由した分だけ、アイドルほど強く制約されずに様々なキャラクターの多様なバックグラウンドを描けていたと思う。表面的に華やかなキャラクター設定の裏にそれぞれがそれぞれに抱えている事情や思いがあり、アンチにはアンチなりに譲れない情熱があったり、コピー系フォロワーにもコピーとしての矜持があったりもする。
中でも、作中屈指の意味不明キャラである「たまちゃん」の造形及び挙動は最も賛否が分かれるところだろう。中盤で動機がわからない狂人ムーブをした挙句にそのまま殺害されて退場し、他の人が背景を明かすはずのシーンでも彼女だけは本当に何だったのかわからないまま話が終わってしまう。
とはいえ、その意味のなさ自体を意味のある描写として汲み取る土壌はバーチャルシンガー全般の描写で担保されていると考える。ミステリアスで正体がわからない、キャラを拒絶することでキャラになっているバーチャルアバターというカテゴリは確かに存在するからだ(鳩羽つぐとかが源流付近にいるクラスタ)。バーチャル配信者文脈においてはこういう枠があってもよいという判断を了解できる信頼を作者に築けたので俺はたまちゃん好き。
その一方、デスゲーム要素は非常にイマイチだった。なんか、多分、作者、バーチャルシンガーは好きだけどデスゲームは興味なくない?
優れたキャラ造形に対してデスゲームのギミックや立て付けが場当たり的で適当すぎる。例えば、デスゲームによくある背景として「超自然的なファンタジー要素」と「コングロマリットが絡む社会的な闇」という二つの文脈を欲張って組み込もうとしたせいで本当に訳のわからないことになっている。スーパーファンタジーかスーパーリアルのどっちかにしてほしい。
中でもデスゲーム文脈が振るわない煽りをモロに受けたのが主人公だ。というのも、主人公以外のキャラクターはバーチャルシンガーとしてのバックグラウンドや信条を伴ってデスゲームに参加しているのに対して、主人公だけがそもそもバーチャルシンガーではなくファンであり、デスゲームの異常性を描くための視点人物として用意されたに過ぎない印象を受ける。一応は芸能系の夢があることや家庭環境の悪さなどの背景は提示されるが、それはバーチャルシンガーとしてのモチベーションとは特に関係ないので魅力というか存在意義がない。
更に言えば、キャラクター描写においてデスゲームに対するモチベーションとバーチャルシンガーとしてのモチベーションがあまり噛み合っていないようにも思われる。確かに(主人公以外の)キャラクターたちはバーチャルシンガーとしての上昇志向は一定持っているものの、全員が必ずしもトップオブトップ志向ではない。むしろ他のシンガーに執着していたり、コンビ活動を望んでいたり、わかる人にはわかるニッチ枠でも満足出来たりする多様性が造形の魅力を担保しているのだ。だったら「生き残った一人が歌姫として覇権を握る」というデスゲームのボーナスはバーチャルシンガーとしての目的に合致していない。
また、先ほど書いたようなバーチャルシンガーとしての豊かなバックグラウンドがデスゲームで負けて死亡した直後にのみ語られる、という謎のシステムも力点をデスゲームではなくバーチャルシンガーに持っていってしまう。その順序だと「デスゲームで色々あったけど結局バーチャルシンガーとしてはこういう人だったんだ」という受け取り方一択になってしまい、「こういうバーチャルシンガーがデスゲームで今戦っているんだ」という読み方はどうやってもできない。
一応、バーチャルシンガー要素とデスゲーム要素がとてもよくシナジーしていたシーンが一つだけある。途中でデスゲームの本線から逸れて一瞬だけインプレッション勝負みたいなやつをやるところがそれで、何としてもインプレッションを稼ぎたいキャラたちが不謹慎発言で炎上を起こしたりリプライツリーに動画連投したりインフルエンサーのアカウントを奪取したりと、自分の使える手札を全て使ってなりふり構わないカスみたいな手口で戦うところはめちゃめちゃ面白かった。全部そのくらいネット活動に寄せても良かったのでは?
ところでタイトルが「歌姫編」であるあたり、続刊ではバーチャルシンガー以外のデスゲームが描かれる予定なのだろうか? 続報は出ていないので不明だ。
「参加者に紛れている悪魔を殺すまで、このゲームは終わらない」
アインホルン伯爵家の令嬢ヘルミーナは、幼馴染の侍女のシャルロッテと共に、北方の古城の中で『邪神召喚の儀式』という殺し合いのゲームに巻き込まれてしまう。
城にいる八名の人間の内、二人が“悪魔”となって一晩に一人誰かを殺害する。悪魔でない人間は疑わしい人間を一日一回投票で処刑し、悪魔を全滅させるまで城からは出られない。死が迫るゲームの中で、ヘルミーナはシャルロッテを守るために一心不乱に生き延びようとするが……!?推理と死の輪廻が紡ぐ衝撃必至の人狼系デスゲームファンタジー、ここに開幕!
なかなか面白かった。ハッとするようなアイデアを十分に活かしきっていて好感度が高い作品。
主人公が人狼ゲームで敗北するたびにループして攻略する話だが(人狼も負けたら死ぬゲームなので広義のデスゲーム)、「ループごとに人狼の配役がシャッフルされる」という立て付けが非常に秀逸。それがこのラノベの白眉であり全てでもある。デスゲームものというよりは人狼ものとしてすっきり筋を通してよくできている。
回によってキャラの行動が違うこと自体はループあるあるだが、人狼の配役を絡めることで振る舞いの変化をこの上なくクリアに描けるのは一つの組み合わせ発明だろう(配役によってそもそもの動機や振る舞い自体が強制的に決められるので)。
ループ者である主人公を含めて全員が回によって市民だったり人狼だったりして、異なる役職によって異なるリアクションを取ることで各キャラの様々な善性や悪性が立体的に描ける。例えば最初の回では人狼なので主人公を陥れる性悪ぶりっ子だったメイド少女が、別の回では騎士なのでお人良しぶりと純粋さを発動して懸命に主人公を守ろうとしたりする(でもその回では主人公が人狼なので騎士を殺すのが安定ムーブになってしまい、泣きながら殺すのがめちゃめちゃ良かった!!)。
これは扱いを誤ればキャラの一貫性を失いかねない挑戦的な試みではあるが、設定込みで受け入れ土壌がしっかり作られていたのでブレていない。
具体的には二点あり、一つは途中から「個々の人狼ゲームのクリア」というよりは「全ての人狼ゲームを動かしている黒幕」が探索されることだ。ゲーム体制への疑義が生じること自体はデスゲームものでは定番の進行ではあるが、そのスライドによって主人公がゲーム攻略というよりは各キャラの本質的な人間理解を求めるようになり、複数回の人狼ゲームを貫いて様々な側面を知ろうとすることが物語全体の目的に結びつくようになる。
もう一つは、ループを貫く人間性の追求は実は人狼ゲームの本質の一つでもあることだ。例えば人狼では「こいつそんなに主張強い性格じゃないはずなのにやたら主張するな(人狼なのか?)」という疑念から議論がスタートすることがよくある。そういう「いつもと違くね?」というアノマリ検知的な攻略法は人狼競技勢からはメタ読みとして忌避されることもあるが、カジュアルに遊ぶのであればむしろそういう人間理解こそが面白さであることは疑い得ない。ある人間の振る舞いが怪しいことを検知するためには、逆にその人の本来の振る舞いや人格についてよく知っている必要があるのだ。
どうでもいいがタイトルの「デスループ令嬢」という謎の主語の情報圧縮率がすごい。この七文字に「死亡するたびにループする能力を持つ、たぶん中世っぽい世界観の若い女性主人公」みたいな情報が全部入っている。
高校生名探偵・明髪シンは、様々な世界から送られてきた大罪人たちが覇を争う【監獄界】に、とある依頼のために召喚された。悲劇の聖女・ルーザを助手に従え、シンは『推理』を武器に極悪人たちとの殺し合いに挑む!
最も設定がアバウトだったラノベで、作中でやれることとやれないことのラインが全然わからない。殺し合いに挑む割には探偵主人公が「48の探偵技」とかいう訳わからんスキルを持っており、それでだいたいの状況を何とかできてしまうのでコメディなのかもしれない。いきなり「48の探偵技・その31、『しゃがみ強K』!」とか言って戦うのはナンセンスギャグすぎてちょっと笑ってしまった。
そもそも「『推理』を武器に極悪人たちとの殺し合いに挑む」というあらすじも意味不明なように見えて、しかし読み進めるにつれて「なるほどこれはよく出来たフォーマットかもしれない」と唸らされるところはある。
そもそも舞台となる「監獄界」とは様々な世界から大罪人たちが大量に送られてきた世界であり、推理するまでもなく悪人しかいない。しかも法や倫理が機能していない殺し合い用の異世界なので、殺人を行ったところでそれを隠蔽するモチベーション自体がなく、作中で主人公が事件の真相を推理したりする必要はほぼない。
では主に何を推理するのかと言うと、殺し合う相手の内面なのだ。対戦相手の振る舞いや能力から相手の心の弱さや信条の欺瞞を指摘することでバトルに勝利できるシステムがあり、主人公はそれによって大罪人を打ち破っていくことになる。
確かに、言われてみれば犯人の内面を剔抉することは(フィクションにおける)探偵の業務内容に含まれている。推理ものでは、単に事件の物理的な真相を暴くだけではなく、犯人側の動機も暴くところまで含めて解決の見せ場である。そこで探偵が犯人の内面を看破して何かいい感じのコメントをしてやっつけるのは正当な仕事であり、よりにもよって探偵というキャラクターから事件解決パートを捨てて説教パートだけを拾い、バトルロイヤルというフォーマットに組み込むアクロバティックな立て付けは見事と言うほかない。
序盤に出てくる犯罪者は底が浅い印象も受けるが、チュートリアルが終わった中盤からは色々なバリエーションが出てきてそれなりに可能性を感じるようになってくる。例えばあまりにも自己欺瞞が強すぎて話が通じなかったり、本来は善人寄りであるが故に色々抱える事情があったりもする。
ここに来て「様々な世界から送られてきた大罪人」という謎の異世界転生要素も活きてきて、内面や背景を看破して撃破する敵として現代日本に限らないファンタジーを色々と扱えるのは明確な強みだ。一見すると滅茶苦茶な設定に見えて実は一貫した芯とアイデアがあり、光るところがあるラノベだったと思う。
個人的にかなり残念だった点として、せっかく大罪人のヒロインが結局は典型的な守られ系ヒーラーに落ち着くのはとてもがっかりした。せっかく悪人枠から来ているので多少の邪悪さや強かさが欲しかった!
謎の館に集められた6人の男女。彼らを集めたのは音霧紅刃と名乗る少女。彼女は6人の男女に生死をかけたデスゲームを要求する。一風変わった殺人鬼による皆殺し心理ゲームの幕が開かれるのだが……結末はいかに!?
最も典型的な狭義のデスゲームらしいデスゲーム作品。
六人の主人公陣営が謎の密室に拉致され、一人のシリアルキラー美少女と命を賭けたテーブルゲームを七連続(!)で繰り広げる。しかもカードゲームや密輸ゲームなどちゃんとしたルールがある頭脳系ゲームを七回もやるのでスピード感が凄く、割とすぐ負け確になったりする。
かといってそれは尻切れトンボや手抜きというわけでもなく、各ゲームに対して「読み合いや騙し討ちがあるとしたらここだよね」というポイントをしっかり濃縮して切り出しており、一定の見せ場をきちんと作った上で無駄に引き延ばさないアイデアが詰まっている。その辺が妙に上手いなと思っていたら、元々フリゲ作者が書いたフリゲ原作作品らしくて腑に落ちた。
ただ、ゲームの満足感に対してキャラの描き方は本当に良くなかった。
各キャラの個性として何らかの異常性が設定されていること自体はいいのだが、地の文で「普通はこうだけどこれは異常なのだ、ここがすごく異常なのだ」ということを直接長々と書いてしまうのが非常に上手くない。割と頻繁に挿入される回想エピソードですらも常にその調子で「このシーンでは普通はこうするけど、こいつは異常なのでこういう異常なことをするのだ」というのをもう全部書いてしまう。元々小説出身ではなくフリゲ作者だからか? というのは流石に穿ちすぎかもしれないが、一応小説という立て付けで出している以上、設定資料集ではなくお話を読ませてほしいと願う。
とはいえ、キャラクターに付与された尖った個性自体はデスゲーム全体を貫くギミックにも上手く貢献しているし、ギミックにも使う以上は強調したかった気持ちはわからないでもない。何も印象に残らないキャラが配置されているよりは余程よく、ただ描き方だけの問題ではある。ところで真相とエンディングが噛み合っていない気がするのは狙ってやっているのだろうか?
臥宮生斗は、三年前に結んだ『契約』の代償として何度も死のリセットを繰り返し不死身の身体を持つ、平凡な高校生。
いつもと変わらぬ放課後、その子は突然現れた。
「彩夢咲レオナです。わたしのために、死んでくれますか?」
両親を早くに亡くし、幼いながらも暗殺を生業とした一族の当主となったその少女は、先祖の代から続く『呪い』によって日常生活に支障が出るほどの殺人衝動に悩まされており「不死身」の生斗に依頼をしたらしいのだが――!?
『契約』によって数奇な運命を辿る二人の、殺し殺され合う禁断のデスゲームラブコメ!
全然面白くなかったけど、しぐれういのイラスト以外にギリギリ一つだけ光るところがあったので★一つで食い下がっている。
具体的には「殺人衝動を持つヒロインがなかなか満たされない」というありがち(?)な課題に対して「デスゲーム作って殺しに至る過程とかをちゃんとやりましょう」と発案して皆で力を合わせてデスゲームを作るというシュールな立て付けは明確に良かった。それがどう進むのかを期待していたのだが、最終的にラブコメ文脈に回収されて肝心のデスゲームが一瞬でクリアされてカスカスだったのでもう言いたいことが何もない。「やります」って読者に約束して期待させたことはちゃんとやってください。
大オチはかなり好き嫌いが分かれそうだが俺は嫌いではなく、なんかそこも含めて実は全体的にゼロ年代っぽさがあるというか、イラストレーターと進行の今風感に反して若干の古さを節々で感じる。ゼロ年代に流行った「殺人衝動」って何だったんですかね?
序盤に万能最強プレイヤー爆誕! これ、デスゲーム成立しなくない?
☆★☆第8回カクヨムWeb小説コンテスト・エンタメ総合部門《大賞》☆★☆
ゲームオーバーは現実の“死”。運営の暴走により、フルダイブRPG『Life is Adventure』は、10万人規模のデスゲームへ豹変した。
アラサー美少女・山本凜花は運命を呪い、絶望――してなかった!?
「強制的な長期休暇! せっかくならクリアは焦らず楽しみたいよね!」
そんな山本さんが手にした謎のユニークスキル《バランス》。【火魔術Lv5を習得しました】
《バランス》が発動。
バランスをとって、全属性の魔術を習得します
【水魔術Lv5,風魔術Lv5,土魔術Lv5,光魔術Lv5,闇魔術Lv5を習得しました】本人の意向を無視して、ステータスや所持金を勝手に上げるチートスキルのせいで、序盤にして化け物級プレイヤーが爆誕!
……これ、デスゲーム成立するの? まあ気にせず楽しめばいいか!これは、デスゲーム世界でもたくましくエンジョイ&無自覚に無双する山本さんのお話。
全然面白くなかったが、それは俺の感性が時代遅れなのかもしれないと不安になってくる一作。今はこういうのが面白いのか?
全体的にプロットという概念がなく、目的も意図もないイベントがダラダラと無限に起き続ける。一応デスゲームということになっているが、それも雑にSAOの設定を借りてきただけで別になくてもいい(なんかVRMMOゲームから出られなくなってVR内で死んだら本体も死ぬ状態のやつになってる)。VRMMO自体そこまでシビアではなく、強い悪意を持つ人も特にいないので実質的にはスローライフに近いまである。
遊びでログインしているだけの主人公には目的らしい目的がそもそもなく、どうでもいいエピソードが無限に続くだけでなんだこれはと思っていたのだが、恐らくこれは小説というよりはゲーム実況として楽しむのが正解なのだろう。合目的的に全体を貫くプロットの力学があるわけではなく、むしろ偶発的に起きるイベントに対して実況者のレスポンスを楽しむコンテンツ。そう思うと、主人公は感情豊かで様々なイベントに対してきちんとレスポンスを返すし、イベントや世界のディテールそのものは手を抜かずにきちんと描かれている。実況のテキスト化と思えば多少は楽しんで読めるようになった、そういう新たな視点を与えてくれて成長出来たことには感謝する。
【バランス】という微妙なチート能力も実況を描くという目的に照らしてはベストなのかもしれない。
能力が多岐に渡るので説明が難しいが、漠然と数値的なバランスを取るという能力で、一つスキルを上げると関連スキルが全部上がったり、ドロップの個数を揃えるためにレアアイテムが大量に入手出来たりする。なんかデータベースを更新するクエリ周りの実装をミスっていそうな嫌なリアリティのある能力だ(そういえば昔いたソシャゲ会社でこんな感じのアイテム過剰供給バグが出てエンジニアが一生懸命ロールバック対応してた)。
ただ成長効率がかなり良いというだけで神的に強いというほどでもなく、出来ることと出来ないことはある。何より、一点豪華なチート能力というよりはむしろ逆で満遍なく全てのステが上がるだけの能力なので主人公のオリジナリティとかなくない?と思っていたのだが、ただ実況のテキスト化ということであればかなり納得できる。それなりにイベントに相対してリアクションしたいのであればあまり独特で強すぎるのも困るし、「バランスを取る能力で逆にゲームバランスが崩壊する」という一発ギャグ以上の合理性も多少は見えてくる。
唯一明確に輝いていた点として、主人公のアバター設定があまりにも気持ち悪すぎて良かった(これは褒め言葉です)。そもそもアラサー美少女(?)主人公があまりにも顔が良すぎて昔いじめられて引きこもっていたというだけでなかなか強力な設定だが(いじめられてたところだけ本当なんだろ?)、「VRアバターの顔部分だけは色々あって主人公のリアルの顔をそのまま使っていて、でも美少女すぎてゲーム内でもいつも美少女呼ばわりされてる」という有り得なさすぎる最強設定にめっちゃ笑ってしまった。女主人公はどんだけ美少女でも構わないからな。
要するに。デスゲームなんて始まる前に解決しちまえばいいんだよ。
「──俺の名前はジェノサイド江戸川。探偵さ」
……名前が意味不明だって? 同感だ。俺にも訳が分からない。
SNSで活動する名探偵の俺、本名・横溝碧は妹に生活費を使い込まれて困窮。
仕方なく大企業主催の脱出ゲームで賞金を稼ぐことにした。
ところがそれは、社会の裏で開催されているデスゲームだった訳だ。
そして命と大金を賭けた殺し合いが幕を開け――る予定だったらしいが、
俺が参加しているのが運営の運尽きだ。
殺し合いを始まる前に秒で終わらせ、俺はデスゲーム司会の少女、姫野心音を手錠で俺と繋いで人質に取る。
さらにルールの穴を突いて、全てのプレイヤーが生存してのゲームクリアを目指したんだ。
だが、そんなやりたい放題をしていたら、デスゲーム主宰の黒幕に目を付けられてだな。
徐々に運営は、手段を選ばず問答無用で俺を殺そうとしてきやがった。
まぁ俺を殺そうなんざ、やれるものならやってみてほしい。デスゲームという事件で、名探偵が負ける訳ないだろ?
デスゲーム×探偵ものという立て付けだが、全ての課題を主人公の直感と妹のハッキングで一発クリアするだけの話でどこに面白い可能性があるのかがよくわからない。容姿の良いいじめられっ子を救ってよかったねみたいな初期禁書目録的なポルノが未だに有効であることを知れたのは一つの知見かもしれない。可愛い不幸な女の子を救うのは気持ちいいからね。
ところで「少年探偵主人公がデスゲームに参加する」「敵方の少女を相方ポジションにする」「探偵と言いつつ推理はしない」あたりの立て付けが『名探偵は推理で殺す』と完全に同じだ。(読んでないけど)『たんもし』とかもあったし、最近は探偵ものが流行っているのだろうか?
平凡なニート長谷川亮が目を覚ますと、そこは現実そっくりな恋愛ゲームの世界だった。ゲームの世界から脱出するには、危ない女達を攻略するしかないらしい……。時間を巻き戻す【セーブ】&【ロード】と不思議な効果を発揮する【アイテム】を駆使し、攻略に乗り出す長谷川。だが、彼が巻き込まれたのは、ヒロインを攻略するだけではない”命がけ”のゲームだった!? 異色のクライムサスペンスが文庫判で奇跡の復活! 今回新たに書き下ろした特別番外編も収録!
今回読んだ中で最も文章の質が低かった。冒頭にも書いた通り俺はライトノベルは福祉の側面もあると思っているので格調高い文章を書けとは全く思っていないが、それにしたって限度はある。頻繁に句点が落ちたりただ単に日本語の意味や係り受けが誤ったりするのは許容限界を超えている。編集者、仕事してください。
話も全然面白くなかった。悪女を攻略すること、伴って悪女のバリエーションがウリなのはわかるが、部屋から出ずに考えた思いつきみたいなものが並んでいるだけで薄っぺらくて魅力がない。日本を牛耳る政治家とか臓器売買とか、別にそれがダメだとは言わないけどそれだけで戦うのはちょっと無理なので、せめてそれでしかできない面白いことをしてほしい。
唯一ギリギリ「おっ」と思ったのはメインヒロインが日和らずにどこまでもカスであること。同級生を飛び降りさせようとしたり、暇すぎてレイプされようとしたり、なんか意味もなく足コキしてきたり、トンチキぶりに妥協がないのは良かった。現状はカストリ雑誌のエロコミくらいのものにしか見えないが、そこで突き抜ければ独自の面白さが見えてくるのかもしれない。
これは革新的で刺激的なデスゲームを運営する会社勤務のエース中間管理職・黒崎鋭司が、上司の無茶ぶり、部下の期待に応え続ける立身出世伝であり、愛する家族(主に娘)を守るための愛と涙のデスマーチなのである!
いくらなんでも児童書すぎる。ラノベは中高生のものだから大人の読み物である必要は全くないが、それにしたって限度はある。デスゲーム運営側を描くこと自体新しくもなく、独自に優れていた点もない。
補足564:Twitterで教えてもらったのだが、俺が時代認識を若干誤っていてこの作品の初出は2016年だったらしい。確かにその年度ならば一定斬新だったかもしれない。失礼しました。
デスゲームをコメディとして描くことでギャップを狙うコンテンツは他にもいくつかあるが、そのギャップに起因する課題を全くクリアできていない(この辺りは同路線の漫画『次回のデスゲームにご期待ください!!』も同じ問題を抱えている)。というのは、単に「デスゲームは人が死ぬので笑い話ではない」ということを何とか笑い話にするためのギミックが存在せず、そこがただ単に不協和を起こして理解し難い設定になってしまっている。
シリアス作品ではないので死生観とか社会状況のエクスキューズがあってほしいとまでは言わないが、せめて矛盾しないところまでは何とか頑張ってほしい。背景設定に矛盾があるということは主人公の置かれている立場が理解できないということでもあって、色々な振る舞いがどうしてそのようになるのかや、彼がどんなキャラクターなのかがさっぱりわからなくなってしまうのだ。
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