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「入門講義 アニミズム」奥野克巳著〜動物も川も人間も平等なのです

 ものすごく納得できる。

 

「入門講義 アニミズム 動物も川も人間も平等という知恵

奥野克巳 平凡社新書

 

 なんだかほっとする本だ。

 奥野先生の本を読むのは、これで2冊目。1冊目は「ひっくり返す人類学」(ちくまプリマー新書)。

 

 急速に様々なことが変化し、破壊されつつある地球。

 便利になって、清潔になって、医療も進歩して充実し、たとえばたった30年前よりもずっと暮らしやすくなっている反面、失われつつあるものが確かにある、と言わざるを得ない現実がある。

 そのなかには、人間の不親切さ、というものもあるように私は感じている。寛容や多様性が叫ばれているなか、時代は変わったと誰もが言うが、近年は分断や排斥という感情がにわかに大きくなっているのは確かだ。というか、属性に対する差別、偏見、憎悪は、これまでこっそり維持し続けていた人々にとっては、それを声高に言うことができるまたとないチャンスに恵まれた状況になっている、と言ったほうが正しいのかもしれないが。

 

 格差は広がり、マウント合戦は続き、人々は生きるのに精一杯で、他人のことまで考えちゃいられない、というのが本音ではないか。いや、精一杯というよりも、格差社会のなかでの庶民たちは一様に、不満を抱えている。

 だれだってもっと心安らかに生きたい。そうじゃない人もたまにいるかもしれない。好戦的な人もいて、他人をやり込めたり、自身が優越感を得たりすることに生きがいを感じる人もいるかもしれない。が、人間という存在は、本来的には、平穏に暮らしたいと思っているはずだ。

 

 どうしてこんなにギスギスしているのか、どうして権力者や金持ちは傲慢なのか。それは、この本を読むとよく分かる。

 この本の執筆の思惑とは違う感想を私は抱いているかもしれない。けれども、この本を読むと、平等で公平な社会というものが、どういった思想や行動のもとに実現できるのかが見えてくる。

 

 きっと難しいことなんだろう。人間というのは、放っておくとどうしても欲望を抑えられなくなる生き物のようだから。所有という欲望、支配という欲望。コントロールしたい欲求。

 コントロールと言えば、人類は自然を支配しようとしてきた。でもそれは違う。自然と調和して生きていくのが本来の姿。

 人間中心主義、人間がいちばん偉い、植物も動物も人間を生かすためだけに存在している。大地や樹木、山、川、海…、あらゆるものが人間のためにある。だから、堀り続け、掘り尽くし、切り倒し、汚しまくっても平気。これまでにも、先住民と言われる人たちが声をあげ、一部の学者らは警告を発してきた。

 ようやくここへきて、気候危機の実態に直面し、SDGsなどと国や世界は喧伝してはいるが、氷が溶けても、大洪水が起きても、山が燃え盛っても、コロナパンデミックが起きても、結局、人は反省しない。そして科学の力で解決できる未来が必ずやってくる、などと思い上がっている。放射性物質を無害にすることはいまだにできていない。

 

SDGsとは「持続可能な開発目標」のことです。開発の主体は人間であり、17の目標は人間の価値観の下に設定されています。「人間だけが地球の主人ではない」ではなく、「人間は地球の良き主人であるべきだ」が、筆者の観点からは、SDGsの本質だということができます。

(P32)

「SDGsの本質」というよりも、この本を読んだあとでは「SDGsの“正体”」と私は言いたい。

 斎藤幸平は『SDGsはまさに現代版「大衆のアヘン」である』と、世界的ベストセラー『人新世の「資本論」』のなかで書いている(詳細は本をお読みください)。

 奥野も斎藤も、言わんとする思想の根底にあるものは同じだと思う。

 

アミニストたちは、人間と他者を区別せずに生きているのです。

(…)私たちが忘れかけてしまっているアニミズムは、大きく転換する時代社会のなかでこそ、思い出され、ヒントにされるべき、もうひとつの大切な世界観ではないか、と考えているのです。

(P32〜33)

 この本のタイトルにある「アニミズム」。著者は、この地球の危機的状況に暮らしている私たちがアニミズムに立ち戻ることを静かに訴えかける。

 すなわち「アニミズム」は、「人間だけが地球の主人ではない」というほうの世界観だ。

 

「アニミズム」は、一神教ではなく多神教のなかで暮らしてきた日本人にとっては、馴染みやすい感覚だと思う。八百万の神々などとも言ったりする。さまざまな自然に神が宿っていると考えてきた民族だ。

 だが、「アニミズム」は宗教ではない。先住民たちの原初的信仰でもない。私自身、この本によって、そのことをはじめて理解することができた次第である。

 

 私たちが人格を与えるのは、動植物だけではない。ぬいぐるみや機械にも与える。すなわち、名前をつけたり、呼びかけたり、話しかけたりするのがそうだ。

 どうぶつの森や、ポケモン、スーパーマリオなどのゲームからアンパンマン、ジブリアニメに至るまで、さまざまなところで、私たちはアニミズムを体感している。

 

 余談になるが、機械の話を読んでいて、私のなかにふと思い浮かんできたことがあった。「自動車」である。

 運転免許を取得するために教習所に通っていたとき、教官から「調子はどうですか?車に慣れてきましたか?」と尋ねられて、「まだです。もうちょっと車と自分が一体になれるといいのですが」と返答したのだった。そのとき私は、自分と車の一体感がほしかった。いや、そうなれる、と確信していたのです。なぜか分からないのですが。これも、広い意味でアニミズムではなかったでしょうか。

 

 アニミズムをまた、商売にしようとする曲者たちも現れているようではあるが、そのあたりは、真のアニミズムとそうでないものを見分けていく必要があるのではないか、と私は思わせていただきました。

 

 自由と成長を目指し、そのためには競争や戦いも必要だとする価値観のために、私たちは「自分自身を縛り、ガマンし、さまざなことを犠牲にしている」。

現代社会を生きていくには、必要な価値観なのかもしれません。しかし、そんなことをしなくても、幸せに暮らしているプナンのような人たちが、現に地球上に存在しているのです。

(P176)

 プナンとは、ボルネオ島に居住している先住狩猟民です。

 

 なんとなく、以下の新聞記事が私の心を過った。 

 2025年10〜11月、現代社会について批判的な分析を行う研究者ナンシー・フレイザーが東京大学で授業を行った。斎藤幸平と國分功一郎が招聘した。

 フレイザーの授業は「共食い資本主義」についてだった。

ジェンダー格差、エコロジー危機、そして人種差別と結びついた植民地支配なしには、資本主義は成立しなかったのだ、と。だが、資本主義の暴走は、最終的に、自らの再生産条件を切り崩す。それが「共食い」だというわけである。

(連載「斎藤幸平の分岐点、その先へ」 毎日新聞2025年12月1日

『「共食い資本主義」 フレイザー氏との対話 衰えぬ批判的精神に刺激』より)

 すばらしい研究者がいるのですね。すでに2025年の時点で78歳。「80歳近くになっても、批判的精神を持って精力的に活動されている姿に、自分も年をとってもこうありたいという刺激をもらった」と斎藤は言う。しかし、

残念ながら、私が唱える脱成長の必要性については同意してもらえなかった。彼女によれば、貧困や格差を打破するためには、もっと多くの成長も必要になる。むしろ重要なのは、成長の質的な転換ではないか、と言う。

脱成長はすべての収縮を求めるものではなく、民主的な持続可能経済への転換だと私は説明したが、議論は平行線であった。説得は今後の課題としたい。

(同上)

 直接的に「アニミズム」と関連する話題ではない。しかし、要するに、こういうことなのではないか、と漠然と思った。

 こういうことというのは「貧困や格差を打破するためには、もっと多くの成長も必要になる。むしろ重要なのは、成長の質的な転換ではないか」ではなく、「脱成長はすべての収縮を求めるものではなく、民主的な持続可能経済への転換だ」である。

 

 日本の海岸線にある高々とそびえ立つ防潮堤、ヴェネツィアの「モーゼ」という名称の可動式防潮堤。それらを見るとき、海も川も動植物もコントロールできるとする「人間中心主義」の姿だな、と思ってしまうのである。

 

「アニミズム」、自然とともに、地球のすべてとともに生きていくとき、「人にはどれほどの土地がいる」(トルストイ)のだろう…。

「入門講義 アニミズム」 ©2025kinirobotti

「ひっくり返す人類学」(奥野克巳著)を合わせて読むと、理解が進み、深まると思います。

 

 私も感想書いてます。よかったらどうぞ

 ↓

risakoyu.hatenablog.com

 

 

 

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