とてもほっこりする映画だった。
「梅切らぬバカ」2021年日本
監督・脚本/和島香太郎
出演/加賀まりこ 塚地武雅 渡辺いっけい 森口瑤子 斎藤汰鷹 他
興味深く観ることができたが、ちょっと物足りなかった。上映時間も77分と短い、ということもあるだろう。
加えて、物事が劇的に動いたりしない。ひどい悪も、大きな善もない。いや、そこはいいんです。私は、そういう静かなドラマは好きなので。では、なにが物足りなかったのか…。それを今から書きます。
ちゅうさんこと忠男(塚地武雅)は、自閉症。49歳。年老いた母・珠子(加賀まりこ)と二人暮らし。
前庭で、ちゅうさんが珠子に髪の毛を切ってもらっている。そこへ里村という3人家族が隣に引っ越してくる。そこからドラマははじまる。
そして、ちゅうさんの家の庭の梅の木。枝が路地に張り出しており、そこを通らないと自宅へ入れない里村家にとっては邪魔な存在。
映画のタイトル「梅切らぬバカ」は「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざから来ている。
桜は、枝を切ると木が弱ることが多いので、なるべく切らない方がよい。梅は逆で、むしろ手を入れないとむだな枝が繁って樹形や花のつきが悪くなるので剪定した方がよい。木の種類によってそれぞれ性質がちがうことを知ったうえで手入れしなくてはならない。
(コトバンク)
すなわち、人間も同じだということで、この映画にはこのタイトルが付けられたのだろう。人ぞれぞれ、個性に合わせた育て方がある、ということ。
まさに、ちゅうさんは自閉症。ちゅうさんといっしょに働く人々も、ちゅうさんがいったん入所したホームの面々も、知的障がいはみなさまざまでそれぞれに個性が違う。いわゆる健常者と言われる人々とも違うし、またその健常者たちだってそれぞれで、同じ人はひとりもいない。
どんな人もみ〜んな違うんだよね。
例えば、野球の選手だって、自分に合ったトレーニングをしなければ、伸びるものも伸びなくなってしまうだろう。そういうことだ。
なのに、日本の教育は画一的だ。幼稚園や小学校で芽を摘まれてしまった人の数は果てしない。
当初は訝しげな態度だった里村家の人々だったが、小学生の息子・草太(斎藤汰鷹)と母(森口瑤子)は、次第に珠子とちゅうさんに打ち解けていく。嫌な奴キャラっぽく登場した父親(渡辺いっけい)が、ちゅうさんを通して良い人に変化していく(もともと良い人だったのかも)のも、ストレスなく観ることができて良かった。
梅の木は、ちゅうさんにとってどんな意味があるのだろう。ちゅうさんの父親が植えたということだが。いよいよ枝を切ろうとすると、ちゅうさんの様子がおかしくなる。ゆえに、枝はそのままになる。
珠子は自分と息子の年齢のことを考えて、ちゅうさんをホームに入れることにした。
そのとき、ひとつだけ事件が起きる。
草太が夜、ちゅうさんを乗馬クラブへ連れていく。ちゅうさんが馬好きなことを知っていたのだ。そこでポニーを連れ出して二人で遊んでいると、厩務員に見つかってしまう。草太はちゅうさんがその場を動こうとしないので、ひとりで逃げてしまった。そのポニーに道端で出くわした自治会長の女性が腰を痛めてしまう。
住宅街につくられたホームは、もともと近隣住民との折り合いがうまくいっていなかった。ポニー事件で苦情と抗議運動は激しくなってしまう。
そして、ちゅうさんは実家へ戻って来る。
草太は両親に事実を打ち明け、3人は珠子とちゅうさんに謝罪にいく。里村家とちゅうさん、珠子で楽しい食事会となる。
そこで、ホームが移転を迫られているという話題になる。草太の父親が「ここにホームを建てちゃえば」と、珠子に酔っ払いながらすすめた。
翌朝「本当に建てちゃうわよ」と珠子が言うと、草太の父親はポカンとしている。酔っ払っていたので、何も覚えていないのだ。「冗談よ」と珠子は言う。
草太の母親がベランダに布団を干して、ちゅうさんと草太と草太の父親は朝のゴミ出しをする。草太の父が「ちゅうさんこれは?」とゴミの分別方法を尋ねる。
ちゅうさんが乗馬クラブの前の通る。
珠子が梅の木を眺めている。何かを決意したような様子で家のなかへ入る。
家と路地が画面いっぱいに映り、そこで唐突に物語は終わる。
え?終わり?この先どうなるの?
ゆえに、物足りなさを感じてしまった。もうちょっと観ていたかった。
続きを観たい。
それだけ良い映画だったのだ。
乗馬クラブの経営者である今井奈津子(高島礼子)が、最後までちゅうさんを警戒しているのが、ちょっと解せなかった。以前からちゅうさんは乗馬クラブの前を通ると馬をじっと見たりしていた。馬が好きなちゅうさんを理解してあげることができないのだろうか。馬を扱う仕事をしているなら、ホースセラピーを知らないはずもなく。そのあたりも、もう少し描いてほしかった。
珠子が、梅の木を眺めながら何かを決心したようだったのは、ホームのことだったのかな。そこも見たかったけど、それは野暮なのかな。
でも、なんだかほんとに、ずぅ〜と観ていたい映画だった。

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