リスキリング完全ガイド 基礎知識から補助金、学び方まで丸わかり
知っておきたいリスキリング
リスキリングについて基本から知りたい方に向けたガイドページです。言葉の意味から学び方、補助金などの公的制度、リスキリングの経験談、企業事例まで、まるっと紹介します。それぞれの項目について深く知りたい方は、NIKKEIリスキリングの関連記事をご覧ください。
・リスキリングとは?
・リスキリングの目的
・リスキリングをする上での注意点
・リスキリングの必要性
・AIとリスキリングの関係
・リスキリングのメリット・デメリット
・リスキリングとリカレントの違い
・政府のリスキリング支援の取り組み
・リスキリングの補助金・助成金
・全国自治体のリスキリング情報
・年代別のリスキリング方法
・女性におすすめのリスキリング
・実際にどう学ぶ?リスキリングの始め方 おすすめの資格や分野も紹介
・リスキリングに成功した個人の経験談
・リスキリングに失敗しないための注意点
・社員のリスキリングに取り組む企業事例
リスキリングとは?
リスキリングとは新しい職種や業務に必要とされるスキルを身に着けることを指す。デジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)などの台頭を背景に、職業の新陳代謝や仕事の進め方が激変しており、ビジネスパーソンにとってはその変化に適応するためのスキル習得が求められている。組織、特に企業にとっても戦略上のリスキリングの優先順位は上がっている。高付加価値経営を推進するには、新事業創出や生産性向上を担う人材をリスキリングで育てることが不可欠となっている。
リスキリングの目的
デジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)など、技術革新の進展に伴い変化している業務上のスキルを習得するのがリスキリングの目的だ。ビジネスパーソンにとっては、スキルを更新することで「技術的失業」を回避し、いまの職場での成果向上や新しい職種への転換といったキャリアアップにつなげる手段となる。産業構造の変化への対応を急ぐ企業にとり、人材のリスキリングは喫緊の課題だ。業務改革を通じた生産性向上はもとより、戦略転換や新分野開拓を担う人材を確保することが、企業にとってのリスキリングの目的とされる。
リスキリングをする上での注意点
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や人工知能(AI)など新たな技術の台頭により注目が急速に高まった、業務で必要とする新たな知識やスキルを学び直すリスキリング。企業・個人ともに対応が必須のものとなり、多様な学びの手法がある一方で、闇雲に取り組むだけではかえってマイナスにもなりかねない。企業の人事や人材開発担当、さらにリスキリングを実践する個々のビジネスパーソンがリスキリングに取り組む際、どんなことに注意すべきなのか。組織としての目的、経営層の理解、業務への落とし込みなどに配慮しながら取り組む必要がある。

リスキリングの必要性
社会がデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応を迫られる中で急速に存在感を高めている「リスキリング(学び直し)」。そもそもなぜ必要とされているのか。その背景には「技術的失業」と「DXに伴うスキルギャップ」がある。「技術的失業」とは、大きなイノベーションの広がりに伴い、旧来の技術やスキルが通用しなくなり、職業そのものがなくなることを指す。その一方、人工知能(AI)をはじめとするデジタル分野を中心に新たな仕事が生み出されつつある。ニーズのなくなったスキルから新しく必要とされるスキルへとアップデートすることが求められている。
AIとリスキリングの関係
ChatGPTなどのAI技術の活用が進む中、従来の仕事をAIに任せることが可能になり、新たなスキルの習得が求められている。世界経済フォーラム(WEF)の「仕事の未来レポート2020」によると、AIの進展により新たな職業が生まれ、従来のスキルでは価値を生み出せなくなる「技術的失業」や「スキルギャップ」が問題となっている。AI時代のリスキリングには、オンライン学習プラットフォームの利用、Kaggleなどでの実務経験の積み重ね、ワークショップやセミナーへの参加、大学や専門学校のコース受講など、様々な方法がある。これらの方法を通じて、AI時代に求められるスキルを身につけ、変化する仕事の形に適応していくことが必要だ。
リスキリングのメリット・デメリット
リスキリングのメリットとデメリットにはどんなものがあるのか。まず企業にとっては、業務効率化や生産性向上、新規事業やイノベーションの創出、DX人材確保、従業員満足度の向上といった効果が見込める。その半面、リスキリングで習得した知識やスキルが生かせるあらたな業務や部署を用意できなかった場合、従業員の離職・転職リスクは高まるだろう。
一方、個人にとっては、キャリアを棚卸しするいい機会になり、新しいスキル習得や高度な業務分野への挑戦に踏み出すきっかけとなる。結果として社内での職位や収入が上がったり、転職によるステップアップという道も開ける。明確な目標を定めないまま手を付けると時間を浪費することになりかねない。
リスキリングとリカレントの違い
リカレント教育とリスキリングとの違いは"学び直しを求める主体"で説明されることが多い。一般的にリカレント教育は、仕事に必要な知識やスキルを得るために、個人が自らのタイミングで一旦仕事を離れて大学などの教育機関で学び直しことを指す。一方、リスキリングはデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略などに基づく人材開発の一環として企業や組織が主体となって学び直しの仕組み自体を構築し、自社内や組織内のビジネスパーソンに学び直しの機会を提供する手法として認識されている。似た言葉として「スキルアップ」と「アンラーニング」とがある。
リスキリングとスキルアップの違い
リスキリングと、能力向上を実現することを意味する「スキルアップ(アップスキリング)」は、学びの内容の面で微妙に差異がある。企業・組織が用意するリスキリングの機会を活用し、新たな業務に就くための新たな知識やスキルを身につけるリスキリングに対し、スキルアップは既存の業務や能力をさらに向上させるニュアンスが強い。
リスキリングとアンラーニングの違い
英語で「忘れる、念頭から払う」を指すアンラーニング(アンラーン)は、転じて「既存の知識・スキルを仕分けて新たなものと入れ替える」「新たな知識・スキルを取り込むために使わなくなったものをあえて捨てる」ための学習方法を意味する。一方リスキリングは新しい知識やスキルを学ぶ方に主眼がある。リスキリング過程、とりわけ取り組む前段階で既存の知識を仕分けて新たな知識を取り入れる場面は多々ある。リスキリングとアンラーニング、いずれの言葉も裏表の関係にあるといえる。
政府のリスキリング支援の取り組み
岸田政権は「人への投資に5年で1兆円」を投入する方針のもと、リスキリングを進める働き手個人や企業への金銭的支援を拡充している。政府は「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を掲げており、リスキリングを促すことによって仕事の選択肢を広げ、成長産業への転職など労働移動する流れを強めようとしている。これまで年功序列の日本型雇用システムのもとで企業が働き手の育成に投資せず、個人も十分に自己啓発をしてこなかった、硬直化した日本企業の状況を変えたい考えだ。個人や企業が活用できるリスキリング支援策について、省庁ごとに紹介する。

経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議の合同会議で発言する岸田首相
経済産業省のリスキリング支援
経済産業省は2023年から「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を本格的に開始した。専門家によるキャリア相談から、リスキリング講座の受講、転職相談や職業紹介までを一体的に実施する事業者に補助を提供している。リスキリング講座にはウェブデザイン、動画制作、プログラミングなどが含まれ、受講費用の一部を助成。また、リスキリング後に転職し、1年間継続して就業している場合は、追加の助成がある。
厚生労働省のリスキリング支援
厚生労働省は、教育訓練給付金と人材開発支援助成金を提供している。教育訓練給付金は、資格取得のための講座や大学・大学院の受講・修了時に、費用の一部が国から支給される制度だ。一方、人材開発支援助成金は企業向けで、従業員に対して新しい知識やスキルを習得させる際の訓練経費や賃金の一部を助成している。
文部科学省のリスキリング支援
文部科学省は、社会人の大学等での学びを応援する「マナパス」というポータルサイトを提供している。このサイトでは、リスキリングに取り組みたい社会人が、大学・専門学校などの講座を条件別に検索できる。また、成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業も行っており、大学や高等専門学校のリカレント教育プログラムを後押ししている。
リスキリングの補助金・助成金
リスキリングにかかる費用を抑えられる補助金や助成金の具体的な内容を、企業向けと個人向けに分けて紹介する。
企業向け
政府はデジタル技術や成長分野のスキル習得を目指す従業員向けの教育支援を強化している。具体的には、「人材開発支援助成金」や「特定求職者雇用開発助成金」など、企業が従業員の教育訓練を実施する際の費用の一部を補助している。これらの支援により、企業はリスキリング講座を提供しやすくなり、従業員は必要なスキルを身につけ、キャリアアップを図ることが可能になり、日本の労働市場におけるスキルマッチングの改善と経済成長の促進が期待されている。
個人向け
働き手個人のリスキリングを促進する具体的な支援策としては、教育訓練給付金やリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業などが挙げられる。これらの制度を利用することで、個人は資格取得やスキルアップのための講座を受講する際の費用負担を大幅に軽減できる。特に教育訓練給付金は幅広い人や講座が対象となっている。また、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業では、キャリア相談から講座の受講、転職相談までを一体的に支援している。
全国自治体のリスキリング情報
政府だけではなく自治体も支援を充実させている。例えば東京都は中小企業に対してDX研修を実施する際の経費を助成しているほか、個人向けには「短期集中型資格取得支援訓練」として資格取得のための講座を提供。近年受験者数が増えている「ITパスポート」の取得を促進する自治体も多い。広島県ではITパスポート取得支援補助金として、企業の従業員がITパスポート試験を受験したり、対策講座を受講したりするための経費の一部を助成している。
年代別のリスキリング方法
ここからは個人がリスキリングを始める上での心構えや方法などを解説していく。リスキリングの進め方はこれまでの仕事経験によっても大きく変わるため、まずは年代ごとにおすすめの方法や心構えを紹介する。
40代のリスキリング
リスキリングはデジタル分野が注目されやすいが、経験を積んだ人ほど「いまさらIT?」と困惑する人が多いのが実情だ。ミドルシニアのキャリアを支援する「ライフシフトラボ」代表の都築辰弥さんによれば、40代以降のビジネスパーソンのリスキリングでは「ゼロから身につける」という固定観念は捨てた方がいいという。重要なのは今持っているスキルをアップデートすること。その実践機会として副業やプロボノなど社外での他流試合経験を積むことをおすすめしている。
50代のリスキリング
50代は一般的な企業の定年である60歳まで10年、65歳までの延長雇用を考慮しても15年を切っている。ビジネスパーソンとしての経験を積んだキャリアの終盤戦の定年も見えてきたこのタイミングで、なぜリスキリングが必要なのか。メリットでは、キャリア・スキルの棚卸しを通じて、社内での就業維持や定年以降の働き方の選択肢を増やすといったことがあげられる。50代が取り組む際の注意点は、過去の成功体験を忘れて、学びとこれまでの経験に共通点を見つけることだろう。ボリュームゾーンである50代にデジタルスキルを実装すれば企業にとっても大きな戦力となる。
女性におすすめのリスキリング
女性には出産をはじめキャリアの中断を余儀なくされるライフイベントが少なくない。リスキリングはそうした中断を乗り越えてキャリアの選択肢を広げる有力な手段となる。今日のビジネス社会のニーズを見ていくと、おすすめできるリスキリング分野として6つの分野を挙げることができる。①IT・デジタルスキル②語学③マーケティング・デジタルマーケティング④デザイン・クリエーティブ⑤コンサルティング・コーチ⑥ヘルスケア・ウェルネス――がその6つだ。

いずれも通学型のスクールからオンライン学習サービス、本や参考書まで学習方法が豊富にある。自身の適性に合わせて選択することが肝要だ。興味や学習時間・期間に余裕があれば、複数のスキルを掛け合わせるとより有利な転職や就職につながるだろう。
実際にどう学ぶ?リスキリングの始め方 おすすめの資格や分野も紹介
リスキリングで人気の資格
産業構造の変化に対応する人材が求められる昨今。資格は自身の価値をわかりやすく証明する重要なカードの1つだ。資格を生かせる分野と注目されるのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展で雇用規模が拡大しているIT・デジタル分野、労働規制強化で専門人材の需要が高まっている建設・建築分野、需要と希少性がともに高い経理分野、企業活動のグローバル化に伴う語学分野の4つだ。
IT・デジタル分野は基礎的な国家資格、ITパスポートをはじめ、民間資格のMOS(マイクロソフト・オフィス・スペシャリスト)、Python3エンジニア認定試験など、対象に応じたさまざまな資格がある。経理分野は公認会計士や税理士といった国家資格、日商簿記検定といった民間資格がある。
ITパスポート
人気資格の1つ、ITパスポート(通称「iパス」)は、リスキリングでこれからIT分野に挑む人に役立つ国家資格だ。出題範囲から見ると、①情報セキュリティーに関する知識②情報コンプライアンスに関する知識③ビジネス用語に関する知識④会計・財務やマーケティング戦略など経営全般に関する知識⑤より高度なIT部門に進むための共通的知識――を身に付けることができる。広島県や茨城県、愛媛県など、取得させる企業を支援する自治体もあるほか、学習動画などを無料公開している民間サービスもあるなど、不足感が強いIT人材創出のために取得しやすい環境が整いつつある。
中小企業診断士
リスキリングで注目が高まっている資格の1つが「中小企業診断士」だ。近年では特に中高年の受験者が増えている。中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家で、国家試験があり、合格すると、中小企業支援法と経済産業省令に基づいて経済産業相が登録する。同じく経営に関する専門知識が得られるMBA(経営学修士)と異なり、独学が可能で、仕事をしながら隙間時間を活用して学びたい人や高難易度の筆記試験に向けて地道に黙々と勉強できる人に向いている。中小企業の経営全般に関する知識から、財務・会計、オペレーション・マネジメント、企業法務、政策、情報システムといった幅広い知識を見つけることができる。
オープンバッジ
資格や検定合格、大学でのプログラム受講などを証明するデジタルツールがオープンバッジだ。改ざんできないブロックチェーン技術のもとで発行されるため、高い信頼性があり、SNS(交流サイト)で発信したり、電子履歴書に載せたりして、自分のスキルをアピールすることが可能だ。海外で大きく広がっているほか、データアナリストとしての初歩的な業務に必要なスキルを学ぶことができる「データアナリティクス プロフェッショナル認定証プログラム」の受講を証明するグーグル・キャリア・サーティフィケーツや、名古屋商科大MBA、環境社会検定試験(eco検定)など、日本で取得できるものも年々増加してきていて、リスキリングの広がりを後押ししている。
リスキリングでおすすめのスキル・分野
何を身につけるかあまり見当がつかない場合は、企業から引き合いが強いスキルに着目するといいだろう。企業はDX化に対応しなければならないことからデジタルスキルを持つ人材に対するニーズは強い。ただ、デジタルと言っても情報セキュリティーからプログラミング、データサイエンス、デジタルマーケティングまで幅広い分野があり、それぞれ異なる専門性が必要になる。また、グローバル人材を求める企業も多く、語学は個人の学びで人気の高い分野だ。
プログラミング
プログラミングのスキルは、システムやアプリの開発だけでなく、業務効率化にも役立つ。プログラミングを習得するメリットとして、職域の拡大、業務効率化・自動化の実現、ツールやシステムの活用能力の向上が挙げられる。初心者が独学でプログラミングを学ぶ方法として、eラーニングや動画、入門書の活用、実際の業務での応用がおすすめだ。
デジタルマーケティング
デジタルマーケティングは、インターネットやIT技術を用いたマーケティング手法を学ぶことで、Webサイト運用、アフィリエイト、SEO対策などが含まれる。デジタルマーケティングのリスキリングが人気の背景としては、消費者ニーズの把握の重要性が増したほか、既存職種の知識・スキルと相乗効果が高いことが挙げられる。リスキリング時のポイントとしては、最新トレンドの追跡、実務への適用が重要だ。
リスキリングにおすすめの講座
リスキリングの必要性を感じつつも、具体的にどの講座が良いのか迷っている人には無料講座がまず始めやすいだろう。経済産業省が作った、デジタル知識のリスキリングのためのポータルサイト「マナビDX」では学びたい内容で講座を絞り込めるだけでなく、対象レベルや修了証の有無などで絞り込むことも可能。最近ではオンラインを通じて海外や遠方の教育機関が提供する講座を受講できるMOOC(大規模公開オンライン講座)が注目されており、「gacco」(ガッコ)などが人気だ。

写真はPIXTA
リスキリングにおすすめのeラーニング
リスキリングを目指す人々が直面する「時間がない」「業務の多忙さ」といった課題に対し、隙間時間でできるeラーニングは手軽に始めやすい手段だ。おすすめのeラーニング教材としては、マネー講座からプログラミング入門まで多岐にわたるジャンルがカバーされている「Schoo(スクー)」や、ビジネススキルやIT知識の向上を目指す約6000の講座を無料で提供している「IBM Skills Build」などがある。モチベーションを維持する工夫としては、目的を明確にしたり、学習プランを立てたりすることが有効だ。
リスキリングにおすすめの本
本を活用してリスキリングに取り組むにはまず自身の持つスキルと利用ともギャップを明確にしておく必要がある。その上で関心のある業界のトレンドを踏まえて、個別の本の概略を書店や電子書店で検討するといい。加えて自分の学習スタイルとの相性なども考慮に入れておきたい。「リスキリングとは何か」を総合的に理解するならリスキリングの第一人者ともいわれる後藤宗明氏の『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』がおすすめだ。これから必要になるスキルやその学び方を知るには高橋宣成『デジタルリスキリング入門――時代を超えて学び続けるための戦略と実践』、キャリアのヒントが欲しいならリンダ・グラットン『リデザイン・ワーク 新しい働き方』がいいだろう。
リスキリングに成功した個人の経験談
リスキリングってどんなふうに進めるのか?実践している人がどんなきっかけで、どのような方法で取り組んできたのか具体的なストーリーで見た方がイメージがつくかもしれない。NIKKEIリスキリングの連載「myリスキリングストーリー」から事例を紹介する。
ケース① 小学校教師からインフラエンジニアに転身
一般企業出身の同僚教師と出会ったことで、社会人としての基礎力が不足していると痛感。学校以外の世界で経験を積み直したいと考えていたときに見つけたのが、インフラエンジニアという仕事だった。未知の分野のスキル習得で役立ったのは意外にもアナログな方法。わからない用語や技術は検索や本などで調べて自分なりにノートにまとめて理解を深めた。

ケース② デザイナーからIT企業のCMOにキャリアアップ
ヤプリ執行役員・最高マーケティング責任者(CMO)に就任した松田恵利子さんが社会に出たのは就職氷河期。だが、「チャンスをつかんでどう生かすかは自分次第」と自己投資を惜しまず、デザイン、デジタル、マーケティング、英語、コーチングと連続的なリスキリングを続けてきた。子育て中で時間がない時期でも、マーケティングの知見を得ようと、大学ゼミのような私塾に週1で通った。

ケース③ 営業からグローバルなSEチームのリーダーに
富士通で営業からSEに「社内転職」したケース。同社の社内学習プラットフォームを活用し、プロジェクトマネジメントやAWSなどを学んだ。また、チームには外国人メンバーが多く、英語力アップのためラジオ講座も活用。リーダーの業務として、グローバルなチームをマネジメントするスキルも実践のなかで学んでいる。

リスキリングに失敗しないための注意点
リスキリングでありがちな失敗を見ていくと、主に4つのパターンに分けられる。①モチベーションが続かずに挫折してしまうモチベーション迷子②習得スキルのミスマッチあるいは見積もり不足③学習計画の不備④実践機会の不足――だ。失敗を避けるには、リスキリングの目的、何を学ぶか(スキル)、どう学ぶか(手段)、どのようなスケジュールで達成するか(計画)というステップに分けてそれぞれについて自分の考えを固め、さらに今の職場や転職などで活用するフェーズの目算も立てておくようにしたい。
社員のリスキリングに取り組む企業事例
企業は社員のリスキリングへの投資を増やし、新たなスキルを身につけることで生産性を高めて賃上げにつなげる好循環を目指している。ただ実際には、従来の年功序列型での画一的な研修や人事システムでは柔軟な人材育成に限界があるといった現実がある。先行して社員のリスキリングを推進している企業事例を紹介する。
大企業の事例
大企業はその企業規模を生かし、全社的に学びのプラットフォームや「企業内大学」を充実させている。人事戦略も重要視しており、日立製作所などは、リスキリングで身につけたスキルを生かしやすいジョブ型の人事システムを導入している企業も目立つ。富士通では学習システムをポスティング(応募による社内異動)制度とも連動させている。
地方企業・中小企業の事例
地方企業や中小企業などでは、その企業の方針や理念を反映して独自色の強いリスキリング施策を進めているところが多い。例えばベンチャー「ゆめみ」は、「勉強し放題制度」と銘打ち、社員が書籍やオンラインスクールなどでリスキリングに取り組む場合、原則として会社が費用を全額負担している。
海外企業の事例
国をあげてリスキリングに取り組む欧米では、いち早くリスキリングの必要性を認識し、その投資額も多額だ。AIの普及など長期的な展望のもと、社員が身につけるべきスキルを明確にし、その分野にたけた人材の育成に力を入れている。例えば、通信大手AT&Tはウェブ開発などの分野で社員の学び直しに10億ドルを投じた。
(NIKKEIリスキリング 福家整、水柿武志、安田亜紀代)
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