「なぜ?」が場の空気を変えていく 法大コー総長が考えるAI時代に必要な力
グローバル人材を問い直す
法政大学総長のダイアナ・コーさん
人工知能(AI)、デジタル化、生産性向上……。これらの言葉が社会のあらゆる場面で語られるいま、私たちは「人間にしかできないこと」を当然のように口にしてはいないだろうか。正確さや効率が価値とされた時代から、AIがその役割を担う時代へ――。それでもなお「人間らしさとは何か」と問われるとき、私たちはしばしば曖昧なまま、従来の働き方や習慣を正解として抱え続けてしまう。
この連載「グローバル人材を問い直す」では、法政大学総長のダイアナ・コー氏が、教育・研究、そして国際社会の現場で経験してきたことをもとに、こうした思い込みを一つずつ問い直していく。第2回のテーマは 「問いを立てる力」。AI時代にこそ、人間が発揮すべき根源的な力について再考してみたい。
議論を前へ進める人の条件
AIと共に働く日常が、急速に現実のものになりつつあります。職場では、調べ物も、翻訳も、文献検索も、ひと昔前よりはるかに容易になりました。AIは私たちのタスクを効率化し、時に人間より正確に、速くこなしてしまいます。
では、そんな時代に人間に残された役割とは何でしょうか。
私は、その核心にあるのは 「問いを立てる力」 だと感じています。
日本に来て最初の頃、私は会議でしばしば戸惑いました。こちらが提案すると返ってくるのは「そうですね」という曖昧な返答。私はそれを肯定だと思って議論が深まるのを待っていたのですが、次の議題に移ってしまうことが何度もありました。
「はっきり言ってくれない」という状況では、交渉も共同作業も始まりません。
逆にアメリカにいた頃は、なんでも「No」と言う人がいました。否定することで「自分を強く見せよう」としていたのです。
けれども、どちらも議論には貢献していませんでした。
私が本当に信頼するのは、自分の意見で議論の方向性をつくる人、そして疑問や問いを投げかけ、話を深めていく人です。

「議論に貢献するのは、自分の意見で議論の方向性をつくる人、そして疑問や問いを投げかけ、話を深めていく人」と語るダイアナ・コーさん
問いを立てるとは、前提そのものを疑うこと
良い議論には、必ず「なぜ?」が存在します。私は授業でも国際会議でも、この一言が場の空気を変えていく瞬間を何度も見てきました。
問いとは、単に「分からないこと」を聞き返す行為ではありません。むしろ、物事の成り立ちを掘り起こし、無意識に受け入れている「前提」に光を当てる行為です。
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