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ひたすら頑張るだけでは行き詰まる! 仕事に「練習」を取り入れる効用とは

『「仕事ができるマインドセット」をつくる 練習戦略』 エドゥアルド・ブリセーニョ著

リスキリングbooks

リスキリングの最中、もしくはこれからリスキリングを始めようとする読者の皆さんは、リスキリングを終えて目的の職に就いたら、あとは仕事をこなし成果をあげるべく頑張るだけ、と考えてはいないだろうか。だが、それだけでは早晩行き詰まることになりかねない。

アスリートのことを考えてみてほしい。MLBドジャース大谷翔平選手のようなトップアスリートは、試合と試合の間に何をしているか。そう、「練習」だ。たいていのプロアスリートは、試合以外の時間に練習のルーティンをこなし、そこで新しいことを試し、失敗を繰り返したりする。練習の中で失敗しておくことで、試合本番での失敗を少なくできる。

一方でビジネスパーソンは練習をしているだろうか。日々目の前の仕事に追われ、それどころではないという人、あるいは、ひたすら仕事を頑張れば結果が出ると信じる人も少なくないのではないか。

仕事に練習を取り入れることで、個人や組織が成果を上げ、持続的に成長できる。そうしたマインドセットの醸成と具体的な方法について、事例を豊富に紹介しながら解説するのが本書『「仕事ができるマインドセット」をつくる 練習戦略』(上原裕美子訳)だ。

著者のエドゥアルド・ブリセーニョ氏は国際的なキーノートスピーカー、ファシリテーターで、マインドセット研究の第一人者であるキャロル・ドゥエック氏が提唱する「成長マインドセット」の概念を企業向けに提供する企業「Mindset Works」のCEO(最高経営責任者)を10年にわたり務めた人物だ。

冒頭で触れたリスキリングに関していえば、リスキリングに成功し、それを生かした仕事をしながらも、練習で、さらなるスキルのブラッシュアップや、新しいアイデアの試行をする習慣をつけることが大切であり、本書からそのためのヒントが得られるはずだ。

2つのゾーンのバランスをとる

読者の皆さんにとって、「仕事で頑張る」とはどんなことだろうか? 必要なタスクを効率的にミスなくこなし、納期や締め切りを守る。プレッシャーを感じながらもプレゼンや商談、会議などでベストなパフォーマンスをあげる。それらは必要なことであるし、充実感が得られるかもしれない。だが著者は、個人のそうした考え方や状況を「パフォーマンス中毒」と呼び、避けるべきだとしている。

「つねにすべてのタスクをできる限りミスなくこなし、さらに多くをやり遂げなければならない、と思い込む心境」というのが、著者によるパフォーマンス中毒の定義だ。これに陥ると、ある時点で壁にぶつかるなどで、スキルがなかなか伸びず、閉塞感にとらわれる可能性がある。

パフォーマンス中毒を脱する、あるいは避けるためには、2つの心理状態が必要になるという。「パフォーマンスゾーン」と「ラーニングゾーン」だ。それぞれの心理状態になる場と時間をバランスよく持つことで、パフォーマンス中毒とは無縁でいられる。

パフォーマンスゾーンにいる人は、ベストを尽くして能力を発揮し、ミスを最小限に抑えようとする。つまり、パフォーマンス中毒につながりかねない状態だが、何かを成し遂げるためには有効であり、必要不可欠なゾーンである。

一方のラーニングゾーンとは、「今はまだできないことやわからないことについて問いを立て、実験し、ミスを検証し、調整して、少しずつ優れた結果に向かっていく」ためのゾーンだ。これが先述の「練習」にあたる。定期的にラーニングゾーンに入る習慣をつけることで、仕事に練習を上手に取り入れることができるだろう。

反復練習は効果が薄い

練習というと、野球選手がひたすら素振りを繰り返したりといった「反復練習」を思い浮かべる人が多いかもしれない。だが、ラーニングゾーンでの練習はそうではない。素振りの回数をこなすだけでなく、試合本番での相手の投球を想定して、今までやったことのない振り方を試してみたりする。実験や試行錯誤といった言い方もできるだろう。

著者はラーニングゾーンの基本戦略として、効果的な練習の仕方をいくつか紹介しているが、その中に「ブルドーザー作戦は使わない」というものがある。ブルドーザー作戦とは、前述の野球選手の素振りのような、練習時間のすべてを使ってひとつのタスクだけに没頭することを指す。

長時間、単調なタスクを繰り返しても疲れるだけで、効果は薄い。コンスタントに振り返りの時間を入れ、時に他者からのフィードバックを聴く。また、休息や睡眠の時間をしっかり確保することが大事だという。

具体的な練習方法のひとつとして、動画を研修に取り入れた例も紹介されている。パフォーマンスを録画して、他のスタッフにそれを見せてフィードバックをもらう、といったものだ。個人の練習に取り入れるとすれば、例えば自分のプレゼンなどを録画し、同僚のプレゼンや、ネット動画と見比べ、相違点を探すなどの方法が考えられるのではないか。

本書では、組織として練習をうまく取り入れるための方法も詳しく解説されているが、個人にせよ組織にせよ、大事なのは仕事に長期的視点を取り入れることではないだろうか。がむしゃらに目の前のタスクをこなすのではなく、心に余裕をもって、すぐには成果が出ない新たな挑戦についても考える。そんなマインドセットを培うために、本書を活用してみてはどうだろうか。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
広い視野と創造力を育成する「きっかけ」として、様々な分野から厳選した書籍をダイジェストにして配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を展開している。「リスキリングbooks」は、「SERENDIP」で培った同社ならではの選書力を生かし、リスキリングに役立つ書籍を紹介する。

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