多くの芸人ラジオリスナーが今、頭を悩ませているのが「聴きたい番組が増え過ぎ問題」だ。
TBSラジオでは深夜1時から始まる定番の『JUNK』だけでなく、『空気階段の踊り場』『アルコ&ピースのD.C.GARAGE』『ハライチのターン!』など24時台にも芸人が担当する番組が増え、昨年からはオールナイトニッポンでも24時台の枠が新たにスタートした。さらに、ライブ配信アプリの一般化、ポッドキャストの再ブーム……など、ここにきて音声コンテンツが急激に充実。
ラジオに限らず、映画、海外ドラマ、アニメ、音楽などあらゆるジャンルでサブスクが浸透し切った今、“コンテンツの洪水”と我々はどう向き合えばいいのか──。
革命的な変化をもたらした“radikoの登場”
2022年現在、芸人ラジオリスナーは「聴きたい番組が増え過ぎ問題」に頭を抱えている。玉石混淆なら選びようがあるのだが、困ったことにどの番組もおもしろい。おもしろ過ぎるのだ。
「今週あのフリートークがおもしろかった」「最近あのコーナーが盛り上がっているらしい」なんて情報を耳にすることも多く、毎週月曜日を迎えると、前週の番組を聴き切れてない感覚に襲われる。“自分の知らないところに超おもしろい番組があるんじゃないか感”と、それに伴う“もしかしたら置いていかれているんじゃないか感”が日に日に強まり、どうしたもんかなと困惑するしかない。知り合いのリスナーに話を聞いても一様に苦笑いするばかりで、誰も答えが見つからないようだ。
十年一昔というが、2010年前後はまったく状況が違った。かなり大雑把な言い方になるけれど、都内に住んでいるリスナーが芸人ラジオを追いかけるなら、深夜1時から始まる『JUNK』(TBSラジオ)と『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)をとりあえず押さえておけばよかった。「あんまり興味ないけど試しにほかも聴いてみるか」「ヒマだから芸人と関係ないこの番組でもいいか」なんて時間的余裕もあったのだ。
だが、状況は急速に変わっていく。TBSラジオでは24時台に芸人が担当する番組が多数誕生。オールナイトニッポンも深夜3時台の『オールナイトニッポン0(ZERO)』が2012年に、24時台の『オールナイトニッポンX』が2021年にスタート。中でも芸人枠が着実に増えている。ほかの局、ほかの時間帯にもその波は広がり、芸人ラジオの多様化が急激に進行。今や首都圏の朝にはTBSラジオ、文化放送、InterFMの3局で芸人がしゃべっている曜日があるほどになった。
特に大きな変化がradikoの登場だ。パソコンやスマホで簡単にラジオを聴けるようになったのはもちろん、radikoプレミアムによって地方ローカルの芸人ラジオも選択肢に入るようになり、タイムフリー機能によって、気軽に後追いも、裏番組の聴取も可能になった。ラジオのあり方が一変する革命的な変化だった。
地上波ですでにお腹いっぱいなのに、ここ数年はコロナ禍の影響もあって、さらに状況は変わっている。YouTubeでのラジオ配信、お笑い芸人特化ラジオアプリ「GERA(ゲラ)」の誕生、ライブ配信アプリの一般化、ポッドキャストの再ブームなど音声コンテンツが急激に充実。今年に入って、『オールナイトニッポン』のサブスク『オールナイトニッポンJAM』も始動した。
人間の一生は短か過ぎる、好きな芸人ラジオをすべて聴くには
「ラジオ番組をやりたいけどやれない」という芸人の声をよく耳にしたのはほんの数年前なのに、今や隔世の感がある。最近聴き始めた若いリスナーならば当たり前の状況として受け入れられるかもしれないが、変化の過程を味わってきた身とすると、どう対応していいのかわからないのが素直な心境。いやはや、好きな芸人ラジオをすべて聴くには人間の一生は短か過ぎる。タイムリープが現実に起きないかと考えたくもなる。
9月に発売されたラジオを特集した『芸人雑誌 volume7』を見れば、異例の状況がよくわかる。3種類の表紙パターンが用意されたが、『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0(ZERO)』は一般の人間なら寝静まっている深夜3時開始の番組で、『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』はポッドキャスト配信、『囲碁将棋 情熱スリーポイント』はGERAの番組だ。ひと昔前のラジオ本なら「表紙は地上波の、遅くても深夜1時台の番組じゃないと……」なんて意見が出版社側から出てきそうなものだが、今は違和感がない。
昔のような「興味ないけど聴いてみる」「ヒマだから聴いてみる」なんて余裕はなく、「絶対聴いたらおもしろい」と確信できる番組が週100時間以上も目の前にあり、何もできずに立ち尽くしているような感覚だ。「ラジオを好き過ぎると苦しくなるから、距離を取ったほうがいい」なんて意見も耳にするけれども、おもしろくもない番組を無理して聴いているならいざ知らず、絶対におもしろいに決まっている番組が多過ぎて立ち尽くしているのだから、距離の取りようがない。
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