2018年1月のある日の深夜、脳卒中により左脳の深部血管が破れ、ドス黒い血が脳の3分の1を覆った妻(43歳)の手術は約7時間に及んだ。
その間、設楽完事さん(仮名・50代)は、術前に見せてもらったCT画像を思い出しては、「もう戻ることはないだろうな」と諦めてみたり、「助かってほしい」と願ったり、「妻が望まぬ形ならいっそ助からないでほしい」と考えたりしながら、寒くて狭い控え室で一度も座ることなく、ひたすら歩き回っていた。
「手術が終わりました。医師から説明がありますのでこちらへ」
朝6時頃、看護師に呼ばれ、医師と対面する。
「手術は無事に終わりました。奥様の命も大丈夫です。ただ、まだ分からないですが、重い障害が残ると想定されます」
それを聞いた瞬間、設楽さんは自分でも信じられないほどの喜びが全身から溢れ出すのを感じた。
「助かってよかった。本当によかった。妻が生きている。ただそれだけで良い。早く妻に会って話したい。ここまで本当に苦しくて、どんなに大変だったかを聞かせたい。この時は心からそう思っていました」
看護師に案内され、ICUに向かった。廊下を歩く間、「重い障害が残ると想定されます」という医師の言葉が繰り返し頭に浮かんでいた。
扉が開き、妻と思しき横たわる人を目にした瞬間、設楽さんは絶叫していた。
「一緒に夢見ようと言ったじゃないか! たくさん一緒にやりたい事あったんじゃないのか? 2人でここまで頑張ってきたのに、こんなとこで何やってんだよ? 一緒じゃなきゃ楽しくないんだよ! 一緒じゃなきゃ……。お願いだから、お願いだから頼むよ……」
頭には包帯やガーゼが幾重にも巻かれ、機械から出ている管が、口や鼻、腕など、妻の体の至るところに繋がれていた。
「それは直視することさえ戸惑うほど、私の想像をはるかに超えた残酷な姿だったのです」