茨城県結城市のファームアベタ。中玉トマトを主力におよそ20品種の多品種栽培で、地域に愛されている独自ブランド「ゼッピン娘」を販売する。地元のJA北つくばの直売所やスーパー、庭先販売などで根強いファンを持ち、食味とカラフルさで人気を呼んでいる。コロナ禍を機に産直ECサイトにも販路を広げ、コアなリピーターを獲得。しかしあくまで顧客と話せる対面販売にこだわり、地産地消に活路を見出す。

良いとこ取りの中玉 「華おとめ」にほれ込み
ファームアベタでメインに栽培しているのが、中玉トマト「華おとめ」だ。糖度が高く皮が薄い。フルーツトマトなど高糖度の品種は、皮が硬くなりがちだが、この品種は皮が薄く食べやすい。食味も良く、独特の風味もある。生食でも加熱調理してもおいしい。高齢者や子どもにも人気だという。
「『華おとめ』の味にほれ込んで、もう10年以上のお付き合い」というファームアベタの阿部田誠さん(45)。大学卒業後、親元就農し、総面積68aの水耕ハウスで約20品種を栽培する。
8月上旬に定植し、10月から翌年7月上旬まで収穫する。
10a収量は「10tは夢の数字」と阿部田さんは笑う。「収量と味は反比例する。顧客に選んでもらえる味を求めているので、収量は少なくても、それなりの単価が取れれば良い」。
中玉トマトをメインにしたのは、ミニと大玉の“良いとこ取り”だから。ミニは甘いけれど食べ応えがない。大玉は食べ応えはあるが味が薄い。「かぶりついたときのジューシーな多幸感は、中玉ならでは」だと考えた。
戦略的にもライバルが少ないことが強みだ。中玉品種は他にもあるが、「華おとめ」は希少品種。取引先や飲食店にも「他には置いていない。ここだけのアイテム」は魅力的な提案になる。
一方、病気、収量、価格の面で難しさがある品種。しかし、それを補って余りある良食味が魅力だ。試作の段階で20本から作り始め、その後3年で更新しメインの品種とした。
ゼッピン娘ブランド 味と“映え”で人気
ファームアベタの独自ブランド「ゼッピン娘」。「華おとめ」単品パックも、カラフルな最大18品種の詰め合わせもすべてこの名前で出荷している。
出荷先の内訳は、庭先販売が4割、JA北つくばを通した「ゼッピン娘」ブランドの市場出荷が3割、JA直売所と地元スーパーが2割、その他が契約栽培や産直EC(電子商取引)、ふるさと納税の返礼品となっている。
阿部田さんが独自ブランドにこだわるのは、「良くも悪くも自分の責任でやりたい」からだ。市場には270g入りのチャック付きパックで出荷。JA直売所やスーパーと庭先販売には「ゼッピン娘」の商品名と連絡先が分かるチラシの紙を入れている。


就農当時、リピーターをどう増やすか考えて、手間はかかるが一袋ずつにこの紙を入れたのが始まりだ。「『おいしかったけど、これ誰のだっけ』で終わるのは、とても損している」と阿部田さん。この紙を大事に取っておいて買いに来てくれる顧客もいる。「この紙は1枚2円もしないが、いい仕事をする」という。
カラフルな品種を導入しているのも差別化の一環だ。直売所などで、よそにない商品を出そうと始めた。子どもは「これどんな味だろう」と食べてくれるので、親にも喜ばれる。産直ECサイトでも“映える”と人気だ。
庭先販売では1日3回、9割方は阿部田さんが店頭に立つ。「顧客と直接話ができる庭先販売は強い。クレームにも責任を持って対応できる」。
産直ECサイトは2020年、コロナ禍で始めた。今年で5年目になるが、当初から買い続けてくれるコアなファンもいる。「送料を払ってでも、うちのトマトが食べたいというのは何よりの評価」という。
「量や糖度の競争ではなく、地産地消路線で生きていく。コロナ禍で、地元の人に食べてもらうことの大切さが身に染みて分かった。高級品にはしないが、安売りもしない。再生産できる価格で日々の食卓に上るトマトづくりを目指す」。
阿部田さんは、ぶれずに前を向く。

茨城・ファームアベタ
ファームアベタのホームページ
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