新感覚派は、大正末期から昭和初期にかけて日本文学に登場した文学流派である。
1924年に創刊された同人誌『文藝時代』を母体として、横光利一や川端康成などの新進作家が集まり、自然主義的リアリズムに反発し、感覚的表現を重視した。
新感覚派は、主観的な感覚を基にした新しい現実を創造し、従来の文体を超える独自の表現方法を追求した。新感覚派は、モダニズム文学やダダイスムの影響を受け、文学の形式そのものの改革を目指したことが特徴である。
この記事では新感覚派について解説する。
新感覚派は、1920年代の日本で興ったモダニズム文学の潮流のことである。西洋の前衛芸術、特に象徴主義、表現主義、ダダイズムといった運動から大きな影響を受け、従来の写実主義や自然主義とは一線を画す、感覚的な表現や主観的な描写が特徴である。菊池寛が1924年11月に雑誌『文藝春秋』に発表した評論「文藝春秋」の中で、横光利一、川端康成らの作品を「新感覚派」と呼んだことが、この名称の始まりだと言われている。彼らは、人間の内的世界や五感を駆使した感覚的な描写を重視し、従来の小説の枠にとらわれない自由な表現を試みた。
新感覚派が登場した1920年代の日本は、第一次世界大戦後の好景気と大正デモクラシーの影響を受け、都市化や工業化が進展し、文化や思想の面でも大きな変化が起こっていた。西洋の新しい文化や芸術が流入し、人々の価値観が多様化していった時代であった。このような時代背景の中で、西洋のモダニズム文学や芸術の影響を受けた若者たちによって、新感覚派は誕生した。
新感覚派は、それまでの日本の文学に新しい風を吹き込み、近代文学の発展に大きく貢献した。彼らは、人間の感覚や内面世界を重視することで、文学表現の可能性を大きく広げた。彼らの作品は、後の作家たちに大きな影響を与え、現代文学にも通じるテーマや表現技法を確立した。
感覚的表現: 五感を駆使した繊細な描写や、比喩を多用した表現によって、読者に鮮烈なイメージを与えることを目指した。例えば、横光利一の「蠅」では、蠅の羽音や動きを微細に描写することで、読者に不快感や不安感を与える効果を生み出している。
主観的な世界描写: 客観的な事実に基づく描写よりも、作者の内的世界や登場人物の心理描写を重視した。川端康成の「雪国」では、主人公の島村の視点を通して、雪国の風景や駒子との関係が描かれ、彼の内面世界が浮き彫りになっている。
都市や近代文明への関心: 当時の都市化や工業化といった社会の変化を背景に、近代的な都市生活や文明社会における人間の疎外感をテーマとして取り上げた。横光利一の初期の作品には、都市を舞台に、孤独や不安を抱える登場人物が多く描かれている。
新しい技法の導入: 従来の小説の形式にとらわれず、意識の流れや映画的手法など、新しい表現技法を積極的に取り入れた。横光利一の「蠅」は、意識の流れの手法を用いて、登場人物の心理を断片的に描写することで、読者に混沌とした印象を与えている。
新感覚派を代表する作家には、横光利一、川端康成、堀辰雄などが挙げられる。
横光利一は、新感覚派を代表する作家の一人であり、評論家としても活躍した。初期の作品では、感覚的な描写や比喩を駆使した文体で、都市生活や人間の疎外などを描いた。
横光は、感覚的な描写を通して、人間の深層心理や社会の矛盾を鋭く描き出した。彼の作品は、当時の日本の社会や文化を反映したものであり、現代においても多くの読者に共感を呼んでいる。
川端康成は、1968年に日本人初のノーベル文学賞を受賞した作家である。繊細で美しい文体と、抒情的な作品世界で知られている。新感覚派の作家として出発し、その後も独自の美意識に基づいた作品を数多く発表した。
川端は、日本の伝統的な美意識と西洋のモダニズムを融合させた、独自の文学世界を創造した。彼の作品は、美しい日本語で書かれており、人間の心理や自然の描写に優れている。
堀辰雄は、繊細な心理描写と抒情的な文体で知られる作家である。フランス文学の影響を受け、心理主義的な作品を多く執筆した。また、日本の古典や王朝女流文学にも造詣が深く、独自の文学世界を創造した。
堀は、人間の心の奥底にある感情や葛藤を、繊細な筆致で描き出した。彼の作品は、読者に深い感動と共感を与え、今もなお多くの人々に愛読されている。
新感覚派は、1920年代の日本において、西洋のモダニズム文学の影響を受けながら、独自の文学世界を創造した重要な運動であった。感覚的な表現や主観的な世界描写を特徴とする彼らの作品は、後の文学に大きな影響を与え、現代においても高く評価されている。
横光利一、川端康成、堀辰雄といった代表的な作家たちは、それぞれ独自のスタイルで、人間の心理や社会の変化を描き出し、新感覚派文学を牽引した。彼らの作品は、時代を超えて読み継がれる、日本文学の重要な財産と言えるだろう。
新感覚派は、単なる文学運動にとどまらず、当時の日本の社会や文化を反映したものであった。彼らの作品は、近代化が進む中で、人々が抱える不安や葛藤を描き出し、新しい時代への道を切り開こうとする意志を示していた。現代社会においても、新感覚派の作品は、私たちに多くの示唆を与えてくれるだろう。
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