毎年恒例のミステリーランキング、「本格ミステリ・ベスト10」が発表された。
今年も多くの話題作が登場し、ミステリファンにとっては見逃せないランキングとなっている。
この記事では2025年版の「本格ミステリ・ベスト10」に入ったミステリ小説を紹介したい。
「本格ミステリ・ベスト10」は、日本の本格ミステリに特化したランキングであり、探偵小説研究会が毎年発表している。1997年に始まり、毎年12月にその年の優れた本格ミステリ作品を選出する。ランキングの対象は、前年の11月から当年の10月までに発行された作品で、投票は有識者や読者によって行われる。
投票者は「本格」の定義を自由に解釈し、1位から5位までの作品を選ぶ。このランキングは、国内外の本格ミステリ作品を広く網羅していて、年間の本格ミステリを振り返るのにうってつけのランキングである。
やはり他のミステリランキングに比べて本格ミステリ色が強い作品がランキング上位に選ばれれる傾向がある。
ちなみに「2025本格ミステリ・ベスト10」の第1位に輝いたのは、青崎有吾の『地雷グリコ』だ。
それでは「2026本格ミステリ・ベスト10」の国内ベスト10に輝いた作品を紹介したい。
一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。
1位に輝いたのは、北山猛邦の短編集『神の光』だ。『神の光』は、物理トリックに定評のある著者が描く、幻想的かつミステリアスな世界を堪能できる作品である。本書には、家や街が一瞬で消失するというテーマのもと、五つの短編が収められている。各短編は、異なる時代や場所を舞台にし、消失の謎を解き明かすストーリーが展開される。
例えば、旧レニングラードの屋敷が一夜にして消える話や、1955年のネバダ州のカジノ街が跡形もなく消失する様子が描かれている。また、近未来のカスピ海西岸から平安時代の京都に至るまで、時空を超えた幻想的な旅が楽しめる。
1978年の秋、矢吹駆とナディアは“三重密室事件”の記憶を持つダッソー家での晩餐会に招待され、アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者と議論する。晩餐会の夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。さらに運搬役に指名されたのはナディアだった。同夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見された。「誘拐」と「殺人」。混迷する二つの事件を繋ぐ驚愕の真実を矢吹駆が射抜く。
2位に輝いた『夜と霧の誘拐』は、笠井潔による矢吹駆シリーズの最新作であり、1978年の秋を舞台にしたミステリーである。物語は、晩餐会の夜に運転手の娘・サラが資産家ダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐されるところから始まる。さらに、身代金の運搬役に指名されたのはナディアであり、同じ夜にカトリック系私立校の学院長が射殺されるという二つの事件が同時に発生する。
この作品は、誘拐と殺人という二つの事件がどのように絡み合い、混迷を極めるのかを描いている。矢吹駆は、これらの事件を解決するために、哲学者との議論を通じて真実に迫る。特に、ハンナ・アーレントの思想が作品に影響を与えており、ナショナリズムや政治的暴力についての考察も含まれている。
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。
3位に輝いたのは、櫻田智也の『失われた貌』だ。櫻田智也は、2025年8月20日に初の長編小説『失われた貌』を発表した作家である。彼は、短編ミステリ『蟬かえる』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞し、注目を集めてきた。『失われた貌』は、彼のキャリアにおける新たな挑戦であり、警察小説という形でハードボイルドな要素を取り入れた作品である。
物語は、山奥で発見された顔のない死体から始まる。この死体は、十年前に失踪した父親の可能性を持つ小学生が登場し、事件は過去と現在が交錯する複雑な展開を見せる。櫻田は、緻密に張り巡らされた伏線と、意外な真相を用意し、読者を引き込む手法を駆使している。彼の作品は、単なる謎解きにとどまらず、人間ドラマや社会の暗部を描く深みを持っている。
『失われた貌』は、櫻田の独自の視点とスタイルが光る作品であり、ミステリーファンにとって見逃せない一冊である。
ゴッドが好きな高校生の詩郎が出逢った、自分が空想で創ったはずの神の正体とは……? 地元の名士が殺害され、脅迫していたという謎の怪人・蠱毒王とは何者か……? 二つの迷宮的な事件が複雑怪奇に絡み合い、恐ろしいカタストロフィが待ち受ける本格超大作!
飛鳥部勝則の『抹殺ゴスゴッズ』は、令和と平成、二つの時代で発生する不可解な事件を描く。令和では、高校生の詩郎が空想で創り出した「怪神」が出現し、不可解な事件が進行する。一方、平成では、地元名士が「蠱毒王」と名乗る怪人からの脅迫を受け、金山の施設で奇妙な殺人事件が発生する。これらの事件の背後には、人知を超えた恐るべき存在が蠢いているとされる。
30年前の国民的刑事ドラマ『左右田警部補』。最終回目前に、主演俳優・雪宗衛が妻殺しの容疑で逮捕され、打ち切りとなる。「日本で最も有名な刑事」の逮捕劇に日本中が熱狂する中、雪宗は緊急記者会見を開き、役柄さながらに真犯人の正体を暴く“推理”を披露する。雪宗は無罪を勝ち取るも、世間の目は厳しく疑惑は完全には晴れなかった。そして現在、同様の手口の殺人事件が起こり、ノンフィクション作家の風見は、雪宗の真実を追って関係者の取材を開始する。放送されなかった幻の最終回「最後のあいさつ」に隠された秘密とは?
阿津川辰海『最後のあいさつ』は、テレビドラマを題材にしたミステリである。30年前、国民的刑事ドラマ『左右田警部補』の主演俳優・雪宗衛が妻殺しの容疑で逮捕され、ドラマは最終回目前で打ち切りとなった。雪宗は役柄さながらの推理を披露して無罪を勝ち取るも、世間の疑惑は晴れなかった。時を経て、同様の手口の殺人事件が発生し、ノンフィクション作家の風見が雪宗の真実を追うことになる。放送されなかった幻の最終回「最後のあいさつ」に隠された秘密が、事件の鍵を握る物語だ。本作は「劇場型犯罪」への挑戦であり、刑事ドラマ「相棒」へのオマージュも込められている
抗争渦巻く港町で発見されたある有名人の死体が暗黒街を揺るがした。名を上げようと次々と自白する「犯人」たち。これをことごとく論破する探偵。何かが転倒している「特殊設定ミステリ」にして「連続自白推理」の書き下ろし本格ミステリ!
霞流一の『スカーフェイク 暗黒街の殺人』は、抗争渦巻く港町で発生した異様な殺人事件を描く本格ミステリである。暗黒街の大物「鮫肌の哲」が密室で遺体となって発見されるが、犯行を自称する者が名誉欲から次々と現れるのだ。探偵・邪無吾は、彼らが披露する犯行動機や密室の作成方法を論理的に切り返し、真の犯人を特定していく。複数の「犯人」の自白を否定していく「逆多重解決」という特殊設定が魅力の一作だ。
研修医の春田は実習のため北海道へ行くことになり、過疎地医療協力で派遣される城崎と、温泉湖の近くにある山奥の病院へと向かう。ところが二人が辿り着いた直後、病院一帯は濃霧に覆われて誰も出入りができない状況になってしまう。そんな中、院内で病院スタッフが変死体となって発見される。さらに翌朝に発生した大地震の影響で、病院の周囲には硫化水素ガスが流れ込んでしまう。そして、霧とガスにより孤立した病院で不可能犯罪が発生して──。過疎地医療の現実と、災害下で患者を守り共に生き抜こうとする医療従事者たちの極限を描いた本格ミステリ。
山口未桜の『白魔の檻』は、2025年本屋大賞ノミネート作『禁忌の子』に連なるシリーズ第2弾である。研修医・春田芽衣と医師・城崎響介は、北海道の山奥の病院で濃霧と有毒ガスにより外界から孤立する。この極限状況下、変死体が発見され、不可能犯罪が発生。現役医師である著者が、過疎地医療の現実と災害下で患者を守り抜こうとする医療従事者の葛藤を緻密に描いている。
私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔(ときやしょう)には、学園の名探偵だった大叔母がいた。数々の難事件を解決し、警察からも助言を求められた存在だったが30年前、学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、ともに雷辺の滝に落ちて亡くなってしまった……。悪意が去ったあとの学園に入学し、このままちやほやされて学園生活を送れると目論んでいた翔の元へ、事件解明の依頼が舞い込んだ。どうやってこのピンチを切り抜けるのか!?
潮谷験の『名探偵再び』は、私立雷辺女学園を舞台にした学園ミステリーである。主人公の時夜翔は、名探偵として名を馳せた大叔母・時夜遊の血を引く高校生である。遊は30年前、学園内で起きた数々の難事件を解決したが、悪の黒幕である理事長Mとの対決の末、滝壺に落ちて命を落としたとされている。翔はその名探偵の子孫として、学園生活を楽しむことを期待して入学するが、次々と事件が舞い込むことになる。
本作では、翔が事件解決に挑む姿が描かれ、彼女の俗物的な性格がユーモアを生む。特に、彼女は名探偵の子孫としての期待に応えようとする一方で、自身の能力を過信し、ズルを使って解決を図る様子が面白い。潮谷は、緻密な伏線とキャラクター配置を駆使し、読者を飽きさせないストーリー展開を実現している。翔の成長と事件の真相が絡み合い、最後には驚きの結末が待ち受けている。『名探偵再び』は、ミステリーの魅力を存分に引き出した作品であり、潮谷験の独自の視点が光る一冊である。
大唐帝国の帝都・長安で生ずる、奇怪な連続殺人。屍体は腹を十文字に切り裂かれ、臓腑が抜き去られていた。犯人は屍体の心肝を啖(く)っているのではーー。崑崙奴ーー奴隷でありながら神仙譚の仙者を連想させる異相の童子により、捜査線は何時しか道教思想の深奥へと導かれ、目眩めく夢幻の如き真実が顕現するーー!
『崑崙奴』は、古泉迦十によるミステリ小説であり、唐代の長安を舞台にした物語である。物語は、連続殺人事件を追う主人公・磨勒と彼の仲間たちの視点から描かれる。事件の被害者は内臓を抜かれた状態で発見され、謎が深まる中、磨勒は崔静の行動に疑問を抱く。彼は崔静の調査を依頼し、事件の真相を探ることになる。
本作の最大の魅力は、磨勒というキャラクターの神秘性にある。彼は崑崙奴としての特異な存在であり、道教思想が色濃く反映されている。物語は、磨勒の超人的な能力と、彼が関わる事件の背後に潜む深い真実を探求する過程を描いている。読者は、彼の行動を通じて、道教の教えや人間の本質について考えさせられる。
小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。
『探偵小石は恋しない』は、森バジルによる本格ミステリ小説である。主人公の小石は、色恋案件に特化した探偵事務所の代表であり、恋愛に対してはアンチの立場を取る。しかし、彼女は不倫調査のエキスパートであり、色恋に関する調査を病的に得意としている。物語は、彼女が日常的にこなす色恋案件の裏で、思いもよらない重大事件に巻き込まれる様子を描いている。
本作は、松本清張賞を受賞した森バジルの最新作であり、発売直後からSNSでの話題を呼び、全国書店でベストセラーとなった。読者は、巧妙に仕掛けられた伏線や驚愕の展開に引き込まれ、何度も読み返したくなるような魅力を持っている。小石とその助手・蓮杖との掛け合いも楽しみの一つであり、ミステリファンにはたまらない作品となっている。
「本格ミステリ・ベスト10」には、他のミステリランキングと比較して本格ミステリ色の強い作品が揃ったなと思う。本格ミステリ・ベスト10の1位は北山猛邦の短編集『神の光』だった。他のミステリランキングとは違って本格ミステリ度が高いミステリが選ばれたように思う。
このランキングを参考にミステリを読んでみるのはどうだろう。
今年は村上春樹関連するイベントが多かった。『街とその不確かな壁』の文庫化や、100分de名著で『ねじまき鳥クロニクル』の特集、『神の子どもたちはみな踊る』のドラマ・映画化、村上春樹の新作小説「武蔵境のありくい」の新潮掲載など、村上春樹イベントが目白押しだった。
そして、年末に新作を書き終えたとのニュースが!この記事では村上春樹の新作について書きたい。
村上春樹が自身の作品を朗読するイベントに参加した際に新作について言及があった。ニューヨークで開催されたイベントだ。
そこで 「数週間前に新作小説を書き終えた」とコメントがあった模様。これは気になる。
新作の内容についてはコメントがなかった。なので私で勝手に予想してみようと思う。
私の予想では夏帆関連の作品ではないかなと思っている。 村上春樹の短編「夏帆」に登場する絵本作家・夏帆が登場すらシリーズだ。これまでに「夏帆」と「武蔵境のありくい」のに作品が公開されている。
「武蔵境のありくい」を読んだ感じ、まだ続きがありそうな内容だったので、夏帆シリーズの新作の可能性があるのではと思っている。
皆さんの予想はどうだろうか?
最近、Netflixで話題になっているドラマが『イクサガミ』だ。混沌とした明治時代を舞台に、元・武士たちが繰り広げる「侍バトルロワイヤル」とも呼べる内容だ。
大金をかけた「蠱毒」というバトルロワイヤルに参加した士族たちの戦いを描いた作品である。
Netflixのランキングでも上位に入るくらいの人気作で、主演の岡田准一のアクションは非常に見応えがある。
謎のゲーム「蠱毒」を主宰している人物は誰か、その目的は何かというのがこの作品の一番の謎である。
この記事では「蠱毒」の主催者とその目的について書いた。ネタバレを含むので未読の人は注意してほしい。
『イクサガミ』における蠱毒の黒幕は、警視局トップである川路利良である。川路利良は大久保利通や前島密と同様に実在した人物で、日本の警察制度の父と呼ばれている。
Netflixのドラマだと第4話で黒幕が川路だと明かされている。
また川路を金銭的な面で支えていたのは財閥(三菱・住友・三井・安田)だ。財閥のトップは蠱毒を賭け事として楽しんでいる。
『イクサガミ』における川路利良は、蠱毒という過酷なデスゲームを仕掛けた張本人である。川路利良は、単なる権力者ではなく、国家の安定と近代化を推し進めるために陰謀を巡らせる策士として描かれている。まさか、川路利良が黒幕とは…
川路利良が蠱毒を仕掛けた目的を見てみよう。
川路の目的は、単なるデスゲームの開催ではなく、武士階級の完全な排除と日本の近代化の推進だ。川路は、武士を「旧時代の亡霊」と見なし、士族を排除することで新しい時代の秩序を確立しようとしていた。
明治維新後、廃刀令や士族の特権剥奪により、多くの士族が不満を抱えていた。この不満が各地で反乱を引き起こし、新政府の安定を脅かしていた。有名な反乱を挙げると西南戦争などがある。新政府を脅かす士族を処分するために川路は士族同士で殺し合う蠱毒を開催したと考えられる。
またもう一つの狙いは警察官の拳銃配備にある。士族の暴動をでっちあげることによって、警察に拳銃配備の口実を作ろうとしていた。その試みは失敗するわけだが…
『イクサガミ』の舞台は明治11年(1878年)であり、これは旧幕府VS新政府の戊辰戦争から約10年後の時代である。この時代、日本は明治維新を経て急速な近代化を進めていたが、その裏では大きな社会的混乱が生じていた。
特に、廃刀令によって武士たちは刀を取り上げられ、特権を失い、貧困に苦しむ者が増加していた。特権階級的な待遇を失った士族の不満は高まっていて、各地で士族の反乱が起こっていたのである。特に明治10年(1877年)に起きた西南戦争は、士族反乱の最大規模のものであった。この戦争で政府軍が勝利したことで、武士の時代は完全に終焉を迎えたが、士族たちの不満は依然として残っていたのである。
ここではイクサガミではなく、実在した川路利良がどんな人物だったか書こうと思う。
川路利良は、幕末から明治にかけて活躍した日本の警察制度の父である。彼は1834年に薩摩藩に生まれ、若い頃からその才能を発揮した。特に、彼はフランス式の警察制度を日本に導入し、近代警察の基礎を築いたことで知られている。川路は初代大警視(現在の警視総監に相当)として、明治政府の中で重要な役割を果たした。
川路の生涯は、彼の出身地である薩摩藩の厳しい身分制度の中で始まった。彼は外城士という下層武士の家に生まれ、幼少期には身分の高い子供たちからいじめを受けることもあった。しかし、川路はその逆境を乗り越え、薩摩藩の藩主である島津斉彬に仕官することで運命を変える。斉彬の信任を受けた川路は、江戸に上り、さまざまな任務をこなす中でその能力を磨いていった。
明治維新の時には、川路は西郷隆盛や大久保利通と共に新政府の樹立に尽力した。彼は特に警察制度の整備に力を入れ、欧州視察を通じて得た知識を基に、日本の治安維持のための組織を構築した。川路の手腕により、警察は単なる治安維持の機関から、国家の重要な機関へと成長を遂げた。そして大警視まで上り詰めたのである。
最近、Netflixで話題になっているドラマが『イクサガミ』だ。あんまり時代劇に興味がなかったのだけれど、時代劇✖️デスゲームと言う内容に惹かれて見てみたのだがなかなか面白かった。
混沌とした明治時代を舞台に、元・武士たちが繰り広げる「侍バトルロワイヤル」とも呼べる内容だ。
Netflixのランキングでも上位に入るくらいの人気作で、主演の岡田准一のアクションは非常に見応えがある。
『イクサガミ』の全6話をみた人ならわかると思うのだが、『イクサガミ』は6話で完結していない。6話までが第1章で、第2章があることが仄めかされている。いや、完結していないのでここで終わってしまうのは非常に困る。
シーズン2がいつ公開するか分からないイクサガミだが、過去のNetflix作品からいつぐらいに配信されるか考えてみた。
続きが気になる『イクサガミ』だが、残念なことに2025年12月現在、Netflix側から第二章配信日に関するアナウンスはされていない。なので確定的なことは何も分からない。
公式情報がないのは仕方ないので、過去のNetflix作品の例を見て考えようと思う。日本初の人気Netflix作品といえば『今際の国のアリス』や『全裸監督』だろう。
『今際の国のアリス』や『全裸監督』の場合は、概ね2年のインターバルで続編が公開されている。この「2年ルール」を単純に適用すれば、『イクサガミ』シーズン2は2027年11月頃の配信となる計算だ。しかし、イクサガミはもっと時間がかかるのではないかなと思う。
『イクサガミ』は明治初期の東海道を舞台にし、京都から東京までの約500キロメートルにも及ぶ旅路を描いている。
山間部、古道、宿場町など、現代の風景が映り込まない場所を選定し、必要であれば美術セットで装飾を施す作業は、現代劇や一箇所に巨大セットを組む作品とは比較にならない労力を要すると思われる。天候による撮影遅延のリスクも常に付きまとう。
なのでもっと時間がかかるのではないかと思っている。私の個人的な予想では、2028年ぐらいになるのではないかと思っている。
『イクサガミ』には原作小説があるのだが、ドラマ版では異なる部分がいくつかあった。
まずは、大久保利通の暗殺だ。小説版では最後まで暗殺されないのに対して、ドラマ版では、シーズン1のクライマックスで早々に暗殺されてしまった。
また、東出昌大演じる響陣の裏切りもドラマオリジナルである。彼がなぜ幻刀斎と通じているのか、その真意が気になるところだ。
毎年恒例のミステリーランキング、「ミステリが読みたい!」の2026年版が発表された。
今年も多くの話題作が登場し、ミステリファンにとっては見逃せないランキングとなっている。
この記事では2026年版の「ミステリが読みたい!」に入ったミステリ小説を紹介したい。
早川書房の「ミステリが読みたい!」は、毎年年末に発表される日本のミステリー小説ランキングである。このランキングは、読者の投票によって決定され、国内外の優れたミステリー作品を広く紹介することを目的としている。
特に、読者の支持を受けた作品が上位にランクインし、ミステリー愛好者にとってのバイブル的存在となっている。ランキングは、各年のミステリーのトレンドや人気作を反映し、読者に新たな発見を提供する。
ちなみに「ミステリが読みたい!」の2025年版国内ベスト10の1位に輝いたのは青崎有吾の『地雷グリコ』だ。年末に公表されるランキングで4冠を達成した作品だ。
それでは「ミステリが読みたい!」の2026年版国内ベスト10に輝いた作品を紹介したい。
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。
1位に輝いたのは、櫻田智也の『失われた貌』だ。櫻田智也は、2025年8月20日に初の長編小説『失われた貌』を発表した作家である。彼は、短編ミステリ『蟬かえる』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞し、注目を集めてきた。『失われた貌』は、彼のキャリアにおける新たな挑戦であり、警察小説という形でハードボイルドな要素を取り入れた作品である。
物語は、山奥で発見された顔のない死体から始まる。この死体は、十年前に失踪した父親の可能性を持つ小学生が登場し、事件は過去と現在が交錯する複雑な展開を見せる。櫻田は、緻密に張り巡らされた伏線と、意外な真相を用意し、読者を引き込む手法を駆使している。彼の作品は、単なる謎解きにとどまらず、人間ドラマや社会の暗部を描く深みを持っている。
『失われた貌』は、櫻田の独自の視点とスタイルが光る作品であり、ミステリーファンにとって見逃せない一冊である。
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!
山口未桜の『禁忌の子』は医療×本格ミステリだ。医療ミステリという枠組みの中で、生命倫理、親子関係、そして人間の業といった深淵なテーマが描かれている。
救急医の武田航のもとに、自分と瓜二つの溺死体が運び込まれる。身元不明のその遺体「キュウキュウ十二」の謎を追う中で、武田は自らの出生の秘密、そして生殖医療の闇に迫っていく。
私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔(ときやしょう)には、学園の名探偵だった大叔母がいた。数々の難事件を解決し、警察からも助言を求められた存在だったが30年前、学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、ともに雷辺の滝に落ちて亡くなってしまった……。悪意が去ったあとの学園に入学し、このままちやほやされて学園生活を送れると目論んでいた翔の元へ、事件解明の依頼が舞い込んだ。どうやってこのピンチを切り抜けるのか!?
潮谷験の『名探偵再び』は、私立雷辺女学園を舞台にした学園ミステリーである。主人公の時夜翔は、名探偵として名を馳せた大叔母・時夜遊の血を引く高校生である。遊は30年前、学園内で起きた数々の難事件を解決したが、悪の黒幕である理事長Mとの対決の末、滝壺に落ちて命を落としたとされている。翔はその名探偵の子孫として、学園生活を楽しむことを期待して入学するが、次々と事件が舞い込むことになる。
本作では、翔が事件解決に挑む姿が描かれ、彼女の俗物的な性格がユーモアを生む。特に、彼女は名探偵の子孫としての期待に応えようとする一方で、自身の能力を過信し、ズルを使って解決を図る様子が面白い。潮谷は、緻密な伏線とキャラクター配置を駆使し、読者を飽きさせないストーリー展開を実現している。翔の成長と事件の真相が絡み合い、最後には驚きの結末が待ち受けている。『名探偵再び』は、ミステリーの魅力を存分に引き出した作品であり、潮谷験の独自の視点が光る一冊である。
大唐帝国の帝都・長安で生ずる、奇怪な連続殺人。屍体は腹を十文字に切り裂かれ、臓腑が抜き去られていた。犯人は屍体の心肝を啖(く)っているのではーー。崑崙奴ーー奴隷でありながら神仙譚の仙者を連想させる異相の童子により、捜査線は何時しか道教思想の深奥へと導かれ、目眩めく夢幻の如き真実が顕現するーー!
『崑崙奴』は、古泉迦十によるミステリ小説であり、唐代の長安を舞台にした物語である。物語は、連続殺人事件を追う主人公・磨勒と彼の仲間たちの視点から描かれる。事件の被害者は内臓を抜かれた状態で発見され、謎が深まる中、磨勒は崔静の行動に疑問を抱く。彼は崔静の調査を依頼し、事件の真相を探ることになる。
本作の最大の魅力は、磨勒というキャラクターの神秘性にある。彼は崑崙奴としての特異な存在であり、道教思想が色濃く反映されている。物語は、磨勒の超人的な能力と、彼が関わる事件の背後に潜む深い真実を探求する過程を描いている。読者は、彼の行動を通じて、道教の教えや人間の本質について考えさせられる。
重大な罪を犯して少年院で出会った六人。彼らは更生して社会に戻り、二度と会うことはないはずだった。だが、少年Bが密告をしたことで、娘を殺された遺族が少年Aの居場所を見つけ、殺害に至る――。人懐っこくて少年院での日々を「楽しかった」と語る元少年、幼馴染に「根は優しい」と言われる大男、高IQゆえに生きづらいと語るシステムエンジニア、猟奇殺人犯として日常をアップする動画配信者、高級車を乗り回す元オオカミ少年、少年院で一度も言葉を発しなかった青年。かつての少年六人のうち、誰が被害者で、誰が密告者なのか?
新川帆立の『目には目を』は、少年犯罪をテーマにした衝撃的なミステリーである。物語は、少年院で出会った六人の少年たちが中心となり、彼らの過去とその後の人生を描く。特に、少年Aが出所後に被害者の母親に殺されるという事件が発端となり、密告者である少年Bの存在が物語の鍵を握る。ルポライターである「私」は、少年たちの証言を通じて、彼らの罪と贖罪の物語を掘り下げていく。
本作は、ただのミステリーに留まらず、復讐と贖罪、友情と更生といったテーマを深く掘り下げている。新川は、社会に適応できない人々の心情を描くことで、読者に深い共感を呼び起こす。特に、少年たちのそれぞれの背景や心理描写が巧みに描かれており、彼らの複雑な人間関係が物語に厚みを与えている。
1978年の秋、矢吹駆とナディアは“三重密室事件”の記憶を持つダッソー家での晩餐会に招待され、アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者と議論する。晩餐会の夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。さらに運搬役に指名されたのはナディアだった。同夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見された。「誘拐」と「殺人」。混迷する二つの事件を繋ぐ驚愕の真実を矢吹駆が射抜く。
6位に輝いた『夜と霧の誘拐』は、笠井潔による矢吹駆シリーズの最新作であり、1978年の秋を舞台にしたミステリーである。物語は、晩餐会の夜に運転手の娘・サラが資産家ダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐されるところから始まる。さらに、身代金の運搬役に指名されたのはナディアであり、同じ夜にカトリック系私立校の学院長が射殺されるという二つの事件が同時に発生する。
この作品は、誘拐と殺人という二つの事件がどのように絡み合い、混迷を極めるのかを描いている。矢吹駆は、これらの事件を解決するために、哲学者との議論を通じて真実に迫る。特に、ハンナ・アーレントの思想が作品に影響を与えており、ナショナリズムや政治的暴力についての考察も含まれている。
大学生の瞳星愛は、友人の皿来唄子に誘われ、彼女の実家で行われる婚礼に参加することになる。「山神様のお告げ」で決まったというこの婚姻は、「嫁首様」なる皿来家の屋敷神の祟りを避けるため、その結婚相手から儀礼に至るまで、何もかもが風変りな趣向が施されていた。婚礼の夜、花嫁行列に加わった愛は、行列の後ろをついてくる花嫁姿のような怪しい人影を目撃する。そして披露宴を迎えようというその矢先、嫁首様を祀る巨大迷路の如き「迷宮社」の中で、奇怪な死体が発見された――。
三津田信三の『寿ぐ嫁首 怪民研に於ける記録と推理』は、大学生の瞳星愛が友人の婚礼に参加する物語を描いている。この婚礼は「山神様のお告げ」に基づいており、皿来家の屋敷神「嫁首様」の祟りを避けるために特異な儀礼が施されている。
物語は、愛が婚礼の夜に目撃する不気味な人影から始まる。披露宴の準備が進む中、嫁首様を祀る迷宮社で奇怪な死体が発見され、愛は皿来家の分家の四郎と共に事件の謎解きに挑む。三津田の作品は、民俗学的要素と緻密な推理が絡み合い、読者を引き込む力を持っている。
一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。
8位に輝いたのは、北山猛邦の『神の光』だ。北山猛邦の短編集『神の光』は、物理トリックに定評のある著者が描く、幻想的かつミステリアスな世界を堪能できる作品である。本書には、家や街が一瞬で消失するというテーマのもと、五つの短編が収められている。各短編は、異なる時代や場所を舞台にし、消失の謎を解き明かすストーリーが展開される。
例えば、旧レニングラードの屋敷が一夜にして消える話や、1955年のネバダ州のカジノ街が跡形もなく消失する様子が描かれている。また、近未来のカスピ海西岸から平安時代の京都に至るまで、時空を超えた幻想的な旅が楽しめる。
憲兵大尉・浪越破六【なみこし・ばろく】は、この事件には、語られていない「真実」があると確信する。そんな折、浪越は渡辺錠太郎陸軍大将から、密命を受ける。そして運命の日に向けてのカウントダウンが始まった。気鋭のミステリ作家が、2.26事件と同時進行していた「ある事件」を大胆に描き出した本格長編。昭和史を揺るがす重大事件の謎をめぐる圧巻の歴史ミステリ。
伊吹亜門の『裏路地の二・二六』は、昭和10年から11年にかけての歴史的事件「二・二六事件」を背景にした本格ミステリーである。本作は、実際に起きた陸軍省での暗殺事件を基にしつつ、フィクションを巧みに織り交ぜている。物語は、相沢三郎中佐が軍務局長・永田鉄山少将を刺殺する事件から始まり、その背後に潜む謎を追う形で展開する。
伊吹は、歴史的事実を踏まえながらも、登場人物の心理描写や人間関係に深く切り込むことで、読者を引き込む。特に、相沢の狂信的な尊皇主義と純朴な性格が、事件の緊迫感を一層高めている。作品全体を通じて、昭和の時代背景や社会情勢が巧みに描かれ、歴史ミステリーとしての魅力を存分に発揮している。
自動車期間工の本田昴は、Twitterの140字だけが社会とのつながりだった2年11カ月の寮生活を終えようとしていた。最終日、同僚がSUVブレイクショットのボルトをひとつ車体の内部に落とすのを目撃する。見過ごせば明日からは自由の身だが、さて……。以降、マネーゲームの狂騒、偽装修理に戸惑う板金工、悪徳不動産会社の陥穽、そしてSNSの混沌と「アフリカのホワイトハウス」――移り変わっていくブレイクショットの所有者を通して、現代日本社会の諸相と複雑なドラマが展開されていく。人間の多様性と不可解さをテーマに、8つの物語の「軌跡」を奇跡のような構成力で描き切った、『同志少女よ、敵を撃て』を超える最高傑作。
逢坂冬馬の『ブレイクショットの軌跡』は、自動車工場の期間工である本田昴が、勤務最終日に人気の四輪駆動車「ブレイクショット」のボルトを車体の内部に落とすのを目撃するところから物語が始まる群像劇である。この一台の車を起点に、様々な所有者や関係者の人間ドラマが連鎖的に展開されていく。
本作は、格差社会、LGBTQ、特殊詐欺といった現代社会が抱える多岐にわたる社会問題に鋭く切り込み、時に会議室からアフリカの紛争地帯、詐欺現場、青春の恋模様まで、舞台は広範に及ぶ。非正規雇用やSNS、マネーゲームといった問題がビリヤードのブレイクショットのように広がり、最終的にすべてが繋がる構成は圧巻である。努力が報われない若者たちの姿や、板金職人の父と息子の葛藤など、心揺さぶる人間ドラマが描かれ、圧倒的な構成力と社会への洞察が詰まった、2025年を代表するミステリー作品の一つと言っても過言ではない。
「ミステリが読みたい!2026」国内編ベスト10には、個性豊かな作品が揃ったなと思う。本格ミステリから歴史ミステリ、エンターテインメント性の高い作品まで、幅広いジャンルの作品がランクインしている。
このランキングを参考にミステリを読んでみるのはどうだろう。
大人気ディズニー作品『ズートピア』の続編が12月5日に公開された。
『ズートピア』が話題を集めたのは、その愛らしいビジュアルの裏に、現代社会が抱える「偏見」や「差別」、「ステレオタイプ」という重いテーマが描かれていた点である。
『ズートピア』は、肉食動物と草食動物の対立を、人間世界における人種差別や偏見のメタファーとして描いていた。うまくポリコレ的なメッセージをストーリーに取り込んだ作品だった。
続編の『ズートピア2』では前作では登場しなかった爬虫類が登場し、ズートピア。今回はどんなメッセージ性が込められているのか。
また、作品自体のメッセージ性に加え、ジュディとニックのコンビがお互いの価値観でぶつかり成長していく姿は非常に素晴らしかった。
個人的には今年見た映画の中でベスト3に入るぐらい良かったな。
この記事では『ズートピア2』のネタバレ感想・考察を書いている。ネタバレが含まれるので、未視聴の人は気をつけて。
『ズートピア』は、人間が存在せず、進化した動物たちが高度な文明社会を築いて共存する世界を描いたディズニー作品だ。2016年に公開され、非常に人気を集めた作品だ。
舞台は、誰もが夢を叶えられるとされる大都会ズートピア。主人公のジュディは、正義感が強く「世界をより良くしたい」と願うウサギの女性だ。彼女は努力の末、ウサギとして初の警察官になるが、警察組織は大型動物が中心であり、小さく可愛らしい彼女は周囲からの偏見に晒され、重要な捜査を任せてもらえない。
そんな中、彼女はひょんなことから詐欺師のキツネ、ニックと出会う。夢を信じるジュディと、過去のトラウマから夢を諦めた現実主義者のニック。種族も性格も正反対の「凸凹コンビ」は、ズートピアを揺るがす肉食動物の連続行方不明事件の捜査に乗り出すことになる。
『ズートピア』の面白いところは、ユーモア溢れるエンターテインメント作品でありながら、その根底には「差別」「偏見」「ステレオタイプ」といった現代社会が抱える深刻な問題が鋭く描かれているところだ。
互いの違いを認め、自分の中にある無意識の偏見と向き合うことの大切さを説くこの物語は、子供のみならず大人にこそ響く、深いメッセージ性を持った傑作である。ディズニー作品でここまでメッセージ性が強い作品はないんじゃないかな?
『ズートピア2』では、前作から1週間ほど時間が経ち、ジュディとニックは正式にズートピア警察の一員として活躍している。ジュディとニックが正式なバディとして活動開始するものの、手柄を立てようと躍起になってミスを犯し、ボゴ署長からパートナー・セラピーへの参加を命じられる。
冒頭の事件の中で、ジュディはズートピアにいるはずのないヘビがズートピアに侵入していることに気づく。ヘビのゲイリーが日記を狙っていることに気づいたジュディとニックはリンクスリー家が主催する100周年記念ガラに潜入する。リンクスリー家はズートピアの繁栄を支える「気候制御壁(Weather Walls)」の発明者だ。そこでヘビのゲイリーと遭遇し、会場は大混乱となる。混乱の中でジュディとニックはゲイリーの仲間だと勘違いされ、逃走する羽目になる。
捜査の中で、ジュディとニックは価値観の対立から喧嘩してしまい、事故もあって離れ離れになってしまう。
ジュディはゲイリーとリンクスリー家のパウバートに助けられる。パウバートは蔑ろにする家族に一泡吹かせるためにゲイリーに協力していたのだ。
ジュディがゲイリーを捜索する中で、ズートピアの歴史に隠された暗い真実を知る。ゲイリーたち爬虫類がかつて住んでいたレプタイル渓谷の上にツンドラ・タウンが建設されていたのだ。
ズートピアの繁栄を支える「気候制御壁(Weather Walls)」の発明者が、実はリンクスリー家の祖先エベネーザではなく、ヘビのアグネス・デ・スネーク(ゲイリーの曾祖母)であったことが判明する。エベネーザはアグネスの発明を盗み、彼女に殺人の濡れ衣を着せ、爬虫類全体を危険分子として都市から追放したのである。ジュディたちはリンクスリー家による歴史改竄を知る。
リンクスリー家の悪事を暴くために、アグネスの特許書を手に入れようと気候制御壁に向かうのだが、仲間だと思っていたパウバートの裏切りに遭遇する。パウバートは家族に認めてもらうために特許書を探し、処分することが目的だった。ジュディが死の危機に瀕するるものの、間一髪でニックが助けに来る。ジュディとニックは和解し、リンクスリー家の悪事は暴かれ、ズートピアにまた平和が訪れるのであった。
この続編では、ズートピアの多様性や社会問題、特に植民地主義のテーマが扱われ、観客に深いメッセージを伝える。ジュディとニックの冒険を通じて、彼らはただのバディではなく、互いに成長し合う存在であることが強調される。
前作『ズートピア』は、肉食動物と草食動物の対立を、人間世界における人種差別や偏見のメタファーとして描いていた。うまくポリコレ的なテーマをストーリーに取り込んだ作品であった。
前作では「草食動物」と「肉食動物」が登場し、「偏見」や「差別」という問題が取り上げられていた。ただ、『ズートピア』ではあくまで同じ「哺乳類」しか登場しなかった。
『ズートピア2』では、『ズートピア』では登場しなかった「爬虫類」が登場した。作中で明らかになるが、ズートピアができる前の土地には爬虫類も住んでいた。
しかも、ズートピアの繁栄を支える「気候制御壁(Weather Walls)」の発明者は、実はリンクスリー家の祖先エベネーザではなく、ヘビのアグネス・デ・スネークだった。ズートピアは爬虫類の発明が元となってできた都市なのだ。
ただ、リンクスリー家が富を独占するために、アグネスから特許を奪い取り、爬虫類自体も『ズートピア』から追放した。理想郷として描かれるズートピアだが、根本には先住民族(爬虫類)からの搾取とその追放があったのだ。
前作では「偏見」や「差別」がテーマとして上がっていたが、今作では「植民地主義」や「歴史修正」が「先住民族からの搾取」がテーマになっているのかなと思う。
『ズートピア2』では、リンクスリー家が元々住んでいた爬虫類から土地を奪い追放する様子が描かれていたが、現実世界でいうところの「植民地主義」や「先住民族の搾取」に当たるんじゃないかなと思う。
アメリカの国の成り立ちを考えてみると、アメリカ建国時にはヨーロッパ人が入植した際には、ネイティブアメリカンは自らの土地を追われることになった。アメリカ政府は、彼らの権利を無視し、土地を強制的に取り上げる政策を進めた。これにより、多くの部族が移住を余儀なくされ、文化や社会が破壊された。ズートピア=アメリカという解釈で考えると、ヨーロッパ人=リンクスリー家、ネイティブアメリカン=爬虫類という解釈が成り立つんじゃないかなと思う。
他に類似する例を考えると、現在のイスラエル・パレスチナ問題のことも示唆しているように思える。毎回『ズートピア』は重いテーマを寓話的に描いているなと思う。
『ズートピア2』のラストシーンには、続編を匂わせる描写があった。エンドロール後にジュディがニンジンペンを再生し続けるシーンがあるのだが、最後に上から羽根が落下していた。これは、『ズートピア3』ではこれまで描かれてこなかった鳥類に焦点が当たることを暗示しているのかなと思う。いつになるか分からないが、ぜひ『ズートピア3』を見てみたいな。
毎年恒例のミステリーランキング、「このミステリーがすごい!2026年版」が発表された。
今年も多くの話題作が登場し、ミステリファンにとっては見逃せないランキングとなっている。
この記事では「このミステリーがすごい!2026年版国内ベスト10」に入ったミステリ小説を紹介したい。
「このミステリーがすごい!」は、宝島社が毎年発行しているミステリー小説のランキング本だ。ミステリーファンにはお馴染みのランキングだろう。国内・海外のミステリー作品を対象に、識者や書店員などの投票によってランキングが決定される。
単なるランキング本ではなく、著者へのインタビューやミステリーに関する特集記事なども充実しており、毎年ミステリーファン必携の一冊となっている。ミステリ作家の来年の新刊情報のところは参考になる。好きなミステリ作家がいれば、来年の新刊情報をいち早く知れるので是非読んでみてほしい。
「このミステリーがすごい!」のランキングは一年間のミステリを振り返る上で非常に参考になる。ランキング上位の作品はどれも魅力的なミステリ小説ばかりだ。
ちなみに2025年の「このミステリーがすごい!」1位は米澤穂信の『地雷グリコ』だった。
それでは「このミステリーがすごい!」の2026年版国内ベスト10に輝いた作品を紹介したい。
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。
1位に輝いたのは、櫻田智也の『失われた貌』だ。櫻田智也は、短編ミステリ『蟬かえる』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞し、注目を集めてきた。『失われた貌』は、彼のキャリアにおける新たな挑戦であり、警察小説という形でハードボイルドな要素を取り入れた作品である。
物語は、山奥で発見された顔のない死体から始まる。この死体は、十年前に失踪した父親の可能性を持つ小学生が登場し、事件は過去と現在が交錯する複雑な展開を見せる。櫻田は、緻密に張り巡らされた伏線と、意外な真相を用意し、読者を引き込む手法を駆使している。彼の作品は、単なる謎解きにとどまらず、人間ドラマや社会の暗部を描く深みを持っている。
『失われた貌』は、櫻田の独自の視点とスタイルが光る作品であり、ミステリーファンにとって見逃せない一冊である。
1978年の秋、矢吹駆とナディアは“三重密室事件”の記憶を持つダッソー家での晩餐会に招待され、アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者と議論する。晩餐会の夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。さらに運搬役に指名されたのはナディアだった。同夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見された。「誘拐」と「殺人」。混迷する二つの事件を繋ぐ驚愕の真実を矢吹駆が射抜く。
2位に輝いたのは、笠井潔の『夜と霧の誘拐』だ。矢吹駆シリーズの最新作である。
舞台は1978年のパリ。資産家令嬢と間違われ、運転手の娘が誘拐される事件が発生。時を同じくして、カトリック系私立校で女性院長の射殺体が発見された。一見無関係に見える「誘拐」と「殺人」。しかし、二つの事件は奇妙に共鳴し、哲学探偵・矢吹駆を深淵なる謎へと誘う。
本作の魅力は、緻密なロジックで構築された謎解きだけではない。ハンナ・アーレントを彷彿とさせる哲学者との対論を通じて、歴史の欺瞞や人間の罪といった重いテーマが突きつけられる。エンターテインメント性と思想性が高次元で融合した作品である。
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!
3位に輝いたのは、山口未桜の『禁忌の子』である。医療×本格ミステリの傑作だ。医療ミステリという枠組みの中で、生命倫理、親子関係、そして人間の業といった深淵なテーマが描かれている。
救急医の武田航のもとに、自分と瓜二つの溺死体が運び込まれる。身元不明のその遺体「キュウキュウ十二」の謎を追う中で、武田は自らの出生の秘密、そして生殖医療の闇に迫っていく。
嵐の夜、夫婦とその娘が殺された。現場には四人の実行犯がいたとされるが、捕まったのは、たった一人。策略、テロ、宗教問題……警察は犯人グループを追い詰めながらも、罠や時代的な要因に阻まれて、決定的な証拠を掴み切れずにいた。50年後、この事件の容疑者の一人が、変死体で発見される。現場に臨場した藤森菜摘は、半世紀にも及ぶ捜査資料を託されることに。上層部から許された捜査期間は一年。真相解明に足りない最後の一ピースとは何か? 刑事たちの矜持を賭けた、最終捜査の行方は――。
伏尾美紀の『百年の時効』は、1974年に発生した一家惨殺事件を背景にした壮大な警察小説だ。昭和、平成、令和の三つの時代を舞台に、四人の刑事が事件の真相を追い続ける物語である。
本作では、嵐の夜に起きた惨劇が未解決のまま50年が経過し、再び捜査が始まる。変死体の発見をきっかけに、過去の資料が一人の女性警察官に託され、彼女は限られた時間の中で真相を解明しようと奮闘する。伏尾は、警察制度の変遷や技術の進化を巧みに描写し、読者に深い感動を与える。
彼女の作品は、単なるミステリーにとどまらず、登場人物たちの人間ドラマや社会的背景をも織り交ぜており、リアリティと緊張感を持ったストーリー展開が特徴である。『百年の時効』は、警察小説の新たな金字塔として、多くの読者に支持されることが期待されている。
葉村晶も五十代に突入し、老眼に悩まされるお年頃。魁皇学園の元理事長でミステリのエッセイストとしても名を馳せた乾巌、通称カンゲン先生に、<秘密厳守>で「稲本和子」という女性の行方を捜してほしいと頼まれた晶。彼女の一人娘は学園の理事だったが、本屋で万引きしたとして留置中に急死していた……。高級別荘地の<介護と学園地区構想>など、さまざまな思惑が絡み合い、やがて誰もが予想のしない結末へ!
5位に輝いたのは、若竹七海の『まぐさ桶の犬』だ。主人公の葉村晶は五十代に突入し、老眼に悩まされながらも、元理事長の乾巌から依頼を受ける。依頼内容は、行方不明の女性「稲本和子」を捜すことであり、彼女の一人娘が万引きの末に急死したという衝撃的な背景がある。物語は、高級別荘地での介護と学園地区構想など、複雑な人間関係や思惑が絡み合い、予想外の結末へと進展する。新刊ながら文庫本で発売されているのでお財布にも優しい。
自動車期間工の本田昴は、Twitterの140字だけが社会とのつながりだった2年11カ月の寮生活を終えようとしていた。最終日、同僚がSUVブレイクショットのボルトをひとつ車体の内部に落とすのを目撃する。見過ごせば明日からは自由の身だが、さて……。以降、マネーゲームの狂騒、偽装修理に戸惑う板金工、悪徳不動産会社の陥穽、そしてSNSの混沌と「アフリカのホワイトハウス」――移り変わっていくブレイクショットの所有者を通して、現代日本社会の諸相と複雑なドラマが展開されていく。人間の多様性と不可解さをテーマに、8つの物語の「軌跡」を奇跡のような構成力で描き切った、『同志少女よ、敵を撃て』を超える最高傑作。
逢坂冬馬の『ブレイクショットの軌跡』は、自動車工場の期間工である本田昴が、勤務最終日に人気の四輪駆動車「ブレイクショット」のボルトを車体の内部に落とすのを目撃するところから物語が始まる群像劇である。この一台の車を起点に、様々な所有者や関係者の人間ドラマが連鎖的に展開されていく。
本作は、格差社会、LGBTQ、特殊詐欺といった現代社会が抱える多岐にわたる社会問題に鋭く切り込み、時に会議室からアフリカの紛争地帯、詐欺現場、青春の恋模様まで、舞台は広範に及ぶ。非正規雇用やSNS、マネーゲームといった問題がビリヤードのブレイクショットのように広がり、最終的にすべてが繋がる構成は圧巻である。努力が報われない若者たちの姿や、板金職人の父と息子の葛藤など、心揺さぶる人間ドラマが描かれ、圧倒的な構成力と社会への洞察が詰まった、2025年を代表するミステリー作品の一つと言っても過言ではない。
一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。
7位に輝いたのは、北山猛邦の短編集『神の光』だ。『神の光』は、物理トリックに定評のある著者が描く、幻想的かつミステリアスな世界を堪能できる作品である。本書には、家や街が一瞬で消失するというテーマのもと、五つの短編が収められている。各短編は、異なる時代や場所を舞台にし、消失の謎を解き明かすストーリーが展開される。
例えば、旧レニングラードの屋敷が一夜にして消える話や、1955年のネバダ州のカジノ街が跡形もなく消失する様子が描かれている。また、近未来のカスピ海西岸から平安時代の京都に至るまで、時空を超えた幻想的な旅が楽しめる。北山は、物理トリックを駆使しながらも、読者を驚かせる巧妙なプロットを展開し、最後には意外な真実が待ち受けている。
東京大空襲×洋装女性連続不審死. 実在した警視庁の写真室所属巡査と〝吉川線〟を考案した鑑識第一人者による傑作ミステリー!戦争で、空襲でどうせ死ぬ。それなのに、どうして殺人事件を追うのか?
石川智健の『エレガンス』は、1945年の東京を舞台に、警視庁写真室の石川光陽と内務省防犯課の吉川澄一が、連続する洋装女性の不審死事件を追う姿を描いている。彼らは実在の人物であり、石川は戦時中の東京の惨状を記録した写真家であり、吉川は鑑識の第一人者として知られる。
本作では、空襲が激化する中で、女性たちが自らの美しさを保とうとする姿が描かれ、彼女たちの抵抗が物語の重要なテーマとなっている。特に「釣鐘草の衝動」と呼ばれる事件は、女性たちの連続自殺とされていたが、吉川は他殺の可能性を疑い、捜査を進める。彼の言葉「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です」は、物語の核心を突く重要なメッセージである。
『エレガンス』は、戦時下のリアルな状況とミステリーを融合させた意欲作であり、著者の強い覚悟が感じられる作品である。
重大な罪を犯して少年院で出会った六人。彼らは更生して社会に戻り、二度と会うことはないはずだった。だが、少年Bが密告をしたことで、娘を殺された遺族が少年Aの居場所を見つけ、殺害に至る――。人懐っこくて少年院での日々を「楽しかった」と語る元少年、幼馴染に「根は優しい」と言われる大男、高IQゆえに生きづらいと語るシステムエンジニア、猟奇殺人犯として日常をアップする動画配信者、高級車を乗り回す元オオカミ少年、少年院で一度も言葉を発しなかった青年。かつての少年六人のうち、誰が被害者で、誰が密告者なのか?
新川帆立の『目には目を』は、少年犯罪をテーマにしたミステリである。物語は、少年院で出会った六人の少年たちが中心となり、彼らの過去とその後の人生を描く。特に、少年Aが出所後に被害者の母親に殺されるという事件が発端となり、密告者である少年Bの存在が物語の鍵を握る。ルポライターである「私」は、少年たちの証言を通じて、彼らの罪と贖罪の物語を掘り下げていく。
本作は、ただのミステリーに留まらず、復讐と贖罪、友情と更生といったテーマを深く掘り下げている。新川は、社会に適応できない人々の心情を描くことで、読者に深い共感を呼び起こす。特に、少年たちのそれぞれの背景や心理描写が巧みに描かれており、彼らの複雑な人間関係が物語に厚みを与えている。
ゴッドが好きな高校生の詩郎が出逢った、自分が空想で創ったはずの神の正体とは……? 地元の名士が殺害され、脅迫していたという謎の怪人・蠱毒王とは何者か……? 二つの迷宮的な事件が複雑怪奇に絡み合い、恐ろしいカタストロフィが待ち受ける本格超大作!
飛鳥部勝則の『抹殺ゴスゴッズ』は、令和と平成、二つの時代で発生する不可解な事件を描く。令和では、高校生の詩郎が空想で創り出した「怪神」が出現し、不可解な事件が進行する。一方、平成では、地元名士が「蠱毒王」と名乗る怪人からの脅迫を受け、金山の施設で奇妙な殺人事件が発生する。これらの事件の背後には、人知を超えた恐るべき存在が蠢いているとされる。
国内編だけではなく、「このミステリーがすごい!」の2026年版海外ベスト10に輝いた作品も紹介したい。
弁護士ランダルから仕事の依頼で事務所に呼び出されたムーンは、待合室で長く待たされていた。応接室からは弁護士の声が聴こえるも、入ってこいとの合図はない。痺れをきらして応接室のドアへと突入するムーン。そこにはデスクに腰かけたままナイフを突き立てられたランダルの死体がのこされ、殺害犯は廊下へ続くドアから逃亡したものと思われたが……「フアレスのナイフ」をはじめ、義足の私立探偵マニー・ムーンの名推理全7篇を収録した連作中篇集。
リチャード・デミングの『私立探偵マニー・ムーン』は、戦後アメリカを舞台にしたハードボイルド小説である。主人公のマニー・ムーンは、戦争で右脚を失った義足の探偵であり、タフな肉体と鋭い推理力を駆使して様々な事件を解決する。彼は元プロボクサーで、義足を武器として巧みに活用し、悪党たちと対峙する姿が描かれている。全7編から成る本作は、緻密な謎解きと活劇が融合した魅力的な作品であり、ミステリーファンを唸らせる内容となっている。
ギリシアでの生活に区切りをつけ、ロンドンに帰ってきたわたし、スーザン・ライランド。フリーランスの編集者として働いていたところ、予想だにしない仕事が舞いこんできた。若手作家が名探偵〈アティカス・ピュント〉シリーズを書き継ぐことになり、その編集を依頼されたのだ。途中までの原稿を読んだわたしは、作者が新作に自分の家族関係を反映しているのを感じる。ということはこの作品のように、現実世界でも不審な死が存在したのか?
アンソニー・ホロヴィッツの『マーブル館殺人事件』は、人気シリーズ「アティカス・ピュント」の第3作であり、前作『カササギ殺人事件』や『ヨルガオ殺人事件』に続く作品である。
女性編集者スーザン・ライランドが主人公となり、作中作のミステリーと現実の事件が交錯する独特の構造が展開される。ホロヴィッツは、巧妙なプロットと緻密なキャラクター描写で知られ、読者を引き込む力を持っている。
前科持ちのミリーが手に入れた、裕福な家庭でのハウスメイドの仕事。だが、この家は何かがおかしい。不可解な言動を繰り返す妻ニーナと、生意気な娘セシリア。夫のアンドリューはなぜ結婚生活を続けていられるのだろうか? ミリーは屋根裏部屋を与えられ、生活を始める。しかし、この部屋には……。そして、家族にまつわる真相が明かされるや、それまでに目にしたものすべてがひっくり返る。恐怖と衝撃のエンタメ小説。
フリーダ・マクファデンの『ハウスメイド』は、メイド視点のサスペンスフルなミステリである。主人公のミリーは、前科を持ち仮釈放中の女性で、裕福な家庭のメイドとして雇われる。しかし、彼女が働く家族には奇妙な秘密が隠されていて、特に妻ニーナの不安定な行動や、反抗的な娘セシリアの態度がミリーを困惑させる。物語は、ミリーがこの異常な家庭で直面する困難や緊張を描き出し、読者を引き込む。
心的外傷後ストレス障害で休職中の女性刑事アレックスがランチタイムに遭遇したのは、花嫁ふたりの同性婚パーティ。そこへ山刀を隠し持った中年女性が乱入し、片方の花嫁に向かって「人殺し!」と叫ぶ騒動を引き起こす。中年女性は、一方の花嫁の元夫が7年前に行方不明になり妻に殺されたのではないかと疑う、母親だった。アレックスの介入によって事なきを得たが、これは複雑に入り組んだ悲劇のたんなる発端に過ぎなかった……。ケント州の海沿いの町ダンジェネスを舞台に、7年前の行方不明事件、夫婦惨殺事件、町民を巻き込んだ大規模な投資詐欺、そして意外な犯人像と意外な結末。
ウィリアム・ショーの『罪の水際』は、ケント州の海辺の町ダンジェネスを舞台にした作品である。物語は、休職中の女刑事アレックスが同性婚パーティに居合わせ、そこで中年女性が花嫁に襲いかかろうとする事件から始まる。
アレックスはこの事件を阻止するが、町では夫婦の惨殺死体が発見され、現場には血文字のメッセージが残されていた。事件は大規模な投資詐欺と絡み合い、アレックスは自身の過去と向き合いながら真相に迫っていく。人間関係の複雑さと緊迫感が巧みに描かれた作品だ。
高校生のレッドは友人3人、お目付け役の大学生2人とキャンピングカーで旅行に出かけていた。だが人里離れた場所で何者かに狙撃され、車に閉じこめられてしまう。午前零時、狙撃者から連絡が。その人物は6人のうちの誰かが秘密を抱えている、命が惜しければそれを明かせと要求してきた。制限時間は──夜明けまで。『自由研究には向かない殺人』の著者が贈る究極のサスペンス!
ホリー・ジャクソン『夜明けまでに誰かが』は、『自由研究には向かない殺人』シリーズで知られる著者の初のノンシリーズ作品である。
春休みの旅行に出かけた高校生レッドら6人が乗るキャンピングカーは、人里離れた場所で何者かに狙撃され、車内に閉じ込められる。狙撃者は、6人のうち誰かが抱える秘密を夜明けまでに明かせば助命すると告げ、タイムリミットが迫る閉鎖空間での心理戦が幕を開ける。緻密なプロットと巧みな構成、そして読者の予測を裏切るどんでん返しが特徴の傑作サスペンスだ。
カルト教団の指導者が木に縛られ石打ちで殺された。聖書の刑罰を模した奇妙な殺害方法に困惑するポー。さらに遺体には、分析官ブラッドショーにも分からない暗号が刻まれていた。事件の鍵はカルト教団にあると推測する二人。一方でポーの所属する重大犯罪分析課に上層部から嫌疑がかかり、スパイが送りこまれる。チーム解体の危機が迫る中、ポーたちは捜査を開始するが……。
M・W・クレイヴンの『デスチェアの殺人』は、人気〈ワシントン・ポー〉シリーズ第六弾である。本作は、精神科医との面談で過去の事件を回想するポーの姿から始まる構成で、カルト指導者が石打ちという猟奇的な方法で殺されるという、これまで以上に残酷でヘビーな事件が描かれる。風景すらもミステリを語るかのような描写も特徴だ。
風光明媚なノーフォーク海岸沿いの保養地イーストレップスで、老婦人が友人宅を訪れた帰りにこめかみを刺されて殺害される。続けて第二、第三の殺人が同様の手口で繰り返され、街は謎の殺人鬼「イーストレップスの悪魔」の影におびえることに。地元警察はついに有力な容疑者を確保するに至るのだが……。意を凝らしたミスディレクションと巧妙なレッドへリング、白熱の裁判シーン、フーダニットとしての完成度。
1931年刊行ながら現代的と評されるのが、『イーストレップス連続殺人』だ。2025年6月に本邦初翻訳された。ノーフォーク海岸の保養地イーストレップスで起こる老婦人殺害事件を発端に、町は「イーストレップスの悪魔」と呼ばれる連続殺人鬼の影に怯えることになる。
黄金期ミステリの枠に収まらない多視点描写で、疑心暗鬼に陥る町や社会不安を描き出し、サスペンスを優先する手法は現代のクライムフィクションに通じる。巧妙なミスディレクションとレッドヘリング、白熱の裁判シーンも魅力で、読む者に不穏な余韻を残す心理スリラーだ。古典のイメージを覆す、早すぎた傑作をぜひ体験してほしい。
2003年、ロンドン北西部の廃倉庫で、自分たちは人間の姿をした天使だと信じるカルト教団《アルパートンの天使》信者数人の凄惨な遺体が見つかった。指導者の自称・大天使ガブリエルは逮捕され、現場で保護された17歳の男女と生後まもない乳児のその後は不明……。事件から18年、巧妙に隠蔽されてきた不都合な真相を、犯罪ノンフィクション作家の「取材記録」があぶり出す。圧巻のミステリー!
ジャニス・ハレットの『アルパートンの天使たち』は、2003年にロンドン北西部で発生したカルト教団の集団自殺事件を題材にした小説だ。 日本でも流行っているフェイクドキュメンタリーの形式のミステリ作品だ。ノンフィクション作家アマンダ・ベイリーが事件の真相を追う過程を描いており、彼女の取材記録やメッセージのやり取りを通じて進行する。地の文が一切なく、全編がドキュメント形式で構成されているため、読者は作家自身になったかのような没入感を味わえる。背後に潜む謎や、関係者の証言の食い違いが徐々に明らかになり、最後には衝撃的な真相が待ち受けている。巧妙な伏線回収が特徴の作品である。
突如発生した霧により、世界は滅亡した。最後に残ったのは「世界の終わりの島」、そこには100名を超える住民と、彼らを率いる3人の科学者が平穏に暮らしていた。沖には霧の侵入を防ぐバリアが布かれ、住民たちはインプラントされた装置により〈エービイ〉と名づけられたAIに管理されていた。だがある日、平穏は破られた。科学者のひとり、ニエマが殺害されたのだ。しかも住民たちは事件当夜の記憶を抹消されており、ニエマの死が起動したシステムによってバリアが解除されていた。霧が島に到達するまで46時間。バリア再起動の条件は殺人者を見つけること――。果たして「世界の終わりの島」に隠された秘密とは? そして真犯人は誰なのか?
スチュアート・タートンの『世界の終わりの最後の殺人』は、人類滅亡寸前の終末世界が舞台のSFミステリだ。謎の霧によって世界が荒廃し、最後の約100人がギリシャの孤島でAIに管理されながら暮らしている。
平和な日々が90年続いたある日、長老の一人が殺害される。この殺人事件の謎を46時間以内に解かなければ、島を守るバリアが解除され、人類は完全に滅びてしまうのだ。
犯人捜しと人類の命運が交差する究極のミステリに、読者は文字通り命を賭した推理をすることになるだろう。記憶の操作や特殊な設定が満載で、タートンらしい“チャレンジング”な一作だ。この壮大な物語は、あなたの常識を揺さぶること間違いなし!
1961年、ニューヨーク。ジャズ全盛のハーレムで最も怖れられる麻薬密売人クライドはその日、自身が犯した殺人を後悔していた。殺しは今夜で3度目だが、悔いたのははじめてだった。自責の念に沈むさなか、ジャズ界の庇護者パノニカから「3つの願い」を訊かれ、因縁を探る彼の思索は遠い過去へと跳ぶ。1936年にトランペッターを志し田舎からひとり大都会に出てきてからの日々、そして愛する歌姫に出会ってからの日々へと……。
ジェイク・ラマーの『ヴァイパーズ・ドリーム』は、ジャズと犯罪が交錯する1950年代のハーレムを舞台に繰り広げられる物語だ。
主人公は、夢破れたジャズミュージシャンのクライド“ザ・ヴァイパー”モートン。彼は音楽の才能に恵まれず、やがて厄介な事件に巻き込まれていく。本作はフランスで先行出版され、その後イギリス、アメリカでも成功を収め、有力誌からも高い評価を得た注目作である。
「このミステリーがすごい!2026」国内編・海外編ともにベスト10には、個性豊かな作品が揃ったなと思う。本格ミステリーからエンターテインメント性の高い作品まで、幅広いジャンルの作品がランクインしている。
櫻田智也の『失われた貌』が三冠か。昨年に引き続いて、ミステリランキングをある作品が総なめにする展開だな。
このランキングを参考にミステリを読んでみるのはどうだろう。
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