以下、添付した図面を参照して本発明の生体電気信号計測装置の実施の形態を説明する。なお、図中、同一の部材には、同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
 (第1の実施の形態)
 図1は、本発明の第1の実施の形態における生体電気信号計測装置の構成を説明するための概略ブロック図である。また、図2(A)は図1に示す生体電極の構造の一例を示す平面図であり、図2(B)は図2(A)のB-B線に沿った断面図であり、図2(C)は図1に示す生体電極の構造の他の例を示す平面図である。
 本実施の形態の生体電気信号計測装置は、一対の生体電極間において所定時間間隔で短絡と短絡の解除とを繰り返すことにより、生体電極間における分極電位の差を相殺しつつ、分極電圧の変動の影響を抑制するものである。
 図1に示すとおり、本実施の形態の生体電気信号計測装置100は、生体電極部10、スイッチ部20(短絡手段)、差動増幅部30(差動増幅手段)、生体電気信号抽出部40(生体電気信号抽出手段)、タイミング制御部50(タイミング制御部手段)、およびフィルタ部60を有する。
 <生体電極部>
 生体電極部10は、生体表面に装着されて生体表面の電位を導出する。生体表面の電位は、電極電位に生体内部の信号源に関わる電位(以下、生体電位と称する)が重畳されていると考えられる。
 本実施の形態では、生体電極部10は、一対の生体電極11A,11Bを有する。生体電極11A,11Bは、スイッチ部20の入力端子と差動増幅部30の入力端子とにそれぞれ接続されている。
 図2(A)および図2(B)に示すとおり、生体電極11A,11Bは、電極素子12A,12Bと、電極素子12A,12B上に塗布された導電性ゲル13A,13Bと、を含む。電極素子12A,12Bとしては、銀/塩化銀電極素子が好適に使用されるが、たとえば銀電極素子またはカーボン電極素子が使用されてもよい。また、導電性ゲル13A,13Bは、粘着性を有しており、ハウジング11Cの開口部を通じて生体表面と接し、生体表面と電極素子との間の導電性を向上させる。なお、ハウジング11Cに粘着剤を塗布することにより、粘着性を有しない導電性ゲルを使用してもよい。
 生体電極11A,11Bは、ハウジング11Cに収容され、互いに離隔して並置されている。図2(A)では、生体電極11A,11Bは、生体表面と接する面が半円形状に形成されており、半円形の直線部分が互いに対向するように配置されている。そして、生体電極11Aと生体電極11Bとは、互いに接触しないようにハウジング11Cの一部により離隔されている。生体電極11Aと生体電極11Bとの間の距離は、たとえば数mm程度に設定することが好ましい。
 なお、生体電極11A,11Bの形状は半円形に限定されず、他の形状であってもよい。たとえば、図2(C)に示す生体電極の他の例では、生体電極11Aは生体表面と接する面が円形状に形成され、生体電極11Bは生体表面と接する面が生体電極11Aと同心のリング状に形成される。したがって、一対の生体電極11A,11Bは、ハウジング11C内の同心円上に配置されている。その際、同心円中心部の電極面積と外周部の電極の面積を等しくすることが好ましい。
 また、生体電極11A,11Bは必ずしも一つのハウジングに納める必要はなく、2つの独立した生体電極を使用してもよい。
 <スイッチ部>
 スイッチ部20は、一対の生体電極11A,11B間を短絡する。本実施の形態では、スイッチ部20は、FET素子で構成される一対のアナログスイッチ21A,21Bを有する。
 アナログスイッチ21A,21Bの一方の端子は生体電極11A,11Bにそれぞれ接続され、他方の端子は短絡抵抗としてのジャンパ線21Cにそれぞれ接続される。ジャンパ線21Cは、グランドに接続してもよい。また、アナログスイッチ21A,21Bの制御端子には、タイミング制御部50から第1制御信号が入力される。
 アナログスイッチ21A,21Bは、タイミング制御部50からの第1制御信号に応じてオンまたはオフされる。アナログスイッチ21A,21Bがオンされると、生体電極11A,11B間がジャンパ線21Cを通じて短絡される。その後、アナログスイッチ21A,21Bがオフされると、生体電極11A,11B間の短絡が解除される。なお、ジャンパ線21Cの抵抗はごく小さい。
 <差動増幅部>
 差動増幅部30は、生体電極11A,11Bからの電気信号を差動増幅して出力する。差動増幅部30は、たとえばFET素子で構成される計装アンプを有する。差動増幅部30の一方の入力端子(-極)は生体電極11Aに接続され、他方の端子(+極)は生体電極11Bに接続される。また、差動増幅部30の出力端子は、生体電気信号抽出部40の入力端子に接続される。
 アナログスイッチ21A,21Bがオンされているとき、生体電極11A,11B間は短絡されるので、差動増幅部30の出力信号の振幅値は、ほぼ0[V]となる。一方、アナログスイッチ21A,21Bがオフされているとき、生体電極11A,11Bからの電気信号は、所定の利得で差動増幅されて生体電気信号抽出部40へ出力される。
 <生体電気信号抽出部>
 生体電気信号抽出部40は、差動増幅部30の出力信号から生体電気信号を抽出する。生体電気信号抽出部40の入力端子は差動増幅部30の出力端子に接続され、生体電気信号抽出部40の出力端子はフィルタ部60の入力端子に接続される。また、生体電気信号抽出部40の制御端子には、タイミング制御部50から第2制御信号が入力される。
 生体電気信号抽出部40は、A/D変換器および回帰分析部を有する。A/D変換器は、差動増幅部30の出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する。回帰分析部は、ディジタル信号に変換された差動増幅部30の出力信号のパルス波形を単指数関数で回帰分析する。
 生体電気信号抽出部40は、第2制御信号を受信すると、一対の生体電極11A,11B間の短絡が解除されてから次に短絡されるまでの間に、差動増幅部30の出力信号から生体電気信号を抽出する。本実施の形態では、生体電気信号は生体電位と電極電位との和に相当する信号である。抽出された生体電気信号は、フィルタ部60へ出力される。なお、単指数関数によるパルス波形の回帰分析方法については後述する。
 本実施の形態では、回帰分析部は、数値演算処理を高速に実行するプラットフォーム上に構成されることが好ましい。回帰分析部は、たとえばFPGA、ASIC、DSPで構成される。
 <タイミング制御部>
 タイミング制御部50は、一対の生体電極11A,11B間の短絡と当該短絡の解除とを繰り返すタイミングを制御する。
 タイミング制御部50の一方の出力端子は、スイッチ部20のアナログスイッチ21A,21Bの制御端子に接続されており、タイミング制御部50の他方の出力端子は生体電気信号抽出部40の制御端子に接続されている。
 タイミング制御部50は、第1制御信号を生成してスイッチ部20に伝達する。第1制御信号は、スイッチ部20のアナログスイッチ21A,21Bが所定周期でオン/オフを繰り返すようにハイレベル/ローレベルが切り替わる。ここで、所定周期は、1~5[ms]程度である。なお、第1制御信号は、たとえば同期パルス生成器で生成される。
 また、タイミング制御部50は、生体電気信号抽出部40が生体電気信号を抽出するタイミングを制御することもできる。その場合、タイミング制御部50は、第2制御信号を生成して生体電気信号抽出部40に伝達する。第2制御信号は、第1制御信号を所定時間tdだけ遅延させた信号である。
 <フィルタ部>
 フィルタ部60は、生体電気信号抽出部40の出力信号から高周波成分を除去して、生体電気信号計測装置100の出力端子に出力する。フィルタ部60は、たとえばカットオフ周波数が100~1000[Hz]のローパスフィルタを有する。フィルタ部60の入力端子は生体電気信号抽出部40の出力端子に接続され、フィルタ部60の出力端子は生体電気信号計測装置100の出力端子に接続されている。
 生体電気信号抽出部40からは、アナログスイッチ21A,21Bのオン/オフによって生成されるパルス信号が出力される。フィルタ部60は、生体電気信号抽出部40の出力信号の高周波成分を除去することにより、連続的なアナログ信号としての生体電気信号を抽出する。
 以上のとおり構成される本実施の形態の生体電気信号計測装置100は、一対の生体電極11A,11B、スイッチ部20、差動増幅部30、生体電気信号抽出部40、タイミング制御部50、およびフィルタ部60を有する。一対の生体電極11A,11Bは、生体表面と接し、互いに離隔して配置される。スイッチ部20は、生体電極11A,11B間を短絡する。差動増幅部30は、生体電極11A,11Bに接続されて生体電極11A,11Bからの電気信号を差動増幅する。生体電気信号抽出部40は、生体電極11A,11B間の短絡が解除されてから次に短絡されるまでの間に差動増幅部30の出力信号から生体電気信号を抽出する。タイミング制御部50は、生体電極11A,11B間の短絡と当該短絡の解除とを繰り返すタイミングを制御する。
 以下、図3~図4を参照して、本実施の形態の生体電気信号計測装置の作用について説明する。図3は、図1に示す生体電気信号計測装置における生体電極から差動増幅部に至る部分の等価回路図である。
 図3に示すとおり、等価回路は、生体表面に装着された生体電極11A,11BのインピーダンスZe、生体抵抗Rb、および差動増幅部30の入力抵抗Raを有する。
 インピーダンスZeは、直列に接続された抵抗Reおよび容量Ceが抵抗rと並列に接続されている形態にモデル化されている。ここで、容量Ceは、生体表面と生体電極との間の電気容量で、おもに生体電極表面における電気二重層による電気二重層容量であり、抵抗Reおよび抵抗rは、生体表面と生体電極との間の電気抵抗を含み生体電極の電気抵抗を表す。
 生体抵抗Rbは、生体電極11A,11B間における生体の電気抵抗であり、生体電極11A,11B間の距離に比例して大きくなる。また、差動増幅部30の入力抵抗Raは、数MΩ以上の高抵抗である。
 図3において、アナログスイッチ21A,21Bがオフされてから十分に時間が経過した後では、生体表面と生体電極11A,11Bとの間に生じる分極電圧による分極電位は平衡状態にある。分極電位は、生体内部の信号源からの電流、差動増幅部30のバイアス電流、生体表面と生体電極との間の化学的状態の違いなどにより、生体電極11A,11B間でわずかな差を有する。
 アナログスイッチ21A,21Bをオンすると、一対の生体電極11A,11B間が短絡されて等電位となる。その結果、生体電極11A,11B間の分極電位の差は相殺される。より具体的には、一対の生体電極11A,11B間が短絡されると、容量Ceに蓄えられていた電荷が、生体電極の抵抗Reと生体抵抗Rbを通じて放電される。したがって、生体電極11A,11B間の電位差は減少する。しかしながら、生体電極11A,11Bの分極電位は極性が同方向であるため、分極電位の多くは残留すると考えられる。なお、生体電極11A,11B間の短絡によるこの電位変化は、差動増幅部30の入力が短絡されているため、差動増幅部30の出力端子から取り出すことはできない。
 次に、一定時間が経過した後にアナログスイッチ21A,21Bをオフすると、一対の生体電極11A,11B間の短絡が解除されて、生体内部の信号源から容量Ceへ電荷が充電され始める。これと同時に、生体電極11A,11B間における分極電位の差も戻り始める。この分極電位の差は、指数関数状の立ち上がりを有するパルス波形として差動増幅部30の出力端子に現れる。
 上記パルス波形の最大値は、生体電位と電極電位とを総合した総合的な電位(以下、総合電位と称する)である。そして、パルス波が最大値に到達するまでアナログスイッチ21A,21Bをオフに維持すると、分極電位は平衡状態となる。平衡状態の分極電位は不安定であり、分極変動(ドリフト)が進行する。
 図4(A)~図4(C)は、生体電極11A,11B間の短絡と短絡の解除とを繰り返したときの差動増幅部30の出力波形を例示する波形図である。図4(A)~図4(C)において、縦軸は振幅[V]であり、横軸は計測開始からの経過時間[s]である。
 図4(A)は、差動増幅部30の出力信号を計測開始から約130秒間にわたり記録した波形図である。図4(A)において、AおよびBで示される部分で生体電位が大きく変化している。また、図4(B)は、図4(A)の36.78秒付近におけるパルス波形の拡大図であり、図4(C)は図4(A)の127.14秒付近におけるパルス波形の拡大図である。図4(B)および図4(C)に示すとおり、差動増幅部30の出力信号のパルス波形の立ち上がりエッジは、指数関数状に変化している。
 そこで、本実施の形態では、パルス波形の最大値を回帰分析で予測することにより、計測する総合電位が分極電位の変動の影響を受けることを低減する。より具体的には、アナログスイッチ21A,21Bをオフして生体電極11A,11B間の短絡を解除してパルス状電位を計測したのちに、アナログスイッチ21A,21Bをオンして生体電極11A,11B間を短絡する。
 なお、生体電極11A,11Bを近接して配置し、生体抵抗Rbを小さくすることにより、図3に示す等価回路の時定数を低下させることができるため、計測するパルスの周期を小さくすることができる。
 以下、図5を参照して、本実施の形態におけるパルス波形の回帰分析方法について説明する。図5は、単指数関数によるパルス波形の回帰分析を説明するための波形図である。図5において、縦軸は振幅[V]であり、横軸は計測開始からの経過時間[s]である。本実施の形態では、単指数関数によりパルス波形を回帰分析する。単指数関数は、下記の数式(1)で表される関数である。
 数式(1)において、第1項のa1は計算上の補正値であり、第2項のb1は生体電位と電極電位との和であり、τは生体電位が電気二重層などの生体と生体電極間の電気容量を充電する時定数と分極電位が平衡状態になるまでの時定数を総合した見かけ上の時定数である。
 図5に示すとおり、所定のサンプリング周期でパルス波形をサンプリングする。得られた複数のサンプリング値1を用いて単指数関数で回帰分析することにより、数式(1)におけるa1、b1、およびτが正確に決定され、回帰曲線2が得られる。本実施の形態では、サンプリング周期は、0.1~0.02[ms](サンプル速度:10~50[kHz])に設定することができる。なお、ドリフトが混入することを防止するため、分極電位が平衡状態に到達する前にパルス状電位のサンプリングを終える。
 数式(1)の第2項のb1は、生体電位と電極電位との和であるので、生体電位についての相対電位を示している。したがって、数式(1)の第2項のb1は、生体電位の真値を示すものではない。しかしながら、電極電位が一定の場合、相対電位でも生体電位と相関を有しているので、単指数関数による回帰分析は有効である。
 単指数関数パルス波形の回帰分析の結果、生体電位と電極電位との和に相当する信号が生体電気信号として生体電気信号抽出部40から出力される。生体電気信号抽出部40の出力信号は、振幅値が生体電位と電極電位との和の大きさに応じて変化する連続したパルス波形であるので、フィルタ部60のローパスフィルタにより高周波成分を遮断して連続的なアナログ信号の生体電気信号を出力する。以下、図6を参照して、本実施の形態の生体電気信号計測装置の実施例を説明する。
 (実施例)
 図6は、本実施の形態の生体電気信号計測装置の出力結果を例示する図である。図6において、縦軸は振幅[V]であり、横軸は計測開始からの経過時間[s]である。上側のトレースは、眼の両側および顔面体表上に装着した生体電極から直接的に計測した眼電位である。また、下側のトレースは、上側のトレースと同じ生体電極で本実施の形態の生体電気信号計測装置を通じて計測した電位である。
 上側および下側のトレースのどちらの場合についても、計測開始から約25秒で眼球を左に約30度シフトさせて留め、次に眼球を正面に戻したのちに右に約30度シフトさせ、そして約130秒後(上側のトレースは約100秒後)に正面に戻してから500秒まで固定した電位の計測結果である。
 図6に示すとおり、上側のトレースは、分極電圧の変動の影響を受けて右肩上がりに変化している。一方、下側のトレースは、分極電圧の変動の影響を受けずにほぼ水平を維持している。
 以上のとおり、説明した本実施の形態は以下の効果を奏する。
 (a)本実施の形態の生体電気信号計測装置は、生体表面に装着された一対の生体電極間の短絡を解除したのち、分極電位が平衡状態に到達する前にパルス状電位のサンプリングを終え、一対の生体電極間を短絡する。生体電気信号抽出部は、一対の生体電極間の短絡が解除されてから次に短絡されるまでの間に、差動増幅部の出力信号から生体電気信号を抽出する。したがって、分極電圧の変動の影響を抑制しつつ、生体電気信号の交流成分のみならず直流成分についても得られる。その結果、たとえば、これまでSQUID(Superconducting Quantum Interference Device)でしか計測することができなかった心筋虚血または脳梗塞による興奮性細胞の損傷電位を体表から検出することができる。また、分極電圧の変動の影響を抑制するために電極ペーストを使用しなくてもよい。
 (b)また、本実施の形態の生体電気信号計測装置は、植物の根、葉などの生体から生体電気信号を抽出する場合にも適用することができる。したがって、分極電圧の変動の影響を抑制するために特殊な電極を使用する必要もない。
 (第2の実施の形態)
 第1の実施の形態では、単指数関数によるパルス波形の回帰分析で生体電気信号を抽出した。第2の実施の形態では、重指数関数によるパルス波形の回帰分析で生体電気信号を抽出する。
 本実施の形態は、生体電気信号抽出部40の構成を除いて第1の実施の形態と同じ構成を有する。したがって、生体電気信号抽出部40の構成を除く他の構成についての説明を省略する。
 本実施の形態の生体電気信号抽出部40は、差動増幅部30から出力されるパルス波形を重指数関数で回帰分析して、生体電位と電極電位との和に相当する生体電気信号を抽出する。以下、図7を参照して、本実施の形態におけるパルス波形の回帰分析方法について説明する。図7は、重指数関数によるパルス波形の回帰分析を説明するための波形図である。図7において、縦軸は振幅[V]であり、横軸は計測開始からの経過時間[s]である。重指数関数は次の数式(2)で表される関数である。
 数式(2)において、第1項のa2は計算上の補正値であり、第2項のb2は生体電位であり、τ1は生体電位が電気二重層容量を充電する時定数である。また、第3項のcは電極電位であり、τ2は分極電位が平衡状態になるまでの時定数である。
 図7に示すとおり、所定のサンプリング周期でパルス波形をサンプリングする。回帰分析によりa2、b2、c、τ1、τ2を得るには、少なくなくともN=5個のサンプルが必要である。得られたサンプリング値1を用いて回帰分析することにより、数式(2)におけるa2、b2、c、τ1、およびτ2が決定される。図7において、曲線2は回帰曲線を示し、曲線3は数式(2)の第2項で表される曲線を示し、曲線4は数式(2)の第3項で表される曲線を示している。
 本実施の形態の重指数関数によるパルス波形の回帰分析では、単指数関数によるパルス波形の回帰分析のカイ二乗値を最大で30%下回るほど精度が向上する。
 以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。
 (c)生体電気信号抽出部は、重指数関数によりパルス波形を回帰分析する。その結果、生体電位を精度よく算出することができる。
 (第3の実施の形態)
 第2の実施の形態では、時定数τ2を重指数関数によるパルス波形の回帰分析で算出した。第3の実施の形態では、回帰分析する前に時定数τ2の近似値を算出しておき、その近似値を回帰分析の時定数τ2に適用する。
 上述のとおり、重指数関数によるパルス波形の回帰分析を実行することにより、数式(2)におけるa2、b2、c、τ1、およびτ2が決定される。しかしながら、サンプリングしたデータが雑音(予測できない外来雑音、不安定な電極電位など)を含んでいる場合、計算結果に誤差が生じる可能性がある。また、時定数τ2は、生体表面と生体電極との接触面における不確定要素により影響を受ける可能性もある。
 そこで、本実施の形態では、以下に示すとおり、回帰分析する前に時定数τ2の近似値を算出し、その近似値を回帰分析のτ2に適用することにより、回帰分析の計算誤差を減少させる。
 時定数τ2は、化学変化を伴うため時定数τ1と比較して著しく大きいと考えられる。したがって、時定数τ2がある特定の生体電極に固有の値であるとすると、時定数τ2は近似的に算出することができる。以下、図8を参照して、時定数τ2を近似的に算出する方法について説明する。
 図8は、第3の実施の形態の生体電気信号計測装置の構成を説明するための概略ブロック図である。図8に示すとおり、本実施の形態の生体電気信号計測装置200は、生体電極部110、スイッチ部120(短絡手段)、差動増幅部130(差動増幅手段)、生体電気信号抽出部140(生体電気信号抽出手段)、タイミング制御部150(タイミング制御部手段)、およびフィルタ部160を有する。差動増幅部130およびフィルタ部160については、第1の実施の形態と同様なので説明を省略する。
 <生体電極部>
 生体電極部110は、生体表面に装着された4つの生体電極111A~111Dを有する。生体電極111A,111B間、生体電極111B,111C間、および生体電極111C,111D間の距離は、いずれもdである。生体電極111A,111B間の生体抵抗はRb1であり、生体電極111A,111C間の生体抵抗はRb2=2×Rb1であり、生体電極111A,111D間の生体抵抗はRb3=3×Rb1である。生体電極111A~111Dの具体的な構造については、第1の実施の形態と同様なので詳しい説明を省略する。
 <スイッチ部>
 スイッチ部120は、複数の生体電極111A~111Dのうちから一対の生体電極を選択する。ここで、一対の生体電極のうちの一方は、生体電極111Aである。また、スイッチ部120は、上記の一対の生体電極間を所定の短絡抵抗を通じて短絡する。ここで、所定の短絡抵抗は、Rj1~Rj3およびジャンパ線121Dのうちのいずれか1つである。なお、ジャンパ線121Dの抵抗はごく小さい。
 本実施の形態では、スイッチ部120は、FET素子で構成される3つのアナログスイッチ121A~121Cを有する。アナログスイッチ121A,121Bは、それぞれ第1~第5端子を有し、第1端子は第2~第5端子のうちのいずれか1つの端子と接続される。また、アナログスイッチ121Cは、第1~第4端子を有し、第1端子は第2~第4端子のうちのいずれか1つの端子と接続される。
 アナログスイッチ121Aの第1端子は、生体電極111Aと差動増幅部130の一方の入力端子(-極)とに接続され、第2~第5端子は短絡抵抗Rj1~Rj3またはジャンパ線121Dの一端にそれぞれ接続される。一方、アナログスイッチ121Bの第1端子は、差動増幅部130の他方の入力端子(+極)に接続され、第2~第5端子は短絡抵抗Rj1~Rj3またはジャンパ線121Dの他端にそれぞれ接続される。ジャンパ線121Dは、グランドに接続することもできる。また、アナログスイッチ121Cの第1端子は、アナログスイッチ121Bの第1端子に接続され、第2~第4端子は、生体電極111B~111Dにそれぞれ接続される。
 また、アナログスイッチ121A~121Cの制御端子には、タイミング制御部150から第1および第2制御信号が入力される。
 アナログスイッチ121A,121Bは、タイミング制御部150からの第1制御信号を受信すると、第1端子と第2~第5端子との接続を切り替えて、短絡抵抗Rj1~Rj3およびジャンパ線121Dのいずれか1つを選択する。また、アナログスイッチ121Cは、タイミング制御部150からの第2制御信号を受信すると、第1端子と第2~第4端子との接続を切り替えて、生体電極111B~111Dのいずれか1つを選択する。たとえば、アナログスイッチ121A,121Bが短絡抵抗Rj1を選択し、かつ、アナログスイッチ121Cが生体電極111Bを選択すると、生体電極111A,111B間が短絡抵抗Rj1を通じて短絡される。
 <生体電気信号抽出部>
 生体電気信号抽出部140は、A/D変換器、回帰分析部141、およびτ2算出部142を有する。A/D変換器は、差動増幅部130の出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する。回帰分析部141は、ディジタル信号に変換された差動増幅部130の出力信号のパルス波形を重指数関数または単指数関数で回帰分析する。τ2算出部142は、差動増幅部130の出力信号のパルス波形から時定数τ2の近似値として時定数τGおよびτFを算出する。
 <タイミング制御部>
 タイミング制御部150は、スイッチ部120および生体電気信号抽出部140を制御する。本実施の形態では、タイミング制御部150は、時定数τGおよびτFを算出してから生体電気信号を抽出するように生体電気信号抽出部140を制御する。
 タイミング制御部150は、CPU、メモリ、および同期パルス生成器を有する。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って生体電気信号抽出部140を制御する。具体的には、タイミング制御部150は、生体電極111A~111Dが生体表面に装着されて計測が開始されると、時定数τGおよびτFを算出するように生体電気信号抽出部140に指示を出力する。また、CPUは、短絡抵抗Rj1~Rj3および生体電極111B~111Dの選択順序を生成する。そして、生成された選択順序に基づいて第1および第2制御信号が生成される。
 第1制御信号は、アナログスイッチ121A,121Bが短絡抵抗Rj1~Rj3およびジャンパ線121Dのうちのどの短絡抵抗をどのタイミングで選択するかについて制御する。第2制御信号は、アナログスイッチ121Cが生体電極111B~111Dのうちのどの生体電極をどのタイミングで選択するかについて制御する。
 同期パルス生成器は、所定時間間隔でハイレベル/ローレベルが切り替わるパルス信号を出力する。上記パルス信号に基づいて第3制御信号が生成される。第3制御信号は、生体電気信号抽出部140が生体電気信号を抽出するタイミングについて制御する。
 タイミング制御部150は、時定数τGおよびτFが算出されたのち、生体電気信号を抽出するように生体電気信号抽出部140を制御する。このとき、アナログスイッチ121A,121Bはジャンパ線121Dを選択する。
 以下、図9を参照して、τ2算出部142が時定数τGおよびτFを算出する方法について説明する。図9(A)は時定数τGを算出する方法を説明するための図であり、図9(B)は、時定数τFを算出する方法を説明するための図である。図9(A)において、縦軸は時定数τG[ms]であり、横軸は生体電極間距離d[cm]である。また、図9(B)において、縦軸は時定数τF[ms]であり、横軸は短絡抵抗[Ω]である。
 図8において、生体抵抗Rb、短絡抵抗Rj、および電極抵抗Reを通り一巡する閉回路全体の時定数をτ’とする。また、生体抵抗Rbによる時定数をτB、短絡抵抗Rjによる時定数をτJ、分極作用による電流と入力バイアス電流の和による時定数をτFとする。以上のように定義すると、時定数τ’は下記の数式(3)で表すことができる。
 上記数式(3)において、τB=τJ=0とすれば、τFを求めることができる。以下、τB=0としたときの時定数τGを算出する手順について説明したのち、τB=τJ=0のときの時定数τFを求める手順について説明する。
 まず、アナログスイッチ21A,21Bが短絡抵抗Rj1を選択し、かつ、アナログスイッチ21Cが生体電極111Bを選択するようにタイミング制御部150がスイッチ部120を制御する。その結果、差動増幅部130からはパルス波形が出力される。生体電気信号抽出部140は、パルス波形から立ち下りの時定数g(Rb1)を回帰分析して算出する。
 同様に、生体電極111Cを選択して立ち下りの時定数g(Rb2)を回帰分析して算出し、生体電極111Dを選択して立ち下りの時定数g(Rb3)を回帰分析して算出する。
 次に、下記の数式(4)および図9(A)に示すとおり、算出された時定数g(Rb1)~g(Rb3)を外挿することにより、d=0(Rb=0)、すなわちτB=0のときの時定数τGを算出する。
 同様に、短絡抵抗Rj2およびRj3に変えたとき、Rb1~Rb3における立ち下りの時定数を回帰分析して算出し、各々のRjについてτGを算出する。以下、短絡抵抗RjのときのτGをf(Rj)と表記する。
 下記の数式(5)および図9(B)に示すとおり、算出された時定数f(Rj1)~f(Rb3)を外挿することにより、Rb=0、Rj=0のとき、すなわち、τB=0、τJ=0のときの時定数τFを算出する。
 なお、時定数g(Rb)および時定数f(Rj)の外挿は、直線または対数関数などの関数を使用することができる。
 時定数τGおよびτFを算出する手順をまとめると、以下のとおりである。
 まず、特定の短絡抵抗について一対の生体電極間の生体抵抗Rbを変化させて差動増幅部130から出力されるパルス波形の時定数を外挿することにより、生体抵抗Rbがゼロのときの時定数τGを算出する。次に、短絡抵抗Rjを変化させて上記処理を実行し、各々の時定数τGを外挿することにより、短絡抵抗Rjがゼロのときの時定数τFを算出する。
 また、時定数τFは、分極作用による電流と入力バイアス電流との和により決定される時定数である。これらの2つ時定数を分離するには、上述した時定数τGおよびτFを算出する方法と同様にして、異なったバイアス電流を有する差動増幅部を使用して時定数を算出し、その結果を外挿して入力バイアス電流=0のときにおける、生体電極に固有の時定数τ2を算出する。なお、バイアス電流が微小である場合は、入力バイアス電流による時定数を無視することも可能である。
 以上のとおり、時定数τ2の近似値として時定数τGおよびτFの値を算出する方法を説明した。本実施の形態では、算出された時定数τGまたはτFを重指数関数によるパルス波形の回帰分析においてτ2に適用する。したがって、回帰分析する前に数式(2)のτ2が決定されているため、時定数τ1および生体電位b2の回帰分析の精度を向上することができる。
 なお、生体電位b2は、時定数τ2の値に影響を与える。したがって、算出された時定数τ2の近似値は、真値から僅かにずれる可能性がある。しかしながら、総合電位における分極電位の大きさは、生体電位b2の大きさよりも遥かに大きい(500倍以上と推定される)ため、生体電位b2が時定数τ2の値に与える影響は誤差の範囲内にあると考えられる。
 また、上述のとおり、本実施形態では、(i)生体表面に装着された4つの生体電極111A~111Dと、(ii)3つの短絡抵抗Rj1~Rj3とを用いて、上記生体電極および短絡抵抗の各組合せにおける時定数を算出する。そして、算出された時定数を外挿することにより、時定数τ2の近似値としての時定数τGおよびτFを算出し、測定系を校正する。算出された時定数τGまたはτFは、重指数関数によるパルス波形の回帰分析においてτ2に適用され、目的の生体電位が算出される。
 しかし、「生体内部のインピーダンス」などの電気生理学的諸値の個人差が、誤差の範囲内である場合には、上記(i)の4つの生体電極のうちの2つの生体電極111C,111Dを省き、2つ(一対)の生体電極111A,111Bのみで計測することが可能である。その結果、生体電位計測が飛躍的に容易となる。
 一方、上記(ii)の3つの短絡抵抗については、「皮膚表面の接触インピーダンス」などの電気生理学的諸値に、個人差がある場合は、計測精度の低下につながるため、短絡抵抗の数を削減するのは好ましくないが、個人差がない電極等を使用する場合は、短絡抵抗の数を削減できる。
 2つ(一対)の生体電極111A,111Bを用いて時定数τGまたはτFを算出することができるのは、たとえば以下の2つの場合である。
 第1に、単位距離あたりの生体抵抗Rbが既知である場合、図9(A)に示すそれぞれの短絡抵抗Rjiにおける傾きも既知である。したがって、既知の1つの生体電極間距離において時定数τGを計測することにより、生体抵抗Rbをゼロとしたときの短絡抵抗Rjiにおける時定数τGを算出することができる。
 すなわち、単位距離あたりの生体抵抗が既知である場合、特定の短絡抵抗について一対の生体電極を所定距離だけ離隔して配置し、差動増幅部130から出力されるパルス波形の時定数を計測して上記生体抵抗がゼロのときの時定数τGを算出する。この処理を、上記短絡抵抗を変化させて実行し、各々の上記時定数τGを外挿することにより、上記短絡抵抗がゼロのときの時定数τFを算出して当該τFをτ2に適用する。
 第2に、生体電極間距離が小さい場合には、Rbを無視することができる。この場合、それぞれの短絡抵抗Rjiにおいて計測した時定数τGを生体抵抗Rbがゼロのときの時定数τGとすることができ、生体電極間距離の情報は不要となる。
 すなわち、特定の短絡抵抗について一対の生体電極を接触させずに互いに近接して配置したとき、差動増幅部130から出力されるパルス波形の時定数を計測して上記生体抵抗がゼロのときの時定数をτGとする。この処理を、上記短絡抵抗を変化させて実行し、各々の上記時定数τGを外挿することにより、上記短絡抵抗がゼロのときの時定数τFを算出して当該τFをτ2に適用する。
 なお、より正確な計測のために、生体電気信号計測装置100による生体電位の計測を開始する前に検査して得られた血液化学成分情報などから、個人の生体抵抗Rbの値を推定することも可能である。
 (実施例)
 生体電極として日本光電工業社製の心電用電極Vitrode-Lを使用し、差動増幅部として日本光電工業社製の生体アンプMEG6116を使用してτFを算出した。その結果、τFは約2[ms]であった。
 以上のとおり、説明した本実施の形態は第1および第2の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。
 (d)本実施の形態の生体電気信号計測装置では、時定数τ2の値を決定してから重指数関数によるパルス波形の回帰分析を実行する。その結果、時定数τ1および生体電位b2の回帰分析の精度を向上することができる。
 (第4の実施の形態)
 第1~第3の実施の形態では、パルス波形を指数関数で回帰分析することにより、分極電圧の変動の影響を抑制した。第4の実施の形態では、分極電位が平衡状態に到達するまでの時定数τ2よりも十分短い時間でパルス波形の振幅値を保持することにより、分極電圧の変動の影響を抑制する。
 図10は、第4の実施の形態の生体電気信号計測装置の構成を説明するための概略ブロック図である。図10に示すとおり、本実施の形態の生体電気信号計測装置300は、生体電極部210、スイッチ部220(短絡手段)、差動増幅部230(差動増幅手段)、サンプルホールド部240(生体電気信号抽出手段)、タイミング制御部250(タイミング制御部手段)、およびフィルタ部260を有する。本実施の形態では、サンプルホールド部240以外の構成については、第1の実施の形態と同様なので説明を省略する。
 <サンプルホールド部>
 サンプルホールド部240は、差動増幅部230の出力信号から生体電気信号を抽出する。サンプルホールド部240の入力端子は差動増幅部230の出力端子に接続され、サンプルホールド部240出力端子はフィルタ部260の入力端子に接続される。また、サンプルホールド部240の制御端子には、タイミング制御部250から第2制御信号が入力される。
 サンプルホールド部240は、第2制御信号に応じて、一対の生体電極211A,211B間の短絡が解除されてから次に短絡されるまでの間に、分極電位が平衡状態に到達するまでの時定数τ2よりも十分短い時間でパルス波形の振幅値を保持する。
 図7に示すとおり、分極電位が平衡状態になるまでの時定数τ2は、生体電位が生体と生体電極間の電気容量を充電する時定数τ1よりも著しく大きい。したがって、パルス波形を保持するタイミングをτ2に対して十分に短い時間に設定することにより、分極電圧の変動の影響を抑制することができる。
 以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1~第3の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。
 (e)サンプルホールド部は、分極電位が平衡状態になるまでの時定数τ2よりも十分短い時間でパルス波形の振幅値を保持する。したがって、分極電圧の変動の影響を抑制しつつ、生体電気信号を簡易な構成で抽出することができる。
 (第5の実施の形態)
 第1の実施の形態では、生体表面に一対の生体電極が装着された。第5の実施の形態では、生体表面に二対の生体電極が装着され、二対の生体電極を使用して生体電気信号を抽出する。以下、図11を参照して、本実施の形態の生体電気信号計測装置について説明する。図11は、本発明の第5の実施の形態の生体電気信号計測装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
 図11に示すとおり、本実施の形態の生体電気信号計測装置400は、第1および第2生体電極部310,310’と、第1および第2スイッチ部320,320’(短絡手段)と、差動増幅部330(差動増幅手段)、生体電気信号抽出部340(生体電気信号抽出手段)、タイミング制御部350(タイミング制御部手段)、およびフィルタ部360を有する。
 本実施の形態は、第1および第2生体電極部310,310’およびスイッチ部320,320’の構成を除いて第1の実施の形態と同じ構成を有する。したがって、第1および第2生体電極部310,310’および第1および第2スイッチ部320,320’の構成を除く他の構成についての説明を省略する。
 <第1および第2生体電極部>
 第1生体電極部310は生体電極311A,311Bを有し、第2生体電極部310’は生体電極311A’,311B’を有する。本実施の形態では、第1生体電極部310と第2生体電極部310’とは、生体電極311A,311B間および生体電極311A’,311B’間の距離よりも遠く離れて配置されている。生体電極311A,311B,311A’,311B’の構造については、第1の実施の形態の生体電極11A,11Bと同じなので詳しい説明を省略する。
 <第1および第2スイッチ部>
 第1および第2スイッチ部320,320’は、生体電極311A,311B,311A’,311B’間を短絡する。第1スイッチ部320はアナログスイッチ321A,321Bを有し、第2スイッチ部320’はアナログスイッチ321A’,321B’を有する。
 生体電極311Aはアナログスイッチ321Aの一端と差動増幅部330の一方の入力端子(-極)とに接続され、生体電極311Bはアナログスイッチ321Bの一端に接続される。また、生体電極311A’はアナログスイッチ321A’の一端に接続され、生体電極311B’はアナログスイッチ321B’の一端と差動増幅部330の他方の入力端子(+極)とに接続される。アナログスイッチ321A,321B,321A’,321B’の他端は、短絡抵抗としてのジャンパ線321Cに接続される。ジャンパ線321Cは、グランドに接続してもよい。なお、ジャンパ線321Cの抵抗はごく小さい。
 本実施の形態では、アナログスイッチ321A,321B,321A’,321B’は、タイミング制御部350からの第1制御信号に応じてオンまたはオフされる。アナログスイッチ321A,321B,321A’,321B’がオンされると、生体電極311A,311B,311A’,311B’間がジャンパ線321Cを通じて短絡される。その後、アナログスイッチ321A,321B,321A’,321B’がオフされると、生体電極311A,311B,311A’,311B’間の短絡が解除される。
 以上のとおり構成される本実施の形態の生体電気信号計測装置300は、以下の作用を有する。
 本実施の形態では、生体表面に装着された二対の生体電極311A,311B,311A’,311B’間で分極電位の差を相殺し、当該二対の生体電極のうち生体電極311Aおよび311B’を使用して生体電気信号を抽出する。
 以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1~第4の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。
 (f)本実施の形態の生体電気信号計測装置は、生体表面に装着された二対の生体電極を使用して分極電位を相殺する。したがって、生体電気信号に雑音が混入することを抑制しつつ、各生体電極間の分極電位の差を効果的に相殺することができる。その結果、生体電気信号のSN比特性が向上する。
 (第6の実施の形態)
 第5の実施の形態では、一対の生体電極につき一方の生体電極を差動増幅部に接続して生体電気信号を抽出した。第6の実施の形態では、二対の生体電極のすべての生体電極を差動増幅部に接続して生体電気信号を抽出する。以下、図12を参照して、本実施の形態の生体電気信号計測装置について説明する。図12は、本発明の第6の実施の形態の生体電気信号計測装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
 図12に示すとおり、本実施の形態の生体電気信号計測装置500は、第1および第2生体電極部410,410’と、第1および第2スイッチ部420,420’(短絡手段)と、差動増幅部430(差動増幅手段)、生体電気信号抽出部440(生体電気信号抽出手段)、タイミング制御部450(タイミング制御部手段)、およびフィルタ部460を有する。
 本実施の形態は、第1および第2生体電極部410,410’と第1および第2スイッチ部420,420’との接続関係と、差動増幅部430の構成を除いて第5の実施の形態と同じ構成を有する。したがって、第1および第2生体電極部410,410’と第1および第2スイッチ部420,420’との接続関係と差動増幅部430の構成とを除く他の構成についての説明を省略する。
 第1生体電極部410は生体電極411A,411Bを有し、第2生体電極部410’は生体電極411A’,411B’を有する。本実施の形態では、第1生体電極部410と第2生体電極部410’とは、生体電極411A,411B間および生体電極411A’,411B’間の距離よりも遠く離れて配置されている。生体電極411A,411B,411A’,411B’の構造については、第1の実施の形態の生体電極11A,11Bと同じなので詳しい説明を省略する。
 第1および第2スイッチ部420,420’は、生体電極411A,411B,411A’,411B’間を短絡する。第1スイッチ部420はアナログスイッチ421A,421Bを有し、第2スイッチ部420’はアナログスイッチ421A’,421B’を有する。
 <差動増幅部>
 差動増幅部430は、第1差動増幅器430A、第2差動増幅器430B、および第3差動増幅器430Cを有する。第1動増幅器430Aの出力端子は第3差動増幅器430Cの一方の入力端子(-極)に接続され、第2動増幅器430Bの出力端子は第3差動増幅器430Cの他方の入力端子(+極)に接続される。
 生体電極411Aはアナログスイッチ421Aの一端と第1差動増幅部430Aの一方の入力端子(-極)とに接続され、生体電極411Bはアナログスイッチ421Bの一端と第2差動増幅部430Bの一方の入力端子(+極)とに接続される。また、生体電極411A’はアナログスイッチ421A’の一端と第1差動増幅部430Aの他方の端子(+極)とに接続され、生体電極411B’はアナログスイッチ421B’の一端と第2差動増幅部430Bの入力端子の他方(-極)とに接続される。アナログスイッチ421A,421B,421A’,421B’の他端は、短絡抵抗としてのジャンパ線421Cに接続される。ジャンパ線421Cは、グランドに接続してもよい。なお、ジャンパ線421Cの抵抗はごく小さい。
 本実施の形態では、アナログスイッチ421A,421B,421A’,421B’は、タイミング制御部450からの第1制御信号に応じてオンまたはオフされる。アナログスイッチ421A,421B,421A’,421B’がオンされると、生体電極411A,411B,411A’,411B’間がジャンパ線421Cを通じて短絡される。その後、アナログスイッチ421A,421B,421A’,421B’がオフされると、生体電極411A,411B,411A’,411B’間の短絡が解除される。
 以上のとおり構成される本実施の形態の生体電気信号計測装置500は、以下の作用を有する。
 本実施の形態では、生体表面に装着された二対の生体電極411A,411B,411A’,411B’間で分極電位の差を相殺し、当該二対の生体電極をすべて使用して生体電気信号を抽出する。
 以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1~第5の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。
 (g)本実施の形態の生体電気信号計測装置は、生体表面に装着された二対の生体電極のすべてを使用して分極電位を相殺し、生体電気信号を抽出する。したがって、生体電気信号に雑音が混入することを抑制しつつ、各生体電極間の分極電位の差を効果的に相殺することができる。その結果、生体電気信号のSN比特性が向上する。
 以上のとおり、実施の形態において、本発明の生体電気信号計測装置を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
 たとえば、第1~第6の実施の形態では、一対または二対の生体電極を使用した。しかしながら、本発明の生体電気信号計測装置は、三対以上の生体電極を使用することもできる。
 また、第1~第6の実施の形態では、生体表面に装着された生体電極を使用して生体電気信号を計測した。しかしながら、本発明は生体電極を生体表面に装着して生体電気信号を計測する場合に限定されない。たとえば、本発明は、脳神経、筋、分泌腺などに埋め込まれた生体電極を使用して生体電気信号を計測する場合にも適用することができる。
 また、第1~第6の実施の形態では、生体電気信号計測装置は、計測開始から連続的に生体電気信号を計測した。しかしながら、本発明の生体電気信号計測装置は、断続的に生体電気信号を計測することもできる。たとえば、心筋虚血などにおいて発生することのある異常な活動電位を計測するには、本発明の生体電気信号計測装置を用いて連続的に心電図を測定するほかに、正常時に電位を有しないT-P Interval(心電図上のT波とP波との時間間隔)での電位を計測することができる。
 また、第3の実施の形態では、時定数τGおよびτFを生体電気信号計測装置の内部で算出した。しかしながら、時定数τGおよびτFを生体電気信号計測装置の外部で算出し、算出結果を生体電気信号計測装置に取り込んでもよい。
 また、第3の実施の形態では、4つの生体電極を使用した。しかしながら、生体電極の数は4つに限定されず、5つ以上の生体電極を使用することもできる。
 なお、第1および第2の実施の形態において、生体電極11A,11Bのそれぞれのインピーダンスは同一であるものとして説明した。このように、生体電極11A,11Bののそれぞれの充放電特性が同等で電気化学的特性の揃った生体電極を使用することにより、生体電気信号の交流成分および直流成分を精度良く得ることができる。
 さらに、本出願は、2011年2月28日に出願された日本特許出願番号2011-042935号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。