【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は、接着力、タツク等の粘着特性が経日的に変
化しない新規な軟質塩化ビニル用水性粘着剤組成物に関
する。
従来の技術及びその問題点 粘着剤は、通常、紙、プラスチツクフィルム等に塗布
され、テープ、シート、ラベル等に適用されるものであ
る。水性エマルジヨン型粘着剤は、有機溶剤型粘着剤に
比べて、大気汚染がないこと、安全衛生に優れているこ
と及び省資源に適すること等の種々の利点を有するた
め、近年急速に有機溶剤型から水性エマルジヨン型に転
換される傾向にある。こうして、水性エマルジヨン型粘
着剤は、さまざまな用途に使用されてきているが、最
近、従来溶剤型ゴム系粘着剤が主に使用されている電気
絶縁用、電線結束用、雑貨用等の軟質塩化ビニルを支持
体とするテープ、シート、ラベル等に適用する粘着剤に
おいても水性エマルジヨン型粘着剤の開発が望まれてい
る。
従来、一般に、水性エマルジヨン型粘着剤にはアクリ
ルエマルジヨン型粘着剤やスチレン・ブタジエン共重合
体ラテツクス(以下、SBRラテツクスという)、天然ゴ
ムラテツクス(以下、NRラテツクスという)等をベース
ポリマーとしロジン、不均化ロジンのグリセリンエステ
ル、テルペン樹脂、石油樹脂等の粘着付与剤樹脂エマル
ジョンを添加してなるラテツクス系粘着剤が知られてお
り、支持体に紙、ポリエステルフイルム、セロハン等を
使用した粘着テープ、ラベル、シートに有用に用いられ
る。しかしながら、これら従来の水性エマルジヨン型粘
着剤を軟質塩化ビニルを支持体とするテープ、シート、
ラベル等に使用した場合には製造直後の接着力、タツク
等の粘着特性は優れているが、経時的に軟質塩化ビニル
支持体に起因する可塑剤が軟質塩化ビニル側より粘着剤
層に移行するため粘着剤の接着力、タツク等の粘着特性
が著しく低下するという問題が起きる。そのため、未だ
軟質塩化ビニルを支持体とするテープ、シート、ラベル
等に使用しうる水性エマルジヨン型粘着剤は得られてい
ない。
問題点を解決するための手段 本発明者らは、従来の水性エマルジヨン型粘着剤の有
する上記問題点、すなわち、水性エマルジヨン型粘着剤
を軟質塩化ビニルを支持体とするテープ、シート、ラベ
ル等に使用した場合には経時的に粘着特性が著しく低下
するという問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ベ
ースポリマーにSBRラテツクスおよびNRラテツクスの特
定比率の混合物を用い、粘着付与剤樹脂として特定の高
軟化点粘着付与剤樹脂エマルジヨンを用いた場合には軟
質塩化ビニルを支持体とするテープ、シート、ラベル等
に使用した場合にも製造直後の粘着特性が経時的に低下
しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、 ベースポリマーおよび粘着付与剤からなる粘着剤組成
物において、 (1)ベースポリマーがスチレン・ブタジエン共重合体
ラテツクスおよび天然ゴムラテツクスの混合物であっ
て、前者:後者の配合比率が固形分換算重量比で80:20
〜50:50であり、 (2)粘着付与剤が部分マレイン化不均化ロジンのペン
タエリスリトールエステルおよび/または部分フマル化
不均化ロジンのペンタエリスリトールエステルであり、
かつその軟化点が110〜140℃である樹脂を被分散体とし
てなる樹脂エマルジヨン であることを特徴とする軟質塩化ビニル用水性粘着剤
組成物に係る。
本発明においては、ベースポリマーとしてSBRラテツ
クスおよびNRラテツクスの特定比率の混合物を用いる。
ここでSBRラテツクスとはSBRラテツクスおよび/また
はカルボキシ変性SBRラテツクスを指し、通常、粘着剤
用として市販されているものが使用できる。SBRラテツ
クスはゴム弾性、低温物性の付与を考慮すればスチレン
/ブタジエンの結合比は重量比で25/75〜45/55であるの
が好ましい。スチレンが25重量部末満の場合にはガラス
転移点(以下、Tgという)が低下するため十分な凝集力
が得られない。45重量部を越える場合にはTgが高くなる
ため粘着性が低下する。また、ゲル分率(トルエン不溶
分重量%)は35〜65%であるのが好ましい、ゲル分率が
35%未満の場合には凝集力が低い。65%を越える場合に
は十分なタツクが得られない。カルボキシ変性SBRラテ
ツクスの変性率は一般に0.5〜7重量%のものがある。S
BRラテツクス、カルボキシ変性SBRラテツクスは一種を
用いることもでき、また結合スチレン量、ゲル分率、カ
ルボキシ変性率の違い二種以上を任意の割合で併用する
こともできる。市販品の例としては、例えばカルボキシ
変性SBRラテツクスにはポリサー社製の「PL−208」、
「PL−222」等があげられる。
また、NRラテツクスとしては、この種の組成物に用い
られるものをいずれも使用でき、解重合したもの及び解
重合しないもののいずれでもよいが、塩化ビニルテープ
等にした場合の凝集力、コスト等を考慮すれば解重合し
ないもののほうがよい。
SBRラテツクスとNRラテツクスとの混合比率は、固形
分換算重量比で80:20〜50:50の範囲で使用する。好まし
くは70:30〜60:40であり、SBRラテツクスとNRラテツク
スとの混合物中の結合スチレン量が20〜32%で使用する
のがより好ましい。SBRラテツクスの結合スチレン量が
少ない場合にはNRラテツクスとの配合比率を低くし、SB
Rラテツクスの結合スチレン量が多い場合にはNRラテツ
クスの配合比率を高くすればよい。スチレン量が少ない
場合には接着力が低下し、多すぎる場合には可塑剤の移
行が著しく凝集力が低下する。
他方、本発明組成物中の一成分たる樹脂エマルジヨン
に用いる粘着付与剤樹脂としては、部分マレイン化不均
化ロジンのペンタエリスリトールエステルおよび部分フ
マル化不均化ロジンのペンタエリスリトールエステルの
一種あるいは二種以上の混合物でなければならない。す
なわち上記粘着付与剤樹脂を用いることにより本発明の
目的が達成されるのである。
ここで、部分マレイン化不均化ロジンのペンタエリス
リトールエステル、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステルは、以下に示す方法により得ら
れる。すなわち、トール油ロジン、ウツドロジンおよび
ガムロジンのいずれか少なくとも一種100重量部に対し
無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸のいずれか少な
くとも一種1〜5重量部を付加反応させた後、不均化触
媒の存在下で不均化する。更にメタンスルホン酸等のエ
ステル化触媒の存在下あるいは不存在下で、上記得られ
た部分マレイン化不均化ロジン及び/又は部分フマル化
不均化ロジン100重量部に対してペンタエリスリトール
8〜15重量部をエステル化反応することにより得られ
る。尚、不均化反応、エステル化反応はこの順に行うこ
とも逆に行うことも、また同時に行うこともできる。こ
の際、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸のいずれ
か少なくとも一種の使用量が1重量部より少ないと軟化
点が十分に高くならない傾向にあり、また5重量部より
多いと軟化点が高くなり過ぎる傾向にありまた相溶性が
低下する傾向にあるので好ましくない。このようにして
得られた粘着付与剤樹脂の軟化点は110〜140℃であるの
が好ましく、特に120〜130℃が好ましい。軟化点が110
℃に満たない場合には接着力の経日的低下率が大きい。
140℃を越える場合にはタツクが低くなる。
次いで、上記樹脂をエマルジヨン化する。この際に使
用する乳化剤としては、α−オレフインスルホン化物、
アルキルサルフエート、アルキルフエニルサルフエー
ト、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルサル
フエート、ポリオキシエチレンアラルキルフエニルエー
テルのスルホコハク酸のハーフエステル塩、ロジン石鹸
等のアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルフ
エニルエーテル等のノニオン系乳化剤を例示できる。ま
た、乳化剤量は、特に限定されないが、樹脂100重量部
に対し、通常は固形分換算で1〜10重量部程度、好まし
くは1〜5重量部である。10重量部を越える場合には粘
着剤の耐水性、接着力が低下する。1重量部に満たない
場合には樹脂エマルジヨンの安定性が悪くなる。
高軟化点粘着付与剤樹脂エマルジヨンを得る方法とし
ては、前記高軟化点粘着付与剤樹脂をベンゼン、トルエ
ン等の溶剤に溶解したのち前記乳化剤と軟水を添加し、
高圧乳化機を用いてエマルジヨン化した後減圧下に溶剤
を除去する方法、樹脂の軟化点が約90℃以下となるよう
少量のベンゼン、トルエン等の溶剤を混合し、乳化剤を
練り込み、更に熱水を徐々に添加してゆき転相乳化させ
てエマルジヨンを得た後溶剤を減圧下に除去又はそのま
ま使用する方法、あるいはオートクレーブ中にて樹脂の
軟化点以上に昇温して乳化剤を練り込み熱水を徐々に添
加してゆき転相乳化させてエマルジヨン化する方法等を
挙げることができ、これらのいずれの方法によってもよ
い。
本発明の水性粘着剤組成物は、ベースポリマーである
SBRラテツクスおよびNRラテツクスの混合物と粘着付与
剤との配合比率が固形分換算重量比で80:20〜50:50の範
囲で配合使用するのが好ましい。特に好ましいのは70:3
0〜50:50である。高軟化点粘着付与剤樹脂エマルジヨン
の添加量が20重量部に満たない場合には十分な粘着性を
付与することができず、50重量部を越える場合には凝集
力が著しく低下するため好ましくない。
本発明の水性粘着剤組成物には、必要に応じて消泡
剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤
等を若干使用してもよい。
発明の効果 本発明の水性粘着剤組成物は、電気絶縁用、電線結束
用、雑貨用等に使用される軟質塩化ビニルを支持体とす
るテープ、シート、ラベル等に好適に適用でき、製造直
後の接着力、タツク等の粘着特性が経日後においても低
下しない。
実施例 以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳
細に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるもの
ではない。尚、各例中、部及び%は特記しない限りすべ
て重量基準である。
製造例 部分フマル化不均化ロジンのペンタエリスリトールエ
ステル(フマル化率:3.5重量%、軟化点125℃)100部を
トルエン60部に100℃にて約1時間溶解した後、80℃ま
で冷却してアニオン系乳化剤(ドデシルベンゼンスルホ
ン酸ソーダ塩)を固形分換算で3部及び水160部を添加
し75℃にて1時間強攪拌し予備乳化を行った。得られた
予備乳化物を高圧乳化機(マントンガウリン社製)によ
り300kg/cm2の圧力で高圧乳化して乳化物を得た。次い
で、減圧蒸留装置に前記乳化物200部を仕込み、50℃、1
00mmHgの条件下に6時間減圧蒸留を行い部分フマル化不
均化ロジンのペンタエリスリトールエステル樹脂エマル
ジヨン(固型分50%)123部を得た。
実施例1 製造例で得た部分フマル化不均化ロジンのペンタエリ
スリトールエステル樹脂エマルジヨン30部(固形分換
算)とカルボキシ変性SBRラテツクス(ポリサー社製「P
L−222」、結合スイレン量42%、不揮発分52%)49部
(固形分換算)、NRラテツクス(不揮発分62%)21部
(固形分換算)を混合し、更に、アクリル系増粘剤とし
て「プライマルASE−60」(日本アクリル社製、不揮発
分28%を5%に希釈して使用)0.5部(固形分換算)を
添加して増粘させて水性粘着剤組成物を得た。
実施例2 製造例で得た部分フマル化不均化ロジンのペンタエリ
スリトールエステル樹脂エマルジヨン40部(固形分換
算)とカルボキシ変性SBRラテツクス(ポリサー社製「P
L−222)、結合スチレン量42%、不揮発分52%)36部
(固形分換算)、NRラテツクス(不揮発分62%)24部
(固形分換算)を結合し、更に、アクリル系増粘剤とし
て「プライマルASE−60」(日本アクリル社製、不揮発
分28%を5%に希釈して使用)0.5部(固形分換算)を
添加して増粘させて水性粘着剤組成物を得た。
実施例3 製造例において、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステル(フマル化率3.5重量%、軟化
点125℃)に換えて部分マレイン化不均化ロジンのペン
タエリスリトールエステル(マレイン化率1.5重量%、
軟化点115℃)を用いた他は製造例と全く同様の操作を
行ないエマルジヨンを得た。次に、このエマルジヨンを
用い、実施例1と同様の配合により水性粘着剤組成物を
得た。
比較例1 製造例において、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステルに換えて不均化ロジンのグリセ
リンエステル(軟化点100℃、「スーパーエステルA−1
00」、荒川化学工業(株)製)を用いた他は製造例と全
く同様の操作を行ないエマルジヨンを得た。次に、この
エマルジヨンを用い、実施例1と同様の配合により水性
粘着剤組成物を得た。
比較例2 製造例において、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステルに換えて石油樹脂(軟化点100
℃、「クイントンD−100」、日本ゼオン(株)製)を
用いた他は製造例を全く同様の操作を行ないエマルジヨ
ンを得た。次に、このエマルジヨンを用い、実施例1と
同様の配合により水性粘着剤組成物を得た。
比較例3 製造例において、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステルに換えてポリテルペン系樹脂
(軟化点115℃、「YX−レジンPx ♯1150」、安原油脂
化学工業(株)製)を用いた他は製造例と全く同様の操
作を行ないエマルジヨンを得た。次に、このエマルジヨ
ンを用い、実施例1と同様の配合により水性粘着剤組成
物を得た。
比較例4 製造例において、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステルに換えてマイレン化ロジンのペ
ンタエリスリトールエステル(軟化点150℃、「マルキ
ードNo.5」、荒川化学工業(株)製)を用いた他は製造
例と全く同様の操作を行ないエマルジヨンを得た。次
に、このエマルジヨンを用い、実施例1と同様の配合に
より水性粘着剤組成物を得た。
比較例5 製造例において、部分フマル化不均化ロジンのペンタ
エリスリトールエステルに換えて重合ロジンのペンタエ
リスリトールエステル(軟化点121℃、「ペンセル
C」、荒川化学工業(株)製)を用いた他は製造例と全
く同様の操作を行ないエマルジヨンを得た。次に、この
エマルジヨンを用い、実施例1と同様の配合により水性
粘着剤組成物を得た。
塩化ビニルテープの作成方法 厚さ150μmの軟質塩化ビニルテープにプライマーと
して「ハイカー1571C」(B.F.Goodrich社製)/「PL−2
22」=1/1(重量比)を乾燥重量2〜3g/m2となるように
塗付した後、70℃で3分間循風乾燥器中にて乾燥して、
温度20℃、相対湿度65%の部屋に2時間放置した。更
に、水性粘着剤組成物を乾燥後の重量が28〜30g/m2とな
るように塗付し105℃で3分間循風乾燥器中にて乾燥後
ただちに巻き取り、塩化ビニルテープを作成した。その
後、温度20℃、相対湿度65%の部屋に24時間放置した後
に測定した値を製造直後の値とした。また、上記にて得
た塩化ビニルテープを70℃の循風乾燥器中に72時間放置
後取り出し、温度20℃、相対湿度65%の部屋に24時間放
置後測定した値をエージング後の値とした。尚、変化率
はいずれも以下の式にて求めた。
各種試験は以下の方法による。
1.接着力:測定温度20℃、引張速度300mm/minで、180°
剥離により、接着力(g/cm)を測定した。被着対象はス
テンレス板である。
2.タツク:JIS Z 0237に記載されたJ.Dow法により、傾
斜度30°、測定温度20℃で測定した。第1表中の数値は
Ball No.を示す。
3.凝集力:貼合わせ面積19×20mm2、荷重1kgで、塩化ビ
ニルテープの粘着面同志を貼合わせ20℃での保持時間
(分)で示す。