【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体基板、たとえば
シリコンの結晶欠陥、すなわち積層欠陥や転位、微小欠
陥を評価するのに使用される選択エッチング液に関する
ものである。
【0002】
【従来の技術】半導体デバイスの高品質化、高密度化、
高集積化、ウェハーの大口径化に伴い、半導体基板の結
晶欠陥の低減が求められている。半導体基板の結晶欠陥
は結晶成長に伴うものやプロセスにより誘起されるもの
がある。たとえば、熱処理により発生する熱応力転位や
積層欠陥、イオン注入による二次欠陥などがそれであ
る。これらの結晶欠陥はキャリアの生成、再結合中心と
して働き、デバイス中での少数キャリアの寿命をいちじ
るしく低減させ、リーク電流の原因となる。また、積層
欠陥や転位は重金属や酸素の析出サイトとなりやすい。
【0003】従来、半導体基板たとえばシリコン基板の
結晶欠陥を観察する選択エッチング液を用いることが、
エム・ライト著「ジャーナル オブ エレクトロケミカル
ソサエティ」1977年 第124巻 第756ページ
(M. Wright: J. Electrochem.Soc., 124, 756, (197
7))に示されている。この選択エッチング液はライト
(Wright)液と呼ばれ、酸化クロム(CrO3)のよう
な強力な酸化剤と水(H2O)や酢酸(CH3COOH)
のような緩衝剤と弗酸(HF)とで構成されている。
【0004】この選択エッチング液は、まずCrO3の
ような強力な酸化剤でシリコン表面を酸化し、続いてH
Fでこの酸化物(SiO2)を溶解する。欠陥が選択的
にエッチングされるのは、欠陥領域と他の完全領域での
シリコンの酸化速度が異なることによる。通常、欠陥部
分では、酸化速度が速く、欠陥部は凹状となり、エッチ
ピットと呼ばれる。したがって、このエッチピットを観
察することにより、半導体基板の結晶欠陥を評価するこ
とができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来の選択エッチング液では結晶欠陥種による欠陥検出感
度の結晶面方位依存性が大きく、各結晶面に発生した結
晶欠陥を同一選択エッチング液で正確に評価しにくいと
いう欠点を有していた。
【0006】本発明は、上記従来の問題点を解決するも
ので、結晶面によらずシリコンの結晶欠陥、すなわち積
層欠陥、転位、微小欠陥を評価することができる方法を
提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため
に本発明の選択エッチング液では、硝酸、酢酸、水、お
よび弗酸の混合液で構成されている。
【0008】また、前記混合液の組成比が容量比で硝
酸:酢酸:水:弗酸=X:3:1:1であり、硝酸の組
成が6〜12の範囲内である(ただし、弗酸の濃度が5
0%、硝酸の濃度が61%,酢酸の濃度が99%のと
き)。
【0009】
【作用】この構成によって、結晶欠陥種による欠陥検出
感度の結晶面方位依存性を少なくできる。また、この選
択エッチング液は、まず硝酸(HNO3)という強力な
酸化剤でシリコン(Si)表面を酸化し、続いて弗酸
(HF)でこの酸化物(SiO2)を溶解する。ここで
水(H2O)や酢酸(CH3COOH)は緩衝剤として働
き、シリコンのエッチング速度を制御する。
【0010】欠陥が選択的にエッチングされるのは、欠
陥領域と他の完全領域とのシリコンの酸化速度が異なる
ことによる。通常、欠陥部分では、酸化速度が速く、欠
陥部は凹状となり、エッチピットが形成される。これを
光学顕微鏡または走査電子顕微鏡で観察することで、半
導体基板の結晶欠陥を評価できる。
【0011】
【実施例】選択エッチング液に要求される特性として、
エッチング速度が制御しやすいこと、すべての半導体基
板の結晶面に適用できること、結晶欠陥との選択性が大
きく、どの種類の結晶欠陥も検出できること、および、
6価Cr等の有害物質を含まないことである。
【0012】以下、本発明の選択エッチング液の実施例
について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施
例の、シリコン基板のエッチング速度のHNO3容量比
依存性を示す図である。ここで、選択エッチング液はH
F(濃度50%),HNO3(濃度61%),CH3CO
OH(濃度99%)の試薬とH2O(超純水)とを混合
して作製した。組成比はHNO3(61%):CH3CO
OH(99%):H2O:HF(50%)=X:3:
1:1であり、HNO3の組成Xは3,6,9,12,
15と変化させた。シリコン基板はP型(100)、比
抵抗10〜15Ωcmである。液温は25℃である。
【0013】図1に示すように、HNO3容量比を増加
させると、シリコン基板のエッチング速度が増加する。
HNO3容量比を変化させることにより、選択エッチン
グ液のエッチング速度を容易に制御することができる。
【0014】また、図1からHNO3容量比が55〜7
0%の範囲(HNO3組成が6〜12の範囲)では、ラ
イト液と同等のエッチング速度を得ることができる。
【0015】次に、図2に本発明の選択エッチング液と
ライト液の(100)面上の転位に関する欠陥検出感度
比較を示す。ここで、選択エッチング液はHF(濃度5
0%),HNO3(濃度61%),CH3COOH(濃度
99%)の試薬とH2O(超純水)とを混合して作製し
た。組成比はHNO3(61%):CH3COOH(99
%):H2O:HF(50%)=X:3:1:1であ
り、HNO3の組成Xを6,9,12,15と変化させ
た。
【0016】ライト液とこの選択エッチング液の(10
0)面上の転位に関する欠陥検出感度比較を行った。同
一試料を二つに劈開して、エッチング量が等しくなるよ
うに、試料をエッチングし、光学顕微鏡でエッチピット
密度を測定する。試料により潜在する欠陥密度に違いが
あるため、エッチピット密度に差が生じるが、この選択
エッチング液は(100)面上の転位に対してライト液
と同等の欠陥検出感度を持つ。また、欠陥検出感度はH
NO3容量比に依存しない。
【0017】次に、図3にこの選択エッチング液とライ
ト液の(110)面上のバルク積層欠陥に関する欠陥検
出感度比較を示す。ここで、選択エッチング液はHF
(濃度50%),HNO3(濃度61%),CH3COO
H(濃度99%)の試薬とH2O(超純水)とを混合し
て作製した。組成比はHNO3(濃度61%):CH3C
OOH(濃度99%):H2O:HF(濃度50%)=
X:3:1:1であり、HNO3の組成Xを6,9,1
2,15と変化させた。
【0018】ライト液とこの選択エッチング液の(11
0)面上のバルク積層欠陥に関する欠陥検出感度比較
は、単一試料をエッチング量が等しくなるように、試料
をエッチングし、光学顕微鏡でエッチピット密度を測定
することにより行った。
【0019】図3より、この選択エッチング液は(11
0)面上のバルク積層欠陥に対してHNO3容量比が5
5〜70%の範囲(HNO3組成が6〜12の範囲)で
は、ライト液より高い欠陥検出感度を持つことがわか
る。
【0020】次に、図4にこの選択エッチング液とライ
ト液の(110)面上のバルク微小欠陥(BMD)に関
する欠陥検出感度比較を示す。ここで、選択エッチング
液はHF(濃度50%),HNO3(濃度61%),C
H3COOH(濃度99%)の試薬とH2O(超純水)と
を混合して作製した。組成比はHNO3(61%):C
H3COOH(99%):H2O:HF(50%)=X:
3:1:1であり、HNO3の組成Xを6,9,12,
15と変化させた。
【0021】ライト液とこの選択エッチング液のバルク
微小欠陥(BMD)に関する欠陥検出感度比較は、単一
試料をエッチング量が等しくなるように、試料をエッチ
ングし、光学顕微鏡でエッチピット密度を測定すること
で行った。
【0022】図4より、この選択エッチング液は(11
0)面上の微小欠陥(BMD)に対して、HNO3容量
比が55〜70%の範囲(HNO3組成が6〜12の範
囲)ではライト液より高い欠陥検出感度を持つ。
【0023】また、この選択エッチング液は(111)
面上の結晶欠陥などの場合にも適用できる。
【0024】
【発明の効果】本発明は、結晶面によらずシリコンの結
晶欠陥、すなわち積層欠陥、転位、微小欠陥を評価する
ことができる。特に、(110)上の積層欠陥、微小欠
陥の評価に関しては、従来の選択エッチング液よりも、
欠陥選択性が優れ、ウェハーの評価、プロセス誘起結晶
欠陥の観察に適している。また、簡単に半導体基板の結
晶欠陥箇所が識別でき、欠陥箇所の詳細な観察を可能に
する。不良原因を迅速に半導体装置製造工程あるいは半
導体装置開発工程へフィードバックでき、半導体装置の
歩留まり安定あるいは早期開発への効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】【図1】本発明の選択エッチング液における硝酸(HN
O3)容量比とシリコン基板のエッチング速度との関係
を示す図
【図2】本発明の選択エッチング液とライト液の転位に
関する欠陥検出感度比較を示す図
【図3】本発明の選択エッチング液とライト液のバルク
積層欠陥に関する欠陥検出感度比較を示す図
【図4】本発明の選択エッチング液とライト液のバルク
微小欠陥(BMD)に関する欠陥検出感度比較を示す図