【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃料噴射弁駆動制御装
置に係り、特に、エンジンの燃料噴射装置において使用
される電磁弁の駆動を制御する燃料噴射弁駆動制御装置
に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に、電磁式の燃料噴射弁では、図
3に示したようにプランジャ2がバネ3によって常時は
テーパー状の燃料噴射口1に当接されて閉弁状態を保っ
ている。ここで、プランジャ2の周囲に配置されたコイ
ルLに励磁電流が供給されると、プランジャ2がバネ3
のバネ力に抗して矢印a方向へ移動する。この結果、燃
料はプランジャ2と燃料噴射口1との間隙を通って噴射
される。
【0003】このように、燃料噴射弁では、コイルLに
与えられた燃料噴射パルスの時間だけ噴射弁が開くこと
から、燃料噴射量の制御は燃料噴射パルスのパルス幅を
制御することによって行われる。
【0004】一方、このような構成では、開弁時に燃料
噴射パルスが供給されても、バネ3のバネ力に抗する力
がコイルLに発生するまで開弁しないため、ある時間遅
れが生じる。また、閉弁時に燃料噴射パルスがオフにな
っても、コイルLに残留磁束があるため、直ぐにはプラ
ンジャ2が戻らない。したがって、このような燃料噴射
弁では、燃料噴射パルスを供給しても、これに即応した
噴射量制御が難しいという問題を本質的に抱えていた。
【0005】そこで、このような問題点に対処するため
に、図4に示したように、燃料噴射パルスのオン期間
中、初期の開弁時には比較的大きな励磁電流(開弁電
流)を流して素早い開弁動作を確保すると共に、一旦開
弁した後は、開弁状態の維持に必要な最低限の励磁電流
(保持電流)のみを流すことにより、閉弁時の残留磁束
を小さくする工夫がなされている。
【0006】更には、保持電流の遮断時に電磁弁に蓄積
されている電力をも効率良く吸収するために、例えば特
開昭52−125932号公報、特開昭57−2038
30号公報等では、いわゆるフライホイール回路を設け
た装置が提案されている。
【0007】図5は、フライホイール回路を備えた燃料
噴射弁駆動制御装置の主要部の構成を示した回路図であ
り、図6は、その主要部の駆動信号の波形図である。
【0008】コイルLの一端はNPNトランジスタQ1
のコレクタに接続され、トランジスタQ1のエミッタに
は、バッテリ電圧が印加される。コイルLの他端は、抵
抗Rを介して接地されている。また、コイルLおよび抵
抗Rと並列的に、フライホイール回路を構成するPNP
トランジスタQ2およびダイオードDが直列的に接続さ
れている。
【0009】このような構成において、図6(a) の燃料
噴射パルスに応答して、トランジスタQ1のベースに図
6(c) のチョッピング制御用のパルス信号が入力される
と、トランジスタQ1がオン/オフ制御される。トラン
ジスタQ1がオン状態になると、同図(b) に示したよう
に、コイルLに励磁電流ILが流れ出し、一次遅れで徐
々に増加する。
【0010】励磁電流ILが、閉弁状態の電磁弁を開弁
させるのに必要な電流値(開弁電流)I1に達して電磁
弁がプランジャ2の吸引を完了すると、トランジスタQ
1のベースが“L”レベルになってオフ状態になる。
【0011】その後、励磁電流ILが保持電流の下限値
I2まで低下すると、再びトランジスタQ1がオンにな
って励磁電流ILが流れ初め、励磁電流ILが保持電流
の上限値I3に達すると、再びトランジスタQ1がオフ
状態になる。以後、燃料噴射パルス(a) が“H”レベル
の期間中、このような制御が繰り返されて、励磁電流I
Lはプランジャを吸引保持するのに必要な電流値(保持
電流)に保たれる。
【0012】ここで、従来ではトランジスタQ2が、図
6(d) のように励磁開始と同時、あるいは同図(e) のよ
うに、トランジスタQ1の最初の遮断と同時にオン状態
になり、トランジスタQ1がオン/オフを繰り返してコ
イルLに生じた電力がフライホイール回路のダイオード
Dで吸収されていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来技術で
は、いずれもフライホイール回路を比較的長時間にわた
って付勢しなければならなかったので、トランジスタQ
2にベース電流を供給し続けなければならず、消費電流
が大きくなってしまうという問題があった。
【0014】本発明の目的は、上記した従来技術の問題
点を解決し、フライホイール回路の付勢時間を短くする
ことによって、消費電力を低減するようにした燃料噴射
弁駆動制御装置を提供するこことにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成させ
るために、本発明では、閉弁状態の電磁式燃料噴射弁を
開弁させるのに必要な開弁電流を供給した後は、開弁状
態の維持に必要な保持電流を、前記開弁電流の代わりに
電磁弁に供給するようにした燃料噴射弁駆動制御装置に
おいて、電磁弁への電力供給を制御する第1のトランジ
スタと、前記第1のトランジスタを制御して、電磁弁に
開弁電流および保持電流を供給する手段と、第2のトラ
ンジスタを介して前記電磁弁と並列接続され、第1のト
ランジスタの遮断時に、電磁弁に蓄積された電力を第2
のトランジスタを介して還流・減衰させる手段と、保持
電流を供給開始後、予定時間経過後に前記第2のトラン
ジスタを導通させる手段とを具備した点に特徴がある。
【0016】
【作用】上記した構成によれば、フライホイール回路を
付勢させる第2のトランジスタは、開弁電流に代わって
保持電流の供給が開始された後、予定時間が経過した後
にはじめて導通し、この時点からフライホイール回路が
付勢されることになる。したがって、フライホイール回
路を、従来のように開弁電流の供給と同時、あるいは保
持電流の供給と同時に付勢させた場合に比べて、フライ
ホイール回路の付勢時間すなわち第2のトランジスタの
付勢時間が短縮される。このため、第2のトランジスタ
を付勢させるために必要な電力を削減できるようになっ
て消費電力が低減される。
【0017】
【実施例】以下、図面を参照して本発明を詳細に説明す
る。図1は、本発明の一実施例である燃料噴射弁駆動制
御装置の主要部の構成を示したブロック図であり、前記
と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0018】電磁弁駆動手段10は、NPNトランジス
タQ1のオン/オフを制御することにより、コイルLに
供給する励磁電流ILを制御する。第1の電流検知部2
1は、励磁電流ILが開弁電流値I1に達したことを検
出して、電磁弁駆動手段10の出力を“L”レベルにす
る。第2の電流検知部22は、励磁電流ILが下降過程
において保持電流の下限値I2に達したことを検出し
て、電磁弁駆動手段10の出力を“H”レベルにする。
【0019】第3の電流検知部23は、励磁電流ILが
上昇過程において保持電流の上限値I3に達したことを
検出して、電磁弁駆動手段10の出力を“L”レベルに
する。フライホイール制御手段30は、燃料噴射パルス
(a) の立上がりを検出後、予定時間経過後にトランジス
タQ2をオン状態にする。
【0020】図2は、図1の主要部の信号波形を示した
波形図である。時刻t1において、燃料噴射パルス(a)
が立ち上がると、図2(c) のパルス信号が駆動手段10
から出力されてトランジスタQ1がオン状態となり、コ
イルLには、図2(b) の励磁電流ILが流れ始める。一
方、フライホイール制御手段30では、燃料噴射パルス
(a) が立ち上がると同時に内部タイマ(図示せず)がス
タートする。
【0021】励磁電流ILが増加し、時刻t2において
開弁電流I1に達すると、電磁弁が開いて燃料噴射が開
始されると共に、第1の電流検知部21がこれを検出し
て駆動手段10に制御信号を出力する。
【0022】第1の電流検知部21から制御信号を受信
した駆動手段10は、出力を“L”レベルにする。この
結果、トランジスタQ1がオフ状態となって励磁電流I
Lが減少し始める。
【0023】その後、時刻t3において、励磁電流IL
が保持電流の下限値I2に達すると、第2の電流検知部
22がこれを検出して駆動手段10に制御信号を出力す
る。第2の電流検知部22から制御信号を受信した駆動
手段10は、出力を“H”レベルにする。この結果、ト
ランジスタQ1がオン状態となって励磁電流ILが再び
増加し始める。また、励磁電流ILが保持電流の上限値
値I3に達すると、第3の電流検知部23がこれを検出
し、トランジスタQ1がオフ状態となる。
【0024】以後、燃料噴射パルス(a) が“H”レベル
の期間中、このような制御が繰り返されて、励磁電流I
Lはプランジャを吸引保持するのに必要な電流値(保持
電流)に保たれる。
【0025】一方、時刻t4において、フライホイール
制御手段30の前記内部タイマが予定時間(t4−
t1)の計時を完了すると、図2(d) のように、フライ
ホイール制御手段30の出力が“H”レベルになってト
ランジスタQ2がオン状態になる。したがって、これ以
後は、トランジスタQ1がオン状態からオフ状態に切り
替わった際に生じた電力は、トランジスタQ2を介して
ダイオードDで還流・減衰されるようになる。
【0026】なお、上記した実施例では、フライホイー
ル制御手段30が燃料噴射パルス(a) の立ち上がりと同
時に計時を開始するものとして説明したが、開弁が完了
してトランジスタQ1が最初にオフ状態となった時点
(図2の時刻t2)から計時を開始するようにしても良
い。
【0027】本実施例によれば、フライホイール回路
を、前記図6(d) のように、燃料噴射パルス(a) の立ち
上がりと同時に付勢し始めていた場合に比べれば、(t
4−t1)時間だけ付勢期間を短くできる。一方、前記
図6(e) のように、トランジスタQ1の最初の遮断時
(図2のt2に相当)から付勢し始めていた場合に比べ
れば、(t4−t2)時間だけ付勢期間を短くできる。
【0028】したがって、当該短縮された時間だけトラ
ンジスタQ2のベース電流を遮断することができ、消費
電力を低減することができるようになる。
【0029】
【発明の効果】上記したように、本発明の燃料噴射弁駆
動制御装置によれば、フライホイール回路を付勢するた
めのスイッチング手段を、開弁電流から保持電流に切り
替わった後、予定時間だけ経過したときから付勢するよ
うにしたので、スイッチング手段の付勢時間が短縮さ
れ、消費電力を低減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】【図1】 本発明の一実施例である燃料噴射弁駆動制御
装置の主要部の構成を示したブロック図である。
【図2】 図1の主要部の駆動信号の波形図である。
【図3】 電磁式燃料噴射弁の概略構成図である。
【図4】 燃料噴射パルスと励磁電流との関係を示した
図である。
【図5】 フライホイール回路を備えた燃料噴射弁駆動
制御装置の主要部の構成を示した回路図である。
【図6】 図5の主要部の駆動信号の波形図である。
【符号の説明】 10…電磁弁駆動手段、21…第1の電流検知部、22
…第2の電流検知部、23…第3の電流検知部、30…
フライホイール制御手段