【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、テレビジョンなどの
高能率符号化における前処理として、画像信号に含まれ
るランダム雑音を画質の劣化を最小限に抑えつつ効率よ
く除去し、あわせて符号化効率を向上させるための画像
信号雑音除去方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】テレビジョンなどの画像信号に含まれる
ランダム雑音を除去する場合、従来、高周波成分を除去
する低域通過形フィルタがよく用いられる。
【0003】図6は、(a),(b),(c)は、従来
の低域通過形フィルタを用いた雑音除去方法を説明する
ための図である。入力信号(原信号)が、図6(a)の
ような周波数成分からなる構造を持っているとすると、
このうちランダム雑音は通常高い周波数成分からなって
いると考えられる。従って、雑音を構成する周波数成分
のうち最も低いと思われる周波数fcをカットオフ周波
数とする図6(b)のような特性を持つ低域通過形フィ
ルタを設計し、このフィルタによるフィルタリングを画
像全体に施すことにより、図6(c)のように雑音成分
を除去した信号が得られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の雑音除去方
法によれば、カットオフ周波数以上の周波数成分はたと
え電力が非常に大きい場合でも除去されてしまうことに
なる。電力が大きいような場合には有意な成分である可
能性が高いため、無条件にこのような成分を除去すると
処理画像に大きな劣化を生じる可能性がある。
【0005】また、従来の方法は雑音除去という観点の
みからみれば問題はないが、これを、画像信号の高能率
符号化の前処理として適用した場合には、必ずしも適当
なものとはいえない。たとえば、画像信号の高能率符号
化として頻繁に用いられるものに離散コサイン変換(D
CT)符号化方式がある。DCT符号化方式においては
低次の係数に電力が集中したほうが一般的に符号化効率
がよい。ところで、ある一定の周波数の信号をDCTす
ると、その影響は、変換されたDCT係数の低次の係数
から高次の係数にある程度の幅を持って及ぶことが知ら
れている。このような場合、従来の方法に従って純粋に
高周波成分を取り除いた信号に対してDCTを行って
も、DCTの高次の係数が必ずしもゼロとはならず、結
果として前処理による符号化効率向上の度合が低下する
という問題点がある。
【0006】本発明は、上記問題点を解決するためにな
されたものであり、その目的は、原画像の視覚的な劣化
を最小限に抑えつつ、テレビジョン信号等のディジタル
画像信号に含まれる雑音を効率的に除去でき、あわせて
高能率符号化の前処理に用いた場合に符号化効率を向上
させることができる画像信号雑音除去方法および装置を
提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の上記の目的は、
まず、ディジタル画像信号の入力画像データを空間領域
内で小ブロックに分割し、次に、前記分割した各小ブロ
ックごとに平均値および分散を算出してしきい値を決定
し、次に、そのしきい値と前記各小ブロックを直交変換
して得られる直交変換係数とを比較し、前記直交変換係
数の絶対値が前記しきい値以下の場合についてはその直
交変換係数の値を強制的にゼロにした後、得られた直交
変換係数を逆変換することにより空間領域の画像データ
を得ることを特徴とする画像信号雑音除去方法によっ
て、もしくは、まず、ディジタル画像信号の入力画像デ
ータを空間領域内で小ブロックに分割し、次に、前記分
割した各小ブロックを直交変換して得られる直交変換係
数の電力によりしきい値を決定し、次に、そのしきい値
と前記各小ブロックを直交変換して得られる直交変換係
数とを比較し、前記直交変換係数の絶対値が前記しきい
値以下の場合については、その直交変換係数の値を強制
的にゼロにした後、得られた直交変換係数を逆変換する
ことにより空間領域の画像データを得ることを特徴とす
る画像信号雑音除去方法によって、達成できる。
【0008】また、上記の画像信号雑音除去方法は、デ
ィジタル画像信号の入力画像データを空間領域内で小ブ
ロックに分割する手段と、前記分割された各小ブロック
ごとに平均値および分散を算出する手段と、前記算出さ
れた平均値と分散から前記各小ブロックごとにしきい値
を決定する手段と、前記各小ブロックを直交変換して周
波数領域ブロックを構成する手段と、前記構成された各
周波数領域ブロック内の直交変換係数の絶対値を求める
手段と、前記求められた直交変換係数の絶対値をその小
ブロックで求められたしきい値と比較してその直交変換
係数の絶対値が該しきい値以下の場合についてはその直
交変換係数の値を強制的にゼロとする処理手段と、前記
処理手段で得られた直交変換係数を逆変換して空間領域
の画像データを得る手段と、を有することを特徴とする
画像信号雑音除去装置などによって、もしくは、ディジ
タル画像信号の入力画像データを空間領域内で小ブロッ
クに分割する手段と、前記分割された各小ブロックを直
交変換して周波数領域ブロックを構成する手段と、前記
構成された各周波数領域ブロック内の直交変換係数の電
力を算出する手段と、前記算出された電力から前記小ブ
ロックごとにしきい値を決定する手段と、前記各周波数
領域ブロック内の直交変換係数の絶対値を求める手段
と、前記求められた直交変換係数の絶対値をその小ブロ
ックで求められたしきい値と比較して直交変換係数の絶
対値がしきい値以下の場合についてはその直交変換係数
の値を強制的にゼロとする処理手段と、前記処理手段で
得られた直交変換係数を逆変換して空間領域の画像デー
タを得る手段と、を有することを特徴とする画像信号雑
音除去装置などによって、実現できる。
【0009】
【作用】本発明では、従来のように特定の周波数以上の
高周波成分を無条件に除去するのではなく、しきい値を
適応的に決定し、入力画像データの直交変換係数に対す
る前記しきい値を用いたしきい値処理によって、高周波
成分についても、しきい値以下のものは雑音として除去
する一方、そのしきい値以上のものについては保存され
るようにする。ここで、上記しきい値の決定は、入力画
像データの小ブロックごとに算出した平均値および分散
に基づき、あるいはその小ブロックを直交変換すること
で得られた直交変換係数の電力に基づいて決定すること
により、輝度が高い小ブロックや激しく変化している小
ブロックのしきい値が大きく設定されるようにして、上
記雑音の除去が、「信号値の変化分は、輝度が高い領域
ほどめだちにくく、また激しく変化している領域ほどめ
だちにくい。」という人間の視覚特性に適合したものと
なるようにする。また、雑音が除去された信号を直交変
換にて高能率符号化する場合、しきい値以下の直交変換
係数をゼロとすることで雑音を除去する本発明は、高次
の直交変換係数がゼロになる確率を大きくするので、結
果として、符号化効率を向上させる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例を、図面を用いて詳細
に説明する。
【0011】まず、本発明による請求項1の発明の一実
施例である画像信号雑音除去方法の第1の実施例を説明
する。図1はその処理の流れを表す図である。本実施例
の方法は、直交変換係数の高次係数しきい値処理により
雑音を除去する方法である。本実施例の方法では、ま
ず、ディジタル画像信号の入力画像データを空間領域内
でM×Nの小ブロックfi,j,i=0,1,…,M−
1,j=0,1,…,N−1に分割し、分割により構成
された各小ブロックごとに、平均値Lおよび分散σ2を
算出する。次に、得られた平均値と分散から定められた
関数によって各小ブロックごとにしきい値Tを決定す
る。ここで、しきい値Tは平均値Lが大きいほど大き
く、また分散σ2が大きいほど大きく設定される。次
に、各小ブロックを直交変換し、周波数領域のデータ
(直交変換係数)Fu,v,u=0,1,…,M−1,v
=0,1,…,N−1を得る。得られた各周波数領域ブ
ロック内の直交変換係数の絶対値を求め、求められた各
直交変換係数の絶対値を前述のしきい値Tと比較し、直
交変換係数の絶対値がしきい値以下の係数についてはそ
の値を強制的にゼロにするしきい値処理を施す。次に、
このようにしてしきい値処理された後の直交変換係数
F′u,vを逆直交変換して、出力小ブロックについての
空間領域の画像データf′i,jを得るようにする。
【0012】上記の第1の実施例の方法では、しきい値
Tを小ブロックごとに算出した平均値と分散から決定す
る例を示したが、本発明の画像信号雑音除去方法の第2
の実施例(本発明の請求項3の画像信号雑音除去方法に
対応する実施例)として、直交変換係数そのものからし
きい値Tを定めて同様にしきい値処理をすることもでき
る。この場合は、直交変換した後に、直交変換係数のブ
ロック内電力P=ΣF2u,vを求め、Pの関数としてし
きい値Tを決定するようにする。ここで、しきい値Tは
電力Pが大きいほど大きく設定される。
【0013】次に、本発明による請求項2の発明の一実
施例である画像信号雑音除去装置の第1の実施例を説明
する。図2は、その構成を示すブロック図である。本実
施例は、前述の画像信号雑音除去方法の第1の実施例を
実行する装置の構成例である。
【0014】図2において、301は画像入力部、30
2は画像入力部301から入力された入力画像データを
空間領域内で小ブロックに分割・構成する小ブロック構
成部、303は分割・構成された小ブロックの画像デー
タからその小ブロックの平均値と分散を算出する平均値
・分散算出部、304は算出された平均値と分散から小
ブロックごとにしきい値を計算して決定するしきい値計
算部、305は前記の各小ブロックの画像データを直交
変換して周波数領域ブロックを構成しその周波数領域ブ
ロック内の直交変換係数を得る直交変換部、306は前
記で得られた直交変換係数の絶対値をその小ブロックで
求められたしきい値と比較してその直交変換係数の絶対
値がしきい値以下の場合についてはその直交変換係数値
を強制的にゼロとするしきい値処理部、307はしきい
値処理部306で得られた直交変換係数を逆変換して空
間領域の画像データを得る逆直交変換部、308は逆直
交変換部307で得られた画像データを出力する画像出
力部である。また、309は小ブロック構成部302に
おいて空間領域で構成された小ブロックの画像データ、
310はしきい値計算部304で決定されたしきい値、
311は直交変換部305で得られた直交変換係数、3
12はしきい値処理部306でしきい値処理された直交
変換係数データ、313は逆直交変換部307で空間領
域に逆変換された画像データを示す。
【0015】上記構成の実施例の動作および作用は次の
とおりである。
【0016】直交変換としては、画像符号化の分野でよ
く用いられる離散コサイン変換(DCT)を考える。ま
ず、画像入力部301から画像信号が入力され、小ブロ
ック構成部302においてM×Nの小ブロックfi,jに
分割される。分割された各々の小ブロックの画像データ
309は、平均値・分散算出部303に入力され、小ブ
ロック内の画素値の平均値Lと分散σ2が次式で計算さ
れる。
【0017】
【数1】
【0018】上式で計算された平均値と分散から、定め
られた関数により、しきい値Tがしきい値計算部304
で求められる。一方、小ブロックの画像データ309は
直交変換部305においてDCTが施され、周波数領域
の直交変換係数データFu,v(以下、DCT係数と記
す)311が得られる。次に、しきい値処理部306に
て、DCT係数311の各係数の絶対値としきい値31
0とが比較され、それがしきい値以下の係数について
は、強制的にゼロにセットされる。このようにしてしき
い値処理された直交変換係数データ(DCT係数)F′
u,v312は逆直交変換部307において逆DCTが施
され、空間領域の画像データfi,j313が出力端子3
08に出力される。
【0019】上記において、平均値と分散からしきい値
を算出する関数は、人間の視覚特性を利用して定める。
人間の視覚特性として、平坦な部分が変化した場合はよ
く検知されるが、変化の激しい領域は多少の変化があっ
ても気がつかないという特性がある。分散はその領域の
変化の激しさを表すパラメータと考えられるので、分散
が大きいほどしきい値を大きくすることにより、しきい
値処理による視覚的な変化を少なく抑えつつ雑音を抑圧
することができる。また、同じ分散値を持つ領域におい
てもその平均輝度値が高いほど画像の変化は目につきに
くい傾向があるので、平均輝度レベルが高いほどしきい
値を大きく設定することができる。結果として、図3に
示すような特性によりしきい値を決定する設定方法を採
用すれば、原画像の劣化を最小限に抑えつつ効率的に雑
音を除去することが可能となる。
【0020】次に、本発明による請求項4の発明の一実
施例である画像信号雑音除去装置の第2の実施例を説明
する。図4は、その構成を示すブロック図である。本実
施例は、前述の画像信号雑音除去方法の第2の実施例を
実行する装置の構成例である。
【0021】図4において、501は画像入力部、50
2は画像入力部501から入力された入力画像データを
空間領域内で小ブロックに分割・構成する小ブロック構
成部、503は小ブロック構成部502で分割・構成さ
れた各小ブロックを直交変換して周波数領域ブロックを
構成しその周波数領域ブロック内の直交変換係数データ
を得る直交変換部、504はその直交変換係数データか
ら電力を算出する電力算出部、505は電力算出部で算
出された電力から小ブロックごとにしきい値を計算し決
定するしきい値計算部、506は前記の直交変換係数デ
ータを入力し直交変換係数の絶対値をしきい値計算部5
05においてその小ブロックで求められたしきい値と比
較して直交変換係数の絶対値がしきい値以下の場合につ
いてはその直交変換係数値を強制的にゼロとするしきい
値処理部、507はしきい値処理部506で得られた直
交変換係数データを逆変換して空間領域の画像データを
得る逆直交変換部、508は逆直交変換部507で得ら
れた画像データを出力する画像データ出力部である。ま
た、509は小ブロック構成部502において空間領域
で構成された小ブロックの画像データ、510は直交変
換部503で得られた直交変換係数データ、511はし
きい値計算部505で決定されたしきい値、512はし
きい値処理部506でしきい値処理された直交変換係数
データ、513は逆直交変換部507において空間領域
に逆変換された画像データ、を示す。
【0022】上記構成の実施例の動作および作用は次の
とおりである。
【0023】まず、画像入力部501から画像信号が入
力され、小ブロック構成部502においてM×Nの小ブ
ロックfi,jに分割される。分割された各々の小ブロッ
クの画像データ509は、直交変換部503においてD
CTが施され、周波数領域の直交変換係数データFu,v
(以下、DCT係数と記す)510が得られる。DCT
係数510は電力算出部504に入力され、ブロック内
の係数値の電力Pが次式で計算される。
【0024】
【数2】
【0025】上式で計算された電力から、定められた関
数によりしきい値Tがしきい値計算部505で求められ
る。次に、しきい値処理部506において、DCT係数
510の各係数の絶対値としきい値511とが比較さ
れ、それがしきい値以下の係数については、強制的にゼ
ロにセットされる。このようにしてしきい値処理された
直交変換係数データ(DCT係数)F′u,v512は、
逆直交変換部507において逆DCTが施され、空間領
域の画像データfi,j513が出力端子508に出力さ
れる。
【0026】この実施例でも、電力からしきい値を算出
する関数は、人間の視覚特性を利用して定められる。電
力は、輝度の平均値成分と変化の激しさの両方を表して
いると考えられるので、図5に示すように電力が大きい
ほどしきい値を大きくする設定方法を採用することによ
り、第1の実施例と同様に、しきい値処理による視覚的
な変化を少なく抑えつつ雑音を抑圧することができる。
【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
人間の視覚特性に適合してしきい値を適応的に設定する
ことができるので、原画像の視覚的な劣化を最小限に抑
えつつ効率的な雑音除去ができる。また、後段に直交変
換符号化を用いて画像情報圧縮を行う場合、本発明の画
像信号雑音除去方法を前処理として用いれば、高次の係
数がゼロになる確率が大きくなり、結果として符号化効
率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】【図1】本発明の画像信号雑音除去方法の一実施例を示
す処理の流れを表す図
【図2】本発明の画像信号雑音除去装置の第1の実施例
を示すブロック図
【図3】上記第1の実施例におけるしきい値設定方法を
示す図
【図4】本発明の画像信号雑音除去装置の第2の実施例
を示すブロック図
【図5】上記第2の実施例におけるしきい値設定方法を
示す図
【図6】(a),(b),(c)は従来の低域通過形フ
ィルタによる画像信号雑音除去方法を示す図
【符号の説明】 301…画像入力部 302…小ブロック構成部 303…平均値・分散算出部 304…しきい値計算部 305…直交変換部 306…しきい値処理部 307…逆直交変換部 308…画像出力部 309…空間領域で構成された小ブロックの画像データ 310…しきい値 311…直交変換係数データ 312…しきい値処理された直交変換係数データ 313…空間領域に逆変換された画像データ 501…画像入力部 502…小ブロック構成部 503…直交変換部 504…電力算出部 505…しきい値計算部 506…しきい値処理部 507…逆直交変換部 508…画像出力部 509…空間領域で構成された小ブロックの画像データ 510…直交変換係数データ 511…しきい値 312…しきい値処理された直交変換係数データ 313…空間領域に逆変換された画像データ