【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は金属線材、特に自動車タ
イヤ等に使用する鋼細線のレーザによる熱処理法及びそ
の装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車タイヤ等に用いられる鋼細線は、
自動車の高速化或いはエンジンの高出力化に対応し、よ
り高張力化が要求されている。この要求を満たすために
、例えば直径0.3mmの鋼線では少なくとも280K
gf/mm2 の高張力が必要であり、現状では340
Kgf/mm2 のものが製造されている。さらには3
60Kgf/mm2 超のものもあるが、このような高
い引っ張り強度を有する鋼細線にはもう一つの必要条件
である曲げ疲労強度が不足し、実用化を困難にしている
。
【0003】この疲労強度は、鋼細線の表層を軟化処理
することのより改善されることが知られており、その表
層改質にレーザビームによる熱処理方法が提案されてい
る。レーザビームによる表面熱処理は、加工物の表層の
みに行なえることや短時間処理が可能である等の利点は
あるが、強い指向性と集中性を有するため、比較的広い
処理面積に均一なエネルギー分布を形成するのが難しい
。そのため集光光学系、例えば、デフォカスビーム方式
、分割ミラー線状ビーム方式、ビームスキャナー方式等
を用いることにより、均一分布が可能となる。しかしな
がら、この種の加工物に照射されるエネルギー密度は、
溶接や切断等に使用する場合に比べて低いことと、レー
ザビームの加工物表面での反射率いため、表面に光線吸
収物質を塗布する等の手段が必要であり、また、反射率
は入射角が小さいほど高くなるため、この入射角を調整
しなければならないという問題がある。
【0004】一方、レーザビームを用いて鋼線や丸棒等
の加工物を熱処理する場合に、加工物の軸方向に略直角
な方向から、或いは軸方向からレーザビームを照射する
ことが、特開昭61−170521号公報に開示されて
いる。しかし、前者の場合には加工物の円周方向に対し
てレーザビームの吸収が不均一となり、エネルギー効率
が低下する。そのため、加工物表面にレーザ吸収物質な
どをと塗布することにより、効率向上を期待し得るが、
この吸収物質の塗布は難しく、特に製造オンラインでの
塗布は工程の付加となり製造コストの上昇を来す。また
後者の場合は、レーザビームの入射角が小さいためその
反射率が増大しエネルギー利用効率が著しく低下する。
【0005】この様な問題点を改良するために、本発明
者等は内面を鏡面にした円錐型或いは多角錐型のミラー
内に、レーザビームを中心軸に沿って入射し、ミラー内
を走行する加工物を多重反射で熱処理する方法を特開昭
63−262414号公報及び特開平2−101112
号公報に提示した。すなわちミラー中心軸に沿って入射
されたレーザビームはミラー内面を多重反射しながらミ
ラー頂部近傍で収斂させ、効率良い熱処理を行うことが
できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前述した従来
技術の問題点を解消するものであり、且つ前記公報記載
のミラーを用いてレーザビームによる加工物、特に線径
1mm以下の鋼細線を熱処理するにあたり、レーザビー
ムの入射、処理条件を改良することにより、ミラー内に
導かれたレーザビームが内部で多重反射を繰り返しなが
ら先端部で収斂し、ー層エネルギー密度を高め、円周方
向により平均化したビーム群で効率のより良い表層熱処
理を行って、疲労強度を大幅に向上させる高速の熱処理
方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に本発明は、次の構成を要旨とする。すなわち、(1)
頂角を5〜20度とした内面が鏡面である多角錐型
或いは円錐型ミラーにおいて、頂点に設けた開口の穴径
を通過する線径より0.2〜2mm大きく形成せしめ、
前記ミラー内にその中心軸に沿って線径1mm以下の金
属線材を走行させると共に、該ミラー中心軸より偏向角
10度以内のレーザビームを入射して、該レーザビーム
をミラー内面と走行線材表面との間で多重反射させるこ
とを特徴とする金属線材のレーザ熱処理法であり、(2
) 金属線材が重量%として、C:0.6〜1.2%, Si;0.1〜0
.5%,Mn:0.2〜0.8%, P:0.02%以下
、S:0.002〜0.02%,残部が実質的にFeよ
りなり、ブラスメッキをされ、280Kgf/mm2
以上に引っ張り強度を有することを特徴とする前項記載
の金属線材のレーザ熱処理法、及び(3) 金属線材が重量%として、Cr:0.1〜0
.7%を含有することを特徴とする前項記載の金属線材
のレーザ熱処理法、そして(4) 頂角を5〜20度とした内面が鏡面である多
角錐型或いは円錐型ミラーにおいて、頂点の穴径を通過
する線径より0.2〜2mm大きく形成し、前記ミラー
の底部に、金属線材通過開口を有し且つ煽り機構を設け
、該ミラー中心線に対して±10度偏向し得るレーザビ
ームをミラー内に反射させる反射鏡を備えたことを特徴
とする金属線材のレーザ熱処理装置である。
【0008】
【作用】以下に本発明を詳細に説明する。図1は本発明
の円錐型ミラー1を用いたレーザ熱処理設備の一例を模
式的に示したものである。円錐型ミラー1は例えば銅板
を円錐状に加工し、その内面2は金等でのメッキ或いは
研磨して鏡面を形成し、入射されるレーザビームが反射
されやすいようにする。ミラー1は円錐型に限らず多角
錐型であっても良いが、その頂角θ(多角錐の場合には
内接する円錐の頂角を意味する。以下本発明を円錐ミラ
ーについて説明する。)は5〜20度の範囲に構成する
。円錐ミラー1の頂部には熱処理された金属線材3を通
す出口4を設け、この穴径を、線材3の径より0.2〜
2mm大きくする。また該ミラー1の底部には、レーザ
ビームをミラー1内に照射する反射鏡5を、その面がミ
ラー1の軸線に対して基本的には45度になるような位
置に設定し、該反射鏡5に煽り機構6(図2,3参照)
を付帯設置し、反射鏡5を前記設置角±10度の範囲に
偏向可能にしている。
【0009】図中7はレーザ発信器であり、該発信器7
より発射されたレーザビーム8は、ベンディングミラー
9,9を介して通口10を経て反射鏡5に入射し、円錐
ミラー1の内部鏡面に達する。11は金属線材3の駆動
装置であり、該線材がミラー1内で所定の速度で走行で
きるように調整できる。12は反射鏡5に設けた線材3
の導入口、13はミラー内を非酸化性雰囲気にするガス
導入口である。上記した煽り機構6の一例を図2及び図
3に示す。図2に示す煽り機構は、円錐ミラー1の底部
フランジ1a,1bに螺合等の手段で進退可能に設置し
た調整手段6a,6bを反射鏡5に取り付けたものであ
り、この調整手段6a及び6bは夫々単独に、或いは同
期して互いに進退逆方向に作動し、反射鏡5を設定位置
(ミラー1の中心軸に対して45゜)から±10度以内
に偏向可能に微調整できるようしている。ミラー1の中
心線P1 −P2 にレーザビーム8が投入され、該ビ
ームがミラー1の中心線と同軸に反射される反射鏡5の
設定状態は、ミラー1の中心線中P1 −P2 と反射
鏡5で構成する角α0 が45度であり、この時のレー
ザビーム8が反射鏡5で反射してミラー1に投入される
角α1 は90度になる。煽りを作る場合は調整装置6
a,6bによって反射鏡5の反斜面中心点P1 を軸と
してミラー5の回転Rを行うことによりレーザビームの
反射角α1 は90度より小さくなり、その分の煽りα
が生じる。
【0010】図3は他の煽り手段を示すものであって、
反射鏡5にレーザビームを入射するベンディングミラー
9の設定角度を制御し、反射角α2 を90度より小さ
いな角α´2 にすることが出来る。但しこの場合、ミ
ラー9によって変化した角度に比例して、反射鏡5に入
射したレーザビーム8の中心が移動するので、煽りが大
きい場合にはミラー9の位置を、入射ビームの軸上で移
動(9´)し補正することが好ましい。
【0011】このように構成した煽り機構を有する円錐
型ミラー1内には、導入口12を通って導入された金属
線材3がミラー1中心軸に沿って所定の速度で走行し、
レーザビーム8により表層加工熱処理を受けてミラー頂
部の出口4より導出する。
【0012】レーザビーム8は、煽り機構6を作動して
反射鏡1を偏向することにより、図4に示すように入射
偏向角αで、つまりミラー1の中心軸線P1−P2 と
平行する線より僅かに(軸線に対する角αを10度以下
の範囲で)そらしてミラー内に入射すると、金属線材3
を回り込みながらミラーの内面間で多重反射を繰り返し
加工点Wであるミラー頂点部に達する。このように角α
と加工線材周面におけるエネルギー密度とは密接な関係
があり、角αに偏向入射したレーザビーム8を利用すれ
ば、図5に示すように、平行に入射されたレーザビーム
による熱処理加工に比べて、加工点である頂点近傍にお
いて、よりピークパワーの高い加工が可能となり、また
図6に示すように、入射偏向角αを10度以下にするこ
とにより全周面に亘って均一な熱処理加工ができる。1
0度を越えるとレーザビームが頂点に達する前に逆方向
に進むためピ−クパワーが上がらなくなる。
【0013】一方、金属線材の加工熱処理に必要な加工
パワーAは、実験結果から加工時のレーザの投入パワー
p、加工速度vの関係式である下式A=C・p0.7 /(d・v0.5 )但し、Cは加
工時の定数、dは与えられた鋼線径においてで求めるこ
とができ、少なくとも5kW/cm2 とすることが好
ましく、この条件を満足するためには、円錐型ミラー1
の構成を特定する必要がある。即ち該ミラー1の頂角θ
を5度以上にすることによって上記レーザ集光パワーを
得ることができる。しかし、20度を越えると該パワー
の周方向の均一性が得られなくなり、均一な熱処理が不
可能になる。また、ミラー1頂部の出口4の口径もレー
ザ集光パワーに影響する。本発明者の実験によると0.
3mmの鋼線をレーザ出力500W、ビーム径10mm
で加工熱処理をする場合、頂部出口径を下記の通り変え
た時のエネルギーロスは同時に併記した通り、両者の径
差が大きくなるほど多くなる。出口径(mm) エネルギーロス(W)0.4
0.70.5
11.01.0 30.32.5 80.6その結果、出口径を加工する金属線材の径に対して0.
2〜2mm大きくなるようにした。即ち、0.2mm未
満ではエネルギーロスは小さくなるが実用上障害が生じ
、他方2mmを超えるとエネルギーロスが大きく、加工
が不適切になるからである。
【0014】本発明において、上記したレーザ熱処理に
際しては、ミラー内での鋼細線加工表面の酸化を防止す
るためにミラー内をArなどの不活性ガス雰囲気にする
ことが好ましい。又、上記したレーザ熱処理装置を、金
属線材製造ラインのダイス間に設置すれば、加工を一層
容易に行うことができる。
【0015】本発明は線径1mm以下で280Kgf/
mm2 以上の引っ張り強さを有する鋼細線を処理対象
とし、その成分を限定した理由は次の通りである。Cは
所望の引っ張り強度を付与するために含有し、0.6%
未満では強度不足となり、1.2%を超えると靭性が劣
化する。従って0.6〜1.2%に限定した。Siは脱
酸のために通常含有する元素であり、鋼の強度アップに
1%まで許容される。好ましくは0.8%である。Mn
は鋼の焼き入れ性を確保するために添加する。しかし0
.8%を超えると熱処理の作業性がれかする。P,Sは
靭性向上のために少ない方がよく、いずれも0.02%
以下とする。尚Sを低くすることはブラスメッキの密着
性を向上できる。Crは必要に応じて添加するものであ
り、強度を向上するために0.1%以上添加する。しか
し0.7%を超えると熱処理作業性が低下する。尚、ブ
ラスメッキは、鋼細線の耐食性を向上し、タイヤなどに
使用する場合にゴムとの密着性を向上することができる
。
【0016】
【実施例】図1に示した設備により線径0.3mmの高
炭素鋼線を処理した。即ち、円錐型ミラー1内に、駆動
装置により80m/min の速度で移動する前記鋼線
を挿通させ、レーザ発信器7から出力500Wで発射し
たのレーザビーム(11mmφ)を反射鏡によりミラー
軸心に対して0.3度偏向させてミラー内に照射した。円錐型ミラーの頂角は10度、出口径は1mmとした。
【0017】上記本発明の処理をした鋼細線は、断面ほ
ぼ1μmの極表層に、円周方向に均一な焼鈍層が形成さ
れ、引っ張り強度330Kgf/mm2 ,曲げ疲労強
度60Kgf/mm2 (7本束ねで行った)が得られ
た。これに対しレーザ処理を行わない鋼細線は引っ張り
強度は330Kgf/mm2 と同等であったが、曲げ
疲労強度は30Kgf/mm2 であり本発明法処理材
が極めて優れていることが分かる。
【0018】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のレーザビ
ーム処理を行った鋼細線は、表層部がより均一に熱処理
され、曲げ疲労強度をより一層向上できて、タイヤ等に
使用される鋼線として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】【図1】本発明装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の煽り機構の一例を示す図である。
【図3】本発明の他の煽り手段の一例を示す図である。
【図4】本発明の円錐型ミラー内にレーザビーム照射状
況を示す概略図である。
【図5】本発明の円錐型ミラー内へのレーザビーム入射
角とエネルギー密度との関係を示す。
【図6】本発明の円錐型ミラー内へのレーザビーム入射
角と加工線材周面におけるエネルギー平均密度との関係
を示す。
【符号の説明】1:円錐型ミラー2:内面3:金属線材4:出口5:反射鏡6:煽り機構7:レーザ発信機8:レーザビーム9:ベンディングミラー10:通口11:駆動装置12:線材導入口13:ガス導入口