以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の還元反応用固体触媒は、タンパク質存在下での還元反応に使用されるものであり、下記式(1):
〔前記式(1)中、Mは、配位子Lが結合していてもよい遷移金属原子を表し、R1〜R8のうちの少なくとも1つの基は、下記式(2):
(前記式(2)中、Yは、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基及びイミド基からなる群から選択される2価又は3価の有機基或いは単結合であり、Raは炭素数1〜8のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリル基を表し、Rbは水素原子又はシリル基を表し、kは1又は2であり、iは1〜3の整数であり、jは0〜2の整数であり、1≦i+j≦3であり、iとjとの組み合わせは、複数存在する前記式(2)で表される基においてそれぞれ独立であり、*は隣接する構造との結合部位である。)
で表される基であり、R1〜R8のうちの残りの基はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である。〕
で表される構造を備える遷移金属含有メソポーラス有機シリカからなるものである。このような本発明の還元反応用固体触媒においては、タンパク質がメソポーラス有機シリカの細孔内に侵入しにくく、このような細孔内に触媒活性種である遷移金属原子が固定化されているため、タンパク質による触媒の失活が抑制され、タンパク質の存在下においても高い触媒活性を得ることが可能となる。
本発明の還元反応用固体触媒において、前記式(1)で表される構造は、前記遷移金属含有メソポーラス有機シリカの骨格中に含まれていることが好ましい。これにより、細孔内での反応基質の拡散性が阻害されにくくなり、高い触媒活性を得ることができる。
本発明の還元反応用固体触媒は、前記式(1)で示されるように、ビピリジン基を含有しており、このビピリジン基が遷移金属原子に配位することによって遷移金属錯体が形成され、この遷移金属錯体が活性サイトとなって触媒作用を示す。なお、本発明の還元反応用固体触媒においては、全てのビピリジン基が前記遷移金属原子に配位している必要はない。また、前記遷移金属含有メソポーラス有機シリカにおいては、前記式(2)で表される基は架橋点を有する基(以下、「架橋基」ともいう)であり、この架橋基中のシロキサン結合(Si−O結合)によってビピリジン基が三次元的に架橋されているため、本発明の還元反応用固体触媒は、機械的作用や化学的作用に対して高い耐久性を示すものとなる。
前記式(1)において、Mは遷移金属原子を表す。このような遷移金属原子としては、還元反応に触媒活性種として作用するものであれば特に制限はないが、還元反応において高い触媒活性を示す錯体触媒が得られるという観点から、周期表第9族の遷移金属原子が好ましく、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)がより好ましい。
また、このような遷移金属原子Mには、配位子Lが結合していてもよい。Mに配位している配位子Lの数は1又は2以上であり、2以上の配位子Lが配位している場合、それらは同一のものであっても異なるものであってもよい。このような配位子Lとしては、前記遷移金属原子に配位するものであれば特に制限はないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシル基、アセトキシ基等の酸素系配位子、カルボニル、1,5−シクロオクタジエン、cis−シクロオクテン、テトラメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、シメン等の炭素系配位子、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィンといったトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスフィンといったトリアリールホスフィン等のリン系配位子、アンモニア、シクロヘキシルジアミン、アルキルアミン等の窒素系配位子、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン系配位子、トリフラート、トシラート、メシラート等のスルホン酸系配位子が挙げられる。このような配位子のうち、触媒反応時に脱離しやすいという観点から、ハロゲン系配位子、スルホン酸系配位子が好ましく、スルホン酸系配位子がより好ましく、また、遷移金属原子上の電子密度を向上させるという観点から、炭素系配位子が好ましく、テトラメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエンがより好ましい。また、テトラヒドロフラン(THF)やアセトニトリル(CH3CN)等の溶媒分子が配位していてもよい。
また、前記式(1)において、R1〜R8のうちの少なくとも1つの基は、前記式(2)で表される架橋基であり、メソ細孔構造が形成されやすいという観点から、R1〜R4のうちの少なくとも1つの基及びR5〜R8のうちの少なくとも1つの基がそれぞれ独立に前記架橋基であることが好ましく、R2及びR6がそれぞれ独立に前記架橋基であることがより好ましい。
前記式(2)中のYは、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)、アルケニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アルキニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜12)、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基及びイミド基からなる群から選択される2価又は3価の有機基或いは単結合である。
前記アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、前記アルケニレン基としては、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基等が挙げられ、前記アルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基等が挙げられ、前記アリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環の芳香族環、ナフチレン基、フルオレニレン基等の芳香族縮合環が挙げられる。
このような2価又は3価の有機基及び単結合のうち、固体触媒の機械的強度及び化学的安定性が向上するという観点から、アルキレン基及び単結合が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基及び単結合がより好ましい。
前記式(2)中のRaは、炭素数1〜8(好ましくは1〜4)のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリル基を表し、前記アリル基はメチル基等の置換基を有していてもよい。また、前記式(2)中のRbは水素原子又はシリル基を表し、前記シリル基としては、トリメチルシリル基等のアルキルシリル基が挙げられ、Rbとしては、化学的安定性が向上するという観点から、シリル基が好ましい。
また、前記式(2)中の*は、隣接する構造との結合部位である。前記隣接する構造としては、前記遷移金属含有メソポーラス有機シリカ中の前記式(1)で表される構造からなる繰り返し単位、後述する式(3)で表される構造からなる繰り返し単位、後述する式(4)で表される構造等が挙げられる。
前記式(2)中のkは1又は2であり、iは1〜3の整数(好ましくは2〜3の整数)であり、jは0〜2の整数(好ましくは0〜1の整数)であり、1≦i+j≦3(好ましくは2≦i+j≦3)である。なお、iとjとの組み合わせは、複数存在する前記架橋基においてそれぞれ独立であり、本発明の還元反応用固体触媒中の全ての前記架橋基において同じである必要はない。
前記式(1)において、R1〜R8のうちの残りの基はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、或いはアルキル基(好ましくは炭素数1〜12)、アリール基(好ましくは炭素数6〜12)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、フェノキシ基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基(好ましくは炭素数1〜4)、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選択される1価又は2価の有機基である。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、前記アリール基としては、例えば、フェニル基等の単環の芳香族環、ナフチル基、フルオレニル基等の芳香族縮合環が挙げられ、前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、前記カルボン酸エステル基としては、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、カルボン酸ブチル基等が挙げられる。
このような1価又は2価の有機基のうち、固体触媒の機械的強度及び化学的安定性が向上するという観点から、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、フェニル基、フェノキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
前記式(1)で表される構造を備える遷移金属含有メソポーラス有機シリカにおいて、遷移金属含有メソポーラス有機シリカ1gあたりの遷移金属原子の固定化量としては、0.01mmol/g以上であれば特に制限はないが、触媒活性の向上と遷移金属原子の有効利用という観点から、0.01〜3.0mmol/gが好ましく、0.02〜2.5mmol/gがより好ましく、0.05〜2.0mmol/gがさらに好ましく、0.075〜1.5mmol/gが特に好ましく、0.10〜1.0mmol/gが最も好ましい。
このような遷移金属原子の固定化量は、ビピリジン基含有メソポーラス有機シリカ中のビピリジン基の含有量に応じて任意に調整することができ、また、前記ビピリジン基の含有量も任意に調整することができる。特に、本発明の還元反応用固体触媒においては、細孔直径が比較的大きいメソポーラス有機シリカを担体として用いているため、細孔が閉塞したり、細孔直径が小さくなったりしにくいため、触媒性能を低下させることなく、遷移金属原子の固定化量を増加させることができる。
また、前記式(1)で表される構造を備える遷移金属含有メソポーラス有機シリカにおいては、前記式(1)で表される構造以外の構造(以下、「その他の構造」という)を含んでいてもよい。このようなその他の構造としては、下記式(3)及び(4):
で表される構造が好ましく、これらの構造はいずれか一方が含まれていても両方が含まれていてもよい。
前記式(3)において、R9は、2〜4価の有機基であり、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜12)等が挙げられる。前記式(3)及び(4)において、Rcはそれぞれ独立に炭素数1〜8(好ましくは1〜4)のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリル基を表し、前記アリル基はメチル基等の置換基を有していてもよい。また、前記式(3)及び(4)において、Rdはそれぞれ独立に水素原子又はシリル基を表し、前記シリル基としては、トリメチルシリル基等のアルキルシリルが挙げられ、Rdとしては、化学的安定性が向上するという観点から、シリル基が好ましい。
また、前記式(3)及び(4)中の*は、隣接する構造との結合部位である。前記隣接する構造としては、前記遷移金属含有メソポーラス有機シリカ中の前記式(1)で表される構造からなる繰り返し単位、前記式(3)で表される構造からなる繰り返し単位、前記式(4)で表される構造等が挙げられる。
前記式(3)及び(4)中のrはそれぞれ独立に1又は2であり、pはそれぞれ独立に1〜3の整数(好ましくは2〜3の整数)であり、qはそれぞれ独立に0〜2の整数(好ましくは0〜1の整数)であり、1≦p+q≦3(好ましくは2≦p+q≦3)である。なお、pとqとの組み合わせは、複数存在する前記式(3)又は(4)で表される構造においてそれぞれ独立であり、本発明の還元反応用固体触媒中の全ての前記式(3)又は(4)で表される構造において同じである必要はない。
前記式(1)で表される構造を備える遷移金属含有メソポーラス有機シリカにおいて、このようなその他の構造の割合としては、前記式(1)で表される構造とその他の構造との合計量に対して、99.5mol%以下であれば特に制限はないが、触媒活性が向上するという観点から、0〜90mol%が好ましく、0〜70mol%がより好ましく、0〜50mol%がさらに好ましく、0〜30mol%が特に好ましい。
本発明にかかる遷移金属含有メソポーラス有機シリカはメソ細孔を有する構造(メソ細孔構造)を有する。このようなメソ細孔構造における細孔径(中心細孔直径)としては、タンパク質が細孔内に侵入することを防ぐという観点から、タンパク質分子の大きさより小さいことが好ましく、具体的には、1〜20nmが好ましく、2〜10nmがより好ましい。中心細孔直径が前記下限未満になると、触媒反応における反応基質がメソ細孔内に十分に拡散せず、触媒反応が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、タンパク質が細孔内に侵入し、触媒活性種である遷移金属原子が失活する傾向にある。
また、前記メソ細孔構造における全細孔容量としては、0.1cm3/g以上が好ましく、0.2cm3/g以上がより好ましい。全細孔容量が前記下限未満になると、触媒反応における反応基質がメソ細孔内に十分に拡散せず、触媒反応が十分に進行しない傾向にある。さらに、前記遷移金属含有メソポーラス有機シリカにおいて、BET比表面積としては、100cm2/g以上が好ましく、300cm2/g以上がより好ましい。BET比表面積が前記下限未満になると、十分な触媒活性が得られない傾向にある。
なお、前記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径であり、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、試料を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法或いは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、DFT(Density−Functional−Theory)法、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
また、本発明にかかる遷移金属含有メソポーラス有機シリカのX線回折パターンには、1〜50nmのd値に相当する回折角度に1本以上の回折ピークが存在していることが好ましい。X線回折ピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中に存在することを意味する。従って、1〜50nmのd値に相当する回折角度に1本以上の回折ピークがあることは、細孔が1〜50nmの間隔で規則的に配列している、規則的なメソ細孔構造を備えていることを意味する。このような規則的なメソ細孔構造を備える遷移金属含有メソポーラス有機シリカは、前記遷移金属錯体が安定に固定化されており、触媒活性に優れている。
このような本発明の還元反応用固体触媒は、例えば、下記式(1a):
〔前記式(1a)中、R1〜R8は前記式(1)中のR1〜R8と同一の基である。〕
で表される構造を備えるビピリジン基含有メソポーラス有機シリカと遷移金属化合物とを混合することによって製造することができる。これにより、前記式(1a)中の窒素原子が前記遷移金属化合物中の遷移金属原子に配位し、前記式(1)で表される構造を備える遷移金属含有メソポーラス有機シリカが得られる。このような混合は、触媒反応を行う前に、触媒反応系とは異なる系で行なってもよいし、触媒反応系において行なってもよい。
前記遷移金属化合物としては特に制限はないが、遷移金属原子Mに1又は2以上の前記配位子Lが配位している遷移金属錯体が好ましい。このような遷移金属錯体としては、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ロジウム(III)ジクロリドダイマー([RhCp*Cl2]2)、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)ジクロリドダイマー([IrCp*Cl2]2)等が挙げられる。
前記式(1a)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカにおいて、前記式(1a)で表される構造は、前記メソポーラス有機シリカの骨格中に含まれていることが好ましい。これにより、細孔内での反応基質の拡散性が阻害されにくく、高い触媒活性を有する還元反応用固体触媒を得ることができる。
また、上述したように、前記式(1a)中のR1〜R8は前記式(1)中のR1〜R8と同一の基である。前記式(1a)における前記式(2)中のRbとしては、化学的安定性が向上するという観点から、シリル基が好ましい。また、前記式(1a)における前記式(2)中の結合部位*に結合する隣接する構造としては、前記メソポーラス有機シリカ中の前記式(1a)で表される構造からなる繰り返し単位、前記式(3)で表される構造、前記式(4)で表される構造等が挙げられる。
前記式(1a)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカにおいて、メソポーラス有機シリカ1gあたりの前記式(1a)で表される構造の導入量としては、0.01mmol/g以上であれば特に制限はないが、遷移金属錯体の形成のしやすさという観点から、0.05mmol/g以上が好ましく、0.10mmol/g以上がより好ましく、0.15mmol/g以上がさらに好ましく、0.20mmol/g以上が特に好ましい。なお、前記式(1a)で表される構造の導入量の上限としては特に制限はないが、4mmol/g以下が好ましい。本発明の還元反応用固体触媒においては、このような前記式(1a)で表される構造の導入量(すなわち、ビピリジン基の導入量)を適宜調整することができ、その結果、遷移金属原子の固定化量を容易に制御することが可能となる。
また、前記式(1a)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカにおいては、前記式(1a)で表される構造以外の構造(以下、「その他の構造」という)を含んでいてもよい。このようなその他の構造としては、前記式(3)及び(4)で表される構造が好ましく、これらの構造はいずれか一方が含まれていても両方が含まれていてもよい。
前記式(1a)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカにおいて、このようなその他の構造の割合としては、前記式(1a)で表される構造との合計量に対して、99.5mol%以下であれば特に制限はないが、触媒活性が向上するという観点から、0〜90mol%が好ましく、0〜70mol%がより好ましく、0〜50mol%がさらに好ましく、0〜30mol%が特に好ましい。
なお、このような前記式(1a)で表される構造を備えるメソポーラス有機シリカは、例えば、J.Am.Chem.Soc.、2014年、第136巻、第10号、4003〜4011頁、特開2014−193457号公報、特開2017−029926号公報等に記載の方法により製造することができる。
<還元反応>
本発明の還元反応用固体触媒は、タンパク質の存在下での還元反応に使用される。前記タンパク質としては、本発明の還元反応用固体触媒による効果(すなわち、タンパク質による遷移金属原子の触媒活性の失活を抑制するという効果)が十分に発揮されるという観点から、生理活性タンパク質が好ましく、血漿タンパク質(例えば、アルブミン、グロブリン、フィブリノゲン)、酵素(例えば、エステラーゼ、グリコシダーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼ等の加水分解酵素、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ等の脱水素酵素)がより好ましい。これらのタンパク質は、1種が単独で存在していても2種以上が存在していてもよい。
前記還元反応としては特に制限はないが、水素転移反応、水素移動反応、炭素−炭素不飽和結合の水素化反応、カルボニルの水素化反応、イミンの水素化反応等が挙げられる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(調製例1)
<ビピリジン基含有メソポーラス有機シリカの調製>
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C18TMACl、3.78g(10.8mmol))、蒸留水(202ml)及び6N水酸化ナトリウム水溶液(0.59ml(3.54mmol))を混合して50℃に加熱し、得られた混合物に、激しく撹拌しながら、5,5’−ビス(トリイソプロポキシシリル)−2,2’−ビピリジン(Si−BPy−Si、4.59g(8.12mmol))のエタノール溶液(9.17ml)を90分間かけて滴下した。得られた溶液を50℃で加熱しながら3日間激しく撹拌し、さらに50℃で加熱しながら3日間静置して、下記反応式(P1):
で表される反応を行なった。生成した沈殿物を加圧ろ過により回収し、鋳型界面活性剤(C18TMACl)を含むビピリジン基含有有機シリカメソ構造体を得た。この有機シリカメソ構造体を酸性エタノール(エタノール346mlと2M塩酸10.2mlの混合溶液)に添加し、一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、薄黄色〜灰色の固体であるビピリジン基含有メソポーラス有機シリカ(BPy−PMO)を得た。このBPy−PMOのビピリジン基含有量は3.18mmol−BPy/gであった。
(比較調製例1)
<ビピリジン基担持ノンポーラスシリカの調製>
アルゴン雰囲気下、非晶質シリカゲル(silica、関東化学株式会社製「球状シリカゲル60N」、比表面積680m2/g、細孔径5.4nm)(1.00g)をトルエン(30ml)中に分散させ、この分散液に5−(4−トリエトキシシリルブチル)−5’−メチル−2,2’−ビピリジン(250mg(643μmol))を添加した。得られた懸濁液にトリフルオロ酢酸(20μl)を滴下した後、還流しながら1日間撹拌して、下記反応式(P2):
で表される反応を行なった。得られた懸濁液を、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)を用いて減圧ろ過し、ろ滓をトルエンおよびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、ピリジン基担持ノンポーラスシリカ(BPy−silica)を得た。このBPy−silicaのビピリジン基含有量は0.514mmol−BPy/gであった。
(比較調製例2)
<ビピリジン基担持メソポーラスシリカの調製>
アルゴン雰囲気下、メソポーラスシリカ(FSM−16、太陽化学株式会社製「TMPS−4R」、比表面積897m2/g、細孔径3.9nm)(200mg)をトルエン(10ml)中に分散させ、この分散液に5−(4−トリエトキシシリルブチル)−5’−メチル−2,2’−ビピリジン(BPy−C4−Si、50mg(129μmol))を添加した。得られた懸濁液にトリフルオロ酢酸(20μl)を滴下した後、還流しながら1日間撹拌して、下記反応式(P3):
で表される反応を行なった。得られた懸濁液を、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)を用いて減圧ろ過し、ろ滓をトルエンおよびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、ビピリジン基担持メソポーラスシリカ(BPy−FSM)を得た。このBPy−FSMのビピリジン基含有量は0.515mmol−BPy/gであった。
(合成例1)
<Rh含有メソポーラス有機シリカの合成>
アルゴン雰囲気下、調製例1で得られたBPy−PMO(50mg、0.159mmol−BPy)及び(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ロジウム(III)ジクロリドダイマー([RhCp*Cl2]2、2mg(3.2μmol))を量り取り、さらに、N,N’−ジメチルホルムアミド(50ml)を添加し、60℃で加熱しながら16時間撹拌して、下記反応式(S1):
で表される反応を行なった。得られた分散液をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)に通して固体成分を回収した。得られた固体成分をN,N’−ジメチルホルムアミド及びエタノールで洗浄した後、真空乾燥して、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラス有機シリカ(Rh−BPy−PMO、Rh/BPy−PMO=2/50)を得た。
(合成例2)
<Rh含有メソポーラス有機シリカの合成>
BPy−PMOの量を100mg(0.318mmol−BPy)に、[RhCp*Cl2]2の量を5mg(8.1μmol)に変更した以外は合成例1と同様にして、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラス有機シリカ(Rh−BPy−PMO、Rh/BPy−PMO=5/100)を得た。
(合成例3)
<Rh含有メソポーラス有機シリカの合成>
BPy−PMOの量を100mg(0.318mmol−BPy)に、[RhCp*Cl2]2の量を10mg(16μm)に変更した以外は合成例1と同様にして、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラス有機シリカ(Rh−BPy−PMO、Rh/BPy−PMO=10/100)を得た。
(比較合成例1)
<Rh含有ビピリジンの合成>
[RhCp*Cl2]2(50mg(80.9μmol))をN,N’−ジメチルホルムアミド(2.0ml)に溶解した。得られた溶液に2,2’−ビピリジン(31mg(198μmol))を添加し、室温で2時間撹拌して、下記反応式(S2):
で表される反応を行なった。得られた反応液にジエチルエーテル(5ml)を添加し、生成した沈殿物を、メンブレンフィルター(孔径0.20μm)を用いて吸引ろ過により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥して、RhCp*ClのRh原子にビピリジン基が配位した均一系Rh錯体(Rh−BPy、Rh/BPy=1/1)を得た。このRh−BPyにおけるRh含有量は2.15mmol−Rh/gであった。
(比較合成例2)
<Rh含有ノンポーラスシリカの合成>
アルゴン雰囲気下、比較調製例1で得られたBPy−silica(200mg、0.103mmol−BPy)及び(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ロジウム(III)ジクロリドダイマー([RhCp*Cl2]2、20mg(32.4μmol))を量り取り、さらに、脱水メタノール(50ml)を添加し、65℃で加熱しながら16時間撹拌して、下記反応式(S3):
で表される反応を行なった。得られた分散液をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)に通して固体成分を回収した。得られた固体成分をメタノールで洗浄した後、真空乾燥して、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するノンポーラスシリカ(Rh−BPy−silica、Rh/BPy−silica=10/100)を得た。このRh−BPy−silicaにおけるRh含有量は0.136mmol−Rh/gであった。
(比較合成例3)
<Rh含有メソポーラスシリカの合成>
比較調製例1で得られたBPy−silicaの代わりに比較調製例2で得られたBPy−FSM(200mg、0.103mmol−BPy)を用いた以外は、比較合成例2と同様にして、下記反応式(S4):
で表される反応を行い、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラスシリカ(Rh−BPy−FSM、Rh/BPy−FSM=10/100)を得た。このRh−BPy−FSMにおけるRh含有量は0.292mmol−Rh/gであった。
〔X線回折パターン及び窒素吸着等温線〕
調製例1で得られたBPy−PMO及び合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOのX線回折パターンを、粉末X線回折装置(株式会社リガク製「RINT−TTR」)を用いて測定したところ、2θ=1.82°(d=4.85nm)に規則的なメソ構造に由来する回折ピークが観察された。また、2θ=7.60°(d=1.16nm)、2θ=15.6°(d=0.568nm)及び2θ=23.0°(d=0.387nm)にビピリジン基の層状配列構造に由来する回折ピークが観察された。なお、図1には、一例として、調製例1で得られたBPy−PMO及び合成例1で得られたRh−BPy−PMOのX線回折パターンを示す。
また、調製例1で得られたBPy−PMO及び合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOの窒素吸着等温線を、自動比表面積/細孔分布測定装置(カンタクローム社製「Autosorb−1 system」)を用い、液体窒素温度(−196℃)条件で定容量式ガス吸着法により求めたところ、いずれもIV型であった。なお、図2には、合成例1で得られたRh−BPy−PMOの窒素吸脱着等温線を示す。
したがって、X線回折パターン及び窒素吸脱着等温線から、調製例1で得られたBPy−PMO及び合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOはいずれも規則的なメソ細孔を有するものであり、調製例1で得られたBPy−PMOにRhを固定化しても、規則的なメソ細孔構造が維持されていることが確認された。
また、窒素吸着等温線に基づいて、調製例1で得られたBPy−PMO及び合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOの中心細孔直径をDFT法により算出し、比表面積をBET法により算出した。それらの結果を表1に示す。
〔紫外可視拡散反射スペクトル〕
合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOの紫外可視拡散反射スペクトルを、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製「V−670」)を用いて測定したところ、いずれのRh−BPy−PMOにおいても、ビピリジン基のπ−π*遷移に由来する300nmを極大波長とする吸収ピークに加えて、Rh原子にビピリジン基が錯配位していることを示す380nm付近の吸収ピークが観測された。また、この380nm付近の吸収ピークの強度は、[RhCp*Cl2]2の添加量が増加するにつれて大きくなった。これは、Rhの固定化量が増加したことによるものと考えられる。
〔エネルギー分散型X線分光分析(EDX分析)〕
合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOについて、エネルギー分散型X線分光分析装置を備えた走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「3600−N」)を用いてEDX分析を行なったところ、いずれのRh−BPy−PMOにおいても、EDXマッピング像から、ケイ素原子(SiK線)とロジウム原子(RhL線)は均一に分布していることが確認された。また、EDX分析結果に基づいて、合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOにおけるケイ素、ロジウム及び塩素の原子組成含有率を算出し、ビピリジン基に対するロジウムのモル比を求めた。さらに、このモル比から、Rh−BPy−PMO(1g)に対するロジウム含有量を算出した。それらの結果を表1に示す。
表1に示した結果から明らかなように、[RhCp*Cl2]2の添加量が増加するにつれて、Rhの固定化量が増加することが確認された。
〔X線吸収微細構造(XAFS)解析〕
合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMO及び比較合成例1で得られたRh−BPyのX線吸収微細構造(XAFS)解析を、SPring−8(BL14B2)を利用して透過法により行なった。すなわち、Si(311)二結晶分光器により単色化されたX線を用いて、室温でRhのK吸収端付近のXAFSスペクトルを測定した。得られたX線広域微細構造(EXAFS)スペクトルについて、Athenaを用いてデータ処理を行なった。すなわち、EXAFS振動χ(k)にk3の重みをかけて2Å−1<k<12Å−1の領域においてフーリエ変換を行い、動径分布関数を得た。その結果、合成例1〜3で得られたRh−BPy−PMOは、XANESスペクトル及び動径分布関数が均一系Rh錯体(RhCp*(BPy)Cl2)と同様の形状を有しており、比較合成例1で得られた均一系Rh錯体(Rh−BPy)と同様の配位構造を有していることが確認された。
(参考例1)
固体触媒として合成例2で得られたRh−BPy−PMO(Rh/BPy−PMO=5/100、3.23mg、0.4μmol−Rh)と、反応基質として2−シクロヘキセ−1−オン(40μmol)とを量り取り、これに0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(2ml、pH7)、0.5Mギ酸ナトリウム(68mg)、及び内部標準物質としてフェノール(1μl/ml)を添加して40℃で加熱しながら6時間攪拌して、下記反応式(E1):
で表される反応を行なった。反応終了後、得られた反応液を0.1ml採取し、酢酸エチル(0.5ml)で抽出操作を3回行い、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ガスクロマトグラフィで分析し、基質転化率を求めた。その結果を図3及び図4に示す。
(実施例1)
ウシ血清アルブミン(BSA)を、濃度が2mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、又は20mg/mlとなるように更に添加した以外は参考例1と同様にして、前記反応式(E1)で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図3に示す。
(参考例2)
固体触媒として合成例3で得られたRh−BPy−PMO(Rh/BPy−PMO=10/100、1.79mg、0.4μmol−Rh)を用いた以外は参考例1と同様にして、前記反応式(E1)で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図3に示す。
(実施例2)
ウシ血清アルブミン(BSA)を、濃度が2mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、又は20mg/mlとなるように更に添加した以外は参考例2と同様にして、前記反応式(E1)で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図3に示す。
(比較参考例1)
触媒として比較合成例1で得られた均一系Rh錯体(Rh−BPy、Rh/BPy=1/1、0.186mg、0.4μmol−Rh)を用いた以外は参考例1と同様にして、下記反応式(C1):
で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図3に示す。
(比較例1)
ウシ血清アルブミン(BSA)を、濃度が2mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、又は20mg/mlとなるように更に添加した以外は比較参考例1と同様にして、前記反応式(C1)で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図3に示す。
(比較参考例2)
固体触媒として比較合成例2で得られたRh−BPy−silica(Rh/BPy−silica=10/100、2.94mg、0.4μmol−Rh)を用いた以外は参考例1と同様にして、下記反応式(C2):
で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図4に示す。
(比較参考例3)
固体触媒として比較合成例3で得られたRh−BPy−FSM(Rh/BPy−FSM=10/100、1.34mg、0.4μmol−Rh)を用いた以外は参考例1と同様にして、下記反応式(C3):
で表される反応を行い、基質転化率を求めた。その結果を図4に示す。
図3に示した結果から明らかなように、触媒としてRh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラス有機シリカ(Rh−BPy−PMO)を用いた場合(実施例1、2)には、タンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)の存在下においても、高い触媒活性(基質転化率70%以上)が維持されることがわかった。一方、触媒として均一系Rh錯体(Rh−BPy)を用いた場合(比較例1)には、BSA濃度が増加するにつれて、触媒活性が大幅に低下することがわかった(BSA:20mg/mlの場合、基質転化率:17%)。
また、図4に示した結果から明らかなように、固体触媒として、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するノンポーラスシリカ(Rh−BPy−silica、比較参考例2)及びRh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラスシリカ(Rh−BPy−FSM、比較参考例3)を用いた場合には、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラス有機シリカ(Rh−BPy−PMO、参考例1)を用いた場合に比べて、触媒活性が低くなった。これは、Rh−BPy−silicaやRh−BPy−FSMにおいては、非晶質シリカゲルやメソポーラスシリカの表面にビピリジン基が担持されているため、このビピリジン基によって細孔内での反応基質の拡散性が阻害されたこと、また、非晶質シリカゲルやメソポーラスシリカの表面が不均質であることが原因であると推察される。一方、Rh−BPy−PMOにおいては、ビピリジン基がメソポーラス有機シリカの骨格中に含まれているため、反応基質の拡散性が阻害されず、高い触媒活性が得られたと考えられる。
(参考例3)
固体触媒として合成例1で得られたRh−BPy−PMO(Rh/BPy−PMO=2/50、11.6mg、1.0μmol−Rh)と、反応基質として酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+、1.0mM)とを量り取り、これに0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(10ml、pH7)及び10Mギ酸ナトリウム水溶液(100μl)を添加して25℃で180分間攪拌して、下記反応式(E2):
〔前記式(E2)中、Rはアデニンジヌクレオチドを示す。〕
で表される反応を行なった。反応終了後、得られた反応液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成量を測定し、反応収率を求めた。その結果を表2に示す。
(実施例3)
ウシ血清アルブミン(BSA)を、濃度が10mg/mlとなるように更に添加した以外は参考例3と同様にして、前記反応式(E2)で表される反応を行い、反応収率を求めた。その結果を表2に示す。
(比較参考例4)
触媒として比較合成例1で得られた均一系Rh錯体(Rh−BPy、Rh/BPy=1/1、0.465mg(1.0μmol)、1.0μmol−Rh)を用いた以外は参考例3と同様にして、下記反応式(C4):
〔前記式(C4)中、Rはアデニンジヌクレオチドを示す。〕
で表される反応を行い、反応収率を求めた。その結果を表2に示す。
(比較例2)
ウシ血清アルブミン(BSA)を、濃度が10mg/mlとなるように更に添加した以外は比較参考例4と同様にして、前記反応式(C4)で表される反応を行い、反応収率を求めた。その結果を表2に示す。
表2に示した結果から明らかなように、触媒として、Rh原子に配位したビピリジン基を含有するメソポーラス有機シリカ(Rh−BPy−PMO)を用いた場合(実施例3)には、均一系Rh錯体(Rh−BPy)を用いた場合(比較例2)に比べて、タンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)の存在下における触媒活性の維持率が高くなることがわかった。