半導体技術分野では、更なるパターンの微細化が進められている。近年では、大規模集積回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化や配線パターンの細線化、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化などが進行し、微細加工技術への要求は、ますます高くなってきている。これに伴い、微細加工の際のフォトリソグラフィ工程で用いられるフォトマスクの製造技術分野においても、より微細で、かつ正確な回路パターン(マスクパターン)を形成する技術の開発が求められるようになってきている。
一般に、フォトリソグラフィ技術により半導体基板上にパターンを形成する際には、縮小投影が行われる。このため、フォトマスクに形成されるパターンのサイズは、通常、半導体基板上に形成されるパターンのサイズの4倍程度となる。今日のフォトリソグラフィ技術分野においては、描画される回路パターンのサイズは、露光で使用される光の波長をかなり下回るものとなっている。このため、回路パターンのサイズを単純に4倍にしてフォトマスクパターンを形成した場合には、露光の際に生じる光の干渉などの影響によって、半導体基板上のレジスト膜に、本来の形状が転写されない結果となってしまう。
そこで、フォトマスクに形成するパターンを、実際の回路パターンよりも複雑な形状とすることにより、上述の光の干渉などの影響を軽減する場合もある。このようなパターン形状としては、例えば、実際の回路パターンに光学近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)を施した形状がある。また、パターンの微細化と高精度化に応えるべく、変形照明、液浸技術、二重露光(ダブルパターニングリソグラフィ)などの技術も応用されている。
このような技術を駆使したフォトマスク上の補助パターンの寸法は、フォトマスク上で100nm以下に達する。従って、欠陥の原因となる要因をできるだけ排除する必要がある。
そのため、フォトマスクおよびフォトマスクブランクの製造においては、露光光を照射時に欠陥として成長する原因となるアウトガスや、直接欠陥の原因となるパーティクルに対する工程内のクリーンルーム環境への要求は厳しいものとなり、そのためこれが製造コストを押し上げる要因となっている。
製造コストを抑制するための手段としては、このような要求をクリアーする高清浄度なクリーンルーム環境を最小限に保つために、製造工程内で製造中のフォトマスク、あるいはフォトマスクブランクを製造するための基板を、内部を高清浄度を保たれた搬送容器(基板収納容器とも呼ぶ)に入れ保管、搬送し、搬送容器に収納したまま基板を製造装置に載置することが行われているが、それらの搬送容器には例えばFOUP、FOSBS、SMIFなどがある(例えば、特許文献1参照)。
フォトマスク基板、あるいはフォトマスクブランクス基板(以下、これらを単に基板とも呼ぶ)を複数枚搬送するための、このような高清浄度を要求される搬送容器は、様々な製造装置に載置されるため、それら製造装置に付属する様々な搬送器によって搬送する必要がある。そのため、搬送容器内に納められた基板を収納するカセットあるいは、キャリアに設けられた各スロットの基板を入れる開口部の間隔は基板厚みに対し、1.1〜2.0倍程度の長さが必要となる。なお、この間隔とは基板を入れる開口部の長さであり、基板間の間隔ではない。
このようなキャリアでは、スロットに支持された基板は動きやすいため、基板が他の部材と擦れたり、あるいは衝突することにより、基板に傷が発生しやすいので、基板に対して傷を与えずに搬送するために、搬送容器内の基板を固定するための弾性部材などからなるリテイナーを用いることが一般的である。リテイナーとは、搬送容器の中にウェーハを支持したインナーケース、キャリアなどを載置したものを搬送容器の中で保持する機能を有するものである。リテイナーの役割は、搬送容器を搬送する際、基板をしっかりと固定するとともに、適当なばね力を備えることにより、基板を保持する際の基板への負荷を減らし、基板の損傷を防止するものである。例えば、図7に示すように、一般的なリテイナー107はリテイナー本体108の両側に設置された基板押さえ109によって、スロットに入れられた全ての基板の側面をスロットの開口部側から押さえることで、搬送容器内で基板が動かないように固定するものとできる。
従来のリテイナーは、基板が接触する弾性箇所(基板押さえ)を一体型としていたが(図7参照)、そのような構造のものでは、基板は搬送容器での搬送中のわずかな衝撃により、基板への押し圧が加わるため(剛性がありすぎるため)、接触部に線状痕がつきやすく、また、基板押さえが一体であるため、全ての基板のせり出しを受けなければならず、基板の負荷により変形をした基板押さえが原因となって搬送容器内での基板のせり上がりを生じてしまう。
また、リテイナーを長時間使用していると弾性部材のばね力(押し圧)が弱まり、その結果、リテイナーの弾性力が弱まるため、押し圧が不十分となり、基板が十分に支えられないという現象が生じた。さらに、この状態でリテイナーを使用していると基板押さえの弾性部材が変形し、基板を保持できていない状態となり、基板が搬送容器内で脱落するなどの問題が発生した。
これに対処するために、定期的にリテイナーを交換していたが、このような処理は煩瑣であり、また、交換時に搬送容器にパーティクルが発生するため、搬送容器の清掃作業が更に必要となる煩わしさがあった。
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、適切な押し圧で基板を固定できるとともに、長時間の使用に耐えることができるリテイナーを具備する基板収納容器、並びに、この基板収納容器を用いた基板の保管方法及び搬送方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、基板を収納するための基板収納容器であって、1枚の前記基板を支持可能なスロットを複数有するキャリアと、該キャリアを格納する容器本体と、前記容器本体の内壁に配置され、前記キャリアの各スロットに支持された前記複数の基板の各々の側面を押さえることで、前記基板を固定するリテイナーとを具備し、該リテイナーが、前記容器本体の内壁に連結するリテイナー本体と、該リテイナー本体の両側部に前記複数のスロットに支持された各々の基板の位置に対応する一対の基板押さえを複数有し、それぞれの一対の基板押さえが、各スロットに支持された各々の基板の側面を押さえることができるものであることを特徴とする基板収納容器を提供する。
このように、それぞれの一対の基板押さえが基板毎に接触して各々の基板を固定する基板収納容器であれば、基板収納容器内で基板を確実に固定することができ、かつ、基板のせり上がりや線状痕の発生を防止でき、基板に損傷を与えることがない。また、本発明のように、基板毎に一対の基板押さえにより固定する構成であれば、従来の一体型の基板押さえに比べて変形し難く、押し圧が弱くなり難いため、長時間の使用に耐えられるものとなり、基板収納容器内での基板の脱落を防止できる。
また、基板をしっかりと固定するために、リテイナーに剛性を持たせることにより形状が変形することを防止する必要があるが、剛性を持たせすぎると弾性力が損なわれ、基板に傷を与えてしまうため、ある程度の弾性力を持たせる必要がある。しかし弾性力が強すぎると剛性が損なわれ、基板を十分に固定することができなくなる。本発明では、基板毎に一対の基板押さえにより固定する構成であれば、各一対の基板押さえにおいて最適な弾性力に調整可能である。また、リテイナーがより長時間使用可能であることで、交換作業を頻繁に行う必要が無く、基板収納容器内部を清浄に保ちやすい上に、コスト的にも有利である。
このとき、前記一対の基板押さえが羽根型のものであることが好ましい(図4(b)の9)。このような形状とすることにより、基板押さえの弾性力が基板の両端部(Rがある箇所)のみにかかることにより、基板を確実に保持することができる。
一対の基板押さえを支持する本体部分の形状は羽根に対し、少し窄まった形状とするものが望ましい(図4(b)の11)。このような形状にすることによって、剛性をもつ本体部から基板に対し、基板を押さえる力がスムーズに伝わるようになる。このような構造とすることにより、各一対の基板押さえの押し圧が均一とすることが可能となった。
またこのとき、前記一対の基板押さえに対して1つの横リブを設けることによって、各一対の基板押さえが、各基板のせり出しを独立して防ぐことを助けることができる。なおこの横リブは機能として各基板のせり出しを独立して防止することを目的としているため、必ずしも一対の基板押さえの間にある必要はなく、図3の横リブ10の一番上部のように、少し下側に配されていてもよい。また、横リブは各基板に対し、1つ、あるいは2つ以上、またはその組み合わせたもので構成をされていてもよく、要は各一対の基板押さえが各基板を保持する機能を独立して防ぐためのものでよいのである。
各横リブは横方向に長い構造であるため、その変形を防止し、剛性を高めるため、前記リテイナー本体に接合された縦リブと接合されたものであることが好ましい。
横リブは縦リブと1か所で、または複数の縦リブと2か所以上で接合されていればよく、複数の横リブが縦リブに接合されているが、必ずしも1つの縦リブに全ての横リブが接合されている必要はなく、機能として横リブの変形を防止し、かつ剛性を高める作用があればよい。例えば図3のように、一番下部の横リブは、他と独立した縦リブを接合するものでもよい。
これら横リブ及び縦リブによって、それぞれの基板押さえが適切な剛性(押し圧)及び弾性力を長時間維持することが可能となった。その結果、各一対の基板押さえの適切な押し圧を長時間維持することが可能となり、基板の傷やせり上がり、長時間使用したときの脱落の防止をすることができるようになった。
またこのとき、前記容器本体が、下面に開口を有する上蓋と、前記基板を各スロットで水平に支持した前記キャリアを載置でき、前記上蓋の下面の開口に嵌合可能な受け台とからなるものであるか、又は、前記基板を各スロットで水平に支持した前記キャリアを内部に保持でき、側面に開口を有する筐体と、該筐体の側面の開口に嵌合可能な横蓋とからなるものであることが好ましい。
本発明では、容器本体の構造はこのようなものとすることができる。
また、本発明は、上記目的を達成するために、上記の基板収納容器内に収納してフォトマスク基板又はフォトマスクブランクス基板を保管することを特徴とする基板の保管方法を提供する。さらには、上記の基板収納容器内に収納してフォトマスク基板又はフォトマスクブランクス基板を搬送することを特徴とする基板の搬送方法を提供する。
このように、本発明の基板収納容器を用いて、フォトマスク基板又はフォトマスクブランクス基板を保管・搬送すれば、基板の損傷、脱落、基板へのパーティクル等の付着の発生を抑制しながら、フォトマスクブランクス基板の保管・搬送をすることができる。
本発明の基板収納容器は、基板毎に対応する一対の基板押さえによって、適切な押し圧で各基板を固定できるので、基板のせり上がりを防止し、基板収納容器内での発塵を防止できる。また、基板に線状痕が付きにくい。また、本発明における基板押さえは変形し難く、押し圧が弱くなり難いため、より長時間の使用に耐えられるものとなり、収納容器内での基板の脱落を防止できる。また、リテイナーがより長時間使用可能であることで、交換作業を頻繁に行う必要が無く、基板収納容器内部を清浄に保ちやすいとともに、低コストとなる。
また、本発明の基板収納容器を用いて、基板を保管・搬送すれば、基板の損傷、脱落、基板へのパーティクル等の付着の発生を抑制しながら、基板の保管・搬送をすることができる。
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記のように、従来の基板収納容器では、キャリアに支持された基板を固定するためのリテイナーによって、基板が基板収納容器でせり上がり、固定が不安定になったり、支持部材との摩擦により発塵したり、基板に線状痕がついてしまったりするという問題があった。さらに、従来のリテイナーの基板押さえは変形しやすく、押し圧が低下しやすいため、基板の脱落が起こりやすくなり、また、長時間の使用ができずリテイナーの交換作業の頻度が多くなり、基板収納容器の内部の清浄度を低下させてしまうことがあった。
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、リテイナーの基板押さえを従来のように一体型とはせずに、各々の基板の位置に対応する一対の基板押さえをリテイナーに複数配設し、それぞれの一対の基板押さえが、基板を1枚毎に独立して押さえて固定することができるものとすることで、上記問題を解消できることに想到した。そして、これらを実施するための最良の形態について精査し、本発明を完成させた。
図1は、本発明の基板収納容器1の側面図である。本発明の基板収納容器1は、1枚の基板Wを支持可能なスロット3を複数有することで複数の基板Wを保持できるキャリア2と、キャリア2を格納する容器本体14とを具備する。図1に示した態様は、容器本体14が、下面に開口を有する上蓋4と、基板Wを各スロット3で水平に支持したキャリア2を載置でき、上蓋4の下面の開口に嵌合可能な受け台5とからなるものとした。また、図1では、キャリア2のスロット3の数を五個とし、キャリア2で五枚の基板Wを支持する態様を示したが、これに限定されることはない。なお、キャリア2は、「埃よけ」として上部にダミー基板を入れられる構造となっているものでもよい。
キャリア2は、受け台5に着脱可能に装着することができる。キャリア2は、人あるいはロボットにより基板収納容器1に装着、脱着が可能となっており、キャリア2自身を、工程に使用する製造装置に直接置くことも可能である。通常、キャリア2が装着された基板収納容器1は、製造装置に装着されると、基板収納容器1の開口部が開けられ、キャリア2から製造装置内の搬送装置により基板Wを搬送できる状態となる。
基板収納容器1に収納できる基板としては、例えば、フォトマスク基板、フォトマスクブランクス基板などが挙げられる。これらの基板は、通常、一辺が6インチ(約152mm)の正方形であり、厚みが0.25インチ(約6mm)である。正方形の角はRが施されており、厚み方向の角は面取りを施してある。これは角部が物理的な接触をして基板が欠けることを防止するためである。基板は、通常、ガラスであり、付加価値の高い基板は一般的に石英ガラスである。よって、その基板1枚の重さは約325gであり、シリコンウエハと比べると比較的重量が有る。
また、キャリア2は、基板Wの主表面にできるだけ支持部材が接触しないような構造となっている。これはフォトマスク基板、あるいはフォトマスクブランクス基板の主表面に傷、パーティクル(部材の脱落や、周囲の環境からの異物の付着)、異物の発生と付着(レーザー照射による異物の顕在化)、物理的な原因による欠けが発生することにより、フォトマスクのパターンに欠陥が発生して歩留りを下げる原因となるためであり、これを防止するためである。
図2にキャリア2の正面図を示す。図2のように、キャリア2では基板Wの端面を保持することができる。基板Wの端面の角部にはクラックを防止するために面取りを施してあることは先に述べたとおりであるが、その面取り面を、キャリア2のスロット3の溝部のテーパーで受けることが上記対策に好ましい。
図2のように、スロット3は溝を設けた複数の支柱6によって構成されたものとでき、その溝に基板を保持する構造であってもよい。通常、支柱6は前面に2箇所、後ろに2箇所配置されており、それぞれの溝に基板Wを入れることにより、基板Wを支持する構造となっている。支柱6に設けた溝の幅は基板厚みに対し、1.1〜2.0倍程度の長さが望ましい。溝幅が基板厚みの1.1倍、より好ましくは1.5倍以上あれば、基板に寸法公差があった場合でも製造装置に設けられた搬送ロボットが確実に基板を取り出せる。また、収納容器の搬送中の振動で、基板に傷がついたり、基板が脱落することを防ぐため、溝幅が基板厚みの2.0倍以下とすることが好ましい。また、溝の端面にはテーパーがつけられていてもよく、基板Wに寸法公差による若干の大小があっても収納することができるようになっていてもよい。
また、キャリア2のスロットは、上記のようなスロットだけではなく、キャリアの内面に溝がケースのように連続して形成されており、それぞれの溝により基板を支持する構造となっていてもよい。
さらに、基板収納容器1は、図1のように、容器本体14の内壁に配置され、キャリア2の各スロット3に支持された複数の基板Wの各々の側面を押さえることで、基板を固定するリテイナー7を具備する。図1では、容器本体14を構成する上蓋4の内壁にリテイナー7が取り付けられている。
本発明の基板収納容器1では、図1、3に示すように、リテイナー7が、容器本体14の内壁に連結するリテイナー本体8と、該リテイナー本体8の両側部に、キャリア2の複数のスロット3に支持された各々の基板Wの位置に対応する一対の基板押さえ9を複数有し、それぞれの一対の基板押さえ9が、各スロット3に支持された各々の基板Wの側面を押さえることができるものである。
このように、リテイナー7と各々の基板Wが接触する基板押さえを基板毎に独立した構造にすることで、基板収納容器1内で各々の基板Wを確実に固定することができ、かつ、基板Wのせり上がりや線状痕の発生を防止でき、基板Wに損傷を与えることがない。また、本発明のように、基板毎に一対の基板押さえ9により固定する構成であれば、従来の一体型の基板押さえに比べて変形し難く、押し圧が弱くなり難いため、長時間の使用に耐えられるものとなり、基板収納容器1内で基板Wが動くことによるパーティクルの発生や基板Wの脱落を防止できる。また、リテイナー7がより長時間使用可能であることで、交換作業を頻繁に行う必要が無く、基板収納容器1内部を清浄に保ちやすいとともに、リテイナーコストを低下させることもできる。以上より、本発明を用いることで品質の良い製品を低コストで得られる。
リテイナー本体8の材質は、PC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)のような樹脂を用いることができる。特に、リテイナー7の剛性を保つために、PC(ポリカーボネート)を用いることができる。一対の基板押さえ9の材質は樹脂が好ましく、樹脂からのアウトガス、樹脂の硬度などを勘案すると、PBT(ポリブチレンテレフタラート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PC(ポリカーボネート)のような樹脂を用いることができる。特に、リテイナーとしては、パーティクルやアウトガスが発生しにくく、かつガラスなどの硬い基板により削れる恐れが少ない、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPBT(ポリブチレンテレフタラート)などの硬質樹脂を用いることが好ましい。
このとき、図3のように、本発明では一対の基板押さえを羽根型のものとすることができる。一対の基板押さえが羽根型であれば、各々の基板をバランスよく押圧することができ、確実にスロット内の各基板を固定できる。
また、本発明では、図3のように、リテイナー7が、一対の基板押さえ9に対して1つの横リブ10が配設され、各横リブ10がリテイナー本体8に接合された縦リブ11と接合されたものであることが好ましい。図3では、一対の基板押さえ9が五つあるので、これに合わせて、横リブ10を五つ設けた。縦リブ11は本体の両側部と、中央に二つの、合計四つ設けており、この場合、リテイナー本体8に両側部の縦リブを介して一対の基板押さえが配置される。このように各横リブ10を配置することにより、それぞれの一対の基板押さえ9は適当な剛性(押し圧)と弾性力を有するものとなり、対応する基板Wを独立してより確実に固定することが可能となる。なお、横リブ10は、対応する一対の基板押さえ9に対して弾性力を与えられる位置に配置されていればよい。
また、これらの横リブ10がリテイナー本体8に接合された縦リブ11に接合されたものであることで、横リブ10自体の剛性を保ち、変形を防止することができ、その結果、各々の一対の基板押さえ9は適当な弾性力をより長時間維持することができ、基板押さえの変形がより少なくなる。また、各横リブ10が縦リブ11に接合されていることにより、各々の一対の基板押さえ9の押し圧をより均一にすることができる。以上のように、各横リブ10及び各縦リブ11からなる梁によって、それぞれの一対の基板押さえ9の各基板Wに対する保持力を高めることと、一対の基板押さえ9の弾性力を高めることを両立することができる。さらにリテイナーをより長時間使用しても変形が少ないものとすることができる。
また、図4の(a)に示すように、各横リブは各基板押さえの弾性力を保つように緩やかなRを持たせることができる。また、図4の(b)に示すように、リテイナー本体8の両側部の縦リブ11は各基板押さえの押し圧を勘案し、基板押さえ9の傾斜方向に倣い緩やかな傾斜を設けることができる。
ここで、リテイナー本体8と横リブ10、縦リブ11は射出成形により1体として作製することができ、横リブ10、縦リブ11は、リテイナー本体8と同じ材質で構成されているものとすることができる。
また、各々のスロット3に支持されている基板Wには、寸法公差による厚み(高さ位置)の違いがわずかに有る場合もある。基板押さえを一体型としている従来の構造では、特にその公差を気にすることもないが、本発明では、1枚ずつ独立に抑えている基板押さえの基板Wの厚み方向(例えば、高さ方向)の幅を基板厚みの1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上とすることが望ましい。このようにすれば、より確実に各々の基板Wを固定可能である。
また、図1では、本発明の基板収納容器1の一態様として、容器本体14が上蓋4と受け台5とからなるものを例示したが、本発明はこれに限定されることはない。キャリア2を格納する容器本体14の構造は、製品の製造工程において使用される種々の装置に応じて変更することができる。例えば、図5のように、基板Wを各スロットで水平に支持したキャリアを内部に保持でき、側面に開口を有する筐体12と、該筐体の側面の開口に嵌合可能な横蓋13とからなる容器本体としてもよい。この場合、リテイナー7は横蓋13の内壁に取り付ければよい。
また、容器本体に対し、キャリアを収納する方向は、基板が起立する方向(鉛直方向)、基板が寝る方向(水平方向)があるが、そのどちらに対しても、本発明のリテイナーは効果を発揮するものである。例えば、基板が起立する方向にキャリアを本体容器に収納するためには、図6のように、キャリア2を容器本体14の底面に設けられた嵌合部にキャリア2を係合し、容器本体14の上面をかぶせる方法が一般的である。基板を固定するためのリテイナーは基板に対応する容器本体14の上面側の内壁に設けられ、各基板Wをそれぞれ固定する。
また、基板が寝る方向となるように、キャリアを本体容器に収納するためには、図1のように、キャリア2の底面を容器本体14の底面(受け台5の内周の上面)に設けられた嵌合部に係合し、容器本体部上面をかぶせる方法が有る。この場合、リテイナー7は基板Wと対向する容器本体14の内壁に設けられ、容器本体下部と上部(上蓋4と受け台5)を係合することにより密閉した容器本体14内で、キャリア2に支持した基板Wがリテイナー7により固定される。他にも、図5のように、開口した容器本体部側面を閉じる方法などがある。容器本体14に容器側面部(横蓋13)が合わさり、密閉した容器内で、キャリア2に支持した基板Wがリテイナー7により固定される。
次に、本発明の基板の保管方法及び搬送方法について説明する。ここでは、上述したような、図1に示す本発明の基板収納容器1を用いた場合について説明する。保管又は搬送する基板は、フォトマスク基板又はフォトマスクブランクス基板とすることができる。
まず、受け台5に、各スロットで基板を支持したキャリア2を載置し、上蓋4の開口に受け台2を嵌合することで、キャリア2を格納する。この際、それぞれの一対の基板押さえ9が、各スロット3に支持された各々の基板Wの側面を押さえ、固定する。そして、基板収納容器1内に複数の基板Wを収納した状態で、基板Wを保管・搬送する。このように、本発明の基板収納容器を用いれば、基板の損傷、脱落、基板へのパーティクル等の付着の発生を抑制しながら、基板の保管・搬送をすることができる。
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例)
図1に示すような基板収納容器に五枚の基板を収納し、基板収納容器の揺動テストを実施した。このとき、キャリアのスロットは五段で、リテイナーの各々の一対の基板押さえは、スロット内の各基板の高さ位置に対応した位置に配設した。
また、リテイナーの一対の基板押さえの押し圧を、揺動テスト前に予め、以下のように調整した。ここでは、基板収納容器内で一対のリテイナーの基板押さえの各々に基板を当て、抑え方向に対して逆方向から基板を押し、基板が動きはじめる際の押し圧を測定した。これを、五回繰り返し、一対の基板押さえの各々の最適な弾力性を求めた。このとき測定された押し圧を表1にまとめた。
この結果から、一定の揺動において基板にずれが生じず、押しすぎて傷をつけることのない適正な押し圧となるよう調整した。
押し圧の調整後、基板収納容器に五枚の基板を収納し、基板収納容器の揺動テストを実施した。揺動テストでは、0.5Gで進行方向に800回、同じく、進行横方向に800回、合計1600回基板収納容器を揺動させた。
その結果、基板は揺動により動くことは無く、また、側面に線状痕は発生していなかった。また、基板収納容器内の0.8μm以上のサイズのパーティクルの発塵を測定したところ、発塵は0であった。
また、1揺動が1搬送であると仮定し、一製品が50回の搬送を経て約14日で製品化したとすると、450日程度の使用には耐えうるものと試算される。従来の基板収納容器のリテイナーの寿命が1年程度であることから、本発明は、従来より長時間の使用に耐えうる基板収納容器であることが確認できた。
(比較例)
図7のようなリテイナーを具備する従来の基板収納容器を用いたこと以外、実施例と同様な条件で揺動テストを実施した。
その結果、揺動テストの途中で基板カセットに装着した上部の基板に基板のせり上がりが認められたため、そこで揺動テストを中断をした。このような場合、パーティクルの増加を伴うことは言うまでもない。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。