(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る成膜装置1について、図1の縦断側面図、図2の横断平面図を夫々参照しながら説明する。この成膜装置1は、基板である半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)Wの表面に、ALD(Atomic Layer Deposition)によってSiN膜を形成するものである。このSiN膜は、例えばエッチング処理のハードマスクとなる。本明細書では、シリコン窒化膜についてSi及びNの化学量論比に関わらずSiNと記載する。従ってSiNという記載には、例えばSi3N4が含まれる。
図中11は扁平な概ね円形の真空容器(処理容器)であり、側壁及び底部を構成する容器本体11Aと、天板11Bとにより構成されている。図中12は、真空容器11内に水平に設けられる円形の回転テーブルである。図中12Aは、回転テーブル12の裏面中央部を支持する支持部である。図中13は回転機構であり、成膜処理中において支持部12Aを介して回転テーブル12を、その周方向に平面視時計回りに回転させる。図1中Xは、回転テーブル12の回転軸を表している。
回転テーブル12の上面には、回転テーブル12の周方向(回転方向)に沿って6つの円形の凹部14が設けられており、各凹部14にウエハWが収納される。つまり、回転テーブル12の回転によって公転するように、各ウエハWは回転テーブル12に載置される。図1中15はヒーターであり、真空容器11の底部において同心円状に複数設けられ、回転テーブル12に載置されたウエハWを加熱する。図2中16は真空容器11の側壁に開口したウエハWの搬送口であり、図示しないゲートバルブによって開閉自在に構成される。図示しない基板搬送機構により、ウエハWは搬送口16を介して、真空容器11の外部と凹部14内との間で受け渡される。
回転テーブル12上には、原料ガス供給部をなすガス給排気ユニット2と、第1の改質領域R2と、第2の改質領域R3と、反応領域R4と、が、回転テーブル12の回転方向下流側に向かい、当該回転方向に沿ってこの順に設けられている。ガス給排気ユニット2は、原料ガスを供給する吐出部及び排気口を備えた原料ガス供給部に相当するものである。以下、ガス給排気ユニット2について、縦断側面図である図3及び下面図である図4も参照しながら説明する。ガス給排気ユニット2は、平面視、回転テーブル12の中央側から周縁側に向かうにつれて回転テーブル12の周方向に広がる扇状に形成されており、ガス給排気ユニット2の下面は、回転テーブル12の上面に近接すると共に対向している。
ガス給排気ユニット2の下面には、吐出部をなすガス吐出口21、排気口22及びパージガス吐出口23が開口している。図中での識別を容易にするために、図4では、排気口22及びパージガス吐出口23に多数のドットを付して示している。ガス吐出口21は、ガス給排気ユニット2の下面の周縁部よりも内側の扇状領域24に多数配列されている。このガス吐出口21は、成膜処理時における回転テーブル12の回転中に、SiN膜を形成するためのSi(シリコン)を含む原料ガスであるDCSガスを下方にシャワー状に吐出して、ウエハWの表面全体に供給する。なお、シリコンを含む原料ガスとしてはDCSに限られず、例えばヘキサクロロジシラン(HCD)、テトラクロロシラン(TCS)などを用いてもよい。
この扇状領域24においては、回転テーブル12の中央側から回転テーブル12の周縁側に向けて、3つの区域24A、24B、24Cが設定されている。夫々の区域24A、区域24B、区域24Cに設けられるガス吐出口21の夫々に独立してDCSガスを供給できるように、ガス給排気ユニット2には互いに区画されたガス流路25A、25B、25Cが設けられている。各ガス流路25A、25B、25Cの下流端は、各々ガス吐出口21として構成されている。
そして、ガス流路25A、25B、25Cの各上流側は、各々配管を介してDCSガスの供給源26に接続されており、各配管にはバルブ及びマスフローコントローラにより構成されるガス供給機器27が介設されている。ガス供給機器27によって、DCSガス供給源26から供給されるDCSガスの各ガス流路25A、25B、25Cへの給断及び流量が制御される。なお、後述するガス供給機器27以外の各ガス供給機器も、ガス供給機器27と同様に構成され、下流側へのガスの給断及び流量を制御する。
続いて、上記の排気口22、パージガス吐出口23について各々説明する。排気口22及びパージガス吐出口23は、扇状領域24を囲むと共に回転テーブル12の上面に向かうように、ガス給排気ユニット2の下面の周縁部に環状に開口しており、パージガス吐出口23が排気口22の外側に位置している。回転テーブル12上における排気口22の内側の領域は、ウエハWの表面へのDCSの吸着が行われる吸着領域R1を構成する。パージガス吐出口23は、回転テーブル12上にパージガスとして例えばAr(アルゴン)ガスを吐出する。
成膜処理中において、ガス吐出口21からの原料ガスの吐出、排気口22からの排気及びパージガス吐出口23からのパージガスの吐出が共に行われる。それによって、図3中に矢印で示すように回転テーブル12へ向けて吐出された原料ガス及びパージガスは、回転テーブル12の上面を排気口22へと向かい、当該排気口22から排気される。このようにパージガスの吐出及び排気が行われることにより、吸着領域R1の雰囲気は外部の雰囲気から分離され、当該吸着領域R1に限定的に原料ガスを供給することができる。即ち、吸着領域R1に供給されるDCSガスと、後述するようにプラズマ形成ユニット3A〜3Cによって吸着領域R1の外部に供給される各ガス及びガスの活性種と、が混合されることを抑えることができるので、後述するようにウエハWにALDによる成膜処理を行うことができる。また、このパージガスはそのように雰囲気を分離する役割の他にも、ウエハWに過剰に吸着したDCSガスを当該ウエハWから除去する役割も有する。
図3中23A、23Bは、各々ガス給排気ユニット2に設けられる互いに区画されたガス流路であり、上記の原料ガスの流路25A〜25Cに対しても各々区画されて設けられている。ガス流路23Aの上流端は排気口22、ガス流路23Aの下流端は排気装置28に夫々接続されており、この排気装置28によって、排気口22から排気を行うことができる。また、ガス流路23Bの下流端はパージガス吐出口23、ガス流路23Bの上流端はArガスの供給源29に夫々接続されている。ガス流路23BとArガス供給源29とを接続する配管には、ガス供給機器20が介設されている。
第1の改質領域R2、第2の改質領域R3、反応領域R4には、夫々の領域に供給されたガスを活性化するための第1のプラズマ形成ユニット3A、第2のプラズマ形成ユニット3B、第3のプラズマ形成ユニット3Cが設けられている。第1のプラズマ形成ユニット3A及び第2のプラズマ形成ユニット3Bは、夫々改質ガス用のプラズマ発生部、第3のプラズマ形成ユニット3Cは反応ガス用のプラズマ発生部を夫々なすものである。第1〜第3のプラズマ形成ユニット3A〜3Cは各々同様に構成されており、ここでは代表して図1に示した第3のプラズマ形成ユニット3Cについて説明する。プラズマ形成ユニット3Cは、プラズマ形成用のガスを回転テーブル12上に供給すると共に、このガスにマイクロ波を供給して、回転テーブル12上にプラズマを発生させる。プラズマ形成ユニット3Cは、上記のマイクロ波を供給するためのアンテナ31を備えており、当該アンテナ31は、誘電体板32と金属製の導波管33とを含む。
誘電体板32は、平面視回転テーブル12の中央側から周縁側に向かうにつれて広がる概ね扇状に形成されている。真空容器11の天板11Bには上記の誘電体板32の形状に対応するように、概ね扇状の貫通口が設けられており、当該貫通口の下端部の内周面は貫通口の中心部側へと若干突出して、支持部34を形成している。上記の誘電体板32はこの貫通口を上側から塞ぎ、回転テーブル12に対向するように設けられており、誘電体板32の周縁部は支持部34に支持されている。
導波管33は誘電体板32上に設けられており、天板11B上に延在する内部空間35を備える。図中36は、導波管33の下部側を構成するスロット板であり、誘電体板32に接するように設けられ、複数のスロット孔36Aを有している。導波管33の回転テーブル12の中央側の端部は塞がれており、回転テーブル12の周縁部側の端部には、マイクロ波発生器37が接続されている。マイクロ波発生器37は、例えば、約2.45GHzのマイクロ波を導波管33に供給する。
図2及び図5に示すように、第1の改質領域R2の下流側端部には、上流側に向けて水素(H2)ガスを含む改質ガスを吐出する第1の改質ガス吐出部をなす第1のガスインジェクター41が設けられている。また、第2の改質領域R3の上流側端部には、下流側に向けてH2ガスを含む改質ガスを吐出する第2の改質ガス吐出部をなす第2のガスインジェクター42が設けられている。そして、反応領域R4の下流側端部には、上流側に向けて窒素含有ガスであるNH3ガスを含む反応ガスを吐出する反応ガス吐出部をなす反応ガスインジェクター43が設けられている。第1及び第2のガスインジェクター41、42、反応ガスインジェクター43は同様に構成されており、以下では、ガスインジェクター41、42、43という場合もある。以下、改質ガスとしてH2ガス、反応ガスとしてNH3ガスを夫々用いる例について説明する。
第1及び第2のガスインジェクター41、42、反応ガスインジェクター43は、例えば図1、図2、図6及び図7に示すように、先端側が閉じられた細長い管状体より構成されている。これらガスインジェクター41、42、43は、真空容器11の側壁から中央部領域に向かって水平に伸びるように、真空容器11の側壁に各々設けられ、回転テーブル12上のウエハWの通過領域と交差するように夫々配置されている。水平とは目視で見て概ね水平である場合を含む意味である。
ガスインジェクター41、42、43には、その長さ方向に沿ってガスの吐出口40が夫々形成されている。これら吐出口40の向き(ガスを吐出させた時の吐出方向)は、図7に反応ガスインジェクター43を例にして示すように、水平方向である回転テーブル12の上面と平行な向き(図7に点線Lにて示す向き)に対して一点鎖線L1で示す上側に45度傾いた向きと、一点鎖線L2で示す下側に45度傾いた向きとの間、この例では水平方向に向けてガスを吐出するように形成されている。例えば吐出口40は、各ガスインジェクター41、42、43において、回転テーブル12上のウエハWの通過領域をカバーする領域に形成されている。
図2に示すように、例えば第1のガスインジェクター41及び第2のガスインジェクター42はガス供給機器442を備えた配管系441を介してH2ガス供給源44に夫々接続されている。ガス供給機器442は、ガス供給源44から第1のガスインジェクター41及び第2のガスインジェクター42へのH2ガスの給断及び流量を各々制御できるように構成されている。
この例の反応ガスインジェクター43は、例えば図6に示すように、吐出口40が設けられたガス吐出領域がガスインジェクター43の長さ方向に複数例えば2つに分割されている。ガスインジェクター43の先端側の第1のガス吐出領域431と、ガスインジェクター43の基端側の第2のガス吐出領域432とは、ガスインジェクター43内部においてガスの通流空間が区画されている。そして、第1のガス吐出領域431は、ガス供給機器453を備えた配管系451を介してNH3ガス供給源45に接続され、第2のガス吐出領域432は、ガス供給機器454を備えた配管系452を介してNH3ガス供給源45に接続されている。ガス供給機器453、454は、ガス供給源45から反応ガスインジェクター43へのNH3ガスの給断及び流量を各々制御でき、こうして、第1のガス吐出領域431と第2のガス吐出領域432とから、互いに異なる流量でNH3ガスを吐出できるようになっている。なお、ガスインジェクター43のガス吐出領域を長さ方向に分割しない場合もある。
この例では、第1及び第2のガスインジェクター41、42、反応ガスインジェクター43は、夫々第1〜第3のプラズマ形成ユニット3A〜3Cの下方側に設けられているが、例えば第1のガスインジェクター41は、第1のプラズマ形成ユニット3Aの回転方向下流側に隣接する領域の下方側に設けるようにしてもよい。同様に、第2のガスインジェクター42は、第2のプラズマ形成ユニット3Bの回転方向上流側に隣接する領域の下方側、反応ガスインジェクター43は、第3のプラズマ形成ユニット3Cの回転方向下流側に隣接する領域の下方側に夫々設けるようにしてもよい。
第1及び第2の改質領域R2、R3では、上記の導波管33に供給されたマイクロ波は、スロット板36のスロット孔36Aを通過して誘電体板32に至り、この誘電体板32の下方に吐出されたH2ガスに供給されて、誘電体板32の下方の第1及び第2の改質領域R2、R3に限定的にプラズマが形成される。また、反応領域R4では、同様に、誘電体板32の下方の反応領域R4に限定的にNH3ガスのプラズマが形成される。
第2の改質領域R3と反応領域R4との間には、図2、図5及び図8に示すように、分離領域61が設けられている。この分離領域61の天井面は、第2の改質領域R3及び反応領域R4の各々の天井面よりも低く設定されている。分離領域61は、図2に示すように、平面的に見て、回転テーブル12の中央側から周縁側に向かうにつれて回転テーブル12の周方向に広がる扇状に形成されており、その下面は、回転テーブル12の上面に近接すると共に対向している。分離領域61の下面と回転テーブル12の上面との間は、分離領域61の下方側へのガスの侵入を抑えるために、例えば3mmに設定されている。なお、分離領域61の下面を天板11Bの下面と同一の高さに設定してもよい。
また、図2に示すように、回転テーブル12の外側であって、第1の改質領域R2の上流側端部、第2の改質領域R3の下流側端部及び反応領域R4の上流側端部の各々に臨む位置には、第1の排気口51、第2の排気口52及び第3の排気口53が夫々開口している。第1の排気口51は、第1のガスインジェクター41から吐出された第1の改質領域R2のH2ガスを排気するものである。第2の排気口52は、第2のガスインジェクター42から吐出された第2の改質領域R3のH2ガスを排気するものであり、分離領域61の回転方向上流側近傍に設けられている。また、第3の排気口53は、反応ガスインジェクター43から吐出された反応ガス領域R4のNH3ガスを排気するものであり、分離領域61の回転方向下流側近傍に設けられている。
図1に第3の排気口53を代表して示すように、第1〜第3の排気口51〜53は、真空容器11の容器本体11Aにおける回転テーブル12の外側の領域に、上を向いて開口するように形成され、第1〜第3の排気口51〜53の開口部は、回転テーブル12の下方側に位置している。なお、図1には、周方向の位置がずれているが、反応領域R4の反応ガスインジェクター43と、第3の排気口53とを併記している。これら第1の排気口51、第2の排気口52及び第3の排気口53は、夫々排気路511、521、531を介して例えば共通の排気装置54に接続されている。
各排気路511、521、531には、夫々図示しない排気量調整部が設けられ、排気装置54による第1〜第3の排気口51〜53からの排気量は例えば個別に調整自在に構成されている。なお、第1〜第3の排気口51〜53からの排気量は、共通化された排気量調整部により調整するようにしてもよい。こうして、第1及び第2の改質領域R2、R3、反応領域R4において、夫々のガスインジェクター41〜43から吐出された各ガスは、第1〜第3の排気口51〜53から排気されて除去され、これら排気量に応じた圧力の真空雰囲気が真空容器11内に形成される。
図1に示すように成膜装置1には、コンピュータからなる制御部10が設けられており、制御部10にはプログラムが格納されている。このプログラムについては、成膜装置1の各部に制御信号を送信して各部の動作を制御し、後述の成膜処理が実行されるようにステップ群が組まれている。具体的には、回転機構13による回転テーブル12の回転数、各ガス供給機器による各ガスの流量及び給断、各排気装置28、54による排気量、マイクロ波発生器37からのアンテナ31へのマイクロ波の給断、ヒーター15への給電などが、プログラムによって制御される。ヒーター15への給電の制御は、即ちウエハWの温度の制御であり、排気装置54による排気量の制御は、即ち真空容器11内の圧力の制御である。このプログラムは、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカードなどの記憶媒体から制御部10にインストールされる。
以下、成膜装置1による処理について、真空容器11内の各部でガスが供給される様子を模式的に示した図9を参照しながら説明する。先ず、ウエハWを6枚、基板搬送機構によって回転テーブル12の各凹部14に搬送し、ウエハWの搬送口16に設けられるゲートバルブを閉鎖して、真空容器11内を気密にする。凹部14に載置されたウエハWは、ヒーター15によって所定の温度に加熱される。そして、第1〜第3の排気口51、52、53からの排気によって、真空容器11内を所定の圧力の真空雰囲気にすると共に、回転テーブル12を例えば10rpm〜30rpmで回転する。
そして、第1〜第3のプラズマ形成ユニット3A〜3Cにおいて、第1のガスインジェクター41、第2のガスインジェクター42から夫々例えば4リットル/分の流量でH2ガスを吐出すると共に、反応ガスインジェクター43からは、例えば第1のガス吐出領域431及び第2のガス吐出領域432(図6参照)からトータルで1000ml/分(sccm)〜4000ml/分、例えば2000ml/分の流量でNH3ガスを吐出する。
第1の改質領域R2では、下流側端部の第1のガスインジェクター41から、上流側に向けて水平方向にH2ガスを吐出し、このH2ガスは上流側端部の第1の排気口51に向けて通流するので、H2ガスは第1の改質領域R2全体に行き渡るように流れていく。また、第2の改質領域R3では、上流側端部の第2のガスインジェクター42から、下流側に向けて水平方向にH2ガスを吐出し、このH2ガスは下流側端部の第2の排気口52に向けて通流するので、H2ガスは第2の改質領域R3全体に行き渡るように流れていく。そして、例えばH2ガスの一部は、分離領域61内に流入するが、分離領域61の天井が低くてコンダクタンスが小さいので、第2の排気口52の吸引力により引き戻され、当該第2の排気口52内に排気される。
反応領域R4では、下流側端部の反応ガスインジェクター43から、上流側に向けて水平方向にNH3ガスを吐出し、このNH3ガスは上流側端部の第3の排気口53に向けて通流するので、NH3ガスは反応領域R4全体に行き渡るように流れていく。そして、例えばNH3ガスの一部は、分離領域61内に流入するが、分離領域61のコンダクタンスが小さいので、第3の排気口53の吸引力により引き戻され、当該第3の排気口53内に排気される。従って、第1及び第2の改質領域R2、R3と、反応領域R4との間では、NH3ガスとH2ガスの通流領域が互いに分離された状態となり、NH3ガスとH2ガスの混合が抑制される。
一方、マイクロ波発生器37からマイクロ波が供給され、このマイクロ波によって、H2ガス又はNH3ガスがプラズマ化し、第1及び第2の改質領域R2、R3にH2ガスのプラズマP1、反応領域R4にNH3ガスのプラズマP2が夫々形成される。回転テーブル12の回転によって各ウエハWが反応領域R4を通過すると、プラズマP2を構成する、NH3ガスから生じたN(窒素)を含むラジカルなどの活性種が各ウエハWの表面に供給される。それによってウエハWの表層が窒化され、窒化膜が形成される。
ガス給排気ユニット2においてはガス吐出口21からDCSガス、パージガス吐出口23からArガスが夫々所定の流量で吐出されると共に、排気口22から排気が行われる。また、第1及び第2の改質領域R2、R3、反応領域R4においては、引き続きH2ガス又はNH3ガスのプラズマP1、P2が形成される。
このように各ガスの供給及びプラズマP1、P2の形成が行われる一方で、真空容器11内の圧力が所定の圧力例えば66.5Pa(0.5Torr)〜665Pa(5Torr)になる。回転テーブル12の回転によって、ウエハWが吸着領域R1に位置すると、シリコンを含む原料ガスとしてDCSガスが窒化膜の表面に供給されて吸着される。引き続き回転テーブル12が回転して、ウエハWが吸着領域R1の外側へ向けて移動し、ウエハWの表面にパージガスが供給され、吸着された余剰のDCSガスが除去される。
さらに、回転テーブル12の回転により、反応領域R4に至るとプラズマに含まれるNH3ガスの活性種がウエハWに供給されてDCSガスと反応し、窒化膜上にSiNの層が島状に形成される。また、ウエハWが回転テーブル12の回転により、第1及び第2の改質領域R2、R3に至ると、プラズマに含まれるH2ガスの活性種により、SiN膜中の未結合手にHが結合され、緻密な膜へ改質される。DCSガスには塩素(Cl)が含まれているため、DCSガスを原料ガスに用いると、成膜されるSiN膜に塩素成分が不純物として取り込まれてしまう可能性がある。このため、第1及び第2の改質領域R2、R3においてH2ガスのプラズマを照射することにより、薄膜中に含まれる塩素成分をH2ガスの活性種の働きによって脱離させ、より純粋な(緻密な)窒化膜に改質している。
こうして、ウエハWは、吸着領域R1、第1及び第2の改質領域R2、R3、反応領域R4を順に繰り返し移動し、DCSガスの供給、H2ガスの活性種の供給、NH3ガスの活性種の供給を順に繰り返して受け、各島状のSiNの層が改質されながら、広がるように成長する。その後も、回転テーブル12の回転が続けられてウエハW表面にSiNが堆積し、薄層が成長してSiN膜となる。即ち、SiN膜の膜厚が上昇し、所望の膜厚のSiN膜が形成されると、例えばガス給排気ユニット2における各ガスの吐出及び排気が停止する。また、第1及び第2のプラズマ形成ユニット3A、3BにおけるH2ガスの供給及び電力の供給と、第3のプラズマ形成ユニット3CにおけるNH3ガスの供給及び電力の供給と、が各々停止して成膜処理が終了する。成膜処理後のウエハWは、搬送機構によって成膜装置1から搬出される。
上記の成膜装置1によれば、第1の改質領域R2及び第2の改質領域R3に供給されたH2ガスは夫々の領域に設けられた第1の排気口51及び第2の排気口52から夫々排気され、反応領域R4に供給されたNH3ガスは当該領域に設けられた第3の排気口53から排気される。このため、各領域R2、R3、R4において、いわば専用の排気性能が高いので、第1の改質領域R2及び第2の改質領域R3と、反応領域R4との間で、H2ガス及びNH3ガスが混合されることが抑制される。従って、反応領域R4へのNH3ガスの供給流量を大きくしても、第1の改質領域R2及び第2の改質領域R3では、NH3ガスの拡散が抑えられることから、H2ガスの活性種による改質処理が高い効率で行われるので、SiN膜の緻密性が向上し、低エッチングレートが確保できる。また、反応領域R4ではNH3ガスの流量増加に伴い、成膜速度が増大する。この結果、エッチングレートが低い高品質なSiN膜を早い成膜速度で形成することができる。
従来のように、H2ガスの供給領域とNH3ガスの供給領域とに共通の排気口が設けられている場合には、NH3ガスの供給流量を多くすると、H2ガスの供給領域にもNH3ガスが拡散していき、H2ガス及びNH3ガスが混合されやすくなる。従って、成膜速度の増大を図るためにNH3ガスの供給流量を増加すると、後述の評価試験からも明らかなように、改質領域における改質効率が低下し、エッチングレートが高い膜が形成されてしまう。このように、従来の装置では、低いエッチングレートを確保するためには、NH3ガスの流量は100ml/分程度に設定せざるを得ず、SiN膜の成膜にあたり、成膜速度の増大とエッチングレートの低下の両立を図ることはできなかった。
これに対して、上述の実施の形態では、後述の評価試験からNH3ガスの流量を300ml/分以上にすると、従来に比べてエッチングレートが低いSiN膜を早い成膜速度で形成することができることが確認されている。このことから、上述の実施形態は、NH3ガスの流量が300ml/分以上である場合に有効な技術であるといえる。
また、反応ガスインジェクター43は反応領域R4の回転方向下流側端部に設けられると共に、ガスの吐出口40は反応領域R4の上流側に向けてガスを吐出するように形成され、回転方向上流側端部には第3の排気口53が設けられている。このため、反応ガスインジェクター43から吐出されたNH3ガスは、反応領域R4の回転方向下流側に配置されたSiの吸着領域R1とは反対側へ引き寄せられるように流れていくので、吸着領域R1へのNH3ガスの拡散が抑えられる。
さらに、第1の改質領域R2と第2の改質領域R3は、回転方向において互いに隣接すると共に、第1の改質領域R2では、第2の改質領域R3側に寄った位置に設けられた第1のガスインジェクター41から、第2の改質領域R3側とは反対側に設けられた第1の排気口51に向けてH2ガスが吐出される。一方、第2の改質領域R3では、第1の改質領域R2側に寄った位置に設けられた第2のガスインジェクター42から、第1の改質領域R2側とは反対側に設けられた第2の排気口52に向けてH2ガスが吐出される。従って、第1及び第2の改質領域R2、R3を合わせた広い改質領域では、回転方向の中央部から上流側及び下流側に向けて夫々ガスが吐出されるので、広い範囲に満遍なくH2ガスを行き渡らせることができる。これにより、第1及び第2の改質領域R2、R3において、十分に改質処理を進行させ、高い改質効果を得ることができる。
さらに、第2の改質領域R3と反応領域R4とは、互いに回転方向に隣接しているが、第2の改質領域R3では、反応領域R4側に寄った位置に第2の排気口52が形成され、反応領域R4では第2の改質領域R3側に寄った位置に第3の排気口53が形成されている。このように、隣接する領域R3、R4同士の間に、夫々専用の排気口52、53が形成されている。これにより、仮にH2ガス又はNH3ガスが夫々隣接する領域R3、R4側へ移動しようとしても、隣接する領域R3、R4に至るまでに排気口が2つあり、夫々の排気口に引き込まれるように排気されるので、第2の改質領域R3又は反応領域R4では、異なるガスの拡散が抑えられる。
さらに、第2の改質領域R3と反応領域R4の間に分離領域61を形成することにより、ガスが隣接する領域R3、R4に移動しようとすると、既述のように分離領域61はコンダクタンスが小さいので、第2の排気口52及び第3の排気口53の吸引力によりこれら排気口52、53に引き戻される。これにより、第2の改質領域R3又は反応領域R4では、より一層異なるガスの拡散が抑えられる。
また、第1及び第2のガスインジェクター41、42、反応ガスインジェクター43のガス吐出口40は水平方向にガスを吐出するように形成されている。このため、第1及び第2の改質領域R2、R3、反応領域R4の夫々において、ガスは第1〜第3の排気口51〜53に向けて速やかに通流していき、夫々の領域R2〜R4において、ガスが満遍なく行き渡り、排気される。
さらにまた、既述のように、H2ガスとNH3ガスとの混合が抑制されるので、後述の評価試験から明らかなように、膜厚の制御を行うことができる。つまり、反応領域R4では、反応ガスインジェクター43の第1のガス吐出領域431と、第2のガス吐出領域432のガス流量を変えると、この流量の変化がそのまま膜厚に反映される。従って、反応ガスインジェクター43の長さ方向のガス流量を調整することにより、ウエハWの径方向の膜厚を制御することができる。
さらに、第1のガスインジェクター41と第1の排気口51とは、第1の改質領域R2における回転方向の下流側端部と上流側端部に夫々設けられ、第2のガスインジェクター42と第2の排気口52とは、第2の改質領域R3における回転方向の上流側端部と下流側端部に夫々設けられている。このように、第1及び第2の改質領域R2、R3では、回転方向においていわば互いに対向するようにガスインジェクター41、42と排気口51、52とが夫々設けられているので、改質領域R2、R3のプラズマ空間におけるH2ガスの滞在時間が長くなる。このため、ArガスやNH3ガスの混入が抑制され、H2ガスの分圧が高いことも合わせて、小流量のH2ガスであっても、十分に改質処理を進行させることができる。このように、本発明装置では、従来に比べて、NH3ガスの流量増加や、H2ガスの流量減少を図ることができて、これらNH3ガス、H2ガス流量の自由度が高く、プロセス条件の拡大に繋がる。
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施の形態の成膜装置7について、図10〜図12を参照して、第1の実施形態の成膜装置1との差異点を中心に説明する。この例の成膜装置7には、回転テーブル12の回転方向におけるガス給排気ユニット2の下流側から、第1の改質領域R2、反応領域R4、第2の改質領域R3が、回転方向に沿って順番に配置されている。
第1の改質領域R2の上流側端部には、下流側に向けてH2ガスを吐出する第1のガスインジェクター41よりなる第1の改質ガス吐出部、第2の改質領域R3の下流側端部には、上流側に向けてH2ガスを吐出する第2のガスインジェクター42よりなる第2の改質ガス吐出部が夫々設けられている。さらに、反応領域R4の下流側端部には、上流側に向けてNH3ガスを吐出する反応ガスインジェクター43よりなる反応ガス吐出部が設けられている。
回転テーブル12の外側であって、第1の改質領域R2の下流側端部、反応領域R4の上流側端部及び第2の改質領域R3の上流側端部の各々に臨む位置には、夫々第1の排気口51、第3の排気口53、第2の排気口52が形成されている。これら第1〜第3の排気口51〜53は、第1の実施の形態と同様に、回転テーブル12よりも下方側において、上側に開口するように形成されている。さらに、第1の改質領域R2と反応領域R4との間には第1の分離領域62が設けられ、反応領域R4と第2の改質領域R3との間には第2の分離領域63が設けられている。これら第1及び第2の分割領域62、63は第1の実施の形態の分離領域61と同様に構成されている。第1〜第3プラズマ形成ユニット3A、3B、3Cや、第1及び第2のガスインジェクター41、42、反応ガスインジェクター43等、その他については第1の実施形態と同様であり、同じ構成部位については同符号を付し、説明を省略する。
この実施形態においても、例えば第1及び第2のガスインジェクター41、42から夫々例えば4リットル/分の流量でH2ガスを吐出すると共に、反応ガスインジェクター43から例えばトータルで1000ml/分〜4000ml/分例えば2000ml/分の流量でNH3ガスを吐出する。そして、上述の第1の実施の形態の成膜装置1と同様にSiN膜の成膜処理を行う。
真空容器11内の各部でガスが供給される様子を図11及び図12に模式的に示す。第1の改質領域R2では、上流側端部の第1のガスインジェクター41から、下流側に向けて水平方向にH2ガスを吐出し、このH2ガスは下流側端部の第1の排気口51に向けて通流するので、H2ガスは第1の改質領域R2全体に行き渡る。そして、例えばH2ガスの一部は、第1の分離領域62内に流入するが、分離領域62のコンダクタンスが小さいので、第1の排気口51の吸引力により引き戻され、当該第1の排気口51内に排気される。
反応領域R4では、下流側端部の反応ガスインジェクター43から、上流側に向けて水平方向にNH3ガスを吐出し、このNH3ガスは上流側端部の第3の排気口53に向けて通流するので、NH3ガスは反応領域R4全体に行き渡るように流れていく。そして、例えばNH3ガスの一部は、第1の分離領域62内に流入するが、分離領域62のコンダクタンスが小さいので、第3の排気口53の吸引力により引き戻され、当該第3の排気口53内に排気される。
また、第2の改質領域R3では、下流側端部の第2のガスインジェクター42から、上流側に向けて水平方向にH2ガスを吐出し、このH2ガスは上流側端部の第2の排気口52に向けて通流するので、H2ガスは第2の改質領域R3全体に行き渡るように流れていく。
こうして、互いに隣接する第1の改質領域R2と、反応領域R4との間では、第1のガスインジェクター41と反応ガスインジェクター43とから、夫々第1の分離領域62に向けてガスが吐出されるが、第1の排気口51及び第3の排気口53と、第1の分離領域62とにより、NH3ガスとH2ガスの混合が抑制される。つまり、既述のように、第1の改質領域R2のH2ガスは第1の排気口51、反応領域R4のNH3ガスは第3の排気口53により夫々排気されるが、仮にH2ガスが反応領域R4側に移動しようとしても、反応領域R4の入口にある第3の排気口53に引き込まれるため、反応領域R4への拡散が防止される。同様に、反応領域R4のNH3ガスが第1の改質領域R2側に移動しようとしても、第1の改質領域R2の入口にある第1の排気口51に引き込まれるため、第1の改質領域R2への拡散が防止される。
また、互いに隣接する反応領域R4と第2の改質領域R3との間では、第2の分離領域63が設けられているので、NH3ガスとH2ガスの混合が抑制される。つまり、反応領域R4のNH3ガスは第3の排気口53により引き込まれるため、第2の改質領域R3側に向かうNH3ガスはほとんどなく、仮に第2の改質領域R3側に移動しようとしても、第2の分離領域62により侵入が阻まれ、第2の改質領域R3へのNH3ガスの拡散が防止される。同様に、第2の改質領域R3のH2ガスは第2の排気口52により引き込まれるため、反応領域R4側に向かうH2ガスはほとんどなく、仮に反応領域R4側に移動しようとしても、第2の分離領域62により侵入が阻まれ、反応領域R4へのH2ガスの拡散が防止される。
このように、この例の成膜装置7においても、H2ガス及びNH3ガスが混合されることが抑えられるので、第1の実施形態と同様に、早い成膜速度で膜質の良好なSiN膜を形成することができ、ウエハWの径方向の膜厚の制御ができると共に、プロセス条件が拡大できる。
以上において、第1の実施形態の成膜装置及び第2の実施の形態の成膜装置では、第1及び第2の改質領域R2、R3と、反応領域R4の各領域において、専用の排気性能が高く、H2ガス及びNH3が混合されることが抑制される。このため、分離領域61、第1の分離領域62及び第2の分離領域63は補助的に設けられるものであり、必ずしもこれらを設ける必要はない。但し、例えばNH3ガスの流量が1000ml/分以上と多くなる場合には、より確実にH2ガスとNH3ガスとの混合を抑制するために、分離領域61、第1の分離領域62及び第2の分離領域63を設けることが好ましい。また、ガスインジェクターは、その長さ方向に沿って吐出口が形成され、回転テーブル12上のウエハWの通過領域と交差するように配置される構成であればよく、長い管状体に限らず、ガスの吐出口が形成されたガス供給室であってもよい。
本発明の成膜装置は上述の例に限らず、反応ガス吐出部を、反応領域の上流側及び下流側の一方側の端部に設け、当該上流側及び下流側の他方側に向けて反応ガスを吐出するように構成すると共に、反応ガス用の排気口を、反応領域の上流側及び下流側の他方側の端部に臨む位置に設けるように構成する。そして、改質ガス吐出部を、改質領域の上流側及び下流側の一方側の端部に設け、当該上流側及び下流側の他方側に向けて改質ガスを吐出するように構成すると共に、改質ガス用の排気口を改質領域の上流側及び下流側の他方側の端部に臨む位置に設けるように構成してもよい。
図13は、反応領域R4が改質領域R2の下流側に位置し、反応ガス吐出部をなす反応ガスインジェクター43を、反応領域R4の下流側の端部に設け、上流側に向けて反応ガスを吐出するように構成すると共に、反応ガス用の第3の排気口53を、反応領域R4の上流側の端部に臨む位置に設けるように構成する。そして、改質ガス吐出部をなす第1のガスインジェクター41を、第1の改質領域R2の上流側の端部に設け、下流側に向けて改質ガスを吐出するように構成すると共に、改質ガス用の第1の排気口51を第1の改質領域R2の下流側の端部に臨む位置に設けるように構成した例である。
また、図14は、反応領域R4が改質領域R3の上流側に位置し、反応ガスインジェクター43を、反応領域R4の下流側の端部に設け、上流側に向けて反応ガスを吐出するように構成すると共に、反応ガス用の第3の排気口53を、反応領域R4の上流側の端部に臨む位置に設けるように構成する。そして、改質ガス吐出部をなす第2のガスインジェクター42を、第2の改質領域R3の下流側の端部に設け、上流側に向けて改質ガスを吐出するように構成すると共に、改質ガス用の第2の排気口52を第2の改質領域R3の上流側の端部に臨む位置に設けるように構成した例である。
さらに、図15は、反応領域R4が改質領域R3の下流側に位置し、反応ガスインジェクター43を、反応領域R4の上流側の端部に設け、下流側に向けて反応ガスを吐出するように構成すると共に、反応ガス用の第3の排気口53を、反応領域R4の下流側の端部に臨む位置に設けるように構成する。そして、改質ガス吐出部をなす第2のガスインジェクター42を、第2の改質領域R3の上流側の端部に設け、下流側に向けて改質ガスを吐出するように構成すると共に、改質ガス用の第2の排気口52を第2の改質領域R3の下流側の端部に臨む位置に設けるように構成した例である。
また、第2の実施形態の成膜装置のように、反応領域R4が第2の改質領域R3の上流側に位置する場合において、反応ガスインジェクター43を反応領域R4の上流側の端部に設け、下流側に向けて反応ガスを吐出するように構成すると共に、反応ガス用の第3の排気口53を、反応領域R4の下流側の端部に臨む位置に設ける。そして、第2のインジェクター42を改質領域R3の下流側の端部に設け、改質ガス用の第2の排気口52を第2の改質領域R3の上流側の端部に臨む位置に設けるように構成してもよい。この例や図13〜図15に示す例においては、改質領域R1、R2のプラズマ空間における改質ガスの滞在時間や、反応領域R4のプラズマ空間における反応ガスの滞在時間が長くなるため、改質処理や窒化処理が十分に進行するという効果がある。このように、反応ガスインジェクター43、第1及び第2のガスインジェクター41、42の配置位置は、プロセス条件に応じて適宜変更可能である。
さらに、ガス給排気ユニット2においては、必ずしもパージガス吐出口23を備える必要はない。例えば排気口22の外側にさらなる排気口を設け、この排気口により吸着領域R1以外の領域からの反応ガスや改質ガスを排気して、吸着領域R1の雰囲気を外部の雰囲気から分離するようにしてもよい。
(評価試験1)
第1の実施の形態の成膜装置1において、第1及び第2のガスインジェクター41、42から夫々4リットル/分でH2ガスを吐出し、反応ガスインジェクター43から1000ml/分の流量でNH3ガスを吐出したときのH2とNH3の面内分布についてシミュレーションを行った。シミュレーション条件は、回転テーブル12の温度:450℃、回転テーブル12の回転数:30rpmとした。
評価試験1と同様の条件において、図16に示す比較モデルの成膜装置8についても同様のシミュレーションを行った、図16の成膜装置8について、第1の実施の形態の成膜装置1と異なる点について簡単に説明する。この例では、ガス給排気ユニット2と、第1の改質領域R2と、反応領域R4と、第2の改質領域R3とが、回転テーブル2の回転方向の上流側からこの順序で配設されている。第1の改質領域R2及び第2の改質領域R3には、回転テーブル2の中央側と周縁側に、夫々H2ガスの吐出部81、82が設けられている。
反応領域R4では、回転方向の上流側端部と下流側端部に夫々第1の実施形態と同様に構成された反応ガスインジェクター83、83が設けられると共に、回転テーブルの周縁側に、NH3ガスの吐出部84が配置されている。そして、反応ガスインジェクター83、83同士の間に、H2ガス及びNH3ガスを排気するための共通の排気口85が形成されている。この成膜装置8においても、H2ガスの吐出部81、82からのH2ガスの総流量と、反応ガスインジェクター83、83及びNH3ガスの吐出部84からのNH3ガスの総流量は評価試験1と同じに設定した。
NH3濃度のシミュレーションにより、本発明装置では、比較例装置に比べて、反応領域R4におけるNH3濃度が高いことが認められ、成膜速度の増大に有効であることが理解される。また、H2濃度のシミュレーションにより、本発明装置では、比較例装置に比べて、反応領域R4におけるH2濃度が極めて低く、第1及び第2の改質領域R2、R3と反応領域R4との間においてH2ガスとNH3ガスとが分離できることが認められた。さらに、本発明装置では、比較例装置に比べて、第1及び第2の改質領域R2、R3におけるNH3濃度が極めて低く、エッチングレートの低下に有効であることが理解される。
(評価試験2)
本発明装置において、第1及び第2のガスインジェクター41、42から夫々4リットル/分でH2ガスを吐出し、反応ガスインジェクター43から、NH3ガスを吐出してSiN膜を成膜し、このときの成膜速度を評価した。また、得られたSiN膜について、フッ酸溶液を用いてウェットエッチングを行い、このときのエッチングレートについても評価した。SiN膜の成膜条件は、回転テーブル12の温度:450℃、回転テーブル12の回転数:30rpm、プロセス圧力:267Pa(2Torr)とし、NH3ガスは、0ml/分〜1600ml/分の間で流量を変えて供給した。また、比較例装置を用いて、同様に評価試験2を行った。
エッチングレートについては図17に、成膜速度については図18に夫々示す。図17中、縦軸はエッチングレート、横軸はNH3ガスの流量であり、□にて本発明装置のデータ、◇にて比較例装置のデータを夫々プロットしている。また、図18中、縦軸は成膜速度、横軸はNH3ガスの流量であり、□にて本発明装置のデータ、◇にて比較例装置のデータを夫々プロットしている。なお、エッチングレートは、熱酸化膜を同じ条件にてフッ酸溶液を用いてウェットエッチングしたときのエッチングレートを1とし、これに対する相対値で示している。
膜質の指標となるエッチングレートについては、図17から、本発明装置では、NH3ガスの流量を増加しても、低いエッチングレートを確保できること、特にNH3ガスの流量が500ml/分以上では、エッチングレートが0.17以下とより低くなることが認められた。一方、比較例装置では、NH3ガスの流量が100ml/分以下のときは、エッチングレートが0.17以下となるが、NH3ガスの流量の増加に伴い、エッチングレートが急激に高くなることが確認された。これは、比較例装置では、NH3ガスの流量が増加すると、改質領域において、NH3ガスとH2ガスとが混合し、H2ガスによる改質処理よりもNH3ガスの反応が優先して、改質処理が効率よく進行しないためと推察される。
成膜速度については、図18から、本発明装置ではNH3ガスの流量増加に伴って成膜速度が急激に向上することが認められたが、比較例装置ではNH3ガスの流量が500ml/分以上になると、成膜速度がほぼ変化しないことが確認された。これは、比較例装置では、ガス供給部と排気口の位置関係により、NH3ガスがそのまま排気口へ向かって速やかに流れ、NH3ガスの流量が増加しても排気される量が多くなるためと推察される。
以上のように、本発明の成膜装置1では、NH3ガスの流量が300ml/分のときには、比較例装置よりも低エッチングレートであって、成膜速度もほぼ同じであることが認められた。また、NH3ガスの流量が300ml/分以上であれば、比較例装置に比べて成膜速度が大きく、エッチングレートが低くなることが確認された。このように、本発明によれば、NH3ガスの流量を増加することによって早い成膜速度を確保しながら、低いエッチングレートを達成できることが理解され、本発明の成膜装置1は、NH3ガスの流量が300ml/分以上のプロセスに有効であることが確認された。
また、比較例装置のように、NH3ガスとH2ガスを共通の排気口85から排気する装置であっても、NH3ガスの流量が200ml/分のときには、0.18以下のエッチングレートを確保している。このことから、本発明装置のように、NH3ガスとH2ガスとを夫々専用の排気口から排気する装置であれば、NH3ガスの供給領域とH2ガスの供給領域との間に分離領域を設けない構成であっても、NH3ガスとH2ガスの混合が十分に抑制されることが理解される。従って、分離領域を設けない構成であっても、NH3ガスの流量が300ml/分以上であれば、比較例装置に比べて早い成膜速度と、低エッチングレートを確保できると言える。
(評価試験3)
本発明装置において、第1及び第2のガスインジェクター41、42から夫々4リットル/分でH2ガスを吐出し、反応ガスインジェクター43から、NH3ガスを吐出してSiN膜を成膜し、このときの膜厚分布を評価した。SiN膜の成膜条件は、回転テーブル12の温度:450℃、回転テーブル12の回転数:30rpm、プロセス圧力:267Pa(2Torr)とし、NH3ガスは、第1の吐出領域431と第2の吐出領域432の流量を変えて供給した。
この結果を図19に示す。図中縦軸は膜厚であり、横軸はウエハWの径方向の位置である。ウエハWの径方向の位置は、ウエハ中心が0、+150mmが回転テーブル12の回転中心側、−150mmが回転テーブル12の周縁側である。第1の吐出領域431の流量をF1、第2の吐出領域432の流量をF2とすると、F1/F2=250sccm/250sccmの場合を△、F1/F2=250sccm/0sccmの場合を□、F1/F2=0sccm/250sccmの場合を◇で夫々プロットしている。膜厚は、ウエハ中心の膜厚が1となるように、規格化した任意定数である。
また、比較例装置を用いて、同様に評価試験3を行った。この結果を図20に示す。図19と同様に、図中縦軸は膜厚であり、図中横軸はウエハWの径方向の位置である。このとき、反応ガスインジェクター83、83の総流量をF3、吐出部84の総流量をF4とすると、F3/F4=1000sccm/0sccmの場合を△、F3/F4=500sccm/500sccmの場合を□、F3/F4=250sccm/750sccmの場合を◇で夫々プロットしている。
本発明装置の結果を示す図19から、反応ガスインジェクター43の先端側の第1の吐出領域431からの流量を多くすれば、回転テーブル12の回転中心側の膜厚が大きくなり、反応ガスインジェクター43の基端側の第2の吐出領域432からの流量を多くすれば、回転テーブル12の周縁側の膜厚が大きくなることが認められた。これにより、第1の吐出領域431と第2の吐出領域432の流量を変えることによって、ウエハWの径方向の膜厚分布が変化し、ウエハWの径方向の膜厚制御性が良好であることが理解される。これに対して、比較例装置の結果を示す図20では、反応ガスインジェクター83と吐出部84の流量を変えても、ウエハWの径方向の膜厚分布はほぼ同様であり、膜厚の制御は困難であることが確認された。
また、本発明装置において、NH3ガスの総流量を変えてSiN膜を成膜し、その膜厚を評価した。この結果を図21に示す。図中縦軸は膜厚、横軸はウエハWの径方向の位置である。第1の吐出領域431の流量をF1、第2の吐出領域432の流量をF2とすると、F1/F2=40sccm/40sccmの場合を□、F1/F2=100sccm/100sccmの場合を◇、F1/F2=250sccm/250sccmの場合を△、F1/F2=500sccm/500sccmの場合を×で夫々プロットしている。
また、比較例装置を用いて、NH3ガスの総流量を変えた場合についても、SiN膜の膜厚を評価した。この結果を図22に示す。図中縦軸は膜厚、横軸はウエハWの径方向の位置である。このとき、反応ガスインジェクター83、83の総流量をF3、吐出部84の総流量をF4とすると、F3/F4=80sccm/0sccmの場合を□、F3/F4=140sccm/0sccmの場合を△、F3/F4=500sccm/0sccmの場合を◇、F3/F4=1000sccm/0sccmの場合を×で夫々プロットしている。
本発明装置の結果を示す図21から、NH3ガスの流量を増加することによって、ウエハWの径方向の位置−100mmから+100mmの範囲において、膜厚をほぼ均一な分布に制御できることが認められた。これは膜厚の面内均一性が改善することを示しており、低いエッチングレートを保持しつつ、早い成膜速度で膜厚の面内均一性が良好なSiN膜が成膜できることが理解される。これに対して、比較例装置の結果を示す図22では、NH3ガスの流量を増加しても、膜厚の分布はほぼ同様であり、膜厚の面内均一性の改善は困難であることが確認された。