本発明は、生分解性ポリマーを含むコーティングに関する。本発明は更に、そのコーティングを含む埋込型デバイスに関する。生分解性ポリマーを含むコーティングは当技術分野で公知である。ポリエステルアミドなどの生分解性ポリマーを含むコーティングは、例えば国際公開第2011045443号パンフレットに開示されている。開示の生分解性ポリエステルアミドは、構造式I:
による2つのビス−(aアミノ酸)ベースのジオールジエステル内に少なくとも2つの直鎖状飽和または不飽和脂肪族ジオール残基を含む。
好ましい実施形態において、mは0.01〜0.99
であり;pは0.2〜3
であり、qは0.10〜1.00
であり、nは5〜100であり;R
1は−(CH
2)
8−であり;主鎖単位mおよびpにおけるR
3およびR
4はロイシンであり、−R
5はヘキ
シレンであり、R
6は、構造式(II):
の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片であり、
R
7は、Hまたはベンジル基から選択されてもよく、R
8は−(CH
2)
4−である。
R7がHである場合には、ポリマーは更に、PEA−III−Hと示され、R7がベンジルである場合には、ポリマーは更に、PEA−III−Bzと示される。しかしながら、PEA−III−HまたはPEA−III−Bzをベースとするコーティングは、基材への付着性、分解および薬物放出の点から、生物医学産業における高い必要条件を満たさないことが指摘されている。
生物医学産業における高い要件においては、医療器具上のポリマーコーティングの質が常に向上することが要求される。粒子を生じないように、デバイスに対するより良い付着性に向かって開発されなければならず、生分解性ポリマーから製造される場合には、コーティングは目標期間で分解しなければならない。これは特に、生理活性物質が完全に溶出して間もなく、完全に分解すべき、生分解性、薬物溶出コーティングにとって重要である。基材の前処理またはプライマーを使用する必要がなくなることから、例えば、医療器具またはデバイス構成部品をコーティングするための向上した付着性が必要とされる。
本発明の目的は、上記の欠点を解消することである。
本発明の目的は、基材(つまり、医療器具およびデバイス構成部品)への向上した付着性を付与する、生分解性ポリマーを含むコーティングを提供することである。
本発明の他の目的は、酵素の存在下での分解速度が増加したコーティングを提供することである。
本発明の更に他の目的は、特有の薬物放出特性を有するコーティングを提供することである。
本発明の目的は、ポリマー主鎖に垂れ下がった少なくとも2つの異なる官能基を含む生分解性ポリマーを含む、厚さ1〜100μmを有するコーティングであって、その2つの異なる官能基が、カルボキシル、アミン、チオール、サルフェート、ホスフェートまたはヒドロキシル基から選択される少なくとも1つの非保護親水性官能基と、エステル、アミドまたはチオエステル基から選択される少なくとも1つの保護疎水性官能基と、を含み、非保護親水性基と保護疎水性官能基の比が0.17〜3である、コーティングを提供することによって達成される。
意外なことに、ポリマー主鎖において相対比で異なる官能基を含む生分解性ポリマーをベースとするコーティングは、基材(つまり、医療器具およびデバイス構成部品)に対して向上した付着性を付与することが見出された。医療器具およびデバイス構成部品(例えば、金属、プラスチック)の表面上へのポリマーの付着性が増加すると、前処理またはプライマーの使用が不要となるなど、コーティング特性が向上され得るということになる。コーティング特性が向上すると、コーティングの均一性および耐摩耗性も向上する。
本発明のコーティングは更に、酵素の存在下での分解速度の増加を示し、特有の薬物放出特性を示す。この結果から、1つの官能基のみを保持する同様な種類の生分解性ポリマーと比べて、2つの異なる官能基を併せ持つ生分解性ポリマーを含むコーティングの性能は全体的に優れていることが示されている。
好ましくは、2つの異なる官能基は、カルボキシル、アミン、サルフェート、ホスフェートまたはヒドロキシル基から選択される少なくとも1つの非保護親水性官能基と、エステル、アミド、チオールまたはチオエステル基から選択される少なくとも1つの保護疎水性官能基と、を含む。非保護とは、遊離カルボン酸基または−COOH基、−NH2基または−OH基を意味する。保護疎水性官能基とは、−COOR基、−COSR、−CONHR、−COC(O)R、−CSC(O)R、NHC(O)Rまたは−SR基を意味し、Rは、(C1〜C20)アルキル基または(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキル基であり得る。
非保護親水性基と保護疎水性官能基の比は、0.17〜3、好ましくは0.3〜1である。
更に好ましくは、本発明によるコーティングは、ペンダント非保護カルボキシル官能基および保護エステル官能基を保持する生分解性ポリマーを含む。
好ましい実施形態において、コーティングは、生分解性ポリエステルアミド(PEA)を含む。
好ましい実施形態において、コーティングは、構造式(III):
による生分解性ポリエステルアミドコポリマー(PEA)を含み、
上記式中、m+pは0.9〜0.1
であり、qは0.1〜0.9
であり;m+p+q=1であり、ただしmまたはpは0であることができ;nは5〜300
であり、かつaは少なくとも0.1であり、bは少なくとも0.15であり、かつa+b=1であり、
− R
1は
、(C
2〜C
20)アルキレンからなる群から独立して選択される。
− 単一主鎖単位mまたはpにおけるR
3およびR
4はそれぞれ独立して、水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニル、(C
6〜C
10)アリール、−(CH
2)SH、−(CH
2)
2S(CH
3)
、(CH
3)
2−CH−CH
2−、−CH(CH
3)
2、−CH(CH
3)−CH
2−CH
3、−CH
2−C
6H
5、−(CH
2)
4−NH
2、およびその混合物からなる群から選択される。
− R
5は
、(C
2〜C
20)アルキレンからなる群から独立して選択される。
− R
6は、構造式(III);
の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択され、
− R
7は、(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルまたは保護性(protecting)基からなる群から独立して選択される。
− R
8は−(CH
2)
4−である。
mおよびpが0でなく、m+p+q=1である場合に、PEAは、PEA−III−H/Bzと呼ばれる。好ましくは、式(III)のポリエステルアミド主鎖におけるm、pおよびq単位はランダム分布にある。
式(III)(保護官能基が主鎖単位(a)に存在し、かつ非保護官能基が主鎖単位(b)に存在し、主鎖単位(b)における非保護官能基のパーセンテージが少なくとも15%であり、非保護官能基と保護官能基の合計が100%である)によるポリエステルアミドを含むコーティングは、金属、ガラスまたはプラスチックなどの基材に対して向上した付着性を付与することが見出されている。好ましくは、主鎖単位(b)における非保護官能基のパーセンテージは、25〜75%の範囲内で変動し、非保護官能基と保護官能基の合計は100%である。
L−リジン−COOHを少なくとも15%、したがってL−リジン−COO−ベンジル(Bz)を85%含むPEAは更に、PEA−H/Bz 15%Hと呼ばれる。L−リジン−COOHを少なくとも25%、したがってL−リジン−COO−ベンジル(Bz)を75%含むPEAは更に、PEA−H/Bz 25%Hと呼ばれる。L−リジン−COOHを少なくとも50%、したがってL−リジン−COO−ベンジル(Bz)を50%含むPEAは更に、PEA−H/Bz 50%Hと呼ばれる。mおよびpが0でなく、m+p+q=1であり、かつPEAがL−リジン−COOHを少なくとも15%、したがってL−リジン−COO−ベンジル(Bz)を85%含む場合には、更にPEA−III−H/Bz 15%Hと呼ばれ、PEA−H/BzまたはPEA−III−H/Bzは更に、本明細書においてPEA−XまたはPEA−III−Xとも呼ばれる。
更に、本発明によるコーティングは、材料の特性および性能を損なうことなく、40日後に促進された分解を示すことが判明した。先行技術のPEA−III−Bzと比較してPEA−H/Bzの分解速度が増加すると、更に迅速なコーティングの分解および体内からの浄化/排除が促進され、それは、吸収性コーティングが望まれる多くの用途に好ましい特性である。
PEA−H/Bzポリマーを含む本発明のコーティングは更に、ゆっくりとした、かつ制限された膨潤を示す。これは、長時間にわたって疎水性薬物を放出する手段を提供する。
一実施形態において、このコーティングは、式(III)(p=0かつm+q=1であり、ただしm=0.75であり、a=0.5であり、かつa+b=1であり、R1は(CH2)8であり、R3は(CH3)2−CH−CH2−であり、R5はヘキシルであり、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−である)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む。
本発明の他の実施形態において、このコーティングは、式(III)(m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、a=0.5であり、かつa+b=1であり、R1−(CH2)4、R3およびR4はそれぞれ(CH3)2−CH−CH2−であり、R5は、(C2〜C20)アルキレンからなる群から選択され、R6は、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択され、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−である)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む。
本発明の更なる実施形態において、このコーティングは、式(III)(m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、b=0.25であり、かつa+b=1であり、R1−(CH2)8、R3およびR4はそれぞれ、(CH3)2−CH−CH2−であり、R5は、(C2〜C20)アルキレンからなる群から選択され、R6は、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択され、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−である)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む。
本発明のまた更なる実施形態において、このコーティングは、式(III)(m=0、p+q=1かつp=0.75であり、a=0.5かつa+b=1であり、R1は−(CH2)4であり、R4は(CH3)2−CH−CH2−であり、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−であり、かつR6は、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む。
本発明の他の好ましい実施形態において、そのコーティングは、式(III)(m+p+q=1、q=0.1、p=0.30およびm=0.6であり、a=0.5およびa+b=1である。R1−(CH2)4;R3およびR4はそれぞれ、(CH3)2−CH−CH2−であり;R5は、(C2〜C20)アルキレンからなる群から選択され、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−であり、R6は、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される)による生分解性ポリ(エステルアミド)コポリマーを含む。
本発明の他の実施形態において、そのコーティングは、式(III)(m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、b=0.5およびa+b=1である。R1−(CH2)8;R3およびR4はそれぞれ、(CH3)2−CH−CH2−であり;R5は、(C2〜C20)アルキレンからなる群から選択され、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−であり、R6は、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される)による生分解性ポリ(エステルアミド)コポリマーを含む。
式(III)のポリエステルアミドにおいて使用されるα−アミノ酸のうちの少なくとも1つは、天然α−アミノ酸である。例えば、R3またはR4がCH2Phである場合、合成において使用される天然α−アミノ酸はL−フェニルアラニンである。R3またはR4が−CH2−CH(CH3)2である代替方法において、コポリマーは、天然アミノ酸ロイシンを含有する。本明細書に記載の2つのコモノマーの変形形態内でR3およびR4を独立して変えることによって、他の天然α−アミノ酸、例えばグリシン(R3またはR4がHである場合)、アラニン(R3またはR4がCH3である場合)、バリン(R3またはR4がCH(CH3)2である場合)、イソロイシン(R3またはR4がCH(CH3)−CH2−CH3である場合)、フェニルアラニン(R3またはR4がCH2−C6H5である場合)、リジン(R3またはR4が(CH2)4−NH2である場合);またはメチオニン(R3またはR4が−(CH2)2S(CH3)である場合)、およびその混合物も使用することができる。
そのポリエステルアミドは好ましくは、15,000〜200,000ダルトンの範囲の数平均分子量(Mn)を有する。ポリエステルアミドは、様々な分子量で、かつ主鎖におけるm、p、およびq単位の様々な相対比率で製造することができる。特定の用途に適した分子量は、当業者によって容易に決定される。適切なMnは、約15,000〜約100,000ダルトン、例えば約30,000〜約80,000または約35,000〜約75,000程度である。Mnは、標準物質としてポリスチレンを使用してTHF中でのGPCによって測定される。
ポリエステルアミドの基本重合プロセスは、G.Tsitlanadze,et al.J.Biomater.Sci.Polym.Edn.(2004)15:1−24に記載のプロセスに基づくが、異なる構成単位および活性化基が使用された。
式(III)のポリエステルアミドは例えば、スキーム1で示されるように;p−トルエンスルホネートジアミン塩(X1、X2、X3、X4)と活性化二酸(Y1)との溶液重縮合によって合成され得る。一般に、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドが溶媒として使用される。一般に、塩基として、トリエチルアミド1.1当量がp−トルエンスルホネートの量に対して添加され、その反応は、絶えず撹拌しながら、60℃の不活性雰囲気下にて24〜72時間行われる。続いて、水での沈殿に続いて、有機沈殿および濾過によって、得られた反応混合物を精製する。減圧下で乾燥させることによって、ポリエステルアミドが形成される。
本発明によるコーティングは単一層であり得るが、生理活性物質の放出を調整するための更なるコーティング層を含む多層コーティングであることもできる。
本発明によるコーティングは、好ましくは厚さ1〜100μmを有する。更に好ましくは、コーティングは厚さ約2〜75μm、また更に好ましくは厚さ約2〜50μm、最も好ましくは厚さ約2〜15μmを有する。
コーティング厚は使用目的に応じて異なる。ナノメートル厚さ内のコーティングも、本発明の範囲に含まれ得る。好ましくは厚さ20〜1000nm、更に好ましくは厚さ150〜750nm、また更に好ましくは厚さ300〜500nmである。
本明細書で使用される、生分解性または生体侵食性という用語は、生体内環境または代表的な生体外環境に曝露された場合に、完全にまたは実質的に分解または腐食されることができる材料を意味する。対象内で、例えば、加水分解、水和、可溶化、酵素分解、酸化、代謝プロセス、バルクまたは表面浸食等によって徐々に、破壊、再吸収、吸収かつ/または除去されることができる場合に、ポリマーは分解または腐食されることができる。生分解および生体侵食後に、微量のポリマーまたはポリマーの残留物が残り得ることは理解されたい。
本発明によるコーティングは更に、生理活性物質を含み得る。生理活性物質は、治療薬、予防薬、または診断用薬であり得る。これらの作用物質は、抗増殖性または抗炎症性の特性を有し得るか、または抗腫瘍性、抗血小板性、抗凝固性、抗線維素溶解性、抗血栓性、抗有糸分裂性、抗菌性、抗アレルギー性、または抗酸化性などの他の特性を有し得る。更に、これらの作用物質は、細胞増殖抑制剤、内皮の治癒を促進する作用物質、平滑筋細胞増殖を停止すると同時に内皮細胞の付着、移動および増殖を促進する作用物質であることができる。適切な治療薬および予防薬の例としては、治療、予防または診断活性を有する、合成無機または有機化合物、タンパク質およびペプチド、多糖および他の糖類、脂質、およびDNAおよびRNA核酸配列が挙げられる。核酸配列としては、遺伝子、相補的DNAに結合して転写を抑制するアンチセンス分子、およびリボザイムが挙げられる。生理活性物質の他のいくつかの例としては、抗体、受容体リガンド、酵素、接着ペプチド、血液凝固因子、阻害剤または血栓溶解剤、例えばストレプトキナーゼおよび組織プラスミノゲン活性化因子、免疫化用の抗原、ホルモンおよび成長因子、オリゴヌクレオチド、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムおよび遺伝子治療で使用されるレトロウイルスベクターが挙げられる。増殖抑制剤の例としては、ラパマイシンおよびその機能性または構造誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、およびその機能性または構造誘導体、パクリタキセルおよびその機能性または構造誘導体が挙げられる。ラパマイシン誘導体の例としては、ABT−578、40−0−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、および40−0−テトラゾール−ラパマイシンが挙げられる。パクリタキセル誘導体の例としては、ドセタキセルが挙げられる。抗腫瘍薬および/または抗有糸分裂薬の例としては、メトトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(例えば、Pharmacia AND Upjohn,Peapack NJ.からのアドリアマイシン(登録商標))、およびマイトマイシン(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.,Stamford,Conn.からのMutamycin(登録商標))が挙げられる。かかる抗血小板薬、抗凝固薬、抗線維素溶解薬、およびアンチトロンビンの例としては、ナトリウムヘパリン、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質Hb/nia血小板膜受容体アンタゴニスト抗体、組換えヒルジン、トロンビン阻害剤、例えばアンギオマックス(Angiomax)(Biogen,Inc.,Cambridge,Mass.)、カルシウムチャネルブロッカー(ニフェジピンなど)、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン(HMG−CoAレダクターゼの阻害剤、コレステロール低下薬,Merck AND Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJからの商標名Mevacor(登録商標))、モノクローナル抗体(血小板由来成長因子(PDGF)受容体に特異的な抗体など)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGFアンタゴニスト)、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼミメティック、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、食事性サプリメント、例えば種々のビタミン、およびその組み合わせが挙げられる。ステロイドおよび非ステロイド抗炎症剤を含む抗炎症剤の例としては、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾール、コルチコステロイドまたはその組み合わせが挙げられる。かかる細胞分裂阻害物質の例としては、アンギオペプチン、アンギオテンシン転化酵素阻害剤、例えばカプトプリル(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.,Stamford,Conn.からのCapoten(登録商標)およびCapozide(登録商標))、シラザプリルまたはリシノプリル(例えば、Merck AND Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJからのPrinivil(登録商標)およびPrinzide(登録商標))が挙げられる。抗アレルギー剤の一例はペミロラストカリウムである。適切であり得る他の治療物質または治療薬としては、α−インターフェロン、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、および遺伝子操作された上皮細胞が挙げられる。前述の物質は、プロドラッグまたはその併用薬の形で使用することもできる。上記の物質は、その代謝産物および/または代謝産物のプロドラッグも含む。上記の物質は一例として列挙されており、限定的であることを意味するものではない。
本発明によるコーティングは、複数種の生理活性物質を含み得る。更なる生理活性物質は、生理活性物質の上記のリストから選択することもできる。
本発明によるコーティングは、分散または溶解状態で生理活性物質を含み得る。その生理活性物質は、微粒子、ナノ粒子またはミセルの形で存在し得る。
更なる実施形態において、本発明によるコーティングは、式(III)の異なるPEAポリマーのブレンドを含み得るが、少なくとももう1種類のポリマーも含み得る。代表的な他のポリマーとしては、限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)、例えばポリ(3−ヒドロキシプロパノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシヘプタノエート)およびポリ(3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(4−ヒドロキシアルカノエート)、例えばポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシバレレート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(4−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(4−ヒドロキシオクタノエート)および本明細書に記載の3−ヒドロキシアルカノエートまたは4−ヒドロキシアルカノエートモノマーのいずれか、またはそのブレンドを含むコポリマー、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(無水物)、ポリ(チロシンカーボネート)およびその誘導体、ポリ(チロシンエステル)およびその誘導体、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリウレタン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(グリセリルセバケート)、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(s−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(t−ブチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、ポリエーテル、例えばポリ(エチレングリコール)(PEG)、コポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキシド、例えばポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、コリン、ポリ(アスピリン)、ヒドロキシルを有するモノマーのポリマーおよびコポリマー、例えばHEMA、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、PEGアクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)およびn−ビニルピロリドン(VP)、カルボン酸を有するモノマー、例えばメタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート、および3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メチルメタクリレート)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキシド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、生体分子、例えばコラーゲン、キトサン、アルジネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸の断片および誘導体、ヘパリン、ヘパリンの断片および誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖類、エラスチン、キトサン、アルジネート、またはその組み合わせが挙げられる。
また更なる実施形態において、そのコーティングは、生体有益性(biobeneficial)材料を含み得る。生体有益性材料はポリマーまたは非ポリマーであることができる。生体有益性材料は好ましくは、実質的に非毒性、非抗原性および非免疫原性である。生体有益性材料は好ましくは、生理活性物質の放出にすべて依存することなく、非ファウリング(non−fouling)、血液適合性(hemocompatible)、能動的に非血栓形成性、または抗炎症性であることによって、コーティングの生体適合性を高める。
代表的な生体有益性材料としては、限定されないが、ポリ(エチレングリコール)、コポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA)などのポリエーテル、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)などのポリアルキレンオキシド、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、コリン、ポリ(アスピリン)、ポリマーおよびヒドロキシを有するモノマーのコポリマー、例えばヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)アクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)および<<−ビニルピロリドン(VP)、カルボン酸を有するモノマー、例えばメタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート、および3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メチルメタクリレート)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキシド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、生体分子、例えばフィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の断片および誘導体、ヘパリン、ヘパリンの断片および誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖類、エラスチン、キトサン、アルジネート、シリコーン、PolyActive(商標)、またはその組み合わせが挙げられる。一部の実施形態において、コーティングは、前述のポリマーのいずれか1つを除外することができる。PolyActive(商標)という用語は、可撓性ポリ(エチレングリコール)およびポリ(ブチレンテレフタレート)ブロックを有するブロックコポリマー(PEGTVPBT)を意味する。PolyActive(商標)は、PEGおよびPBTのかかるセグメントを有するAB、ABA、BABコポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ブチレンテレフタレート)−ブロックポリ(エチレングリコール)(PEG−PBT−PEG)を包含することが意図される。
本発明は更に、コーティングを含む埋込型デバイスに関する。本明細書における埋込型デバイスを使用して、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管解離または穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、吻合部増殖(静脈および人工グラフト)、胆管などの医学症状を治療、予防、または回復させることができる。
本明細書で使用される、埋込型デバイスは、ヒト患者または患畜に埋め込むことができる、適切な医療基材であり得る。かかる医療器具の例としては、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、ステント−グラフト、グラフト(例えば、大動脈グラフト)、心臓弁プロテーゼ、脳脊髄液シャント、ペースメーカー電極、カテーテル、および心内膜リード(例えば、FINELINEおよびENDOTAK,Guidant Corporation,Santa Clara,CAから入手可能)、吻合部デバイスおよびコネクター、整形インプラント、例えばねじ、脊髄インプラント、および電気刺激デバイスが挙げられる。デバイスの基礎となる構造は、実際にはあらゆるデザインの構造であることができる。基材は、金属材料または合金、例えば限定されないが、コバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、例えばBIODUR108、コバルトクロム合金L−605、「MP35N」、「MP20N」、ELASTINITE(Nitinol)、タンタル、ニッケル−チタン合金、白金−インジウム合金、金、マグネシウム、またはその組み合わせから製造することができる。「MP35N」および「MP20N」は、Standard Press Steel Co.,Jenkintown,PAから入手可能な、コバルト、ニッケル、クロムおよびモリブデンの合金の商品名である。「MP35N」は、コバルト35%、ニッケル35%、クロム20%、モリブデン10%からなる。「MP20N」は、コバルト50%、ニッケル20%、クロム20%、モリブデン10%からなる。生体吸収性(例えば、生体吸収性ステント)または生体安定性ポリマーから製造されたデバイスも、本発明の実施形態を用いて使用することができる。
好ましくは、埋込型デバイスはステントである。本明細書に記載のステントは、一例として、胆管、食道、気管/気管支および他の生物学的通路における腫瘍によって引き起こされる閉塞など、様々な医療処置に有用である。上述のコーティングを有するステントは、脂質沈着、単球またはマクロファージ浸潤、または機能性不全性内皮またはその組み合わせによって生じる血管の疾患領域、または平滑筋細胞の異常または不適切な移動および増殖、血栓症、および再狭窄によって起こる閉塞領域を治療するのに特に有用である。ステントは、幅広い種類の血管、動脈および静脈両方に留置され得る。部位の代表的な例としては、腸骨、腎臓、頸動脈および冠動脈が挙げられる。
本発明によるコーティングは、浸漬塗布、吹付け塗布、イオン付着等の多くの方法で基材に塗布することができる。これらのコーティングプロセスは当技術分野でよく知られている。好ましくは、本発明のコーティングは、基材上に吹付け塗布される。
好ましい治療効果を生むために必要な生理活性物質の投与量または濃度は、生理活性物質が毒性作用を生むレベルよりも低く、かつ非治療的な結果が生じるレベルを超えるべきである。生理活性物質の投与量または濃度は、患者の特定の状況、外傷の性質、望まれる治療の性質、投与された成分が血管部位に残る時間、他の作用薬を用いた場合には、物質の性質および種類または物質の組み合わせなどの因子に応じて異なり得る。治療上有効な投薬量は、例えば適切な動物モデルシステムの血管に注入し、免疫組織化学的、蛍光または電子顕微鏡法を使用して、作用物質およびその作用を検出することによって、あるいは適切な生体外研究を行うことによって、経験的に決定することができる。投与量を決定するための標準的な薬理試験手順は当業者によって理解される。
本発明は、単に実例として以下の非制限的な例を参照して詳細に説明される。
[実施例]
[実施例1]
極低温で粉砕されたポリマー粉末を圧縮成形することによって、PEAディスクを作製した。円形金型を使用して、PEA粉末を金型に充填し、ディスク(直径=25mm;厚さ=1mm)を以下の条件で形成した:
T=140℃、圧力(P)0kNにて5分、T=140℃、P=10kNにて3分、T=140℃、P=50kNにて3分、および圧力180kNにてT=25℃に冷却。
圧縮プレートへの材料の付着を防ぐために、テフロン(Teflon)フォイルを使用した。
次いで、直径30mmの金属圧縮プレート(ステンレス鋼−D15070;GABO Qualimeter Testanlangen GmbH;Ahlden,Germany)の中央にPEAディスクを置き、以下の条件:T=140℃、圧力2Nにて10分間、そしてT=20℃に冷却:を用いて、ポリマー試料をプレートに載せた。
PEA試料をその融解温度を超える温度に加熱した場合には、ディスクの直径および厚さが変化した。金属圧縮プレートに取り付けた後のPEAディスクの寸法を表1に示す。
[試料の試験]
圧縮プレート(PEA試料がそのプレート間に取り付けられた)を万能試験機(Zwick Z010;Zwick Roell AG;Ulm,Germany)に位置付け、試料が破断するまで(つまり、接着破壊が確認されるまで)、試験速度0.1mm/分で20℃にてプレートを引き離した。
[結果]
圧縮プレートであってその間にPEAディスクが取り付けられた圧縮プレートを分離するのに必要な力の測定値を表2に示す。PEA III 25H/Bz、50H/Bz、および75H/Bz試料すべてが、PEA III Bz試料と比べて、プレートを分離するのに2倍を超える力(N)を必要とした。試料直径のわずかな差を考慮すると、PEA III H/Bz試料すべての付着応力測定値は、PEA III BzおよびPEA III H試料の値よりもかなり高かった(>50%)。図1は、H含有率の増加に基づいて、左から右の順にすべてのポリマー試料の付着応力測定値を示す。
PEA III Bz(図2A)およびPEA III H/Bz試料(図2B;PEA III 50H/Bz代表的な試料)を圧縮プレートから分離し、その境界面が破壊されたプレート上にほとんどないし全く残留物は、残らないことが確認された。図2Cは、引き離した場合に、PEA III H試料が脆く破損し、材料のバルクに亀裂が確認され、両方のステンレス鋼プレートの表面にポリマー残留物が残ったことを示す。
[実施例2]
ステンレス鋼支持体上で溶融プレス(3分、120℃、5バール)によって、PEA−III−AcBz、PEA−III−X25、PEA−III−X50およびPEA−III−X75のフィルムを作製した。得られたフィルムをステンレス鋼支持体上で0.5cm2片に切断し、微量天秤で個々に計量した。α−キモトリプシン(ウシ)1.7U/mLと、殺生物剤として0.05%アジ化ナトリウムとを含有するPBS緩衝液2mLに単一フィルムを浸漬し、緩衝液を1週間に2回新しく取り替えた。
37℃にてオービタル振盪で穏やかに振盪しながら、酵素分解を行った。試料を三つ組で採取し;45℃で減圧下にて一晩、フィルムを乾燥させた。分解後のフィルムの重量を再び、微量天秤で決定した。
Waters RI検出器2414型、カラムヒーターe2695型を備えたWaters分離モジュールからなるWaters GPCシステムを使用して、残りのポリマーフィルムの相対分子量を決定した。このシステムは、50℃で動作するStyragel HR5EおよびStyragel HR2カラムを備えた。移動相として、流量1.0mL/分でテトラヒドロフラン(THF)を使用した。試料をTHFに溶解し、その100μLをカラムに注入した。Waters_Empower2ソフトウェアを使用して、データの評価を行った。分子量の計算は、ポリスチレン標準物質に対してであった。