(発明の詳細な説明)
本発明は、HER3に結合する分子及びそれらの抗原-結合断片を提供する。一部の態様において、そのような分子は、HER3に特異的に結合する抗体及びそれらの抗原-結合断片である。関連したポリヌクレオチド、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片を含有する組成物、並びに抗-HER3抗体及び抗原-結合断片を作製する方法も提供される。対象における癌の治療及び診断使用の方法のような、新規の抗-HER3抗体を使用する方法が、更に提供される。
本発明をより容易に理解することができるように、最初にいくつかの用語を定義する。追加の定義は、本詳細な説明を通じて明記されている。
(I. 定義)
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、具体的な組成物又は処理工程に限定されず、それ自体は変動することができることは理解されなければならない。本明細書及び添付された請求項において使用される単数形「ひとつの(a、an、及びthe)」は、その文脈が別に明確に指摘しない限りは、複数の指示対象を含む。用語「ひとつの(a又はan)」に加え用語「1以上の」及び「少なくとも1つの」は、本文において互換的に使用することができる。
更に、本文において使用される「及び/又は」は、他方を伴う又は伴わない、その2つの特定された特徴又は成分の各々の具体的開示とみなされるべきである。従って本文において「A及び/又はB」などの語句において使用される用語「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A(単独)」、及び「B(単独)」を含むことが意図されている。同様に、「A、B、及び/又はC」などの語句において使用される用語「及び/又は」は、以下の態様の各々を包含することが意図されている:A、B、及びC;A、B、又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びに、C(単独)。
別に定義しない限りは、本文において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が関連した技術分野の業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。例えば、「生体臨床医学・分子生物学簡明辞典(Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology)」、Juo, Pei-Show、第2版、2002年、CRC Press社;「細胞・分子生物学辞典(The Dictionary of Cell and Molecular Biology)」、第3版、1999年、Academic Press社;及び、「オックスフォード生化学・分子生物学辞典(Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology)」、改訂版、2000年、Oxford University Press社は、本発明において使用される多くの用語の一般的辞典を当業者に提供する。
単位、接頭語、及び記号は、それらの「国際単位系(SI)」の認める形で示される。数値範囲は、その範囲の規定する数字を含む。別に指示しない限りは、アミノ酸配列は、左から右へ、アミノからカルボキシ配向で記載される。本文に提供される表題は、様々な態様を限定するものではなく、これらの態様は、全体として本明細書を参照することによりもたらされ得る。従って、直後に定義された用語は、その全体において本明細書を参照することにより、より完全に定義される。
態様が語句「含んでなる(comprising)」を伴い本文で説明される場合は、「からなる(consisting of)」及び/又は「から本質的になる(consisting essentially of)」に関して説明される別の類似の態様も提供されることは理解されなければならない。
アミノ酸は、それらの一般に公知の3文字表記によるか又はIUPAC-IUB生化学命名委員会により推奨される1文字表記によるかのいずれかにより、本文において言及される。同様に、ヌクレオチドは、それらの一般に認められた1文字コードで言及される。
用語「HER3」及び「HER3受容体」は、本文において互換的に使用され、且つ米国特許第5,480,968号及びPlowmanらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 4905-4909 (1990)において説明されたように、ErbB3タンパク質をいう(同じく、文献においてHER3、ErbB3受容体と称され);同じく、Kaniらの文献、Biochemistry, 44, 15842-15857 (2005)、並びに、Cho及びLeahyの文献、Science, 297, 1330-1333 (2002)を参照されたい。完全長の成熟したHER3タンパク質配列(リーダー配列を除く)は、図4に示された配列、並びに米国特許第5,480,968号の配列番号:4から成熟タンパク質から切断される19個のアミノ酸のリーダー配列を差し引いたものに対応している。
用語「阻害」及び「抑制」は、本文において互換的に使用され、且つ生物活性の完全なブロックを含む、生物活性の何らかの統計学的に有意な減少をいう。例えば、「阻害」は、生物活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の減少をいうことができる。従って、用語「阻害」又は「抑制」が例えばリガンド-媒介性HER3リン酸化に対する作用を説明するために適用される場合は、この用語は、EGF-様リガンドにより誘導されたHER3のリン酸化を、未処置の(対照)細胞におけるリン酸化と比べ、統計学的に有意に減少する、抗体又はそれらの抗原結合断片の能力をいう。HER3を発現している細胞は、天然の細胞又は細胞株(例えば、癌細胞)であることができるか、あるいはHER3をコードしている核酸を宿主細胞へ導入することにより組換えにより作製することができる。一態様において、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原結合断片は、HER3のリガンド媒介されたリン酸化を、下記「実施例」において説明されるように、例えばウェスタンブロット、それに続く抗-ホスホチロシン抗体によるプロービングによるか、又はELISAにより決定されるように、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも905、又は約100%阻害する。
本文において使用される用語HER3を発現している細胞の「成長抑制」とは、HER3を発現している細胞の増殖を、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片の非存在下での増殖と比べ、統計学的に有意に減少する抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片の能力をいう。一態様において、HER3を発現している細胞(例えば癌細胞)の増殖は、細胞を、抗-HER3結合分子、例えば本発明の抗体又はそれらの抗原-結合断片と接触させた場合に、抗-HER3結合分子、例えば、抗体又はそれらの抗原-結合断片の非存在下(対照条件)で測定された増殖と比べ、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は約100%減少することができる。細胞の増殖は、細胞分裂の速度、細胞分裂を受けている細胞集団内の細胞の画分、及び/又は終末分化若しくは細胞死に起因した細胞集団からの細胞喪失の割合(例えば、チミジン取込み)の測定を伴う当該技術分野において認められた技術を用いて、アッセイすることができる。
本文において互換的に使用される用語「抗体」又は「免疫グロブリン」は、抗体全体及び任意の抗原結合断片又はそれらの一本鎖を含む。
典型的抗体は、ジスルフィド結合により相互連結された、少なくとも2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本文においてVHと略記)及び重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本文においてVLと略記)及び軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。VH及びVL領域は更に、フレームワーク領域(FW)と称されるより保存された領域が散在された、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域に小分割される。VH及びVLの各々は、3つのCDR及び4つのFWにより構成され、アミノ-末端からカルボキシ-末端へ以下の順番で配置される:FW1、CDR1、FW2、CDR2、FW3、CDR3、FW4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第一成分(C1q)を含む、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本開示の例証的抗体は、クローン16(CL16)抗-HER3抗体(オリジナル及び生殖系列化)、例えば抗-HER3 2C2抗体を含む親和性最適化されたクローン、及び例えば抗-HER3 2C2-YTE抗体を含む血清半減期が最適化された抗-HER3抗体を含む。
用語「生殖系列化」とは、抗体における特定の位置のアミノ酸が、生殖系列におけるものに復帰変異されていることを意味する。例えば、CL16「生殖系列化」抗体は、オリジナルのCL16抗体から、VL領域のFW1へ、3つの点変異Y2S、E3V及びM20Iを導入することにより作製される。
用語「抗体」は、免疫グロブリン分子の可変領域内の少なくとも1つの抗原認識部位を介して、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、糖、ポリヌクレオチド、脂質、又は前述のものの組合せなどの標的を認識し且つこれに特異的に結合する、免疫グロブリン分子を意味する。本文において使用される用語「抗体」は、無傷のポリクローナル抗体、無傷のモノクローナル抗体、抗体断片(Fab、Fab'、F(ab')2、及びFv断片など)、一本鎖Fv(scFv)変異体、少なくとも2つの無傷の抗体から作製された二重特異性抗体などの多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体の抗原決定部分を含む融合タンパク質、並びに抗体が所望の生物活性を示す限りは抗原認識部位を含む任意の他の修飾された免疫グロブリン分子を包含している。抗体は、5つの免疫グロブリンの主要クラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、又は各々、α、δ、ε、γ、及びμと称されるそれらの重鎖定常ドメインのアイデンティティを基にしたそれらのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)のいずれかであることができる。異なる免疫グロブリンのクラスは、異なり且つ周知のサブユニット構造及び三次元立体配置を有する。抗体は、むき出し(naked)であるか、又は毒素、放射性同位元素などの他の分子にコンジュゲートされることができる。
「遮断」抗体又は「拮抗」抗体は、HER3などの、それが結合する抗原の生物活性を阻害又は減少するものである。いくつかの態様において、遮断抗体又は拮抗抗体は、抗原の生物活性を実質的に又は完全に阻害する。望ましくは、この生物活性は、10%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、95%、又は100%さえも減少される。
用語「HER3抗体」又は「HER3に結合する抗体」又は「抗-HER3」とは、該抗体が、HER3を標的化する治療薬又は診断試薬として有用であるように、十分な親和性でのHER3への結合が可能である抗体をいう。抗-HER3抗体の無関係の非-HER3タンパク質への結合の程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、BIACORE(商標)(被検体として組換えHER3を、及びリガンドとして抗体を使用するか、又はその逆も可)、又は当該技術分野において公知の他の結合アッセイで測定された、該抗体のHER3への結合の約10%未満である。いくつかの態様において、HER3に結合する抗体は、解離定数(KD) ≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦10pM、≦1pM、又は≦0.1pMを有する。
用語「抗原結合断片」とは、無傷の抗体の一部分をいい、且つ無傷の抗体の抗原決定可変領域をいう。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片により遂行され得ることは、当該技術分野において公知である。抗体断片の例は、Fab、Fab'、F(ab')2、及びFv断片、線状抗体、一本鎖抗体、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含むが、これらに限定されるものではない。
「モノクローナル抗体」とは、高い特異性認識、及び単独の抗原決定基又はエピトープの結合に関与した、均一な抗体集団をいう。これは、典型的には異なる抗原決定基に対し向けられた異なる抗体を含むポリクローナル抗体とは対照的である。用語「モノクローナル抗体」は、無傷及び完全長の両方のモノクローナル抗体に加え、抗体断片(Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなど)、一本鎖(scFv)変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、及び抗原認識部位を含む任意の他の修飾された免疫グロブリン分子を包含している。更に「モノクローナル抗体」とは、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え発現、及びトランスジェニック動物を含むが、これらに限定されるものではない、多くの様式で作製されたそのような抗体をいう。
用語「ヒト化抗体」とは、最小の非ヒト(例えばマウス)配列を含むように操作されている、非ヒト(例えばマウス)免疫グロブリンから誘導された抗体をいう。典型的には、ヒト化抗体は、その中の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギ、又はハムスター)のCDR由来の残基により置き換えられている、ヒト免疫グロブリンである(Jonesらの文献、Nature, 321: 522-525, 1986;Riechmannらの文献、Nature, 332: 323-327, 1988;Verhoeyenらの文献、Science, 239: 1534-1536, 1988)。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FW)の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト種由来の抗体内の対応する残基により置き換えられる。
ヒト化抗体は更に、抗体特異性、親和性、及び/又は能力を精緻化し且つ最適化するために、Fvフレームワーク領域中及び/又は置き換えられた非ヒト残基内のいずれかの追加の残基の置換により修飾することができる。概して、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに相当するCDR領域の全て又は実質的に全てを含むのに対し、FR領域の全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1つの、典型的には2又は3の可変ドメインを実質的に全て含むであろう。またヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域又はドメイン(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれを含むことができる。ヒト化抗体の作製に使用される方法の例は、米国特許第5,225,539号又は第5,639,641号に説明されている。
抗体の「可変領域」とは、抗体軽鎖の可変領域又は抗体重鎖の可変領域の、いずれか単独又は組合せをいう。重鎖及び軽鎖の可変領域の各々は、超可変領域としても公知の3つの相補性決定領域(CDR)により結合された、4つのフレームワーク領域(FW)からなる。各鎖内のCDRは、FW領域により密に近接してまとめて保持され、且つ他方の鎖のCDRと共に、抗体の抗原-結合部位の形成に貢献する。CDRの決定には、少なくとも2つの技術が存在する:(1)異種間の配列可変性をベースにしたアプローチ(すなわち、Kabatらの文献、「免疫学的関心のあるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」、(第5版、1991年、米国立衛生研究所(NIH)、ベセスダ、Md.));及び、(2)抗原-抗体複合体の結晶学的研究をベースにしたアプローチ(Al-lazikaniらの文献、J. Molec. Biol. 273:927-948 (1997)))。加えて、CDRを決定するために、これら2つのアプローチの組合せが当該技術分野において使用されることが多い。
Kabat番号付けシステムは一般に、可変ドメイン中の残基に言及する場合に使用される(おおよそ軽鎖の残基1-107及び重鎖の残基1-113)(例えば、Kabatらの文献、「免疫学的関心のある配列(Sequences of Immunological Interest)」、第5版、米国立衛生研究所(NIH)、公衆衛生局(PHS)、ベセスダ、Md. (1991))。
Kabatにおけるようなアミノ酸位置番号付けとは、Kabatらの文献、「免疫学的関心のあるタンパク質の配列」第5版、米国立衛生研究所(NIH)、公衆衛生局(PHS)、ベセスダ、Md. (1991)において、抗体の編集の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインについて使用される番号付けシステムをいう。この番号付けシステムを使用し、実際の線状アミノ酸配列は、可変ドメインのFW又はCDRの短縮化又はそれへの挿入に対応するより少ない又は追加のアミノ酸を含むことができる。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単独のアミノ酸挿入(Kabatに従い残基52a)、及び重鎖FW残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatに従い残基82a、82b、及び82cなど)を含むことができる。
表1
残基のKabat番号付けは、所与の抗体について「標準」Kabat番号付け配列による、該抗体の配列の相同な領域のアラインメントにより決定される。Chothiaは代わりに、構造のループの位置に言及している(Chothia及びLeskの文献、J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987))。Chothia CDR-H1ループの末端は、Kabat番号付け慣習を用いて番号付けた場合、そのループの長さに応じてH32とH34の間で変動する(これは、Kabat 番号付けスキームは、H35A及びH35Bに挿入を配置するからであり;35Aも35Bも存在しない場合は、このループは32が末端であり;35Aのみが存在する場合は、このループは33が末端であり;35A及び35Bの両方が存在する場合は、このループは34が末端である)。AbM超可変領域は、Kabat CDRとChothia構造ループの間の妥協点を表し、且つOxford Molecular's AbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。
IMGT(ImMunoGeneTicsデータベース)も、CDRを含む免疫グロブリン可変領域に関する番号付けシステムを提供する。例えば、引用により本明細書中に組み込まれている、Lefranc, M.P.らの文献、Dev. Comp. Immunol. 27: 55-77 (2003)を参照されたい。IMGT番号付けシステムは、5,000を超える配列のアラインメント、構造データ、及び超可変ループの特徴を基にし、且つ全ての種に関する可変領域とCDR領域の容易な比較を可能にする。IMGT番号付けスキームに従い、VH-CDR1は、26から35位置にあり、VH-CDR2は、51から57位置にあり、VH-CDR3は、93から102位置にあり、VL-CDR1は、27から32位置にあり、VL-CDR2は、50から52位置にあり、及びVL-CDR3は、89から97位置にある。
本明細書を通じて使用される、説明されたVH CDR配列は、古典的Kabat番号付け位置に対応し、すなわちKabat VH-CDR1は、31-35位置にあり、VH-CDR2は、50-65位置にあり、及びVH-CDR3は、95-102位置にある。VL-CDR2及びVL-CDR3も、古典的Kabat番号付け位置に対応し、すなわち各々、位置50-56及び89-97に対応する。本文において使用される用語「VL-CDR1」又は「軽鎖CDR1」は、VL内のKabat位置23-34に位置した配列に対応する(対照的に、Kabat番号付けスキームに従う古典的VL-CDR1位置は、位置24-34に対応する)。
本文において使用する、Fc領域は、第一の定常領域免疫グロブリンドメインを除く、抗体の定常領域を含むポリペプチドを含む。従ってFcとは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、並びにIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、並びにこれらのドメインへの可動性ヒンジN-末端をいう。IgA及びIgMに関して、Fcは、J鎖を含んでよい。IgGに関して、Fcは、免疫グロブリンドメインCガンマ2及びCガンマ3(Cγ2及びCγ3)、並びにCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)の間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変動することができるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、そのカルボキシル-末端に残基C226又はP230を含むように規定されており、ここでこの番号付けは、Kabatに示されたEUインデックスに従う(Kabatらの文献、「免疫学的関心のあるタンパク質の配列」、第5版、米国立衛生研究所(NIH)、公衆衛生局(PHS)、ベセスダ、Md. (1991))。Fcは、単離されたこの領域、又は抗体、抗体断片、若しくはFc融合タンパク質の状況におけるこの領域を指すことができる。多型が、非限定的に、EUインデックスにより番号付けられた位置270、272、312、315、356、及び358を含む、多くの異なるFc位置で認められており、従って提示された配列と、先行する技術における配列の間には、わずかな差が存在することがある。
用語「ヒト抗体」は、ヒトにより産生された抗体、又は当該技術分野において公知の任意の技術を用いて作製されたヒトにより産生された抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体を意味する。このヒト抗体の定義は、無傷の又は完全長の抗体、それらの断片、並びに/又は少なくとも1つのヒト重鎖及び/若しくは軽鎖ポリペプチドを含む抗体、例えばマウス軽鎖とヒト重鎖ポリペプチドを含む抗体を含む。
用語「キメラ抗体」とは、免疫グロブリン分子のアミノ酸配列が、2種以上の種に由来する抗体をいう。典型的には、軽鎖及び重鎖の両方の可変領域は、所望の特異性、親和性、及び能力を伴う哺乳動物の1つの種(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)に由来した抗体の可変領域に対応する一方で、その定常領域は、その種における免疫応答の誘発を避けるために、別の種(通常ヒト)に由来した抗体における配列と相同である。
用語「YTE」又は「YTE変異体」とは、ヒトFcRnへの結合の増大を生じ、且つその変異を有する抗体の血清半減期を改善する、IgG1 Fcにおける変異をいう。YTE変異体は、IgG1の重鎖へ導入された、3つの変異の組合せ、M252Y/S254T/T256E (EU番号付け、Kabatらの文献、(1991)「免疫学的関心のあるタンパク質の配列」、米国立衛生研究所(NIH)、公衆衛生局(PHS)、ワシントンD.C.)を含む。引用により本明細書中に組み込まれている、米国特許第7,658,921号を参照されたい。YTE変異体は、抗体の血清半減期を、同じ抗体の野生型と比べ、ほぼ4倍増大することが示されている(Dall'Acquaらの文献、J. Biol. Chem. 281: 23514-24 (2006))。同じく、引用により本明細書中に組み込まれている、米国特許第7,083,784号を参照されたい。
「結合親和性」とは一般に、分子(例えば抗体)の単独の結合部位と、その結合のパートナー(例えば抗原)の間の、非共有的相互作用の総量の強度をいう。別に指摘しない限りは、本文において使用される「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1の相互作用を反映する、固有の結合親和性をいう。分子XのそのパートナーYに関する親和性は、一般に解離定数(KD)により表すことができる。親和性は、本文に説明された方法を含む、当該技術分野において公知の一般的方法により測定することができる。低-親和性抗体は一般に、抗原にゆっくり結合し、且つ迅速に解離する傾向があるのに対し、高-親和性抗体は一般に、抗原により速く結合し、より長く結合し続ける傾向がある。結合親和性を測定する多種多様な方法が、当該技術分野において公知であり、そのいくつかは、本発明の目的のために使用することができる。
「効力」は、特に指定しない限りは、通常nMでIC50値として表現される。IC50は、抗体分子の阻害濃度の中央値である。機能アッセイにおいて、IC50は、生物学的反応を、その最大の50%だけ減少する濃度である。リガンド-結合試験において、IC50は、受容体結合を、最大特異的結合レベルの50%だけ減少する濃度である。IC50は、当該技術分野において公知のいくつかの手段により、計算することができる。効力の改善は、例えば、親CL16(クローン16)モノクローナル抗体に対して測定することにより、決定することができる。
クローン16抗体と比べた本発明の抗体又はポリペプチドに関する効力の数倍の改善は、少なくとも約2倍、少なくとも約4倍、少なくとも約6倍、少なくとも約8倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約60倍、少なくとも約70倍、少なくとも約80倍、少なくとも約90倍、少なくとも約100倍、少なくとも約110倍、少なくとも約120倍、少なくとも約130倍、少なくとも約140倍、少なくとも約150倍、少なくとも約160倍、少なくとも約170倍、又は少なくとも約180倍又はそれよりも大きいことができる。
「抗体依存性細胞性細胞傷害」又は「ADCC」とは、ある種の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合された分泌されたIgが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を、抗原-保有する標的細胞へ特異的に結合させ、引き続き細胞毒により標的細胞を殺傷することができる細胞傷害の形をいう。標的細胞の表面に対し向けられた特異的高-親和性IgG抗体は、その細胞傷害性細胞を「作動可能にし(arm)」、且つそのような殺傷に絶対必要である。標的細胞の溶解は、細胞外であり、直接の細胞と細胞の接触を必要とし、且つ補体は関与しない。抗体に加え、抗原-保有する標的細胞に特異的に結合する能力を有するFc領域を含む他のタンパク質、具体的にはFc融合タンパク質は、細胞性細胞傷害に作用することができることが、企図されている。簡単にするために、Fc融合タンパク質の活性から生じる細胞性細胞傷害は、本文においてADCC活性とも称される。
「単離されている」ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、又は組成物は、自然界には認められない形である、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、又は組成物である。単離されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、又は組成物は、自然界に認められる形においては最早存在しない程度まで精製されているものを含む。一部の態様において、単離されている抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、又は組成物は、実質的に純粋である。
用語「対象」とは、特定の治療のレシピエントである、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類などを含むが、これらに限定されるものではない、任意の動物(例えば哺乳動物)をいう。典型的には、用語「対象」と「患者」は、ヒト対象に関して、本文において互換的に使用される。
用語「医薬組成物」とは、活性成分の生物活性を有効にすることができる形であり、且つ該組成物が投与される対象に対し許容し難い毒性がある追加成分を含有しない、調製品をいう。そのような組成物は、無菌であることができる。
本文において明らかにされる抗体の「有効量」は、具体的に言及された目的を実行するのに十分な量である。「有効量」は、言及された目的に関して、経験的に、及び慣習的様式で決定することができる。
用語「治療有効量」とは、対象又は哺乳動物の疾患又は障害を「治療する」のに有効な抗体又は他の薬物の量をいう。
本文において使用される場合単語「標識」とは、「標識された」抗体を作製するために、抗体に直接又は間接に複合される検出可能な化合物又は組成物をいう。標識は、それ自身検出可能であるか(例えば、放射性同位元素標識又は蛍光標識)、又は酵素標識の場合、検出可能である基質化合物又は組成物の化学的変化を触媒することができる。
「治療している」又は「治療」又は「治療する」あるいは「軽減している」又は「軽減する」などの用語は、(1)診断された病理学的状態又は障害を治癒、緩徐化、症状の軽減、及び/又は進行の停止する治療的手段、並びに(2)目標とされた病理的状態又は障害の発症を防止及び/又は遅延する予防的又は防御的手段:の両方をいう。従って、治療が必要なものは、既に障害を伴うもの;障害を有する傾向があるもの;及び、障害が防御されるべきであるもの:を含む。いくつかの態様において、患者が、例えば、ある癌型の全体的、部分的、又は一過性の寛解を示す場合、対象は、本発明の方法に従い癌を巧く「治療」されている。
用語「癌」、「腫瘍」、「癌性の」、及び「悪性の」とは、典型的には調節できない細胞成長を特徴とする、哺乳動物における生理的状態をいうか又は説明する。癌の例としては、腺癌を含む癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、メラノーマ、肉腫、及び白血病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。そのような癌のより特定される例としては、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、消化管癌、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、膠芽細胞腫、神経膠腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓の癌腫及び肝細胞癌などの肝臓癌、膀胱癌、乳癌(ホルモン媒介性乳癌を含む、例えばInnesらの文献、Br. J. Cancer, 94:1057-1065 (2006)参照)、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、骨髄腫(多発性骨髄腫など)、唾液腺癌、腎細胞癌及びウィルムス腫瘍などの腎臓癌、基底細胞癌、メラノーマ、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、睾丸癌、食道癌、様々な型の頭頸部癌、並びに粘液性卵巣癌、胆管癌(肝臓)及び乳頭状腎癌などの粘液起源の癌が挙げられる。
本文において使用される用語「癌腫」とは、体の表面を覆い、ホルモンを産生し、且つ腺を形成する細胞である上皮細胞の癌をいう。癌腫の例は、皮膚、肺、結腸、胃、乳房、前立腺及び甲状腺の腺の癌である。
本文において使用される用語「KRAS変異」とは、v-Ki-ras2 Kirstenラット肉腫ウイルス癌遺伝子のヒトホモログ内の、特定の癌において認められる変異をいう。ヒトKRAS遺伝子のmRNA配列の非限定的例は、Genbank寄託番号NM004985及びNM033360を含む。KRAS変異は、膵臓腫瘍の73%において、結腸直腸腫瘍の35%において、卵巣腫瘍の16%において、及び肺腫瘍の17%において認められることが報告されている。KRAS変異は一般に、ヒトKRAS遺伝子のコドン12又は143において生じる。
本文において互換的に使用される「ポリヌクレオチド」又は「核酸」とは、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいい、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド若しくは塩基、及び/若しくはそれらのアナログ、又はDNAポリメラーゼ若しくはRNAポリメラーゼによりポリマーに組み込まれ得る任意の基質であることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化されたヌクレオチド及びそれらのアナログなどの、修飾されたヌクレオチドを含むことができる。前記説明は、RNA及びDNAを含む、本文において言及される全てのポリヌクレオチドに適用される。
用語「ベクター」は、宿主細胞において1以上の関心対象の遺伝子又は配列を、送達することが、一部の態様においては発現することが可能である、構築体を意味する。ベクターの例は、ウイルスベクター、裸のDNA又はRNA発現ベクター、プラスミド、コスミド又はファージベクター、陽イオン縮合剤に会合されたDNA又はRNA発現ベクター、リポソーム内に被包されたDNA又はRNA発現ベクター、及びプロデューサー細胞などの特定の真核細胞を含むが、これらに限定されるものではない。
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すよう、本文において互換的に使用される。このポリマーは、線状又は分岐することができ、これは修飾されたアミノ酸を含むことができ、且つこれはアミノ酸以外により中断されることができる。これらの用語は、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質付加、アセチル化、リン酸化、又は標識成分との複合などの任意の他の操作若しくは修飾など、天然に又は介入により修飾されたアミノ酸ポリマーも包含している。この定義には、例えば、1以上のアミノ酸のアナログ(例えば、天然でないアミノ酸などを含む)に加え、当該技術分野において公知の他の修飾を含むポリペプチドも含まれる。本発明のポリペプチドは抗体を基にしているので、いくつかの態様において、本ポリペプチドは、一本鎖又は会合された鎖として生じることができることは、理解されるべきである。
2種以上の核酸又はポリペプチドの文脈において、用語「同一」又はパーセント「同一性」とは、配列同一性の一部として保存的アミノ酸置換を考慮せずに、最大の対応に関して比較し且つ整列した(必要ならばギャップを導入する)場合に、同じであるか、又は同じであるヌクレオチド若しくはアミノ酸残基を特定の割合有する、2つ以上の配列又は部分配列をいう。パーセント同一性は、配列比較ソフトウェア又はアルゴリズム用いて、あるいは目視検査により、測定することができる。アミノ酸配列又はヌクレオチド配列のアラインメントを得るために使用することができる様々なアルゴリズム及びソフトウェアが、当該技術分野において公知である。
配列アラインメントアルゴリズムのそのような非限定的例の一つは、Karlinらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci., 87: 2264-2268, 1990に説明され、Karlinらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci., 90: 5873-5877, 1993において改訂され、且つNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれた、アルゴリズムである(Altschulらの文献、Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402, 1991)。いくつかの態様において、Gapped BLASTを、Altschulらの文献、Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997に説明されたように、使用することができる。BLAST-2、WU-BLAST-2(Altschulらの文献、Methods in Enzymology, 266: 460-480, 1996)、ALIGN、ALIGN-2(Genentech社、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア州)又はMegalign(DNASTAR)は、配列を整列するために使用することができる追加の公表された利用可能なソフトウェアプログラムである。いくつかの態様において、2つのヌクレオチド配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムを用いて決定することができる(例えば、NWSgapdna.CMPマトリクス、及びギャップウェイト40、50、60、70、若しくは90、及びレングスウェイト1、2、3、4、5、若しくは6を使用して)。いくつかの別の態様において、Needleman及びWunschのアルゴリズム(J. Mol. Biol. (48): 444-453 (1970))を組み込んでいるGCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムを使用し、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性を決定することができる(例えば、BLOSUM 62マトリクス又はPAM250マトリクスのいずれか、ギャップウェイト16、14、12、10、8、6、若しくは4、及びレングスウェイト1、2、3、4、5を使用して)。あるいは、いくつかの態様において、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列間のパーセント同一性は、Myers及びMillerのアルゴリズムを用いて決定される(CABIOS, 4:11-17 (1989))。例えば、このパーセント同一性は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)を用い、且つ残基テーブル、ギャップレングスペナルティ12及びギャップペナルティ4を伴うPAM120を用いて、決定することができる。特定のアラインメントソフトウェアによる最大アラインメントのための好適なパラメータは、当業者により決定することができる。いくつかの態様において、アラインメントソフトウェアのデフォルトのパラメータが使用される。
いくつかの態様において、第一のアミノ酸配列の第二の配列アミノ酸に対するパーセント同一性「X」は、100×(Y/Z)として計算され、ここでYは、第一及び第二の配列のアラインメント(目視検査によるか又は特定の配列整列化プログラムにより整列させたもの)において同一のマッチとしてスコア化されたアミノ酸残基の数であり、並びにZは、第二の配列中の残基の総数である。第一の配列の長さが、第二の配列よりも長い場合は、第一の配列の第二の配列に対するパーセント同一性は、第二の配列の第一の配列に対するパーセント同一性よりも高くなるであろう。
「保存的アミノ酸置換」は、1つのアミノ酸残基が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基により置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において定義されており、これは塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非帯電の極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分岐した側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。例えば、フェニルアラニンのチロシンとの置換は、保存的置換である。いくつかの態様において、本発明のポリペプチド及び抗体の配列内の保存的置換は、該アミノ酸配列を含むポリペプチド又は抗体の抗原への結合、すなわち本ポリペプチド又は抗体が結合するHER3への結合を無効にしない。抗原結合を排除しないヌクレオチド及びアミノ酸の保存的置換を同定する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Brummellらの文献、Biochem. 32: 1180-1187 (1993);Kobayashiらの文献、Protein Eng. 12(10): 879-884 (1999);及び、Burksらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 412-417 (1997)を参照されたい)。
軽鎖(VL)及び重鎖(VH)可変領域に関して本文において使用される用語「コンセンサス配列」とは、VL又はVH鎖内のアミノ酸残基は、抗原結合に害を与えることなく修飾され易いという情報を基に定められた、複合の又は一般名化された(genericized)VL又はVH配列をいう。従って、VL又はVH鎖の「コンセンサス配列」において、いくつかのアミノ酸位置は、その位置で可能性のある複数のアミノ酸残基の一つにより占拠される。例えば、アルギニン(R)又はセリン(S)が特定の位置に生じる場合は、コンセンサス配列内のその特定の位置は、アルギニン又はセリン(R又はS)のいずれかであることができる。VH及びVL鎖のコンセンサス配列は、例えば、インビトロ親和性成熟により(例えば、縮重コーディングプライマーを使用する特定のCDR内のアミノ酸位置毎の無作為化)、抗体CDR内のアミノ酸残基の変異誘発の走査により(例えば、アラニン走査変異誘発)、又は当該技術分野において公知のいずれか他の方法により、規定することができ、引き続き変異体の抗原への結合を評価し、成熟したアミノ酸位置は抗原結合に影響を及ぼすかどうかが決定される。一部の態様において、変異は、CDR領域に導入される。他の態様において、変異は、フレームワーク領域に導入される。一部の他の態様において、変異は、CDR領域及びフレームワーク領域に導入される。
(II. 抗-HER3-結合分子)
本発明は、HER3結合分子、例えば、HER3に特異的に結合する抗体及びそれらの抗原-結合断片を提供する。HER3に関する完全長アミノ酸(aa)配列及びヌクレオチド(nt)配列は、当該技術分野において公知である(例えば、ヒトHER3についてはUniProt寄託番号P2186、又はマウスHER3についてはUniProt寄託番号O88458を参照されたい)。一部の態様において、抗-HER3結合分子は、ヒト抗体である。いくつかの態様において、HER3結合分子は、抗体又はそれらの抗原-結合断片である。一部の態様において、HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、一本鎖Fv若しくはscFv、ジスルフィド結合されたFv、V-NARドメイン、IgNar、イントラボディ、IgGΔCH2、ミニボディ、F(ab')3、テトラボディ、トリアボディ、ダイアボディ、単-ドメイン抗体、DVD-Ig、Fcab、mAb2、(scFv)2、又はscFv-Fcを含む。一部の態様において、この抗体は、前掲の「定義」のセクションで明らかにされたように、IgG1亜型であり、且つ三重変異体YTEを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、親クローン16(CL16)抗体と比べ修飾されている。この修飾は、CL16と比べ、CDR領域における及び/又はFW領域における変異を含むことができる。いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体は、CL16の軽鎖のCDR1及び/又はCDR3への修飾を含み、これは以下を含むが、これらに限定されるものではない:
1)コンセンサス配列
を含む、軽鎖CDR1であって、式中、X
1は、R又はSから選択され、及びX
2は、S又はLから選択されるもの;並びに
2)コンセンサス配列
を含む、軽鎖CDR3であって、式中、X
3は、S又はGから選択され、X
4は、L又はPから選択され、X
5は、R、I、P又はSから選択され、及びX
6は、V又はAから選択されるもの。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、CL16の重鎖のCDR2への修飾を含み、これはコンセンサス配列
を含む重鎖CDR1であって、式中、X
7は、Y、I又はVから選択されるものを含むが、これらに限定されるものではない。
一つの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、下記のコンセンサスアミノ酸配列を含んでなるVL領域を含む:
(式中、[FW
1]、[FW
2]、[FW
3]及び[FW
4]は、VLフレームワーク領域1(配列番号:40又は44)、VLフレームワーク領域2(配列番号:41)、VLフレームワーク領域3(配列番号:42)及びVLフレームワーク領域4(配列番号:43)のアミノ酸残基を表し、且つここで、X
1は、アミノ酸残基アルギニン(R)又はセリン(S)を表し、X
2は、アミノ酸残基セリン(S)又はロイシン(L)を表し、X
3は、アミノ酸残基セリン(S)又はグルタミン酸(E)を表し、X
4は、アミノ酸残基ロイシン(L)又はプロリン(P)を表し、X
5は、アミノ酸残基アルギニン(R)、イソロイシン(I)、プロリン(P)又はセリン(S)を表し、且つX
6は、アミノ酸残基バリン(V)又はアルギニン(R)を表す。)。
一つの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、下記のコンセンサスアミノ酸配列を含んでなるVH領域を含む:
(式中、[FW
5]、[FW
6]、[FW
7]及び[FW
8]は、VHフレームワーク領域1(配列番号:36)、VHフレームワーク領域2(配列番号:37)、VHフレームワーク領域3(配列番号:38)及びVHフレームワーク領域4(配列番号:39)のアミノ酸残基を表し、且つここでX
7は、アミノ酸残基チロシン(Y)、イソロイシン(I)又はバリン(V)を表す。)。
一つの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、下記のコンセンサスアミノ酸配列を含んでなるVL領域を含み:
(式中、[FW
1]、[FW
2]、[FW
3]及び[FW
4]は、VLフレームワーク領域1(配列番号:40又は44)、VLフレームワーク領域2(配列番号:41)、VLフレームワーク領域3(配列番号:42)及びVLフレームワーク領域4(配列番号:43)のアミノ酸残基を表し、且つここで、X
1は、アミノ酸残基アルギニン(R)又はセリン(S)を表し、X
2は、アミノ酸残基セリン(S)又はロイシン(L)を表し、X
3は、アミノ酸残基セリン(S)又はグルタミン酸(E)を表し、X
4は、アミノ酸残基ロイシン(L)又はプロリン(P)を表し、X
5は、アミノ酸残基アルギニン(R)、イソロイシン(I)、プロリン(P)又はセリン(S)を表し、且つX
6は、アミノ酸残基バリン(V)又はアルギニン(R)を表す。)、並びにここで:
該抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は更に、下記のコンセンサスアミノ酸配列を含んでなるVH領域を含む:
(式中、[FW
5]、[FW
6]、[FW
7]及び[FW
8]は、VHフレームワーク領域1(配列番号:36)、VHフレームワーク領域2(配列番号:37)、VHフレームワーク領域3(配列番号:38)及びVHフレームワーク領域4(配列番号:39)のアミノ酸残基を表し、且つここで、X
7は、アミノ酸残基チロシン(Y)、イソロイシン(I)又はバリン(V)を表す。)。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列からなるVL-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又は抗原-結合断片は、配列番号:21からなるVL-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:21を含んでなるVL-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列からなるVL-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:31からなるVH-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:31を含んでなるVH-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列からなるVH-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列を含んでなるVH-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:35からなるVH-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:35を含んでなるVH-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列からなるVL-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:21からなるVL-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:21を含んでなるVL-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列からなるVL-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:31からなるVH-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:31を含んでなるVH-CDR1を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列からなるVH-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列を含んでなるVH-CDR2を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:35からなるVH-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:35を含んでなるVH-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列からなるVL-CDR1;配列番号:21からなるVL-CDR2;並びに、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列からなるVL-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR1;配列番号:21を含んでなるVL-CDR2;並びに、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:31からなるVH-CDR1;配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列からなるVH-CDR2;並びに、配列番号:35からなるVH-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:31を含んでなるVH-CDR1;配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列を含んでなるVH-CDR2;配列番号:35を含んでなるVH-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:18、19、及び20からなる群から選択される配列からなるVL-CDR1;1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:21からなるVL-CDR2;並びに、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列からなるVL-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:18、19及び20からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR1;1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:21を含んでなるVL-CDR2;並びに、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:22、23、24、25、26、27、28、29、及び30からなる群から選択される配列を含んでなるVL-CDR3を含む。
一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:31からなるVH-CDR1;1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列からなるVH-CDR2;並びに、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:35からなるVH-CDR3を含む。一部の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:31を含んでなるVH-CDR1;1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:32、33及び34からなる群から選択される配列を含んでなるVH-CDR2;並びに、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:35を含んでなるVH-CDR3を含む。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、重鎖及び/又は軽鎖のCDR1、CDR2、及び/又はCDR3への修飾を含み、並びに重鎖及び/又は軽鎖のFW1、FW2、FW3、及び/又はFW4への修飾を更に含む。一部の態様において、FW1は、配列番号:40又は44を含み、FW2は、配列番号:41を含み、FW3は、配列番号:42を含み、FW4は、配列番号:43を含み、FW5は、配列番号:36を含み、FW6は、配列番号:37を含み、FW7は、配列番号:38を含み、並びにFW8は、配列番号:39を含む。
一部の態様において、FW1は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:40又は44を含み;FW2は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:41を含み;FW3は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:42を含み;FW4は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:43を含み;FW5は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:36を含み;FW6は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:37を含み;FW7は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:38を含み;並びに、FW8は、1、2、3又は4つのアミノ酸置換以外は、配列番号:39を含む。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、各々、配列番号:18、21、22、31、32、及び35、配列番号:18、21、26、31、32及び35、配列番号:18、21、27、31、32及び35、配列番号:20、21、22、31、32及び35、配列番号:19、21、22、31、32及び35、配列番号:18、21、25、31、32及び35、配列番号:18、21、28、31、32及び35、配列番号:18、21、29、31、32及び35、配列番号:18、21、30、31、32及び35、配列番号:18、21、23、31、32及び35、配列番号:19、21、23、31、32及び35、配列番号:20、21、23、31、32及び35、配列番号:18、21、24、31、32及び35、又は配列番号:18、21、25、31、32及び35と同一であるか、又は1つ以上のCDRにおいて、4、3、2若しくは1つのアミノ酸置換以外は同一である、VL-CDR1、VL-CRD2、VL-CDR3、VH-CDR1、VH-CDR2、及びVH-CDR3アミノ酸配列を含んでなるVL及びVHを含む。
本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の重鎖及び軽鎖可変ドメインは、表2に列記された配列を含む。
表2
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、抗体VL及び抗体VHを含み、ここで該VLは、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、及び配列番号:17からなる群から選択される参照アミノ酸配列と、少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%同一であるアミノ酸配列を含む。
別の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、抗体VL及び抗体VHを含み、ここで該VHは、配列番号:2、配列番号:12及び配列番号:13からなる群から選択される参照アミノ酸配列と、少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%同一であるアミノ酸配列を含む。
別の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、及び配列番号:17からなる群から選択される参照アミノ酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%同一である配列を含んでなるVLを含み、且つ配列番号:2、配列番号:12及び配列番号:13からなる群から選択される参照アミノ酸配列と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%同一である配列を含んでなるVHを更に含む。
一部の態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、表2のVH及び表2のVLを含む。抗体は、それらのVL鎖に従い本明細書を通じて指定される。本明細書に開示された特異的抗体の重鎖は、CL16オリジナル重鎖(配列番号:2)に対応している。従って「CL16抗体」は、2つのオリジナルCL16軽鎖(配列番号:17)及び2つのCL16オリジナル重鎖(配列番号:2)を含むIgG1であるのに対して、「2C2抗体」は、2つの2C2軽鎖(2C2 VL(配列番号:3)及び2つのCL16オリジナル重鎖(配列番号:2)を含むIgG1である。
一部の態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、重鎖定常領域又はそれらの断片を含む。一部の具体的態様において、重鎖定常領域は、IgG定常領域である。このIgG定常領域は、カッパ定常領域及びラムダ定常領域からなる群から選択される軽鎖定常領域を含むことができる。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、CL16オリジナル重鎖(配列番号:2)及びオリジナルCL16軽鎖(配列番号:17)を含む、CL16抗体と実質的に同じ又はそれよりも大きい親和性で、HER3に結合する。いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、2C2軽鎖(2C2 VL(配列番号:3))及びCL16オリジナル重鎖(配列番号:2)を含む、2C2抗体と実質的に同じ又はそれよりも大きい親和性で、HER3に結合する。
本発明の一態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及びそれらの抗原性断片へ、解離定数kd (koff/kon)が10−6M未満、又は10−7M未満、又は10−8M未満、又は10−9M未満、又は10−10M未満、又は10−11M未満、又は10−12M未満、又は10−13M未満で、特異的に結合する。本発明の特定の態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及びそれらの抗原性断片へ、解離定数2×10−10M〜6×10−10Mで、特異的に結合する。
別の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及び/又はそれらの抗原性断片へ、Koffが1×10−3 s−1未満、又は2×10−3 s−1未満で結合する。別の態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及びそれらの抗原性断片へ、Koffが10−3 s−1未満、5×10−3 s−1未満、10−4 s−1未満、5×10−4 s−1未満、10−5 s−1未満、5×10−5 s−1未満、10−6 s−1未満、5×10−6 s−1未満、5×10−7 s−1未満、10−8 s−1未満、5×10−8 s−1未満、10−9 s−1未満、5×10−9 s−1未満、又は10−10 s−1未満で結合する。特定の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及び/又はそれらの抗原性断片へ、Koffが0.5×10−4 s−1〜2.0×10−4 s−1で結合する。
別の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及び/又はそれらの抗原性断片へ、結合速度定数又はkon速度が少なくとも105 M−1 s−1、少なくとも5×105 M−1 s−1、少なくとも106 M−1 s−1、少なくとも5×106 M−1 s−1、少なくとも107 M−1 s−1、少なくとも5×107 M−1 s−1、又は少なくとも108 M−1 s−1、又は少なくとも109 M−1 s−1で結合する。別の態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3及び/又はそれらの抗原性断片へ、結合速度定数又はkon速度が1×105 M−1 s−1〜6×105 M−1 s−1で結合する。
表1に明らかにされたVH配列及びVL配列は、本発明の他の抗-HER3結合分子を作製するために、「混合及び対合」させることができる。いくつかの態様において、15D12.I及び15D12.VのVH配列を、混合及び対合させる。加えて又は代わりに、5H6、8A3、4H6、6E.3、2B11、2D1、3A6、4C4、1A4、2C2、3E.1のVL配列を、混合及び対合させることができる。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ヒトFcRnへの結合を改善し、且つ抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の半減期を改善する変異を含む。一部の態様において、そのような変異は、IgG1の定常ドメインへ導入された、KabatのEUインデックスに従う番号付け(Kabatらの文献、(1991)、「免疫学的関心のあるタンパク質の配列」、米国立衛生研究所(NIH)、公衆衛生局(PHS)、ワシントンD.C.)で、位置252でのメチオニン(M)のチロシン(Y)への変異、位置254でのセリン(S)のトレオニン(T)への変異、及び位置256でのトレオニン(T)のグルタミン酸(E)への変異である。引用により本明細書中に組み込まれている、米国特許第7,658,921号を参照されたい。「YTE変異体」と称されるこの種の変異体IgGは、同じ抗体の野生型と比べ、およそ4倍の増大された半減期を発揮することが示されている(Dall'Acquaらの文献、J. Biol. Chem. 281: 23514-24 (2006))。一部の態様において、IgG定常ドメインを含む抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、KabatのEUインデックスに従う番号付けでアミノ酸残基の位置251-257、285-290、308-314、385-389、及び428-436に1つ以上のアミノ酸置換を含み、ここでそのような変異は、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の血清半減期を増大する。
一部の態様において、YTE変異体は、KabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置434に、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、チロシン(Y)、及びセリン(S)からなる群から選択されるアミノ酸による置換を更に含む。他の態様において、YTE変異体は、KabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置434に、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、チロシン(Y)、及びセリン(S)からなる群から選択されるアミノ酸による置換、並びにKabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置428に、トレオニン(T)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、及びセリン(S)からなる群から選択されるアミノ酸による置換を更に含む。
更に他の態様において、YTE変異体は、KabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置434に、チロシン(Y)による置換、並びにKabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置257に、ロイシン(L)による置換を更に含む。一部の態様において、YTE変異体は、KabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置434に、セリン(S)による置換、並びにKabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG定常ドメインの位置428に、ロイシン(L)による置換を更に含む。
具体的な態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、2C2軽鎖可変領域(2C2 VL;配列番号:3)、オリジナルのCL16重鎖可変領域(配列番号:2)、並びにKabatのEUインデックスに従う番号付けでIgG1定常ドメインの位置252でのメチオニン(M)のチロシン(Y)への変異、位置254でのセリン(S)のトレオニン(T)への変異、及び位置256でのトレオニン(T)のグルタミン酸(E)への変異を含むIgG1定常ドメインを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、下記からなる群から選択される少なくとも1つのIgG定常ドメインアミノ酸置換を含み:
(a)位置252のアミノ酸の、チロシン(Y)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、又はトレオニン(T)による置換、
(b)位置254のアミノ酸の、トレオニン(T)による置換、
(c)位置256のアミノ酸の、セリン(S)、アルギニン(R)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、又はトレオニン(T)による置換、
(d)位置257のアミノ酸の、ロイシン(L)による置換、
(e)位置309のアミノ酸の、プロリン(P)による置換、
(f)位置311のアミノ酸の、セリン(S)による置換、
(g)位置428のアミノ酸の、トレオニン(T)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、又はセリン(S)による置換、
(h)位置433のアミノ酸の、アルギニン(R)、セリン(S)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、又はグルタミン(Q)による置換、
(i)位置434のアミノ酸の、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、セリン(S)、ヒスチジン(H)、フェニルアラニン(F)、又はチロシンによる置換、並びに
(j)前記置換の2以上の組合せ:
ここでこれらの位置は、KabatのEUインデックスに従い番号付けられ、且つここで修飾されたIgGは、野生型のIgG定常ドメインを有するIgGの血清半減期と比べ、増大された血清半減期を有する。
他の態様において、このVH及び/又はVLアミノ酸配列は、前述の配列に対し、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の類似性があり、且つ1、2、3、4、5又はそれ以上の保存的置換を含むことができる。各々、配列番号:2、12若しくは13のVH領域及び/又は配列番号:1、3、4、5、6、7、8、9、10、11、14、15、16、若しくは17のVL領域に対し高い(すなわち、80%以上の)類似性を有するVH及びVL領域を有するHER3抗体は、配列番号:1−17をコードしている核酸分子の変異誘発(例えば、位置指定変異誘発又はPCR-媒介性変異誘発)、それに続く本文において説明された機能アッセイを使用するコードされ変更された抗体の維持された機能に関する試験により得ることができる。
抗原のための抗体の親和性又は結合力は、例えば、フローサイトメトリー、酵素-結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、又はラジオイムノアッセイ(RIA)、又は動態分析(例えば、BIACORE(商標)分析)などの、当該技術分野において周知の任意の好適な方法を用い、実験により決定することができる。直接結合アッセイに加え、競合的結合アッセイのフォーマットを、容易に利用することができる。(例えば、Berzofskyらの文献、「抗体-抗原相互作用(Antibody-Antigen Interactions)」、Fundamental Immunology、Paul, W. E.編集、Raven Press社:ニューヨーク、N.Y. (1984);Kubyの文献、「免疫学(Immunology)」、W. H. Freeman and Company:ニューヨーク、N.Y. (1992);及び、本文記載の方法を参照されたい)。特定の抗体-抗原相互作用の測定された親和性は、異なる条件(例えば、塩濃度、pH、温度)下で測定した場合に、変動することができる。従って、親和性及び他の抗原-結合パラメータ(例えば、KD又はKd、Kon、Koff)の測定値は、抗体及び抗原の標準化された溶液、及び当該技術分野において公知の標準化された緩衝液並びに本文に記載の緩衝液などにより作製される。
同じくBIACORE(商標)分析を用いて測定された親和性は、どの反応物の一種がチップに結合されているかによって変動し得ることは、当該技術分野において公知である。これに関して、親和性は、標的化する抗体(例えば、2C2モノクローナル抗体)が、チップ上に固定化されているフォーマット(「IgGダウン」フォーマットと称される)を用いて、又は標的タンパク質(例えば、HER3)が、チップ上に固定化されているフォーマット(例えば「HER3ダウン」フォーマットと称される)を用いて、測定することができる。
(III. 本発明の抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片と同じエピトープへ結合する結合分子)
別の態様において、本発明は、本文に記載の様々な抗-HER3抗体が結合するのと同じエピトープへ結合するHER3-結合分子を含む。本文において使用される用語「エピトープ」とは、本発明の抗体へ結合することが可能であるタンパク質決定基をいう。エピトープは通常、アミノ酸又は糖鎖などの分子の化学的に活性のある表面基からなり、且つ特異的三次元構造特徴に加え、特異的帯電特徴を通常有する。立体構造エピトープと直線状(non-conformational)エピトープは、後者ではなく前者に対する結合が、変性溶媒の存在下で失われることで、識別される。そのような抗体は、標準のHER3結合アッセイにおいて、CL16抗体、2C2抗体、又は2C2-YTE変異体などの抗体と交差-競合する(例えば、統計学的に有意な様式で、結合を競合的に阻害する)それらの能力を基に同定することができる。従って一つの態様において、本発明は、抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片、例えばCL16抗体又は2C2抗体などの別の本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片とのHER3の結合について競合するヒトモノクローナル抗体を提供する。被験抗体の例えばCL16抗体又は2C2抗体などの結合を阻害する能力は、被験抗体は、HER3への結合に関してその抗体と競合することができること;そのような抗体は、非限定的理論に従い、それが競合する抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片と、HER3上の同じ又は関連のある(例えば、構造的に類似の又は空間的に近位の)エピトープに結合することができることを明らかにしている。一態様において、HER3上の同じエピトープに結合する抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片、例えば、CL16抗体又は2C2抗体は、ヒトモノクローナル抗体である。
(IV. 作用機序)
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER3リン酸化を抑制することができる。他の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、AKTリン酸化を抑制することができる。更に他の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER2-HER3二量体形成を抑制することができる。一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、細胞成長を抑制することができる。一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ADCC作用を欠いている。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド-非依存性の作用機序を介して、HER3リン酸化、AKTリン酸化、及び/又は腫瘍コロニー形成を抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ELISAにより測定されるHRG-駆動された乳癌MCF-7細胞におけるHER3リン酸化を、約30ng/mLより低い、約25ng/mLより低い、約20ng/mLより低い、約15ng/mLより低い、又は約10ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ELISAにより測定されるHRG-駆動された乳癌MCF-7細胞におけるHER3リン酸化を、約20ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ELISAにより測定されるHRG-駆動された乳癌MCF-7細胞におけるHER3リン酸化を、約15ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。別の具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ELISAにより測定されるHRG-駆動された乳癌MCF-7細胞におけるHER3リン酸化を、約10ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、MDA-MB-175乳癌細胞における細胞成長を、約0.90μg/mLより低い、約0.80μg/mLより低い、約0.70μg/mLより低い、約0.60μg/mLより低い、約0.50μg/mLより低い、約0.40μg/mLより低い、約0.30μg/mLより低い、又は約0.20μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、MDA-MB-175乳癌細胞における細胞成長を、約0.50μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、MDA-MB-175乳癌細胞における細胞成長を、約0.40μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。別の具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、MDA-MB-175乳癌細胞における細胞成長を、約0.30μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。別の具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、MDA-MB-175乳癌細胞における細胞成長を、約0.20μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HMCBメラノーマ細胞における細胞成長を、約0.20μg/mLより低い、約0.15μg/mLより低い、約0.10μg/mLより低い、約0.05μg/mLより低い、約0.04μg/mLより低い、又は約0.03μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HMCBメラノーマ細胞における細胞成長を、約0.10μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HMCBメラノーマ細胞における細胞成長を、約0.05μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HMCBメラノーマ細胞における細胞成長を、約0.04μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HMCBメラノーマ細胞における細胞成長を、約0.03μg/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約20ng/mLより低い、約15ng/mLより低い、約10ng/mLより低い、約8ng/mLより低い、約6ng/mLより低い、約4ng/mLより低い、又は約2ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約10ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約8ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約6ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約2ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、TKIに対し抵抗性であるEGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約30ng/mLより低い、約25ng/mLより低い、約20ng/mLより低い、約15ng/mLより低い、約10ng/mLより低い、又は約5ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、TKIに対し抵抗性であるEGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約20ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、TKIに対し抵抗性であるEGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約15ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、TKIに対し抵抗性であるEGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約10ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、TKIに対し抵抗性であるEGFR-駆動されたHCC827肺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約5ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、TKI抵抗性癌の治療に使用することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45ヒト胃腺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約15ng/mLより低い、約10ng/mLより低い、約9ng/mLより低い、約8ng/mLより低い、約7ng/mLより低い、約6ng/mLより低い、約5ng/mLより低い、又は約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45ヒト胃腺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約10ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45ヒト胃腺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約8ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45ヒト胃腺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約6ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45ヒト胃腺癌細胞におけるHER3リン酸化を、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45細胞におけるpAKTを、約15ng/mLより低い、約10ng/mLより低い、約9ng/mLより低い、約8ng/mLより低い、約7ng/mLより低い、6ng/mLより低い、約5ng/mLより低い、約4ng/mLより低い、約3ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45細胞におけるpAKTを、約8ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45細胞におけるpAKTを、約6ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45細胞におけるpAKTを、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、cMET-駆動されたMKN45細胞におけるpAKTを、約3ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR2-駆動されたKato IIIヒト胃の印環細胞癌におけるpHERを、約9ng/mLより低い、約8ng/mLより低い、約7ng/mLより低い、約6ng/mLより低い、約5ng/mLより低い、約4ng/mLより低い、約3ng/mLより低い、約2ng/mLより低い、又は約1ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR2-駆動されたKato IIIヒト胃の印環細胞癌におけるpHERを、約5ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR2-駆動されたKato IIIヒト胃の印環細胞癌におけるpHERを、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR2-駆動されたKato IIIヒト胃の印環細胞癌におけるpHERを、約3ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR2-駆動されたKato IIIヒト胃の印環細胞癌におけるpHERを、約2ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR2-駆動されたKato IIIヒト胃の印環細胞癌におけるpHERを、約1ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR-2駆動されたKato III細胞におけるpAKTを、約6ng/mLより低い、約5ng/mLより低い、約4ng/mLより低い、約3ng/mLより低い、約2ng/mLより低い、又は約1ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR-2駆動されたKato III細胞におけるpAKTを、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR-2駆動されたKato III細胞におけるpAKTを、約3ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR-2駆動されたKato III細胞におけるpAKTを、約2ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、FGFR-2駆動されたKato III細胞におけるpAKTを、約1ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpHERを、約10ng/mLより低い、約9ng/mLより低い、約8ng/mLより低い、約7ng/mLより低い、約6ng/mLより低い、約5ng/mLより低い、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpHERを、約8ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpHERを、約6ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpHERを、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpAKTを、約10ng/mLより低い、約9ng/mLより低い、約8ng/mLより低い、約7ng/mLより低い、約6ng/mLより低い、約5ng/mLより低い、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpAKTを、約8ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpAKTを、約6ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞におけるpAKTを、約4ng/mLより低いIC50で、抑制することができる。一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性乳癌モデルであるBT-474細胞における、pHER3、pAKT、及び腫瘍コロニー形成を抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HRG誘導したVEGF分泌を抑制することができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、リガンド非依存性BT-474乳癌細胞及び/又はHRG-駆動された乳癌MCF-7細胞において、HRG誘導したVEGF分泌を抑制することができる。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、細胞周期停止を引き起こすことができる。具体的態様において、HER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、SKBR3細胞又はBT474細胞を含むが、これらに限定されるものではない、乳癌細胞における、細胞周期停止を引き起こすことができる。
(V. 抗-HER3抗体及び抗原-結合断片の調製)
モノクローナル抗-HER3抗体は、Kohler及びMilsteinの文献、Nature, 256: 495 (1975)に記載された方法などの、ハイブリドーマ法を用いて調製することができる。このハイブリドーマ法を用い、マウス、ハムスター、又は他の好適な宿主動物を、先に説明されたように免疫化し、免疫化する抗原に特異的に結合する抗体のリンパ球による産生を誘発する。リンパ球はまた、インビトロにおいても免疫化することができる。免疫化後、リンパ球は、単離され、且つ例えばポリエチレングリコールを用い、好適な骨髄腫細胞株と融合され、ハイブリドーマ細胞を形成し、これらは次に融合されないリンパ球と骨髄腫細胞から選別することができる。免疫沈降、免疫ブロット法、又はインビトロ結合アッセイ(例えばラジオイムノアッセイ(RIA);酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA))により決定されるように、選択された抗原に対し特異的に向けられたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、次に、標準方法(Godingの文献、「モノクローナル抗体:原理と実践(Monoclonal Antibodies : Principles and Practice)」、Academic Press社、1986年)を使用するインビトロ培養において、又は動物内の腹水腫瘍としてインビボにおいてのいずれかで増殖することができる。このモノクローナル抗体は次に、先のポリクローナル抗体について説明されたように、培養培地又は腹水液から精製することができる。
あるいは、抗-HER3モノクローナル抗体はまた、米国特許第4,816,567号に開示されたような、組換えDNA法を用いて作製することができる。モノクローナル抗体をコードしているポリヌクレオチドは、該抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドプライマーを使用するRT-PCRなどにより、成熟B-細胞又はハイブリドーマ細胞から単離され、且つそれらの配列は、通常の手順を用いて決定される。その後重鎖及び軽鎖をコードしている単離されたポリヌクレオチドは、好適な発現ベクターへクローニングされ、これは大腸菌細胞、シミアンCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は免疫グロブリンタンパク質を本来産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞へトランスフェクトされる際に、これらの宿主細胞により、モノクローナル抗体が産生される。同じく、所望の種の組換え抗-HER3モノクローナル抗体又はそれらの抗原-結合断片は、説明されたような所望の種のCDRを発現しているファージディスプレイライブラリーから単離することができる(McCaffertyらの文献、Nature, 348: 552-554, 1990;Clarksonらの文献、Nature, 352: 624-628, 1991;及び、Marksらの文献、J. Mol. Biol., 222: 581-597, 1991)。
抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片をコードしているポリヌクレオチドは更に、代替抗体を産生する組換えDNA技術を用い、多くの異なる方法で修飾することができる。一部の態様において、例えばマウスモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖の定常ドメインは、(1)キメラ抗体を作出するために、例えばヒト抗体のそれらの領域の、又は(2)融合抗体を作出するために、非免疫グロブリンポリペプチドの、代わりとなることができる。一部の態様において、これらの定常領域は、切断されるか、又は除去され、モノクローナル抗体の所望の抗体断片を作出する。この可変領域の位置指定又は高密度変異誘発は、モノクローナル抗体の特異性、親和性などを最適化するために使用することができる。
いくつかの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ヒト抗体又はそれらの抗原-結合断片である。ヒト抗体は、当該技術分野において公知の様々な技術を用い、直接調製することができる。インビトロにおいて免疫化されるか、又は標的抗原に対し向けられた抗体を産生する免疫化された個体から単離された、不死化されたヒトBリンパ球を作出することができる(例えば、Coleらの文献、「モノクローナル抗体及び癌療法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」、Alan R. Liss, 77頁、(1985);Boemerらの文献、J. Immunol., 147(1): 86-95 1991;及び、米国特許第5,750,373号を参照されたい)。
同じく、抗-HER3ヒト抗体又はそれらの抗原-結合断片は、ファージライブラリーから選択されることができ、ここでこのファージライブラリーは、例えば、Vaughanらの文献、Nat. Biotech., 14: 309-314, 1996、Sheetsらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci., 95: 6157-6162, 1998、Hoogenboom及びWinterの文献、J. Mol. Biol., 227: 381, 1991、並びにMarksらの文献、J. Mol. Biol., 222: 581, 1991に記載されたように、ヒト抗体を発現する。抗体ファージライブラリーの作製及び使用に関する技術はまた、米国特許第5,969,108号、第6,172,197号、第5,885,793号、第6,521,404号;第6,544,731号;第6,555,313号;第6,582,915号;第6,593,081号;第6,300,064号;第6,653,068号;第6,706,484号;及び、第7,264,963号;並びに、Rotheらの文献、2007, J. Mol. Bio., doi:10.1016/ j.jmb.2007.12.018に記載されている(各々はそれらの全体が引用により本明細書中に組み込まれている)。
親和性成熟戦略及び鎖シャッフリング戦略(その全体が引用により組み込まれている、Marksらの文献、Bio/Technology, 10: 779-783, 1992)は、当該技術分野において公知であり、且つ高親和性ヒト抗体又はそれらの抗原-結合断片を作製するために利用することができる。
一部の態様において、抗-HER3モノクローナル抗体は、ヒト化抗体であることができる。非ヒト抗体又はヒト抗体を操作する、ヒト化する又は表面再処理する(resurfacing)方法も、使用することができ、且つ当該技術分野において周知である。ヒト化されたか、表面再処理されたか又は同様に操作された抗体は、例えば、非限定的に、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類又は他の哺乳動物などの、非ヒトである給源由来のアミノ酸残基を1つ以上有することができる。これらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的には公知のヒト配列の「インポート(import)」可変ドメイン、定常ドメイン又は他のドメインからもたらされる、「インポート」残基と称されることが多い残基により置き換えられる。そのようなインポートされた配列を使用し、免疫原性を低下するか、又は当該技術分野において公知のように、結合、親和性、結合速度、解離速度、結合力、特異性、半減期、若しくは任意の他の好適な特徴を低下するか、増強するか若しくは修飾することができる。概してCDR残基は、HER3結合への影響に直接に及びほとんど実質的に関与される。従って、非ヒト又はヒトCDR配列の一部又は全てを維持する一方で、可変領域及び定常領域の非ヒト配列を、ヒトの又は他のアミノ酸により置き換えることができる。
抗体はまた、抗原HER3に関する高親和性及び他の好ましい生物学的特性を保持しながら、任意にヒト化されるか、表面再処理されるか、操作されるか、又はヒト抗体操作されることもできる。この目標を実現するために、ヒト化(若しくはヒト)されるか又は操作された抗-HER3抗体及び表面再処理された抗体は、親配列、操作された配列、及びヒト化配列の三次元モデルを使用する、親の配列並びに様々な概念的ヒト化及び操作された生成物の分析プロセスにより、任意に調製することができる。三次元免疫グロブリンモデルが通常、利用可能であり、且つ当業者には良く知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の可能性のある三次元高次構造を例示し且つ表示するコンピュータプログラムが、利用可能である。これらの表示の検証は、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のもっともらしい役割の分析、すなわち候補免疫グロブリンのHER3などのその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析を可能にする。この様式において、フレームワーク(FW)残基は、コンセンサス配列及びインポート配列から選択され且つ組合せられ、その結果標的抗原に関する増大した親和性などの、所望の抗体特徴が達成される。
本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片のヒト化、表面再処理又は操作は、非限定的に、以下に記載されたものなど、公知の方法のいずれかを用いて実行することができる:Jonesらの文献、Nature, 321: 522 (1986);Riechmannらの文献、Nature, 332: 323 (1988);Verhoeyenらの文献、Science, 239: 1534 (1988))、Simsらの文献、J. Immunol. 151: 2296 (1993);Chothia及びLeskの文献、J. Mol. Biol. 196: 901 (1987)、Carterらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89: 4285 (1992);Prestaらの文献、J. Immunol. 151: 2623 (1993)、米国特許第5,639,641号、第5,723,323号;第5,976,862号;第5,824,514号;第5,817,483号;第5,814,476号;第5,763,192号;第5,723,323号;第5,766,886号;第5,714,352号;第6,204,023号;第6,180,370号;第5,693,762号;第5,530,101号;第5,585,089号;第5,225,539号;第4,816,567号、第7,557,189号;第7,538,195号;及び、第7,342,110号;国際出願番号PCT/US98/16280;PCT/US96/18978;PCT/US91/09630;PCT/US91/05939;PCT/US94/01234;PCT/GB89/01334;PCT/GB91/01134;PCT/GB92/01755;国際特許出願公開番号WO90/14443;WO90/14424;WO90/14430;及び、欧州特許公開番号EP 229246;これらの各々は、それらに引用された参照を含み、全体が引用により本明細書中に組み込まれている。
抗-HER3ヒト化抗体及びそれらの抗原-結合断片はまた、免疫化時に内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の完全レパトアを作製することが可能である、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むトランスジェニックマウスにおいて作製することができる。このアプローチは、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;及び、第5,661,016号に説明されている。
いくつかの態様において、抗-HER3抗体断片が提供される。抗体断片の作製に関する様々な技術が、公知である。従来これらの断片は、無傷の抗体のタンパク質分解性消化により誘導される(例えば、Morimotoらの文献、Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 24: 107-117, 1993;Brennanらの文献、Science, 229: 81, 1985)。いくつかの態様において、抗-HER3抗体断片は、組換えにより作製される。Fab、Fv、及びscFv抗体断片は全て、大腸菌又は他の宿主細胞において発現及び分泌され、その結果大量のこれらの断片の生成が可能である。そのような抗-HER3抗体断片はまた、先に考察したように抗体ファージライブラリーから単離することができる。抗-HER3抗体断片はまた、米国特許第5,641,870号に説明されたような、線状抗体であることができる。抗体断片の作製に関する他の技術は、当業者には明らかであろう。
本発明に従い、HER3に特異的な一本鎖抗体を作製する技術を、適応させることができる(例えば米国特許第4,946,778号を参照されたい)。加えて、Fab発現ライブラリーを構築する方法(例えばHuseらの文献、Science, 246: 1275-1281 (1989))を、HER3、又はそれらの誘導体、断片、アナログ若しくはホモログに関する所望の特異性を伴うモノクローナルFab断片の迅速且つ効果的な同定が可能であるように、適応させることができる。非限定的に、(a)抗体分子のペプシン消化により生成されたF(ab')2断片;(b)F(ab')2断片のジスルフィド橋の還元により作出された, Fab断片;(c)抗体分子のパパイン及び還元剤による処理により作出されたFab断片、並びに(d)Fv断片:を含む、抗体断片を、当該技術分野の技術により作製することができる。
特に抗体断片の場合、その血清半減期を増大するために抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片を修飾することは、更に望ましいことがあり得る。これは、例えば、抗体又は抗体断片中の好適な領域の変異による抗体又は抗体断片へのサルベージ受容体結合エピトープの取込みによるか、又はペプチドタグへのエピトープの取込みとその後末端又は中央部のいずれかで該抗体又は抗体断片への融合によるか(例えば、DNA又はペプチド合成により)、又はYTE変異により、達成することができる。抗体又はそれらの抗原-結合断片の血清半減期を増大する他の方法、例えば、PEGなどの異種分子へのコンジュゲーションが、当該技術分野において公知である。
ヘテロコンジュゲート抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片も、本発明の範囲内である。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合された抗体で構成される。そのような抗体は、例えば、免疫細胞を望ましくない細胞へ標的化することが提唱されている(例えば、米国特許第4,676,980号を参照されたい)。ヘテロコンジュゲート抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片は、架橋剤が関与する方法を含む、合成タンパク質化学において公知の方法を用い、インビトロにおいて調製することができることが、企図されている。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いるか、又はチオエーテル結合の形成により、構築することができる。この目的に適した試薬の例は、イミノチオラート及びメチル-4-メルカプトブチルイミデートを含む。
いくつかの態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、他の治療薬と組合せるか、又は他の治療薬若しくは毒素にコンジュゲートされ、免疫コンジュゲート及び/又は融合タンパク質を形成することができる。そのような治療薬及び毒素の例としては、セツキシマブ(エルビタックス(登録商標))、パニツムマブ(ベクチビックス(登録商標))、ラパチニブ(タイカーブ(登録商標)/タイバーブ(登録商標))、及びパクリタキセル(タキソール(登録商標)、アブラキサン(登録商標))並びに誘導体(例えば、ドセタキセル)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一部の態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)を標的化する抗体又は抗体断片にコンジュゲートすることができる。他の態様において、本発明のHER3-結合分子は、チロシンキナーゼ阻害薬にコンジュゲートすることができる。一部の具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、EGFR及び/又はHER2/neuに会合されたチロシンキナーゼ活性の阻害剤にコンジュゲートすることができる。一部の態様において、本発明のHER3-結合分子は、有糸分裂阻害薬にコンジュゲートすることができる。一部の具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、紡錘体微小管集成体を安定化する物質にコンジュゲートすることができる。
本発明の目的に関して、修飾された抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、抗体又はポリペプチドのHER3との会合を提供する任意の型の可変領域を含むことができることは理解されなければならない。これに関して、該可変領域は、体液性応答を開始し(mount)且つ所望の腫瘍関連抗原に対する免疫グロブリンを産生するように誘導することができる任意の型の哺乳動物からなるか、又は動物から誘導されることができる。従って修飾された抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の可変領域は、例えば、ヒト、マウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル、マカクザルなど)又はオオカミ起源のものであることができる。一部の態様において、修飾された抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の可変領域と定常領域の両方が、ヒトである。他の態様において、適合性のある抗体の可変領域(通常、非ヒト給源から誘導される)は、その結合特性を改善するか又は該分子の免疫原性を低下するために、操作されるか又は特別にあつらえる(tailor)ことができる。これに関して、本発明において有用な可変領域は、ヒト化されるか、又はそうでなければインポートされたアミノ酸配列の包含を介して変更されることができる。
いくつかの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の重鎖及び軽鎖の両方の可変ドメインは、1つ以上のCDRの少なくとも部分的置き換えにより、並びに必要ならば部分的フレームワーク領域置き換え及び配列変化により、変更される。これらのCDRは、それよりフレームワーク領域が誘導された抗体と同じクラスの抗体から又はサブクラスの抗体さえからも誘導することができるが、これらのCDRは、異なるクラスの抗体から、及びいくつかの態様においては異なる種の抗体から誘導されることが想起される。ひとつの可変ドメインの抗原結合能を別のものに移すために、そのCDRの全てを、ドナー可変領域由来の完全なCDRにより置き換えることは、不要である。むしろ、その抗原結合部位の活性を維持するために必要であるそれらの残基を移すことのみが必要である。米国特許第5,585,089号、第5,693,761号及び第5,693,762号に明記された説明を考慮し、低下した免疫原性を持つ機能的抗体を得ることは、慣習的実験を実行するか又は試行錯誤で試験するかのいずれかにより、当業者の能力の範囲内であろう。
可変領域の変更にもかかわらず、当業者は、本発明の修飾された抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、未変性の又は変更されない定常領域を含むほぼ同じ免疫原性の抗体と比較した場合に、増大された腫瘍局在化又は減少された血清半減期などの所望の生化学的特徴を提供するために、少なくとも定常領域ドメインの1つ以上の画分が欠失されているか、又はそうでなければ変更されている抗体(例えば、完全長抗体又はそれらの免疫反応性断片)を含むことを理解するであろう。一部の態様において、修飾された抗体の定常領域は、ヒト定常領域を含むであろう。本発明と適合性のある定常領域への修飾は、1つ以上のドメイン内の1個以上のアミノ酸の付加、欠失又は置換を含む。すなわち、本文において明らかにされた修飾された抗体は、3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2又はCH3)の1つ以上及び/又は軽鎖定常ドメイン(CL)に変更又は修飾を含むことができる。一部の態様において、1つ以上のドメインが部分的に又は全体的に欠失されている修飾された定常領域が、企図されている。一部の態様において、修飾された抗体は、CH2ドメイン全体が取り除かれているドメイン欠失された構築体又は変種(ΔCH2構築体)を含むであろう。一部の態様において、省略された定常領域ドメインは、典型的には存在しない定常領域により付与される分子の可動性の一部を提供する、短いアミノ酸スペーサー(例えば10残基)により置き換えられるであろう。
定常領域は、それらの立体配置に加え、いくつかのエフェクター機能を媒介することが、当該技術分野においてわかっている。例えば、抗体への補体C1成分の結合は、補体系を活性化する。補体の活性化はまた、細胞病原体のオプソニン化及び溶解に重要である。補体の活性化はまた、炎症反応も刺激し、且つまた自己免疫過敏症に関与し得る。更に、抗体は、細胞上のFc受容体(FcR)と結合する、抗体Fc領域上のFc受容体部位により、Fc領域を介して細胞へ結合する。IgG(ガンマ受容体)、IgE(イータ受容体)、IgA(アルファ受容体)及びIgM(ミュー受容体)を含む、抗体の異なるクラスに特異的である数多くのFc受容体が存在する。抗体の細胞表面上のFc受容体への結合は、抗体-被覆された粒子の貪食(engulfment)及び破壊、免疫複合体のクリアランス、キラー細胞による抗体-被覆された標的細胞の溶解(抗体依存性細胞性細胞傷害、又はADCCと称される)、炎症メディエーターの放出、胎盤移行及び免疫グロブリン産生の制御を含む、数多くの重要且つ多様な生物学的反応を誘発する。
いくつかの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、変更されたエフェクター機能を提供し、これは次に、投与された抗体又はそれらの抗原-結合断片の生物学的プロファイルに影響を及ぼす。例えば、定常領域ドメインの欠失又は失活(点変異又は他の手段を介して)は、循環修飾された抗体のFc受容体結合を減少し、これにより腫瘍局在化を増大することができる。他の場合において、本発明と一致している定常領域修飾は、補体結合を穏やかにし、その結果血清半減期及びコンジュゲートされた細胞毒の非特異的会合を減少することができる。更に他の定常領域の修飾は、増大した抗原特異性又は抗体可動性のために増強された局在化を可能にするジスルフィド結合又はオリゴ糖部分を排除するために使用することができる。同様に、本発明に従う定常領域への修飾は、当業者の視野に良く収まる周知の生化学技術又は分子工学技術を用い、容易に行うことができる。
いくつかの態様において、抗体又はそれらの抗原-結合断片であるHER3-結合分子は、1つ以上のエフェクター機能を有さない。例えば一部の態様において、抗体又はそれらの抗原-結合断片は、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)活性及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有さない。いくつかの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、Fc受容体及び/又は補体因子に結合しない。いくつかの態様において、抗体又はそれらの抗原-結合断片は、エフェクター機能を有さない。
いくつかの態様において、抗-HER3修飾された抗体又はそれらの抗原-結合断片は、それぞれの修飾された抗体又はそれらの断片のヒンジ領域へCH3ドメインを直接融合するように、操作することができることは注目されるであろう。他の構築体において、ヒンジ領域と修飾されたCH2及び/又はCH3ドメインの間に、ペプチドスペーサーを提供することが望ましいことがある。例えば、適合性のある構築体は、CH2ドメインが欠失され、且つ残存するCH3ドメイン(修飾又は非修飾)が、5〜20個のアミノ酸スペーサーによりヒンジ領域に結合している場合に、発現されることができる。そのようなスペーサーは、例えば、定常ドメインの調節要素が、自在且つアクセス可能であり続けること、又はヒンジ領域が可動性であり続けることを確実にするために、追加することができる。しかし、アミノ酸スペーサーは、場合によっては、免疫原性であることが判明し、且つ該構築体に対する望ましくない免疫応答を誘発することは留意しなければならない。従っていくつかの態様において、修飾された抗体の望ましい生化学的品質を維持するために、構築体に追加された任意のスペーサーは、相対的に非免疫原性であるか、又は全く省略されさえするであろう。
全定常領域ドメインの欠失に加え、本発明の抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片は、数個の又はたった1個のアミノ酸の部分的欠失又は置換により提供され得ることは理解されるであろう。例えば、CH2ドメインの選択された領域内の1個のアミノ酸の変異は、Fc結合を実質的に低下し、これにより腫瘍局在化を増大するのに十分であることができる。同様に、調節されるべきエフェクター機能(例えば補体C1Q結合)を制御する1以上の定常領域ドメインの一部を単純に欠失することが望ましいことがある。そのような定常領域の部分的欠失は、抗体又はそれらの抗原-結合断片の選択された特徴(例えば血清半減期)を改善することができる一方で、無傷の対象の定常領域ドメインに関連した他の望ましい機能を取り除く。更に先にほのめかしたように、開示された抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片の定常領域は、得られる構築体のプロファイルを増強する1個以上のアミノ酸の変異又は置換を通じて修飾することができる。これに関して、保存された結合部位(例えばFc結合)により提供された活性を破壊する一方で、その修飾された抗体又はそれらの抗原-結合断片の立体配置及び免疫原性プロファイルを実質的に維持することが可能である。いくつかの態様は、エフェクター機能の減少若しくは増加などの望ましい特徴を増強するか、又は更なる細胞毒又は糖鎖(carbohydrate)の結合を提供するための、1個以上のアミノ酸の定常領域への付加を含むことができる。そのような態様において、選択された定常領域ドメインから誘導された特異的配列を挿入又は複製することは望ましいことがある。
本発明は更に、本文において明記したような、キメラ、ヒト化及びヒト抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片と実質的に相同である変種及び同等物を包含している。これらは、例えば、保存的置換変異、すなわち、1個以上のアミノ酸の類似のアミノ酸による置換を含むことができる。例えば、保存的置換とは、あるアミノ酸の、同じ一般的クラス内の別のアミノ酸による置換、例えば、1個の酸性アミノ酸の別の酸性アミノ酸による、1個の塩基性アミノ酸の別の塩基性アミノ酸による、又は1個の中性アミノ酸の別の中性アミノ酸による置換をいう。保存的アミノ酸置換により意図されるものは、当該技術分野において周知である。
抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は更に、該タンパク質の通常の部分ではない追加の化学部分を含むように、修飾することができる。それらの誘導体化された部分は、該タンパク質の溶解度、生物学的半減期又は吸収を改善することができる。これらの部分はまた、該タンパク質の望ましくない副作用などを減少若しくは排除することができる。それらの部分に関する概要は、「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、第20版、Mack Publishing社、イーストン、PA (2000年)に見ることができる。
(VI. HER3-結合分子をコードしているポリヌクレオチド)
いくつかの態様において、本発明は、HER3に特異的に結合するポリペプチド又はそれらの抗原-結合断片をコードしている核酸配列を含むポリヌクレオチドを包含している。例えば、本発明は、抗-HER3抗体をコードしているか又はそのような抗体の抗原-結合断片をコードしている核酸配列を含むポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、RNA形又はDNA形であることができる。DNAは、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAを含み;且つ、二本鎖若しくは一本鎖であることができ、並びに一本鎖である場合は、コード鎖又は非コード(アンチセンス)鎖であることができる。
いくつかの態様において、本ポリヌクレオチドは、単離されている。いくつかの態様において、本ポリヌクレオチドは、実質的に純粋である。いくつかの態様において、本ポリヌクレオチドは、例えば、ポリペプチドの発現及び宿主細胞からの分泌を補助するポリヌクレオチド(例えば細胞からのポリペプチドの輸送を制御するため分泌配列として機能するリーダー配列)に対し、同じリーディングフレーム内に融合された成熟ポリペプチドについてのコード配列を含む。リーダー配列を有するポリペプチドは、プレタンパク質であり、且つそのポリペプチドの成熟型を形成するために、宿主細胞により切断されたリーダー配列を有することができる。本ポリヌクレオチドはまた、その成熟タンパク質に追加の5'アミノ酸残基を加えたものであるHER3-結合プロタンパク質をコードすることができる。
いくつかの態様において、本ポリヌクレオチドは、成熟HER3-結合ポリペプチドのコード配列、例として、例えばコードされたポリペプチドの精製を可能にするマーカー配列に対し同じリーディングフレームで融合された抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片を含む。例えば、このマーカー配列は、細菌宿主の場合マーカーに融合された成熟ポリペプチドの精製のために提供するpQE-9ベクターにより供給されるヘキサ-ヒスチジンタグであることができるか、又は哺乳動物宿主(例えば、COS-7細胞)が使用される場合、マーカー配列は、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質から誘導されたヘマグルチニン(HA)タグであることができる。
本発明は更に、例えば、HER3-結合断片、本発明のHER3-結合分子のアナログ、及び誘導体をコードしている説明されたポリヌクレオチドの変種に関する。
本ポリヌクレオチド変種は、コード領域、非コード領域、又は両方に改変を含むことができる。一部の態様において、本ポリヌクレオチド変種は、サイレント置換、付加、又は欠失を生じるが、コードされたポリペプチドの特性又は活性は変更しないような、改変を含む。一部の態様において、ヌクレオチド変種は、遺伝暗号の縮重によるサイレント置換により作製される。ポリヌクレオチド変種は、例えば、特定の宿主のためのコドン発現を最適化するため(ヒトmRNA内のコドンを、大腸菌などの細菌宿主により好ましいコドンに変更する)など、様々な理由で作製され得る。本文において説明されたポリヌクレオチドを含むベクター及び細胞も、提供される。
一部の態様において、HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片をコードしているDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成装置を使用する、化学合成により構築することができる。そのようなオリゴヌクレオチドは、所望のポリペプチドのアミノ酸配列を基にデザインし、且つ関心対象の組換えポリペプチドが生成される宿主細胞において好ましいそれらのコドンを選択することができる。標準方法は、関心対象の単離されたポリペプチドをコードしている単離されたポリヌクレオチド配列の合成に適用することができる。例えば、完全アミノ酸配列を使用し、逆翻訳された遺伝子を構築することができる。更に、特定の単離されたポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含むDNAオリゴマーを合成することができる。例えば、所望のポリペプチドの一部をコードしているいくつかの小型オリゴヌクレオチドを合成し、その後連結することができる。個別のオリゴヌクレオチドは典型的には、相補的集成体のための5'又は3'オーバーハングを含む。
一旦集成されると(合成、部位特異的変異誘発又は他の方法により)、関心対象の特定の単離されたポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列は、発現ベクターへ挿入され、且つ望ましい宿主におけるタンパク質の発現に適した発現制御配列に機能的に連結される。適切な集成体は、ヌクレオチド配列決定、制限地図作製、及び好適な宿主における生物学的活性のあるポリペプチドの発現により確認することができる。当該技術分野において周知であるように、宿主においてトランスフェクトされた遺伝子の高い発現レベルを得るために、この遺伝子は、選択された発現宿主において機能性である転写及び翻訳の発現制御配列に機能的に連結されなければならない。
いくつかの態様において、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片をコードしているDNAを増幅及び発現するために、組換え発現ベクターが使用される。組換え発現ベクターは、哺乳動物、微生物、ウイルス又は昆虫の遺伝子から誘導された好適な転写又は翻訳の調節エレメントに機能的に連結された、抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片のポリペプチド鎖をコードしている合成の又はcDNA-誘導されたDNA断片を有する、複製可能なDNA構築体である。転写ユニットは一般に、以下に詳細に説明するように、(1)遺伝子発現における調節の役割を有する1つ又は複数の遺伝的エレメント、例えば、転写プロモーター又はエンハンサー、(2)mRNAへ転写され、且つタンパク質に翻訳される、構造配列又はコード配列、並びに(3)好適な転写及び翻訳の開始配列及び終結配列:の集成体を含む。そのような調節エレメントは、転写を制御するためのオペレーター配列を含むことができる。宿主において複製する能力は、通常複製起点によりもたらされ、且つ形質転換体の認識を促進する選択遺伝子を追加的に組み込むことができる。DNA領域は、それらが互いに機能的に関連する場合、機能的に連結される。例えば、シグナルペプチドのDNA(分泌リーダー)は、それがポリペプチドの分泌に参加する前駆体として発現される場合、ポリペプチドに関するDNAへ機能的に連結され;プロモーターは、それが該配列の転写を制御する場合には、コード配列に機能的に連結され;又は、リボソーム結合部位は、それが翻訳を可能にするように配置される場合には、コード配列へ機能的に連結される。酵母発現系における使用が意図された構造的エレメントは、宿主細胞による翻訳されたタンパク質の細胞外分泌を可能にするリーダー配列を含む。あるいは、組換えタンパク質がリーダー配列又は輸送配列を伴わずに発現される場合、これは、N-末端メチオニン残基を含むことができる。この残基は任意に、引き続き発現された組換えタンパク質から切断され、最終生成物を提供することができる。
発現制御配列及び発現ベクターの選択は、宿主の選択により左右されるであろう。多種多様な発現宿主/ベクターの組合せを、利用することができる。真核生物宿主のための有用な発現ベクターは、例えば、SV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス及びサイトメガロウイルス由来の発現制御配列を含むベクターを含む。細菌宿主のための有用な発現ベクターは、公知の細菌プラスミド、例えばpCR 1、pBR322、pMB9及びそれらの誘導体を含む大腸菌由来のプラスミド、より広い宿主範囲のプラスミド、例えばM13及び繊維状一本鎖DNAファージなどを含む。
HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片の発現に適した宿主細胞は、好適なプロモーターの制御下にある、原核細胞、酵母細胞、昆虫細胞又はより高等は真核細胞を含む。原核細胞は、例えば、大腸菌又は桿菌などのグラム陰性菌又はグラム陽性菌を含む。より高等な真核細胞は、以下に説明するような、哺乳動物起源の樹立された細胞株を含む。無細胞翻訳システムも、利用することができる。細菌、真菌、酵母、及び哺乳動物の細胞宿主と共に使用するための好適なクローニングベクター及び発現ベクターは、Pouwelsらの文献、「クローニングベクター:実験マニュアル(Cloning Vectors: A Laboratory Manual)」、Elsevier社、N.Y., 1985年に記載されており、その関連のある開示は参照により本明細書に組み入れられる。抗体製造を含む、タンパク質製造方法に関する追加情報は、例えば、米国特許公報第2008/0187954号、米国特許第6,413,746号及び第6,660,501号、並びに国際公開公報WO 04009823に認めることができ、これらは各々それらの全体が引用により本明細書中に組み込まれている。
様々な哺乳動物細胞又は昆虫細胞の培養システムも、組換えHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片を発現するために、好都合に利用することができる。哺乳動物細胞における組換えタンパク質は一般に正確に折り畳まれ、適宜修飾され且つ完全に機能性であるので、そのようなタンパク質の発現を行うことができる。好適な哺乳動物宿主細胞株の例は、HEK-293及びHEK-293T、Gluzmanの文献(Cell, 23: 175, 1981)に記載されたサル腎細胞のCOS-7株、並びに例えば、L細胞、C127、3T3、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、NSO、HeLa細胞株及びBHK細胞株を含む他の細胞株が挙げられる。哺乳動物の発現ベクターは、複製起点、発現されるべき遺伝子に連結された好適なプロモーター及びエンハンサーなどの非転写エレメント、並びに他の5'又は3'フランキング非転写配列、並びに必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライシングドナー部位及びアクセプター部位、及び転写終結配列などの5'又は3'非翻訳配列を含むことができる。昆虫細胞において異種タンパク質を生成するためのバキュロウイルスシステムは、Luckow及びSummersの文献、BioTechnology, 6: 47 (1988)により検証されている。
形質転換された宿主により産生されたHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、任意の好適な方法に従い精製することができる。そのような標準の方法は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー及びサイズカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差、又はタンパク質精製に関する任意の他の標準技術によるものを含む。ヘキサヒスチジン、マルトース結合ドメイン、インフルエンザコートタンパク質配列及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼなどのアフィニティタグは、好適なアフィニティカラム上の通過により、容易な精製を可能にするように、タンパク質に結合させることができる。単離されたタンパク質はまた、タンパク質分解、核磁気共鳴及びX線結晶解析などの技術を用い、物理的に特徴付けることができる。
例えば、組換えタンパク質を培養培地へ分泌するシステム由来の上清は最初に、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon社又はMillipore Pellicon社の限外濾過ユニットを使用し、濃縮することができる。濃縮工程の次に、この濃縮物を、好適な精製マトリクスに適用することができる。あるいは、例えば、ペンダントジエチルアミノエチル(DEAE)基を有するマトリクス又は基板などの、陰イオン交換樹脂を使用することができる。これらのマトリクスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロース、又はタンパク質精製において通常使用される他の型であることができる。あるいは、陽イオン交換工程を使用することができる。好適な陽イオン交換体は、スルホプロピル基又はカルボキシメチル基を含む、様々な不溶性のマトリクスを含む。最後に、疎水性RP-HPLC媒体、例えばペンダントメチル基若しくは他の脂肪族基を有するシリカゲルを使用する、1つ以上の逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)工程を使用し、HER3-結合分子を更に精製することができる。また前述の精製工程の一部又は全ては、様々な組合せで、異種組換えタンパク質を提供するためにも使用することができる。
細菌培養において生成された組換えHER3-結合タンパク質、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片は、例えば、細胞ペレットからの最初の抽出、それに続く濃縮、塩析、水性イオン交換又はサイズ排除クロマトグラフィー工程の1つ以上により、単離されることができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、最終精製工程に使用することができる。組換えタンパク質の発現に使用される微生物細胞は、凍結-解凍サイクリング、音波処理、機械的破壊、又は細胞溶解剤の使用を含む、任意の簡便な方法により破壊することができる。
抗体及び他のタンパク質を精製するための当該技術分野において公知の方法はまた、例えば、各々はその全体が引用により本明細書中に組み込まれている、米国特許公報第2008/0312425号、第2008/0177048号、及び第2009/0187005号に説明されたものを含む。
いくつかの態様において、HER3-結合分子は、抗体ではないポリペプチドである。タンパク質標的へ高親和性で結合する非-抗体ポリペプチドを同定し且つ生成する様々な方法は、当該技術分野において公知である。例えば、Skerraの文献、Curr. Opin. Biotechnol., 18: 295-304 (2007)、Hosseらの文献、Protein Science, 15: 14-27 (2006)、Gillらの文献、Curr. Opin. Biotechnol., 17: 653-658 (2006)、Nygrenの文献、FEBS J., 275: 2668-76 (2008)、及びSkerraの文献、FEBS J., 275: 2677-83 (2008)を参照し、それらの各々はその全体が引用により本明細書中に組み込まれている。いくつかの態様において、ファージディスプレイ技術を使用し、HER3-結合ポリペプチドを同定/生成することができる。いくつかの態様において、該ポリペプチドは、プロテインA、リポカリン、フィブロネクチンドメイン、アンキリンコンセンサス反復ドメイン、及びチオレドキシンからなる群から選択される型のタンパク質スキャフォールドを含む。
(VI. 治療用抗-HER3抗体を使用する治療法)
本発明の方法は、HER3発現又はHER3-発現細胞に関連した疾患を有する患者を治療するための、抗-HER3結合分子、例えばそれらの抗原-結合断片、変種、及び誘導体を含む抗体の使用に関する。「HER3-発現細胞」は、HER3を発現している細胞を意味する。細胞におけるHER3発現を検出する方法は、当該技術分野において周知であり、且つ非限定的に、PCR技術、免疫組織化学、フローサイトメトリー、ウェスタンブロット、ELISAなどが挙げられる。
下記の考察は、本発明のHER3-結合分子による様々な疾患及び障害の診断方法及び治療に言及するが、本文に記載の方法はまた、抗-HER3抗体にも、並びに例えばHER3に特異的に結合し且つHER3活性を中和することが可能であるような本発明の抗-HER3抗体の所望の特性を維持しているこれらの抗-HER3抗体の抗原-結合断片、変種、及び誘導体にも適用可能である。一部の態様において、HER3-結合分子は、ヒトADCCを媒介しないヒト抗体又はヒト化抗体であるか、又はADCCを媒介しない公知の抗-HER3抗体から選択されるか、又はADCCを媒介しないよう操作される抗-HER3抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、クローン16モノクローナル抗体である。他の態様において、HER3-結合分子は、クローン16 YTE変異体抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、P2B11モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、1A4モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、2C2モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、2F10モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、3E1モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、血清半減期を延長するように操作されたP2B11モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、血清半減期を延長するように操作された1A4モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、血清半減期を延長するように操作された2C2モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、血清半減期を延長するように操作された2F10モノクローナル抗体である。一部の態様において、HER3-結合分子は、血清半減期を延長するように操作された3E1モノクローナル抗体である。他の態様において、HER3-結合分子は、P2B11 YTE変異体抗体である。他の態様において、HER3-結合分子は、1A4 YTE変異体抗体である。他の態様において、HER3-結合分子は、2C2-YTE変異体抗体である。他の態様において、HER3-結合分子は、2F10 YTE変異体抗体である。他の態様において、HER3-結合分子は、3E1 YTE変異体抗体である。
一態様において、治療は、本発明の抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原結合断片、変種、若しくは誘導体の対象又は患者への適用又は投与、あるいは抗-HER3結合分子の対象又は患者から単離された組織又は細胞株への適用又は投与を含み、ここで該対象又は患者は、疾患、疾患の症状、又は疾患への素因を有する。別の態様において、治療はまた、本発明の抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原結合断片、変種、若しくは誘導体を含有する医薬組成物の、疾患、疾患の症状、又は疾患への素因を有する対象又は患者への適用又は投与、あるいは抗-HER3結合分子を含有する医薬組成物の、対象又は患者から単離された組織又は細胞株への適用又は投与を含むことが意図される。
本発明の抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体は、様々な癌の治療に有用である。一態様において、本発明は、医薬品としての使用のための、特に癌の治療又は予防における使用のための、抗-HER結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体に関する。癌の例としては、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、メラノーマ、膵臓癌、前立腺癌、及び乳癌が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の方法に従い、少なくとも1種の抗-HER3結合分子、例えば本文において別所に規定されたような抗体又はそれらの抗原結合断片、変種、若しくは誘導体は、癌に関する正の治療反応を促進するために使用される。癌治療に関する用語「正の治療反応」とは、これらの抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体の活性に関連した疾患の改善、並びに/又は該疾患に関連した症状の改善をいう。従って、例えば疾患の改善は、完全な反応として特徴付けることができる。「完全な反応」によって、先行する試験結果の正常化により臨床上検出可能な疾患の存在しないことが意図される。あるいは、該疾患の改善は、部分的反応として分類することができる。「正の治療反応」は、本発明の抗-HER3結合分子の投与の結果生じる、癌の進行及び/若しくは期間の低下若しくは阻害、癌の重症度の軽減若しくは改善、及び/又はそれらの1以上の症状の改善を包含している。具体的態様において、そのような用語は、本発明の抗-HER3結合分子の投与後の1、2又は3以上の結果をいう:(1)癌細胞集団の安定化、減少又は排除;(2)癌成長の安定化又は減少;(3)癌形成の障害;(4)原発性、局所性及び/又は転移性癌の根絶、除去、又は制御;(5)死亡率の減少;(6)無疾患の、無再発の、無進行の、及び/又は全般的な生存、期間、又は割合の増加;(7)反応率、反応の永続性、又は反応するか若しくは寛解にある患者数の増加;(8)入院率の減少;(9)入院期間の短縮;(10)癌のサイズが維持されるか又は増加しないか、若しくは10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは4%未満、好ましくは2%未満の増加であること;並びに、(12)寛解にある患者数の増加。
臨床反応は、磁気共鳴画像(MRI)走査、X線造影イメージング、コンピュータ断層撮影(CT)走査、フローサイトメトリー又は蛍光活性化セルソーター(FACS)分析、組織検査、肉眼的病理検査、及び非限定的にELISA、RIA、クロマトグラフィーなどによる検出可能な変化を含む血液化学などのスクリーニング技術を用いて評価することができる。これらの正の治療反応に加え、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体による療法を受けている対象は、該疾患に関連した症状の改善の有益な作用を経験することができる。
抗-HER3結合分子、例えば本発明の抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種若しくは誘導体は、例えば、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、及び乳癌などの癌の治療のために、有用であることがわかっているか、又は使用されてきたか若しくは現在使用されている、任意の薬剤又は薬剤の組合せを含む、公知の癌療法のいずれかと組合せて使用することができる。医薬組合せ製剤又は投薬計画のこの第二の薬剤又は薬剤の組合せは、好ましくは本発明の抗体又はポリペプチドに対し相補的活性を有し、その結果これらは互いに有害な作用を及ぼさない。
抗癌剤は、癌性の成長などの悪性疾患を治療するために使用される薬物を含む。薬物療法は、単独で、又は手術若しくは放射線治療などの他の治療と組合せて使用することができる。いくつかのクラスの薬物を、関与した臓器の性質に応じて、癌治療において使用することができる。例えば、乳癌は、エストロゲンにより通常刺激され、且つこの性ホルモンを失活する薬物により治療することができる。同様に、前立腺癌は、男性性ホルモンであるアンドロゲンを失活する薬物により治療することができる。本発明のある種の方法において使用するための抗癌剤は、とりわけ、抗体(例えば、IGF-1Rに結合する抗体、EGFRに結合する抗体、HER2に結合する抗体、HER3に結合する抗体、又はcMETに結合する抗体)、IGF1Rを標的化する小型分子、EGFRを標的化する小型分子、HER2を標的化する小型分子、代謝拮抗薬、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管標的化薬、キナーゼ阻害薬、タンパク質合成阻害薬、免疫療法薬、ホルモン療法、糖質コルチコイド、アロマターゼ阻害薬、mTOR阻害薬、化学療法薬、プロテインキナーゼB阻害薬、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)阻害薬、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害薬、RLr9、CD289、酵素阻害薬、抗-TRAIL、MEK阻害薬などを含む。
具体的態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、例えば、セツキシマブ(エルビタックス(登録商標)、Imclone社)、パニツムマブ(ベクチビックス(登録商標)、Amgen社)、マツズマブ/EMD72000(Merck Serono社)、MM-151オリゴクローナル(Merrimack社)、ニモツズマブ(TheraCIM、InnGene Kalbiotechy社)、GA201/RG7160(Roche社)、Sym004(Symphogen社)、MEHD-7945A(EGFR/HER3二重特異性、Genentech社)などの、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)を標的化する抗体又は抗体断片と組合せて、投与することができる。別の具体的態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、例えば、ペルツズマブ(rhuMAb、2C4/オムニターグ(登録商標)、Genentech社)、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、Genentech/Roche社)、MM-111(HER2/HER3二特異性抗体、Merrimack社、例えばWO 2009/126920)などの、HER2を標的化する抗体又は抗体断片と組合せて投与することができる。更に別の具体的態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、例えば、MEHD-7945A/RG7597 (EGFR/HER3二重特異性、Genentech社、例えばWO 2010108127)、MM-121(Merrimack社、例えばWO 2008/100624)、MM-111(HER2/HER3二特異性抗体、Merrimack社、例えばWO 2009/126920)、AV-203(Aveo社、例えばWO 2011/136911)、AMG888(Amgen社、WO 2007/077028)、HER3-8(ImmunogGen社、例えばWO 2012/019024)などの、同じくHER3を標的化する抗体又は抗体断片と組合せて投与することができる。更に特異的な態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER4を標的化する抗体又は抗体断片と組合せて投与することができる。具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、EGFR、又はHER2を標的化する抗体(例えばセツキシマブ又はトラスツズマブ)と組合せて投与することができる。更なる具体的な態様において、本発明のHER3-結合分子は、HER2を標的化する抗体薬物コンジュゲート(例えば、トラスツズマブエムタンシン、Genentech/Roche社)と組合せて投与することができる。本発明のHER3-結合分子は、抗体の共-受容体への結合により誘導された共-受容体のインターナリゼーション及び分解を増強し、その結果EGFR、HER2及び/又はHER4を標的化する抗体及び/又は抗体薬物コンジュゲートの有効性を増強することが企図されている。
他の態様において、本発明のHER3-結合分子は、チロシンキナーゼ阻害薬と組合せて投与することができる。一部の他の具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、EGFR及び/又はHER2/neuに関連したチロシンキナーゼ活性の阻害薬、例えばラパチニブと組合せて投与することができる。具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、上皮細胞成長因子受容体(例えば、EGFR、HER2、HER4)の小型分子阻害薬、例えばゲフィチニブ(イレッサ(登録商標)、Astrazeneca社);カネルチニブ/CI-1033(Pfizer社);ラパチニブ(タイカーブ(登録商標)、GlaxoSmithKline社)、エルロチニブ(タルセバ(登録商標)、OSI Pharma社)、アファチニブ(Tovok(登録商標)/Tomtovok(登録商標)、Boehringer Ingelheim社)、ネラチニブ(HKI-272、Pfizer社)などと組合せて投与することができる。
一部の態様において、本発明のHER3-結合分子は、有糸分裂阻害薬と組合せて投与することができる。一部の具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、例えば、パクリタキセル又はドセタキセルなどの、紡錘体微小管集成体を安定化する薬剤と組合せて投与することができる。
一部の態様において、本発明のHER3-結合分子は、MEK(マイトジェン-活性化プロテインキナーゼ(MAPK)キナーゼ、MAPKKとしても公知)阻害薬、例えば、セルメチニブ(AZD6244、ARRY-142866、AstraZeneca社)、WX-554(Wilex社)、トラメチニブ(GlaxoSmithKline社)、レファメチニブ(Ardea Biosciences社)、E-6201(Eisai社)、MEK-162(Novartis社)などと組合せて投与することができる。特定の態様において、MEK阻害薬と本発明のHER3-結合分子の組合せは、いずれかの薬剤の単独よりもより効果がある。具体的態様において、本発明のHER3-結合分子は、セルメチニブと組合せて投与することができる。
併用療法が、別の治療薬の投与と組合せた抗-HER3結合分子の投与を含む場合、本発明の方法は、個別の製剤又は単独の医薬製剤を使用する共投与、並びにいずれかの順番の連続投与を包含している。一部の態様において、本文において説明された抗-HER3抗体は、他の薬物と組合せて投与することができ、ここで該抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体と治療薬は、いずれかの順番で逐次的に、又は同時に(すなわち、同じ時に又は同じ時間枠内で)投与することができる。
前記併用療法は、「相乗作用」を提供し、且つ「相乗性」、すなわち活性成分が一緒に使用される場合に達成される作用は、それらの化合物が個別に使用された結果生じる作用の合計よりもより大きいことを立証する。活性成分が:(1)同時-製剤され、且つ組合せ単位剤形において同時に投与されるか又は送達されるか;(2)個別の製剤として交互に又は平行して送達されるか;あるいは、(3)いくつかの他の投薬計画による場合:に、相乗作用を達成することができる。交互療法(alternation therapy)で送達される場合、それらの化合物が、逐次的に、例えば個別の注射器で異なる注射により投与されるか又は送達される場合に、相乗作用を達成することができる。概して、交互療法時には、各活性成分の有効量が、逐次的に、すなわち連続して投与されるのに対し、併用療法においては、2種以上の活性成分の有効量は、一緒に投与される。
一部の態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)阻害薬と、相乗的組合せで投与することができる。一部の態様において、EGFR阻害薬は、抗体である。具体的態様において、EGFR阻害薬である抗体は、エルビタックス(登録商標)(セツキシマブ)又はパニツムマブ(ベクチビックス(登録商標))である。具体的態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、EGFR及び/又はHER2/neuに関連したチロシンキナーゼ活性の阻害薬、例えばラパチニブとの、相乗的組合せで投与することができる。一部の態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、HER2阻害薬との、相乗的組合せで投与することができる。一部の態様において、HER2阻害薬は、抗体である。具体的態様において、HER2阻害薬である抗体は、ペルツズマブ(rhuMAb 2C4/オムニターグ(登録商標)、Genentech社)、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、Genentech/Roche社)又はトラスツズマブエムタンシン(Genentech/Roche社)である。具体的態様において、本発明のHER3-結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片は、HER2/neuに関連したチロシンキナーゼ活性の阻害薬、例えばラパチニブとの、相乗的組合せで投与することができる。一部の態様において、本発明のHER3-結合分子は、有糸分裂阻害薬との、相乗的組合せで投与することができる。一部の具体的態様において、有糸分裂阻害薬は、紡錘体微小管集成体を安定化する。一部の具体的態様において、有糸分裂阻害薬は、パクリタキセル又はドセタキセルである。一部の具体的実施態様において、2C2抗体は、成長因子受容体(EGFR)阻害薬との、相乗的組合せで投与することができる。一部の具体的実施態様において、EGFR阻害薬は、抗体である。具体的実施態様において、2C2抗体と相乗的に投与されるEGFR阻害薬である抗体は、エルビタックス(登録商標)(セツキシマブ)である。具体的実施態様において、2C2抗体は、EGFR及び/又はHER2/neuに関連したチロシンキナーゼ活性の阻害薬、例えばラパチニブとの、相乗的組合せで投与することができる。一部の実施態様において、2C2抗体は、有糸分裂阻害薬との相乗的組合せで投与することができる。一部の具体的実施態様において、2C2抗体と相乗的に投与される有糸分裂阻害薬は、紡錘体微小管集成体を安定化する。一部の具体的実施態様において、2C2抗体と相乗的に投与される有糸分裂阻害薬は、パクリタキセルである。
一態様において、前述の癌は、KRAS変異を含む。具体的態様において、KRAS変異は、ヒトKRAS遺伝子のコドン12に位置している。実施例のセクションで明らかにされたように、本文において明らかにされた抗-HER3抗体は、単独の薬剤(単剤療法)として又は別の治療薬と組合せてのいずれかで使用された場合に、KRAS変異を含む腫瘍細胞の成長を阻害することが可能である。
更なる態様は、例えば所与の治療計画の有効性を決定するための、臨床試験手順の一部としての、組織内のタンパク質レベルの診断的モニタリングのための、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体の使用である。例えば、検出は、該抗体の検出可能な物質へのカップリングにより、促進することができる。検出可能な物質の例は、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、化学発光物質、生物発光物質、及び放射性物質を含む。好適な酵素の例は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼを含み;好適な補欠分子族の例は、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを含み;好適な蛍光物質の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリトリンを含み;化学発光物質の例は、ルミノールを含み;生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンを含み;並びに、好適な放射性物質の例は、125I、131I、35S、又は3Hを含む。
(VII. 医薬組成物及び投与方法)
本発明の抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体を調製し且つそれらを必要とする対象へ投与する方法は、当業者に周知であるか、又は当業者により容易に決定される。抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体の投与経路は、例えば、経口、非経口、吸入又は外用であることができる。本文において使用される用語非経口は、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経直腸、又は経膣投与を含む。しかし本文の内容と適合する他の方法において、本発明の抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体は、有害な細胞集団の部位へ直接送達され、これにより罹患組織の治療薬への曝露を増加することができる。
本文において考察したように、本発明の抗-HER3結合分子、例えば抗体、又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体は、ある種の癌型などの、HER3-発現している細胞媒介性疾患のインビボ治療のために、医薬有効量で投与することができる。
本発明において使用される医薬組成物は、例えば、水、イオン交換体、タンパク質、緩衝物質、及び塩を含む、医薬として許容し得る担体を含有することができる。保存剤及び他の添加剤も、存在することができる。担体は、溶媒又は分散媒であることができる。本文において明らかにされた治療的方法において使用するのに適した製剤は、「レミントンの薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」(Mack Publishing社)、第16版(1980年)に説明されている。一部の態様において、本発明のHER3-結合分子は、冷蔵庫(2〜8℃)で安定した組成物内で製剤される。特定の態様において、冷蔵庫で安定した組成物は、pH6.0で、25mMヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩、205mMショ糖、0.02%ポリソルベート80を含有する。別の特定の態様において、本発明のHER3-結合分子は、冷蔵庫で安定した組成物中に25〜100mg/mlで製剤される。
いずれかの場合において、無菌の注射用液剤を、活性化合物(例えばそれ自身若しくは他の活性薬剤との組合せた、抗-HER3抗体、又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体)を必要量好適な溶媒中に混入し、引き続き濾過滅菌することにより、調製することができる。更に、この調製品は、包装し、キットの形状で販売することができる。そのような製品は、関連する組成物が、疾患又は障害に罹患したか又はその素因のある対象の治療に有用であることを表示するラベル又は添付文書を有することができる。
非経口製剤は、単回ボーラス投与量、輸注若しくは負荷ボーラス投与量、それに続く維持量であることができる。これらの組成物は、特定の固定された間隔又は変動する間隔で、例えば1日1回で、又は「必要に応じて」を基本に、投与することができる。
本組成物は、単回投与量、反復投与量又は確立された期間にわたる輸注として、投与することができる。投薬計画はまた、最適な望ましい反応(例えば、治療反応又は予防反応)を提供するように、調節することができる。
例えば、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、メラノーマ、膵臓癌、前立腺癌、及び乳癌を含むある種の癌型などの、HER3-発現している細胞媒介性疾患の治療のための、本発明の組成物の治療的有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトか動物であるかどうか、投与される他の薬物治療、及び治療が予防的又は治療的のいずれであるかを含む、多くの異なる因子に応じて変動する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物も治療することができる。治療用量は、安全性及び有効性を最適化するために、当業者に公知の慣習的方法を用いて、用量設定することができる。
投与されるべき抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの結合断片、変種、若しくは誘導体の少なくとも1種の量は、本発明の開示をもたらす過度の実験を伴わずに、当業者により、容易に決定される。抗-HER3結合分子、例えば抗体、それらの抗原-結合断片、変種又は誘導体の少なくとも1種の投与の様式及びそれぞれの量に影響を及ぼす要因は、疾患の重症度、病歴、並びに年齢、身長、体重、健康、及び個人が受ける療法の物理的条件を含むが、これらに限定されるものではない。同様に、投与されるべき抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの断片、変種、若しくは誘導体の量は、投与様式、並びに対象がこの薬剤の単回投与量又は反復投与量を受けるかどうかによって決まるであろう。
本発明はまた、例えば、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、メラノーマ、膵臓癌、前立腺癌、及び乳癌を含む、癌型の治療のための医薬品の製造における、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体の使用も提供する。
本発明はまた、癌型の治療のための対象の治療用の医薬品の製造における、抗-HER3結合分子、例えば本発明の抗体、又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体の使用も提供する。いくつかの態様において、この医薬品は、少なくとも1種の他の療法により予備治療された対象において使用される。「予備治療された」又は「予備治療」とは、対象が、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体を含有する医薬品を受け取る前に、1種以上の他の療法を受け取っている(例えば、少なくとも1種の他の抗-癌療法で治療されている)ことを意図している。対象が、1種又は複数の先行する療法による予備治療に対し反応者であったことは必須ではない。従って、抗-HER3結合分子、例えば抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体を含有する医薬品を受け取る対象は、先行する療法による予備治療に対し、又は予備治療が複数の療法を含む場合は1種以上の先行する療法に対し反応したか、又は反応に失敗していてよい。
本発明はまた、抗-HER3結合分子、例えば本発明の抗体、又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体と、少なくとも1種の他の療法との共投与も提供する。抗-HER3抗体と少なくとも1種の他の療法は、単独の組成物内で一緒に共投与されることができるか、又は個別の組成物中同じ時点若しくは重複する時点で一緒に共投与することができる。
本発明はまた、癌を治療するための対象の治療用の医薬品の製造における、抗-HER3結合分子、例えば本発明の抗体、又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくは誘導体の使用も提供し、ここで該抗-HER3結合分子は、対象が少なくとも1種の他の療法により治療される前に投与される。
(VIII. 診断)
本発明は更に、個体由来の組織又は他の細胞又は体液中のHER3タンパク質又は転写産物の発現レベルを測定すること、及び測定された発現レベルを正常な組織又は体液中の標準HER3発現レベルと比較し、これにより標準と比較した発現レベルの増加が、障害の指標であることが関与している、例えば、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、メラノーマ、膵臓癌、前立腺癌、及び乳癌を含む、ある種の癌型などの、HER3-発現している細胞媒介性疾患の診断時に有用な診断方法を提供する。
本発明の抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片、変種、及び誘導体を使って、当業者に公知の古典的免疫組織学的方法を使用し、生物学的試料中のHER3タンパク質レベルをアッセイすることができる(例えば、Jalkanenらの文献、J. Cell. Biol. 101: 976-985 (1985);Jalkanenらの文献、J. Cell Biol. 105: 3087-3096 (1987)参照)。HER3タンパク質発現を検出するのに有用な他の抗体-ベースの方法は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫沈降、又はウェスタンブロットなどの、イムノアッセイを含む。好適なアッセイは、本文の別所により詳細に説明されている。
「HER3ポリペプチドの発現レベルをアッセイする」とは、直接的(例えば、絶対タンパク質レベルの決定又は概算による)又は相対的(例えば、第二の生物学的試料中の疾患に関連したポリペプチドレベルとの比較による)のいずれかの、第一の生物学的試料中のHER3ポリペプチドのレベルの定性的又は定量的測定又は概算が意図されている。第一の生物学的試料中のHER3ポリペプチド発現レベルを、測定又は概算し、且つ標準HER3ポリペプチドレベルと比較することができ、この標準は、該障害を有さない個体から得られた第二の生物学的試料から入手されるか、又は該障害を有さない個体の集団からのレベルを平均化することにより決定される。当該技術分野において理解されるように、一旦「標準」HER3ポリペプチドレベルがわかったら、これは、比較のための標準として繰り返し使用することができる。
本発明は更に、個体由来の組織又は他の細胞又は体液中のHER3タンパク質の活性レベルを測定すること、及び測定された活性レベルを正常な組織又は体液中の標準HER3活性レベルと比較し、これにより標準と比較した活性レベルの増加が、障害の指標であることが関与している、例えば、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、メラノーマ、膵臓癌、前立腺癌、及び乳癌を含む、ある種の癌型などの、HER3-発現している細胞媒介性疾患の診断時に有用な診断方法を提供する。
本発明は更に、HER3-発現している細胞-媒介性疾患の治療時の個体由来の組織又は他の細胞又は体液中のHER3タンパク質の活性レベルを測定すること、及び測定された活性レベルを正常な組織又は体液中の標準HER3活性レベルと比較するか、及び/又は測定された活性レベルを治療前の個体から得られた組織又は体液中の標準HER3活性レベルと比較し、これにより標準と比較した活性レベルの減少が、HER3活性の阻害の指標であることが関与している、例えば、結腸癌、肺癌、胃癌、頭頸部の扁平細胞癌、メラノーマ、膵臓癌、前立腺癌、及び乳癌を含む、ある種の癌型などの、HER3-発現している細胞媒介性疾患の治療時に有用な診断方法を提供する。
「HER3タンパク質の活性レベルをアッセイする」とは、直接的(例えば、絶対活性レベルの決定又は概算による)又は相対的(例えば、第二の生物学的試料中の活性レベルとの比較による)のいずれかの、第一の生物学的試料中のHER3タンパク質の活性の定性的又は定量的測定又は概算が意図されている。第一の生物学的試料中のHER3タンパク質活性レベルを、測定又は概算し、且つ標準HER3タンパク質活性と比較することができ、この標準は、該障害を有さない個体から得られた第二の生物学的試料から入手されるか、又は該障害を有さない個体の集団から若しくは治療前の個体からのレベルを平均化することにより決定される。当該技術分野において理解されるように、一旦「標準」HER3タンパク質活性レベルがわかったら、これは、比較のための標準として繰り返し使用することができる。いくつかの態様において、生物学的試料中のHER3の活性レベルは、生物学的試料中のリン酸化されたHER3を検出することにより、測定又は概算又は比較される。具体的態様において、生物学的試料中のHER3の活性レベルは、皮膚生検標本(biopsy)中のリン酸化されたHER3を検出することにより、測定又は概算又は比較され、ここで該皮膚は生検の前又は後にHRGにより刺激される。
「生物学的試料」とは、HER3を発現する可能性のある、個体、細胞株、組織培養物、又は他の細胞給源から得られた任意の生物学的試料を意図している。哺乳動物から組織生検標本及び体液を得る方法は、当該技術分野において周知である。
一部の態様において、対象へ投与されるHER3阻害剤(例えば、本発明の抗-HER3抗体及びそれらの抗原-結合断片、変種及び誘導体)の生体活性は、エクスビボアッセイを用い、検出することができる。特定の態様において、このエクスビボアッセイは、皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルを検出することを含み、ここで該皮膚は生検の前又は後にHRGにより刺激される。具体的態様において、対合された皮膚生検標本は、HER3阻害剤を投与された対象から入手される。具体的態様において、HRGが、皮膚の第一の領域の下に注射され、且つ対照緩衝液が、HER3阻害剤が投与された対象の皮膚の第二領域の下に注射され、ここで望ましい時間(例えば10〜60分間)経過後、生検標本が皮膚の第一及び第二の領域から採取される。代替の態様において、第一の皮膚生検標本は、HRGにより処理され、且つ第二の皮膚生検標本は、対照緩衝液により処理され、ここで第一及び第二の生検標本は、HER3阻害剤を投与された対象から採取された皮膚生検標本と対合されている。別の具体的態様において、リン酸化されたHER3のレベルが、皮膚生検標本において検出される。いくつかの態様において、第一生検標本(HRG処理された)と第二生検標本(対照緩衝液処理された)の間のリン酸化されたHER3レベルの差異が決定される。いくつかの態様において、皮膚生検標本は、ホモジナイズされ、且つリン酸化されたHER3のレベルが、ELISAにより決定される。更に他の態様において、HER3阻害剤が投与された対象由来の皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルは、HER3阻害剤が投与されていない対照対象由来の皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルと比較され、ここでHER3阻害剤を投与された対象の皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルの低下は、HER3阻害剤の生体活性を測るものである。代替の態様において、HER3阻害剤が投与された対象由来の皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルは、HER3阻害剤の投与前に採取された同じ対象由来の皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルと比較され、ここでHER3阻害剤を投与後の対象の皮膚生検標本中のリン酸化されたHER3のレベルの低下は、HER3阻害剤の生体活性を測るものである。本方法の他の具体的態様は、実施例のセクション5.15に詳述されている。
(IX. HER3-結合分子を備えるキット)
本発明は、本文において説明したHER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片を備え、且つ本文において説明した方法を実行するために使用することができる、キットを提供する。いくつかの態様において、キットは、1個以上の容器内に少なくとも1種の精製された抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片を備える。一部の態様において、キットは、アッセイを実行するための全ての制御、指示、並びに結果の解析及び提示に必要なソフトウェアを含む、検出アッセイを実行するのに必要及び/又は十分な成分の全てを含んでいる。当業者は、開示されたHER3-結合分子、例えば本発明の抗-HER3抗体又はそれらの抗原結合断片は、当該技術分野において周知の確立されたキットフォーマットの一つに容易に取り込むことができることを、容易に認めるであろう。
(X. イムノアッセイ)
抗-HER3結合分子、例えば本発明の抗体又はそれらの抗原-結合断片、本発明の分子の変種、又はそれらの誘導体は、当該技術分野において公知のいずれかの方法により、免疫特異的結合についてアッセイすることができる。使用することができるイムノアッセイは、いくつか名前を挙げると、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線検定法、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの技術を使用する、競合的及び非競合的アッセイシステムを含むが、これらに限定されるものではない。そのようなアッセイは、慣習的であり且つ当該技術分野において周知である(例えば、Ausubelら編集の文献、(1994)「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」(John Wiley & Sons社、NY)、第1巻を参照し、これはその全体が引用により本明細書中に組み込まれている)。
HER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片、本発明の分子の変種、若しくはそれらの誘導体は、HER3受容体又は保存された変種又はそれらのペプチド断片のインサイチュ検出のために、免疫蛍光測定、免疫電子顕微鏡、又は非免疫学的アッセイにおいてのように、組織学的に利用することができる。インサイチュ検出は、患者からの組織標本を摘出し、且つそれに標識されたHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、又はそれらの誘導体を適用することにより、好ましくは生物学的試料上に標識されたHER3-結合分子(例えば、及び抗体又は断片)を重ねることにより適用し、達成することができる。そのような手順の使用により、HER3、又は保存された変種若しくはペプチド断片の存在のみではなく、試験された組織中のその分布も決定することが可能である。本発明を使用し、当業者は、多種多様な組織学的方法(染色手順など)のいずれかを、そのようなインサイチュ検出を達成するために改変することができることを容易に理解するであろう。
所与のロットのHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくはそれらの誘導体の結合活性は、周知の方法に従い決定することができる。当業者は、慣習的実験を使用することにより各々の決定に関する機能的且つ最適のアッセイ条件を決定することができるであろう。
単離されたHER3-結合分子、例えば抗-HER3抗体又はそれらの抗原-結合断片、変種、若しくはそれらの改変された/変異された誘導体の結合の特徴を決定するのに適した方法及び試薬は、当該技術分野において公知であり、並びに/又は商業的に入手可能である。そのような動態解析のためにデザインされた機器及びソフトウェアは、商業的に入手可能である(例えば、BIAcore社、BIAevaluation software社、GE Healthcare社;KinExa Software社、Sapidyne Instruments社)。
本発明の実践は、別に指摘しない限りは、当該技術分野の技術の範囲内である、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学の常用の技術を利用するであろう。そのような技術は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrookら編集の文献、(1989)、「分子クローニング実験マニュアル(Molecular Cloning A Laboratory Manual)」(第2版;Cold Spring Harbor Laboratory Press社);Sambrookら編集の文献、(1992)、「分子クローニング:実験マニュアル」(Cold Springs Harbor Laboratory、NY);D. N. Glover編集の文献、(1985)、「DNAクローニング(DNA Cloning)」第I及びII巻;Gait編集の文献、(1984)、「オリゴヌクレオチド合成(Olygonucleotide Synthesis)」;Mullisらの米国特許第4,683,195号;Hames及びHiggins編集の文献、(1984)、「核酸ハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」;Hames及びHiggins編集の文献、(1984)、「転写及び翻訳(Transcription And Translation)」;Freshneyの文献、(1987)、「動物細胞培養(Culture Of Animal Cells)」(Alan R. Liss社);「固定化された細胞及び酵素(Immobilized Cells And Enzymes)」(IRL Press社)(1986);Perbalの文献、(1984)、「分子クローニングの実践指針(A Practical Guide To Molecular Cloning)」;学術論文「酵素学の方法(Methods In Enzymology)」、(Academic Press社、N.Y.);Miller及びCalos編集の文献、(1987)、「哺乳動物細胞への遺伝子導入ベクター(Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells)」、(Cold Spring Harbor Laboratory);Wuら編集の文献、「酵素学の方法(Methods In Enzymology)」、第154及び155巻;Mayer及びWalker編集の文献、(1987)、「細胞及び分子生物学の免疫化学的方法(Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology)」、(Academic Press社、ロンドン);Weir及びBlackwell編集の文献、(1986)、「実験免疫学ハンドブック(Handbook Of Experimental Immunology)」、第I-IV巻;「マウス胚の操作(Manipulating the Mouse Embryo)」、Cold Spring Harbor Laboratory Press社、コールドスプリングハーバー、NY、(1986);並びに、Ausubelらの文献、(1989)、「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、(John Wiley and Sons社、ボルチモア、Md.)を参照されたい。
抗体操作の一般原理は、Borrebaeck編集の文献、(1995)、「抗体操作(Antibody Engineering)」、(第2版;Oxford Univ. Press社)に明記されている。タンパク質操作の一般原理は、Rickwoodら編集の文献、(1995)、「タンパク質操作・実践手法(Protein Engineering, A Practical Approach)」、(Oxford Univ. Press社IRL Press、オックスフォード、英国)に明記されている。抗体と抗体-ハプテン結合の一般原理は、Nisonoffの文献、(1984)、「分子免疫学(Molecular Immunology)」、(第2版;Sinauer Associates社、サンダーランド、Mass.);及び、Stewardの文献、(1984)、「抗体、それらの構造と機能(Antibody, Their Structure and Function)」、(Chapman and Hall社、ニューヨーク、NY)に明記されている。加えて、当該技術分野において公知であるが詳細に説明されていない免疫学の標準方法は一般に、「免疫学最新プロトコール(Current Protocols in Immunology)」、John Wiley & Sons社、ニューヨーク;Stitesら編集の文献、(1994)、「基礎及び臨床免疫学(Basic and Clinical Immunology)」、(第8版;Appleton & Lange社、ニューアーク、Conn.)、並びにMishell及びShiigiの文献(編集)、(1980)、「細胞免疫学において選択された方法(Selected Methods in Cellular Immunology)」、(W.H. Freeman社、NY)に従う。
免疫学の一般原理を説明する標準の参照研究は、「免疫学最新プロトコール」、John Wiley & Sons社、ニューヨーク;Kleinの文献、(1982)、「免疫学ジャーナル:自己-非自己識別の科学(J., Immunology: The Science of Self-Nonself Discrimination)」、(John Wiley & Sons社、NY);Kennettら編集の文献、(1980)、「モノクローナル抗体、ハイブリドーマ:生物学的分析の新たな局面(Monoclonal Antibodies, Hybridoma: A New Dimension in Biological Analyses)」、(Plenum Press社、NY);Campbellの文献、(1984)。「モノクローナル抗体技術(Monoclonal Antibody Technology)」、「生化学及び分子生物学の実験技術(Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology)」、Burdenら編集の文献、(Elsevere社、アムステルダム);Goldsbyら編集の文献、(2000)、「Kuby免疫学(Kuby Immunnology)」、(第4版;H. Freemand社);Roittらの文献、(2001)、「免疫学(Immunology)」、(第6版;ロンドン:Mosby);Abbasらの文献、(2005)、「細胞及び分子免疫学(Cellular and Molecular Immunology)」、(第5版;Elsevier Health Sciences Division社);Kontermann及びDubelの文献、(2001)、「抗体操作(Antibody Engineering)」、(Springer Verlan社);Sambrook及びRussellの文献、(2001)、「分子クローニング:実験マニュアル」、(Cold Spring Harbor Press社);Lewinの文献、(2003)、「遺伝子VIII(Genes VIII)」、(Prentice Hall社、2003);Harlow及びLaneの文献、(1988)、「抗体:実験マニュアル」、(Cold Spring Harbor Press社);Dieffenbach及びDvekslerの文献、(2003)、「PCRプライマー」、(Cold Spring Harbor Press社)を含む。
先に引用した参考文献の全てに加え、本文に引用された全ての参考文献は、それらの全体が引用により本明細書中に組み込まれている。
以下の実施例は、例証のために提供されており、限定のためではない。
(実施例)
本開示の態様は、本開示のある抗体の詳細な調製及び本開示の抗体の使用方法を説明している以下の非限定的実施例を参照し、更に規定することができる。材料及び方法の両方への多くの変更を、本開示の範囲から逸脱しない限りは、実践することができることは、当業者には明らかであろう。
(実施例1. 抗-HER3モノクローナル抗体の単離/最適化の方法)
(1.1. 抗原及び細胞株)
組換えヒトHer1(ECD)/Fcキメラ、ヒトHER2(ECD)/Fcキメラ、ヒトHER3(ECD)/Fcキメラ及びヒトHer4(ECD)/Fcは全て、R&D Systems社(ミネアポリス、MN)から購入し、且つリンカーペプチドを介して、C-末端6Xヒスチジン-タグに融合した。組換えマウスHER3(ECD)/Fcキメラは、ウマにおいて作製した。ヒトKPL-4乳癌細胞は、5%ウシ胎仔血清(FBS)を補充したDMEMにおいて培養した。
(1.2. HER3結合体のライブラリー選択−クローン16抗体(CL16)の同定)
非標識且つビオチン化されたHER3(ECD)/Fcを、DyaxのFab 310ヒトFabファージディスプレイライブラリー(Dyax社、ケンブリッジ、MA)からのHER3結合体(binder)選択の標的として使用した。パニングの2つのアームを実行した:捕獲パニング及び溶液内パニング。捕獲パニングに関して、投入ファージを最初に、固定された組換えタンパク質A/Gを介してイムノチューブ上に捕獲されたポリクローナルヒトIgGと共にインキュベーションし、その後固定された組換えタンパク質A/Gを介してイムノチューブ上に捕獲された標識されない標的により選択した。
溶液内パニングにおいては、投入ファージを、ポリクローナルヒトIgG、除外のためのクエンチされたビオチンを伴うストレプトアビジン-コーティングされた磁気ビーズと共にインキュベーションさせ、その後ビオチン化された標的により選択し、引き続きストレプトアビジン-コーティングされた磁気ビーズと共にインキュベーションし、標的に結合したファージを捕獲した。TPBS(1×PBS/0.1% Tween-20)による十分な洗浄により結合していないファージを除去した後、結合したファージを、100mM TEA(トリエチルアミン)により溶出した。溶液内パニングから溶出されたファージ及びビーズ上に残存するファージを引き続き増幅させ、且つ更なる選択ラウンドに供した。各選択アームについて、3回の選択ラウンドを実行した。
陽性結合ファージの割合(%)は、捕獲パニングを用いる1%未満から、溶液内パニングの3ラウンドを用いる最大68%までの範囲であった(表3)。
表3:HER3結合体のスクリーニング
(1.3. ファージELISAによるヒト及びマウスHER3結合体のスクリーニング)
選択の第2及び第3ラウンドから濃縮されたファージを、ヒト及びマウスHER3結合に関してファージELISAによりスクリーニングした。96-ウェルハーフエリアプレートを、1×PBS(pH7.4)中に希釈した異なる抗原の1ウェルにつき50μlの5μg/mlにより、4℃で一晩コーティングした。これらのコーティングされたプレートを、TPBS中3%(w/v)無脂肪ミルクにより、室温で1時間ブロックし、TPBSにより2回洗浄した。次にプレートを、一晩のファージ上清と一緒に、1時間インキュベーションした。TPBSで10回洗浄した後、プレートを、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲートされた抗-M13抗体と一緒に1時間インキュベーションし、10回洗浄した。プレートを、テトラメチルベンジジン(TMB)ペルオキシダーゼ基質溶液により呈色させ、この反応を、0.18M H2SO4により停止させ、プレートを、ELISAプレートリーダー上で450nmで読み取った。
マウスのHER3(HER3-Fc融合体として)と交差反応した29種の独自の陽性結合体が、同定された。これらの同定された結合体はいずれも、HER2又はHer4とは交差反応性を示さなかった(データは示さず)。
(1.4. Fabの全IgG抗体への再編成及び発現)
陽性ファージクローン由来の免疫グロブリン可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)を、PCRにより作製し、且つラムダ軽鎖定常領域及びCH1-ヒンジ-CH2-CH3 IgG1領域を含むヒトIgG1発現ベクターへ挿入した。IgG1抗体を発現するために、ヒト胎児腎293-F細胞を、293fectin(商標)試薬(Invitrogen社、カールスバッド、CA)を使用し、再編成されたIgG ベクターにより、一過性にトランスフェクトした。馴化培地を、トランスフェクション後10日目に収穫し、プールし、且つ滅菌濾過した。IgG1を、プロテインAビーズを用いて精製した。最後に溶出したIgG1を、PBSに対して透析し、且つIgG1濃度を、タンパク質定量アッセイにより決定した。
クローン16(CL16;配列番号:1及び2、各々、VL及びVHアミノ酸配列)は、ヒトIgG1に再編成した。
(1.5. 免疫蛍光測定によるクローン16抗体(CL16)のインターナリゼーションの決定)
ヒト乳癌KPL-4細胞を、クローン16抗体(CL16)により標識した。これらの細胞のCL16と一緒のインキュベーションは、HER3エンドサイトーシスの増加につながり、このことは、該受容体が細胞表面でHER2と活性シグナル複合体を形成するのを防いだ。
CL16抗体に結合した細胞表面は、ゼロ時点(インターナリゼーションされず)又は2.5時間(インターナリゼーションされた)のいずれかの、成長条件下での該細胞のインキュベーションにより、インターナリゼーションを可能にした(図1)。次に全ての細胞を、3.7%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、PBS中の0.5%Triton X-100により透過性亢進し、1μg/ml Alexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗-ヒトIgG(Invitrogen社)により染色し、その後退色防止(antifade)マウント培地を添加し、且つ蛍光顕微鏡試験した。CL16抗体は、KPL-4細胞においてインターナリゼーションすることが認められた。ゼロ時点で、KPL-4細胞は、強い細胞表面染色を示し(図1、0時間、上側パネル)、成長条件下で2.5時間インキュベーションした後、この細胞表面染色は減少し、且つインターナリゼーションの指標である細胞内の点状染色に置き換わった(図1、2.5時間、下側パネル)。
(1.6. クローン16 Fabを発現するファージベクターの構築)
抗体クローン16の抗原結合断片(Fab)をコードしているDNAを、Dall’Acquaらにより先に説明された改変されたM13-ベースのファージ発現ベクター(Dall’Acquaらの文献、2005, Methods. 36: 43-60)にクローニングした。この改変されたベクターにおいて、ヒトラムダ(λ)定常領域DNAを、ヒトカッパ(κ)軽鎖の代わりに操作した。Fab断片の発現は、LacZプロモーターの制御下にあり、且つ該Fab断片の分泌は、Fab断片のVH鎖及びVL鎖のいずれかのN-末端に融合されたファージP3シグナル配列により可能である。このクローニングは、Kunkelの文献(Kunkel, T. A.、1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA; 82: 488-492)、及びWuの文献(Wu, H.、2003, Methods Mol. Biol. 207: 197-212)に記載されたように、ハイブリダイゼーション変異誘発により実行した。
簡単に述べると、クローン16 IgGの可変領域を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。ハイブリダイゼーション、それに続くDNA重合反応により、各々、該クローン16可変軽鎖領域はヒトラムダ定常領域とインフレームで組み込まれ、且つ可変重鎖領域は、ヒト重鎖定常領域1(CH1)とインフレームでクローニングされた。その後クローン16 Fab断片を含むファージベクターを、Wu及びAnの文献に記載されたように、大腸菌CJ236株において成長させ、ウリジン(U)含有一本鎖DNA(ssDNA)を作製する(Wu, H.及びAn, LL.の文献、2003, Methods Mol. Biol. 207: 213-33)。このウリジン含有ssDNAを鋳型として使用し、HER3への結合親和性を改善するようにデザインされた変異を導入した。
(1.7. クローン16(CL16)の生殖系列化)
配列解析は、クローン16(CL16)のVHフレームワークは、VH生殖系列遺伝子3-23と100%の配列同一性を共有するのに対し、VLフレームワークは、その最も近い生殖系列遺伝子である47*01と6つの位置で異なることを示している。生殖系列遺伝子47*01とは異なるアミノ酸の各々及び全てを変更するための位置指定変異誘発を行った。具体的には、6つの点変異を、下記のように軽鎖可変領域に導入し:Y2S、E3V、S18R、M21I、H38Q及びS50Y、ここで最初の文字は、オリジナルクローン16の1文字アミノ酸コードを表し、数字は、フレームワークの残基番号(Kabatに従う)を表し、且つ2番目の文字は、生殖系列配列の1文字アミノ酸コードを表す。各々、オリジナルVL CL16及び生殖系列化された(GL)VL CL16に相当する、図2A及び図2Cの配列を参照されたい。得られた変種は、Fabとして表し、且つそれらの組換えHER3タンパク質への結合は、ELISAにより決定した。
この結合の結果は、フレームワーク2内のH38Qアミノ酸変異は、ELISAにより測定した場合、親クローン16よりも結合を改善したことを示した。対照的に、同じフレームワーク内のS49Y変異は、結合に対し負の影響を有した。他の点変異は、HER3結合に対し影響を示さなかった。6つ全ての非生殖系列アミノ酸が変異された完全に生殖系列化された変異体は、S50Y点変異と同様の程度に低下された結合を示し、このことはアミノ酸S50が結合に参加していることを指摘した。S50Y以外の全ての生殖系列点変異を伴うこのクローンの更なる試験は、親クローン16と比べ、HER3への結合を保持するか及び/又は増強した。この部分的に生殖系列化されたクローンであるクローン16(GL)(ここでは「GL-P6」とも称される)を、更なる親和性最適化のための鋳型として使用した。
(1.8. クローン16(CL16)の親和性最適化)
生殖系列化されたクローンGL-P6の6つ全ての相補性-決定領域(CDR)の各アミノ酸を、ハイブリダイゼーション変異誘発法(Kunkelの文献、1985)を使用し、他の20種のアミノ酸へ個別に変異した。DNAプライマーの2つのセットの一方は8種のアミノ酸をコードしているNSSコドンを含み、他方は12種の異なるアミノ酸をコードしているNWSコドンを含むが、これらを使用し、各標的化されたCDR位置に変異を導入した。個別の縮重プライマーを、ハイブリダイゼーション変異誘発反応において使用した。簡単に述べると、各縮重プライマーをリン酸化し、次にウリジニル化されたGL-16 Fab ssDNAと、10:1の比で使用した。この混合物を、95℃に加熱し、次に1時間かけて55℃まで冷却した。その後、T4リガーゼ及びT7 DNAポリメラーゼを添加し、この混合物を、37℃で1.5時間インキュベーションした。VH及びVL CDRに関する合成産物を、各々、プールしたが;しかし、NSS及びNWSライブラリーは、個別に維持し、且つ独立してスクリーニングした。典型的には、プールしたライブラリーDNAの1μLを、XL1-Blue細菌叢上のプラーク形成のため、又はFab断片の作製のために、XL1-Blueへ電気穿孔した(Wu及びAnの文献、2003)。
(1.9. Fabライブラリーの一次スクリーニング)
一次スクリーニングは、別所記載のように、96-ウェルプレート(ディープウェル)において成長され且つ個別の組換えM13クローンにより感染された細菌の培養物上清を使用し実行されるシングルポイントELISA(SPE)アッセイからなる(Wu及びAnの文献、2003)。簡単に述べると、この捕獲ELISAは、96-ウェルMaxisorpイムノプレートの個々のウェルの、炭酸緩衝液(pH8.5)中のヒツジ抗-ヒトFd抗体(Biodesign International社、ME)約50ngによる4℃で一晩のコーティングに関与している。翌日、このプレートを、PBS緩衝液中の3%BSAにより、室温で1時間ブロックした。次にFab上清を、このプレートに添加し、室温で1時間インキュベーションした。洗浄後、ビオチン化されたHER3タンパク質0.1μgを、このウェルに添加し、この混合物を、室温で1.5時間インキュベーションした。これに続けて、ニュートラビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(Pierce社、IL)と一緒に室温で約40分間インキュベーションした。HRP活性を、テトラ-メチル-ベンジジン(TMB)基質で検出し、この反応を0.2M H2SO4によりクエンチした。プレートは、450nmで読み取った。
450nmで親クローンGL-P6 Fabよりも大きい光学密度(OD)シグナルを示しているクローンを採取し、且つ再成長させ(15mL)(Wu及びAnの文献、2003)、且つELISAにより(先に記載のように)2つ組みで再アッセイし、陽性の結果を確認した。GL-P6 Fabのシグナルよりも大きいシグナルを繰り返し示したクローンを、配列決定した。次にCDR変化を有する各クローンのFabタンパク質濃度を、定量的Fab ELISAにより決定し、ここでは既知の濃度のFabを参照として使用した。Fab濃度は、ELISAシグナルを、参照Fabにより発生したシグナルと比較することにより決定した。変異体Fab及び親GL-P6 Fabの相対結合親和性を決定するために、この結合アッセイを、全ての陽性変種について、規準化されたFab濃度でもう一度繰り返した。
前記結合ELISAは、CDR2中の、Y50I又はY50V点変異を含む、各々、クローン14C7及びクローン15D12と称される2つのVH変種は、親の生殖系列化クローンGL-P6に優るHER3結合のおよそ5倍の改善を発揮したことを示した。VL変異誘発作戦において、改善された結合を発揮するCDR1中の、例えばクローン4H6(S24R点変異を含む)、クローン6E3(S27L点変異を含む)、又はCDR3中の、例えばクローン5H6(S94G点変異を含む)、クローン8A3(S96aI点変異を含む)、クローン4C4(S96aR点変異を含む)、クローン2B11(S96aP点変異を含む)及びクローン2D1(V97A変異を含む)のいずれかのいくつかの単一変異が、同定された。
最も注目すべきことに、VL-CDR3のアミノ酸S96aのイソロイシン(I)、アルギニン(R)又はプロリン(P)のいずれかによる置換は、各々、3.5倍、8.6倍及び32倍の結合の改善を生じた。
(1.10. Fabライブラリーのコンビナトリアルスクリーニング)
HER3への結合に関して有益であることが決定されたVH及びVLの点変異は、更に組合せて、追加の結合相乗性を獲得した。これらのコンビナトリアル変異体は、Fabとして発現し、且つHER3結合ELISAを用いてスクリーニングした。Fab断片のVH鎖内のY50I又はY50V点変異のいずれか一方をVL変異と組合せると、恩恵はなかったが、HER3への結合を低下したのに対し、いくつかのVL変異の組合せは更に結合を改善した。VL変異のこれらの組合せは、クローン1A4(L96P、S97P及びV100A点変異を含む)、クローン2C2(S26L、L96P、S97P及びV100A点変異を含む)、クローン2F10(S97P及びV100A変異を含む)並びにクローン3E1(S23R、L96P、S97P及びV100A点変異を含む)における組合せを含む。
(1.11. 親和性-最適化されたFab変種のIgGフォーマットへの変換及び抗体発現)
改善された結合を発揮する単一変異体及び組合せ変異体変種を、更なる特徴決定のために、IgGフォーマットに変換した。各変種の可変領域を、HEK 293F細胞を使用する発現のためのIgG哺乳動物の発現ベクターへのクローニングを促進するために、制限部位をコードしたプライマーを用いるPCRにより増幅した。分泌された可溶性ヒトIgG1タンパク質を、馴化培地から、1mL HiTrapプロテインAカラム(GE Healthcare社、NJ)上で製造業者の指示に従い、直接精製した。精製されたヒトIgG1試料(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により典型的には均質性>95%と判定)を、PBSに対して透析し、急速冷凍し、且つ-70℃で貯蔵した。
精製されたIgGの結合を、HER3結合ELISAを用いて試験した。組合せ変異体IgGは、総結合シグナルにより決定された改善された結合を示し、2C2は、親クローン16及び他の組合せ変異体変種に優る最も有意な結合の改善を示した。これらのIgGのマウス及びカニクイザルのHER3への結合も、ELISAにより試験した。これらの結果は、組合せ変異体のこれらのパラロガスHER3種への改善された結合を示した。
同定された単一変異の各々に関する軽鎖及び重鎖可変領域のアミノ酸配列のアラインメントを、各々、図2A及び図2Bに示した。表4は、各クローンの配列番号を提供している。この組合せクローンの各々の軽鎖可変領域のアラインメントは、図2Cに提供している。
表4
(1.12. 抗-HER3モノクローナル抗体結合試験)
抗-HER3 IgGのヒトHER3タンパク質の細胞外ドメインへの結合に関する動態速度(kon、koff)及び平衡解離定数(KD)を、BIAcore(商標)表面プラズモン共鳴技術を用い、センサーチップ表面上に捕獲されたIgGへのヒトHER3細胞外ドメイン(hu HER3(ECD))の結合を測定することにより、決定した。次に個々の結合(kon)及び解離(koff)の速度定数を、得られた結合曲線から、販売業者を通じて入手可能なBIAevaluationソフトウェアを用いて、計算した。データは、1:1結合モデルにフィットし、これは物質移行が制限した結合(mass transport limited binding)を補正する項目を含み、これは検出されるべきであった。次にこれらの速度定数から、IgGのヒトHER3細胞外ドメインタンパク質との相互作用に関する見かけの解離結合定数(KD)を、koff/konの商から計算した。
高-解像度BIAcoreプロットから、親IgGクローン16のヒトHER3細胞外ドメインへの結合に関する結合及び解離速度定数は、各々、5.29×105/Ms及び73.0×10-4/sであり、これはみかけのKD14nMを生じた。比較において、親和性-改善されたIgG変種のヒトHER3細胞外ドメインへの結合に関する結合速度定数は、親IgGについて測定された定数に類似しており、3.41×105〜4.32×105/Msの範囲であった。同じくこれらの同じプロットを用い、クローン16変種に関する対応する解離速度定数を決定し、これは1.60×10-4〜6.21×10-4/sの範囲であった。クローン16変種に関するみかけのKDを、先に記載のように計算し、0.429nM(2C2クローン変種)〜1.44nM(P2B11クローン変種)の範囲であった。kon及びkoffに関する個々の誤差は、小さく(≦計算されたパラメータの〜2%)、動態データへ全般的にフィットしたことは、1:1相互作用モデルの使用が適切であることを示した。同じく評価は、この結合が物質移行に制限されることを示さなかった。
表5は、Kon値、Koff値及びKD値、更には発現レベル及び収量を含む、図2Cに提供される組合せモノクローナルクローンの生物物理的特質をまとめている。
2C2 VL(配列番号:3)及びオリジナルC16 VH(配列番号:2)を含む2C2モノクローナル抗体は、最も親和性-改善されたリードであり、K
D 0.4nMを伴い、これは親クローン16モノクローナル抗体よりも32倍の改善を表している。このK
Dの改善は、ほとんど減少した解離速度(off-rate)の結果であった。発現レベル及び生成収量も評価した。全てのモノクローナル抗体クローンは、5日間の一過性トランスフェクション試験において、良く発現され、2C2モノクローナル抗体は、この試験における最高レベルの発現を示した。全ての親和性最適化されたリードは、異なる程度の親和性改善を示したが、1A4抗体は、比較的低い発現効率のために脱落した。
表5:親CL16(クローン16)抗体と比較した様々な親和性-最適化されたリードの生物物理特性のまとめ
注記:各親和性-最適化されたリードは、クローン名のVL鎖及びオリジナルC16のVHを含む。
HER3シグナル伝達経路(pHER3及びpAKT)の阻害、細胞成長の抑制(短期6日間成長アッセイ及び長期クローン原性アッセイ)、並びにT-47D細胞(T-47分化された上皮細胞亜型)におけるHRG-誘導したpHER3の抑止(abrogation)を含む、リガンド-非依存性モデル(ヒト乳癌細胞株BT-474、ATCC番号HTB-20(商標))に加え、リガンド-依存性モデル(ヒト乳癌細胞株T-47D、ATCC番号HTB-133)(両細胞株はATCCから入手した)にわたるクローン16に優る様々な親和性最適化されたリードの機能改善を評価するために、様々な細胞-ベースのアッセイを行った。
クローン原性アッセイは、以下のように行った。BT-474細胞を、6-ウェルプレートへ、密度1,000個細胞/ウェルで播種した。一晩接着した後、細胞を、アイソタイプ対照IgG又は指定されたHER3モノクローナル抗体で、濃度投与量曲線に従い処理した。適切な投与量のモノクローナル抗体を伴う培地は、3週間にわたり、週1回新たにした。21日目の最後に、細胞を、Cell-titer-Glo(CTG)アッセイのために処理し、様々なモノクローナル抗体によるコロニー形成の阻害を評価した(ベースラインとして対照IgGを使用する)。IC50値を、Prizm解析から誘導した。
BT-474の6日間成長アッセイは、本質的に図4に使用したように行った(以下の実施例2のセクション2.2参照)。BT-474のpAKTアッセイは、本質的に図10に使用したように行った(以下の実施例2のセクション2.6.1参照)。T-47DのHRG誘導性pHER3アッセイは、本質的に図3に使用したように行い(以下の実施例2のセクション2.1参照)、及びT-47DのFACS結合及びインターナリゼーションアッセイは、図16Aに使用したものと同じプロトコールを使用し行った(以下の実施例3のセクション3.3.1参照)。
IC50値及び最大阻害レベルは、比較目的でコンパイルした。表6に示したように、親和性改善されたリードは、これらのアッセイのほとんどに渡り一貫して2〜3倍増加した効力を示した。親クローン16及び/又は代表的な最適化されたクローン、例えばクローン2C2抗体(簡略に2C2と、又は2C2モノクローナル抗体と称される)は、以下に説明する数多くのインビトロアッセイ及びインビボアッセイにおいて更に特徴決定した。
加えて半減期を延長するために、この最適化されたクローン2C2のFc領域に、変異を導入した。具体的には、KabatのEUインデックスに従い番号付けたM252Y、S254T、T256Eである。この半減期-最適化された分子は、2C2-YTEと称される。他の変異を、これら3つの代わりに、又は組合せて、導入することができることは理解されるであろう(例えば、米国特許第7,083,784号;国際公開公報WO2009058492;Dall’Acquaらの文献、J. Immunol. 169: 5171-80, 2002;Zalevskyらの文献、Nature Biotech. 28: 157-9, 2010を参照されたい)。2C2-YTEは、2C2と同程度、BT-474細胞増殖及びコロニー成長を阻害することが示された(データは示さず)。
冷蔵庫(2〜8℃)で安定した組成物を、該抗体(例えば、50mg/ml)を25mMヒスチジン/ヒスチンHCL、205mMショ糖、0.02%ポリソルベート80のpH6.0中に製剤することにより得た。
表6:親CL16モノクローナル抗体と比較した親和性最適化されたリードの生物学的特性のまとめ
(実施例2. 抗-HER3モノクローナル抗体の特徴決定)
(2.1. MCF-7細胞におけるHRG-誘導したHER3リン酸化(pHER3)アッセイ)
MCF-7(ATCC番号HTB-22(商標))は、HER3発現を伴うが、内因性HRG発現を伴わない、ヒト乳癌細胞株である。MCF-7細胞を、96-ウェルプレート中に密度30,000個細胞/ウェルで播種し、一晩接着させた。次にこれらの細胞を、24時間血清-飢餓とし、その後処理した。血清-飢餓後、培地を除去し、被験抗体及び対照抗体を含有する無血清培地と置き換え、該細胞を37℃で1時間インキュベーションした。この実験及び以下に提供した追加の実験で使用した被験抗体は、クローン16、2C2、2C2-YTEなどの本文に提供した抗-HER3抗体;並びに、当該技術分野において公知の抗-HER3抗体、特に各々、本文においてはAMG及びMMと称される、U1-59(国際公開公報WO 2007077028)及びAb#6(特許公開WO 2008/100624)を含んだ。それと同時に、ヘレグリン(HRGβ1、R&D Systems社、ミネアポリス、MN)ストックを、無血清成長培地において4×(80ng/ml)で調製した。1時間のインキュベーション期間の終了時に、HRGβ1を、ウェルにスパイクし(最終濃度20ng/ml)、且つ37℃で20分間インキュベーションした。処理の終了時に、培地を除去し、且つ細胞をPBSで洗浄した。細胞を、プロテアーゼインヒビター及びホスファターゼインヒビター(Calbiochem社、ラホヤ、CA)を含むTriton X溶解緩衝液(Boston Bioproducts社、アッシュランド、MA)80μl中に溶解し、分析まで-20℃で貯蔵した。次にpHER3 ELISAを、製造業者のプロトコール(R&D Systems社、DYC1769)に従い、半量96-ウェルCorning(登録商標)Costar(登録商標)3690 ELISAプレート(Corning Life Science社、ローエル、MA)及び1ウェル当たり細胞溶解液50μlを用いて実行した。
HER3リン酸化(pHER3と省略)により反映されるHER3活性化を、HRGβ1による細胞処理により刺激した。抗-HER3 2C2 mAbによる前処理は、pHER3 ELISAアッセイにおけるpHER3シグナルの投与量-依存性の抑制を引き起こした(図3、上側)。公表された抗-HER3モノクローナル抗体MM及びAMGも、このアッセイにおいて活性があったが、しかし2C2は、IC50測定により決定されたようにおよそ5倍より強力であった(図3、下側)。同様の結果が、2C2-YTEについて認められた(データは示さず)。
(2.2. MDA-MB-175乳癌細胞の成長抑制)
MDA-MB-175(ATCC番号HTB-25(商標))は、成長及び生存に関してHRG-HER3シグナル伝達経路に左右される、樹立されたHRG-発現する(γ-アイソフォーム)乳癌細胞株である。細胞を、96-ウェル白色壁のプレート中に2,000個細胞/ウェルの密度で播種し、一晩接着させた。翌日、培地を除去し、被験抗体及び対照抗体を含有する新鮮な完全成長培地と100μl/ウェルで置き換えた。次にプレートを、合計6日間インキュベーションした。相対細胞数を計算するために、CellTiter-Glo(商標)(Promega社、マジソン、WI)を、製造業者のプロトコールに従い使用した。CellTiter-Glo(商標)添加後、プレートを、室温で10分間インキュベーションし、且つルミネセンスをマイクロプレートリーダーを用いて測定した。
本成長アッセイは、2C2、MM、又はAMGの抗-HER3モノクローナル抗体で実行した。図4に示したように、3種の抗体全て、様々な程度の抗-増殖作用を達成し、2C2は、より高い効力(IC50=0.14μg/ml)(図4、上側)、及びより高い成長抑制(72%)(図4、下側)を示した。
(2.3. HMCBメラノーマ細胞の成長抑制)
HMCB(ATCC番号CRL-9607(商標))は、HRG-誘導したHER2-HER3ヘテロ二量体化により駆動された、樹立されたHRG-発現する(1β-アイソフォーム)メラノーマモデルである。HMCB細胞を、96ウェルプレート(Costar(登録商標))内の、10%熱-失活したFBSを含有する完全培地100μl中に、750個/ウェルの密度で播種した。翌日、抗体処理物を、完全培地中で調製した。全ての抗-HER3モノクローナル抗体及び対照IgGの開始時の濃度は、10μg/mlであり、且つ連続希釈物を、完全培地中に調製した。播種培地を除去し、且つ処理物を、100μl/ウェルで3つ組みで添加した。
次にプレートを、5%CO2中、37℃で6日間インキュベーションした。各ウェルに、等量のCellTiter-Glo(商標)試薬を添加した。プレートを、プレート振盪機上で、室温で10分間揺動させ、完全な細胞溶解を確実にした。ルミネセンスを、2104 EnVision(登録商標)マルチラベルリーダー(PerkinElmer社、ウォルサム、MA)を用いて測定した。
図5に示したように、2C2は再度、現存する抗体よりもより強力であった。2C2は、公表された抗-HER3モノクローナル抗体AMG及びMMよりも8〜30倍より強力に、HMCBメラノーマ細胞株の細胞成長を阻害した。
(2.4. HMCBメラノーマ細胞及びA549 NSCLC細胞におけるHER3及びAKT活性アッセイ)
HER3リードの、HRG-オートクリンHMCBモデル(ATCC番号CRL-9607(商標))及びA549モデル(ATCC番号CCL-185)におけるHER3シグナル伝達経路を抑制する能力を、評価した。HMCB細胞は、24-ウェルプレート内、及び10%熱-失活させたFBSを含有する培地中に、105個/ウェルで播種し、抗体処理前に、集密度80%以上に到達させた。播種培地を除去し、これらの細胞を、抗体と一緒のインキュベーションに供した。抗-HER3モノクローナル抗体及び対照IgGを、完全培地において調製した。全ての抗-HER3抗体について開始時の濃度は、10μg/mlであり、且つ連続希釈を行った。対照IgGは、濃度10μg/mlでのみ使用した。播種培地の除去後、処理を適用した。5%CO2中、37℃で6時間(HMCB細胞)又は72時間(A549細胞)インキュベーションした後、細胞を、氷冷したPBSで1回洗浄し、次にLaemmli還元緩衝液(Boston BioProducts社、アッシュランド、MA)の添加により、溶解した。
短時間のインキュベーションの後、細胞溶解液を収集し、等量を、Bis NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)ビス-トリスゲル(Invitrogen社、カールスバッド、CA)上に負荷し、且つタンパク質を、PVDFメンブレン(Invitrogen社、カールスバッド、CA)に移した。メンブレンを、TBS(pH7.4)中の5%無脂肪ドライミルク及び0.1% Tween 20(Sigma社、セントルイス、MO)によりブロックし、HER3に対する抗体(sc-285抗体、Cell Signaling Technology社、ビバリー、MA)、pHER3に対する抗体(4791抗体、Cell Signaling Technology社、ビバリー、MA)、AKTに対する抗体(9272抗体、Cell Signaling Technology社、ビバリー、MA)、pAKTに対する抗体(4060抗体、Cell Signaling Technology社、ビバリー、MA)、ニューレグリン-1/HRG(NRG1/HRG)抗体(sc-348、サンタクルズ)及びGAPDH抗体(G8795抗体、Sigma社、セントルイス、MO)と一緒に、4℃で一晩インキュベーションした。
メンブレンを、TBS中の0.1% Tween 20で洗浄し、次にホースラディッシュペルオキシダーゼ-コンジュゲートされたストレプトアビジン二次抗体(GE Healthcare社)中で1時間インキュベーションした。洗浄後、タンパク質バンドを、SuperSignal(登録商標)Westフェムト化学発光基質及びSuperSignal(登録商標)Westピコ化学発光基質(Pierce/Thermo Scientific社、ロックフォード、IL)を用いることにより、X-線フィルムで検出した。
図6及び図7に示したように、2C2抗体は、HMCB細胞及びA549細胞の両方において、HER3シグナル伝達経路を無効にした。2C2は、投与量-依存性の様式でpHER3及びその下流のエフェクター分子pAKTを効率的に抑制し、且つHMCB細胞においては、公表された抗-HER3モノクローナル抗体AMG又はMMのいずれよりもより強力であった。2C2抗体はまた、A549細胞において、pHER3及びその下流のエフェクター分子pAKTも抑制した。
(2.5. 肺癌、胃癌、及び乳癌の細胞モデルにおけるHER3リン酸化(pHER3)アッセイ)
(2.5.1. pHER3細胞アッセイ)
細胞(HCC827 NSCLC細胞、ゲフィチニブ-抵抗性HCC827 NSCLC細胞、MKN45胃癌細胞、Kato III胃癌細胞、又はBT-474 HER2-増幅された乳癌細胞)を、96-ウェルプレート内に、密度30,000個細胞/ウェルで播種し、一晩接着させた。次に、細胞を、被験抗体又は対照抗体により、指定された投与量-曲線で、37℃で4時間処理した。処理の終了時に、培地を除去し、且つ細胞をPBSで洗浄した。細胞を、プロテアーゼインヒビター及びホスファターゼインヒビター(Calbiochem社、ラホヤ、CA)を含むTriton X溶解緩衝液(Boston BioProducts社、アッシュランド、MA)80μl中に溶解し、分析時まで-20℃で貯蔵した。次にpHER3 ELISAを、製造業者のプロトコール(R&D Systems社、DYC1769、ミネアポリス、MN)に従い、半量96-ウェルELISAプレート(Costar 3690)及び細胞溶解液50μl/ウェルを使用し、実行した。
(2.5.2. HCC827細胞におけるpHER3活性の抑制)
HCC827細胞(ATCC CRL-2868(商標))は、変異体EGFR-駆動された非小細胞肺癌(NSCLC)モデルであるが、これを、被験抗体又は対照抗体で、実施例のセクション2.5.1において先に記載のように処理した(前記参照)。図8Aに示したように、2C2抗体は、pHER3シグナルを部分的に阻害することができるのに対し、公表された抗-HER3モノクローナル抗体AMG及びMMは、2C2よりも効果が低く、且つ強度は10分の1未満であった。
(2.5.3. ゲフィチニブ-抵抗性HCC827細胞におけるpHER3活性の抑制)
HCC827は、変異体-EGFRを収容し且つこれにより駆動されるが、このことは、HCC827を、ゲフィチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に対し高度に感受性としている。親HCC827細胞を、ゲフィチニブの一定の毒性量に曝露し、且つ抵抗性クローンを単離し、これはTKI療法を回避する癌の公知の機序である増幅されたcMETを収容することが示された。TKI-抵抗性HCC827細胞を、実施例のセクション2.5.1において先に記載のように、抗-HER3モノクローナル抗体により処理した(上記参照)。図8Bに示されたように、抗-HER3モノクローナル抗体2C2は、ゲフィチニブに対し抵抗性となった変異体HCC827において、HER3活性を抑制した。親細胞株について認められた結果同様に、2C2は、TKI-抵抗性HCC827細胞株において、AMG及びMM抗体よりもより高い効力を示した(約10倍より良い効力)。
(2.5.4. MKN45細胞におけるpHER3活性の抑制)
cMETはHer-ファミリーのメンバーではないにもかかわらず、HER3と二量体を形成することが可能であることが示されている。cMET-増幅された胃癌モデル細胞株であるMKN45を使用し、抗-HER3抗体は、cMET-駆動されたHER3活性化に拮抗することができるかどうかを評価した。MKN45細胞を、実施例のセクション2.5.1において先に記載のように、抗-HER3 モノクローナル抗体で処理した。図8Cに示されたように、3種の抗-HER3モノクローナル抗体(2C2、AMG及びMM)は全て、MKN45細胞におけるpHER3を抑制することができたが、2C2は、AMG及びMM抗体よりもより高い効力を示した(およそ5〜7倍より良い効力)。
(2.5.5. Kato III細胞におけるpHER3活性の抑制)
EGFR、HER2及びcMETとのカップリングに加え、HER3は、FGFR2と二量体化し、その悪性転換能を促進する。Kato III(ATCC番号HTB-103(商標))細胞株は、FGFR2-増幅された胃癌モデルであるが、これを使用し、抗-HER3抗体は、FGFR2-駆動されたHER3活性化を抑制することができるかどうかを評価した。Kato III細胞を、実施例のセクション2.5.1において先に記載のように、抗-HER3モノクローナル抗体で処理した(上記参照)。このモデルにおいて、3種の抗-HER3モノクローナル抗体(2C2、AMG、及びMM)は全て、pHER3抑制の類似した最大の程度(〜60%)を達成したが、IC50として測定した場合、2C2は、AMG及びMM抗体よりも、各々、15〜20倍より強力であった(図8D)。
(2.5.6. BT-474細胞におけるpHER3活性の抑制)
HER2-HER3二量体は、癌における最も悪性転換する発癌実体のひとつであることが示されている。従って本発明者らは、このリガンドを発現せず、且つリガンド-非依存性HER2-HER3二量体化により駆動されると予想される良く樹立されたHER2-増幅された乳癌モデルであるBT-474細胞株(ATCC番号HTB-20(商標))において、抗-HER3モノクローナル抗体を調べた。実施例のセクション2.5.1に先に記載のように、BT-474細胞を、3種の抗-HER3モノクローナル抗体及び同じく2C2-YTEにより処理した。HCC827細胞、ゲフィチニブ-抵抗性HCC827細胞、MKN45細胞、及びKato III細胞などの、試験した3種全ての抗-HER3モノクローナル抗体が活性があったモデルとは異なり、2C2(親2C2及び2C2-YTE変異体の両方)は、試験した抗-HER3モノクローナル抗体の中でpHER3を抑制する実質的活性を示す唯一のものであった(図8E)。これらの結果は、2C2(親2C2型及び2C2-YTE変異体の両方)は、リガンド-非依存性モデルにおいて機能したことを指摘し、且つリガンド-依存性及びリガンド-非依存性の両方の状況における2C2の二重機能性を明らかにした。
(2.6. 胃癌及び乳癌の細胞モデルにおけるAKTリン酸化(pAKT)アッセイ)
(2.6.1. pAKT細胞アッセイ)
細胞(MKN45胃癌細胞、Kato III胃癌細胞、又はBT-474 HER2-増幅された乳癌細胞)を、96-ウェルプレート内に、密度30,000個細胞/ウェルで播種し、且つ一晩接着させた。次に細胞を、指定された投与量-曲線で、被験抗体又は対照抗体により、37℃で4時間処理した。処理の終了時に、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。細胞を、プロテアーゼインヒビター及びホスファターゼインヒビター(Calbiochem社、ラホヤ、CA)を含む、Triton X溶解緩衝液(Boston BioProducts社、アッシュランド、MA)80μl中に溶解し、分析時まで-20℃で貯蔵した。AKT/pAKTを、Phospho (Ser473)/Total AKT全細胞溶解キット(カタログ番号K15100D、Meso-Scale Discovery社、ゲティスバーグ、MD)に備えられた製造業者のプロトコールを基に分析し、pAKT含量を決定した。
(2.6.2. MKN45細胞におけるpAKT活性の抑制)
2C2は、pHER3に加え、HER3下流のシグナル伝達経路を抑制することができるかどうかを確認するために、本発明者らは加えて、増幅されたcMET-駆動された胃癌モデルMKN45において、AKTリン酸化を抑制するその能力を評価した。MKN45細胞を、実施例のセクション2.6.1に先に記載のように、抗-HER3モノクローナル抗体で処理した。このモデルシステムにおいて、2C2モノクローナル抗体は、AMG及びMM抗-HER3モノクローナル抗体よりもより高い効力で(およそ5〜7倍より高い)、部分的pAKT阻害を達成した(図9A)。このことは、2C2は、HER3活性を阻害するのみではなく、pAKTなどのHER3の下流のエフェクター分子も抑制することを明らかにした。
(2.6.3. Kato III細胞におけるpAKT活性の抑制)
この活性はHER3のエフェクターであるpAKTを抑制するより良い効力に翻訳されるかどうかを調べるために、本発明者らは、実施例のセクション2.6.1に先に記載のように、この細胞株、Meso-Scale Discoveryアッセイを用い、様々な抗-HER3モノクローナル抗体によるpAKT阻害を分析した。図9Bに示したように、pHER3データと一致して、2C2は、増幅されたFGFR2-駆動された胃癌モデルであるKato III細胞において、pAKTを抑制した。再度2C2は、pAKT阻害において、AMG及びMM抗体よりも、より高い効力(IC50により測定した場合)及び最大反応を達成した。
(2.6.4. BT-474細胞におけるpAKT活性の抑制)
HER2-HER3二量体は、癌における最も悪性転換する発癌実体のひとつであることが示されている。従って本発明者らは、BT-474細胞株において、抗-HER3モノクローナル抗体の活性を調べた。BT-474細胞は、前掲の実施例のセクション2.6.1に先に記載のように、抗-HER3モノクローナル抗体で処理し、同じく2C2のYTE変異体型でも処理した。MKN45細胞及びKatoIII細胞などの、試験した3種全ての抗-HER3モノクローナル抗体(2C2、AMG及びMM)が活性があったモデルとは異なり、2C2(親2C2及び2C2-YTE変異体の両方)は、試験した抗-HER3モノクローナル抗体の中でpAKTを抑制する実質的活性を示す唯一のものであった(図9C)。これらの結果は、2C2(親2C2型及び2C2-YTE変異体の両方)は、リガンド-非依存性モデルにおいて機能したことを指摘し、且つリガンド-依存性及びリガンド-非依存性の両方の状況における2C2(親2C2型及び2C2-YTE変異体の両方)の二重機能性を明らかにした。
(2.7. MDA-MB-361細胞におけるHER3シグナル伝達及び細胞増殖の抑制)
トラスツズマブに高度に反応性ではないHER2-増幅された乳癌細胞における2C2-YTEの活性を特徴付けるために、本発明者らは、PI3K経路の固有の活性化に起因したトラスツズマブに対するその抵抗性に寄与し得る、PIK3CAに活性化変異(E545K)を収容する乳癌モデルである、MDA-MB-361(ATCC番号HTB-27)に焦点を当てた(Junttilaらの文献、2009, Cancer Cell, 15:429-40)。本発明者らは、このモデルにおける2C2のHER3シグナル伝達及び細胞増殖に対する作用を決定した。
シグナル伝達を評価するために、ヒト乳房細胞株MDA-MB-361を、24-ウェルプレート内に、密度150,000個細胞/ウェルで、10%熱-失活したウシ胎仔血清(FBS)(Invitrogen社)を補充したRPMI(Invitrogen社)中に播種した。翌日、播種培地を除去し、細胞を、抗-HER3抗体2C2又は対照抗体と伴に、完全培地における最終濃度30μg/mLでのインキュベーションに供した。5%CO2中、37℃で6時間インキュベーションした後、細胞を、氷冷したPBSで1回洗浄し、次にLaemmli還元緩衝液(Boston BioProducts社、アッシュランド、MA)の添加により、溶解した。短時間のインキュベーションの後、細胞溶解液を収集し、等量を、Bis NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)ビス-トリスゲル(Invitrogen社、カールスバッド、CA)上に負荷し、且つタンパク質を、PVDFメンブレン(Invitrogen社、カールスバッド、CA)に移した。メンブレンを、TBS(pH7.4)中の5%無脂肪ドライミルク及び0.1% Tween 20(Sigma社、セントルイス、MO)によりブロックし、HER3に対する抗体(sc-285抗体、Cell Signaling Technology社、ビバリー、MA)及びpHER3に対する抗体(4791抗体、Cell Signaling Technology社、ビバリー、MA)と、4℃で一晩インキュベーションした。メンブレンを、TBS中の0.1% Tween 20で洗浄し、次にホースラディッシュペルオキシダーゼ-複合されたストレプトアビジン二次抗体(GE Healthcare社)中で1時間インキュベーションした。洗浄後、タンパク質バンドを、SuperSignal(登録商標)Westフェムト化学発光基質及びSuperSignal(登録商標)Westピコ化学発光基質(Pierce/Thermo Scientific社、ロックフォード、IL)を用いることにより、X-線フィルムで検出した。
細胞増殖を評価するために、MDA-MB-361細胞を、10%熱-失活したFBSを含有する培地100μL中に、密度2,000個細胞で蒔き;平底のCostar白色ポリスチレン組織培養処理した96-ウェルプレート(Corning社)を使用した。翌日、播種培地を除去し、抗体を完全培地に最終容積100μL/ウェルで添加した。次にプレートを、5%CO2中、37℃で6日間又は14日間インキュベーションした。14日目のアッセイに関しては、新鮮な抗体を、7日目に適用した。各時点の最後に、等量のCellTiter-GloR試薬(Promega社)を、各ウェルに添加した。プレートを、プレート振盪機において室温で10分間揺動し、完全な細胞溶解を確実にした。ルミネセンスは、EnVision 2104マルチラベルリーダー(PerkinElmer社)を用いて測定した。
2C2は、この細胞株の、pHER3レベルを低下し(図10A)、且つ細胞成長を抑制し(図10B)、このことは、2C2-YTEは、HER2-増幅を伴うトラスツズマブ-感受性癌において活性があるのみではなく、PIK3CAに対する変異のためにトラスツズマブに対する感受性が低下しているHER2-増幅された癌においても活性があることを示唆している。
(2.8. 新規HRG-依存性癌型の同定)
追加の新規HRG-依存性癌を同定するために、数倍の多発性の(times multiple)肺扁平上皮癌(SCC)細胞株を、HER3シグナル伝達活性及びHRG発現についてスクリーニングした。HARA-B細胞株(JCRB番号JCRB1080.1)及びKNS-62細胞株(JCRB番号IFO50358)は、HER3、HRGに加えpHER3を有意なレベルで発現した(データは示さず)。従って本発明者らは、HARA-B細胞株及びKNS-62細胞株における、2C2の活性を調べた。これらの細胞を、前掲の実施例のセクション2.4に本質的に先に記載のように、抗-HER3モノクローナル抗体により処理し、2C2は、HARA-B細胞株(図11)及びKNS-62細胞株(データは示さず)において、pHER3レベルを低下することができた。以下に示すように(実施例、セクション5.4)、2C2-YTEは、ヒト扁平HARA-B NSCLC異種移植片モデルにおいて投与量-依存性の抗腫瘍効率を明らかにした。従って、これらの判定基準(すなわち、HER3、HRGに加えpHER3の発現)は、例えば、本文に記載の2C2、AMG、MM及び他の当該技術分野において公知のものを含む、抗-HER3抗体に対し反応性の追加の癌型を同定するための有用なスクリーニングツールであることができる(例えば、国際公開公報WO2011/136911、WO2012/019024、WO2010/022814参照)。
(2.9. いくつかのHRG-依存性癌型において主要な駆動者であるHER2)
HER3リガンドヘレグリン(HRG)の存在下において、HER3は、EGFR又はHER2とヘテロ二量体化し、これはHER3のリン酸化並びにAKTとしても公知のホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)及びプロテインキナーゼB(PKB)を介した発癌シグナルの伝達へ繋がる。CRCモデルの収集は、EGFR又はHER2のどの受容体チロシンキナーゼが、HER3介したシグナル伝達の主要な駆動者であるかを決定するために、特徴付けられる。具体的には、6つの異なるCRC腫瘍細胞株SW620(ATCC番号CCL-227)、SW480(ATCC番号CCL-228)、Colo205(ATCC番号CCL-222)、LOVO(ATCC番号CCL-229)、HCT15(ATCC番号CCL-225)、及びCaco-2(ATCC番号HTB-37)を、HER2又はEGFRのアンタゴニスト単独で、又はHER3アンタゴニスト2C2との組合せにより処理した。簡単に述べると、細胞を、密度1.5×105個細胞/ウェルで、24-ウェルプレートへ蒔いた。翌日、2つの同一の細胞のセットを、10μg/mLの2C2抗-HER3抗体、R347対照IgG抗体、抗-HER2抗体2C4(例えば、特許公報WO2001/00245)、抗-EGFR抗体セツキシマブ、又は5μMのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブにより処理した。5〜6時間37℃でインキュベーションした後、HRGを、50ng/mLでの1つの細胞セットに、37℃で15分間添加した。次に全ての細胞を、冷PBSで洗浄し、2×SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)試料緩衝液(Invitrogen社)60μLの添加により溶解した。溶解液を、1.5mLチューブに移し、且つ5分間煮沸し、引き続き氷上で2分間急冷した。等量(20μL)のタンパク質試料を、NuPAGE Novexビス-トリスゲル(Invitrogen社)中に溶解し、その後フッ化ポリビニリデン(PVDF)メンブレン(Invitrogen社)に移した。メンブレンを、0.1%Tween 20(Sigma社)を含有するトリス-緩衝食塩水(KPL)中で洗浄し、且つHER3(Santa Cruz Biotechnology社)、pHER3-Tyr1289(Cell Signaling Technology社)、リン酸化AKT(プロテインキナーゼB(pAKT))(Cell Signaling Technology社)、リン酸化ERK(マイトジェン-活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル-調節されたキナーゼ(pERK))(Cell Signaling Technology社)、及びグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)(Sigma社)に対する抗体と一緒に4℃で一晩インキュベーションした。メンブレンを、0.1%Tween 20(Sigma社)を含有するトリス-緩衝食塩水(KPL)中で洗浄し、次にホースラディッシュペルオキシダーゼ-コンジュゲートされた二次抗体(GE HealthCare社)の中で1時間インキュベーションした。洗浄後、タンパク質バンドを、SuperSignal West Pico化学発光基質(Pierce/Thermo Scientific社)を用いることにより、X-線フィルム上で検出した。
図12に認められるように、抗-HER3抗体及び抗-HER2抗体の両方は、リガンド刺激した細胞において、HER3、pHER3及びpAKTのレベルを低下したのに対し、セツキシマブ及びゲフィチニブ処理などのEGFRアンタゴニストは、これらのシグナル伝達分子に対し作用を有さなかった。これらのデータは、HER2は、試験した全ての癌モデルにおいてHRG-誘導したHER3シグナル伝達の主要な駆動者であることを明らかにしている。
(実施例3. 抗-HER3モノクローナル抗体の作用機序の試験)
(3.1. HER3へのリガンド-結合を部分的にブロックするクローン16)
抗-HER3モノクローナル抗体のリガンド-誘導したHER3活性をブロックする有効性は、リガンド-結合を直接ブロックするそれらの能力に起因し得る。このシナリオを調べるために、本発明者らは、プレートを、ヘレグリン(HRG)によりコーティングし、且つこれに標識された組換えHER3タンパク質を結合することにより、インビトロHRG-HER3結合アッセイを確立した。
(3.1.1. HRG-HER3結合アッセイ)
マイクロプレートウェルを、ヘレグリン(HRGβ1、カタログ番号377-HB、R&D Systems社、ミネアポリス、MN)10ng/mlにより、4℃で一晩コーティングした。翌日、プレートを、PBST(PBS+0.05%Tween 20)により4回洗浄し、且つPBS+1μg/ml BSA中で室温で1時間ブロックした。ブロック時に、被験抗体(クローン16、AMG、MM及び陽性対照抗-HER3リガンドブロッキングモノクローナル抗体)の連続希釈物を、PBSTB(PBS+0.05% Tween 20+0.1% BSA)中の個別のプレート内に調製し、且つ組換えHER3(カタログ番号348-RB、R&D Systems社、ミネアポリス、MN)5μg/mlと室温で30分間一緒にした。次にELISAプレートを、PBSTで4×洗浄し、その後抗体-HER3混合物を添加した。プレートを、室温で1時間インキュベーションし、引き続きPBSTで4回洗浄した。抗-His HRP(カタログ番号34460、Qiagen社、バレンシア、CA)を、室温で1時間添加した。プレートを、PBSTにより4回洗浄し、引き続きTMBにより検出した。プレートを、マイクロプレートリーダーを用い、450nmで読み取った。代表的結果を、図13に示している。
(3.1.2. 結果)
いくつかのモノクローナル抗体(クローン16、AMG、MM及び陽性対照抗-HER3リガンドブロッキングモノクローナル抗体)のHRGのHER3への結合を妨害する能力を試験した。陽性対照HER3リガンド-ブロッキングモノクローナル抗体は、HER3のHRGへの結合を効果的かつ完全に抑制した。対照的に、クローン16(2C2の親リード、上記実施例のセクション1.6「親和性最適化」参照)は、この結合の破壊には部分的にのみ効果があった(最大阻害約30%)。AMG及びMMモノクローナル抗体は、同様の弱い部分的ブロック作用を示した(図13)。これらの知見は、クローン16は、恐らく直接リガンド-ブロッキングモノクローナル抗体として機能する可能性が低いことを示した。
(3.2. HER2-HER3二量体化を破壊する2C2)
そのキナーゼ-欠損の性質のために、HER3モノマーは、活性がなく、且つこれは活性があるためには他のRTKとヘテロ二量体を形成することが必要である。HER2:HER3二量体は、リガンド-依存性及び非依存性の両方の状況において、最も発癌性のシグナル伝達種であることが示されている(Junttilaらの文献、Cancer Cell, 15:429-40, 2009)。2C2によるHER2-HER3二量体化の破壊は、HRG-誘導したHER3-HER2二量体形成を示すリガンド-依存性乳癌モデルであるT-47D細胞において、及びリガンド-非依存性BT-474細胞において、HRG-誘導したHER2-HER3二量体形成アッセイを用いて評価した。このアッセイは、HER3-HER2免疫共沈降を基にした。
(3.2.1. リガンド-誘導したHER2-HER3二量体化アッセイ)
T-47D細胞(ATCCカタログ番号HTB-133(商標))は、6ウェルプレートに1×106個/ウェルで、一晩蒔いた。翌朝、細胞を、2C2、CL16、AMG及びMMモノクローナル抗体により、完全血清中濃度5μg/mlで、37℃で2時間処理した。対照は、抗体処理を含まないか、又は対照R347 IgG1による処理であった。この処理に、50ng/mlのHRGによる、37℃で10分間の処理が続いた(HRGで処理しない対照を含む)。細胞を、冷PBSで3回洗浄し、その後、プロテアーゼインヒビター及びホスファターゼインヒビター(Sigma社、セントルイス、MO)を含有する、細胞溶解緩衝液500μlを添加した。細胞を、少なくとも30分間氷上で溶解した。溶解液を、細胞スクレーパーにより収集した。抗-HER3 mAb(カタログ番号MAB3481、R&D Systems社、ミネアポリス、MN)1μgにコンジュゲートされたプロテインAビーズ25μlを含有するプロテインAビーズ溶液50μlを、細胞溶解液500μlに添加し、且つ免疫沈降(IP)カラムに移した。IPカラムを、4℃で一晩回転させた。引き続き、IPカラムを遠心沈殿させ、溶解液を除去し、且つビーズを冷細胞溶解緩衝液で洗浄した。50mM DTTを含有する2×SDS試料緩衝液50μlを、各IPカラムへ添加し、且つカラムを4分間煮沸した。各カラムのボトムチップを取り外し、且つカラムを遠心沈殿させ、溶出液を収集した。溶出液20μlを、SDS-PAGEを用いて分離した。HER2及びHER3の両方について、ウェスタンブロットを行った(抗-HER2抗体により、カタログ番号OP15L、CalBiochem社、ラホヤ、CA;及び、抗-HER3抗体により、カタログ番号SC-285、Santa Cruz Biotechnology社、サンタクルズ、CA)。
(3.2.2. リガンド-非依存性HER2-HER3二量体化アッセイ)
BT-474細胞(ATCCカタログ番号HTB-20(商標))を、6-ウェルプレート中に、10%熱-失活したFBSを含む完全RPMI 1640細胞培養培地内で、密度1×106個細胞/ウェルで播種した。翌日、播種培地を除去し、飽和投与量の被験抗体を含有する新鮮な完全RPMI 1640と置き換えた。この実験において、CL16、2C2の前駆体のより低い親和性型、2C2、及びR347、対照IgGを、濃度5μg/mLで試験した。細胞を、抗体と一緒に37℃で2時間インキュベーションした。次に、培地を除去し、細胞を冷PBSで1回洗浄した。1mLの冷PBS中のクロスリンカー3,3’-ジチオビス[スルホスクシンイミジルプロピオネート](DTSSP)を、濃度2mMで添加した。細胞を、氷上で少なくとも1時間インキュベーションした。次に細胞を、冷PBSで3回洗浄した。プロテアーゼインヒビター及びホスファターゼインヒビターを含有する細胞溶解緩衝液(500μL)を添加し、これらの細胞を少なくとも30分間氷上に配置し、溶解させ、その後細胞スクレーパーにより収集した。HER2及びHER3は、細胞溶解液から免疫沈降させた。細胞溶解液(500μL)を、SigmaPrep回転カラム(Sigma社)中でHER3 MAb(MAB3481、R&D Systems社)1μgと予めコンジュゲートさせたプロテインAセファロースビーズ(50%スラリー;Invitrogen社)50μLと一緒にした。この混合物を、4℃で一晩の回転によりインキュベーションした。翌日、ビーズを、遠心分離により細胞溶解液から分離した。カラム中のビーズは、プロテアーゼインヒビター(Sigma社)及びホスファターゼインヒビター(EMD Millipore社)を含有する冷細胞溶解緩衝液(Cell Signaling Technologies社)により4回洗浄した。この洗浄手順の後、50mMジチオスレイトール(DTT;EMD Chemicals社)を含有する2×SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)試料緩衝液50μLを、回転カラムに添加した。次にこのカラムを、4分間煮沸した。タンパク質を、遠心分離により溶離し、直ちに免疫ブロッティングに使用した(セクション2.4において行ったように)。
(3.2.3. 結果)
HRGにより処理又は未処理のT-47D細胞を、溶解した。HER3を、抗-HER3モノクローナル抗体により沈降させ、次にペレット中のタンパク質を、SDS-PAGE上で分解させ、且つHER2-HER3相互作用の徴候として、HER2の存在についてブロットした。該二量体は、リガンド-刺激後にのみ生じたので、このモデルは、リガンド-誘導性であった。2C2による予備処理は、二量体形成を効率的に防止し、このことはリガンド-誘導したHER2-HER3二量体形成を妨げるその能力を明らかにしている。MM、AMG、及び親クローン16を含む他の抗-HER3モノクローナル抗体も、有効であることが認められた(図14A)。クロス-リンカーDTSSPを使用し、タンパク質複合体を生化学的に安定化する場合、構成的HER2:HER3ヘテロ二量体は、BT-474細胞において、HRG非存在下で捕獲され、このことは、リガンド-非依存性ヘテロ二量体形成を示唆している。細胞の2C2又はCL16による予備処理は、このヘテロ二量体形成を効果的に破壊した(図14B)。
(3.3. 2C2により誘導されたHER3インターナリゼーション及び分解)
標的インターナリゼーション及び分解は、それによりモノクローナル抗体が、それらの標的機能を阻害する、2つの一般的機序である。第一に、本発明者らは、BT-474乳癌細胞において、2C2-媒介されたHER3インターナリゼーションを評価した。次に、本発明者らは、この急速な2C2-誘導したHER3インターナリゼーションに、標的分解が続くかどうかを確定した。
(3.3.1. HER3インターナリゼーションアッセイ)
HER3インターナリゼーションは、蛍光活性化細胞選別(FACS)アッセイを用いて決定した。BT-474細胞を、アキュターゼ酵素により剥離し、これらの細胞を1%BSAを含有するPBS(FACS緩衝液)中に、細胞密度10×106個細胞/mlになるよう、懸濁させた。細胞50μlを、U-字底96ウェルプレートの各細胞に添加した。抗-HER3 モノクローナル抗体50μlに加え同位体対照(20μg/ml)を、各ウェルに添加し、最終濃度10μg/mlを達成した。このプレートを、37℃で0.5時間、2時間及び4.5時間、各々インキュベーションした。細胞を、冷FACS緩衝液で2回洗浄した(細胞は、1,500rpmで2分間の遠心分離によりペレット化させた)。細胞を、マウス抗-ヒトHER3モノクローナル抗体(カタログ番号MAB3481、R&D Systems社、ミネアポリス、MN)1μg/ml又は10μg/mlを含有する冷FACS緩衝液により再懸濁させた。
細胞及び抗-ヒトHER3を、氷上で1時間インキュベーションした。次に細胞を、冷FACS緩衝液により、2回洗浄した。引き続き細胞を、Alexa Fluor(登録商標)488-標識した二次抗体(Invitrogen社)を含有する冷FACS緩衝液(1:200v/v)により再懸濁させ、氷上で30〜45分間インキュベーションした。次に細胞を、冷FACS緩衝液で2回洗浄し、冷FACS緩衝液の100μlにより再懸濁させた。この時点で、FACSを行った。蛍光強度の絶対幾何平均(GMFI)を、二次抗体のみを含有する対照由来のGMFIを減算することにより、得た。相対HER3表面クリアランスを、IgG対照モノクローナル抗体を使用し得られた結果と比較することにより計算した。代表的結果を、図15Aに示している。
(3.3.2. HER3タンパク質分解アッセイ)
Lovo、HCT15及びSW620結腸直腸モデル癌細胞(ATCC番号、各々、CCL-229、CCL-225及びCCL-227)を、24ウェルプレート内に、1.5×105個/ウェルで蒔いた。一晩接着した後、これらの細胞を、2C2及び対照モノクローナル抗体により3〜4時間処理した。細胞を、冷PBSにより1回洗浄し、2×SDS試料緩衝液50〜60μlにより直接溶解し、且つ100℃で10分間煮沸した。試料20μlを、SDS-PAGEゲルに負荷し、電気泳動により分離し、且つHER3に対する抗体(Santa Cruz Biotech社)によりウェスタンブロットし、総HER3タンパク質レベルを定量した。GAPDHに対する抗体(Sigma社)も、一般的タンパク質負荷対照としてGAPDHレベルの定量に使用した。
(3.3.3. 結果)
図15Aに示したように、2C2の両方の投与量は、非常に類似した影響を有した。30分間の処理は、表面HER3集団の39%喪失(61%残存)を引き起こしたのに対し、2時間処理は、62%喪失(38%残存)を引き起こし、このことは2C2による迅速な標的インターナリゼーションを示唆している。加えて、3種の異なる結腸直腸癌モデルを2C2とインキュベーションした場合、SW620細胞において完全なHER3分解が認められたのに対し、他の2種の細胞株においてはほぼ完全な分解が認められ(図15B)、このことは2C2は、強力な標的分解能が可能であることを明らかにしている。
(3.4. エフェクター機能:抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC))
ADCCは、それを介してモノクローナル抗体が、インビボにおいてその抗腫瘍効力を付与することができる一つの認められた様式である。クローン16のADCC活性を評価するために、本発明者らは、2種のHER2-増幅された乳癌モデルBT-474及びSkBR3において、インビトロPBMC-が可能にしたADCCアッセイを使用した。ハーセプチン/トラスツズマブは、これらの癌型においてADCC作用を付与することが示されているので、これを、陽性対照として使用した。両方のモデルにおいて、本発明者らは、ハーセプチンから有意な腫瘍-殺傷作用を認めたが、試験した残りのモノクローナル抗体であるクローン16、AMG及びMMは、非常に不活性であり、このことは、これらは測定可能なADCC作用を欠いていることを指摘している(データは示さず)。2C2-YTEを、補体給源として、ヒト血清を用いるCDCアッセイにおいて試験した。加えて、抗-HER2抗体トラスツズマブ及び抗-CD20抗体リツキシマブを、対照として含んだ。2C2-YTEを含むいずれの抗体も、いずれの濃度でも検出可能なCDC活性を示さなかった(データは示さず)。SkBR3細胞は、CD20を発現しない。陽性対照として、リツキシマブは、CD20を発現する Daudi細胞に対する類似のCDCアッセイにおいて、かなりの細胞殺傷活性を明らかにした(データは示さず)。
(3.5. 細胞周期停止)
(3.5.1. SkBR3乳癌細胞における細胞周期停止アッセイ)
BioSante細胞(ATCC番号HTB-30)を、6-ウェルプレート中に、密度150,000個細胞/ウェルで播種し、且つ一晩接着させた。翌日、培地を除去し、被験抗体及び対照抗体を含有する新鮮な成長培地と置き換えた。次に細胞を、37℃で48時間インキュベーションした。この処理の最後に、細胞をトリプシン処理し、15mlコニカルチューブにプールし、且つ1500rpmで5分間遠心分離した。次に細胞をPBSで1回洗浄し、氷冷した70%エタノール中で-20℃で一晩固定した。
固定後、細胞を、先に記載のように遠心分離し、PBSで1回洗浄し、且つ染色溶液(PBS+0.1%Triton X-100、0.2mg/ml DNAse-フリーRNAse A、及び20μg/mlヨウ化プロピジウム)中に再懸濁させた。細胞を、暗所において室温で30分間染色し、LSRIIフローサイトメーターシステム(BD Biosciences社)を用いて分析した。ヨウ化プロピジウムを、テキサスレッドチャネルを用いて検出し;データを、Dean/Jett/Foxモデルを使用するFlowJoフローサイトメトリー分析パッケージ(Tree Star社、OR)を用いて分析した。
(3.5.2. 結果)
FACS-ベースの細胞周期分析は、BT-474に類似したHER2-増幅された乳癌細胞株であるSkBR3細胞において、ハーセプチン及びクローン16(2C2の親リード)の両方は、G1期で細胞周期停止を引き起こした(図16に示されたようなS/G2集団の減少による、G1-集団の増加)ことを示した。
(3.6. HRG-誘導したVEGF分泌のブロックによる抗-血管新生作用)
HRGは、様々な癌モデルにおいて、主要なプロ-血管新生(pro-angiogenic)サイトカインであるVEGFの分泌を駆動することが示されている。従って本発明者らは、2つの乳癌モデルMCF-7及びBT-474において、HRG-誘導したVEGF分泌を抑制する2C2の阻害作用を評価した。
(3.6.1. HRG-誘導したVEGF分泌アッセイ)
MCF-7細胞及びBT-474細胞を、24-ウェルプレート中に、密度100,000個細胞/ウェルで播種し、且つ2日間静止(rest)させた。次に培地を除去し、2%FBS並びに対照抗体及び被験抗体を含有する新鮮な成長培地500μlと置き換えた。引き続き24時間インキュベーションし、細胞培養培地を収集し、VEGF ELISAキット(R&D Systems社、DY293B)を用い、VEGFレベルを決定した。各ウェル中の相対細胞数を、新鮮培地を細胞へCell Titer Glo(Promega社、比1:1)と一緒に添加し、及びプレートを室温で10分間インキュベーションすることにより決定した。ルミネセンスを、プレートリーダーを用いて読み取り、且つこれらの値をデータの正規化に使用した。
(3.6.2. 結果)
HRG処理は、BT-474(図17A)及びMCF-7(図17B)の両方の乳癌モデル細胞株において、VEGF分泌を、6.5倍〜8倍の範囲での劇的な増加を誘導した。CL16(クローン16)、及びMMモノクローナル抗体は、この増加のほとんどを抑制することができ、このことは、これらの抗-HER3モノクローナル抗体は、追加の血管調節作用を付与することができることを示唆している。
(実施例4. カニクイザル及びマウスHER3との交差反応性)
(4.1. ヒトHER3と同様の親和性でカニクイザル及びマウスHER3に結合する2C2)
関連のある毒性試験種の選択を可能にするために、2C2のヒト、カニクイザル(cyno)及びマウスのHER3に対する親和性を比較するために、Biacoreアッセイを、本質的に先に記載のように行った(表7の上側部分)。より高い解像度のBIAcore機器、代替のFc捕獲試薬及びバックグラウンド結合の補正のために精緻化された注入プロトコールを用い、2C2-YTEについて、追加のBiacoreアッセイを行った。簡単に述べると、機器の製造業者により概説されたような標準アミンプロトコールを用い、プロテインA捕獲試薬を、同じCM5センサーチップ上に連続して接続された2つの隣接するフローセル上に固定した。これらのプロテインA表面の一つを、本実験の参照表面として使用し、同時に他方のものは、IgG捕獲及び引き続きのHER3(ECD)結合を記録するために使用する活性表面として働いた。参照フローセル表面及び活性フローセル表面上の最終のプロテインA密度は、各々、1986 RU及び1979 RUとして記録した。構成に従い、本方法は、2C2-YTE IgGは、最初に活性プロテインA表面上にのみ捕獲され、引き続き活性及び参照の両フローセル表面上にHER3タンパク質溶液が注入されるように設定した。そのような実行において、この戦略は、HER3被検体のプロテインA捕獲表面への任意の非特異的結合に関する結合曲線を補正した。IgG捕獲工程に関して、2C2-YTE IgGは、HBS-EP+機器緩衝液(0.01M HEPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、及び0.05% P20)中に10nMで調製し、次に、活性プロテインAフローセル表面上に流量10μL/分で30秒かけて注入した。次にヒト、カニクイザル、及びマウスのHER3タンパク質を、最初に機器緩衝液中に500nMストック溶液で調製し、次に各々の2倍の連続希釈シリーズを作製し、最終濃度0.39nMを提供した。次にHER3タンパク質を、活性及び参照の両セルのプロテインA表面の上に120秒かけて、流量75μL/分で注入した。解離データを、15分間収集し、引き続き注入の間に10mM Gly緩衝液(pH1.7)による60秒パルス2回を施し、フローセルをプロテインA捕獲表面へ戻すよう再生した。数回の緩衝液注入をまた、一連の注入を通じて割り込ませた。選択緩衝液注入を、引き続き参照セルデータと共に使用し、注入アーチファクツ及び/又は非特異的結合相互作用に関して、生データセットを補正したが、これは「二重参照(double-referencing)」と通常称される技術である(Myszkaの文献、1999)。次に完全に補正した結合データを、検出されるべき、物質移行が制限した結合を補正する項を含んだ、1:1結合モデルに全域的にフィットさせた(BIAevaluation 4.1ソフトウェア)。この解析は、動態速度(k
on、k
off)定数を決定し、これらから次にみかけのKDを、k
off/k
onとして計算した(表7下側)。これら2つの実験セット間のK
on値及びK
off値の変動は、恐らく先に詳述されたような2つのプロトコールの間の差異によるものであり、且つ概してこれらの動態パラメータを測定するために受け容れられる2倍誤差範囲内であった。表7に示されたように、2C2、及び2C2-YTEのカニクイザルHER3への親和性は、ヒトHER3に対する親和性と事実上同じであった。マウスHER3に関する親和性は、ヒトHER3に関する親和性の3倍以内であった。
表7:2C2のヒト、カニクイザル、及びマウスHER3への親和性を示すBiacore結合アッセイ
(4.2. カニクイザルHER3のHRG-誘導したリン酸化のアッセイ)
Ad293細胞(Stratagene社、No. 240085)を、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen社)と共に供されたプロトコールに従い、完全長cynoHER3-発現ベクターにより一過性にトランスフェクトした。細胞を、37℃で48時間インキュベーションさせ、その後処理した。抗体を、完全成長培地内に、10μg/mlで1時間添加し、引き続きHRGβ1(R&D Systems社)20ng/mlにより37℃で10分間刺激した。処理の最後に、培地を除去し、細胞を、PBSにより1回洗浄した。細胞を、2×Novexトリス-グリシン試料緩衝液(Invitrogen社)により溶解し、且つpHER3及び総HER3のレベルを、免疫ブロット法により決定した(各々、Cell Signaling社、抗体#4791、及びSanta Cruz社、抗体#285)。バンドのデンシトメトリーは、ImageJソフトウェア(NIH、imagej.nih.gov/ij/)を用いて遂行した。
(4.3. 結果)
カニクイザルHER3の2C2による結合及び交差調節(cross-modulation)を完全に確立するために、ウェスタンブロットにより明らかにされるように、完全長カニクイザルHER3を異所性に発現している安定したAd293細胞株を樹立した(図18A)。HRGで処理した場合、カニクイザルHER3は、pHER3シグナルの誘導により証明されるような強固な活性化を受けた(図18B)。細胞を2C2により同時処理した場合、しかしR347対照抗体では処理されなかった場合、pHER3誘導は、完全に抑止され、このことは、2C2は、細胞表面上のカニクイザルHER3に結合することができるのみではなく、その活性化を効果的にアブレートすることができることを明らかにしている(図18B)。2C2がカニクイザルHER3に対しヒトHER3に対するのと同じ親和性を発揮したことを示す上記Biacore親和性測定データとの組合せて、これらの結果は、2C2治験に関する関連のある毒性試験種としてカニクイザルを実証した。
(抗-HER3モノクローナル抗体のインビボ試験)
(4.4. 皮下ヒトFADU頭頸部異種移植片モデル試験)
(4.4.1. 方法)
ヒトFADU頭頸部細胞(ATCC番号HTB-43)を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞(50%マトリゲル中に懸濁させた)の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE、セツキシマブ、対照IgG1又は2C2のセツキシマブモノクローナル抗体との組合せを、腹腔内投与した。投与量依存性試験のために、2C2を体重1kg当たり3、5、7、及び10mg(mg/kg)、対照を10mg/kg投与した。組合せ試験のために、2C2を3mg/kg、セツキシマブを30mg/kg、及び対照抗体を6mg/kg投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類(staging)時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
2C2による有効性試験の終結時に、マウスを、薬物動態値を決定するために指定された最終時点で2C2により処理した。心穿刺を行い、血液をMicrotainer血清分離チューブ(SST)に収集した。血液の入ったチューブを、10秒間穏やかに攪拌し、且つ室温で20分間維持し、血清を凝血させた。試料を1000×gで10分間遠心分離し、血清試料を、新たなチューブに慎重に移し、-80℃で貯蔵した。
マウス血清中の2C2の定量的決定のために、間接的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)フォーマットを使用した。標準、品質対照、及びマウス血清試料を、96-ウェルマイクロタイタープレート上に固定されたヤギ抗-ヒトIgG抗体と一緒にインキュベーションした。インキュベーション後、未結合の材料を、洗浄工程により除去し、且つ2C2を、ホースラディッシュ-ペルオキシダーゼコンジュゲートを伴うヤギ抗-ヒトIgGを用い検出した。酸性停止液を添加し、450nmの吸光度を測定することにより、基質の酵素的代謝回転の程度を決定した。測定した吸光度は、マウス血清中に存在する2C2の濃度に正比例した。このアッセイに関する2C2標準曲線を使用し、血清試料の濃度を内挿した。
(4.4.2. 結果)
雌のヌードマウスにおいて皮下に成長したヒトFADU頭頸部異種移植片モデルを利用し、2C2は、投与量-依存性の抗腫瘍効率を明らかにした。99%腫瘍成長阻害(dTGI)での最大有効性は、本試験の期間に、週2回投与された7mg/kgで認められた(図19A)。
治療相(7〜18日目)の期間に週2回投与される2C2 3mg/kgとセツキシマブ30mg/kgの組合せ投与は、FADU異種移植片モデルにおいて明確な相乗的抗腫瘍効率を示した(図19B)。この作用は、長期間持続し、且つこれらの腫瘍は、40日目の再成長相の終了時にのみ成長の開始に戻った。この組合せ治療は、10例中7例に部分的退縮を、及び10例中2例の完全退縮をもたらした。
2C2は、マウスHER3と交差反応し、且つHER3は、多くの非罹患マウス組織において発現されることは良く確立されている。従って宿主HER3は、それが腫瘍組織を得る前の、2C2モノクローナル抗体の吸収に対するシンクとして利用することができる。腫瘍-保有する雌のヌードマウスを使用し、2C2の5mg/kgを、これらのマウスへ1回又は3回のいずれかで投与し、2C2の曝露レベルを経時的に追跡した。2C2は、2C2の5mg/kgの最終投与後1日目だけ検出可能であり、且つ最終治療後3日目には検出不能であった(図36)。他方で、5mg/kgと同じスケジュールを使用する2C2の30mg/kg投与は、2C2がマウス血清中で測定されるはるかにより長いウインドウに繋がった。これらの知見は、腫瘍-保有するマウスへの、5mg/kg又は30mg/kgの単回投与量及び反復投与量の投与後の、2C2に関する非線形薬物動態を明らかにしている。このデータは、マウスHER3は、マウスへ投与された2C2への結合のシンクとして作用することができること、及び単回投与量としての30mg/kgは、このシンクを飽和させるのに十分であることを示した。
2C2に関するマウス内のHER3シンクの存在は、FADU 異種移植片腫瘍を伴うマウスにおける、2C2の高い負荷投与量、それに続く低い維持投与量の投与により、機能的に確認された。2C2の10mg/kgの負荷投与量及び3mg/kg維持投与量の抗腫瘍効率が、FADU腫瘍モデルにおいて明らかにされた。2C2単回投与量としての10mg/kgは、一過性の抗腫瘍効率のみを有した。週2回の3mg/kgで与えられた2C2は、軽度であるが連続する有効性を有した。2C2の負荷投与量10mg/kgと維持投与量3mg/kgの組合せは、いずれかの単独治療スケジュールと比べ、腫瘍増殖の阻止においてより効果的であった(図21)。
2C2の薬力学マーカーpHER3及びpAKTを調節する能力を、FADU異種移植片腫瘍抽出物において試験した。2C2は、ヒトFADU異種移植片腫瘍を保有するマウスへ、48時間以内に30mg/kgを2回投与し、且つ抽出物をその後24時間分析した。簡単に述べると、無胸腺ヌードマウスに、FADU頭頸部癌細胞を皮下移植した。動物に、2C2の30mg/kgを48時間以内に2回投与した。pHER3、pAKT及び総HER3の分析(各々、図22の上側、中央、及び下側パネル)のための抽出物を、24時間後に調製した。R347を、対照IgG1抗体として使用した。1つの治療群につき動物6匹であった。データは、平均±標準偏差として表した。ここで、2C2は、対照IgG1-処理したマウス由来の腫瘍と比較して、HER3及びAKTの両方のリン酸化を、各々、59.5%及び51.7%阻害した(図22、上側及び中央パネル)。2C2による総HER3の調節は、認められなかった(図22、下側パネル)。
(4.5. 皮下ヒトDetroit562頭頸部異種移植片モデル試験)
(4.5.1. 方法)
ヒトDetroit562頭頸部細胞(ATCC番号CCL-138)を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE、セツキシマブ、対照IgG1又は2C2のセツキシマブモノクローナル抗体との組合せを、腹腔内投与した。投与量依存性試験のために、2C2を体重1kg当たり1、3、10、及び30mg(mg/kg)投与した。組合せ試験のために、2C2を3mg/kg、セツキシマブを30mg/kg、及び対照抗体を10mg/kg投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
2C2による有効性試験の終結時に、マウスを、薬物動態値を決定するために指定された最終時点で2C2により処理した。心穿刺を行い、血液をSST Microtainerチューブに収集した。血液の入ったチューブを、10秒間穏やかに攪拌し、且つ室温で20分間維持し、血清を凝血させた。試料を1000×gで10分間遠心分離し、血清試料を、新たなチューブに慎重に移し、-80℃で貯蔵した。
マウス血清中の2C2の定量的決定のために、間接的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)フォーマットを使用した。標準、品質対照、及びマウス血清試料を、96-ウェルマイクロタイタープレート上に固定されたヤギ抗-ヒトIgG抗体と一緒にインキュベーションした。インキュベーション後、未結合の材料を、洗浄工程により除去し、且つ2C2を、ホースラディッシュ-ペルオキシダーゼコンジュゲートを伴うヤギ抗-ヒトIgGを用い検出した。酸性停止液を添加し、450nmの吸光度を測定することにより、基質の酵素的代謝回転の程度を決定した。測定した吸光度は、マウス血清中に存在する2C2の濃度に正比例した。このアッセイに関する2C2標準曲線を使用し、血清試料の濃度を内挿した。
(4.5.2. 結果)
2C2は、雌のヌードマウスにおいて皮下に成長したヒトDetroit562頭頸部異種移植片モデルにおいて、抗腫瘍効率を明らかにした。2C2の週2回投与された10mg/kgは、72%dTGIで最大有効性であった(図23A)。Detroit562モデルは、PIK3CA変異を含む。
Detroit562腫瘍モデルは、抗-EGFRモノクローナル抗体セツキシマブに感受性がり、これは週2回投与される10mg/kgで、腫瘍成長阻害を引き起こした。2C2の3mg/kgのセツキシマブ10mg/kgとの組合せは、セツキシマブの抗腫瘍効率を増大し(added)、10例中9例において、部分退縮を生じたのに対し、セツキシマブ単独は10例中5例で部分退縮を生じた(図23B)。
(4.6. 皮下ヒトCAL27頭頸部異種移植片モデル試験)
(4.6.1. 方法)
ヒトCAL27頭頸部細胞(ATCC番号CRL-2095)を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2-YTE、セツキシマブ、又は対照IgG1を、腹腔内投与した。投与量依存性試験のために、2C2-YTEを体重1kg当たり3、10、及び30mg(mg/kg)投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.6.2. 結果)
2C2-YTEの投与量-依存性活性は、2C2-YTEを用い、第三の頭頸部腫瘍モデルCAL27において確認された。2C2-YTEの週2回投与される3、10又は30mg/kgは、対照IgG1-処理動物と比べ、各々、TGIの26.4%、55.2%、又は68.8%を示した(図24)。
CAL27腫瘍モデルは、抗-EGFRモノクローナル抗体セツキシマブに感受性があり、これは、週2回投与される30mg/kgで、腫瘍成長阻害を引き起こし、TGI 75.0%であった(図24)。
(4.7. 皮下ヒトKRAS変異したA549 NSCLC異種移植片モデル試験)
(4.7.1. 方法)
ヒトA549 NSCLC細胞(ATCC番号CCL-185)は、KRAS遺伝子のコドン12に変異を含むが、これを5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するハムF12K培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞(50%マトリゲル中に懸濁させた)の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE、セツキシマブ、対照IgG1又は2C2のセツキシマブモノクローナル抗体との組合せを、腹腔内投与した。投与量依存性試験のために、2C2を体重1kg当たり3、10、及び30mg(mg/kg)で、並びに2C2-YTEを10mg/kgで投与した。組合せ試験のために、2C2及びセツキシマブを各々10mg/kgで投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.7.2. 結果)
2C2は、雌のヌードマウスにおいて皮下に成長したヒトA549 NSCLC異種移植片モデルにおいて、投与量-依存性の抗腫瘍効率を明らかにした。91% dTGIの最大有効性は、33日目まで週2回投与された2C2の30mg/kgで達成された(図25A)。10mg/kgで与えられた2C2及び2C2-YTEは、このA549腫瘍モデルにおいて類似した抗腫瘍効率を示した。一旦治療を停止したならば、この腫瘍は、対照-治療マウスにおける腫瘍と同じ速度で成長を始めた。A549異種移植片モデルは、KRAS変異及びLKB-1欠失を含む。
このA549腫瘍モデルにおいて、セツキシマブ10mg/kg単独は、有効ではなかった。しかし、セツキシマブ10mg/kgの2C2 10mg/kgへの追加は、治療相時に、2C2単独と比較して、相加的抗腫瘍効率を生じた。加えて、この組合せ治療群は、治療の中断後に、この腫瘍のより遅い再成長を示した(図25B)。
(4.8. 皮下ヒトHARA-B扁平NSCLC異種移植片モデル試験)
(4.8.1. 方法)
ヒト扁平HARA-B NSCLC細胞は、野生型RAS遺伝子、HRG及びpHER3を発現するが、これを5%CO2インキュベーター内、4.5g/L Dグルコース、2.383g/L HEPES緩衝液、L-グルタミン、1.5g/L重炭酸ナトリウム(Sodium Bicarbinate)、110mg/Lピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片(50%マトリゲル中に懸濁させた)を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。腫瘍を、227mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2-YTEを、体重1kg当たり3、10及び30mg(mg/kg)、対照を30mg/kgで、腹腔内投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.8.2. 結果)
2C2-YTEは、雌のヌードマウスにおいて皮下に成長したヒト扁平HARA-B NSCLC異種移植片モデルにおいて、投与量-依存性の抗腫瘍効率を明らかにした。64.6% dTGIの最大有効性は、29日目まで週2回投与された2C2-YTEの30mg/kgで達成された(図26)。10mg/kgで与えられた2C2-YTEは、30mg/kgと類似した抗腫瘍効率を示したが;しかし、3mg/kgの2C2-YTEは、このHARA-B腫瘍モデルにおいて有効ではなかった。HARA-B異種移植片モデルは、野生型RAS対立遺伝子を含む。
(4.9. 皮下ヒトHT-29 CRC異種移植片モデル試験)
(4.9.1. 方法)
ヒトHT-29結腸直腸癌細胞(ATCC番号HTB-38)は、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE及び対照IgG1モノクローナル抗体を、腹腔内投与した。2C2は、体重1kg当たり2、10及び30mg(mg/kg)で投与したのに対し、2C2-YTEは、30mg/kgであった。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.9.2. 結果)
2C2は、雌のヌードマウスにおいて皮下注入したヒトHT-29結腸直腸異種移植片モデルを利用し、投与量-依存性の抗腫瘍効率を示した。週2回投与される2C2の30mg/kgは、治療相時に、56% dTGIの最大有効性であった(図27)。2C2-YTEは、2C2と同じ有効性を、両方共30mg/kgの投与で示した。一旦治療が停止されると、腫瘍は、対照腫瘍と同じ速度で成長した。HT-29異種移植片モデルは、BRAF変異を含む。セツキシマブ10mg/kgの単独は、このモデルにおいて測定可能な抗-腫瘍活性を有さなかった。セツキシマブ10mg/kgと組合せた2C2 30mg/kgの活性は、治療相の終了時に、2C2 30mg/kg単独の活性と区別不可能であった(データは示さず)。このことは、このEGFR-発現しているCRC腫瘍モデルは、2C2に良く反応するが、これは2C2-YTEのセツキシマブへの添加により更に阻害されることはないことを指摘している。
(4.10. 皮下ヒトHCT-116CRC異種移植片モデル試験)
(4.10.1. 方法)
ヒトHCT-116結腸直腸癌細胞は、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE、セツキシマブ及び対照IgG1モノクローナル抗体を、腹腔内投与した。2C2は、体重1kg当たり3、10及び30mg(mg/kg)で投与したのに対し、2C2-YTEは、30mg/kgであった。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.10.2. 結果)
週2回投与されるいくつかの異なる濃度の2C2、及び10mg/kgの2C2-YTEは、雌のヌードマウスへの皮下注入によりヒトHCT-116 結腸直腸異種移植片モデルにおいて軽度の抗腫瘍効率を示した(図28)。最大有効性は、2C2の10mg/kgについて43% dTGIが記録された。抗-EGFRモノクローナル抗体セツキシマブは、10mg/kgで有効性がなかった。HCT-116異種移植片モデルは、KRAS変異を含む。
(4.11. 皮下ヒトLOVO CRC異種移植片モデル試験)
(4.11.1. 方法)
ヒトLOVO結腸直腸癌細胞(ATCC番号CCL-229)は、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム及び10%ウシ胎仔血清を含有するハムF12K培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE、セツキシマブ及び対照IgG1モノクローナル抗体を、腹腔内投与した。2C2は、体重1kg当たり10又は30mg(mg/kg)で投与し、2C2-YTE及びセツキシマブは、10mg/kgで、並びに対照は30mg/kgで投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.11.2. 結果)
週2回投与される30mg/kgの2C2は、雌のヌードマウスにおいて皮下に成長したヒトLOVO結腸直腸異種移植片モデルにおいて48% dTGIの抗腫瘍効率を達成した(図29)。2C2、2C2-YTE及びセツキシマブの全て10mg/kgは、同等の有効性を有した。LOVO異種移植片モデルは、KRAS変異を含む。
(4.12. 皮下ヒトDU145前立腺癌異種移植片モデル試験)
(4.12.1. 方法)
ヒトDU145前立腺癌細胞(ATCC番号HTB-81)は、5%CO2インキュベーター内、アール塩、L-グルタミン、及び10%ウシ胎仔血清を含有するMEM培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞(50%マトリゲル中に懸濁された)の皮下注入により樹立した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、MM及びAMGモノクローナル抗体を、体重1kg当たり30mgで腹腔内投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.12.2. 結果)
週2回2C2の30mg/kgが投与される雄のヌードマウスにおいて皮下に成長したヒトDU145前立腺癌異種移植片モデルを使用し、この腫瘍モデルにおいて77% dTGIの抗腫瘍効率が明らかになった(図30)。DU145異種移植片モデルは、LKB-1欠失を含む。30mg/kgで使用した抗-HER3モノクローナル抗体AMG及びMMは、抗腫瘍効率を明らかにしたが、これらは、同じ投与量30mg/kgの2C2よりも効果が低かった。
(4.13. 同所性ヒトBT-474乳癌異種移植片モデル試験)
(4.13.1. 方法)
ヒトBT-474乳癌細胞を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。同所性異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部上の乳腺脂肪帯へ、マウス1匹あたり1×107個細胞(50%マトリゲル中に懸濁された)の注入により樹立した。エストロゲンペレット(0.36mg)を、細胞注入前1〜2日に、左側腹部の皮膚下側に配置した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE、及び/又は当該技術分野において公知の抗-HER2抗体であるMM、AMG及びトラスツズマブ(商品名ハーセプチン(登録商標);例えば、米国特許第5,821,337号)を、体重1kg当たり30mg腹腔内投与した。ラパチニブを、体重1kg当たり100mgで経口経管栄養により投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.13.2. 結果)
HER2-駆動されたヒト乳癌モデルBT-474を使用し、週2回注入される30mg/kgの2C2投与を、雌ヌードマウスの乳腺脂肪帯へ同所性注入し、BT-474異種移植片における55% dTGIにつながった(図31A)。BT-474は、HercepTestにより3+と特徴付けられる、非常に高いレベルでHER2を発現する。両方共30mg/kgで投与されたAMG及びMMは、このHER2-駆動されたモデルにおいて抗腫瘍効率を示さなかった。
ラパチニブは、EGFR及びHER2を阻害する小型分子薬である。BT-474腫瘍は、HER2により駆動されるので、ラパチニブを、このモデルにおいて試験し、且つBT-474腫瘍モデルにおいて腫瘍の静止(stasis)を引き起こすことがわかった。2C2の30mg/kgとラパチニブ100mg/kgの組合せ療法は、追加の治療の非存在下で最も明白に腫瘍の再成長を遅延したラパチニブ単独の、より改善された抗腫瘍効率を生じた(図31B)。2C2-YTEの抗-腫瘍活性は、2C2のそれに類似していた。抗-HER2抗体トラスツズマブも、このモデルで試験し、且つこのHER2-駆動された異種移植片モデルにおいて、111.6% dTGIで非常に活性があることを示した。トラスツズマブ30mg/kgの活性には、2C2の30mg/kgの追加により更なる増強はほとんど存在せず、これは118.5% dTGIであった(図31C)。
クローン16(それから2C2が誘導された親クローン)の薬力学マーカーpHER3及びpAKTを調節する能力を、BT-474異種移植片腫瘍抽出物において試験した。簡単に述べると、雌の無胸腺ヌードマウスに、高HER2-発現しているBT-474乳癌細胞を同所性に移植した。動物に、クローン16の30mg/kgを48時間以内に2回投与した。pHER3、pAKT、及び総HER3(tHER3)の分析のために、抽出物を、24時間後に調製した。結果は、PBS-治療した対照動物について規準化した。1つの治療群に動物3匹が存在した。図32に示したように、クローン16は、HER3及びAKTの両方のリン酸化を、PBS-治療したマウスの腫瘍と比べ、各々、50%及び46.1%まで阻害し、クローン16による総HER3の調節は、認められなかった。
(4.14. 同所性ヒトMCF-7乳癌異種移植片モデル試験)
(4.14.1. 方法)
ヒトMCF-7乳癌細胞を、5%CO2インキュベーター内、グルタマックス、2.4/L炭酸水素ナトリウム、Hepes及び5%ウシ胎仔血清を含有するOptimem培地中で、37℃で維持した。同所性異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部上の乳腺脂肪帯へ、マウス1匹あたり5×106個細胞(50%マトリゲル中に懸濁された)の注入により樹立した。エストロゲンペレット(0.36mg)を、細胞注入前1〜2日に、左側腹部の皮膚下側に配置した。腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2、2C2-YTE及びトラスツズマブモノクローナル抗体を、腹腔内投与した。2C2は、体重1kg当たり10又は30mg投与し、2c2-YTE及びトラスツズマブは10mg/kg投与した。パクリタキセルは、体重1kg当たり10mg静脈内投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.14.2. 結果)
2C2の10mg/kg又は30mg/kgのいずれかは、雌ヌードマウスの乳腺脂肪帯へ同所性注入されたヒトMCF-7乳癌異種移植片モデルにおいて、34% dTGIで、軽度の抗腫瘍効率を示した。2C2-YTEの10mg/kgは、同じ濃度の2C2と類似の有効性を有した(図33A)。トラスツズマブは、このHER2発現モデルにおいて有効性を示さず、このことは、HER2は腫瘍成長を駆動するのに十分ではないことを指摘している。MCF-7腫瘍は、HercepTestにより測定し、低レベルのHER2(1+)を発現した。
パクリタキセルは、2日毎に10mg/kg、10日間投与した場合に、MCF-7同所性乳癌モデルにおいて、明らかな抗腫瘍効率を示した。このパクリタキセル治療への、2C2 10mg/kgの追加は、治療相の終了時に、パクリタキセル単独の抗腫瘍効率を増大した(図33B)。この治療を停止した後、腫瘍は、パクリタキセル治療した腫瘍と同じ速度で再成長した。
(4.15. 同所性ヒトMDA-MB-361乳癌異種移植片モデル試験)
(4.15.1. 方法)
ヒトMDA-MB-361乳癌細胞を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。同所性異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部上の乳腺脂肪帯へ、マウス1匹あたり5×106個細胞(50%マトリゲル中に懸濁された)の注入により樹立した。エストロゲンペレット(0.36mg)を、細胞注入前1〜2日に、左側腹部の皮膚下側に配置した。腫瘍を、230mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2-YTEであり、並びに/又は当該技術分野において公知の抗-HER2抗体、特にトラスツズマブ(商品名ハーセプチン(登録商標);例えば、米国特許第5,821,337号)及びRhuMAb 2C4(例えば、国際公開公報WO2001/00245)は、本文において各々、トラスツズマブ及び2C4と称される。トラスツズマブ及び2C4モノクローナル抗体を、体重1kg当たり30mg(2C2-YTE)、又は体重1kg当たり10mg(トラスツズマブ及び2C4)、腹腔内投与した。ラパチニブを、体重1kg当たり100mgで経口経管栄養により投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
(4.15.2. 結果)
雌ヌードマウスの乳腺脂肪帯へ同所性注入されたHER2-駆動されたヒト乳癌モデルMDA-MB-361(Hercepttest +2)を使用し、5種の投与量について週2回30mg/kg注入される2C2-YTEの投与は、MDA-MB-361異種移植片の70.1% dTGIへつながった(図34A-C)。MDA-MB-361細胞は、HercepTestにより特徴付けられた2+の中等レベル及びFISH分析(蛍光インサイチュハイブリダイゼーション分析)による陽性スコアでHER2を発現した。トラスツズマブ及びrhuMAb 2C4の両方の10mg/kg投与、及びラパチニブ100mg/kgの1日2回投与は、MDA-MB-361腫瘍モデルにおける抗腫瘍効率を示した。
MDA-MB-361腫瘍は、HER2により駆動されるので、2C2-YTEは、トラスツズマブ、rhuMAb 2C4又はラパチニブなどのHER2を標的化する薬物と組合せた。2C2-YTE 30mg/kgのトラスツズマブ10mg/kgとの組合せ治療は、トラスツズマブ単独と比べ、相加的抗腫瘍効率を生じた。追加作用は、追加治療の存在しない場合の腫瘍の再成長の遅延においても明らかに認めることができる(図34A)。2C2-YTEのトラスツズマブとの組合せは、このモデルにおけるrhuMAb 2C4(図34B)又はラパチニブ(図34C)のいずれかと2C2-YTEの組合せと比べ、よりすぐれていた。
(4.16. YTE修飾を伴う抗体の曝露を試験するためのヒトFcRn受容体を発現するトランスジェニックマウス)
(4.16.1. 方法)
ヒトFcRn受容体を発現しているトランスジェニック雌SCIDマウスに、クローン16-GL、2C2、又は2C2-YTEの単回投与量60mg/kgを静脈内経路を介して与えた。これらのマウスから、投薬後いくつかの時点で、心穿刺により血清を採取し、且つ血液をSST microtainerチューブに収集した。これらのチューブを、10秒間穏やかに攪拌し、室温で20分間維持し、血清を凝結させた。試料を、1000×gで10分間遠心分離し、血清試料を新たなチューブへ慎重に移し、-80℃で貯蔵した。マウス血清中の2C2の定量的決定のために、間接的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)フォーマットを使用した。標準、品質対照、及びマウス血清試料を、96-ウェルマイクロタイタープレート上に固定されたヤギ抗-ヒトIgG抗体と一緒にインキュベーションした。インキュベーション後、未結合の材料を、洗浄工程により除去し、且つ2C2を、ホースラディッシュ-ペルオキシダーゼコンジュゲートを伴うヤギ抗-ヒトIgGを用い検出した。酸性停止液を添加し、450nmの吸光度を測定することにより、基質の酵素的代謝回転の程度を決定した。測定した吸光度は、マウス血清中に存在する2C2又は2C2-YTEの濃度に正比例した。このアッセイに関する2C2又は2C2-YTE標準曲線を使用し、血清試料の濃度を内挿した。
(4.16.2. 結果)
2C2主鎖上にYTE変異を含む2C2-YTEは、2C2又はクローン16-GLと比べ、長い時間にわたりより高い曝露レベルを示した(図35)。これらのマウスへの抗体の単回投与の14日後、2C2-YTEの血清曝露レベルは100μg/mlを上回ったのに対し、2C2及びクローン16-GLの両方は、1μg/mlを下回った。この知見は、YTEは、その親抗体2C2と比べ、2C2-YTEの半減期を延長することを明らかにしている。
(4.17. HER3発現を誘導し、抗-HER3抗体との組合せで相加的抗腫瘍効率を示す、MEK阻害剤)
KRAS変異(V-Ki-ras2 Kirstenラット肉腫ウイルス癌遺伝子)及びBRAF変異(v-rafマウス肉腫ウイルス癌遺伝子B1)は、発癌性Ras/Raf/Mek/Erk経路を通るEGFRシグナル伝達の構成的活性化につながる。Kras変異は、多くの固形癌、特に結腸直腸(CRC、30〜40%)及び肺癌(LC、20〜25%)において最も頻発する変異事象である。Braf変異も、CRC(〜15%)において、比較的高い頻度で生じる。ERK経路を構成的に活性化するそれらの能力のために、変異体Kras及びBrafは、RTK療法に対し、特にセツキシマブ及びパニツムマブなどのEGFR mAbに対し、腫瘍抵抗性をもたらすことが示されている。CRC及びLCモデルにおけるHER3経路上のマイトジェン-活性化プロテインキナーゼ(MEK)を阻害する作用を、MEK阻害剤セルメチニブ(AstraZeneca社、例えば、WO03/077914及びWO2007/076245を参照)を、単独で又は2C2(若しくは2C2-YTE)と組合せて用いて試験した。mut-Krasを保有するもの(例えば、A549、LOVO)又はmut-Brafを保有するもの(例えば、HT-29、Colo205)又は野生型RASを保有するもの(例えば、HARA-B、KNS-62)を含む、数多くのCRC及びLCモデルを試験した。
(4.17.1. 方法)
細胞培養試験:細胞を、24-ウェルプレート内、10%熱-失活したFBSを含有する培地中に、105個/ウェルで播種し、且つ処置前に、集密度80%以上に到達させた。2C2(10μg/mL)又は対照抗体、MEK阻害剤セルメチニブ(1又は10μM)又は2C2(10μg/mL)とセルメチニブ(10μM)の組合せを、完全培地内に調製した。播種培地を除去した後、処置を適用した。5%CO2中で37℃で24時間インキュベーションした後、細胞を、氷冷したPBSで1回洗浄し、次に2×ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)試料緩衝液(Invitrogen社)60μLを添加することにより、溶解した。試料を、5分間加熱し、次に氷上で2分間急冷した。試料を、本質的に先に記載のようなウェスタンブロットにより分析した(実施例のセクション2.4参照)。
異種移植片試験:KRAS遺伝子のコドン12に変異を含むヒトA549 NSCLC細胞(ATCC番号CCL-185)を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及び10%ウシ胎仔血清を含有するハムF12K培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞(50%マトリゲル中に懸濁された)の皮下注入により樹立した。ヒトHT-29結腸直腸癌細胞(ATCC番号HTB-38)を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及び10%ウシ胎仔血清を含有するRPMI 1640培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。ヒトLOVO結腸直腸癌細胞(ATCC番号CCL-229)を、5%CO2インキュベーター内、4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及び10%ウシ胎仔血清を含有するハムF12K培地中で、37℃で維持した。異種移植片を、4〜6週齢の無胸腺nu/nuマウスの右側腹部へ、マウス1匹あたり5×106個細胞の皮下注入により樹立した。3種の腫瘍モデル全てについて、腫瘍を、200mm3まで成長させ、その後有効性試験のために無作為化した。2C2-YTE又は対照IgG1は、腹腔内投与した。セルメチニブは、経口投与した。組合せ試験において、2C2-YTEとセルメチニブは、各々、30mg/kg又は75mg/kgで投与した。マウスにおける腫瘍成長に関して、キャリパー測定を行い、下記式を用い腫瘍容積を計算した:
腫瘍容積=π÷6(長さ×幅×幅)
。抗腫瘍作用は、%デルタ腫瘍成長阻害(TGI)として表し、これは下記のように計算した:
%ΔTGI=1−(dT÷dC)×100
(式中、dT=病期分類時の値と比較した、治療群における平均腫瘍容積の変化、及びdC=病期分類時の値と比較した、対照群における平均腫瘍容積の変化)。
凍結腫瘍からの溶解液の調製:マウスは、本発明者らのインビボプロトコールに従い、CO2窒息により人道的に安楽死させ、且つ腫瘍を摘出し、Lysing Matrix Aチューブに移した。プロテアーゼインヒビターカクテル及びホスファターゼインヒビターカクテルのセットI及びIIを含有するRIPA溶解緩衝液(500μL)を添加し、次に試料を、Fast Prep装置を用いてホモジナイズした。試料を、氷上で30分間急冷し、追加のホモジナイゼーションサイクルを行い、その後14,000rpm、10分間、4℃での遠心分離により清澄化した。清澄化された溶解液を、新たな1.5mLチューブに移し、タンパク質含量を測定した。その後溶解液を、分析まで、-80℃で貯蔵した。試料を、本質的に先に記載のようなウェスタンブロットにより分析した(実施例のセクション2.4参照)。
(4.17.2. 結果)
図36に示したように、総及びpHER3の両方のタンパク質レベルは、変異体BRAFを発現する培養物中で成長されたHT-29結腸直腸癌細胞、及び変異体KRASを発現するLOVO細胞において、MEK阻害剤セルメチニブによる処置後、増加した(図36、各々、左側及び中央のブロット)。HER3の増加は、セルメチニブ処置後、mut-BRAFを発現するColo205細胞、並びに変異体KRASを発現するDLD-1細胞及びHCT細胞においても認められた(図36、右側ブロット、及びデータは示さず)。これらの増加は、セルメチニブ投与量1μM及び10μMの両方で生じた。セルメチニブの活性は、1μM及び10μMの両方の投与量での全ての細胞株中のpERKの減少により確認された。MEKの阻害は、ERKリン酸化の阻害を生じる。抗-HER3抗体である2C2は、HT-29細胞及びLOVO細胞において、総及びpHER3の両方を阻害した。2C2はまた、Colo205細胞及びDLD-1細胞において、HER3を低下した。加えて、2C2のセルメチニブによる同時処置は、HT-29細胞、LOVO細胞及びDLD-1細胞において、セルメチニブによる、総HER3及びpHER3の誘導をブロックした(図36、及びデータは示さず)。未処置細胞又はセルメチニブ処置細胞のいずれかにおいて、検出可能なHER3又はpHER3は、変異体KRASを発現するSW480結腸直腸癌細胞においては、認められなかった。
図37Aに認められるように、2C2-YTEの30mg/kgのセルメチニブ75mg/kgとの組合せ治療は、A549 NSCLC異種移植片において、セルメチニブ単独と比べ、相加的抗腫瘍効率を生じた。相加的作用はまた、追加治療の非存在下での腫瘍の再成長の遅延においても認めることができる(上側パネル)。2C2-YTEの30mg/kgのセルメチニブ75mg/kgとの組合せで4日間治療したマウスからの腫瘍溶解液のウェスタンブロット分析は、ホスホ-HER3及びホスホ-ERKは、完全に阻害されたことを示した。両方のマーカーは、2C2-YTE及びセルメチニブの作用に関する薬力学の測定値(read-out)として役立つ。同様の知見が、CRC異種移植片モデルHT-29(図37B、下側及び上側パネル)及びLoVo(図37C、上側及び下側パネル)でも得られた。加えて、ホスホ-AKTは、2C2-YTEの30mg/kgのセルメチニブ75mg/kgとの組合せで治療したHT-29腫瘍溶解液において、単独治療に比べ減少することが認められた(図37B、下側パネル)。75mg/kgでのセルメチニブ単独による治療は、2C2-YTEとセルメチニブの組合せで治療した腫瘍において防止された、LoVo腫瘍抽出物におけるホスホ-HER3の増加に繋がった(図37C、下側パネル)。同様の結果が、HARA-Bにおいて認められた(データは示さず)。
細胞培養物において、HER3タンパク質のレベルは、試験したほとんどのモデルにおいて、MEK阻害剤に反応して増加することが認められ、このことは、HER3経路は、MEK阻害剤に対する抵抗において役割を果たし得ることを指摘している。多くの同所性CRC及びLC異種移植片モデル試験において、2C2-YTEとセルメチニブの組合せは、いずれかの薬剤単独の抗腫瘍効率を増大することが認められた。これらのデータは、抗-腫瘍活性を増強し且つ抵抗性を防止するための、2C2のセルメチニブのようなMEK阻害剤との組合せの使用を裏付けている。
(4.18. カニクイザルにおける毒性試験)
(4.18.1. 方法)
20匹の雄のカニクイザル(Macaca fascicularis)を、4つの群(1群に動物5匹)に割り当て、媒体対照又は2C2-YTEの10、30又は120mg/kgの合計5回投与量を投与した。動物には、投与量容積5mL/kgの5分間のIV注入により、週1回投与した。1群につき3匹の動物は、32日目に剖検し(投薬相の29日目の最終投与量投与後3日目)、及び1群につき2匹の動物は、回復相の43日目に剖検した(投薬相の29日目の最終投与量投与後45日目)。毒性評価は、死亡率、臨床知見、体重、投与部位刺激スコア、臨床及び解剖病理学的評価を含む多くの要因を基にした。
カニクイザル血漿試料を、単離し、且つ遊離のsHER3の定量のための電気化学発光(ECL)検出システムによる、抗-HER3サンドイッチフォーマットを用い、可溶性HER3(sHER3)レベルについて分析した。Meso Scale Discovery(MSD)露出(bare)96-ウェルプレート(MSD社、カタログ番号L15XA-6/L11XA-6)を、2C2-YTEの0.5ug/mlにより一晩、2〜8℃でコーティングし、引き続きMSDブロッカーA(MSD社、カタログ番号R93BA-1)によりブロックした。参照標準及び品質対照(QC)、及びカニクイザル血漿の未希釈被験試料を、ブロックしたプレートへ、室温で1時間添加した。ビオチン化された抗-hErbB3/HER3抗体(R&D Systems社、カタログ番号BAM348)、引き続きSulfo-TAG(MSD社、カタログ番号R32AD-1)の添加は、電気化学的に刺激した際に、光放出を生じた。このECLシグナルを捕獲し、MSD Sector Imager 2400において記録した。発生した光の量は、カニクイザル血漿試料中のsHER3の量に直接相関した。生データ(ECLカウント数)を、SOFTmax(登録商標)PROへ転送した。組換えヒトHER3標準の標準曲線を、5-パラメータフィットプログラムを用いてフィットさせた。カニクイザル血漿HER3濃度を、SOFTmax PROの統計関数を用い、この標準曲線を基に計算した。
加えて、皮膚生検試料を、生体分析のために収集した。簡単に述べると、対合のある10mm円形を、動物の皮膚上に描き、且つ0.1mg/mLのPBS又はHRGの〜100μLを、各円形の中央に皮内注入した。およそ20分間後に、各注入部位から皮膚試料を収集し、急速凍結した。あるいは、各々から対合のある生検試料を収集し(先行する皮内注入なし)、100μg/mL HRGを含む又は含まない培養培地内で、およそ30分間室温でインキュベーションし、引き続き氷冷PBSで2回洗浄した。次に洗浄した試料を、急速凍結した。その後組織を、Fast Prep装置(MP Biomedicals社)を用い、RIPA溶解緩衝液及びプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma-Aldrich社)並びにホスファターゼインヒビターカクテルのセットI及びII(EMD-Millipore社)を含むLysing Matrix Aチューブ(MP Biomedicals社)内でホモジナイズした。次に試料を、凍結−解凍サイクル及び追加のホモジナイゼーションサイクルに供し、その後14,000rpm、5分間、4℃での遠心分離により清澄化させた。清澄化された溶解液を、新たな1.5mLチューブに移し、タンパク質含量を測定した。総HER3及びpHER3のレベルは、サンドイッチELISAアッセイを用いて決定した。
(4.18.2. 結果)
少なくとも1ヶ月間カニクイザルへIV注入により週1回投与された場合(合計5回投与量)の2C2-YTEの毒性及び活性を評価するため、並びに6週間の回復期間の後の可逆性、持続性又は何らかの作用の遅れた出現を評価するために、6週間の回復相を伴う、2C2-YTEの非-GLP、1ヶ月、反復投与量毒性試験をカニクイザルにおいて実行した。雄のカニクイザルにおいて、5週間にわたる2C2-YTEの最大120mg/kg/投与量の週1回のIV投与(5分間の注入)の後に(合計5回投与量)、有害作用は認められなかった。
2C2-YTEのカニクイザルの皮膚におけるHRG-誘導したpHER3をブロックする能力が、インビボ及びエクスビボ評価により確認された。循環可溶性HER3の完全な抑制が、静脈内2C2-YTEを受け取った全ての動物において認められた。皮膚生検のHRGによるエクスビボ刺激は、pHER3:tHER3比の増加を生じ、このことはカニクイザルの皮膚に存在するHER3は、HER3の優先的リガンドであるHRGにより活性化され得ることを明らかにしている。HRG-誘導したpHER3の完全な抑制は、投薬相の終了時に全ての2C2-YTE処理群で達成された(データは示さず)。従って、2C2-YTEは、カニクイザル皮膚生検試料中においてインビボ及びエクスビボHRG-誘導したHER3リン酸化を、ブロックした。
(参考文献の組み込み)
本文において言及した全ての刊行物及び特許は、個別の刊行物又は特許が各々具体的且つ個別に引用により本明細書中に組み込まれているように、それらの全体が引用により本明細書中に組み込まれている。加えて、2011年11月23日に出願された米国特許仮出願第61/563,092号;2012年6月7日に出願された第61/656,670号;及び、2012年11月5日に出願された第61/722,558号は、あらゆる目的に関してそれらの全体が引用により組み込まれている。
具体的態様の先行する説明は、当業者の知識を適用することにより、他のものが、本発明の全般的概念から逸脱することなく、そのような具体的態様を容易に改変し及び/又は様々な適用に適合することができる、本発明の全般的性質を完全に明らかにするであろう。従って、そのような適合及び改変は、本文において提示された内容及び指針を基に、開示された態様の同等物の意味及び範囲内であることが意図されている。本文における表現又は用語は、説明を目的とし、限定を目的とせず、従って本明細書の用語又は表現は、本内容及び指針を鑑み、当業者により解釈されるものであることも理解されなければならない。