本発明の実施の形態の成膜装置1について、図1〜図3を参照して説明する。図1、図2、図3は夫々成膜装置1の縦断側面図、概略断面斜視図、平面図である。この成膜装置1は、互いに反応する2種類の処理ガスをウエハWに順番に供給してALD法によりSiO2(酸化シリコン)の薄膜を形成した後、この薄膜をプラズマにより改質する。ウエハWは当該成膜装置1を構成する真空容器11内に設けられた回転テーブル2上に載置され、各処理ガスによる処理領域、改質領域を順番に繰り返し通過する。それによってこの薄膜の形成とプラズマ改質とが交互に繰り返し行われて、前記ウエハWに所望の厚さの膜が形成される。
前記真空容器11は大気雰囲気中に設けられており、成膜処理中にはその内部が真空雰囲気とされる。真空容器11は概ね円形に構成されており、天板12と、真空容器11の側壁及び底部をなす容器本体13とにより構成されている。天板12は容器本体13に着脱自在に構成される。図1では容器本体13に天板12を装着した状態を示しており、図2、図3では当該天板12を容器本体13から取り外した状態を各々示している。
真空容器11の中央部には、下段側が拡径された概ね円形の凸部14が、天板12から下方に突出するように設けられる。この凸部14は、真空容器11の中心部にて前記回転テーブル2を支持する支持部21と共にガス流路15を備えた中心部領域Cを形成している。図中10は、ガス流路15にパージガスであるN2(窒素)ガスを供給する供給管である。ガス流路15から回転テーブル2の表面上に外周へ向けて前記N2ガスが供給され、当該中心部領域Cにおいて互いに異なる処理ガス同士が混ざり合うことが防がれる。また、凸部14の拡径部の上面には、内側へ向かう切り欠き16が設けられており、この切り欠き16は後述するノズルカバー51の支持部をなす。
回転テーブル2は前記支持部21から外方に広がるように円形に構成されている。回転テーブル2は、支持部21下方の回転駆動機構22により、その中心軸周りに時計回りに回転する。回転テーブル2の表面側(一面側)には、前記回転方向に沿って5つの基板載置領域である凹部23が形成されており、この凹部23にウエハWが載置される。そして、回転テーブル2の回転により凹部23のウエハWが前記中心軸周りに公転する。
真空容器11の側壁には、ウエハWの搬送口17が形成されている。搬送口17はゲートバルブ18により開閉自在に構成されており、ウエハWの搬入出を行う搬送機構24が真空容器11内に対して進退することができる。真空容器11内において、搬送機構24が進入する領域をウエハWの受け渡し領域S1として示している。図示は省略しているが、受け渡し領域S1における回転テーブル2の下方には昇降ピンが設けられている。この昇降ピンが前記凹部23に設けられる孔25を介して回転テーブル2表面に突没し、それによって凹部23と搬送機構24との間でウエハWの受け渡しが行われる。
図1に示すように回転テーブル2の下方には回転テーブル2から離れた位置にヒータ27が設けられている。ヒータ27の回転テーブル2への輻射熱により回転テーブル2が昇温し、載置されたウエハWが加熱される。図中28は、ヒータ27の配置空間をN2ガスによりパージするためのパージガス供給管である。また、真空容器11の底部中央を覆うケース体20には、回転テーブル2の下方中央部から周縁部へ向けてN2ガスをパージガスとして供給するパージガス供給部29が設けられている。
前記回転テーブル2の凹部23の通過領域と各々対向する位置には、5本のノズル31、32、33、41、42が真空容器11の周方向に互いに間隔をおいて各々配置されており、これら各ノズル31、32、33、41、42は、例えば真空容器11の外周壁から前記中心部領域Cに向かって水平に伸びるように各々設けられている。この例では第1の処理ガスノズル31、第1の分離ガスノズル41、第2の処理ガスノズル32、プラズマ発生用ガスノズル33及び第2の分離ガスノズル42が、この順で時計回りに配設されている。
各ノズル31、32、33、41、42は、流量調整バルブなどを備えた以下の各ガス供給源に夫々接続されている。即ち、第1の処理ガスノズル31は、Si(シリコン)を含む第1の処理ガス例えばBTBAS(ビスターシャルブチルアミノシラン、SiH2(NH−C(CH3)3)2)ガスの供給源に接続されている。第2の処理ガスノズル32は、第2の処理ガス例えばオゾン(O3)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガスの供給源(詳しくはオゾナイザーの設けられた酸素ガス供給源)に接続されている。プラズマ発生用ガスノズル33は、例えばアルゴン(Ar)ガスと酸素ガスとの混合ガスからなるプラズマ発生用ガスの供給源に接続されている。第1の分離ガスノズル41及び第2の分離ガスノズル42は、分離ガスであるN2ガスの供給源に各々接続されている。
回転テーブル2の回転方向に沿った縦断側面図である図4も参照する。ガスノズル31、32、33、41、42の下面側には、ガス吐出口34が各ガスノズルの長さ方向に沿って多数形成されており、各供給源に貯留されたガスが当該吐出口34から吐出される。中心部領域Cから吐出されるパージガスにより、回転テーブル2の中心部側において処理ガスの濃度が低くなることを防ぐために第1の処理ガスノズル31では周縁部側に比べて中心部側に多くのガス吐出口34が設けられ、多くの流量で処理ガスを供給できるように構成されている。プラズマ発生用ガスノズル33のガス吐出口34は、回転方向上流側からの後述のプラズマ処理領域P3へのガスの進入を防ぐために、回転方向上流側へ向けて斜め下方にガスを吐出する。
第1の処理ガスノズル31の下方領域及びこの第1の処理ガスノズル31に設けられるノズルカバー51の下方領域は、前記第1の処理ガスが供給され、ウエハWに第1の処理ガスを吸着させるための第1の処理領域P1を構成する。ノズルカバー51については後に詳述する。また、第2の処理ガスノズル32の下方領域は第2の処理ガスが供給され、ウエハWに吸着された第1の処理ガスと当該第2の処理ガスとを反応させるための第2の処理領域P2を構成する。プラズマ発生用ガスノズル33の周囲は後述する突起部79に囲まれ、前記改質領域であるプラズマ処理領域P3を構成する。
真空容器11の天板12の下方には、扇状の2つの凸部43が当該天板12から下方に突出するように配置され、凸部43は周方向に間隔をおいて設けられる。回転テーブル2の回転中心側において、各凸部43は前記中心部領域Cをなす凸部14に接続されている。分離ガスノズル41、42は各々凸部43にめり込み、当該凸部43を周方向に分割するように設けられている。つまり、分離ガスノズル41、42おける回転テーブル2の周方向両側には、前記凸部43の下面である低い天井面44(第1の天井面)が配置されている。そして、この天井面44の前記周方向両側には、当該天井面44よりも高い天井面45(第2の天井面)が配置される。
前記第1の天井面44の下方は、第1の処理ガスと第2の処理ガスとの混合を阻止するための分離領域として構成されており、分離ガスノズル41、42が設けられる分離領域を夫々第1の分離領域D1、第2の分離領域D2とする。成膜処理時に第1及び第2の分離ガスノズル41、42から前記第1及び第2の分離領域D1、D2に供給されたN2ガス(分離ガス)が、分離領域D1、D2を夫々周方向に広がり、第1及び第2の処理ガス及びプラズマ発生用ガスを後述の真空排気口62、63へと押し流す。図5は、成膜処理時におけるガスの流れを矢印で示している。
続いて真空容器11に設けられるプラズマ処理部71について、各部の分解斜視図である図6も参照しながら説明する。プラズマ処理部71は、金属線からなるコイル状のアンテナ72を備え、図3に示すように平面で見た時に回転テーブル2の中央部側から外周部側に亘ってウエハWの通過領域を跨ぐように配置されている。アンテナ72は、回転テーブル2の半径方向に沿って伸びる帯状の領域を囲むように概略八角形をなしている。また、このアンテナ72は、整合器73を介して周波数が例えば13.56MHz及び出力電力が例えば5000Wの高周波電源74に接続されている。
既述のプラズマ発生用ガスノズル33の上方側にて、天板12は平面で見て概略扇形に開口している。この開口部は、例えば石英などからなる筐体75によって気密に塞がれており、前記アンテナ72が真空容器11の内部から気密に区画されている。この筐体75は、その周縁部が周方向に亘ってフランジ状に水平に伸び出すと共に、中央部が真空容器11の内部領域に向かって窪むように形成されており、この筐体75の内側に前記アンテナ72が収納されている。図中76は押圧部材であり、筐体75の周縁部を下方側に向かって押圧する。77は、プラズマ処理部71と整合器73及び高周波電源74とを電気的に接続するための接続電極である。
筐体75の下面は、当該筐体75の下方領域への分離ガス及び第2の処理ガスの侵入を阻止するために、外縁部が周方向に亘って下方側(回転テーブル2側)に向かって垂直に伸び出して、ガス規制用の突起部79を形成している。そして、この突起部79の内周面及び筐体75の下面により囲まれた領域には、既述のプラズマ発生用ガスノズル33が収納されている。
筐体75とアンテナ72との間には、上面側が開口する概略箱型のファラデーシールド81が配置されており、このファラデーシールド81は、導電性の板状体である金属板により構成されると共に接地されている。このファラデーシールド81の底面には、アンテナ72において発生する電界及び磁界(電磁界)のうち電界成分が下方のウエハWに向かうことを阻止すると共に、磁界をウエハWに到達させるために、多数のスリット82が形成されている。このスリット82は、アンテナ72の巻回方向に対して直交する方向に伸びるように形成されており、アンテナ72に沿うように周方向に亘って当該アンテナ72の下方位置に設けられている。図6中83はファラデーシールド81とアンテナ72とを絶縁する絶縁板であり、84は、ファラデーシールド81を筐体75のフランジに支持するための支持部材である。
他の真空容器11の各部について説明すると、図1、3に示すように、回転テーブル2の外周側の下方には、真空容器11の周に沿ってリング部材61が配置されている。リング部材61には、互いに周方向に離間して第1の真空排気口62、第2の真空排気口63が設けられている。第2の真空排気口63は、前記プラズマ処理領域P3よりも第2の分離領域D2に寄った位置に設けられている。第1の真空排気口62は第1の処理ガス、プラズマ発生用ガス及び分離ガスを排気し、第2の真空排気口63は、第2の処理ガス及び分離ガスを排気する。
第1及び第2の真空排気口62、63は、各々排気管64を介して真空排気機構である真空ポンプ65に接続されている。各排気管64にはバタフライバルブなどの圧力調整部66が介設され、真空排気口62、63からの各排気量が独立して制御される。また、図3、4中の67は、リング部材61に形成された溝であり、第2の真空排気口63からプラズマ処理部71の回転方向上流側へ向かって周方向に形成されている。溝67は、第2の処理ガスノズル32から供給される第2の処理ガスと、第1の分離ガスノズル41から供給される分離ガスとを、第2の真空排気口63へガイドする役割を有する。
続いて、前記ノズルカバー51について説明する。図7は第1の処理ガスノズル31に装着した状態のノズルカバー51の上面側を示しており、図8は、第1の処理ガスノズル31から取り外した状態のノズルカバー51の下面側を示している。図9はノズルカバー51の側面図である。前記第1の処理ガスノズル31の前記ガス吐出口34が設けられる領域は角型に形成されており、ノズルカバー51はこの角型部の上側、回転方向両側及び回転テーブル2の中心側を囲うカバー本体52を備えている。カバー本体52は回転テーブル2の外周側から中心部側へ向かう細長の角型形状に形成されている。
図10は、回転テーブル2の中心側(回転軸側)におけるカバー本体52の縦断側面を示している。この図10に示すように、カバー本体52には、前記中心側に向かって突き出た突起501が設けられている。この突起501は、前記凸部14の切り欠き16内に収まり、当該回転テーブル2上にノズルカバー51を支持する。また、図4に示すようにこのカバー本体52と天板12との間には、ノズルカバー51に対して回転方向上流側と下流側との間でガスを通流させる通流空間50が設けられる。この通流空間50の高さhは、例えば5〜15mmである。
カバー本体52の下端から、回転方向上流側、下流側に整流板53、54が夫々突き出ている。整流板53、54は、第1の処理ガスノズル31の長さ方向に沿って設けられると共に、回転テーブル2の外側に向かうほど大きく突き出ており、それによってノズルカバー51は平面視概ね扇状に構成されている。整流板53、54の回転テーブル2の外周側は下方に屈曲され、当該回転テーブル2の外周に対向する対向部55を形成している。この対向部55は、前記カバー本体52における回転テーブル2の中心側の壁部と共に、第1の処理領域P1に供給された第1の処理ガスが、中心部領域Cから回転テーブル2の周端に向けて供給されるパージガスにより当該周端に押し流されることを防ぐ役割を有している。これによって回転テーブル2の半径方向における第1の処理ガス濃度の均一性を高くしている。
各整流板53、54の各対向部55において、その外周面の一部はさらに回転テーブル2の外周側へと引き出されて、引出し部56を形成している。図11は、整流板53の引出し部56の縦断側面を示している。前記引出し部56には貫通孔502が形成されており、この貫通孔502の内周面にはネジが切られている。前記リング部材61には支柱503が設けられている。この支柱503には上下方向に向かって伸びる傾き調整部をなす棒ネジ504が設けられている。この棒ネジ504は、支柱503に対して軸回りに回転自在に構成され、前記貫通孔502のネジと螺合している。棒ネジ504の上面は、レンチ505が差し込まれる凹部506を備えている。成膜装置1のユーザは、真空容器11から天板12を取り外し、レンチ505により棒ネジ504を回転させることで、支柱503に対して前記整流板53の引出し部56を昇降させて、その高さを調整することができる。
整流板53の引出し部56について説明したが、整流板54の引出し部56も整流板53の引出し部56と同様に構成され、その下方には支柱503が設けられており、棒ネジ504によりこの支柱503に対する高さが調整できる。つまり、このノズルカバー51においては、回転テーブル2の中心側(一端側)を支点として、回転テーブル2の周縁側(他端側)の高さ位置の調整を行うことができる。それによって、各整流板53、54の長さ方向の傾きが調整される。図9を参照すると、整流板53における回転テーブル2の中央側端部と当該回転テーブル2との離間距離(中央側離間距離とする)h1は、後述の整流板53の効果を得るために例えば2〜6mmに設定される。回転テーブル2の周縁と整流板53の周縁側との離間距離h2(周縁側離間距離とする)は、例えば1〜4mmに設定される。そして、この周縁側離間距離h2は、前記中央側離間距離h1よりも1mm以上小さくなるように設定される。そして、このように設定されることにより、整流板53と回転テーブル2との離間距離は、回転テーブル2の中央側から周縁部側に向かうに従って、次第に小さくなる。後述の効果を得るために、好ましくは周縁側離間距離h2は、中央側離間距離h1よりも1.5mm以上小さくなるように設定される。
このノズルカバー51の役割と、上記のように整流板53と回転テーブル2との離間距離h1、h2が設定される理由を説明する。成膜処理時には、回転テーブル2が回転した状態で、図5に示したように各ガスノズル31〜33、41、42からガスが供給される。このとき、第1の処理ガスノズル31から吐出される第1の処理ガスは、この整流板53、54と回転テーブル2との間をウエハWに沿って通流する。つまり整流板53、54は、第1の処理ガスノズル31の周囲における第1の処理ガスの拡散を抑え、ウエハWと当該第1の処理ガスとの反応性を高くする役割を有する。また、整流板53は、第2の分離ガスノズル42から第1の処理領域P1に向けて流れる分離ガスを前記通流空間50にガイドし、当該分離ガスが第1の処理領域P1へ進入することを防ぐ役割も有しており、それによって第1の処理領域P1の第1の処理ガスの濃度の低下を抑えている。
ノズルカバー51及び回転テーブル2を模式的に示した図12も参照しながら説明する。この図12では、前記第2の分離ガスノズル42から第1の処理領域P1に向けて流れる分離ガス(N2ガス)の流れを矢印で概略的に示している。なお、図中の鎖線は回転テーブル2の表面に沿った仮想線である。上記のように分離ガスは通流空間50へガイドされるが、当該分離ガスは粘度を持っているため、その全てが通流空間50にガイドされるわけではなく、回転テーブル2の回転に巻き込まれることにより、その一部は第1の処理領域P1にも流れ込む。そして、回転テーブル2の速度は、回転テーブル2の中央側に比べて周縁側の方が大きく、速度が大きいほど前記回転に巻き込まれて第1の処理領域P1に流入する分離ガスの量が多くなりやすい。そこで前記整流板53を、上記のように前記中央側に比べて前記周縁側が回転テーブル2に対してより近接するように傾けて配置し、第1の処理領域P1において前記回転テーブル2の周縁側への分離ガスの進入量を抑える。それによって、第1の処理領域P1において前記回転テーブル2の中央側と周縁側との間における第1の処理ガスの濃度のばらつきを抑えることができる。
回転テーブル2の回転速度によって第1の処理領域P1への分離ガスの巻き込まれる量は変化するので、成膜処理時の回転テーブル2の回転速度に応じて前記中央側離間距離h1及び周縁側離間距離h2は適宜設定される。この実施の形態では、回転テーブル2は成膜処理時に240rpmで回転し、前記中央側離間距離h1は3mm、周縁側離間距離h2は1mmに夫々設定される。なお、20rpm程度で成膜処理を行うときは、回転テーブル2の回転によって第1の処理領域P1に巻き込まれる分離ガスの流量は比較的少ないので、各離間距離h1、h2は各々例えば3mmであってもよい。つまり、整流板53を回転テーブル2と平行するように設けてもよい。回転テーブル2の回転速度が60rpm以上であると、上記の分離ガスの巻き込みが起こりやすくなり、整流板53を傾けることが有効である。
この実施形態では整流板54については、その長さ方向の傾きが整流板53と同じ傾きになるように設定されている。つまり整流板54についても中央側離間距離h1、周縁側離間距離h2が夫々3mm、1mmに設定されている。続いて、図13の概略平面図を参照して、ノズルカバー51のその他の寸法の一例を示しておくと、整流板53における回転方向上流側の外形線と、第1の処理ガスノズル31の伸長方向とのなす角αは例えば15°である。また、整流板54における回転方向下流側の外形線と、第1の処理ガスノズル31の伸長方向とのなす角βは前記αよりも大きく、例えば22.5°である。整流板53、54の回転テーブル2の外縁部の上方の円弧の長さ寸法u1、u2は、例えば夫々120mm、180mmである。整流板53、54は、この図13に示すような扇状に形成されることで、速度が大きい回転テーブル2の周縁側での第1の処理ガスの拡散を抑え、当該第1の処理ガスのウエハWへの吸着を担保している。
整流板54により第1の処理ガスノズル31から第1の真空排気口62に向かう第1の処理ガスの流れが阻害されないように、整流板54の回転方向下流側の外形線と、回転テーブル2の中心Oと第1の真空排気口62の回転方向下流側の端部とを結ぶ線(図中鎖線で表示)とのなす角γは0°以上に設定され、この例では7.5°である。上記のようにノズルカバー51へ乗り上げたN2ガスは、当該ノズルカバー51上を通過して回転テーブル2との接触が防がれながら、前記第1の真空排気口62へ流れ込んで排気される。
この成膜装置1には、装置全体の動作のコントロールを行うためのコンピュータからなる制御部7が設けられており、この制御部7には後述のように成膜処理を実行するプログラムが格納されている。このプログラムは、装置1の各部に制御信号を送信して、各部の動作を制御する。具体的には、各ガス供給源から各ガスノズルへのガスの給断、高周波電源74のオンオフによるプラズマの形成及び形成の停止、回転駆動機構22による回転テーブル2の回転速度の制御、圧力調整部66による各真空排気口62、63からの排気量の調整などの各動作を制御する。前記プログラムにおいては、これらの動作を制御して後述の各処理が実行されるようにステップ群が組まれている。当該プログラムは、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカード、フレキシブルディスクなどの記憶媒体から制御部7内にインストールされる。
次に、上記の成膜装置1による成膜処理の手順について説明する。先ず、ゲートバルブ18を開いた状態で回転テーブル2が間欠的に回転されながら、搬送口17を介して搬送機構24によりウエハWが受け渡し領域S1に順次搬送され、回転テーブル2の5つの各凹部23にウエハWが載置される。次いで、真空ポンプ65により第1及び第2の真空排気口62、63から排気が行われ、真空容器11内が引き切りの状態にされる。この排気に並行して、回転テーブル2が例えば240rpmで時計回りに回転されながら、ヒータ27によりウエハWが例えば300℃に加熱される。
続いて、処理ガスノズル31、32から第1の処理ガスであるBTBASガス、第2の処理ガスであるO3ガス及びO2ガスが夫々吐出されると共に、プラズマ発生用ガスノズル33からプラズマ発生用ガスであるArガス及びO2ガスが吐出される。また、分離ガスノズル41、42から分離ガスであるN2ガスが吐出されると共に、中心部領域C、パージガス供給管28及びパージガス供給部29から夫々パージガスであるN2ガスが吐出される。そして、各圧力調整部66により第1及び第2の真空排気口62、63からの各排気量が制御され、真空容器11内が予め設定した処理圧力に調整されると共に、アンテナ72に対して高周波電力が供給される。
ウエハWの表面では、回転テーブル2の回転によって第1の処理領域P1において第1の処理ガスが吸着し、次いで第2の処理領域P2においてウエハW上に吸着した第1の処理ガスと第2の処理ガスとの反応が起こり、反応生成物としてSiO2の分子層が1層あるいは複数層形成される。この時、反応生成物中には、例えば第1の処理ガスに含まれる残留基のため、水分(OH基)や有機物などの不純物が含まれている場合がある。
一方、プラズマ処理部71の下方側では、高周波電源74から供給される高周波電力により発生した電界及び磁界のうち電界は、ファラデーシールド81により反射あるいは吸収(減衰)されて、真空容器11内への到達が阻害される(遮断される)。磁界は、ファラデーシールド81のスリット82を通過して、筐体75の底面を介して真空容器11内に到達する。従って、プラズマ発生用ガスノズル33から吐出されたプラズマ発生用ガスは、スリット82を介して通過してきた磁界によって活性化されて、例えばイオンやラジカルなどのプラズマが生成する。
そして、磁界により発生したプラズマ(活性種)がウエハWの表面に接触すると、前記反応生成物の改質処理が行われる。具体的には、例えばプラズマがウエハWの表面に衝突することにより、例えばこの反応生成物から前記不純物が放出されたり、反応生成物内の元素が再配列されて緻密化(高密度化)が起こる。こうして回転テーブル2の回転を続けることにより、ウエハW表面への第1の処理ガスの吸着、ウエハW表面に吸着した第1の処理ガスの成分の反応及び反応生成物のプラズマ改質がこの順番で繰り返し行われ、SiO2の分子層が積層される。
図14は真空容器11の横断面図であり、図5と同様に、この成膜処理時の各部のガス流を矢印で示している。これら図5、図14に示すように、第1の処理領域P1と第2の処理領域P2との間の第1及び第2の分離領域D1、D2に分離ガスを供給しているので、第1の処理ガスと、第2の処理ガス及びプラズマ発生用ガスとの混合が阻止されるように、各ガスが排気される。更に、回転テーブル2の下方側にパージガスを供給しているため、回転テーブル2の下方側に拡散しようとするガスは、前記パージガスにより第1及び第2の真空排気口62、63側へと押し戻される。
このとき、既述したように第2の分離ガスノズル42から供給された分離ガスが、第1の処理領域P1に向かって流れる。図12で説明したように回転テーブル2の周縁側は中央側に比べてその速度が大きいため、第1の処理領域P1の周縁側に向かうほどこの回転テーブル2に乗って大きな速度で前記分離ガスが向かう。しかし、前記周縁側に向かうほど整流板53と回転テーブル2との離間距離が小さく形成されているので、分離ガスのノズルカバー51への乗り上げが起こりやすい。つまり、第1の処理領域P1において、前記中央側と周縁側との間でN2ガスの巻き込み量の程度の差が小さくなる。
ノズルカバー51に乗り上げた分離ガスは、第1の真空排気口62から排気される。また、第1の処理領域P1に供給された余剰な第1の処理ガス及び前記第1の処理領域P1に巻き込まれた分離ガスも第1の真空排気口62から排気される。回転テーブル2が所定の回数回転し、所望の膜厚のSiO2膜が形成されると各ガスの供給が停止して、ウエハWは搬入時とは逆の動作で成膜装置1から搬出される。
この成膜装置1は、第1のガスノズル31から回転テーブル2の回転方向上流側に突き出た整流板53を形成するノズルカバー51を備えている。この整流板53は、回転テーブル2との離間距離が回転テーブルの中央部側から周縁部側に向かって小さくなるように、その長さ方向に傾いて設置されている。このため、回転テーブル2の中央側と周縁側との間で整流板53への、分離領域D2から供給されるN2ガスの巻き込みの程度の差が小さくなる。従って、第1の処理領域P1において、前記回転テーブル2の中央側と周縁側との間での第1の処理ガス濃度のばらつきが抑えられ、ウエハWの面内に均一性高く第1の処理ガスを吸着させることができる。結果として、ウエハWの面内において、SiO2膜の膜厚の均一性が低下することを抑えることができる。
そして、このように整流板53を設置することによって上記のN2ガスの巻き込みの程度の差が小さくなるため、回転テーブル2の回転速度を比較的高くすることができる。従って、処理ガス供給及び膜の改質処理のサイクルにおいて、1つのサイクルに要する時間を低下させることができるため、装置の生産性の向上を図ることができる。また、前記第1の処理領域P1の周縁側において、分離ガスによる第1の処理ガスの希釈が抑えられ、ウエハWへの第1の処理ガスの吸着反応が促進されるので、第1のガスノズル31から供給する第1の処理ガスの流量の低減を図ることができる。従って、成膜装置1による生産コストの低減化を図ることができる。
また、上記のノズルカバー51は、その外周側において支柱503からの高さがネジにより調整自在に構成されている。このように高さが調整自在に構成されることで、真空容器11に対する回転テーブル2の高さ位置の取り付け位置に応じて、ノズルカバー51の傾きを調整することができる。つまり、回転テーブル2の取り付け精度が低く、回転テーブル2が所定の高さ位置に取り付けられていなくても前記ネジにより、前記周縁側離間距離h2を所望の値にすることができる。従って、成膜装置1へのノズルカバー51の取り付けを容易にすることができる。
前記ノズルカバー51の傾きの調整についてはネジにより行われることに限られない。図15では引出し部56と支柱503との間に、スペーサ511を設けた例を示している。スペーサ511は引出し部56と支柱503とに着脱自在に構成される。スペーサ511は、その高さの違うものが複数用意され、交換されることで前記傾きが調整される。また、引出し部56と支柱503とが一体に構成されたノズルカバー51が複数用意され、ノズルカバー51ごとに支柱503の高さが異なっている。これらのノズルカバー51を交換することで、前記傾きの調整を行ってもよい。
整流板53及び整流板54の中央側離間距離h1は互いに等しくなくてもよく、整流板53及び整流板54の周縁側離間距離h2についても互いに等しくなくてよい。また、整流板53の形状としては上記の例に限られない。図16では、第1の処理ガスノズル31に整流板53の代わりに整流板57を設けた例を示している。図中の鎖線は、回転テーブル2の表面を示す仮想線である。この整流板57は、回転テーブル2に対して平行に設けられるが、その下面には段差が形成されている。そして整流板57において、回転テーブル2の中央側半分の高さは、回転テーブル2の周縁部側半分の高さよりも高い。つまり、中央側離間距離h1>周縁側離間距離h2となるように構成されており、回転テーブル2との離間距離が周縁側に向かって小さくなっている。この整流板57でも離間距離h1、h2との差は1mm以上に設定される。なお、この図16に示すように、第1の処理ガスノズル31には回転方向上流側の整流板だけを設け、回転方向下流側の整流板を設けなくてもよい。また、整流板53、57としては平面視扇状に形成することに限られず、例えば平面視矩形状に形成してもよいが、回転テーブル2の径方向における処理の均一性を高めるために前記扇状に形成することが好ましい。
また、このような整流板53、81は、分離領域により2つの処理領域が分離される装置について適用することができる。従って、上記の成膜装置1に適用されることに限られない。例えば、上記成膜装置1において、第2の処理領域P2にもプラズマが形成されるような装置構成であってもよいし、プラズマ処理領域P3を持たない装置構成であってもよい。
(評価試験1)
本発明に関連して行われた成膜装置1のシミュレーションによる評価試験について説明する。評価試験1として、上記の実施形態のように回転テーブル2を回転させると共に、第1の真空排気口62から排気を行いながら第1の処理ガスノズル31からガスを吐出したときの、第1の処理領域P1及びその周囲における前記ガスの質量割合の分布について測定した。このガス吐出時の真空容器11内の圧力は2Torr、温度は600℃に夫々設定した。前記ガスはLTO(low temperature oxide)膜形成用のSi含有ガスとして設定し、その流量は0.1slm(L/分)に設定した。
そして、前記Si含有ガス供給時の回転テーブル2の回転速度については測定を行うたびに変更しており、20rpm、120rpm、240rpmに夫々設定した。そのように回転速度を20rpm、120rpm、240rpmに設定して行った測定を、夫々評価試験1−1、1−2、1−3とする。ただし、この評価試験1においては上記の実施形態のように整流板53、54を回転テーブル2に対して傾けておらず、回転テーブル2に平行に配置している。回転テーブル2から整流板53、54までの高さは3mmに設定した。
図17、18、19は、夫々評価試験1−1、1−2、1−3の試験結果を示している。この評価試験1及び後述の他の評価試験の結果を示す各図では、前記Si含有ガスの質量割合の所定の範囲ごとに、真空容器11内を等高線で区画して示している。このように区画した真空容器11において、前記質量割合が100%以下、90%以上である領域に網目模様を付し、90%より低く80%以上である領域に実線の斜線を付し、80%より低く60%以上である領域に点線の斜線を付している。また、60%より低く40%以上である領域に比較的多数の点を付し、40%より低く20%以上である領域に縦方向に引かれた点線模様を付し、20%より低く10%以上である領域に比較的少数の点を付している。10%より低い領域にはこれらの模様を付していない。なお、この評価試験において、整流板53、54の周縁側とは、特に記載しない限り整流板53、54において回転テーブル2の径方向外側に向かう周縁側を指す。
評価試験1−1〜1−3の結果から、回転テーブル2の回転速度が大きくなるほど第1の処理領域P1のSi含有ガスの質量割合が低くなり、整流板53、54の下方の周縁側における前記ガスの質量割合は、中央側における前記ガスの質量割合に比べて低くなることが分かる。評価試験1−1の結果と、評価試験1−3の結果とを比較すると、回転速度が上昇することで特に整流板53下方の周縁側におけるSi含有ガスの質量割合が大きく低下していることが分かる。これは実施の形態で説明したように、回転テーブル2の周縁側は中央側に比べて速度が大きいため、回転テーブル2の回転速度を上昇させると、当該箇所に多くの分離ガスが引き込まれるためである。
(評価試験2)
続いて、整流板53、54を傾けることによる効果を調べるための評価試験2を行った。この評価試験2では評価試験1と略同様に測定を行っているが、整流板53、54の傾きの設定は測定を行うたびに変更した。各測定を評価試験2−1、2−2、2−3とする。評価試験2−1では、評価試験1と同様に整流板53、54が水平に配置されているように設定した。前記中央側離間距離h1及び周縁側離間距離h2は3mmである。評価試験2−2では、回転テーブル2に対して整流板53、54が傾いているように設定した。前記中央側離間距離h1は3mm、周縁側離間距離h2は2mmである。評価試験2−3では、実施形態と同様に前記中央側離間距離h1を3mm、周縁側離間距離h2を1mmに夫々設定した。この評価試験2では、回転テーブル2の回転速度は240rpmに設定し、分離ガスノズル41、42からの分離ガスの流量は5slmに設定している。
図20、21、22は、夫々評価試験2−1、2−2、2−3の結果を示している。評価試験2−1、2−2の結果を見ると、整流板53、54下方の周縁側のSi含有ガスの質量割合は比較的低く、これら評価試験2−1、2−2の間では、この周縁側における前記ガスの質量割合の分布に大きな変化は見られない。しかし、これら評価試験2−1、2−2の結果と、評価試験2−3の結果とを比較すると、評価試験2−3では整流板53、54下方周縁側のSi含有ガスの質量割合が高くなっている。それによって回転テーブル2の径方向におけるSi含有ガスの質量割合の分布のばらつきが抑えられている。従って、分離ガスの第1の処理領域P1への巻き込みが、ノズルカバー51の傾きを調整することにより抑えられることが示され、本発明の効果が確認された。
(評価試験3)
第1のガスノズル31から供給されるガス流量を200sccmに設定した他は評価試験2と同じ条件で解析を行った。この評価試験3でも評価試験2と同様に整流板53、54の傾きを測定ごとに変更している。評価試験3−1では、評価試験2−1と同様、前記中央側離間距離h1及び周縁側離間距離h2を3mmに設定した。評価試験3−2では評価試験2−2と同様、前記中央側離間距離h1を3mm、周縁側離間距離h2を2mmに夫々設定した。評価試験3−3では評価試験2−3と同様、中央側離間距離h1を3mm、周縁側離間距離h2を1mmに夫々設定した。
図23、24、25は夫々評価試験3−1、3−2、3−3の各結果を示している。評価試験3−1の結果と評価試験3−2の結果とを比較すると、評価試験3−2では整流板54の下方外周側においてSi含有ガスの質量割合が高くなっていることが分かる。また、評価試験3−3の結果と評価試験3−2の結果とを見ると、評価試験3−3では整流板54の下方周縁側のSi含有ガスの質量割合がより高くなっており、また、整流板53の下方周縁側のSi含有ガスの質量割合も高くなっている。それによって回転テーブル2の径方向におけるSi含有ガスの質量割合の分布のばらつきが抑えられている。なお、評価試験3−3、3−2では前記評価試験2−3、2−2に比べて、よりガス質量割合の分布のばらつきが抑えられた良好な結果が得られている。このように評価試験3からも評価試験2と同様に本発明の効果を確認することができた。