【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、嵩高い置換基を有するビニル化合物を付加重合させる際に用いられる重合用触媒成分および重合用触媒、嵩高い置換基を有するビニル化合物の重合体の製造方法、並びに、嵩高い置換基を有するビニル化合物を付加重合させるに際しての遷移金属化合物の使用に関する。
【0002】
【従来の技術】
エチレンやプロピレンといったオレフィンの重合の分野では、いわゆるメタロセンや非メタロセンなどの遷移金属化合物を用いて調整されるシングルサイト触媒の登場により、従来とは違った性質のポリマーを製造することができるといった進歩がもたらされつつある。
【0003】
ビニルシクロヘキサンのように嵩高い置換基を有するビニル化合物の重合についてもかかる触媒の適用が提案されており、例えば、Polymer Science USSR,Vol32.No.9,1868-1872 (1990)や、Polymer,Vol34(9),1941(1993)には、エチレンとビニルシクロヘキサンとの共重合体の製造方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような嵩高い置換基を有するビニル化合物の重合体は、ポリ塩化ビニルに似た性質を示し、非ハロゲン化材料として期待される。しかしながら、上記のような公知の該重合体の製造方法は共重合性が低く(即ち、重合に供したモノマー中の嵩高い置換基を有するビニル化合物のモル比率に比して、得られた重合体に含まれる該ビニル化合物から誘導される繰り返し単位の比率(共重合組成)がかなり低い)、高い該ビニル化合物共重合組成を有する共重合体を得ることは困難であった。
かかる状況下、本発明が解決しようとする課題は、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合体を共重合性よく製造し得る触媒成分および重合用触媒、並びに、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合体を共重合性よく製造する方法を提供することにある。また本発明が解決しようとする課題は、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合体を共重合性よく製造するための遷移金属化合物の用途を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
エチレンおよび/またはα−オレフィンと下記ビニル化合
物とを付加重合させる際に用いる触媒成分であって、下記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物からなるビニル化合物重合用触媒成分;
エチレンおよび/またはα−オレフィンと下記ビニル化合
物とを付加重合させる際に用いる触媒であって、(A)下記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物と、下記(B)および/または下記(C)とを接触させて得られるビニル化合物重合用触媒;該ビニル化合物重合用触媒を用いて
エチレンおよび/またはα−オレフィンと下記ビニル化合
物とを付加重合するビニル化合物重合体の製造方
法により、前記諸課題を解決するものである
。ビニル化合
物:CH
2=CH−R’で表され、置換基R’が
3〜10員環の炭素原子数3〜20のシクロアルキル基であるビニル化合物。
(上記一般式[I]または[II]においてそれぞれ、Mは周期律表第4族の遷移金属原子を表し、Oは酸素原子を表す。XおよびYは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜24の炭化水素基もしくは置換炭化水素基、炭素原子数1〜24のスルホニルオキシ基、または炭素原子数2〜24の2置換アミノ基を表す。Cpは
η5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基を表し、
R−O−は2,6−ジエチルフェノキシ基、2,3,6−トリエチルフェノキシ基、2,4,6−トリエチルフェノキシ基、2,6−ジ−n−プロピルフェノキシ基、2,3,6−トリ−n−プロピルフェノキシ基、2,4,6−トリ−n−プロピルフェノキシ基、2,6−ジイソプロピルフェノキシ基、2,3,6−トリイソプロピルフェノキシ基、2,4,6−トリイソプロピルフェノキシ基または2,6−ジ−sec−ブチルフェノキシ基を表す。但し、一般式[II]における2つのRは同じであっても異なっていてもよい。)
(B):下記(B1)〜(B3)から選ばれる1種以上のアルミニウム化合物
(B1)一般式 E
1aAlZ
3-aで示される有機アルミニウム化合物
(B2)一般式 {−Al(E
2)−O−}
bで示される構造を有する環状のアルミノキサン
(B3)一般式 E
3{−Al(E
3)−O−}
cAlE
32で示される構造を有する線状のアルミノキサン
(但し、E
1、E
2およびE
3は、それぞれ炭化水素基であり、全てのE
1、全てのE
2および全てのE
3は同じであっても異なっていても良い。Zは水素原子またはハロゲン原子を表し、全てのZは同じであっても異なっていても良い。aは0<a≦3を満足する数を、bは2以上の整数を、cは1以上の整数を表す。)
(C):下記(C1)〜(C3)から選ばれる1種以上のホウ素化合物
(C1)一般式 BQ
1Q
2Q
3で表されるホウ素化合物、
(C2)一般式 G
+(BQ
1Q
2Q
3Q
4)
-で表されるホウ素化合物、
(C3)一般式 (L−H)
+(BQ
1Q
2Q
3Q
4)
-で表されるホウ素化合物
(但し、Bは3価の原子価状態のホウ素原子であり、Q
1〜Q
4はハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、置換シリル基、アルコキシ基または2置換アミノ基であり、それらは同じであっても異なっていても良い。G
+は無機または有機のカチオンであり、Lは中性ルイス塩基であり、(L−H)
+はブレンステッド酸である。)。
【0006】
【発明の実施の形態】
前記一般式[I]または[II]において、Mは元素の周期律表(IUPAC無機化学命名法改訂版1989)の第4族の遷移金属原子を表し、好ましくはチタニウム原子、ジルコニウム原子、またはハフニウム原子であり、さらに好ましくはチタニウム原子またはジルコニウム原子であり、特に好ましくはチタニウム原子である。
【0007】
前記一般式[I]または[II]において、Cp
はη5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基
である。 なお、本明細書においては、遷移金属化合物の名称については「η
5−」を省略することがある。
【0008】
前記一般式[I]において
、(R−O−)は2,6−ジエチルフェノキシ基、2,3,6−トリエチルフェノキシ基、2,4,6−トリエチルフェノキシ基、2,6−ジ−n−プロピルフェノキシ基、2,3,6−トリ−n−プロピルフェノキシ基、2,4,6−トリ−n−プロピルフェノキシ基、2,6−ジイソプロピルフェノキシ基、2,3,6−トリイソプロピルフェノキシ基、2,4,6−トリイソプロピルフェノキシ基または2,6−ジ−sec−ブチルフェノキシ基を表す。【0013】
前記一般式[I]または[II]において、XおよびYは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜24の炭化水素基もしくは置換炭化水素基、炭素原子数1〜24のスルホニルオキシ基、または炭素原子数2〜24の2置換アミノ基を表す。かかるハロゲン原子の具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0014】
また、炭素原子数1〜24の炭化水素基としては、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数6〜24のアリール基、炭素原子数7〜24のアラルキル基などが例示され、アルキル基の具体例を挙げると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、neo−ペンチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル、n−ドデシル基、n−ペンタデシル基、n−エイコシル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、またはアミル基である。これらのアルキル基はいずれも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基などのアリールオキシ基などで置換されていてもよい。
【0015】
アリール基としては、例えばフェニル基、2−トリル基、3−トリル基、4−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2,3,4,5−テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、エチルフェニル基、n−プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、sec−ブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、n−ペンチルフェニル基、neo−ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基である。これらのアリール基はいずれも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基などのアリールオキシ基などで置換されていてもよい。
【0016】
アラルキル基としては、例えばベンジル基、(2−メチルフェニル)メチル基、(3−メチルフェニル)メチル基、(4−メチルフェニル)メチル基、(2,3−ジメチルフェニル)メチル基、(2,4−ジメチルフェニル)メチル基、(2,5−ジメチルフェニル)メチル基、(2,6−ジメチルフェニル)メチル基、(3,4−ジメチルフェニル)メチル基、(4,6−ジメチルフェニル)メチル基、(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル基、(ペンタメチルフェニル)メチル基、(エチルフェニル)メチル基、(n−プロピルフェニル)メチル基、(イソプロピルフェニル)メチル基、(n−ブチルフェニル)メチル基、(sec−ブチルフェニル)メチル基、(tert−ブチルフェニル)メチル基、(n−ペンチルフェニル)メチル基、(neo−ペンチルフェニル)メチル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基等が挙げられ、好ましくはベンジル基である。これらのアラルキル基はいずれも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基などのアリールオキシ基などで置換されていてもよい。
【0017】
炭素原子数1〜24のスルホニルオキシ基とは一般式R”SO
3−で示される化合物を示し、具体的にはメタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、ドデカンスルホニルオキシ基などR”がアルキル基であるものや、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基などの様に一部がハロゲンで置換されているもの、p−トルエンスルホニルオキシ基などの様にR”がアリール基であるものである。
【0018】
炭素原子数2〜24の2置換アミノ基とは二つの炭化水素基などで置換されたアミノ基であって、ここで炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル着、n−へキシル基、シクロへキシル基などの炭素原子数1〜23のアルキル基、フェニル基などのアリール基などが挙げられる。かかる炭素原子数2〜24の2置換アミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−tert−ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、tert−ブチルイソプロピルアミノ基、ジ−n−へキシルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基、ジ−n−デシルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビストリメチルシリルアミノ基、ビス−tert−ブチルジメチルシリルアミノ基などが挙げられ、好ましくはジメチルアミノ基またはジエチルアミノ基である。
【0019】
これらのXとYは任意に結合して環を形成していてもよい。
前記一般式[I]または[II]におけるXおよびYとして好ましくは、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、またはスルホニルオキシ基であり、さらに好ましくは、それぞれ独立に塩素原子、メチル基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基またはベンジル基である。
【0020】
かかる前記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物は、例えば、下記一般式[III]で表される遷移金属化合物と、下記一般式[IV]で表される化合物またはそのアルカリ金属塩とを、反応させることにより容易に合成される。
(上記一般式[III]または[IV]において、Cp、X、YおよびRはそれぞれ前記一般式[I]または[II]におけると同様であり、Zは前記一般式[I]または[II]におけるXまたはYと同様である。Oは酸素原子を表し、Hは水素原子を表す。)
【0021】
この時の反応条件は、有機金属化合物を用いる通常の反応と同様であり、具体的には、溶媒としてはジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒のほか、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、及びトルエンやヘキサンなどの炭化水素系の溶媒の使用が可能であり、反応温度は通常−50℃〜110℃で実施される。
【0022】
これらの遷移金属化合物は一種類のみを用いてもよく、二種類以上を組み合わせてもよい。本発明においては、上記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物とその0.5倍モル量もしくは等モル量の水との反応物であるμ−オキソタイプもしくはビスμ−オキソタイプの遷移金属化合物を用いてもよい。
【0023】
上記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物は、嵩高い置換基を有するビニル化合物を付加重合させる際に用いる触媒成分として使用される。本発明において、嵩高い置換基を有するビニル化合物を付加重合させる際に用いる触媒は、上記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物と活性化用助触媒とを接触させて得られるビニル化合物重合用触媒であり、好ましくは(A)上記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物と、下記(B)および/または下記(C)とを接触させて得られるビニル化合物重合用触媒である。
(B):下記(B1)〜(B3)から選ばれる1種以上のアルミニウム化合物
(B1)一般式 E
1aAlZ
3-aで示される有機アルミニウム化合物
(B2)一般式 {−Al(E
2)−O−}
bで示される構造を有する環状のアルミノキサン
(B3)一般式 E
3{−Al(E
3)−O−}
cAlE
32で示される構造を有する線状のアルミノキサン
(但し、E
1、E
2およびE
3は、それぞれ炭化水素基であり、全てのE
1、全てのE
2および全てのE
3は同じであっても異なっていても良い。Zは水素原子またはハロゲン原子を表し、全てのZは同じであっても異なっていても良い。aは0<a≦3を満足する数を、bは2以上の整数を、cは1以上の整数を表す。)
(C):下記(C1)〜(C3)から選ばれる1種以上のホウ素化合物
(C1)一般式 BQ
1Q
2Q
3で表されるホウ素化合物、
(C2)一般式 G
+(BQ
1Q
2Q
3Q
4)
-で表されるホウ素化合物、
(C3)一般式 (L−H)
+(BQ
1Q
2Q
3Q
4)
-で表されるホウ素化合物
(但し、Bは3価の原子価状態のホウ素原子であり、Q
1〜Q
4はハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、置換シリル基、アルコキシ基または2置換アミノ基であり、それらは同じであっても異なっていても良い。G
+は無機または有機のカチオンであり、Lは中性ルイス塩基であり、(L−H)
+はブレンステッド酸である。)。
以下、この好ましいビニル化合物重合用触媒についてさらに説明する。
【0024】
(B)アルミニウム化合物
上記アルミニウム化合物(B)において、 E
1 、E
2 およびE
3 における炭化水素基としては、それぞれ炭素原子数1〜8の炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0025】
一般式 E
1aAlZ
3-a で示される有機アルミニウム化合物(B1)の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジプロピルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド、ジヘキシルアルミニウムクロライド等のジアルキルアルミニウムクロライド;メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソブチルアルミニウムジクロライド、ヘキシルアルミニウムジクロライド等のアルキルアルミニウムジクロライド;ジメチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジプロピルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジヘキシルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド等を例示することができる。
好ましくは、トリアルキルアルミニウムであり、より好ましくは、トリエチルアルミニウムまたはトリイソブチルアルミニウムである。
【0026】
一般式 {−Al(E
2 )−O−}
bで示される構造を有する環状のアルミノキサン(B2)、一般式 E
3 {−Al(E
3 )−O−}
c AlE
32で示される構造を有する線状のアルミノキサン(B3)における、E
2 、E
3 の具体例としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ノルマルペンチル基、ネオペンチル基等のアルキル基を例示することができる。bは2以上の整数であり、cは1以上の整数である。好ましくは、E
2 およびE
3 はメチル基またはイソブチル基であり、bは2〜40、cは1〜40である。
【0027】
上記のアルミノキサンは各種の方法で作られる。その方法については特に制限はなく、公知の方法に準じて作ればよい。例えば、トリアルキルアルミニウム(例えば、トリメチルアルミニウムなど)を適当な有機溶剤(ベンゼン、脂肪族炭化水素など)に溶かした溶液を水と接触させて作る。また、トリアルキルアルミニウム(例えば、トリメチルアルミニウムなど)を結晶水を含んでいる金属塩(例えば、硫酸銅水和物など)に接触させて作る方法が例示できる。
このようにして得られたアルミノキサンや市販のアルミノキサンは通常、(B2)と(B3)との混合物となっていると考えられる。
【0028】
(C)ホウ素化合物
一般式 BQ
1 Q
2 Q
3 で表されるホウ素化合物(C1)において、Bは3価の原子価状態のホウ素原子であり、Q
1 〜Q
3 はハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、置換シリル基、アルコキシ基または2置換アミノ基であり、それらは同じであっても異なっていても良い。Q
1 〜Q
3 は好ましくは、ハロゲン原子、1〜20個の炭素原子を含む炭化水素基、1〜20個の炭素原子を含むハロゲン化炭化水素基、1〜20個の炭素原子を含む置換シリル基、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ基または2〜20個の炭素原子を含むアミノ基であり、より好ましいQ
1 〜Q
3 はハロゲン原子、1〜20個の炭素原子を含む炭化水素基、または1〜20個の炭素原子を含むハロゲン化炭化水素基である。さらに好ましくはQ
1 〜Q
4 は、それぞれ少なくとも1個のフッ素原子を含む炭素原子数1〜20のフッ素化炭化水素基であり、特に好ましくはQ
1 〜Q
4 は、それぞれ少なくとも1個のフッ素原子を含む炭素原子数6〜20のフッ素化アリール基である。
【0029】
化合物(C1)の具体例としては、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)ボラン、トリス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボラン、トリス(2,3,4−トリフルオロフェニル)ボラン、フェニルビス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等が挙げられるが、最も好ましくは、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランである。
【0030】
一般式 G
+ (BQ
1 Q
2 Q
3 Q
4 )
- で表されるホウ素化合物(C2)において、G
+ は無機または有機のカチオンであり、Bは3価の原子価状態のホウ素原子であり、Q
1 〜Q
4 は上記の(C1)におけるQ
1 〜Q
3 と同様である。
【0031】
一般式 G
+ (BQ
1 Q
2 Q
3 Q
4 )
- で表される化合物における無機のカチオンであるG
+ の具体例としては、フェロセニウムカチオン、アルキル置換フェロセニウムカチオン、銀陽イオンなどが、有機のカチオンであるG
+ としては、トリフェニルメチルカチオンなどが挙げられる。G
+ として好ましくはカルベニウムカチオンであり、特に好ましくはトリフェニルメチルカチオンである。(BQ
1 Q
2 Q
3 Q
4 )
- としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4−トリフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレ−ト、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0032】
これらの具体的な組み合わせとしては、フェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1’−ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、銀テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルメチルテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレートなどを挙げることができるが、最も好ましくは、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。
【0033】
また、一般式(L−H)
+ (BQ
1 Q
2 Q
3 Q
4 )
- で表されるホウ素化合物(C3)においては、Lは中性ルイス塩基であり、(L−H)
+ はブレンステッド酸であり、Bは3価の原子価状態のホウ素原子であり、Q
1 〜Q
4 は上記のルイス酸(C1)におけるQ
1 〜Q
3 と同様である。
【0034】
一般式(L−H)
+ (BQ
1 Q
2 Q
3 Q
4 )
- で表される化合物におけるブレンステッド酸である(L−H)
+ の具体例としては、トリアルキル置換アンモニウム、N,N−ジアルキルアニリニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアリールホスホニウムなどが挙げられ、(BQ
1 Q
2 Q
3 Q
4 )
- としては、前述と同様のものが挙げられる。
【0035】
これらの具体的な組み合わせとしては、トリエチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジイソプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどを挙げることができるが、最も好ましくは、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、もしくは、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。
【0036】
[重合]
本発明で用いられる好ましいビニル化合物重合用触媒は、(A)上記一般式[I]または[II]で表される遷移金属化合物と、上記(B)および/または上記(C)とを接触させて得られるビニル化合物重合用触媒である。ここでいう接触とは、上記の(A)と、(B)および/または(C)とが接触し、触媒が形成されるならどのような手段によってもよく、あらかじめ溶媒で希釈もしくは希釈せずに上記の(A)と、(B)および/または(C)とを混合して接触させる方法や、別々に重合槽に供給して重合槽の中で接触させ触媒を形成する方法等を採用できる。各触媒成分を重合槽に供給する方法としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で水分のない状態で供給することが好ましく、その場合、あらかじめ任意の2者もしくは3者を混合して接触させたのちに別々に重合槽に供給してもよい。
【0037】
前記重合用触媒として(A)および(B)を接触させて得られる重合用触媒を用いる際は、(B)としては、前記の環状のアルミノキサン(B2)および/または線状のアルミノキサン(B3)が好ましい。また他に好ましい重合用触媒の態様としては、上記(A)、(B)および(C)を接触させて得られる重合用触媒が挙げられ、その際の該(B)としては前記の(B1)が使用しやすい。
【0038】
各成分の使用量は通常、[(B)に含まれるAl原子換算モル]/(A)のモル比が0.1〜10000で、好ましくは5〜2000、(C)/(A)のモル比が0.01〜100で、好ましくは0.5〜10の範囲にあるように、各成分を用いることが望ましい。
各成分を溶液状態もしくは溶媒に懸濁した状態で用いる場合の濃度は、重合反応器に各成分を供給する装置の性能などの条件により、適宜選択されるが、一般に、(A)が、通常0.01〜500μmol/gで、より好ましくは、0.05〜100μmol/g、さらに好ましくは、0.05〜50μmol/g、(B)が、Al原子換算で、通常0.01〜10000μmol/gで、より好ましくは、0.1〜5000μmol/g、さらに好ましくは、0.1〜2000μmol/g、(C)は、通常0.01〜500μmol/gで、より好ましくは、0.05〜200μmol/g、さらに好ましくは、0.05〜100μmol/gの範囲にあるように各成分を用いることが望ましい。
【0039】
本発明で用いられる触媒としては、さらにSiO
2 、Al
2 O
3 等の無機担体、エチレン、スチレン等の重合体等の有機ポリマー担体を含む粒子状担体を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
重合法としては特に制限はなく、例えばバッチ式または連続式の気相重合法、塊状重合法、適当な溶媒を使用しての溶液重合法あるいはスラリー重合法等、任意の方法を使用することができる。溶媒を使用する場合、触媒を失活させないという条件の各種の溶媒が使用可能であり、このような溶媒の例として、ベンゼン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素;ジクロロメタン、ニ塩化スチレン等のハロゲン化炭化水素基をあげることができる。
【0041】
重合温度については特に制限はなく、一般に−100〜250℃、好ましくは−50〜200℃が採用される。また、圧力についても制限はないが、一般に10MPa以下、好ましくは0.1MPa〜5MPaで実施される。また、重合体の分子量を調製するために水素などの連鎖移動剤を添加することもできる。
【0047】
本発明が対象とする嵩高い置換基を有するビニル化合物は
、下記のビニル化合
物である。
ビニル化合
物:CH
2=CH−R’で表され、置換基R’が
3〜10員環の炭素原子数3〜20のシクロアルキル基であるビニル化合物。
【0049】
かかるビニル化合
物の具体例としては、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタ
ンなどが挙げられる。
【0050】
特に好ましいビニル化合
物は、ビニルシクロヘキサ
ンである。
【0051】
本発明においては
、ビニル化合物と共重合可能な他の付加重合性モノマーとを共重合させ
る。本発明は高い共重合性を示す。
【0052】
前記他の付加重合性モノマ
ーはエチレンおよび/またはα−オレフィンである。かかるα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等の直鎖状オレフィン類、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン等の分岐状オレフィン類等が挙げられる。より好ましいα−オレフィンは、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、または4−メチル−1−ペンテンであり、特に好ましくはプロピレン、1−ブテン、または1−へキセンである。
【0053】
かかる共重合体において、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合組成は0.1〜99mol%といった広範囲の共重合体に本発明は適用しうる。本発明は特に、該共重合組成の高い共重合体の製造に有用であり、該共重合組成として好ましくは5〜99mol%であり、さらに好ましくは15〜99mol%であり、特に好ましくは25〜99mol%である。該共重合組成が低すぎると、共重合体はその骨格中でオレフィン単位の連鎖に由来する結晶を形成することがあり、透明性の点で好ましくない。該共重合組成は、
1 H−NMRスペクトルや
13C−NMRスペクトルを用いる定法により容易に求められる。
【0054】
本発明により製造される重合体のポリマー骨格中(ポリマーの分子鎖中に分岐したポリマー鎖がある場合はそれも含む。)には、嵩高い置換基を有するビニル化合物由来の2級炭素原子と3級炭素原子とが存在する。また、エチレンと嵩高い置換基を有するビニル化合物との共重合体の場合にはエチレン由来の2級炭素原子も存在し、プロピレン等のα−オレフィンとの共重合体の場合にはα−オレフィン由来の2級炭素原子と3級炭素原子も存在する。ポリマー骨格中のシーケンスに応じて、3級炭素原子同士が1個のメチレン基によって隔てられた構造や、2個のメチレン基によって隔てられた構造、3個のメチレン基によって隔てられた構造、4個以上のメチレン基によって隔てられた構造が存在しうる。かかるポリマー構造は、
13C−NMRスペクトルにより決定される。本発明で製造される共重合体としては、2個以上の嵩高い置換基を有するビニル化合物がHead-to-Tail様式で結合した連鎖を有する共重合体も得られ、その場合には3級炭素原子同士が1個のメチレン基によって隔てられた構造が存在する。
【0056】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によりその範囲を限定されるものではない。なお、実施例中における重合体の性質は、下記の方法によって測定した。
【0057】
極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。
【0058】
ガラス転移点および融点は、DSC(セイコー電子工業社製 SSC−5200)を用いて、以下の条件で測定した。
昇温 20℃〜200℃(20℃/分)10分間保持
冷却 200℃〜−50℃(20℃/分)10分間保持
測定 −50℃〜300℃(20℃/分)
【0059】
重合体中のビニルシクロヘキサン単位共重合組成および重合体の構造は、
13C−NMR解析により求めた。
13C−NMR装置 BRUKER社製 DRX600
測定溶媒 オルトジクロロベンゼンとオルトジクロロベンゼン−d4の4:1(容積比)混合液
測定温度 135℃
【0060】
[実施例1]
アルゴンで置換した400mlのオートクレーブ中にビニルシクロヘキサン 27ml、脱水トルエン 168mlを投入した。30℃に昇温後、エチレンを0.8MPa仕込んだ。メチルアルモキサンのトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製MMAO、Al原子換算濃度 6wt%]2.8mlを仕込み、つづいて特開平11−166010号記載の方法で合成した(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(2,6−ジイソプロピルフェノキシ)チタニウムジクロリド 2.1mgを脱水トルエン 2.1mlに溶解させたものを仕込んだ。反応液を1時間攪拌した後、反応液をエタノール 500ml中に投じ、沈殿した白色固体をロ取した。該固体をエタノールで洗浄後、減圧乾燥した結果、重合体 16.19gを得た。該重合体の[η]は1.43dl/gで、ガラス転移点は−23℃、ビニルシクロヘキサンの共重合組成は20mol%であった。該重合体のプレスシートは非常に透明性が高く、また柔軟性および弾性回復性に優れていた。
得られた重合体の
13C−NMRスペクトルを図1に示す。シクロヘキシル基で置換された炭素原子同士が、3個のメチレン基によって隔てられる構造および1個のメチレン基によって隔てられる構造を有することが確認できた。
【0061】
[実施例2]
実施例1におけるビニルシクロヘキサン 27mlをビニルシクロヘキサン 103mlに、脱水トルエン 168mlを脱水トルエン 44mlに、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(2,6−ジイソプロピルフェノキシ)チタニウムジクロリド 2.1mgを脱水トルエン 2.1mlに溶解させたものを、1.1mgを脱水トルエン 1.1mlに溶解させたものに変えた以外は実施例1と同様に行ったところ、重合体 13.77gを得た。該重合体の[η]は0.91dl/gで、ガラス転移点は11℃、ビニルシクロヘキサンの共重合組成は37mol%であった。該重合体のプレスシートは非常に透明性が高く、また柔軟性および弾性回復性に優れていた。
得られた重合体の
13C−NMRスペクトルを図2に示す。シクロヘキシル基で置換された炭素原子同士が、3個のメチレン基によって隔てられる構造および1個のメチレン基によって隔てられる構造を有することが確認できた。
【0062】
[比較例1]
実施例2における脱水トルエン 44mlを脱水トルエン 40mlに変え、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(2,6−ジイソプロピルフェノキシ)チタニウムジクロリド 1.1mgを脱水トルエン 1.1mlに溶解させたものを、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド[Strem社製] 2.2mgを脱水トルエン 4.5mlに溶解させたものに変えた以外は実施例1と同様に行ったところ、重合体 11.70gを得た。該重合体のビニルシクロヘキサンの共重合組成は0.31mol%であった。
得られた重合体の
13C−NMRスペクトルを図3に示す。
【0063】
[実施例3]
アルゴンで置換した300mlのガラスリアクター中にビニルシクロヘキサン68ml、脱水トルエン 17mlを投入した。50℃に昇温後、エチレンを0.1MPa仕込んだ。メチルアルモキサンのトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製MMAO、Al原子換算濃度 6wt%]5.9mlを仕込み、つづいて(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(2,6−ジイソプロピルフェノキシ)チタニウムジクロリド 4.3mgを脱水トルエン 8.6mlに溶解させたものを仕込んだ。反応液を1時間攪拌した後、反応液をエタノール 500ml中に投じ、沈殿した白色固体をロ取した。該固体をエタノールで洗浄後、減圧乾燥した結果、重合体 1.11gを得た。該重合体の[η]は0.18dl/gで、ガラス転移点は76℃、ビニルシクロヘキサンの共重合組成は75mol%であった。該重合体のプレスシートは非常に透明性が高かった。
得られた重合体の
13C−NMRスペクトルを図4に示す。シクロヘキシル基で置換された炭素原子同士が、3個のメチレン基によって隔てられる構造および1個のメチレン基によって隔てられる構造を有することが確認できた。
【0064】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明によれば、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合体を共重合性よく製造し得る触媒成分および重合用触媒、並びに、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合体を共重合性よく製造する方法が提供される。また本発明によれば、嵩高い置換基を有するビニル化合物の共重合体を共重合性よく製造するための遷移金属化合物の用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1で得られた共重合体の
13C−NMRスペクトルである。
【図2】図2は、実施例2で得られた共重合体の
13C−NMRスペクトルである。
【図3】図3は、比較例1で得られた共重合体の
13C−NMRスペクトルである。
【図4】図4は、実施例3で得られた共重合体の
13C−NMRスペクトルである。