以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
なお、各実施形態においてはCMOSトランジスタ、スタック型メモリセルについて説明を行うが、上述した半導体素子が集積化したメモリ、ロジック回路等、並びにこれらが同一チップ上に混載されるシステムLSI等も本発明の範囲内である。
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯を説明する。
すでに従来の技術で説明したとおり、High−k膜上に直接、FUSI電極を形成した場合の技術的問題は非特許文献1などに記載されて、FUSI電極と、High−k膜との間の界面の特有の現象を回避するために、FUSI電極と、High−k膜との間に、界面絶縁層としてSiO2層を設けた場合が非特許文献2などに記載されている。
将来のLSIでは、ゲート絶縁膜の材料としてはSiO2の代わりにSiONが用いられる可能性が高い。これは、Si(O)N膜はSiO2膜よりも比誘電率が高い為、High−k膜と積層してもゲート絶縁膜厚の総量を大きく増加させることがなく、ゲート容量が増加し漏れ電流が低減でき、CMOSトランジスタの性能を損なうことがないからである。
そこで、本発明者達は、SiON膜、SiN膜をシリサイドとHigh−k膜との界面に配することで、不純物によるシリサイドの仕事関数の変調作用を発揮しながらゲート絶縁膜の容量を劣化させない、FUSI電極と、High−k膜と備えた半導体装置が実現できるのではないかと考え、実験を行った。
しかし、従来の雪かき効果を利用した不純物添加技術をシリサイド/Si(O)N/High−kの積層技術と組み合わせても、不純物による所望の仕事関数の変調作用は得られないことを本発明者達は見出した。これは、特にボロン、アルミニウムなどのPチャネルMISトランジスタ用の不純物のケースで顕著であることがわかった。その原因は以下のとおりである。絶縁膜がSiO2の場合、シリサイデーションに伴う雪かき効果が進行する過程でボロン、アルミニウムなどが絶縁膜内部に侵入し、その位置で電気双極子として作用することでシリサイドの仕事関数を増加させる。これに対し、SiON、SiNなどのように、絶縁膜内部に窒素が含まれている場合、ボロンやアルミニウムが窒素と化合物を形成することで電気的に活性な欠陥を形成することを発見した。絶縁膜中の窒素に起因したこの欠陥は、電気双極子を相殺し、所望の仕事関数の増加作用が得られなくなる。ちなみにFUSI/SiO2系における不純物による仕事関数変調の機構については、Y. Tsuchiya et al., “Physical Mechanism of Work Function Modulation due to Impurity Pileup at Ni-FUSI/SiO(N) Interface”, 2005 IEDM, p.p.637-640に解説されている。
上述の現象および原因を図1(a)乃至図8(b)を参照してさらに詳細に説明する。
図1(a)、1(b)にその現象を確認した際の実験結果を示す。図1(a)、(b)の横軸はゲート電極に印加される電圧を示し、縦軸はゲート絶縁膜の容量を示す。この実験では、シリサイドとしてNiSiを用いている。SiO2をゲート絶縁膜に用いた場合、シリコンゲートに何の不純物も添加しない場合と比べ、砒素を添加した場合はマイナス電圧方向に、ボロンを添加した場合にはプラス方向にフラットバンド電圧Vfbがシフトしている。なお、図1(a)、1(b)においては、どちらの不純物のドーズ量も1×1016原子/cm2である。この特性は非特許文献2、3などに示されているとおりである(図1(a))。これに対し、ゲート絶縁膜としてSiONを用いた場合、砒素によるVfbシフトは得られるが、ボロンによるVfbシフトは確認することができなかった(図1(b))。
この現象は、ボロンを例にとって以下のようなモデルにより理解される(図2(a)、(b)を参照)。ゲート絶縁膜としてSiO2を用いた場合、NiSiとの界面に偏析したボロンのうち、NiSi側に分布するものは金属的な結合状態を示し、SiO2側に分布するものは酸化結合状態を示す。ここで金属的な結合状態とは、一つのボロン原子に注目した時、そのボロン原子と結合している原子がシリコン、あるいはニッケルなどの金属である場合を指す。一方酸化結合状態とは、一つのボロン原子に注目した時、そのボロン原子と結合している原子が酸素である場合を指す。金属的な結合状態を示す金属的ボロンはNiSiの仕事関数φに何の影響も与えないのに対し、酸化結合状態を示す酸化ボロンのうち、界面から約1nm以内に存在するものが界面に電気的双極子を発生させ、NiSiの仕事関数φを増加させる作用を果たす。一方、約1nm以上界面から離れたSiO2領域に存在する酸化ボロンは仕事関数φに何の影響ももたらさない(図2(a)参照)。
一方、ゲート絶縁膜にSiONを用いた場合、NiSi側に分布するボロンの状態には何の変化も無い。かたや、ゲート絶縁膜中に分布するボロンは、窒素と結合することにより大きなエネルギー利得を得る為に、SiO2の場合よりも多くのボロンがSiON膜中に侵入する。さらに、窒素と結合したボロンが正の電荷を持つ欠陥として作用しフラットバンド電圧Vfbを負側にシフトさせる為(図2(b)参照)、これが界面近傍の電気的双極子による仕事関数φの増加作用と打ち消しあい、図1(b)に示すとおり、ボロン添加によってなんら仕事関数φの変化が得られない。
SiONの場合にボロン添加による仕事関数の増加作用が得られないという新しい知見について、そのメカニズムを我々は上記のように理解した。この理解に基づき、シリサイドとSiON界面のボロン等の偏析物の結合状態を適切に制御してやることで所望の仕事関数の変調が得られると考えた。これが本発明の一実施形態の最大のポイントである。具体的には、図3に示すとおり、SiON膜の内部に深く浸透し正電荷を形成するボロンを少なくすることで、界面の電気双極子の作用を、SiO2膜を用いた場合と同様に発揮させられると考えた。
ここで、図3で説明したようなボロン分布を作る技術として、シリサイド形成後にボロンを添加する方法(ポスト添加と記載)が有効であることがわかった。図4は、ボロンのポスト添加によって、NiSi/SiON系の仕事関数を約0.2eV増加させることに成功したことを示す実験結果である。また、リン(P)のポスト添加によってNiSi/SiON系の仕事関数を約0.3eV減少させることができることも示している。
図4において、横軸はSiONの膜厚を示し、縦軸はフラットバンド電圧Vfbを示す。このときの界面近傍に偏析したボロンの結合状態をXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)により調べた実験結果を図5に示す。この実験結果は、NiSi/SiON/Si積層構造に対し、Si部分を物理的研磨法と化学溶液によるエッチングの併用で全て除去して作成したNiSi/SiON構造を、SiONの側からXPS測定し、NiSi/SiON界面の不純物(ボロン)結合状態を分析して得られたものである。XPSの信号強度は試料表面からの深さに依存して指数的に減衰する。同実験においては、従来の場合のようにシリコンへのボロン添加をした後にシリサイデーションを行う方法、すなわちシリサイド形成前にボロンを添加する方法(プレ添加)に使用したSiONの膜厚の方が若干厚く、SiONの下部に埋もれたボロンの信号強度絶対値はプレ添加の方が弱い。ゆえに、同図でプレ添加とポスト添加(本発明)を比較する際は、個々の結合状態成分の相対強度比にのみ注目する。プレ添加では多量のボロンがSiON中に侵入し、酸化・窒化・酸窒化状態強度が、金属結合状態強度より相対的に高くなっている。ここで酸化・窒化・酸窒化状態とは、一つのボロン原子に注目した時、そのボロン原子と結合している原子が酸素のみ、窒素のみ、あるいは酸素と窒素の双方が同時に結合している状態を指す。これに対し本発明一実施形態によるボロンのポスト添加では、金属結合状態のボロン成分に対して相対的に酸化・窒化・酸窒化結合状態のボロンが少なくなっている。試料表面に近い成分の方が指数的に信号強度が増すというXPSの原理から考察して、より表面に近いはずの酸化・窒化・酸窒化結合状態強度が金属結合状態強度より弱いことは、この構造に含まれる酸化・窒化・酸窒化結合状態は金属結合状態よりはるかに少ないことを示唆する。この推論は、図2(b)および図3に模式的に示したボロンの分布・結合状態に合致している。
ボロンのポスト添加の方法に際し、我々はイオン注入法を用いた。この際、ボロンイオンを用いた場合とBF2イオンを用いた場合を比較すると、ボロンイオンを用いた場合のみ、本発明の一実施形態の目指す仕事関数増加の作用が得られることを発見した(図6参照)。上記実験における界面ボロン偏析物の結合状態を調べたXPS実験結果を図7に示す。BF2イオン注入においては界面に到達したボロンの絶対量が少なく、結果として図6に示すような仕事関数の変調効果は得られていない。これに対し、ボロンイオン注入を行った場合、前述したようなボロンの分布、結合状態が実現できる為、仕事関数の変調が実現する。Bイオン注入、BF2イオン注入の各場合におけるボロンの偏析状態を模式的に図8(a)、8(b)に示す。
このようなボロンの結合状態の同定は、本発明の一実施形態によるデバイスを解析することによっても行うことができる。具体的には、界面にボロン偏析したNiSi/SiONの積層構造を通常のTEM(Transmission Electron Microscopy)法により断面観察し、TEMの電子ビームを界面の偏析層近傍に照射し、電子ビームの損失スペクトルからボロンの結合状態を知ることができる。いわゆるTEM−EELS(Electron Energy Loss spectroscopy)法である。TEM法によれば、NiSi/SiONの構造的な界面は明瞭に示される。そこでTEMの電子ビームを狙った箇所に照射しその損失スペクトルを取得することで、NiSi/SiON界面からNiSi側約1nmの領域では金属結合状態のボロンが、SiON側約1nmの領域では酸化・窒化・酸窒化結合状態のボロンが、支配的な成分であることが示される。図5、図7の実験結果に示したとおり、ボロンの金属結合状態と酸化・窒化・酸窒化結合状態では約4eVのエネルギー差があることから、TEM−EELS法のエネルギー分解能があればその差は明瞭に判別される。
なお、上記説明では偏析不純物としてボロンを例にとって解説したが、同様の効果はアルミニウム(Al)の場合にも得られる。ボロンとAlは、その価電子数が3で同じことから、SiON中での欠陥形成の仕方が極めて似通っている。これに加えAlと窒素との結合力はきわめて強いため、ボロンとSiONの組み合わせで生じたのと同様な欠陥形成という障害(不純物による仕事関数変調の阻害)が起きる。本発明の一実施形態でAlの分布を適切に制御することにより、上記問題は解決される。同様にして、Al以外の13族元素でも本発明の一実施形態の作用が期待できる。13族元素の中では、ボロン、AlがLSIの製造工程になじみが良く、これらを使うことが望ましい。さらに、本発明では従来法の雪かき効果とは異なる、単純な熱拡散で不純物元素をNiSi/SiON界面まで到達させるため、シリサイド中の拡散係数が高いことが要求される。この観点からは、より原子半径が小さく拡散係数の大きいボロンが最も好ましい。また、ボロンのイオン注入は通常のLSIの製造工程で用いられている点もボロンが最適な理由として挙げられる。
また、上記説明ではSiONを例にとったが、これはシリコン窒化膜の場合でも同様である。シリコン窒化膜の場合はSiONよりも多量の窒素が含有する為、ボロン、Al、あるいはその他の13族元素の偏析を目指した時の欠陥形成の機会は多い。この課題は本発明によってこれら不純物の分布を適切に制御することにより解決される。
以上の概要を述べたような構成によれば、FUSI/High−k界面特有の現象により阻害されていたVth低減化を、界面SiON層の活用によって解決可能となる。これにより、従来のFUSI技術の利点であった不純物偏析による仕事関数の変調に基づいたトランジスタのしきい値電圧Vthの最適化作用を有するHigh−k材料からなるゲート絶縁膜と組み合わせたFUSIゲートCMOSデバイスを備えた半導体装置を提供することが可能となる。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による半導体装置を説明する。本実施形態の半導体装置はCMOSトランジスタであって、その断面を図9に示す。
図9に示すように、半導体基板1には、N型ウェル領域(N型半導体層)2及びP型ウェル領域(P型半導体層)3が設けられている。N型ウェル領域2とP型ウェル領域3は、STI(Shallow Trench Isolation)構造の素子分離層4により分離される。
N型ウェル領域2には、PチャネルMISトランジスタ19が設けられる。PチャネルMISトランジスタ19は、P型拡散層5と、P型エクステンション層6と、ゲート絶縁膜9と、バッファ層10と、不純物偏析層11と、ゲート電極層12とを備えている。ゲート絶縁膜9はN型ウェル領域2上に設けられ、このゲート絶縁膜9上に、バッファ層10と、不純物偏析層11と、ゲート電極層12とが形成されている。なお、本実施形態においては、ゲート絶縁膜9と、バッファ層10と、不純物偏析層11と、ゲート電極層12との積層構造の両側部には、絶縁体からなるサイドウォール17が設けられている。
また、P型エクステンション層6はゲート絶縁膜9と、バッファ層10と、不純物偏析層11と、ゲート電極層12との積層構造の両側のN型ウェル領域2に設けられ、P型拡散層5はサイドウォール17の両側のN型ウェル領域2に設けられている。そして、P型拡散層5はP型エクステンション層6よりもN型ウェル領域2との接合深さが深くなるように構成されている。そして、P型拡散層5およびP型エクステンション層6がPチャネルMISトランジスタ19のソース・ドレイン領域となる。
P型ウェル領域3内には、NチャネルMISトランジスタ20が設けられる。NチャネルMISトランジスタ20は、N型拡散層7と、N型エクステンション層8と、ゲート絶縁膜13と、バッファ層14と、不純物偏析層15と、ゲート電極層16とを備えている。ゲート絶縁膜13はP型ウェル領域3上に設けられ、このゲート絶縁膜13上に、バッファ層14と、不純物偏析層15と、ゲート電極層16とが形成されている。なお、本実施形態においては、ゲート絶縁膜13と、バッファ層14と、不純物偏析層15と、ゲート電極層16の積層構造の両側部には、絶縁体からなるサイドウォール17が設けられている。
また、N型エクステンション層8はゲート絶縁膜13と、バッファ層14と、不純物偏析層15と、ゲート電極層16との積層構造の両側のP型ウェル領域3に設けられ、N型拡散層7はサイドウォール17の両側のP型ウェル領域3に設けられている。そして、N型拡散層7はN型エクステンション層8よりもP型ウェル領域3との接合深さが深くなるように構成されている。そして、N型拡散層7およびN型エクステンション層8がNチャネルMISトランジスタ20のソース・ドレイン領域となる。
なお、第1実施形態では、ゲート絶縁膜9,13、バッファ層10,14、ゲート電極層12,16は、両チャネルMISトランジスタで同じ材料を用いている。特に、バッファ層10,14がシリコン酸窒化膜またはシリコン窒化膜のいずれかからなっている。バッファ層10,14がシリコン酸窒化膜の場合、膜の窒素濃度は3原子%以上、15原子%以下であることが望ましい。これにより、構造的な欠陥が少ないSiON膜が実現でき、電気的に極めて安定なSiON膜が得られる為である。シリコン窒化膜(SiN膜)の場合には、Si3N4の組成を持つ完全なシリコン窒化膜であることが望ましい。これにより構造欠陥の少ない、電気的に安定なSiN膜が実現される為である。
不純物偏析層11,15は、ゲート電極12,16とバッファ層10,14とのそれぞれの界面を中心とした厚み約2nm程度の領域のことを指していて、この領域中にはゲート電極および界面バッファ層を構成する元素以外の不純物が多量に偏析している。
不純物偏析層11に含まれる不純物は、13族元素(3B族元素)、望ましくはボロン、アルミニウムのいずれかから構成される。これらの元素は従来LSIで用いられてきたものであり、製造への導入が容易である為である。これにより、ゲート電極の仕事関数は実効的に上昇する作用を示す。
不純物偏析層15に含まれる不純物は、15族元素(5B族元素)、望ましくはリン、砒素、アンチモンのいずれかから構成される。これらの元素は従来LSIで用いられてきたものであり、製造への導入が容易である為である。これにより、ゲート電極の仕事関数は実効的に低減する作用を示す。
特に、本実施形態においては、不純物偏析層11における不純物の結合状態は、主にゲート電極12側に偏在する金属的な結合状態の総数が、主にバッファ層10側に偏在する酸化、窒化、酸窒化状態の総和よりも多いことが特徴である。ここで言う結合状態の総数は、例えば図5のXPSスペクトルにおいて、各結合状態に対応するピークの面積に比例している。これにより、SiONまたはSiN上であってもボロン、アルミニウム等の13族元素によりゲート電極の仕事関数が増加する。
ゲート電極12,16はその仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の金属シリサイドからなる。このような性質はSiバンドギャップの中央近傍の仕事関数であることが狙いであり、この仕事関数を中心として異なるタイプの不純物を偏析させることにより、NチャネルMISトランジスタでは仕事関数を下げてしきい値電圧Vthを低下させ、PチャネルMISトランジスタでは仕事関数を上げてしきい値電圧Vthを低下させることができ、これによりほぼ対称となるしきい値電圧Vthの実現が可能となる。このような仕事関数を示す金属シリサイドとしては、Ni、Coの少なくとも1つを含む金属シリサイドが挙げられ、LSIへの適用度・実績の観点からはNiを用いることがもっとも望ましい。また、これらの金属シリサイドに対し耐熱性向上の観点から金属比率で5%程度のPtが含まれていてもかまわない。
SiONまたはSiNからなる第1および第2界面バッファ層10,14の膜厚は、SiO2に換算した膜厚として0.1nm以上、1nm以下であることが望ましい。これは、0.1nmより薄い場合には、シリサイドとHigh−k膜との界面特有の、仕事関数低下および不純物偏析効果の消失という2大課題を解決することがかなわなくなる為である。また、1nmより厚いと、CMOSトランジスタに求められる高速動作を実現することがかなわなくなる為である。
ゲート絶縁膜9,13としては、High−k膜が用いられる。High−k膜として最も望ましいのは窒素添加ハフニウムシリケート(HfSiON)である。HfSiONはFUSI技術に必須な高温シリコンゲートプロセス(典型的な温度としては1000℃以上)との相性が極めてよろしく、現状では耐熱性に最も優れたHigh−k材料である為である。また、本実施形態に特有のSiON/HfSiON積層またはSiN/HfSiON積層は、その元素構成がほとんど同一であることに起因してその構造が熱力学的に極めて安定で、これによってその電気的な特性が安定していることも理由である。
本発明に至った経緯の説明からわかるように、本実施形態においては、High−k膜9,13が必ずしも必要でなく、ゲートスタックにHigh−k膜9,13を含まないようにしてもよい。
また、本実施形態においては、N型ウェル領域2およびP型ウェル領域3としては、SiまたはGeの半導体から構成される。
(製造方法)
次に、第1実施形態の半導体装置の製造方法を説明する。
第1実施形態の半導体装置の製造工程を図10乃至図17に示す。
まず、半導体基板1に、STI構造の素子分離層4によって分離されたN型ウェル領域2およびP型ウェル領域3を形成する。引き続き、ウェハ全面にゲート絶縁膜21、バッファ層22、シリコン層23を堆積し、図10に示す構造を得る。ここで、トランジスタ特性を最適化するためのチャネル不純物制御の為のイオン注入などがなされていてもかまわない。
ゲート絶縁膜21としては、高誘電体酸化物を用いる。ここでは一例として、厚さ3nmのHfSiON(Hf/(Hf+Si)〜0.5、窒素濃度20原子%)をMOCVD(Metal organic chemical vapor deposition)法により堆積した。堆積法としては、ALD(Atomic layer deposition)法、MBE(Molecular beam epitaxy)法、PVD(Physical vapor deposition)法などを用いることができる。
HfSiONの組成は、本実施形態の効果に関する限り、特段上記組成に限定されるものではない。しかしながら、比誘電率を、典型的には10以上の値を保ちながら、絶縁膜としての信頼性を維持するという観点から考えると、Hf/(Hf+Si)は0.3〜0.8が望ましく、N濃度は20%以下であることが望ましい。
界面バッファ層22としては、SiON、SiNなどを用いる。堆積法はMOCVD、ALD、MBE法などを用いることが出来る。シリコン層23は通常のCVD法を用いて、本実施形態では70nm堆積した。
次に、図10に示す構造に対して、通常のリソグラフィー技術とエッチング技術を用いて、P型ウェル領域3上の部分についてのみ、ゲート電極パターンを形成する。ここでは、まず、通常のSiN堆積プロセス、通常のリソグラフィー技術とエッチング技術を用い、N型ウェル領域上およびP型ウェル領域3のシリコン層23上に厚さ100nmのSiNハードマスク(図示せず)を形成した。このSiNハードマスクをマスクとして、通常用いられるエッチングガスによってP型ウェル領域3上のシリコン層23をパターニングする。この際、塩素、フッ素系のエッチングガスを使用することにより、シリコン層23と同時に、界面バッファ層22、シリコン層23を一括パターニングすることができる。さらに、HFなどのウェットエッチングにより、SiNハードマスクの両側のP型ウェル領域3上に露出しているゲート絶縁膜21を完全に剥離する。さらに、エクステンション形成の為のAsイオン注入を行い、高温スパイク熱処理によってN型エクステンション層8を形成する。この際、シリコン層23はSiNハードマスクによりその上部を覆われている為、Asイオンによってドーピングされない。その後、上記フォトレジストおよびSiNハードマスクを除去し、図11に示す構造を得る。
次に、通常のSiN堆積プロセス、通常のリソグラフィー技術とエッチング技術を用い、P型ウェル領域3およびN型ウェル領域2のシリコン層23上にSiNハードマスクを形成し、このSiNハードマスクを用いて、N型ウェル領域のシリコン層23、界面バッファ層22をパターニングする。その後、ウェットエッチングにより、SiNハードマスクの両側のN型ウェル領域2上に露出しているゲート絶縁膜21を完全に剥離する。さらに、エクステンション形成の為のBイオン注入を行い、高温スパイク熱処理によってP型エクステンション層6を形成する。また、SiNハードマスクによりその上部を覆われたシリコン層23にボロンはドープされていない。その後、フォトレジストおよびSiNハードマスクを除去し、図12に示す構造を得る。
引き続き、サイドウォール17を形成し、N型ウェル領域2にBイオンをイオン注入し拡散層5を形成するとともに、P型ウェル領域3にAsイオンをイオン注入し拡散層7を形成する。なお、拡散層5、7を形成する際のイオン注入時には、N型ウェル領域2およびP型ウェル領域3のシリコン層23はマスク層で覆われている。このマスク層を除去した後、層間絶縁膜18を形成し、この層間絶縁膜18の平坦化のための研磨、例えばCMP(Chemical mechanical polishing)などを行って、図13に示す構造を得た。
この一連の工程において、本実施形態に特徴的なのは、シリコン層23には両チャネルトランジスタとも不純物が添加されていない点である。従来のシリコンゲート技術では、エクステンションあるいは拡散層形成のイオン注入時にゲート電極に対してもイオン注入を行っていた。しかし本実施形態では、イオン注入時にシリコン層23上にマスク層を設けて、イオン注入されることを防いだ。これは、注入された不純物がシリコン層23に注入されると、後に行うシリコンゲートの金属シリサイド化反応を阻害し、両チャネルトランジスタ間で均一な金属シリサイド層の形成を妨げる為である。
次に、全面に金属シリサイドを形成する為に、金属膜24を堆積し、図14に示す構造を得た。ここでは金属膜24としてNiを40nm、スパッタ法により堆積した。
引き続いて、熱処理することでシリコン層23を全て金属シリサイド25へと変化させた。ここでは、450℃、1分間の熱処理でNiSiを形成する。未反応のNiは硫酸溶液でNiSiと選択的に除去することができ、これにより図15に示す構造が得られた。
さらに、図15に示す構造のN型ウェル領域2の上部にのみレジストマスク層26を形成し、この構造全面に15族元素をイオン注入し、図16に示す構造を得た。ここでは、15族元素としてリンを、加速エネルギーが20keVで、ドーズ量が5x1015/cm2の条件で注入した。
さらに、図16に示す構造のN型ウェル領域2の上部のレジストマスク層26を剥離し、P型ウェル領域3の上部にのみレジストマスク層27を形成した。ひきつづき、この構造全面に13族元素をイオン注入し、図17に示す構造を得た。ここでは、13族元素としてボロンを、加速エネルギーが5keVで、ドーズ量が5x1015/cm2の条件で注入した。
次に、図17に示す構造からレジストマスク層27を通常の処理により除去した後、例えば450℃、1分間の熱処理を加えることにより、シリサイド層25に注入された15族、13族元素のうち少なくとも一部を熱拡散させ、シリサイド層25とバッファ層22との界面に偏析させる。これにより、シリサイド層25とバッファ層22との界面に不純物偏析層11,15が形成されて図9に示す構造が完成した。
本実施形態においては、仕事関数4.65eVのNiSiに対し、PチャネルMISトランジスタ19についてはボロンの変調効果によって実効的仕事関数は4.85eV、NチャネルMISトランジスタ20についてはリンの変調効果によって4.35eVの実効的仕事関数を実現できる。これにより、それぞれに適正なしきい値電圧Vthを持つCMOSトランジスタが実現できた。
本実施形態により、FUSI技術とHigh−k技術の組み合わせが、著しい絶縁膜の膜厚の増加無しに達成できる。このように第1実施形態によれば、低抵抗で耐熱性を有し、空乏化や不純物の拡散若しくは突き抜けといった問題もないゲート電極を有するCMOSデバイスを得ることができる。
また、ゲート電極12,16に金属シリサイドを用いたことにより、CMOSデバイスを製造する際のステップ数が増加するのを可及的に防止することができるとともに、複雑なプロセスが必要でなくなる。
(変形例)
第1実施形態の変形例として、ゲート絶縁膜がSiONのみからなる場合は下記のように製造される。変更点は絶縁膜の堆積工程のみであり、図10の工程の替わりに、図18に示すようにゲート絶縁膜21としてSiON膜を堆積、引き続いてゲートとなるシリコン層23を堆積する。
SiON膜の第1の具体的製法としては、半導体基板1としてシリコン基板が用いられている場合は、シリコン酸化膜を通常の熱酸化法により、例えば膜厚1.0nm〜2.0nm堆積した後、通常のプラズマ窒化処理によって濃度1at.%〜15at.%程度の窒素をSiO2に導入し、SiON膜とする。
また、SiON膜の第2の具体的製法としては、N型ウェル領域2およびP型ウェル領域3が形成されたシリコン基板1が載置されるチャンバー内の雰囲気を、N2、NH3の混合ガスで満たし、N型ウェル領域2およびP型ウェル領域3が形成されたシリコン基板1の表面を700℃に維持する。これにより、N型ウェル領域2およびP型ウェル領域3上にシリコン窒化膜が形成される。次に、シリコン基板1の温度を850℃まで上昇させてそのまま保持する。続いて、シリコン基板1の温度を850℃に保持したまま、チャンバー内の雰囲気を、N2、O2の混合ガスで満たす。これにより、シリコン基板1とシリコン窒化膜の間に酸素が含まれたシリコン酸窒化層が、シリコン窒化膜の表面に酸素が含まれたシリコン酸窒化層が形成され、シリコン酸窒化層、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化層から成るゲート絶縁膜が形成される。すなわち、この第2の具体的製法では、シリコン酸窒化層、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化層から成る3層構造のゲート絶縁膜が形成される。
このようにしてSiON膜を形成した後、図11〜図17に示した場合と同様の工程を経ることにより、図19に示す構造を完成した。この構造によれば、FUSI技術とSiONゲート絶縁膜を組み合わせても、特にボロン、アルミニウムを偏析させることによるしきい値電圧変調が設計どおりに行える。
以上説明したように、第1実施形態およびその変形例によれば、SiO2よりも高い誘電率を有する材料からなる絶縁膜上に設けられた金属電極の仕事関数が所望の値を有する半導体装置を得ることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による半導体装置を説明する。本実施形態の半導体装置はCMOSトランジスタであって、第1実施形態とは以下の点で異なっている。
第2実施形態においては、図9に示すPチャネルMISトランジスタのゲート電極12は仕事関数4.75eV以上5.10eV以下の材料で構成され、NチャネルMISトランジスタのゲート電極16は仕事関数4.20eV以上4.55eV以下の材料で構成される。
これらのゲート電極の仕事関数であれば、NチャネルMISトランジスタ、PチャネルMISトランジスタのしきい値電圧を第1実施形態よりも低く設計することができ、特にしきい値電圧を低めに設定する高速CMOSトランジスタには好適である。
このようなゲート電極として、PチャネルMISトランジスタのゲート電極12の材料としてはNi、Coの少なくとも1つの金属を用い、金属とシリコンとの組成比(金属/Si)が2以上の時に、例えばNi2Si、Ni31Si12、Ni3Si、Co2Siなどのシリサイド相に起因した4.75eV以上の仕事関数を実現できる。一方、NチャネルMISトランジスタのゲート電極16の材料としては、ゲート電極12と同じ金属を用い、金属とシリコンとの組成比(金属/Si)が1より小さい時に、例えばNiSi2、CoSi2相に起因した4.55eV以下の仕事関数を得ることが出来る。また、これら金属のシリサイドに対し、金属の比率として5%程度のPtが含まれていても良い。これは金属シリサイドの耐熱性を向上させる効果があり、デバイスの信頼性が増す。添加されたPtはシリコンと結合し、おもにPtSi相を形成している。
次に、第2実施形態の半導体装置の製造方法を説明する。
本実施形態の半導体装置の製造工程を図20乃至図24に示す。なお、本実施形態の半導体装置の製造方法は、ゲート電極の金属材料としてNi(ニッケル)を使用した場合を例にとって説明する。Coを用いた場合でも得られる性能はほぼ同様である。
第1実施形態の場合と同様に、図20に示すように、シリコン層23/バッファ層22/High−kからなるゲート絶縁膜21のゲート積層構造を有するCMOSデバイスを得る。第2実施形態ではPチャネルMISトランジスタとNチャネルMISトランジスタの金属シリサイドに異なる仕事関数の材料を用いる。
本実施形態では、図21に示すように、図20に示すP型ウェル領域2上部にのみNi層(薄膜)28を30nmスパッタ堆積した。ここで、シリコン層23の厚さは70nmである。その後、650℃30秒の熱処理によりNiとシリコン層23を反応させ、NiSi2層16を形成した後、未反応Niを硫酸により除去した。このようにして図22に示す構造を得る。NiSi2はNi−Si系の熱力学的に安定なシリサイド相の中で最もシリコンリッチな化合物であり、シリコンリッチであるがゆえに仕事関数は最も低い4.55eV程度以下の値を示す。
引き続き、図23に示すように、N型ウェル領域2上部にのみNi層(厚膜)29を110nm堆積する。引き続き450℃、1分間の熱処理によって、N型ウェル領域2上部のシリコン23層をNiリッチなNiシリサイド、例えばNi3Siなどに転換させる。この際、P型ウェル領域上部のNiSi2も熱処理に晒されるが、NiSi2はNi−Siの系では最も熱力学的に安定な相であり、未反応Ni層も存在しないことから、他相への相転移は生じない。Ni3Siの仕事関数は4.85eV程度である。未反応のNiを硫酸により除去したのち、第1実施形態で説明したと同様な工程により不純物偏析層11,15を形成することによって、図9に示すCMOSトランジスタ構造を得ることが出来る。
本実施形態においては、PチャネルMISトランジスタ19においては、ゲート電極12として仕事関数4.85eVのNi3Siを用い、かつボロンの変調効果によって実効的仕事関数は5.05eVを実現し、NチャネルMISトランジスタにおいては、ゲート電極16として仕事関数4.55eVのNiSi2を用い、かつリンの変調効果によって4.25eVの実効的仕事関数を実現できる。これにより、第1実施形態よりも、しきい値電圧Vthの低いCMOSトランジスタが実現できた。なお、PチャネルMISトランジスタ19のゲート電極12として仕事関数4.75eVのNi2Siを用い、かつボロンの変調効果によって実効的仕事関数は4.95eVを実現してもよい。
本実施形態は第1実施形態よりも、しきい値電圧Vthを低く設定可能であるが、反面、両チャネルトランジスタに対してNiシリサイドの作り分けを行うため、プロセス数が多くなるのが難点である。さらに、NiSi2を作る為の高温工程(約650℃)によるデバイス特性の若干の劣化が課題となる。この点を改善する為のプロセスを下記に示す。図20に示す構造に対し、P型ウェル領域3の上部にのみTi、Zr、Hfのいずれかからなるシリサイド反応制御層30をスパッタ法で堆積し、Ni層28を30nmスパッタで堆積し、積層することにより図24の構造を得る。ここでは一例として膜厚5nmのTiをスパッタ法で堆積した。この構造に対し、450℃、1分間の熱処理を施してNiシリサイドを形成する。一般にNi−Si系のシリサイド反応はNiが優先拡散種となって生じるが、本実施例の構造ではTi層30がNi拡散を減速させる作用を示す為シリサイド反応フロントへのNi供給量が抑えられ、通常のTi層無しのシリサイド化反応よりも200℃程度低い温度でNiSi2相を得ることが出来る。この後は、第2実施形態で説明したと同様の工程を用いて行う。シリサイド反応制御層30を用いることで、ステップ数の増加という犠牲を伴うが、シリサイド化温度が低温化するためにCMOSトランジスタの性能劣化を防ぐことが可能になる。シリサイド形成時の優先拡散種におけるNiとCoの類似性の観点から、CoでもNiとほぼ同様の効果が期待できる。また、シリサイド反応抑制層としてTiを例示したが、Tiとの化学的性質の類似性から、Zr、Hfでも同様の作用が得られることがわかっている。
以上説明したように、第2実施形態によれば、SiO2よりも高い誘電率を有する材料からなる絶縁膜上に設けられた金属電極の仕事関数が所望の値を有する半導体装置を得ることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による半導体装置を説明する。本実施形態の半導体装置は、CMOSトランジスタであって、第2実施形態とは以下の点で異なっている。
第3実施形態においては、図9に示すPチャネルMISトランジスタのゲート電極12は仕事関数4.75eV以上5.10eV以下の材料で構成され、NチャネルMISトランジスタのゲート電極16は仕事関数4.20eV以上4.55eV以下の電極材料で構成されるというところまでは第2実施形態と同様であるが電極材料が異なる。
このようなゲート電極として、本実施形態では、PチャネルMISトランジスタのゲート電極12の材料としてPt、Ir、Ru、Pd、Reの少なくとも1つの金属を含むシリサイドを用いる。これらの材料であれば仕事関数4.75eV以上5.10eV以下が実現できる。一方、NチャネルMISトランジスタのゲート電極16の材料としては、W、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Erなどの希土類金属を少なくとも1つ含むシリサイドを用いる。これらの材料であれば仕事関数4.20eV以上4.55eV以下が実現できる。
次に、第3実施形態の半導体装置の製造方法を説明する。
本実施形態の半導体装置の製造方法を図25乃至図27に示す。
第1実施形態と同様に、シリコン層23/バッファ層22/High−kからなるゲート絶縁膜21のゲート積層構造を有するCMOSデバイスを図25に示すように得る。第3実施形態では、第2実施形態と同様、PチャネルMISトランジスタとNチャネルMISトランジスタの金属シリサイドに異なる仕事関数の材料を用いる。
本実施形態では、図26に示すように、N型ウェル領域2の上部にのみPt層31を50nmスパッタ法で堆積した。その後、450℃、1分の熱処理によりPt層31とシリコン層23(70nm)を反応させ、PtSi層12を形成した。その後、未反応のPtを王水により除去した。続いて、P型ウェル領域3の上部にのみEr層32を50nm、その上部にW層33を30nm堆積し、図27に示す構造を得た。この構造に対し、450℃、1分間の熱処理を施すことにより、Er層32とシリコン層23を反応させ、Er3Si5層16を形成した。その後、硫酸によって未反応のEr、およびW層を選択的に剥離した。W層33には、Erシリサイド形成熱処理時のErの酸化反応を抑制し、Er3Si5層16の形成を安定化する役割がある。これにより、PチャネルMISトランジスタについてはPtSi、NチャネルMISトランジスタについてはEr3Si5をゲート電極とするCMOSトランジスタを実現できる。引き続いての不純物偏析層の導入工程は第1実施形態で説明したと同様にして、図9に示すCMOSトランジスタの構造を得た。
本実施形態においては、PチャネルMISトランジスタについては仕事関数4.95eVのPtSiに対しボロン等の変調効果によって実効的仕事関数は5.15eV、NチャネルMISトランジスタについては仕事関数4.35eVのEr3Si5に対しリン等の変調効果によって4.05eVの実効的仕事関数を実現できる。これにより、第2実施形態よりも、しきい値電圧Vthの低いCMOSトランジスタが実現できた。本実施形態は上記第1乃至第3実施形態の中で最も低いしきい値電圧Vthを実現できるものであるが、両チャネルトランジスタ間で異なる金属材料を用いたシリサイドを使う為、製造プロセス、装置の複雑化というデメリットを伴う。
以上説明したように、第3実施形態によれば、SiO2よりも高い誘電率を有する材料からなる絶縁膜上に設けられた金属電極の仕事関数が所望の値を有する半導体装置を得ることができる。
上記第1乃至第3実施形態においては、現状の平面型トランジスタを例にとって説明したが、本発明の一実施形態の特質はCMOSトランジスタのゲート電極/ゲート絶縁膜の積層構造にあるので、その適用範囲はトランジスタ形状に制限されない。したがって、平面型トランジスタだけでなく、FINトランジスタのような立体型トランジスタへの適用ももちろん可能である。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による半導体装置を説明する。本実施形態の半導体装置はスタック型メモリであって、複数のメモリセルを備えている。このメモリセルを図28(a)、28(b)を参照して説明する。
図28(a)および図28(b)はそれぞれ、第4実施形態に係るスタック型メモリセルの、ワード線方向およびワード線方向に垂直な面で切った断面図である。本実施形態に係るメモリセルは、図28(a)、図28(b)に示すように、半導体基板34上にトンネル絶縁膜36、浮遊ゲート電極37、電極間絶縁膜38、不純物偏析層44、制御ゲート電極40がこの順に積層されたゲート積層構造(以下、メモリゲートスタックともいう)を備えている。電極間絶縁膜38は、浮遊ゲート電極37上に設けられたHigh−k材料からなる絶縁膜38aと、この絶縁膜38a上に設けられた制御ゲート界面絶縁層38bとを備えている。また、メモリゲートスタックの側部には側壁酸化膜41が設けられている。側部が側壁酸化膜41で被覆されたメモリゲートスタックは、層間絶縁膜42で覆われている。メモリゲートスタックの両側の半導体基板34にはソース・ドレイン拡散層35が設けられている。個々のスタック型メモリセルは素子分離絶縁膜43で互いに隔てられている。
本実施形態では、制御ゲート電極40がNiなどの金属シリサイドで形成されている。これにより、本実施形態のスタック型メモリセルは、従来のメモリセルで生じるSiゲートの空乏領域における制御ゲート電圧降下の問題が回避できるため、書き込み/消去の動作を有効に行うことが可能になり、しきい値電圧Vthのウィンドウが大きくなり記憶容量の機能が向上する。また、電極間絶縁膜38は、High−k材料からなる絶縁膜38aと、シリコン酸窒化膜あるいはシリコン窒化膜からなる制御ゲート界面絶縁層38bとの積層膜から構成されているため、書き込み/消去時に制御ゲート電極40に大きな電圧が印加されたとき、浮遊ゲート電極37との間の容量カップリングを強く保ちつつ、漏れ電流を低く制限することができる。これにより、書き込み/消去動作を従来よりも有効に行える。
ここで、High−k材料からなる絶縁膜38aと金属シリサイドからなる制御ゲート電極40との界面にSiONまたはSiNからなる膜を設けた点が本実施形態の特徴であり、これにより、第1実施形態で説明した金属シリサイドの仕事関数の低下を解決できる。一般に、制御ゲート電極40の仕事関数が高いほど浮遊ゲート電極37との間の漏れ電流は小さくなる。これは、制御ゲート電極40と電極間絶縁膜38との電子障壁が高くなり、電極間絶縁膜38中の電子輸送が起きにくくなるためである。本実施形態によれば、High−k材料からなる絶縁膜38aを含む電極間絶縁膜と、仕事関数の高い金属シリサイドからなる制御ゲート電極40とを含むメモリゲートスタックが実現できるので、浮遊ゲート電極37と制御ゲート電極40間の容量カップリング向上と漏れ電流の抑制を同時に達成できる。なお、制御ゲート電極40の金属シリサイドを構成する金属としては、Co、Niなどを用いることができる。
さらに本実施形態では、制御ゲート電極40と制御ゲート界面絶縁層38bとの界面にはボロン、アルミニウムなどからなる不純物偏析層44を設けたことにより、金属シリサイドの仕事関数をさらに高めることに成功した。これにより、更に制御ゲート電極40と浮遊ゲート電極37との間の漏れ電流が低下した。第1実施形態同様に、不純物偏析層44に含まれる不純物の結合状態は、主に制御ゲート電極40側に偏在する金属的な結合状態の総数が、主に制御ゲート界面絶縁層38b側に偏在する酸化・窒化・酸窒化状態の総和よりも多いことが本実施形態の特色である。これにより、SiONまたはSiNからなる制御ゲート界面絶縁層38b上であってもボロン、アルミニウム等の13族元素により制御ゲート電極40の仕事関数が増加する。
次に、第4実施形態による半導体装置の製造方法を説明する。
第4実施形態による半導体装置の製造工程を図29(a)乃至図37(b)に示す。
まず、所望の不純物を添加した半導体基板34上に、トンネル絶縁膜36として膜厚10nmの熱酸化SiO2膜を形成し、浮遊ゲート電極37として厚さ100nmの多結晶シリコン層をCVD法などにより堆積する。多結晶シリコン層37はリンなどの不純物によってN型にドープされている。引き続き浮遊ゲート電極37上に素子分離加工のためのマスク材45を全面に堆積した。素子分離レジストパターン(図示せず)を用い、RIE(Reactive Ion Etching)等によってマスク材45、浮遊ゲート電極37、トンネル絶縁膜36をエッチング加工し、さらに半導体基板34を加工し、ここでは深さ150nmの素子分離溝46を形成した。これにより、図29(a)、29(b)に示す構造が得られる。
引き続き、図29(a)、29(b)に示す構造の全面に、素子分離用絶縁膜43を堆積する。ここでは、シリコン酸化膜をCVD法で堆積した。その後、CMPなどの平坦化技術によって表面のシリコン酸化膜を除去し、表面を平坦化して図30(a)、30(b)に示す構造を得た。この際、マスク材45が露出している。
その後、露出したマスク材45を選択的に除去し、素子分離用絶縁膜43をエッチングして、浮遊ゲート電極37の側面を露出させた。本実施形態では、シリコン酸化膜を希HF水溶液にてエッチングし、高さ50nmの浮遊ゲート電極37の突起を形成した。このようにして得られた構造を図31(a)、31(b)に示す。
図31(a)、31(b)に示す構造の全面に、電極間絶縁膜38としてHigh−k材料からなる絶縁膜38a、SiONまたはSiNからなる絶縁膜38bを堆積した。絶縁膜38aの材料としては、ハフニウムシリケート、窒素添加ハフニウムシリケート、ハフニウムアルミネート(HfAlO)、ジルコニウムシリケート、窒素添加ジルコニウムシリケート、アルミナ、ハフニア、ランタンアルミネートなどを用いることができる。特にHfで構成されるHigh−k膜は耐熱性が高く、比誘電率も高いために、本実施形態のHigh−k材料として相応しい。本実施形態では、膜厚15nmのHfAlO膜38aを、ALD法により堆積した。この際、浮遊ゲート電極37とHigh−k膜38aの間に膜厚1nm以下の界面遷移層が形成されることがある。一方、絶縁層38bは、SiO2に換算した膜厚が0.1nm以上、2nm以下であることが望ましく、本実施形態ではSiO2換算膜厚が1nm、物理的な厚さ1.5nmのシリコン酸窒化層38bを、やはりALD法により堆積した。シリコン酸窒化層38bの窒素濃度は、3原子%以上15原子%以下であるときに欠陥が少ない膜を実現できるため、好ましい。このようにして、図32(a)、32(b)に示す構造を得た。
引き続き、制御ゲート電極を形成するための多結晶シリコン層47を、図32(a)、32(b)に示す構造の全面にCVD法によって堆積した。本実施形態におけるその膜厚は100nmであった。その後、多結晶シリコン層47上にRIEのマスク材48を全面堆積し、その上部にゲートレジストパターン(図示せず)を形成した後にマスク材48、多結晶シリコン47、シリコン酸窒化層38b、High−k材料からなる絶縁膜38a、浮遊ゲート電極37、トンネル絶縁膜36を順次エッチング加工した。この工程で、浮遊ゲート電極37と制御ゲート電極40の形状が確定する。このときの断面を図33(a)、33(b)に示す。
次に、図33の構造にソース・ドレイン領域形成のためのイオン注入を行った後、マスク材48を除去、引き続きメモリゲートスタックの露出面に側壁酸化膜41を、例えば熱酸化法によって2nm形成した。引き続いて活性化熱処理を施すことにより、ソース・ドレイン領域35を形成した後、層間絶縁膜42で構造全面を被覆して図34(a)、34(b)に示す構造を得た。
次に、制御ゲート電極をシリサイド化するための工程を行う。まず、図34(a)、34(b)に示す構造に対しCMPなどの平坦化処理を行い、層間絶縁膜42、多結晶シリコン層47上部に形成された側壁酸化膜41を除去することで、多結晶シリコン層47を露出させる。この様子を図35(a)、35(b)に示す。
さらに、図35(a)、35(b)に示す構造の全面に、例えば膜厚70nmのNiからなる金属層49をスパッタ法で堆積した(図36(a)、36(b))。ここで、金属層49としては、Ni、Coのいずれかを用い、その金属とシリコンとの組成比(金属/シリコン)が0.5〜2になる組成のシリサイドを作るとよい。これらの金属シリサイド相は、仕事関数が4.55eV〜4.75eVとなる。これにより、仕事関数が比較的高いシリサイド電極を実現可能である。金属シリサイド相の調整は、金属とシリコンの膜厚比制御によって可能である。また、Pt、Ir、Ru、Pd、Reのいずれかを用いるか、Ni、Coを用いて金属とシリコンとの組成比(金属/シリコン)が2以上になる組成のシリサイドを作るかして、仕事関数が4.75eV〜5.10eVを実現することもできる。この場合、漏れ電流はより低くなるが、仕事関数4.55eV〜4.75eVの金属シリサイドと比べ熱的安定性に劣るというデメリットがある。
その後、450℃、1分の熱処理を施し、多結晶シリコン層47をすべてシリサイド化し、未反応のNiを硫酸で選択的に除去することで、図37(a)、37(b)に示す構造を実現した。多結晶シリコン層47は不純物を添加されていないので、この時点では金属シリサイド50と絶縁層38bとの界面に不純物偏析層は形成されない。
図37(a)、37(b)に示す構造の金属シリサイド50に対し、13族元素をイオン注入する。ここでは、ボロンを加速エネルギーが5keVでドーズ量が5x1015/cm2の条件で注入した。ついで、制御ゲート電極40となる金属シリサイド50に注入されたボロンのうち少なくとも一部を熱拡散させ、金属シリサイド50と制御ゲート界面絶縁層38bとの界面に偏析させる。本実施形態では、450℃、1分間の熱処理を施すことで、制御ゲート電極40と、制御ゲート界面絶縁層38bとの界面に界面不純物偏析層44を形成した。このようにして形成した不純物偏析層44は、主に制御ゲート電極40側に偏在する不純物の金属的な結合状態の総数が、主に制御ゲート界面絶縁層38b側に偏在する不純物の酸化・窒化・酸窒化状態の総和よりも多く、仕事関数増加の作用を果たす。その後、再び層間絶縁膜42を形成することで、図28(a)、28(b)に示す構造を完成させた。
本実施形態においては、仕事関数が4.65eVのNiSiに対し、ボロンの変調効果によって実効的仕事関数は4.85eVとなった。これにより、書き込み/消去時の電極間漏れ電流を著しく小さくすることができ、スタック型メモリセルのVthウィンドウを大きくすることが可能になった。
また、本実施形態においては、電極間絶縁膜にHigh−k材料を用いるがゆえに電極間の容量カップリングの強さと漏れ電流の低減効果を有し、さらには制御ゲート電極40をシリサイド化することで、従来のポリゲートの場合に顕在化していた空乏層による電圧降下の悪影響をも免れることができる。
以上説明したように、第4実施形態によれば、SiO2よりも高い誘電率を有する材料からなる絶縁膜上に設けられた金属電極の仕事関数が所望の値を有する半導体装置を得ることができる。
上記第1乃至第4実施形態で用いたNiシリサイドの組成比と仕事関数を図38に示す。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。