【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は薄膜形成方法に係り、特に半導体装置等で導
電体膜として好適に用いられる高品質の窒化チタン膜の
形成方法に関する。
〔従来の技術〕 従来、基板上に窒化チタン膜を形成させる場合に、原
料化合物として、四塩化チタン(TiCl4)と窒素(N2)
あるいはアンモニア(NH3)等を用い、800℃以上の高温
に加熱して化学気相成長させる熱CVD法が一般的である
が、比較的低温で窒化チタン膜を得る方法として、例え
ば特公昭57−42970号公報に提案されているごとく、高
周波磁界を気相反応室に印加し、有機チタン化合物をプ
ラズマ中で分解させて気相成長させるプラズマCVD法が
開示されている。しかし、熱CVD法においては高温の反
応条件が必要であり、またプラズマCVD法においては、
原料物質である有機チタン化合物が、その構成元素であ
る炭素(C)などに分解し、これが不純物として窒化チ
タン膜中に混入されやすく、そのため高純度で品質の高
い窒化チタン膜を得ることが困難であった。
〔発明が解決しようとする課題〕 上述したごとく、従来技術である熱CVD法あるいはプ
ラズマCVD法においては、反応条件が高温であったり、
また原料化合物の構成元素である炭素などに分解され、
これが形成される窒化チタン膜中に不純物として混入さ
れやすいため、高品質の窒化チタン膜を得ることができ
なかった。
本発明の目的は、上記従来技術における問題点を解消
し、低温、低圧力の反応条件下でも極めて高品質の窒化
チタン膜を形成することのできる薄膜形成方法を提供す
ることにある。
〔課題を解決するための手段〕 上記本発明の目的を達成するために、本発明の薄膜形
成方法は、減圧され、かつ可視および紫外領域の光を照
射する手段を設けた気相反応室中に、所定の基板を保持
し、上記反応室中に、トリアゾ基を含む有機チタン化合
物を単独、もしくはアルゴン(Ar)または窒素(N2)な
どのキャリアガスと共に、上記基板に導入し、例えば水
銀灯あるいはレーザ光などの可視および紫外領域の光を
照射して励起させ、上記基板表面上に、窒化チタン膜を
気相成長させるものである。
本発明の薄膜形成方法は、原料ガスであるトリアゾ基
(−N3)を含む有機チタン化合物の分解を、可視および
紫外領域の光による励起過程に基づく化学反応を利用す
る薄膜形成技術であるために、従来技術である熱励起だ
けに依存する熱CVD法のような高温は必要でなく、また
プラズマCVD法において見られるように、原料化合物の
分解により生成されるC(炭素)などの副生成物が不純
物として膜中に取り込まれることが無いので、極めて純
度の高い高品質の窒化チタン膜の形成が可能となる。
本発明の薄膜形成方法において用いられるトリアゾ基
を含む有機チタン化合物は、トリアゾ基(−N3)を有す
る有機チタン化合物であって、例えば、下記の構造式
(a)に示す、ビスシクロペンタジエニルチタニウムダ
イアジド〔Cp2Ti(N3)2〕、またはシクロペンタジエ
ニル基(Cp基)に、メチル基などのアルキル基の置換基
を付加した、構造式(b)あるいは(c)に示す有機チ
タン化合物などを好適に用いることができる。
〔作用〕 本発明の薄膜形成方法において、窒化チタン膜の形成
に用いられるトリアゾ基を含む有機チタン化合物は、例
えば、上記構造式(a)に示す、Cp2Ti(N3)2は、完
全なイオン性でないが、下記に示すような電子構造によ
り、トリアゾ基がチタンに結合している。
そして、トリアゾ基は次に示す共鳴構造を持つ。
−N=N=N:−N−N≡N この化合物の分子の可視紫外スペクトルを測定する
と、紫外域の吸収と共に、波長410nm付近に非常に大き
な吸収がある。この410nm付近の吸収は上記の分子中の
置換基であるトリアゾ基(−N3)に因るものと考えられ
る。すなわち、上記の波長の光吸収により、上記化合物
の分子は電荷移動を伴う励起状態に遷移する。その結
果、Ti−Cpの結合の切断および不安定なN3の分解が起
り、次に示す2つのメカニズムのいずれかによって窒化
チタン(TiN)膜が形成されるものと考えられる。
(1)原料化合物のTi−N結合が切断されずに残り、こ
れがTiN膜を形成する。
(2)分解によって反応室中に生成したTiとN原子が再
結合してTiN膜が形成される。
〔実施例〕 以下に本発明の一実施例を挙げ、図面に基づいて、さ
らに詳細に説明する。
(実施例 1) 第1図は、本発明の薄膜形成に使用した成膜装置の構
成の一例を示す概略図である。100℃〜500℃の温度に加
熱可能な基板ホルダ1上に、Si基板2が配置されてい
る。原料容器3には、原料化合物であるビスシクロペン
タジエニルチタニウムダイアジド〔Cp2Ti(N3)2〕が
充填されている。原料容器3を加熱して気化した原料ガ
スは、原料導入管4によって、反応室6中のSi基板2上
に導入される。原料導入管4は、原料容器3中で気化さ
れた有機金属化合物ガスが、原料導入管4中で冷却され
凝縮または凝固するのを防ぐために、加熱し保温する構
造になっている。ビスシクロペンタジエニルチタニウム
ダイアジドの場合では、10Pa程度の真空度で130℃から1
50℃程度の温度で昇華し気体となる。
反応室6中への原料化合物の導入部分の構造の一例を
第2図に示す。図において、原料容器3a中で気化したビ
スシクロペンタジエニルチタニウムダイアジドの気体
は、アルゴン、窒素ガス等のキャリアガスを用いて、反
応室6中に導入する構造にすることもできる。
反応室6中に配置されているSi基板2は、反応室6の
上部に設けられている紫外光照射用の窓5を通して、高
圧水銀灯8から発生した紫外光7が照射されている。ビ
スシクロペンタジエニルチタニウムダイアジドは、紫外
光7が照射されたSi基板2上に供給され、光化学反応を
起こし、窒化チタンがSi基板2上に堆積される。この紫
外光7の光源として、レーザ光のような単色性に優れた
紫外光7であっても良いことは言うまでもない。
このような成膜装置を用いて窒化チタン膜の成膜を行
った結果、Si基板2の温度が200℃といった、これまで
の導電体膜のCVDによる成膜方法では考えられない低温
で成膜を行った場合においても、良好な導電性を有する
窒化チタン膜を得ることができた。
(実施例 2) 実施例1に示した薄膜形成方法において、有機金属の
原料化合物であるシクロペンタジエニル基(Cp基)にメ
チル基等の置換基を付加した、上述の構造式(b)また
は(c)に示すような分子構造の有機チタン化合物を用
いても、実施例1と同様の効果を得ることができた。す
なわち、原料化合物を適宜選択することにより原料化合
物の昇華温度を制御することができ、最適の気相反応条
件下で成膜することができる効果がある。
なお、本実施例で用いた有機チタン化合物において、
付加する置換基がメチル基に限らないことは言うまでも
なく、トリアゾ基とTiとの結合を有する有機金属化合物
であるならば、いずれも本発明の薄膜の形成に好適に用
いることができ、本実施例と同様の効果が得られること
は言うまでもない。
なお、上記実施例においては、窒化チタン膜形成の光
反応励起用として紫外光を用いる例を挙げたが、可視領
域の光を照射しても上記実施例と同様の効果が得られる
ことを確認している。
〔発明の効果〕 以上詳細に説明したように、本発明の薄膜形成方法
は、可視および紫外領域の光による励起反応を利用する
ことによって、低温、低圧の反応条件下においても純度
の高い高品質の窒化チタン膜の形成が可能となる。した
がって、本発明の窒化チタン膜の形成方法によれば、
(1)低温、低圧での形成が可能であることから、耐熱
性の乏しい材料上への高品質の窒化チタン膜の形成が可
能となる、(2)高品質であることから導電体膜とし
て、半導体装置の電極配線材料として窒化チタン膜の適
用が可能となる、等の優れた効果を得ることができ極め
て有効な薄膜形成手段となる。
【図面の簡単な説明】 第1図は本発明の実施例における薄膜形成方法を実施す
るための成膜装置の構造の一例を示す模式図、第2図は
本発明の実施例における成膜装置の反応室に原料化合物
を導入する構造の一例を示す模式図である。 1……基板ホルダ、2……Si基板 3、3a……原料容器、4、4a……原料導入管 5……紫外光照射用の窓、6……反応室 7……紫外光、8……高圧水銀灯 9……ヒータ、10……流量調節バルブ