以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明のウエーハの加工方法を実施するのに適したレーザー加工装置2の概略斜視図が示されている。
  レーザー加工装置2は、静止基台4上にX軸方向に移動可能に搭載された第1スライドブロック6を含んでいる。第1スライドブロック6は、ボールねじ8及びパルスモータ10から構成される加工送り手段12により一対のガイドレール14に沿って加工送り方向、すなわちX軸方向に移動される。
  第1スライドブロック6上には第2スライドブロック16がY軸方向に移動可能に搭載されている。すなわち、第2スライドブロック16はボールねじ18及びパルスモータ20から構成される割り出し送り手段22により一対のガイドレール24に沿って割り出し送り方向、すなわちY軸方向に移動される。
  第2スライドブロック16上には円筒支持部材26を介してチャックテーブル28が搭載されており、チャックテーブル28は回転可能であるとともに加工送り手段12及び割り出し送り手段22によりX軸方向及びY軸方向に移動可能である。チャックテーブル28には、チャックテーブル28に吸引保持されたウエーハを支持する環状フレームをクランプするクランプ30が設けられている。
  静止基台4にはコラム32が立設されており、このコラム32にはレーザービーム照射ユニット34が取り付けられている。レーザービーム照射ユニット34は、ケーシング33内に収容された図2に示すレーザービーム発生ユニット35と、ケーシング33の先端に取り付けられた集光器37とから構成される。
  レーザービーム発生ユニット35は、図2に示すように、YAGパルスレーザーを発振するレーザー発振器62と、繰り返し周波数設定手段64と、パルス幅調整手段66と、パワー調整手段68とを含んでいる。本実施形態では、レーザー発振器62として、波長1342nmのパルスレーザーを発振するYAGパルスレーザー発振器を採用した。
  ケーシング35の先端部には、集光器37とX軸方向に整列してレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像ユニット39が配設されている。撮像ユニット39は、可視光によって半導体ウエーハ11の加工領域を撮像する通常のCCD等の撮像素子を含んでいる。
  撮像ユニット39は更に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、この光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する赤外線CCD等の赤外線撮像素子から構成される赤外線撮像手段を含んでおり、撮像した画像信号はコントローラ(制御手段)40に送信される。
  コントローラ40はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)42と、制御プログラム等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)44と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)46と、カウンタ48と、入力インターフェイス50と、出力インターフェイス52とを備えている。
  56は案内レール14に沿って配設されたリニアスケール54と、第1スライドブロック6に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される加工送り量検出ユニットであり、加工送り量検出ユニット56の検出信号はコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。
  60はガイドレール24に沿って配設されたリニアスケール58と第2スライドブロック16に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される割り出し送り量検出ユニットであり、割り出し送り量検出ユニット60の検出信号はコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。
  撮像ユニット39で撮像した画像信号もコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。一方、コントローラ40の出力インターフェイス52からはパルスモータ10、パルスモータ20、レーザービーム発生ユニット35等に制御信号が出力される。
  図3を参照すると、本発明の加工方法の加工対象となる半導体ウエーハ11の表面側斜視図が示されている。図3に示す半導体ウエーハ11は、例えば厚さが100μmのシリコンウエーハから構成されている。
  半導体ウエーハ11は、表面11aに第1の方向に伸長する複数の第1の分割予定ライン(ストリート)13aと、第1の方向と直交する第2の方向に伸長する複数の第2の分割予定ライン13bが形成されているとともに、第1の分割予定ライン13aと第2の分割予定ライン13bとによって区画された各領域にIC、LSI等のデバイス15が形成されている。
  本発明実施形態のウエーハの加工方法では、半導体ウエーハ(以下ウエーハと略称する)11は、図4に示すように、外周が環状フレームFに貼着されたダイシングテープTにその表面11a側が貼着され、図5に示すように、ウエーハ11の裏面11bが露出した形態として加工が遂行される。
  本発明のウエーハの加工方法では、まず、シリコンウエーハ11に対して透過性を有するパルスレーザービームの波長を1300nm〜1400nmの範囲に設定する(波長設定ステップ)。本実施形態では、図2に示すレーザービーム発生ユニット35のレーザー発振器62として、波長1342nmのパルスレーザーを発振するYAGレーザー発振器を採用した。
  次いで、レーザー加工装置2のチャックテーブル28でウエーハ11をダイシングテープTを介して吸引保持し、ウエーハ11の裏面11bを露出させる。そして、撮像ユニット39の赤外線撮像素子でウエーハ11をその裏面11b側から撮像し、第1の分割予定ライン13aに対応する領域を集光器37とX軸方向に整列させるアライメントを実施する。このアライメントには、よく知られたパターンマッチング等の画像処理を利用する。
  第1の分割予定ライン13aのアライメントを実施後、チャックテーブル28を90度回転してから、第1の分割予定ライン13aに直交する方向に伸長する第2の分割予定ライン13bについても同様なアライメントを実施する。
  アライメントステップ実施後、図7に示すように集光器37で波長1342nmのパルスレーザービームの集光点を第1の分割予定ライン13aに対応するウエーハ内部に位置づけて、パルスレーザービームをウエーハ11の裏面11b側から照射して、チャックテーブル28を矢印X1方向に加工送りすることにより、ウエーハ11の内部に改質層19を形成する改質層形成ステップを実施する。
  図6に示すように、レーザービーム発生ユニット35から出射したパルスレーザービームはアッテネーター(減衰器)74を介して集光器37のミラー68で反射されてから、集光レンズ72でウエーハ11の内部に集光される。
  本実施形態の改質層形成ステップは、1パルス当たりのエネルギーが比較的小さい(第一の値)第一パルスレーザービームを照射して第一改質層を形成する第一改質層形成ステップと、1パルス当たりのエネルギーが比較的大きい(第一の値より大きい第二の値)第二パルスレーザービームを照射して第一改質層に重ねて第二改質層を形成する第二改質層形成ステップとを含んでいる。
  ここで、1パルス当たりのエネルギーが比較的小さい第一の値とは、改質層から伝播するクラックの形成が抑制されるエネルギーであり、本実施形態では1.5〜4.0μJの範囲内が好ましい。1パルス当たりのエネルギーが比較的大きい第二の値は、6.5〜10μJの範囲内が好ましい。
  第一改質層形成ステップでは、レーザービーム発生ユニット35から出射されたパルスレーザービームをアッテネーター74で1パルス当たりのエネルギーが1.5〜4.0μJである第一パルスレーザービームに減衰する。
  そして、1パルス当たりのエネルギーが減衰された第一パルスレーザービームLB1の集光点Pを集光器37の集光レンズ72で第一の分割予定ライン13aに対応するウエーハ内部に位置づけて、第一パルスレーザービームLB1をウエーハ11の裏面11b側から照射して、チャックテーブル28を図7で矢印X1方向に加工送りすることにより、図8(A)に示すように、ウエーハ11の内部に第一改質層19を形成する。
  チャックテーブル28をY軸方向に割り出し送りしながら、全ての第一の分割予定ライン13aに対応するウエーハ11の内部に第一改質層19を形成する。次いで、チャックテーブル28を90°回転してから、第一の分割予定ライン13aに直交する全ての第二の分割予定ライン13bに沿って同様な改質層19を形成する。
  改質層19は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域を言う。例えば、溶融再固化領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等を含み、これらの領域が混在した領域も含むものである。
  第一改質層形成ステップの加工条件は、例えば次のように設定されている。
    光源                    :YAGパルスレーザー
    波長                    :1342nm
    平均出力                :0.15〜0.4W
    繰り返し周波数          :100kHz
    スポット径              :φ3.0μm
    送り速度                :300mm/s
  第一改質層形成ステップ実施後、1パルス当たりのエネルギーが比較的大きい第二パルスレーザービームLB2で第一改質層19に重ねて第二改質層19aを形成する第二改質層形成ステップを実施する。この第二改質層形成ステップでは、第一改質層19に重ねて第二改質層19aを形成するため、平均出力以外の条件は上記した第一改質層形成ステップの加工条件と同様である。
  第二改質層形成ステップでは、レーザービーム発生ユニット35から出射したパルスレーザービームをアッテネーター74で幾分減衰して、1パルス当たりのエネルギーが比較的大きい第二の値である第二パルスレーザービームLB2に変換する。
  そして、第二パルスレーザービームLB2の集光点Pを第一改質層19に位置づけて、第二パルスレーザービームLB2をウエーハ11の裏面11b側から照射して、チャックテーブル28を図7で矢印X1方向に加工送りすることにより、図8(B)に示すように、第一改質層19に重ねて第二改質層19aを形成する。
  この第二改質層形成ステップでは、1パルス当たりのエネルギーが比較的大きい第二パルスレーザービームLB2の集光点Pを第一改質層19に重ねて第二パルスレーザービームLB2をウエーハ11の裏面11b側から照射して、図8(B)に示すように、第一改質層19に重ねて第二改質層19aを形成する。
  第二パルスレーザービームLB2の集光点Pを第一改質層19に重ねて第二パルスレーザービームLB2が照射されるため、第一改質層19に比較的エネルギーの大きい第二パルスレーザービームLB2が誘導されて微細なクラックの形成が抑制されて第二改質層19aが第一改質層19に重ねて形成される。
  従って、次に照射される第二パルスレーザービームLB2はクラックの影響を受けることなく、ウエーハ11の表面11aに形成されたデバイス15を損傷させるという問題を解消することができる。
  チャックテーブル28をY軸方向に割り出し送りしながら、全ての第一の分割予定ライン13aに対応するウエーハ11の内部に第一改質層19に重ねて第二改質層19aを形成する。
  次いで、チャックテーブル28を90°回転してから、第一の分割予定ライン13aに直交する全ての第二の分割予定ライン13bに沿って第一改質層19に重ねて第二改質層19aを形成する。
  第二改質層形成ステップの加工条件は、例えば次のように設定されている。
    光源                    :YAGパルスレーザー
    波長                    :1342nm
    平均出力                :0.65〜1.0W
    繰り返し周波数          :100kHz
    スポット径              :φ3.0μm
    送り速度                :300mm/s
  図6に示した実施形態では、レーザービーム発生ユニット35から出射されたパルスレーザービームのパワーをアッテネーター74で減衰して第一パルスレーザービーム及び第二パルスレーザービームに変換しているが、アッテネーター74に代えて他の出力調整器を採用するようにしてもよい。
  この場合には、レーザービーム発生ユニット35のパワー調整手段68と出力調整器とを適当に調整することにより、第一パルスレーザービーム及び第二パルスレーザービームを生成するようにすればよい。
  改質層形成ステップ実施後、図9に示す分割装置80を使用してウエーハ11に外力を付与し、ウエーハ11を個々のデバイスチップ21へと分割する分割ステップを実施する。図9に示す分割装置80は、環状フレームFを保持するフレーム保持手段82と、フレーム保持手段82に保持された環状フレームFに装着されたダイシングテープTを拡張するテープ拡張手段84を具備している。
  フレーム保持手段82は、環状のフレーム保持部材86と、フレーム保持部材86の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ88から構成される。フレーム保持部材86の上面は環状フレームFを載置する載置面86aを形成しており、この載置面86a上に環状フレームFが載置される。
  そして、載置面86a上に載置された環状フレームFは、クランプ88によってフレーム保持手段86に固定される。このように構成されたフレーム保持手段82はテープ拡張手段84によって上下方向に移動可能に支持されている。
  テープ拡張手段84は、環状のフレーム保持手段86の内側に配設された拡張ドラム90を具備している。拡張ドラム90の上端は蓋92で閉鎖されている。この拡張ドラム90は、環状フレームFの内径より小さく、環状フレームFに装着されたダイシングテープTに貼着されたウエーハ11の外径より大きい内径を有している。
  拡張ドラム90はその下端に一体的に形成された支持フランジ94を有している。テープ拡張手段84は更に、環状のフレーム保持部材86を上下方向に移動する駆動手段96を具備している。この駆動手段96は支持フランジ94上に配設された複数のエアシリンダ98から構成されており、そのピストンロッド100はフレーム保持部材86の下面に連結されている。
  複数のエアシリンダ98から構成される駆動手段96は、環状のフレーム保持部材86を、その載置面86aが拡張ドラム90の上端である蓋92の表面と略同一高さとなる基準位置と、拡張ドラム90の上端より所定量下方の拡張位置との間で上下方向に移動する。
  以上のように構成された分割装置80を用いて実施するウエーハ11の分割ステップについて図10を参照して説明する。図10(A)に示すように、ウエーハ11をダイシングテープTを介して支持された環状フレームFを、フレーム保持部材86の載置面86a上に載置し、クランプ88によってフレーム保持部材86を固定する。この時、フレーム保持部材86はその載置面86aが拡張ドラム90の上端と略同一高さとなる基準位置に位置づけられる。
  次いで、エアシリンダ98を駆動してフレーム保持部材86を図10(B)に示す拡張位置に下降する。これにより、フレーム保持部材86の載置面86a上に固定されている環状フレームFも下降するため、環状フレームFに装着されたダイシングテープTは拡張ドラム90の上端縁に当接して主に半径方向に拡張される。
  その結果、ダイシングテープTに貼着されているウエーハ11には、放射状に引っ張り力が作用する。このようにウエーハ11に放射状に引っ張り力が作用すると、第1、第2の分割予定ライン13a,13bに沿って形成された第二改質層19aが分割起点となってウエーハ11が第1、第2の分割予定ライン13a,13bに沿って割断され、個々のデバイスチップ21に分割される。