発明の概括
本発明の実施形態は、Her3受容体タンパク質、特にヒトHer3受容体タンパク質に対する好ましいアフィニティーを保有する抗体の開発により利用可能となる。後記抗体(「本発明抗体」)は、細胞運命の種々の障害、特に過剰増殖障害(例えば、癌)の治療のための重要な新規アプローチをもたらす。異常なHer3もしくはHer2受容体活性化または望ましくないレベルのHer3タンパク質の発現もしくは活性が関わる障害も含まれる。
本発明の広範な態様は、抗原がHer3の場合にはHer3の活性化もしくは調節異常により引き起こされる(媒介される)またはそれらに関連した種々の癌に存在する抗原に特異的に結合する少なくとも1つのモノクローナル抗体もしくはその結合性フラグメント(本明細書に記載されているもの)に関する。
本発明のもう1つの広範な態様は、複数の抗Her3抗体、好ましくは、抗Her3モノクローナル抗体を提供する。本発明のモノクローナル抗体はヒトHer3受容体(Her3)に結合し、したがって、Her3発現により引き起こされる病的過剰増殖性発癌性障害またはHer3受容体タンパク質の発現もしくは活性の増加に関連した異形成細胞を治療または診断するための方法において有用でありうる。
本発明の1つの実施形態は、VR、FRおよびCDRポリペプチドの配列を含む本明細書に記載の抗体ならびにそれらをコードするポリヌクレオチドに関する。ジアボディ、二重特異性、3価および4価抗体により例示される変異抗体または本明細書に記載の本発明抗体から誘導される他の抗体も本発明に含まれる。
本発明のもう1つの態様は、Her3関連疾患または障害を有する疑いのある患者においてHer3の活性化または発現を検出するための方法またはアッセイにおけるこれらの抗体の使用に関する。そのような疾患または障害には、皮質下梗塞および白質脳症を伴った常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、T細胞急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、アラギーユ症候群、異常な血管新生が関わる肝疾患;糖尿病、卵巣癌、脈管細胞運命が関わる疾患、慢性関節リウマチ、膵臓癌、形質細胞新生物(例えば、多発性骨髄腫、形質細胞白血病および骨髄外形質細胞腫)および神経芽細胞腫が含まれうるが、これらに限定されるものではない。
本発明のもう1つの態様は、Her3関連疾患または状態を有する疑いのある患者をスクリーニングして、そのような患者が抗Her3抗体での治療から利益を受けるかどうかを判定することに関する。そのような検出は、該患者の血清中で見出される可溶性Her3および細胞表面の検出の両方を含む。後記を参照されたい。
本発明はまた、本明細書に記載の少なくとも1つの抗Her3抗体を産生する単離された細胞系を提供する。したがって、本発明の1つの実施形態は、T細胞急性リンパ芽球性白血病(T−ALL)、ヒト乳癌、ヒト結腸癌、メラノーマ、ヒト肺癌およびヒト前立腺癌の1つに存在する抗原に特異的に結合する本明細書に詳細に記載されているモノクローナル抗体の少なくとも1以上を産生する単離された細胞系を提供し、ここで、該抗原は、還元条件下のSDS−PAGEによる測定で約270kDaの分子量を有するポリペプチドであるHer3受容体タンパク質(i)である。
ある実施形態においては、本明細書に記載の少なくとも1つの発明はHer3受容体のリガンド結合性ドメインに結合する。
さらにもう1つの実施形態においては、本発明の少なくとも1つの抗体は、Her3受容体の細胞外ドメインに存在する負調節因子領域に結合する。
「抗体」は、本明細書に記載のHer3特異的抗体(Her3にも結合するものを含む)の1以上のような「複数の抗体」を含むと理解される。また、それはモノクローナル、ポリクローナル、多価、二重特異性および3価または最適化抗体(それらのフラグメントを含む)を含む。本発明はまた、抗体の可変重鎖および軽鎖のような一本鎖の使用を想定している。これらのいずれのタイプの抗体または抗体フラグメントの製造も当業者によく知られている。本発明の場合、Her3受容体タンパク質に対するモノクローナル抗体が製造されており、単離されており、Her3に対する高いアフィニティーを有することが示されている。
本発明はまた、結合特性に有意な影響を及ぼさない、本発明抗体(その変異体を含む)に対する修飾体を含む。そのような変異体はその結合パートナーに対する増加または減少した活性を有しうる。
本発明のもう1つの実施形態はモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントを含み、該結合性フラグメントはFabフラグメント、F(ab)2フラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、FdフラグメントまたはFvフラグメント、Fv,scFv,scFv−Fcまたはジアボディ、あるいは化学修飾、特にPEG化またはリポソームへの封入により半減期が増加いずれかの機能性フラグメントでありうる。それはまた、抗イディオタイプ抗体でありうる。血漿タンパク質結合は、それが行われない場合には短寿命である分子の薬物動態学的特性を改良するための有効な手段でありうる。
治療用タンパク質の固有クリアランス速度を低下させるための1つの一般的方法はアミノ酸置換によるものである。タンパク質の場合、この方法は、細胞内エンドソーム区画内の受容体結合アフィニティーを減少させることによりリガンド−選別過程におけるリサイクリングを促進して細胞外媒体における半減期の延長をもたらすアミノ酸置換を含む。Sarkar C.A.,Lowenhaupt K.,Horan T.,Boone T.C.,Tidor B.,Lauffenburger D.A. Nat.Biotechnol.(2002)20:908−913を参照されたい。第2のアプローチは、長い血清半減期を有する天然タンパク質[67kDaの血清アルブミン(SA)(Syed S.,Schuyler P.D.,Kulczycky M.,Sheffield W.P.Blood(197)89:3243−3252)または抗体のFc部分(これは、グリコシル化に応じて、その天然二量体形態において、追加的な60〜70kDaを付加する)(Mohlerら,J.Immunol,151:1548−1561(1993))]との遺伝的融合体として治療用タンパク質を発現させることである。結果として、本発明の1つの実施形態は、アルブミンに融合した本発明の抗体を含む融合タンパク質を与える、本明細書に開示されている少なくとも1つの抗体に対する修飾を提供する。Dennisら,“Albumin binding as a general strategy for improving the pharmacokinetics of proteins.”J Biol Chem.,277:35035−43(2002)を参照されたい。
本発明抗体のグリコシル化変異体(糖形態(Glycoform))も想定される。本発明の1つの実施形態においては、潜在的グリコシル化部位を減少させ又は排除するために、抗体またはそのフラグメントを修飾する。オリゴ糖のような炭水化物が結合している部位のアミノ酸は典型的にはアスパラギン(N結合)、セリン(O結合)およびトレオニン(O結合)残基である。抗体または抗原結合性フラグメント内の潜在的グリコシル化部位を特定するためには、例えば、Center for Biological Sequence Analysisにより提供されているウェブサイト(N結合グリコシル化部位を予測するためにはhttp://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/を、また、O結合グリコシル化部位を予測するためにはhttp://www.cbs.dtu.dk/services/NetOGIyc/を参照されたい)のような公的に入手可能なデータベースを利用することにより、該抗体の配列を調べる。抗体のグリコシル化部位を改変するための追加的方法は米国特許第6,350,861号および第5,714,350号(それらのそれぞれの全内容を完全に本明細書中に組み入れることとする)に記載されている。抗体またはその抗原結合性フラグメントの結合アフィニティーを改善するためには、該抗体のグリコシル化部位を、例えば突然変異誘発(例えば部位特異的突然変異誘発)により改変することが可能である。未修飾形態と比較して減少したグリコシル化部位または炭水化物を有するそのような修飾抗体は「脱グリコシル化(aglycosylated)」抗体と称される。本明細書に記載の1以上の抗体から誘導される「脱フコシル化(afucosylated)」抗Her3抗体は、本発明の範囲内に含まれるそのような抗体を代表するものである。Liら,Nat.Biotechnol,24:210−215(2006);Shields,R.L.ら,Lack of fucose on human IgGl N−linked oligosaccharide improves binding to human FcfRIII and antibody−dependent cellular toxicity.J.Biol.Chem.277,26733−26740(2002)を参照されたい。もう1つの実施形態においては、グリコシル化を増加させるために本発明抗体またはその抗原結合性フラグメントを修飾する。
本発明抗体のFc操作変異体も本発明に含まれる。そのような変異体には、未修飾抗体と比較して基礎抗体分子のエフェクター機能を改善またはモジュレーションするために該抗体分子のFc領域内に突然変異または置換を導入するために操作された抗体またはその抗原結合性フラグメントが含まれる。一般に、改善されたエフェクター機能が含まれ、そのような活性はCDCおよびADCCと称される。さらに、本発明は、親Fcポリペプチドの脱グリコシル化形態と比較して改善された機能および/または溶解特性を有するFc変異体を提供する。この場合の改善された機能性には、Fcリガンドに対する結合アフィニティーが含まれるが、これに限定されるものではない。この場合の改善された溶解特性には、安定性および溶解度が含まれるが、これらに限定されるものではない。1つの実施形態においては、提示されているFc変異体は、親Fcポリペプチドのグリコシル化形態の約0.5倍以内のアフィニティーでFcγRに結合する。もう1つの実施形態においては、該脱グリコシル化Fc変異体は、グリコシル化親Fcポリペプチドと比較されうるアフィニティーでFcγRに結合する。もう1つの実施形態においては、該Fc変異体は、親Fcポリペプチドのグリコシル化形態より大きなアフィニティーでFcγRに結合する。
本発明のもう1つの広範な態様は、本明細書に記載の1以上の付録(表1〜4)に記載されているアミノ酸配列を有する少なくとも1つの相補性決定領域CDRもしくは本明細書に記載の1以上の付録に記載されている配列に対する最適アライメント後に少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の同一性を有する配列を有する少なくとも1つのCDRを含む軽鎖、または本明細書に記載の1以上の付録に記載されている群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つのCDRもしくは本明細書に記載の1以上の付録に記載されている前記の少なくとも1つのCDRに対する最適アライメント後に少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の同一性を有する配列を有する少なくとも1つのCDRを含む重鎖を含む抗体またはその結合性フラグメントを含む。あるいは、本発明の抗体は、表5または6の1つに記載されている少なくとも1つのアミノ酸配列を含む少なくとも1つの重鎖および/または軽鎖を含む。前記で参照したアミノ酸配列の少なくとも1以上をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子も想定される。付録I〜IIIを参照されたい。
同様に、該軽鎖は、本明細書中に詳細に記載されている1以上の表に記載されているアミノ酸配列を含むことが可能であり、該重鎖は、本明細書に記載の1以上の表に記載されているアミノ酸配列を含むことが可能である。表1〜6を参照されたい。
本明細書に記載の抗体のいずれかの1以上と、Her3 1への結合に関して競合する抗体も、本発明の範囲内である。
近年、多量体誘導体としてscFvを製造するための種々の方法が開発されている。これは、特に、改善された薬物動態学的および生物分布特性ならびに増強した結合アビディティーを有する組換え抗体を与えると意図される。scFvの多量体化を達成するためには、scFvを多量体化ドメインとの融合タンパク質として製造することが可能である。該多量体化ドメインは、例えば、IgGのCH3領域、またはコイルドコイル構造(ヘリックス構造)、例えばロイシンジッパードメインでありうる。しかし、scFvのVH/VL領域間の相互作用を該多量体化に利用する方法もある(例えば、ジ−、トリ−およびペンタボディ)。
また、Her3アンタゴニストまたはアゴニストである多価抗体構築物も想定される。1つの実施形態においては、多価抗体構築物は、Her3受容体タンパク質に特異的な少なくとも1つの抗原認識部位を含む。ある実施形態においては、該抗原認識部位の少なくとも1つがscFvドメイン上に位置し、他の実施形態においては、全ての抗原認識部位がscFvドメイン上に位置する。
また、Her3標的抗原に対するアフィニティーを有する2以上の抗原結合部位と、ハプテン分子に対するアフィニティーを有する1以上のハプテン結合部位とを含む多価多重特異性抗体またはそのフラグメントも、本発明において想定される。また、好ましくは、該多価多重特異性抗体またはそのフラグメントは更に、診断用/検出用および/または治療用因子を含む。
「多価抗体」または「多価抗体構築物」なる語は、2以上の抗原認識部位を含む抗体または抗体構築物を意味する。例えば、「2価」抗体構築物は2つの抗原認識部位を有し、「4価」抗体構築物は4つの抗原認識部位を有する。「単一特異性」、「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」などの語は、(抗原認識部位の数とは異なり)本発明の多価抗体構築物上に存在する異なる抗原認識部位特異性の数を表す。例えば、「単一特異性」抗体構築物の抗原認識部位は全て、同一エピトープに結合する。「二重特異性」抗体構築物は、第1エピトープに結合する少なくとも1つの抗原認識部位と、第1エピトープとは異なる第2エピトープに結合する少なくとも1つの抗原認識部位とを有する。「多価単一特異性」抗体構築物は、全てが同一エピトープに結合する複数の抗原認識部位を有する。「多価二重特異性」抗体構築物は複数の抗原認識部位を有し、そのうちの幾つかの数は第1エピトープに結合し、そのうちの幾つかの数は、第1エピトープとは異なる第2エピトープに結合する。
さらにもう1つの実施形態においては、該抗体構築物は単一特異性である。さらにもう1つの実施形態においては、該多価抗体は4価である。本発明の1つの実施形態においては、該抗体は単一特異性4価抗体であり、ここで、該抗体は4つのHer3抗原認識部位を含む。さらにもう1つの実施形態においては、該抗体構築物はHer3上のエピトープに特異的である。
本発明のもう1つの実施形態においては、該抗体構築物は二重特異性である。1つの実施形態においては、該抗体構築物は2つのHer3特異的抗原認識部位と2つのHer3特異的認識部位とを有する。
本発明のもう1つの実施形態においては、該抗体構築物は、Her3受容体タンパク質に特異的な3価抗体構築物である。さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、2つのHer3特異的抗原認識部位と2つのHer3特異的認識部位とを有する抗体構築物を想定している。
他の抗体構築物は、ヒトHer3受容体タンパク質上の種々のエピトープに対して多重特異性でありうる。該多重特異性抗体構築物のいずれかにおいては、少なくとも1つの抗原認識部位がscFvドメイン上に位置することが可能であり、ある実施形態においては、全ての抗原認識部位がscFvドメイン上に位置する。
1つの態様においては、本発明は、(i)軽鎖可変ドメインを含む(および幾つかの実施形態においては更に軽鎖定常ドメインを含む)第1ポリペプチド、(ii)重鎖可変ドメイン、第1Fcポリペプチド配列を含む(および幾つかの実施形態においては更に非Fc重鎖定常ドメイン配列を含む)第2ポリペプチド、および(iii)第2Fcポリペプチド配列を含む第3ポリペプチドを含む抗体フラグメントを提供する。一般に、第2ポリペプチドは、重鎖可変ドメイン、重鎖定常ドメイン(例えば、CH1の全部または一部)および第1Fcポリペプチドを含む単一ポリペプチドである。例えば、第1Fcポリペプチド配列は、一般に、ペプチド結合[すなわち、非ペプチド結合以外]により重鎖定常ドメインに連結される。1つの実施形態においては、第3ポリペプチドは、ヒンジ配列の少なくとも一部をN末端に含むN末端トランケート化重鎖を含む。1つの実施形態においては、第3ポリペプチドは、機能性または野生型ヒンジ配列をN末端に含まないN末端トランケート化重鎖を含む。幾つかの実施形態においては、本発明の抗体またはそのフラグメントの2つのFcポリペプチドは共有結合されている。例えば、それらの2つのFcポリペプチドは、分子間ジスルフィド結合により、例えば、ヒンジ領域のシステイン残基間の分子間ジスルフィド結合により連結されうる。
1つの態様においては、本発明は、免疫グロブリンの集団を含む組成物を提供し、ここで、該免疫グロブリンの少なくとも(または少なくとも約)50%、75%、85%、90%、95%は本発明の抗体フラグメントである。免疫グロブリンの該集団を含む組成物は、宿主細胞ライセート、細胞培養培地、宿主細胞ペーストまたはそれらの半精製もしくは精製形態(これらに限定されるものではない)を含む種々の形態のいずれかでありうる。精製方法は当技術分野でよく知られており、それらの幾つかは本明細書に記載されている。
本発明のもう1つの実施形態はHer3特異的ジアボディ抗体を提供する。ジアボディは2価ホモ二量体scFv誘導体を意味する(Huら,1996,PNAS 16:5879−5883)。scFv分子におけるリンカーを5〜10アミノ酸に短縮することにより、鎖間VH/NL重ね合わせが生じるホモ二量体が形成される。ジアボディは更に、ジスルフィド架橋の組込みにより安定化されうる。先行技術からのジアボディ−抗体タンパク質の具体例はPerisicら(1994,Structure 2:1217−1226)に見出されうる。
ミニボディは2価ホモ二量体scFv誘導体を意味する。それは、免疫グロブリン(好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1)のCH3領域を、ヒンジ領域(例えば、同様にIgG1由来)およびリンカー領域を介してscFvに連結された二量体化領域として含有する融合タンパク質からなる。該ヒンジ領域内のジスルフィド架橋は、大抵は、高等生物細胞においては形成されるが、原核生物においては形成されない。好ましくは、該ミニボディはHer3特異的ミニボディ抗体フラグメントである。先行技術からのミニボディ−抗体タンパク質の具体例はHuら(1996,Cancer Res.56:3055−61)に見出されうる。
トリアボディは3価ホモ三量体scFv誘導体を意味する(Korttら,1997 Protein Engineering 10:423−433)。リンカー配列無しでVH−VLが直接的に融合されたscFv誘導体は三量体の形成をもたらす。
2価、3価または4価構造を有しscFvから誘導される、いわゆるミニアンチボディ(miniantibody;小型抗体)も、当業者によく知られているであろう。多量体化は二量体、三量体または四量体コイルドコイル構造により行われる(Packら,1993 Biotechnology II:,1271−1277;Lovejoyら,1993 Science 259:1288−1293;Packら,1995 J.Mol Biol.246:28−34)。
したがって、もう1つの実施形態は、前記抗体フラグメントに基づくHer3特異的多量体化分子を提示し、それは例えばトリアボディ、4価ミニアンチボディまたはペンタボディでありうる。
本発明の関連態様は、特定されたアフィニティーでヒトHer3に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその機能性フラグメントを提供する。ある実施形態においては、これらの抗体は約10pM〜約500nMの範囲のED50でヒトHer3に結合する。ある実施形態においては、これらの抗体は約500pM〜約300nMの範囲のED50でヒトHer3に結合する。
本発明は更に、T細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、ヒト結腸癌、メラノーマ、ヒト肺癌およびヒト前立腺癌(これらに限定されるものではない)を含む宿主細胞上に存在する抗体認識表面抗原を提供し、ここで、該抗原はHer3またはその生物学的に同等な変異体もしくは断片である。
また、固体マトリックスに結合した本発明のモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントも提供する。
本明細書に記載のHer3に対する抗体は、該タンパク質の追加的量を例えばアフィニティークロマトグラフィーにより単離するために、製造施設または研究所においても使用されうる。例えば、本発明の抗体は、追加的量のHer3を単離するために使用されうる。
1つの態様においては、本発明は、本明細書に記載の1以上の付録に記載されているアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を有する単離された、精製された、または組換えポリペプチドを提供する。ある実施形態においては、本出願は、本明細書に記載の標的アミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、98%、99%、99.3%、99.5%または99.7%同一であるアミノ酸配列を提供する。
本発明は更に、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。したがって、本発明は更に、重鎖および/または軽鎖あるいはその抗原結合性部分を含む本明細書に開示されている本発明抗体をコードする単離された核酸を提供する。したがって、本発明の1つの態様は、本明細書に記載の付録のいずれか1以上に記載されているヌクレオチド配列から選択される単離された核酸分子を提供する。関連態様は、(a)本明細書に記載の付録の1以上に記載されているアミノ酸の配列の1以上をコードする本明細書に記載の付録のいずれか1以上に記載されている核酸分子、または(b)中等度にストリンジェントな条件下で(a)のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列、または(c)前記(a)もしくは(b)に関する縮重配列であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、または(d)それらのスプライス変異体cDNA配列、または(e)本明細書に記載の付録の1以上に記載されている核酸配列のCDRの少なくとも1つに、あるいは本明細書に記載の付録の1以上に記載されている配列に対する最適アライメント後に少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の同一性を有する配列に、大きなストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズしうる少なくとも18ヌクレオチドの核酸に関する。
前記の核酸分子を含むベクター、および該ベクターで形質転換された宿主細胞も提供し、ここで、該核酸分子は、場合によっては、該ベクターで形質転換される宿主細胞により認識される制御配列に連結されている。本発明に従い形質転換された細胞は、本明細書に開示されている組換え抗体の製造方法において使用されうる。種々の宿主細胞が、該抗体またはそのフラグメントをコードする核酸分子で形質転換されうる。該宿主細胞は、原核生物または真核生物系、例えば細菌細胞、同様に酵母細胞または動物細胞、特に哺乳類細胞から選択されうる。同様に、昆虫細胞または植物細胞を使用することが可能である。組換えタンパク質の製造方法はよく知られている。
同様に、本発明は、本発明に従い形質転換された少なくとも1つの細胞を含む、ヒトを除く動物に関する。したがって、抗Her3抗体の重鎖および/または軽鎖あるいはそれらの抗原結合性部分を発現する非ヒトトランスジェニック動物も提供する。
本発明は更に、本発明のモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントと医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。該医薬組成物は更に、別の成分、例えば抗腫瘍物質またはイメージング試薬を含みうる。
本発明の或る実施形態は、細胞毒性物質、例えば化学療法薬、ペプチドまたは放射性核種、免疫応答促進物質、例えばサイトカイン、プロドラッグまたは遺伝子治療のための標的化運搬系としての本発明抗体の使用に関する。また、本明細書に記載の抗体は、例えばRNAiまたはshRNAのような積荷(payload)をも輸送/運搬しうる。これらの積荷は裸のもの又は化学修飾されたものでありうる。潜在的運搬ビヒクルとしてのイムノリポソームも含まれる。
当業者に理解されるとおり、本発明の抗体またはその結合性フラグメントは、Her3の発現に関連した種々の病理の病期分類を含む種々の医学目的または研究目的に有用であろう。実際、そのような抗体の使用により、実験室的研究も促進されうる。Her3の発現に関連した発癌性障害、特に過剰増殖性発癌性障害、例えば皮質下梗塞および白質脳症を伴った常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、T細胞急性リンパ芽球性白血病、リンパ腫、アラギーユ症候群、異常な血管新生が関わる肝疾患;糖尿病、卵巣癌、脈管細胞運命が関わる疾患、慢性関節リウマチ、膵臓癌、形質細胞新生物(例えば、多発性骨髄腫、形質細胞白血病および骨髄外形質細胞腫)および神経芽細胞腫(これらに限定されるものではない)の病理学的効果のリスクを有する患者の特定も含まれる。当業者により認識されるとおり、個々の障害に関連した抗体発現のレベルは既存の状態の性質および/または重症度によって様々となろう。
したがって、本発明の追加的実施形態は、異形成または腫瘍性Her3含有細胞を検出するための、ならびにHer3受容体タンパク質の発現またはHer3カスケードの異常活性化に関連した障害を診断、評価および治療するための、本発明抗体の使用に関する。
本明細書中で用いる「Her3の発現に関連した発癌性障害」は、該障害に罹患している被験者(対象)における高いレベルの又は異常に低いレベルのHer3受容体タンパク質(異常体)の存在が、該障害の悪化に関与する要因または該障害の病理を引き起こすことが示されている又はそのように疑われる、疾患および他の障害を含むと意図される。したがって、互換的に用いられる「腫瘍細胞」または「Her3の発現に関連した新生物(腫瘍)」または「Her3の発現に関連した異形成細胞」は、正常状態と比較して増加または減少したHer3の発現レベルにより特徴づけられる異常な細胞または細胞成長を意味する。そのようなトランスフォーム化細胞は、恒常性を維持する正常な成長制御を伴わずに増殖して、組織の細胞の異常増殖により特徴づけられる状態(癌)を引き起こす。あるいは、そのような障害は、該障害に罹患した被験者の罹患細胞もしくは組織におけるICDレベルの増加または細胞表面上のHer3のレベルの増加により示される。Her3レベルの増加は、例えば、前記の抗Her3抗体を使用して検出されうる。さらに、それは、細胞増殖の制御の有意な喪失により特徴づけられる異常成長表現型を示すように比較的に自律的な成長を示す細胞を意味する。あるいは、該細胞は正常レベルのHer3を発現しうるが、異常増殖により特徴づけられる。全ての腫瘍細胞が、定められた時点で、必ずしも細胞を複製しているわけではない。腫瘍細胞として定義される細胞は、良性腫瘍における細胞、および悪性(または臨床的に明白な)腫瘍における細胞からなる。実のところ、腫瘍細胞は癌と称されることが多く、典型的には、内胚葉または外胚葉組織由来の細胞に由来する場合には癌腫と称され、あるいは中胚葉由来の細胞型に由来する場合には肉腫と称される。
ある実施形態においては、Her3に関する「増加した発現(発現の増加)」は、対照と比較して(RNA発現またはタンパク質発現による測定で)発現における統計的に有意な増加を示すタンパク質または遺伝子の発現レベルを意味する。また、「増加した発現(発現の増加)」は、「Her3カスケードの活性化の増加」を含むものとしても用いられる。したがって、Her3の発現に関連した幾つかの障害においては、Her3の発現のレベルは、対照と比較して増加し得ないが、Her3カスケードの活性化のレベルは、対照または該疾患を有さない患者と比較して増加しうる。
当業者に公知の通常の方法(例えば、局所、非経口、筋肉内、IV、皮下など)のいずれかにおける本発明の抗体の投与は、サンプル中の異形成細胞を検出するための、およびHer3の発現に関連した又はそれにより引き起こされる過剰増殖性障害の治療を受けている患者の治療計画を臨床家がモニターするのを可能にするための極めて有用な方法となるであろう。
特定のタンパク質の存在または発現を検出するために抗体を使用することは、当技術分野で公知である。Her3は、例えば癌を含む或る過剰増殖性障害において過剰発現されうるため、本発明のHer3特異的抗体は、該過剰発現を検出するために、ひいては転移疾患を検出するために使用されうる。また、本発明の免疫検出方法は種々の病態の診断において有用でありうる。また、本発明抗体は、転移細胞におけるHer3の差動的発現を検出するために使用されうる。当業者に明らかなとおり、ヒトHer3もしくはICDまたはいずれかの他の下流標的は、幾つかの方法、例えば種々のアッセイにより検出されうる。免疫検出技術には、種々の組織上での免疫組織学染色、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、沈降、凝集、ELISAアッセイ、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、フローサイトメトリーまたはラジオイムノアッセイ(RIA)技術または同等技術および種々のサンドイッチアッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。これらの技術は当技術分野でよく知られている。例えば、米国特許第5,876,949号(これを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
本明細書に記載の抗体は、適当な標識または他の適当な検出可能な生体分子もしくは化学物質と共に使用される場合には、インビトロおよびインビボの診断および予後用途に特に有用である。本発明の抗体が特に有用である適当な状態には、腫瘍、例えば、卵巣、前立腺、結腸および皮膚の癌(これらに限定されるものではない)の検出および診断が含まれる。Her3受容体活性化またはカスケード領域により誘発される炎症応答または障害も含まれる。
イムノアッセイにおいて使用される標識は一般に当業者に公知であり、酵素、放射性同位体ならびに蛍光、発光および色素原物質、例えば着色粒子、例えば金コロイドまたはラテックスビーズを包含する。種々のタイプの標識、および本発明の抗体に標識を結合させる方法が、当業者によく知られている(例えば、後記のもの)。
前記に従い、例示的実施形態は、生物学的サンプル中の正常、良性、過形成および/または癌細胞あるいはそれらの一部を検出するための方法を提供する。該方法は、該細胞の表面上の抗原(Her3)を認識するHer3抗体またはその結合性部分を準備し(ここで、該抗体またはその結合性部分は、本明細書に記載の同様にいずれかの1以上のモノクローナル抗体により認識されるHer3のエピトープに結合し、該抗体またはその結合性部分は、該抗原への該抗体またはその結合性部分の結合に際して該細胞またはその一部の検出を可能にするのに有効な標識に結合している)、該生物学的サンプル中の該細胞またはその一部のいずれかの上の該抗原への該抗体またはその結合性部分の結合を可能にするのに有効な条件下、標識を有する抗体またはその結合性部分と該生物学的サンプルを接触させ、該標識を検出することにより該生物学的サンプル中の該細胞またはその一部のいずれかの存在を検出することを含む。
ある実施形態においては、該抗体を接触させる工程は生きた哺乳動物において行われ、ノッチ(Notch)1抗体またはその結合性部分を、該哺乳動物における該細胞またはその一部のいずれかの上の該抗原への該抗体またはその結合性部分の結合を可能にするのに有効な条件下、該哺乳動物に投与することを含む。
ある実施形態においては、本発明抗体は、検出可能な部分、例えば発蛍光団、発色団、放射性核種、化学発光物質、生物発光物質および酵素で標識されうる。
本発明のさらにもう1つの実施形態は、Her3受容体の過剰発現または過少発現(好ましくは過剰発現)に関連した疾患の診断方法(好ましくはインビトロ診断方法)を提供する。サンプルは患者から採取され、Her3の存在を検出するためにHer3特異的抗体を使用するいずれかの適当なイムノアッセイに付される。好ましくは、該生物学的サンプルは、好ましくは、Her3の発現に関連した病的過剰増殖性発癌性障害の存在に関して簡便にアッセイされうるヒト由来の組織サンプルまたは生検である。
試験サンプル中に存在するHer3の量が決定されたら、その結果は対照サンプルの場合と比較されうる。該対照サンプルは該試験サンプルと同様にして得られるが、Her3の発現に関連した過剰増殖性発癌性障害(例えば、卵巣癌)を有さない又は示さない個体から得られる。該試験サンプルにおいてHer3受容体ポリペプチドのレベルが有意に上昇している場合、それが由来する被験者が該障害(例えば、T−ALL、卵巣癌など)を有する又は将来発生する可能性が増加していると結論づけられうる。本発明の抗体の診断用途は原発腫瘍および癌ならびに転移物を含む。好ましくは、該抗体、またはその機能性フラグメントの1つは、検出可能および/または定量可能なシグナルが得られるようにイムノコンジュゲートまたは標識抗体の形態で存在しうる。
病的過剰増殖性発癌性障害を診断する典型的なインビトロ方法は、(a)サンプルにおけるHer3含有細胞の存在または非存在を決定し、(b)該Her3含有細胞の存在または非存在に基づいて病態または病態に対する感受性を診断することを含む。Her3媒介性腫瘍疾患を有する患者の臨床的診断またはモニターにおいては、正常被験者または非癌組織からの対応生物学的サンプルにおけるレベルと比較した場合のHer3発現細胞の検出またはHer3のレベルの増加は、一般に、Her3媒介性障害を有する又は該障害が生じている疑いのある患者を示す。
患者における癌の存在または被験者におけるそれに関連した病態に対する感受性を診断する代表的なインビトロ方法においては以下のことが提示される:(a)該患者の細胞または組織におけるHer3受容体タンパク質のレベルを測定し、(b)(a)の抗原の測定レベルを、正常なヒト対照からの細胞または組織における抗原(Her3受容体タンパク質)のレベルと比較し、ここで、該正常対照と比較した場合の該患者における該抗原の測定レベルの増加は該癌の存在に関連づけられる。ある実施形態においては、Her3発現の減少は、例えば皮膚の障害のような病態の診断となりうる。あるいは、Her3受容体活性化の尺度としてICDのレベルを測定することが可能である。
あるいは、前記方法は幾つかの時点にわたって実施されうる。したがって、代表的実施形態は、Her3の異常発現またはHer3受容体活性化(Her3カスケード)の増加に関連した病的発癌性障害を診断する方法を提供する。該方法は、a)複数の時点で哺乳動物から得た生物学的サンプルにおけるHer3の存在およびレベルを検出し(ここで、免疫ブロット法、ウエスタンブロット法、イムノペルオキシダーゼ染色、フルオレセイン標識、ジアミノベンザジンおよびビオチン化からなる群から選択される方法によりHer3を検出する)、b)Her3発現の変化を該診断と相関する工程を含む。本明細書に記載されているものの代わりに又はそれらに加えて、他の通常のアッセイが用いられうると理解される。
哺乳動物におけるHer3発現に関連した発癌性障害の転移可能性をモニターする方法も含まれる。それに従い、充実性腫瘍の転移可能性のスクリーニング方法を本発明において提供する。該方法は、a)充実性腫瘍の転移可能性のスクリーニングを要する個体から腫瘍組織のサンプルを得、b)Her3に対する抗体を該患者からの腫瘍組織と反応させ、c)該組織への該Her3抗体の結合の度合を検出し、d)該抗体の結合の度合をその転移可能性と相関することを含む。好ましくは、該腫瘍は、大腸(結腸直腸癌)、前立腺、乳房または皮膚(卵巣癌またはT−ALL)から生じた癌である。ある実施形態においては、工程c)は複数の時点にわたって行われうる。また、ある実施形態においては、Her3発現は、免疫組織化学染色、免疫ブロット法、ウエスタンブロット法、イムノペルオキシダーゼ染色、フルオレセイン標識、ジアミノベンザジンおよびビオチン化からなる群から選択される方法方法により検出される。
本発明は更に、組織サンプルにおけるHer3の発現レベルを検出することを含む、癌に対する感受性を予測するための方法を提供する。ここで、Her3の存在は癌に対する感受性を示し、Her3発現の度合は感受性の度合と相関する。ある実施形態においては、例えば乳房組織、前立腺組織、結腸組織、またはHer3発現細胞を含む疑いのあるいずれかの他の組織におけるHer3の発現を検査し、ここで、該サンプルにおけるHer3の存在は、癌感受性または組織特異的腫瘍の発生もしくは存在の指標となる。
病期決定は予後判断のために潜在的に重要であり、最適療法を設計するための基準を与える。Simpsonら,J.Clin.Oncology 18:2059(2000)。一般に、例えば乳癌の病理学的病期分類は臨床的病期分類より好ましい。なぜなら、前者はより正確な予後を示すからである。しかし、臨床的病期分類が病理学的病期分類と同じくらい正確な場合には、臨床的病期分類が好ましいであろう。なぜなら、それは、病理学的検査用の組織を得るための侵襲的手法に頼らないからである。したがって、腫瘍浸潤性の測定方法、および個体における経時的な悪性疾患の進行の観察方法も提供する。
したがって、本発明は、好ましくは標識された、特に放射能標識された、本発明の抗体またはその機能性フラグメントの1つを含むインビボイメージング試薬、および医学的イメージングにおける、特にHer3媒介性障害(例えば、Her3の過剰発現により特徴づけられる癌、または細胞がHer3を過剰発現する他の病状)の検出のためのその使用を提供する。
該イメージング試薬、例えば診断試薬は、患者の体内への静脈内注射により、またはHer3含有細胞を含む疑いのある組織(例えば、結腸または卵巣または膵臓)内に直接的に投与されうる。試薬の投与量は治療方法の場合と同じ範囲であるべきである。典型的には、該試薬は標識されているが、場合によっては、Her3に対するアフィニティーを有する一次試薬は標識されておらず、該一次試薬に結合させるために二次標識試薬を使用する。標識の選択は検出の手段に左右される。例えば、光学的検出には蛍光標識が適している。外科的介入を伴わない断層撮影検出には常磁性標識の使用が適している。PETまたはSPECTを用いて放射能標識も検出されうる。
診断は、標識遺伝子座の数、サイズおよび/または強度を対応ベースライン値と比較することにより行われる。該ベースライン値は、一例として、非罹患個体の集団における平均レベルを表しうる。ベースライン値は、同じ患者において決定された過去のレベルをも表しうる。例えば、治療開始前に患者においてベースライン値を決定し、ついで測定値を該ベースライン値と比較することが可能である。ベースラインシグナルと比較した場合の値の減少は治療の陽性応答を示しうる。
したがって、本発明に含まれる一般的方法は、イメージングに有効な量のイメージング試薬(例えば、標識された前記のモノクローナル抗体または抗原結合性フラグメント)および医薬上許容される担体を患者に投与し、ついで該物質を、サンプル中に存在するHer3にそれが結合した後で検出することにより実施される。
ある実施形態においては、該方法は、標的化部分と活性部分とを含む、イメージングに有効な量のイメージング試薬を投与することにより実施される。該標的化部分は、Her3に存在するエピトープと相互作用する抗体、Fab、Fab’2、一本鎖抗体または他の結合性物質でありうる。該活性部分は、放射性物質、例えば放射性テクネチウム、放射性インジウムまたは放射性ヨウ素でありうる。該イメージング物質を、哺乳動物(例えば、ヒト)における診断用途に有効な量で投与し、ついで該イメージング物質の局在化および蓄積を検出する。該イメージング物質の局在化および蓄積は、放射性核種イメージング、ラジオシンチグラフィー、核磁気共鳴イメージング、コンピュータ断層撮影、陽電子放射断層撮影、コンピュータ体軸断層撮影、X線または磁気共鳴イメージング法、蛍光検出および化学発光検出により検出されうる。
本発明のインビボイメージング法は、癌患者の予後を示すのにも有用である。例えば、転移の可能性または或る治療に応答する可能性のある侵襲性癌を示すHer3の存在が検出されうる。したがって、1つの態様においては、本発明は個体における経時的な悪性疾患の進行の観察方法を提供する。該方法は、該腫瘍のサンプル中の細胞により発現されるHer3のレベルを決定し、そのようにして決定されたレベルを、異なる時点で同一個体から採取された同等組織サンプルにおいて発現されるHer3のレベルと比較することを含み、ここで、経時的な該腫瘍サンプルにおけるHer3発現の度合は該癌の進行に関する情報をもたらす。
本発明のインビボイメージング方法は更に、Her3媒介性癌(例えば、他の身体部分へ転移したもの)を検出するために用いられうる。
関連実施形態は、Her3にインビボで結合する標識された本発明抗体またはその結合性フラグメントと医薬上許容される担体とを含む、Her3の発現に関連した発癌性障害のインビボイメージングのための医薬組成物に関する。
本明細書に開示されている抗体は、通常の抗Her3抗体での治療の後にげっ歯類またはウサギに移植された腫瘍の成長を観察またはモニターすることにより、抗Her3治療を逃れるヒト腫瘍を特定する方法においても使用されうる。
本発明の抗体は、本発明の抗Her3抗体と他の療法物質の組合せ療法を研究および評価するためにも使用されうる。本発明の抗体およびポリペプチドは、他の疾患におけるHer3の役割を研究するために使用されうる。これは、該疾患または類似疾患に罹患している動物に該抗体またはポリペプチドを投与し、該疾患の症状の1以上が軽減するかどうかを判定することにより行われる。
陽性特定を表す標的抗原(例えば、Her3)の有意な発現と、該抗原の低レベルまたはバックグラウンド発現との間の識別は、当業者に非常によく知られている。実際、バックグラウンド発現レベルは、しばしば、「カットオフ」を得るために用いられ、「カットオフ」を超えると、増加した染色は有意または陽性と評価される。有意な発現は、標的細胞または組織における高レベルの抗原により、あるいはそれぞれが陽性シグナルを示す組織内細胞の高い割合により表されうる。
前記診断アプローチは、当技術分野で公知の多種多様な予後および診断プロトコールのいずれかと組合されうる。例えば、本発明のもう1つの実施形態は、組織サンプルの状態を診断および予測するための手段としての、悪性疾患に関連した要因とHer3の発現との間の合致を観察するための方法に関する。悪性疾患に関連した多種多様な要因、例えば、悪性疾患に関連した遺伝子または遺伝子産物の発現ならびに全体的な細胞学的観察が用いられうる。悪性疾患に関連した別の要因とHer3の発現との間の合致の観察方法も有用である。なぜなら、例えば、疾患に合致した一連の特異的要因の存在は、組織サンプルの状態を診断および予測するのに決定的に重要な情報を与えるからである。ここにおいて提示されている方法は、Her3の発現に関連した発癌性障害またはその感受性を診断し、またはその診断を証明するために有用でありうる。例えば、該方法は、発癌性障害の症状を示している患者に対して用いられうる。該患者が、例えば、Her3受容体活性化によりもたらされる若しくはそれに関連したいずれかの1以上の下流標的の発現レベルの増加またはICDの発現レベルの増加により示されるとおりHer3の発現レベルの増加または異常なHer3受容体活性化を示す場合、該患者は、癌障害に罹患している可能性がある。該方法は無症候性患者においても用いられうる。正常Her3より高いHer3の存在は、例えば、将来の症候性疾患に対する感受性を示しうる。また、該方法は、Her3媒介性癌を有すると過去に診断された患者における進行および/または治療応答をモニターするのに有用である。
一般的に言えば、悪性疾患は、Her3受容体発現の増加、Her3受容体活性化の増加もしくは異常またはHer3受容体タンパク質に存在する突然変異により特徴づけられる。Her3受容体活性化の異常または増加により特徴づけられる悪性疾患はICDの発現レベルの決定により証明されることが可能であり、その発現レベルはHer3カスケードの活性化後に細胞質内で増加しうる。したがって、悪性疾患がHer3受容体活性化の増加により特徴づけられる場合には、細胞質内のICDの発現の増加が見られることが予想される。ICD発現のこの増加は、Her3受容体活性化の際の細胞質内へのICDの移動へと追跡されうる。異常なHer3受容体活性化により影響される下流標的に関する類似の効果、すなわち、Her3受容体活性化の結果として生じる特異的下流Her3標的の、正常値からの減少または増加が観察されるはずである。したがって、生検組織または他の生物学的サンプルにおけるHer3の測定は、高リスク患者を特定する手段として下流標的発現の発現を決定することにより確証されうる。ある実施形態においては、増加したHer3発現および/またはICD発現の1回または複数回の経時的決定は、医学的介入の指標となる疾患のマーカーとして役立ちうる。したがって、陽性試験は臨床家の判断を補いうる。
また、Her3レベルの増加は疾患評価の確定重症度に対する予後精度を高める。そのような臨床判断は罹患細胞の評価方法により有益となるであろう。本明細書に記載されているとおり、患者がHer3発現レベルの増加またはHer3受容体活性化の増加(細胞質ICDレベルまたはいずれかの他の下流標的の増加により示される)を示していることが判明している場合には特に、組織サンプルにおけるHer3発現の測定は、追加的なモニターもしくは試験またはより強力な治療に対する考慮に関する指標としても用いられうる。
したがって、例えば、Her3媒介性癌を発生するリスクを有する又はそのような癌を示している患者は、対照サンプルと比べて増加したHer3発現を示すであろうと予想されるであろう。したがって、ある実施形態においては、そのような患者に対して、Her3免疫反応性の半定量的評価が行われうる。この目的のために、染色の強度を考慮して、各スライドにスコアが与えられうる。該スライドは、2人の検査者により、独立して検査され、スコア化されうる。不一致は該スライドの再検査により解決され、ついで該スコアが平均されうる。個々の細胞の免疫染色の強度は0(無染色)から4(最強強度)までの尺度でスコア化され、各強度の染色を有する細胞の割合が推定されうる。染色が存在しない場合には、0のスコアが与えられうる。+1のスコアは弱い染色を示し、+4のスコアは強い染色強度を示す。理解されるとおり、染色強度を比較するために用いられるあらゆる評価系が用いられうる。ただし、それは、細胞質染色の相対強度を考慮しており、染色強度間の識別を可能にして、悪性度の等級化のための方法をもたらすものでなければならない。本発明の新規染色態様は、高度に識別される染色をもたらすため、該スコア化または等級化は視覚的に行われることが可能であり、そのため、高度な装置を要することなく本発明の技術が臨床的に広く用いられることが可能となる。該染色結果は適当な高感度光学的装置により分析され、コンピュータにより解析されうると理解されるであろう。
前記目的を推進するために、本発明は、Her3の発現に関連した発癌性障害を診断するための方法を提供し、該方法は、a)Her3に特異的に結合する抗体を使用して、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウエスタンブロット分析、ELISAアッセイまたはサンドイッチアッセイにより、生物学的サンプル(例えば、患者から得た生検組織)中のHer3タンパク質の量を測定し、b)該Her3タンパク質に結合した抗体の量を正常対照組織サンプルと比較することを含み、ここで、該正常対照組織サンプルと比較した場合の該患者から得たサンプル中のHer3の発現の増加または過剰発現は、Her3の発現に関連した発癌性障害の診断となる。好ましくは、該Her3特異的抗体は、本明細書に記載の少なくとも1つの抗体を含む。
ある実施形態においては、初期診断を確証するための手段として、細胞質ICD染色をスコア化するために、同じスコア化基準(例えば、0〜4のスコア)が用いられうる。したがって、細胞はICDに特異的な抗体で染色され、前記基準を用いて強度レベルがスコア化されることが可能であり、ここで、個々の細胞の免疫染色の強度は0(無染色)から4(最強強度)までの尺度でスコア化され、各強度の染色を有する細胞の割合が推定されうる。染色が存在しない場合には、0のスコアが与えられうる。+1のスコアは弱い染色を示し、+4のスコアは強い染色強度を示す。
追加的実施形態においては、個々の腫瘍型の代表的サンプルにおいて観察される進行に関連した腫瘍マーカーHer3の発現レベルの加重尺度を得ることにより、予後指数が得られる。ここで、該加重尺度における異なる値は、該代表的サンプルにおける、増加した浸潤性または転移の広がりに関連づけられる。
本発明の方法は、追加的腫瘍疾患のリスクを有するヒト癌患者を特定するために、およびヒト癌患者における悪性疾患を病期分類するために、および化学療法からの毒性(例えば、白血球減少症)のリスクに対する転移疾患の相対リスクを評価するためにも有用である。
したがって、本発明は、予後決定を行うために予後または「リスク」指数を示すために細胞表面Her3発現のレベルおよびICDの細胞質局在化の度合の決定の結果を用いる方法を提供する。本発明のこの態様においては、予後指数は、前記基準を用いて得られ、ここで、0の値は対照を示し、+1の値は弱い染色を示すなどであり、染色強度が+4と評価された場合に、転移疾患へと進行する可能性の予後が決定される。
本発明の1つの例示的実施形態は、a)癌の診断またはモニターを要する個体から組織のサンプルを得、b)該サンプルにおけるHer3タンパク質のレベルを検出し、c)Her3タンパク質レベルに関して該サンプルをスコア化し、d)該スコアを、対照組織サンプルから得られたものと比較して、該癌に関連した予後を決定することを含む、診断またはモニター方法を提供する。サンプルは、0〜4の尺度を用いてスコア化されることが可能であり、ここで、0は陰性(検出不可能なHer3発現、または対照レベルと比較されうるレベル)であり、4は細胞の大多数における高い強度の染色であり、ここで、1〜4のスコアは不良な予後を示し、0のスコアは良好な予後を示す。
本発明の関連態様は、a)ノッチ(Notch)1媒介性腫瘍の転移可能性に関するスクリーニングを要する個体から罹患または標的組織のサンプルを得、b)Her3に対する抗体を該患者からの腫瘍組織と反応させ、c)該組織への該Her3抗体の結合の度合を検出し、d)該抗体の結合の度合をその転移可能性と相関することを含む、Her3媒介性過剰増殖性障害の転移可能性に関してスクリーニングするための方法に関する。一般に、Her3またはICDのレベルの分析を含む本発明の方法はいずれも、当業者に容易に知られる追加的な癌マーカーと共に用いられうる。
また、患者における癌の存在および度合を検出する方法を提供し、該方法は、該患者からの細胞または組織切片のサンプル中の抗原(Her3)のレベルを決定し、正常または対照患者と比較して該患者における癌疾患の存在および度合と該抗原の量を相関することを含む。
薬品開発において医薬産業が直面している大きな難題の1つは、潜在的治療物質候補に関連した効力を示すことである。この問題は、抗癌治療物質としての抗Her3抑制性抗体を得るために医薬品産業において現在進行中の多くの努力にも同様に当てはまる。これを行うための1つの方法は、Her3活性が抑制されている場合を示す適当なマーカーを得ることである。理想的には、候補Her3アンタゴニスト部分が有効である場合、該Her3アンタゴニスト部分での治療の後でHer3の発現レベルの減少を観察するはずである。あるいは、Her3に存在するキナーゼドメインの活性化を示すリン酸化Her3のレベルの増加が予想されうるであろう。したがって当然のこととして、Her3アンタゴニスト部分での好ましい治療は、腫瘍細胞またはこの細胞表面受容体を発現するいずれかの他の細胞上のHer3発現レベルの減少を予測させ、一方、好ましくない結果はHer3の発現レベルにおける増加または発現レベルにおける無変化を予測させるであろう。したがって、例えば、適当なマーカーで腫瘍細胞上のHer3タンパク質発現を測定することにより、Her3活性の抑制の指標として、発現レベルの減少が検出されうる。本発明は、腫瘍/癌細胞上のHer3の発現レベルを特異的に測定することによりHer3活性および/もしくは発現または腫瘍生成状態を測定するための「バイオマーカー法」において利用されるよう、本発明のHer3抗体がHer3に高いアフィニティーで結合しうることを利用する。したがって、本発明は、Her3の発現に関連した病的過剰増殖性発癌性障害の性質、重症度および進行を評価するための迅速な手段、例えば高アフィニティー抗Her3抗体を提供する。
前記の「バイオマーカー法」を推進するために、本発明は、被験者におけるHer3の発現に関連した腫瘍の開始、進行または退縮を決定するための方法を提供し、該方法は、第1時点で第1生物学的サンプルを被験者から得、該第1サンプルを本明細書に記載の抗体の有効量と、該サンプル中に含まれている疑いのあるHer3への該抗体またはそのフラグメントの結合を可能にする条件下で接触させ、該第1サンプル中の該抗体とHer3含有細胞との特異的結合を決定して、それにより第1値を得、ついで第2時点で第2生物学的サンプルを該被験者から得、該第2生物学的サンプルを該Her3抗体と接触させ、該サンプル中のHer3と該抗体との特異的結合を決定して第2値を得、結腸癌の開始、進行または退縮の決定結果として該第2サンプルにおける特異的結合の決定結果と該第1サンプルにおける結合の決定結果を比較することを含み、ここで、該第1サンプルと比較した場合の該第2サンプルまたはそれより後のサンプルにおけるHer3の発現レベルの増加は該腫瘍の進行を示し、減少は該サンプルにおける腫瘍の退縮を示す。
1つの実施形態においては、Her3は、(1)本発明の抗体をサンプルまたは組織切片に加え、(2)ペルオキシダーゼに結合したヤギ抗マウスIgG抗体を加え、(3)ジアミノベンジデンおよびペルオキシダーゼで固定し、(4)該サンプルまたは切片を検査することにより検出され、ここで、赤茶色は、該細胞が該抗原を含有することを示す。該方法においては、治療を受けている患者から採取した組織サンプルにおける該抗原のレベルの変化を定期的に測定し、該抗原のレベルの変化を該治療の有効性と相関することにより、癌治療の有効性がモニターされうる。ここで、該治療の経過中の、より早い時点で決定されたHer3のレベルと比較した場合の、より後の時点で決定されたHer3発現の、より低いレベルは、該癌疾患に対する治療の有効性を示す。
さらにもう1つの実施形態においては、本出願は、被験者に対する適当な治療プロトコールを決定するための方法を提供する。特に、本発明の抗体は、Her3への結合に関して本発明の抗体と競合しないHer3抗体で被験者が治療されている場合には特に、個体における悪性疾患の改善の経過をモニターするのに非常に有用であろう。本質的には、Her3発現の存在もしくは非存在またはHer3発現のレベルの変化は、Her3に関連した再発または進行性腫瘍もしくは持続性腫瘍(例えば、癌)を被験者が有する可能性があるかどうかに関して示しうる。したがって、Her3を発現する細胞の数の増加または種々の組織もしくは細胞に存在するHer3の濃度の変化を測定することにより、Her3に関連した悪性疾患の改善を目的とした個々の治療計画が有効であるかどうかを決定することが可能である。例えば、通常の療法を受けており、経時的に変化していないNocth1発現を示す患者の場合、代わりに、これらは本発明のHer3抗体で治療されることが可能であり、Nocth1の変化が経時的に観察される可能性がある。ある期間にわたる変化が非常に明白である場合、該患者を通常の療法から、本明細書に開示されている抗体の1以上での療法へ換えることが可能かもしれない。
本発明の抗体フラグメントは、関心のある標的分子に特異的に結合しうる。例えば、幾つかの実施形態においては、抗体フラグメントは腫瘍抗原に特異的に結合する。幾つかの実施形態においては、該抗体フラグメントは、受容体多量体化(例えば、二量体化)に際して活性化される細胞表面受容体に特異的に結合する。幾つかの実施形態においては、標的分子への本発明の抗体の結合は該標的分子への別の分子(例えば、標的分子が受容体の場合にはリガンド)の結合を抑制する。
したがって、一例においては、本発明の抗体フラグメントは、標的分子に結合すると、該標的分子へのコグネイト結合パートナーの結合を抑制する。コグネイト結合パートナーはリガンドまたはヘテロもしくはホモ二量体化分子分子でありうる。1つの実施形態においては、本発明の抗体フラグメントは、標的分子に結合すると、標的分子受容体の活性化を抑制する。例えば、幾つかの実施形態においては、抗体またはそのフラグメントがアンタゴニストである場合、細胞表面受容体への該抗体フラグメントの結合は該受容体の別の単位との該受容体の二量体化を抑制して、(少なくとも部分的には受容体二量体化の欠如ゆえに)該受容体の活性化を抑制しうる。1つの実施形態においては、本発明の抗体フラグメントは、Her3受容体に対して、天然Her3受容体結合パートナー(例えば、デルタまたはSerrate)と競合しうる。もう1つの実施形態においては、本発明の抗体またはそのフラグメントはHer3受容体への結合に関して内因性ノッチ受容体リガンドと競合しうる。
ある実施形態においては、本明細書に記載の抗体は、対応内因性リガンドへのHer3結合を遮断もしくは抑制する又はHer3カスケードの活性化を妨げ若しくは遅らせることにより、Her3媒介性シグナリングを拮抗または抑制し(以下、「アンタゴニスト治療用抗体」)、治療目的で投与される。このようにして治療されうる障害はインビトロアッセイ(例えば、本明細書に記載されている又は当業者に公知のもの)により特定されうる。そのようなアンタゴニスト抗体には、抗Her3中和抗体、および後記のEGFRタンパク質−タンパク質相互作用の競合インヒビターが含まれる。前記目的を推進するために、本発明の抗体は、癌状態を治療するために、あるいは前腫瘍または非悪性状態から腫瘍または悪性状態への進行を予防するために投与される。
本発明のもう1つの実施形態は、Her3受容体活性化に関連した疾患および障害の治療のための医薬または組成物の製造のための、これらの抗体のいずれかの使用である。
本発明のもう1つの実施形態は、例えばHer3シグナリングの抑制によるHer3活性化の抑制またはリガンド結合を遮断することによる該受容体の中和を含む、Her3活性化に関連した障害の治療における、これらの抗体のいずれかの使用である。Her3関連障害には、癌、2型致死的先天性攣縮症候群(LCCS2)が含まれうるが、これらに限定されるものではない。
したがって、ある実施形態においては、本発明は、天然ヒトHer3(hHer3)に結合し天然hHer3またはHer3/Her2ヘテロ二量体の機能を阻止または軽減する本明細書に開示されている少なくとも1つの抗体またはその抗原性もしくは結合性フラグメント(「フラグメント」)の、疾患を治療するための有効量を、疾患の治療を要する対象に投与することを含む、疾患の治療方法を提供する。癌、特にT細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、ヒト乳癌、ヒト結腸直腸癌、メラノーマ、ヒト肺癌、ヒト頭頚部癌およびヒト前立腺癌、免疫または炎症障害、血管新生障害またはHer3シグナリングにより引き起こされるいずれかの他の障害を含む種々の疾患が前記方法で治療されうる(G.Sithanandam & LM Anderson(2008)Cancer Gene Therapy 15:413;Jiangら(2007)JBC 282:32689;Grivasら(2007)Eur J.Cancer 43:2602)。
さらにもう1つの目的は、構成的に活性なHer3受容体に応答性である状態の治療に有用でありうる医薬を開発するための、構成的に活性なHer3受容体またはそのアンタゴニストの提示されている使用にある。
もう1つの実施形態においては、本発明は、癌細胞を抑制し又は殺すための方法を提供し、該方法は、それを要する患者に、本発明のモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントを、該癌細胞への結合に十分な条件下および量で投与し、それにより、該患者の免疫細胞による該癌細胞の抑制または殺細胞を引き起こさせることを含む。好ましくは、該方法はT細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、ヒト結腸癌、メラノーマ、ヒト肺癌およびヒト前立腺癌の治療のためのものである。該モノクローナル抗体は、好ましくは、細胞毒性部分、例えば化学療法剤、光活性化毒素、RNAi分子または放射性物質にコンジュゲート化(結合)されている。好ましくは、該細胞毒性部分はリシンである。もう1つの方法は、前記工程を含む、Her3媒介性障害の治療を提示する。代表的障害には、免疫または炎症障害、例えば大腸炎または喘息、感染症、血管新生障害、アテローム性動脈硬化症、または腎臓の障害、またはHer3シグナリングにより引き起こされるいずれかの他の障害が含まれる。
1つの実施形態においては、Her3は発現を抑制するRNAi分子のようなオリゴヌクレオチドが本発明のイムノコンジュゲートまたは抗体融合タンパク質の治療用物質部分にコンジュゲート化(結合)され、または該治療用物質部分を構成しうる。あるいは、該オリゴヌクレオチドは、本発明の裸の又はコンジュゲート化抗Her3抗体または抗体フラグメントと共に又は連続的に投与されうる。1つの実施形態においては、該オリゴヌクレオチドは、好ましくはHer3発現に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(RNAi)である。
もう1つの実施形態は、少なくとも1つのNocth1インヒビターを含む医薬組成物を投与することによるHer3媒介性障害の治療方法を提供し、ここで、該インヒビターは、Her3特異的RNAインヒビターにコンジュゲート化された抗Her3抗体および医薬上許容される担体である。RNA抑制(RNAi)は細胞および組織におけるHer3のアンチセンスモジュレーションに基づくものであり、これは、Her3受容体タンパク質の転写または翻訳をモジュレーションする核酸分子[限定的なものではないが、二本鎖RNA(dsRNA)、小型干渉性RNA(siRNA)、リボザイムおよびロック化(locked)核酸(LNA)を含む]にコンジュゲート化された少なくとも1つのHer3抗体および医薬上許容される担体と該細胞および組織を接触させることを含む。
本発明は更に、患者における癌細胞を局在化するための方法を提供し、該方法は、(a)検出可能な様態で標識された本発明のモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントを該患者に投与し、(b)検出可能な様態で標識(例えば、放射能標識、蛍光色素標識または酵素標識、特にELISAによるもの)されたモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントを該患者における癌細胞に結合させ、(c)該患者における該標識モノクローナル抗体またはその結合性フラグメントの位置を決定することを含む。
本発明のもう1つの実施形態は、増強したアフィニティー、特異性、安定性または他の所望の特性を有するポリペプチドを得るための、定方向分子進化技術、例えばファージディスプレイまたは細菌もしくは酵母細胞表面ディスプレイ技術における、本発明抗体ならびにそのVR、FRおよびCDRの使用に関する。
本発明のもう1つの実施形態は、本発明の抗体またはそのフラグメントのいずれかの抗体またはそのフラグメントを含む抗体成分を含む癌細胞標的化診断イムノコンジュゲートであり、ここで、該抗体またはそのフラグメントは少なくとも1つの診断用/検出用物質に結合している。
好ましくは、該診断用/検出用物質は、放射性核種、造影剤および光活性診断用/検出用物質を含む群から選択される。さらに好ましくは、該診断用/検出用物質は、20〜4,000keVのエネルギーを有する放射性核種であり、あるいは、110In、111In、177Lu、118F、52Fe、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、86Y、90Y、89Zr、94mTc、94Tc、99mTc、120I、123I、124I、I25I、131I、154−158Gd、32P、11C、13N、15O、186Re、188Re、51Mn、52Mn、55Co、72As、75Br、76Br、82mRb、83Srまたは他のガンマ、ベータもしくは陽電子放射体からなる群から選択される放射性核種である。また、好ましくは、該診断用/検出用物質は、常磁性イオン、例えば、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)およびエルビウム(III)を含む金属、または放射線不透過性物質、例えばバリウム、ジアトリゾアート、エチオダイズ化(ethiodized)油、ガリウムシトラート、メグルミン、メトリザミド、メトリゾアート、プロピリオドンおよび塩化第一タリウムである。
また、好ましくは、該診断用/検出用物質は、フルオレセイン、イソチオシアナート、ローダミン、フィコエリテリン、フィコシアニン、アルフィコシアニン、o−フタルアルデヒドおよびフルオレスカミンを含む群から選択される蛍光標識化合物、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルを含む群から選択される化学発光標識化合物、またはルシフェリン、ルシフェラーゼおよびエクオリンを含む群から選択される生物発光化合物である。もう1つの実施形態においては、本発明の診断用イムノコンジュゲートは術中、内視鏡検査または血管内腫瘍診断において用いられる。
本発明のもう1つの実施形態は、本発明の抗体、融合タンパク質またはそのフラグメントのいずれかの抗体またはそのフラグメントを含む抗体成分を含む癌細胞標的化治療用イムノコンジュゲートであり、ここで、該抗体、融合タンパク質またはそのフラグメントは少なくとも1つの治療用物質に結合している。
好ましくは、該治療用物質は、放射性核種、免疫調節物質、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、酵素、オリゴヌクレオチド、酵素インヒビター、光活性治療用物質、細胞毒性物質、血管新生インヒビターおよびそれらの組合せからなる群から選択される。
1つの実施形態においては、該治療用物質は薬物または毒素のような細胞毒性物質である。また、好ましくは、該薬物は、ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン誘導体、アルキルスルホナート、ニトロソウレア、ゲムシタビン、トリアゼン、葉酸類似体、アントラサイクリン、タキサン、COX−2インヒビター、ピリミジン類似体、プリン類似体、抗生物質、酵素、酵素インヒビター、エピポドフィロトキシン、白金配位錯体、ビンカアルカロイド、置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制剤、ホルモンアンタゴニスト、エンドスタチン、タキソール、カンプトテシン、SN−38、ドキソルビシンおよびそれらの類似体、代謝拮抗物質、アルキル化剤、有糸分裂阻害物質、抗血管新生物質、アポトーシス剤、メトトレキセート、CPT−11ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
もう1つの実施形態においては、該治療用物質はオリゴヌクレオチドである。例えば、該オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばHer3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはHer3受容体発現に対するRNAi分子でありうる。
もう1つの実施形態においては、該治療用物質は、リシン、アブリン、アルファトキシン、サポリン、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、DNアーゼI、ブドウ球菌エンテロトキシンA、アメリカヤマゴボウ抗ウイルス性タンパク質、ゲロニン、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素およびシュードモナス内毒素からなる群から選択される毒素、サイトカイン、幹細胞増殖因子、リンホトキシン、造血因子、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン(IFN)、幹細胞増殖因子、エリスロポエチン、トロンボポエチンおよびそれらの組合せからなる群から選択される免疫調節物質、32P、33P、47Sc、64Cu、67Cu、67Ga、86Y、90Y、111Ag、111In、125U、131I、142Pr、153Sm、161Tb、166Dy、166Ho、177Lu、186Re、188Re、189Re、212Pb、212Bi、213Bi、211At、223Raおよび225Acならびにそれらの組合せからなる群から選択される放射性核種、あるいは色素原および色素を含む群から選択される光活性化治療用物質である。
さらに好ましくは、該治療用物質は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼを含む群から選択される酵素である。
本発明のもう1つの態様はキットに関する。本発明は、Her3抗体もしくはそのフラグメントまたは抗体含有組成物を収容する容器と、疾患のリスクを有する又は疾患の治療を要する対象に該キット内の成分を投与するための説明を含むキットである。該キットは更に、医薬調製用希釈剤を収容する容器を含む。
該キットはまた、包埋(embedded)生物学的サンプルがヒトHer3タンパク質を含有するかどうかを決定するために使用可能であり、それは、(a)包埋ヒトHer3タンパク質と特異的に結合して結合複合体を形成するHer3結合性物質、および(b)該結合複合体の形成をシグナリングしうる指示物質を含み、ここで、該Her3結合性物質は本出願に記載のモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントである。本発明の抗Her3抗体を使用する診断方法は、診断用研究所、実験用研究所、開業医または私的な個人により実施されうる。該臨床サンプルは、場合によっては、試験される標的の富化のために前処理される。ついで、使用者は、診断成分のレベル変化または改変を検出するために、該キットに含まれる試薬を適用する。
もう1つの実施形態においては、容器、該容器上のラベル、および該容器内に含有される活性物質を含む組成物を含む製造品に関する。ここで、該組成物は、Her3の発現に関連した腫瘍の検出、診断または予後判断に有効であり、該容器上のラベルは、該組成物が、Her3タンパク質受容体の過剰発現により特徴づけられる状態の診断または予後決定に使用されうることを示す。
本発明は更に、容器と、該容器内に含まれる組成物とを含む製造品に関する。ここで、該組成物は本明細書に記載の抗体を含む。
本発明の範囲のそれぞれは本発明の種々の実施形態を含みうる。したがって、いずれか1つの要素または要素の組合せを含む本発明の範囲のそれぞれは、本発明の各態様に含まれうると予想される。本発明は、その用途において、以下の説明に記載されている又は図面に例示されている成分の構成および配置の詳細には限定されない。本発明は他の実施形態が可能であり、種々の方法で実施され又は行われることが可能である。
本発明の他の特徴および利点は、実施例および図面(その説明は後記に示されている)を伴う説明の続きに記載されている。
発明の詳細な説明
発明の概観
種々のヒトHer3特異的抗体、好ましくはモノクローナル抗体を本発明において提供する。癌細胞の成長または増殖を抑制または軽減するアンタゴニスト、抑制性および中和性抗Her3抗体が含まれる。Her3媒介性過剰増殖性障害の治療における使用に有効な本明細書に記載の抗体の1以上を含む組成物も含まれる。Her3受容体アンタゴニストには、細胞外でHer3受容体に結合しHer3受容体媒介性シグナリングカスケードの活性化または該受容体の切断の遮断に有効であるその抗原結合性フラグメントが含まれる。該組成物は製造品またはキット中で提供されうる。
本発明のもう1つの態様は、本発明の抗Her3抗体のいずれかの1以上をコードする単離された核酸、および該核酸を含むベクターである。該ヒトHer3DNA配列は、GenBankアクセッション番号(GenBankアクセッション番号−NM001982)を用いて見出されうる。本発明抗体の組換え製造の方法も本発明の範囲内である。本発明のもう1つの態様は、Her3受容体に対する内因性リガンドの遮断またはHer3シグナリングの不活性化/非活性化をもたらすHer3抗体を投与することにより癌細胞の増殖を抑制または軽減する方法である。本発明のもう1つの態様は、Her3受容体を発現する癌および腫瘍細胞を破壊する方法であり、該方法は、Her3受容体結合性パートナー、例えば、その目的に有効な本明細書に開示されているHer3特異的抗体のいずれかの1以上を含む組成物の治療的有効量を、それを要する患者に投与することによるものである。本発明のもう1つの態様は、Her3受容体のアゴニストまたはアンタゴニストを投与することによる、癌を緩和する方法である。治療用途の場合、Her3シグナリングのモジュレーターが、単独で、あるいは例えばホルモン、抗血管新生物質もしくは放射能標識化合物との、または手術、低温療法および/もしくは放射線療法との組合せ療法として使用されうる。
癌細胞を破壊するのに有用なHer3受容体結合性パートナーには、該受容体の可溶性リガンド、該Her3受容体に結合する抗体およびそのフラグメントが含まれる。該結合性パートナーは細胞毒性物質にコンジュゲート化されうる。該抗体は、好ましくは成長抑制性抗体である。該細胞毒性物質は毒素、抗生物質、放射性同位体または核分解性酵素でありうる。好ましい細胞毒性物質は毒素、好ましくは小分子毒素、例えばカリケアマイシン(calicheamicin)またはメイタンシノイド(maytansinoid)である。
Her3受容体のアンタゴニストおよび結合性パートナーは合成的または組換え的に製造され、あるいは単離されうる。
本出願の全体における個々の参考文献、特許出願および特許に対する言及は、それらの全体が参照により本明細書の本文に組み入れられると解釈されるべきである。
定義
本タンパク質、ヌクレオチド配列および方法を説明する前に、本発明は、記載されている個々の方法論、プロトコール、細胞系、ベクターおよび試薬に限定されるものではなく、これらは様々なものでありうると理解されるべきである。また、本明細書において用いられている用語は、個々の実施形態を説明することのみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定するものではないと理解される。
文脈に明らかに矛盾しない限り、単数形は複数形の指示内容を含む。
本明細書中で用いられている全ての科学技術用語は、本発明に関連した分野の当業者により一般に理解されているものと同じ意味を有する。特に示されていない限り、本発明の実施はタンパク質化学および生化学、分子生物学、微生物学および組換えDNA技術の通常の技術を用い、これらは当技術分野における通常の技量に含まれる。そのような技術は文献に十分に説明されている。
本明細書に記載されているものと類似または同等な任意の装置、物質および方法が、本発明を実施または試験するために用いられうるが、好ましい装置、物質および方法が以下に説明される。本明細書中で言及されている全ての特許、特許出願および刊行物は、前記のものも後記のものも、それぞれのその全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
本出願の全体において用いられている用語は、当業者にとって一般的かつ典型的な意味で解釈されるべきである。しかし、以下の用語には、後記で定義される特定の定義が与えられることを、出願人は望んでいる。
また、本明細書中で用いられている表現法および用語は説明を目的としたものであり、限定的なものとみなされるべきではない。本明細書における「包含する」、「含む」または「有する」、「含有する」、「伴う」およびそれらの変形は、その前に挙げてあるもの及びその均等物ならびに追加的なものを含むことを意味する。
「核酸」または「核酸分子」、「Her3をコードする核酸分子」は、便宜上、Her3をコードするDNA、そのようなDNAから転写されたRNA(プレmRNAおよびmRNAまたはそれらの一部分を含む)、そしてまた、そのようなRNAに由来するcDNAを含むものとして用いられている。また、それは、一本鎖または二本鎖の任意のDNAまたはRNA分子を含み、一本鎖の場合には、直鎖状または環状形態のその相補的配列の分子を含む。本明細書中で用いる「標的核酸」なる語および核酸分子の考察においては、個々の核酸分子の配列または構造は、本明細書においては、5’から3’への方向に配列を示す通常の慣例に従って記載されうる。本発明の幾つかの実施形態においては、核酸は「単離」されている。この語は、DNAに適用される場合には、それが由来する生物の天然に存在するゲノムにおいてそれが直接的に接触している配列から分離されたDNA分子に関するものである。例えば、「単離(された)核酸」は、例えばプラスミドまたはウイルスベクターのようなベクター内に挿入された、あるいは原核もしくは真核細胞または宿主生物のゲノムDNA内に組込まれたDNA分子を含みうる。「単離(された)核酸」は、RNAに適用される場合には、主として、前記の単離されたDNA分子によりコードされるRNA分子を意味する。あるいは、この語は、その天然状態(すなわち、細胞または組織内)でそれに付随している他の核酸から十分に分離されているRNA分子を意味しうる。単離された核酸(DNAまたはRNA)は更に、生物学的または合成的手段により直接的に製造されその製造中に存在する他の成分から分離された分子を表しうる。
同様に、本明細書中で用いる「アミノ酸配列」は、天然に存在する又は合成分子のオリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列およびそれらの断片または一部分を意味する。
「単離(された)」、「精製(された)」または「生物学的に純粋」なる語は、天然状態で見出される場合に通常は付随している成分を実質的または本質的に含有しない物質に関するものである。純度および均一性は、典型的には、分析化学技術、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを用いて決定される。調製物中に存在する優勢な種であるタンパク質または核酸は実質的に精製されている。特に、単離された核酸は、該遺伝子によりコードされているタンパク質以外のタンパク質をコードしており該遺伝子に天然で隣接している幾つかのオープンリーディングフレームから分離されている。幾つかの実施形態における「精製(された)」なる語は、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲルにおいて実質的に1つのバンドを与えることを示す。好ましくは、それは、該核酸またはタンパク質が少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、最も好ましくは少なくとも99%純粋であることを意味する。他の実施形態における「精製する」または「精製」は、精製されるべき組成物から少なくとも1つの混入物を除去することを意味する。この意味においては、精製は、精製された化合物が均一(例えば、100%純粋)であることを要しない。
核酸が「機能的に連結」されているのは、それが別の核酸配列に対して機能的な関係で配置されている場合である。これは、適当な分子(例えば、転写アクチベータータンパク質)が調節配列に結合すると遺伝子発現を可能にするように連結された該調節配列または遺伝子でありうる。例えば、プレ配列または分泌リーダーに関するDNAがポリペプチドに関するDNAに機能的に連結されていると言えるのは、それが、該ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合であり、プロモーターまたはエンハンサーがコード配列に機能的に連結されていると言えるのは、それが該配列の転写に影響を及ぼす場合であり、あるいはリボソーム結合部位がコード配列に機能的に連結されていると言えるのは、それが該配列の転写に影響を及ぼす場合であり、あるいはリボソーム結合部位がコード配列に機能的に連結されていると言えるのは、それが、翻訳を促進するように配置されている場合である。一般に、「機能的に連結(されている)」は、連結されているDNA配列が連続的であり、分泌リーダーの場合には、連続的であり読取りが一致していることを意味する。しかし、エンハンサーは連続的である必要はない。連結は、簡便な制限部位における連結により達成される。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが通常の慣例に従い使用される。
「細胞」、「細胞系」および「細胞培養」なる語は互換的に用いられ、全てのそのような表示は後代を含む。また、全ての後代は、意図的または非意図的な突然変異のため、DNA含量において厳密には同一でない可能性があると理解される。元の形質転換細胞において選別されたものと同じ機能または生物学的特性を有する突然変異後代が含まれる。
本発明において用いる「宿主細胞」は一般に原核生物または真核生物宿主である。適当な宿主細胞の具体例はSection B.Vectors,Host Cells and Recombinant Methods:(vii)Selection and transformation of host cellsに記載されている。
「形質転換」は、細胞外染色体要素として又は染色体組込みにより、DNAが複製されうるように生物内に該DNAを導入することを意味する。
「トランスフェクション」は、いずれかのコード配列が実際に発現されるか否かに無関係な、宿主細胞による発現ベクターの取り込みを意味する。
「トランスフェクト化宿主細胞」および「形質転換(された)」なる語は細胞内へのDNAの導入に関するものである。該細胞は「宿主細胞」と称され、それは原核性または真核性のいずれかでありうる。典型的な原核性宿主細胞には、大腸菌(E.coli)の種々の株が含まれる。典型的な真核性宿主細胞は哺乳類、例えばチャイニーズハムスター卵巣またはヒト由来の細胞である。導入されるDNA配列は、宿主細胞と同じ種または宿主細胞と異なる種からのものであることが可能であり、あるいはそれは、幾らかの外来性DNAおよび幾らかの同種DNAを含有するハイブリッドDNA配列であることが可能である。
本発明の場合、「モジュレーション」および「発現のモジュレーション」は、Her3受容体をコードする核酸分子の量またはレベルあるいは該タンパク質(Her3)のレベルにおける増加(刺激)または減少(抑制)のいずれか、あるいは天然Her3受容体−シグナリングカスケードに伴う活性のモジュレーションを意味する。抑制は、しばしば、発現のモジュレーションの好ましい形態であり、該タンパク質受容体は、しばしば、好ましい標的核酸である。
「複製可能な発現ベクター」および「発現ベクター」なる語は、その中に外来DNAの断片が挿入されうる、通常は二本鎖のDNAの断片を意味する。外来DNAは異種DNAと定義され、これは宿主細胞内で天然で見出されないDNAである。該ベクターは、該外来または異種DNAを適当な宿主細胞内に輸送するために使用される。該ベクターは、宿主細胞内に入ると、宿主染色体DNAから独立して複製されることが可能であり、該ベクターおよびその挿入(外来)DNAのコピーの幾つかが生成されうる。
「ベクター」なる語は、適当な宿主内でのDNAの発現をもたらしうる適当な制御配列に機能的に連結されたDNA配列を含有するDNA構築物を意味する。そのような制御配列には、転写を引き起こすプロモーター、場合によっては、そのような転写を制御するオペレーター配列、適当なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列が含まれる。該ベクターはプラスミド、ファージ粒子または単なる潜在的なゲノムインサートでありうる。該ベクターは。適当な宿主内に形質転換されると、宿主ゲノムから独立して複製され機能することが可能であり、あるいは場合によっては、ゲノム自体の中に組込まれうる。現在ではプラスミドが最も一般的に使用されるベクターの形態であるため、本明細書においては「プラスミド」および「ベクター」は互換的に用いられることがある。しかし、本発明は、当技術分野で公知である又は公知となる、同等の機能を果たすそのような他の形態のベクターを包含することを意図している。哺乳類細胞培養発現のための典型的な発現ベクターは、例えば、pRK5(EP 307,247)、pSV16B(WO 91/08291)およびpVL1392(Pharmingen)に基づくものである。
「制御配列」なる表現は、特定の宿主生物における、機能的に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を意味する。原核生物に適した制御配列には、例えば、プロモーター、場合によってはオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。
「タンパク質」または「ポリペプチド」なる語は互換的に用いられると意図される。それらは、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)を考慮しない場合、ペプチドまたはアミド結合で互いに連結された2以上のアミノ酸の鎖を意味する。抗体は特に、この定義の範囲内であると意図される。本発明のポリペプチドは、別々のDNA配列により各サブユニットがコードされている2以上のサブユニットを含みうる。
アミノ酸は、本明細書においては、それらの一般的に公知の3文字の記号により、あるいはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨されている1文字の記号により示されうる。同様に、ヌクレオチドは、それらの一般的に受け入れられている1文字の記号により示されうる。
抗体ポリペプチド配列に関する「実質的に同一」なる語は、参照ポリペプチド配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%の配列同一性を示す抗体として解釈されるものとする。核酸配列に関するこの語は、参照核酸配列に対して少なくとも約85%、好ましくは90%、より好ましくは95%、最も好ましくは97%の配列同一性を示すヌクレオチドの配列として解釈されるものとする。ポリペプチドの場合、比較配列の長さは一般に少なくとも25アミノ酸であろう。核酸の場合、その長さは一般に少なくとも75ヌクレオチドであろう。アライメントのための方法およびコンピュータープログラムは当技術分野でよく知られている。配列同一性は、配列解析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package,Genetics Computer Group,University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Ave.,Madison,Wis.53705)を使用して測定されうる。このソフトウェアは、種々の置換、欠失および他の修飾に相同性の度合を割り当てることにより、類似配列に合致する。
「同一性」または「相同性」なる語は、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しないで配列を整列(アライメント)させ、必要に応じて配列全体に関する最大同一性率を得るためにギャップを導入した後で比較対象の対応配列残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の百分率を意味すると解釈されるものとする。ある分子が別の分子に対して「実質的に類似」であると言えるのは、両方の分子が、実質的に類似した構造または生物活性を有する場合である。したがって、2つの分子が類似活性を有する場合、それらは変異体であるとみなされる。なぜなら、該用語は、本明細書においては、それらの分子のうちの一方の構造が他方においては見出されない場合であっても、あるいはアミノ酸残基の配列が同一でない場合であっても用いられるからである。NまたはC末端の伸長または挿入は同一性または相同性を低下させるとは解釈されないものとする。
2以上の核酸またはポリペプチド配列の場合の「同一」または「同一性」(%)なる語は、同じである2以上の配列または亜配列、あるいは、後記のデフォルトパラメーターを有するBLASTまたはBLAST2.0配列比較アルゴリズムを使用して又は手動アライメントおよび目視検査により測定された場合(例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/に示されているNCBIウェブサイトなどを参照されたい)に同じである(すなわち、比較ウィンドウまたは指定領域にわたって最大の一致度となるように比較され整列された場合に、特定された領域にわたる約60%の同一性、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより高い同一性)アミノ酸残基またはヌクレオチドの、特定された割合(%)を有する2以上の配列または亜配列に関するものである。その場合、そのような配列は「実質的に同一」と称される。この定義は試験配列の相補体にも当てはまり、あるいは適用されうる。該定義は、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列、ならびに天然に存在する、例えば多形または対立遺伝子変異体、ならびに人工変異体をも含む。後記のとおり、好ましいアルゴリズムはギャップなどを与えうる。好ましくは、同一性は、少なくとも約25アミノ酸もしくはヌクレオチド長である領域、またはより好ましくは50〜100アミノ酸もしくはヌクレオチド長である領域にわたって存在する。
配列比較では、典型的には、1つの配列が、試験配列が比較される参照配列として働く。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列と参照配列とをコンピューターに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムパラメーターを指定する。好ましくは、デフォルトプログラムパラメーターが使用可能であり、あるいは代替的パラメーターが指定されうる。ついで該配列比較アルゴリズムは、該プログラムパラメーターに基づいて、該試験配列に関する、該参照配列に対する配列同一性(%)を計算する。
本明細書中で用いる「比較ウィンドウ」なる語は、典型的には20〜600、通常は約50〜約200、より通常は約100〜約150からなる群から選択される連続的位置の番号の1つのセグメントに対する参照を含み、この場合、2つの配列が最適に整列された後で、1つの配列が連続的位置の同一番号の参配配列と比較されうる。比較のための配列のアライメント方法は当技術分野でよく知られている。配列同一性および配列類似性(%)を決定するのに適したアルゴリズムの好ましい具体例には、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムが含まれる。BLASTおよびBLAST2.0は、本発明の核酸およびタンパク質に対する配列同一性(%)を決定するために、本明細書に記載のパラメーターを用いて使用される。
2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一である指標は、第1の核酸によりコードされるポリペプチドが、後記のとおり、第2の核酸によりコードされるポリペプチドに対して産生された抗体と免疫学的に交差反応することである。したがって、典型的には、あるポリペプチドが第2のポリペプチドに対して実質的に同一であると言えるのは、例えば、それらの2つのペプチドが保存的置換においてのみ異なる場合である。2つの核酸配列が実質的に同一であるもう1つの指標は、それらの2つの分子またはそれらの相補体が、後記のとおり、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。2つの核酸配列が実質的に同一である更にもう1つの指標は、それらの配列を増幅するために同一プライマーが使用されうることである。
「保存的修飾変異体」はアミノ酸配列と核酸配列との両方に適用される。特定の核酸配列に関しては、保存的修飾変異体は、同一な又は実質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、あるいは該核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合には、実質的に同一な又は関連した(例えば、天然で連続している)配列を意味する。遺伝暗号の縮重のため、多数の機能的に同一な核酸がほとんどのタンパク質をコードしている。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードしている。したがって、アラニンがコドンにより指定される各位置においては、コードされるポリペプチドを改変することなく、該コドンは、記載されている対応コドンの別のものに改変されうる。そのような核酸変異は「サイレント変異」と称され、これは一種の保存的修飾変異である。ポリペプチドをコードするこの場合の各核酸配列も該核酸のサイレント変異を示す。ある文脈においては、核酸における各コドン(通常はメチオニンをコードする唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンをコードする唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一な分子を与えるように修飾されうる、と当業者は認識するであろう。したがって、しばしば、ポリペプチドをコードする核酸のサイレント変異は、発現産物に関する記載配列には含まれるが、実際のプローブ配列に関するものには含まれない。
アミノ酸配列に関しては、コードされている配列における単一のアミノ酸または僅かな比率のアミノ酸を改変し、付加し又は欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加は、該改変が、化学的に類似したアミノ酸を有するアミノ酸の置換をもたらす場合に、「保存的修飾変異体」である、と当業者は認識するであろう。機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換表が当技術分野でよく知られている。そのような保存的修飾変異体は、本発明の多形変異体、種間ホモログおよび対立遺伝子に加えて存在し、それらを除外しない。典型的には、相互間の保存的置換としては以下のものが挙げられる:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リシン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、トレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins(1984)を参照されたい)。
「アミノ酸変異体」なる語は、天然配列ポリペプチドとは或る程度異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。
「置換」アミノ酸変異体は、天然アミノ酸配列と比較した場合に、それらのアミノ酸配列内に幾つかの相違を有する分子を意味する。該置換は、単一(この場合、該分子内の1つだけのアミノ酸が置換されている)であることが可能であり、あるいは複数(この場合、同一分子内で2以上のアミノ酸が置換されている)であることが可能である。通常、Her3受容体のアミノ酸配列変異体は天然配列Her3受容体に対して少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、より一層好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも95%の相同性を有する。該アミノ酸配列変異体は該天然アミノ酸配列のアミノ酸配列内の或る位置に置換、欠失および/または挿入を有しうる。「挿入」変異体は、天然配列内の特定の位置のアミノ酸に直接隣接して挿入された1以上のアミノ酸を有するものである。アミノ酸に直接隣接は、該アミノ酸のアルファ−カルボキシルまたはアルファ−アミノ官能基に対する連結を意味する。「欠失」変異体は、天然アミノ酸配列内の1以上のアミノ酸が除去されたものである。通常、欠失変異体においては、該分子の特定領域において1または2個のアミノ酸が欠失している。
本明細書中で用いる「抗体」(Ab)なる語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体フラグメント(ただし、それらが所望の生物活性を示す場合に限られる)を含む。「免疫グロブリン」(Ig)なる語は本明細書中では「抗体」と互換的に用いられる。「単離された抗体」は、特定され、その天然環境の成分から分離および/または回収された抗体である。その天然環境の混入成分は、該抗体の診断または治療用途を妨げる物質であり、酵素、ホルモンおよび他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を包含しうる。ある実施形態においては、該抗体は、(1)ローリー法による測定で95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上まで、(2)回転カップ式自動配列決定機の使用によりN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、あるいは(3)クーマシーブルーまたは好ましくは銀染色を用いる還元または非還元条件下でSDS−PAGEにより均一になるまで精製される。単離された抗体には、組換え細胞内の原位置の抗体も含まれる。なぜなら、該抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないからである。しかし、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製抗体により調製されるであろう。
「免疫グロブリン」または「抗体」(本明細書中では互換的に用いられる)は広義で用いられ、免疫原性応答のインビトロまたはインビボ生成により得られた免疫グロブリン分子を包含する意である。広い範囲は、2本の重鎖と2本の軽鎖とからなる4本のポリペプチド鎖の基本構造を有する抗原結合性タンパク質を含み、該鎖は、例えば鎖間ジスルフィド結合により安定化されており、該タンパク質は、抗原に特異的に結合する能力を有する。重鎖および軽鎖の両方は折り畳まれてドメインを与える。「ドメイン」なる語は、例えばベータプリーツシートおよび/または鎖内ジスルフィド結合により安定化されたペプチドループ(例えば、3〜4個のペプチドループを含む)を含む、重鎖または軽鎖ポリペプチドの球状領域を意味する。ドメインは更に、本明細書においては、「定常」または「可変」ドメインと称される。これは、「定常」ドメインの場合には、種々のクラスのメンバーのドメイン内の配列変異の相対的欠如に基づいており、あるいは「可変」ドメインの場合には、種々のクラスのメンバーのドメイン内の有意な変異に基づいている。軽鎖上の「定常」ドメインは、互換的に「軽鎖定常領域」、「軽鎖定常ドメイン」、「CL」領域または「CL」ドメインと称される。重鎖上の「定常」ドメインは、互換的に「重鎖定常領域」、「重鎖定常ドメイン」、「CH」領域または「CH」ドメインと称される。軽鎖上の「可変」ドメインは、互換的に「軽鎖可変領域」、「軽鎖可変ドメイン」、「VL」領域または「VL」ドメインと称される。重鎖上の「可変」ドメインは、互換的に「重鎖可変領域」、「重鎖可変ドメイン」、「VH」領域または「VH」ドメインと称される。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの境界を形成すると考えられている(Clothiaら,J.Mol Biol.186,651−66,1985;NovotnyおよびHaber,Proc.Natl.Acad Sci.USA 82,4592−4596(1985))。該用語はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体および多価抗体を含む。フラグメント、例えばFab、Fab’、F(ab)2、Fvなども含まれる。代表的メンバーには、例えば、単一抗Her3モノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニストおよび中和抗体を含む)、多エピトープ特異性を有する抗Her3抗体組成物(例えば、所望の生物活性を示す限り、二重特異性抗体)、ポリクローナル抗体、一本鎖抗Her3抗体、および抗Her3抗体のフラグメント(ただし、それらが所望の生物活性または免疫活性を示す場合に限られる)が含まれる。該抗体は、遺伝的に操作された抗体であることが可能であり、および/または組換えDNA技術により製造可能である。完全ヒト抗体もファージディスプレイ、遺伝子および染色体トランスフェクション法および他の手段により製造されうる。あらゆる脊椎動物種からのL鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパおよびラムダと称される2つの明らかに異なるタイプの1つに割り当てられうる。それらの重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは種々のクラスまたはイソタイプに割り当てられうる。5つのクラスの免疫グロブリン、すなわち、それぞれα、δ、ε、γおよびミューと称される重鎖を有するIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在する。該γおよびαクラスは更に、CH配列および機能における比較的小さな相違に基づいて、いくつかのサブクラスに分けられる。例えば、ヒトは以下のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2を発現する。
本明細書中で用いる「モノクローナル抗体」なる語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を意味する。すなわち、該集団を構成する個々の抗体は、僅かな量で存在しうる天然で生じる考えられうる突然変異以外は同一である。モノクローナル抗体は単一の抗原部位に高特異的である。さらに、種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を典型的に含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、それが、他の免疫グロブリンが混入しないハイブリドーマ培養により合成される点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという該抗体の特性を示しており、いずれかの特定の方法による該抗体の製造を要するとは解釈されない。例えば、本発明に従い使用されるモノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein,Nature 256,495(1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法により製造可能であり、あるいは例えば米国特許第4,816,567号に記載されている組換え法により製造可能である。また、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、Clacksonら,Nature 352:624−628(1991)およびMarksら,J.Mol.Biol 222:581−597(1991)に記載されている技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離されうる。
「完全」抗体は、抗体結合部位ならびにCLおよび少なくとも重鎖定常ドメインCH1、CH2およびCH3を含む抗体である。該定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列変異体でありうる。好ましくは、該完全抗体は1以上のエフェクター機能を有する。
「領域」なる語は抗体鎖の部分または一部を意味し、本明細書中で定義されている定常または可変ドメイン、および該ドメインの、より分離した部分または一部を含む。例えば、軽鎖可変ドメインまたは領域には、本明細書中に定義されている「フレームワーク領域」または「FR」の間に介在する「相補性決定領域」または「CDR」が含まれる。
本明細書中で用いる「抗原」なる語は、特異的抗体に対して反応性である分子を意味する。
「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する、抗原上の部位を意味する。エピトープは、連続的アミノ酸、またはタンパク質の三次元フォールディングにより並置した不連続的アミノ酸の両方から形成されうる。連続的アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒にさらされても維持されるが、三次元フォールディングにより形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒で処理されると失われる。エピトープは、典型的には、特有の空間的コンホメーションにおいて、少なくとも3個、より通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的コンホメーションを決定するための方法には、例えば、x線結晶学および二次元核磁気共鳴が含まれる。
「IgGクラス」の抗体はIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の抗体を意味する。重鎖および軽鎖におけるアミノ酸残基の番号づけはEUインデックスの番号づけ(Kabatら,“Sequences of Proteins of Immunological Interest”,5th ed.,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);本明細書においてはEU番号づけ体系が用いられている)である。
「免疫原性応答」または「抗原応答」は、ある化合物と適当な細胞が接触した後、該化合物に対する抗体の産生をもたらす応答である。免疫原性応答を惹起するために使用される化合物は免疫原または抗原と称される。免疫原性応答において産生された抗体は、該応答を惹起するために使用された免疫原に特異的に結合する。
「抗体突然変異体」なる語は、アミノ酸残基の1以上が修飾された、抗体のアミノ酸配列変異体を意味する。そのような突然変異体は、必然的に、100%未満の配列同一性または類似性を有し、該アミノ酸配列は、該抗体の重鎖または軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性または類似性を有する。本発明の方法はポリペプチド、抗体およびそのフラグメントの両方に同等に適用されるため、これらの語は互換的に用いられることがある。
代替的または追加的に、本明細書中で用いる「突然変異体」なる語は、「突然変異により改変された」および「グリコシル化部位改変」と互換可能である。これらの語は、V領域グリコシル化部位を修飾する少なくとも1つの突然変異を含有する少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域を含む抗体に関するものである。突然変異体免疫グロブリンは、V領域グリコシル化部位を修飾する少なくとも1つの突然変異を含有する少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域を含む免疫グロブリン(例えば、F(ab’)2、Fv、Fab、二官能性抗体、抗体など)を意味する。突然変異体免疫グロブリン鎖は、典型的にはV領域フレームワーク内のV領域グリコシル化部位を修飾する少なくとも1つの突然変異を有する。したがって、突然変異体免疫グロブリンにおいては、V領域グリコシル化部位のパターン(すなわち、出現の頻度および/または位置)が改変される。
抗体の可変ドメインの場合の「可変」なる語は、該可変ドメインの或る部分が抗体間で配列において甚だしく異なることを意味し、それぞれの特定の抗体の、その特定の抗原に対する結合および特異性において用いられる。Vドメインは抗原結合をもたらし、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を定める。しかし、可変性は可変ドメインの110アミノ酸の範囲にわたって均一には分布していない。それは、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの両方において、超可変領域としても公知であり相補性決定領域(CDR)と称される3つのセグメントに集中している。CDRを決定するための以下の少なくとも2つの技術が存在する:(1)種間配列可変性に基づくアプローチ(すなわち、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health,Bethesda,Md.187));および(2)抗原−抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Chothia,C.ら(1989),Nature 342:877)。可変ドメインの、より高度に保存された部分は、より短い「超可変領域」(9〜12アミノ酸長)により分離された15〜30アミノ酸のフレームワーク(FR)と称される。天然重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、4つのFR領域を含み、これらは大部分は、ベータシート構造を連結する(場合によっては、ベータシート構造の一部を形成する)ループを形成する3つのCDRにより連結されたベータシート立体配置をとる。各鎖内のCDRは、FR領域により、互いに接近してひとかたまりになっており、その他の鎖からのCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)を参照されたい。定常ドメインは抗原への抗体の結合に直接は関与しないが、種々のエフェクター機能(例えば、抗体依存性細胞傷害における抗体の関与)を示す。
本明細書中で用いる「超可変領域」なる語は、抗原結合をもたらす、抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」、すなわち「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、VLにおける残基約24−34(Li)、50−56(L2)および89−97(L3)周辺ならびにVHにおける残基約1−35(H1)、50−65(H2)および95−102(H3)周辺;Kabateら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))および/または「超可変ループ」からのアミノ酸残基(例えば、VLにおける残基26−32(L1)、50−52(L2)および91−96(L3)周辺ならびにVHにおける26−32(H1)、53−55(H2)および96−101(H3);ChothiaおよびLesk J.Mol.Biol.196:901−917(1987))を含む。
免疫グロブリンまたは抗体は単量体または多量体形体で存在しうる。「抗原結合性フラグメント」なる語は、抗原に結合し又は抗原結合(すなわち、特異的結合)に関して完全抗体(すなわち、それが由来する完全抗体)と競合する、免疫グロブリンまたは抗体のポリペプチド断片を意味する。「コンホメーション」なる語はタンパク質またはポリペプチド(例えば、抗体、抗体鎖、ドメインまたはその領域)の三次構造を意味する。例えば、「軽鎖(または重鎖)コンホメーション」は軽鎖(または重鎖)可変領域の三次構造を意味し、「抗体コンホメーション」または「抗体フラグメントコンホメーション」なる語は抗体またはそのフラグメントの三次構造を意味する。好ましくは、該フラグメントは、完全長抗体と共通した定量的生物活性を示す。例えば、抗IgE抗体の機能性フラグメントまたは類似体は、そのような分子が高アフィニティー受容体、FcイプシロンRIに結合する能力を有することを妨げ又は実質的に軽減するように、IgE免疫グロブリンに結合しうるものである。抗体フラグメントは、抗体のインビトロ操作(例えば、抗体の限定タンパク質分解)または組換えDNA技術(たてば、ファージディスプレイライブラリーからの一本鎖抗体の製造)により製造されうる。抗体フラグメントの具体例には、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFvフラグメント;ジアボディ;直鎖状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;Zapataら,Protein Eng.8(10):1057−1062(1995));一本鎖抗体分子;ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が含まれる。
結合性フラグメントは、組換えDNA技術により、または完全免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断により製造される。結合性フラグメントには、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、Fv、一本鎖体および一本鎖抗体が含まれる。「二重特異性」または「二官能性」免疫グロブリンまたは抗体以外の場合、免疫グロブリンまたは抗体の結合部位のそれぞれは同一である。
本発明の抗体分子の「機能性変異体」は、本発明の抗体分子に実質的に類似した生物活性(機能的または構造的)、すなわち、実質的に類似した基質特異性または基質切断性を有する抗体分子である。「機能性変異体」なる語はまた、「フラグメント」、「対立遺伝子変異体」、「縮重核酸コードに基づく変異体」または「化学的誘導体」を含む。そのような「機能性変異体」、例えば、1つ又は幾つかの点突然変異、1つ又は幾つかの核酸置換、欠失または挿入、あるいは1つ又は幾つかのアミノ酸置換、欠失または挿入を含有しうる。該機能性変異体は、少なくとも部分的に、抗体結合活性のようなその生物活性を尚も保有しており、あるいは更には該生物活性の改善を伴う。
「対立遺伝子変異体」は、対立遺伝子変異、例えば、ヒトにおける2つの対立遺伝子における相違による変異体である。該変異体は、少なくとも部分的に、抗体標的結合活性にようなその生物活性を尚も保有しており、あるいは更には生物活性の改善を伴う。
「遺伝暗号の縮重に基づく変異体」は、あるアミノ酸が幾つかの異なるヌクレオチドトリプレットによりコードされうることによる変異体である。該変異体は、少なくとも部分的に、抗体結合活性のようなその生物活性を尚も保有しており、あるいは更には該生物活性の改善を伴う。
「融合分子」は、例えばレポーター、例えば放射能標識、化学的分子、例えば毒素、または蛍光標識、または当技術分野で公知のいずれかの他の分子に融合した本発明の抗体分子でありうる。
本明細書中で用いる、本発明の「化学的誘導体」は、化学修飾された本発明の抗体分子、または通常は該分子の部分ではない追加的な化学的部分を含有する本発明の抗体分子である。そのような部分は、該分子の活性、例えば標的破壊(例えば、腫瘍細胞の殺傷)を改善することがあり、あるいはその溶解度、吸収、生物学的半減期などを改善しうる。
抗体のパパイン消化は、「Fab」フラグメントと称される2つの同じ抗原結合性フラグメントおよび残りの「Fc」フラグメントを与え、この名称は、容易に結晶化しうることを表す。Fabフラグメントは、L鎖全体、ならびにH鎖の可変領域ドメイン(VH)および1つの重鎖の第1定常ドメイン(CH 1)からなる。各Fabフラグメントは抗原結合に関して1価である。すなわち、それは単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、2価抗原結合活性を有するジスルフィド結合した2つのFabフラグメントにほぼ対応し尚も抗原を架橋しうる単一の大きなF(ab’)2フラグメントを与える。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1以上のシステインを含むCH1ドメインのカルボキシ末端における追加的な少数の残基を有する点で、Fabフラグメントとは異なる。本明細書においては、Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を含有するFab’を表す。F(ab’)2抗体フラグメントは元々、相互間にヒンジシステインを有するFab’フラグメントのペアとして産生された。抗体フラグメントの他の化学的カップリングも公知である。
Fcフラグメントは、ジスルフィドにより結合した両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能はFc領域内の配列により決定され、該領域は、あるタイプの細胞上で見出されるFc受容体(FcR)により認識される部分でもある。本明細書中で用いる「Fc」または「Fc領域」は、IgA、IgDおよびIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにこれらのドメインのN末端の柔軟なヒンジの部分を含むポリペプチドを意味する。Fc領域の境界は様々でありうるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、残基C226またはP230からそのカルボキシル末端までを含むように定められ、ここで、番号づけはEU番号づけ体系に基づいている。Fcは単離状態のこの領域、または完全長抗体もしくは抗体フラグメントの場合のこの領域を意味しうる。したがって、本明細書中で用いる「Fc領域の外部」は、抗体のFc領域を含まない抗体の領域を意味する。Fc領域の前記定義によると、IgG1抗体に関する「Fc領域の外部」は、本明細書においては、N末端から残基T225またはC229(それらを含む)までと定義され、ここで、番号づけはEU番号づけ体系に基づいている。したがって、Fab領域、および抗体のヒンジ領域の部分は、Fc領域の外部である。
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を示す。好ましいFcRは天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(γ受容体)に結合するものであり、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIサブクラスの受容体(これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシング形態を含む)を含む。FcγRII受容体にはFcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「抑制性受容体」)が含まれ、これらは、主にそれらの細胞質ドメインにおいて異なる類似したアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAはその細胞質ドメイン内にアイタム(免疫受容体チロシン系活性化モチーフ)(ITAM)を含有する。抑制性受容体FcγRIIBはその細胞質ドメイン内にアイティム(免疫受容体チロシン系抑制モチーフ)(ITIM)を含有する。[M.in Daeron,Annu.Rev.Immunol.15:203−234(1997)]。FcRはRavetchおよびKinet,Annu.Rev.Immunol.9:457−492(1991);Capelら,Immunomethods 4:25−34(1994);ならびにde Haasら,J.Lab.Clin.Med.126:330−41(1995)に概説されている。他のFcR(将来特定されるものを含む)も本明細書中の「FcR」なる語に含まれる。この語は新生児受容体FcRnを含み、これは胎児への母体IgGの輸送をもたらす(Guyerら,J.Immunol.117:587(1976)およびKimら,J.Immunol 24:249(1994))。
「Fv」フラグメントは、抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む最小抗体フラグメントであり、したがって、完全な抗原認識および結合部位を含有する。この領域は、強固な非共有結合で結合した1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとの二量体(VH−VL二量体)からなる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用してVH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を定めるのは、この立体配置においてである。全体として、6つのCDRが抗原結合特異性を抗体に付与する。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえも、完全結合部位より低いアフィニティーではあるものの、抗原を認識しそれに結合する能力を有する。1以上のscFvフラグメントが他の抗体フラグメント(例えば、重鎖または軽鎖の定常ドメイン)に連結されて、1以上の抗原認識部位を有する抗体構築物を形成しうる。
「一本鎖可変フラグメントまたはscFv」なる語は、重鎖ドメインと軽鎖ドメインとが連結されたFvフラグメントを意味する。「一本鎖Fv」は「sFv」または「scFv」とも略され、単一のポリペプチド鎖へと連結されたVHおよびVL抗体ドメインを含む抗体フラグメントである。一般に、該sFvポリペプチドは更に、該sFvが抗原結合のための所望の構造を形成するのを可能にする、VHおよびVLドメイン間のポリペプチドリンカーを含む。sFvの総説としては、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,RosenburgおよびMoore編,Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994);Borrebaeck 1995(後記)を参照されたい。
2価、3価または4価構造を有しscFvから誘導される、いわゆるミニアンチボディ(miniantibody;小型抗体)も、当業者によく知られているであろう。多量体化は二量体、三量体または四量体コイルドコイル構造により行われる(Packら,1993 Biotechnology II:,1271−1277;Lovejoyら,1993 Science 259:1288−1293;Packら,1995 J.Mol Biol.246:28−34)。
ミニボディは2価ホモ二量体scFv誘導体を意味する。それは、免疫グロブリン(好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1)のCH3領域を、ヒンジ領域(例えば、同様にIgG1由来)およびリンカー領域を介してscFvに連結された二量体化領域として含有する融合タンパク質からなる。該ヒンジ領域内のジスルフィド架橋は、大抵は、高等生物細胞においては形成されるが、原核生物においては形成されない。いくつかの実施形態においては、本発明の抗体はHer3特異的ミニボディ抗体フラグメントである。先行技術からのミニボディ−抗体タンパク質の具体例はHuら(1996,Cancer Res.56:3055−61)に見出されうる。
「ジアボディ」なる語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを意味し、該フラグメントは、同一ポリペプチド鎖(VH−VL)において、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同一鎖上で2つのドメイン間のペア形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、それらのドメインは別の鎖の相補的ドメインとペア形成することを強要され、2つの抗原結合部位を生成する。ジアボディは、例えばEP 404,097;WO 93/11161;およびHollingerら,Proc.Natl.Acad Sci.USA 90:6444−6448(1993)に、より詳細に記載されている。抗体の種々のクラスの構造および特性に関しては、例えば、Basic and Clinical Immunology,8th edition,Daniel P.Stites,Abba I.TerrおよびTristram G.Parslow(編),Appleton & Lange,Norwalk,Conn.,1994,71頁および第6章を参照されたい。
トリアボディは3価ホモ三量体scFv誘導体を意味する(Korttら,1997 Protein Engineering 10:423−433)。リンカー配列無しでVH−VLが直接的に融合されたscFv誘導体は三量体の形成をもたらす。
Fabフラグメント[F(ab)とも称される]はまた、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とを含有する。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端における少数の残基が付加されている点で、Fabフラグメントとは異なる。本明細書においては、Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を含有するFab’を表す。F(ab’)フラグメントは、F(ab’)2ペプシン消化産物のヒンジシステインにおけるジスルフィド結合の切断により産生される。抗体フラグメントの追加的な化学的カップリングも当業者に公知である。
「二重特異性」または「二官能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖ペアおよび2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの連結を含む種々の方法により製造されうる。例えば、Songsivilai & Lachmarm,Clin.Exp.Immunol.79:315−321(1990);Kostelnyら,J.Immunol.148,1547−1553(1992)を参照されたい。
関心のある抗原、例えば腫瘍関連ポリペプチド抗原標的、例えばHer3に「結合する」抗体は、該抗原を発現する細胞または組織を標的化する際に該抗体が診断用および/または治療用物質として有用となるのに十分なアフィニティーで該抗原に結合し他のタンパク質とは有意に交差反応しない抗体である。そのような実施形態においては、「非標的」タンパク質への該抗体の結合の度合は、蛍光標示式細胞分取(FACS)分析または放射性免疫沈降(RIA)による測定で、その特定の標的タンパク質への該抗体、オリゴペプチドまたは他の有機分子の結合の約10%未満であろう。標的分子への抗体の結合に関して、特定のポリペプチドまたはエピトープへの「特異的結合」、あるいは特定のポリペプチドまたはエピトープに「特異的に結合する」または「特異的」なる語は、測定可能な様態で非特異的相互作用とは異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば、一般には結合活性を有さない類似構造の分子である対照分子の結合と比較して分子の結合を決定することにより測定されうる。例えば、特異的結合は、標的に類似した対照分子(例えば、過剰の未標識標的)との競合により決定されうる。この場合、プローブへの標識標的の結合が過剰の未標識標的により競合的に阻害される場合に特異的結合が示される。
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそれらのフラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2または抗体の他の抗原結合性部分配列)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、所望の特異性、アフィニティーおよび能力を有するマウス、ラットまたはウサギのような非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基によりレシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。したがって、ヒト化抗体は、1つの種からの抗体(例えば、げっ歯類抗体)のCDRがげっ歯類抗体の重および軽可変鎖からヒト重および軽可変ドメイン内に移された組換えタンパク質である。該抗体分子の定常ドメインはヒト抗体のものに由来する。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が対応非ヒト残基により置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも導入CDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含みうる。これらの修飾は、抗体の性能を更に改善し最適化するために行われる。一般に、該ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、該CDR領域の全て又は実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全てはヒト免疫グロブリン配列のものである。該ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的には、ヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部を含むであろう。さらに詳細は、Jonesら,Nature,321:522−525(1986);Reichmannら,Nature,332:323−329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992)を参照されたい。該ヒト化抗体にはPrimatized(商標)抗体が含まれ、この場合、該抗体の抗原結合領域は、関心のある抗原でマカクサルを免疫化することにより産生された抗体に由来する。
ヒト患者の治療には完全「ヒト」抗体が望ましいかもしれない。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブライリーを使用する前記のファージディスプレイ法を含む当技術分野で公知の種々の方法により製造されうる。米国特許第4,444,887号および第4,716,111号;ならびにPCT公開WO 98/46645;WO 98/50433;WO 98/24893;WO 98/16654;WO 96/34096;WO 96/33735;およびWO 91/10741(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。また、ヒト抗体は、機能性内因性免疫グロブリンを発現し得ないがヒト免疫グロブリン遺伝子を発現しうるトランスジェニックマウスを使用して製造されうる。例えば、PCT公開WO 98/24893;WO 92/01047;WO 96/34096;WO 96/33735;欧州特許第598 877号;米国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;第5,885,793号;第5,916,771号;および第5,939,598号(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。また、Abgenix,Inc.(Fremont,Calif.)およびMedarex(Princeton,N.J.)のような企業が、前記のものに類似した技術を用いて、選択された抗原に対するヒト抗体を提供することを請け負いうる。
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「誘導選択(guided selection)」と称される技術を用いて産生されうる。このアプローチにおいては、同一エピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を誘導するために、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体が使用される(Jespersら,Biotechnology 12:899−903(1988))。
キメラ抗体は、該抗体分子の定常ドメインがヒト抗体のものに由来する一方で、1つの種に由来する抗体(好ましくは、げっ歯類抗体)の相補性決定領域(CDR)を含む可変ドメインを含有する組換えタンパク質である。獣医用途の場合、該キメラ抗体の定常ドメインは他の種(例えば、ネコまたはイヌ)のものに由来しうる。
「種依存性抗体」、例えば哺乳類抗ヒトHer3抗体は、第1の哺乳類種からの抗原に対して、第2の哺乳類種からのその抗原のホモログに対する場合より強力な結合アフィニティーを有する抗体である。通常、該種依存性抗体は、ヒト抗原に「特異的に結合」する(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8M以下、最も好ましくは約1×10−9M以下の結合アフィニティー(Kd)値を有する)が、該ヒト抗原に対するその結合アフィニティーより少なくとも約500倍または少なくとも約1000倍弱い、第2の非ヒト哺乳類種からの抗原のホモログに対する結合アフィニティーを有する。該種依存性抗体は、前記の種々のタイプの抗体のいずれかのものでありうるが、好ましくはヒト抗体である。
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因する生物活性を意味し、抗体イソタイプによって様々である。抗体エフェクター機能の具体例には、Clq結合および補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション;ならびにB細胞活性化が含まれる。
「抗体依存性細胞性細胞傷害」または「ADCC」は、ある細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球およびマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合した分泌Igが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗体含有標的細胞に特異的に結合し次いで細胞毒素で該標的細胞を殺すことを可能にする、細胞傷害の一形態を意味する。抗体は細胞傷害性を「武装」させ、そのような殺傷に絶対に必要である。ADCCを引き起こす一次細胞、すなわちNK細胞は、FcγRIIIのみを発現し、一方、単球はFcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現は、RavetchおよびKinet,Annu.Rev.Immunol.9:457−92(1991)の464ページの表3に要約されている。関心のある分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCCアッセイ、例えば、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されているものが行われうる。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。その代わりに又はそれに加えて、関心のある分子のADCC活性は、例えば、Clynesら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95:652−656(1998)に開示されている動物モデルにおいてインビボで評価されうる。
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は補体の存在下の標的細胞の細胞溶解を意味する。古典的補体経路の活性化は、対応コグネイト抗原に結合した(適当なサブクラスの)抗体への補体系の第1成分(C1q)の結合により抑制される。補体活性化を評価するためには、CDCアッセイ、例えば、Gazzano−Santoroら,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されているアッセイが行われうる。
「ヒトエフェクター細胞」は、1以上のFcRを発現しエフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、該細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCをもたらすヒト白血球の具体例には、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞および好中球が含まれ、PBMCおよびNK細胞が好ましい。該エフェクター細胞は天然源、例えば血液から単離されうる。
本明細書中で用いる「細胞毒性物質」なる語は、細胞の機能を抑制もしくは妨害する、および/または細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。この語は、放射性同位体(例えば、At 211、I 131、I 125、Y 90、Re 186、Re 188、Sm 153、Bi 212、P 32およびLuの放射性同位体)、化学療法剤、例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他のインターカレート性物質、酵素およびその断片、例えば核溶解性酵素、抗生物質、ならびに毒素、例えば細菌、真菌、植物または動物由来の小分子毒素または酵素的に活性な毒素(それらの断片および/または変異体を含む)、ならびに後記の種々の抗腫瘍性または抗癌性物質を含むと意図される。他の細胞毒性物質は後記に記載されている。
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化合物である。化学療法剤の具体例には以下のものが含まれる:アドリアマイシン(adriamycin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、5−フルオロウラシル(fluorouracil)、シトシンアラビノシド(cytosine arabinoside)(「Ara−C」)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、チオテパ(thiotepa)、ブスルファン(busulfan)、サイトキシン(cytoxin)、タキソイド、例えばパクリタキセル(paclitaxel)(Taxol(商標),Bristol−Myers Squibb Oncology,Princeton,N.J.)、およびドセタキセル(docetaxel)(Taxotere.,Rhone−Poulenc Rorer,Antony,France)、トキソテレ(toxotere)、メトトレキセート(methotrexate)、シスプラチン(cisplatin)、メルファラン(melphalan)、ビンブラスチン(vinblastine)、ブレオマイシン(bleomycin)、エトポシド(etoposide)、イフォスファミド(ifosfamide)、マイトマイシン(mitomycin)C、ミトザントロン(mitoxantrone)、ビンクリスチン(vincristine)、ビノレルビン(vinorelbine)、カルボプラチン(carboplatin)、テニポシド(teniposide)、ダウノマイシン(daunomycin)、カルミノマイシン(carminomycin)、アミノプテリン(aminopterin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、マイトマイシン(mitomycin)、エスペラマイシン(esperamicin)(米国特許第4,675,187号を参照されたい)、6−チオグアニン(thioguanine)、6−メルカプトプリン(mercaptopurine)、アクチノマイシン(actinomycin)D、VP−16、クロラムブシル(chlorambucil)、メルファラン(melphalan)および他の関連ナイトロジェンマスタード。この定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節または抑制するように作用するホルモン剤、例えばタモキシフェン(tamoxifen)およびオナプリストン(onapristone)も含まれる。本明細書における「グリコシル化変異体」「糖形態(Glycoform)変異体」抗体は、主要種抗体に結合している1以上の炭水化物部分とは異なる1以上の炭水化物部分が結合した抗体である。本発明におけるグリコシル化変異体の具体例には、G0オリゴ糖構造ではなくG1またはG2オリゴ糖構造がFc領域に結合した抗体、1個または2個の炭水化物部分が1個または2個の抗体軽鎖に結合した抗体、炭水化物が1個または2個の抗体重鎖に結合していない抗体など、ならびにそのようなグリコシル化改変の組合せが含まれる。
「グリコシル化部位」は、糖残基の結合のための位置として真核細胞により認識されるアミノ酸残基を意味する。炭水化物、例えばオリゴ糖が結合するアミノ酸は、典型的には、アスパラギン(N結合)、セリン(O結合)およびトレオニン(O結合)残基である。結合の特異的部位は、典型的には、本明細書中では「グリコシル化部位配列」と称されるアミノ酸の配列により示される。N結合グリコシル化のためのグリコシル化部位配列は−Asn−X−Ser−または−Asn−X−Thr−であり、ここで、Xはプロリン以外の通常のアミノ酸のいずれかでありうる。O結合グリコシル化のための主要グリコシル化部位は−(ThrまたはSer)−X−X−Pro−であり、ここで、Xはいずれかの通常のアミノ酸である。グリコサミノグリカン(特定のタイプの硫酸化糖)のための認識配列は−Ser−Gly−X−Gly−であり、ここで、Xは通常のアミノ酸である。「N結合」および「O結合」なる語は、糖分子とアミノ酸残基との間の結合部位として働く化学基に関するものである。N結合糖はアミノ基を介して結合し、O結合糖はヒドロキシル基を介して結合する。しかし、タンパク質における全てのグリコシル化部位配列が必ずしもグリコシル化されるわけではなく、グリコシル化および非グリコシル化の両方の形態で分泌されるタンパク質もあれば、1つのグリコシル化部位配列においては完全にグリコシル化されるが、グリコシル化されない別のグリコシル化部位配列を含有するタンパク質もある。したがって、ポリペプチド中に存在する全てのグリコシル化部位配列が必ずしも、糖残基が実際に結合するグリコシル化部位ではない。生合成中の初期N−グリコシル化は「コア炭水化物」または「コアオリゴ糖」を挿入する(Proteins,Structures and Molecular Principles,(1984)Creighton(編),W.H. Freeman and Company,New York(それを参照により本明細書に組み入れることとする))。
「V領域グリコシル化部位」は、炭水化物、典型的にはオリゴ糖がN結合またはO結合共有結合によりポリペプチド鎖内のアミノ酸残基に結合する、可変領域内の位置である。全てのグリコシル化部位配列が個々の細胞において必ずしもグリコシル化されるわけではないため、グリコシル化部位は、該部位においてグリコシル化が生じる表示細胞型を参照することにより機能的に定められ、当業者により容易に決定される。したがって、突然変異抗体は、V領域グリコシル化部位、例えばN結合グリコシル化部位配列を付加し、除去または転移する少なくとも1つの突然変異を有する。好ましくは、該突然変異は、可能な場合にはグリコシル化部位を修飾するために保存的アミノ酸置換を導入する置換突然変異である。好ましくは、親免疫グロブリン配列がV領域フレームワーク内、特に抗原結合部位付近(例えば、CDR付近)の位置にグリコシル化部位を含有する場合には、該グリコシル化部位配列は、典型的には、該グリコシル化部位配列を含むアミノ酸残基の1以上の保存的アミノ酸置換を施すことにより、該グリコシル化部位配列を無効にするために、(例えば、部位特異的突然変異誘発により)突然変異される。親免疫グロブリン配列がCDR内にグリコシル化部位を含有する場合、および親免疫グロブリンが、炭水化物を含有するエピトープに特異的に結合する場合、そのグリコシル化部位は、好ましくは、保有される。親免疫グロブリンが、ポリペプチドのみを含むエピトープに特異的に結合する場合、CDR内に存在するグリコシル化部位は、好ましくは、突然変異(例えば、部位特異的突然変異)により除去される。
「グリコシル化軽減抗体」および「グリコシル化軽減免疫グロブリン鎖」は、親配列内に存在する少なくとも1つのグリコシル化部位が突然変異により破壊されて該突然変異体配列内に存在しない、それぞれ突然変異抗体および突然変異体免疫グロブリン鎖である。
「グリコシル化補足抗体」および「グリコシル化補足免疫グロブリン鎖」は、グリコシル化部位が親配列内に存在しない突然変異体配列内位置に少なくとも1つのグリコシル化部位が存在する、それぞれ突然変異抗体および突然変異体免疫グロブリン鎖である。典型的には、炭水化物含有エピトープに対して親抗体の場合より高い結合アフィニティーを有するグリコシル化補足抗体は、該親抗体が有さない、CDR内に存在するグリコシル化部位を有する。典型的には、ポリペプチド配列を含有するが炭水化物を含有しないエピトープに特異的に結合するグリコシル化補足抗体は親抗体の場合より低いアフィニティーを有する。
「親免疫グロブリン配列」(または「親免疫グロブリン」)および「親ポリヌクレオチド配列」は、本明細書においては、それぞれ、基準アミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列を意味する。親ポリヌクレオチド配列は、天然に存在する免疫グロブリン鎖またはそのフラグメントをコードすることが可能であり、この場合、V領域内に存在しうるグリコシル化部位配列は、それが存在する場合には、親配列が由来する天然に存在する免疫グロブリン配列内に存在するグリコシル化部位配列の場合とほぼ同じ相対アミノ酸残基位置に存在する。部位特異的突然変異のような突然変異が親免疫グロブリン配列内に導入される場合、生じる配列は、突然変異体免疫グロブリン配列(または突然変異免疫グロブリン配列)と称される。
本明細書中で用いる20種の通常のアミノ酸およびそれらの略語は通常の用法に従っている(Immunology−A Synthesis,2nd Edition,E.S.GolubおよびD.R.Gren編,Sinauer Associates,Sunderland,Mass.(1991)(それを参照により本明細書に組み入れることとする))。
抗体薬物コンジュゲート(ADC)は癌の治療のための1つのアプローチである(Braslawskyら,Cancer Res,1990;50:6608−14;Liuら,Proc Natl Acad Sci USA,1996;93:8618−23;Bernsteinら,Leukemia,2000;14:474−5;Rossら,Cancer Res,2002;62:2546−53;Bhaskarら,Cancer Res,2003;63:6387−94;Doroninaら,Nat Biotechnol,2003;21:778−84;Franciscoら,Blood,2003;102:1458−65)。このアプローチの方法は、癌特異的抗原を標的化する抗体により、毒性の積荷(payload)を癌細胞に運搬するというものである。この方法は、強力な薬物が抗体−抗原複合体を介してインターナリゼーションされ、細胞内に遊離され、癌細胞を特異的に殺すことを要する(Bhaskarら,Cancer Res,2003;63:6387−94;Doroninaら,Nat Biotechnol,2003;21:778−84;Franciscoら,Blood,2003;102:1458−65)。理想的には、その強力な薬物は抗体−抗原複合体を介してインターナリゼーションされ、細胞内に遊離され、癌細胞を特異的に殺す。毒性副作用を最小にするためには、循環抗体が接近可能な必須器官において分子標的が発現されないことが決定的に重要である。また、抗体の接近を可能にするためには、該標的は癌細胞の細胞膜に存在しなければならない。
癌治療に対するADCアプローチにとって標的を魅力的なものにする同じ基準が抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)アプローチにも望ましい。ADCCアプローチにおいては、免疫エフェクター細胞(細胞傷害性Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、活性化マクロファージ)を腫瘍に呼び寄せるために、標的に対する裸抗体が使用される。ついで、これらのエフェクター細胞は該標的化腫瘍細胞を殺す。
本明細書中で用いる「抗体ファージライブラリー」なる語は、前記ならびにHawkinsら,J.Mol Biol.254:889−896(1992)およびLowmanら,Biochemistry 30(45):10832−10838(1991)に記載されている親和性成熟過程において使用されるファージライブラリーを意味する。各ライブラリーは、全ての可能なアミノ酸置換が施された超可変領域(例えば、6〜7部位)を含む。このようにして作製された抗体突然変異体は、繊維状ファージ粒子から1価様態で、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として提示され、該ファージの外面上で発現される。
「一本鎖Fv」は「sFv」または「scFv」とも略され、単一ポリペプチド鎖へと連結されたV HおよびV L抗体ドメインを含む抗体フラグメントである。好ましくは、該sFvポリペプチドは更に、該sFvが抗原結合のための所望の構造を形成するのを可能にする、V HおよびV Lドメイン間のポリペプチドリンカーを含む。sFvの総説としては、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,RosenburgおよびMoore編,Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994);Borrebaeck 1995(後記)を参照されたい。
「ジアボディ」なる語は、Vドメインの鎖内ペア形成ではなく鎖間ペア形成が生じて2価フラグメント(すなわち、2つの抗原結合部位を有するフラグメント)が得られるように、V HおよびV Lドメイン間に短いリンカー(約5〜10残基)を含有するsFvフラグメント(前段落を参照されたい)を構築することにより製造された小さな抗体フラグメントを意味する。二重特異性ジアボディは、異なるポリペプチド鎖上に2つの抗体のV HおよびV Lドメインが存在する、2つの「クロスオーバー(crossover)」sFvフラグメントのヘテロ二量体である。ジアボディは、例えばEP 404,097;WO 93/11161;およびHollingerら,Proc.Natl.Acad Sci.USA 90:6444−6448(1993)に、より詳細に記載されている。
本明細書中で用いる「標的分子」は、産生させたい抗体またはリガンドの標的(対象)である任意の分子(必ずしもタンパク質とは限らない)を意味する。しかし、好ましくは、該標的はタンパク質であり、最も好ましくは、該標的は抗EGFRまたはヒトher3もしくはHer2/Her3二量体である。
「Her3」は、Her2/Her3二量体を含むHer3受容体ファミリーの全メンバーを含む。「完全長」Her3受容体タンパク質または核酸は、1以上の天然に存在する野生型Her3ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列内に通常含有されている要素の全てを含有するポリペプチドもしくはポリヌクレオチド配列またはそれらの変異体を意味する。例えば、完全長Her3核酸は、典型的には、完全長の天然に存在するタンパク質をコードするエキソンの全てを含む。「完全長」は種々の段階の翻訳後プロセッシングの前または後でありうる。
本明細書中で用いる「タグ付きエピトープ」なる語は、「タグポリペプチド」に融合したポリペプチドを含むキメラポリペプチドを意味する。該タグポリペプチドは、対応する抗体を産生させうるエピトープを与えるのに十分な残基を有するが、該タグポリペプチドが融合しているポリペプチドの活性をそれが妨げないのに十分な程度に短い。また、該タグポリペプチドは、好ましくは、該抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように、非常に特有のものである。適当なタグポリペプチドは、一般に少なくとも6つのアミノ酸残基、通常は約8〜50アミノ酸残基(好ましくは約10〜20アミノ酸残基)を有する。
「固相」は、本発明の抗体が付着しうる非水性マトリックスを意味する。本発明に含まれる固相の具体例には、部分的または全体的にガラス(例えば、制御性細孔ガラス)、多糖(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコールおよびシリコーンから構成されるものが含まれる。ある実施形態においては、場合によっては、該固相は、アッセイプレートのウェルを含むことが可能であり、他の実施形態においては、それは精製カラム(例えば、アフィニティークロマトグラフィーカラム)である。この語は、分離した粒子の不連続固相、例えば米国特許第4,275,149号に記載されているものをも含む。
「リポソーム」は、哺乳動物への薬物(例えば、IL−17A/Fポリペプチドまたはそれに対する抗体)の運搬に有用な、種々のタイプの脂質、リン脂質および/または界面活性剤から構成される小さな小胞である。リポソームの成分は一般に、生体膜の脂質配置と同様の二層形態で配置される。
「小分子」は、本明細書においては、約500ダルトン未満の分子量を有するものと定義される。
本出願において用いる「プロドラッグ」なる語は、親薬物と比較して低い、腫瘍細胞に対する細胞毒性を有し、酵素的に活性化され又はより活性な親形態に変換されうる、薬学的に活性な物質の前駆体または誘導体を意味する。例えば、Wilman,“Prodrugs in Cancer Chemotherapy”,Biochemical Society Transactions,14,pp.375−382,615 Meeting,Belfast(1986)およびStellaら(編),“Prodrugs:A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery”,Directed Drug Delivery,Borchardtら,(編),pp.247−267,Human Press(1985)を参照されたい。本発明で使用されるプロドラッグ形態へと誘導体化されうる細胞毒性薬の具体例には前記の化学療法剤が含まれるが、それらに限定されるものではない。
「Her3受容体を発現する癌細胞の成長を抑制する抗体」または「成長抑制性」抗体は、Her3受容体を発現または過剰発現する癌細胞に結合し該癌細胞の測定可能な成長抑制をもたらす抗体である。インビボにおける腫瘍細胞の成長抑制は種々の方法で判定されうる。該抗体がインビボにおいて成長抑制性であると言えるのは、治療的有効量の該抗Her3抗体の投与が、該抗体の最初の投与からの測定可能な期間内に、腫瘍サイズまたは腫瘍細胞増殖の軽減をもたらす場合である。成長抑制は細胞培養において約0.1〜30μg/mlまたは約0.5nM〜200nMの抗体濃度で測定可能であり、この場合、該成長抑制は該抗体への該腫瘍細胞の曝露の1〜10日後に判定されうる。「Her3」に結合する抗体には、好ましくは、Her3に結合しHer2との二量体形成を妨げる抗体が含まれる。
「癌」、「新生物」および「癌性」なる語は、細胞のいずれかの悪性新生物または自発的成長もしくは増殖を意味し又は示す。本明細書中で用いるこれらの語は、完全に発生した悪性新生物および前悪性病変の両方を含む。例えば、「癌」を有する対象(被験者)は腫瘍を有しうる。
「Her3受容体発現癌」は、細胞表面上に存在するHer3受容体タンパク質を含有する細胞を含む癌である。「Her3受容体発現癌」は、その細胞の表面上で十分なレベルのHer3受容体を産生していて、Her3受容体アゴニスト/アンタゴニストまたは抗体がそれに結合し、癌に対して治療効果を及ぼす。Her3受容体を「過剰発現」する癌は、その細胞表面に、同じ組織型の非癌性細胞と比較して有意に高いレベルのHer3を含有する癌である。Her3受容体の過剰発現は、(例えば、免疫組織化学的アッセイ、FACS分析により)細胞の表面上に存在するHer3受容体タンパク質のレベルの増加を評価することにより、診断または予後決定アッセイにおいて測定されうる。その代わりに又はそれに加えて、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH;1998年10月に公開されたWO98/45479を参照されたい)、サザンブロット法、ノーザンブロット法またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、例えばリアルタイム定量PCR(RT−PCR)により、Her3受容体をコードする核酸またはmRNAの細胞内レベルを測定することが可能である。また、例えば、抗体に基づくアッセイを用いて、生物学的流体(例えば、血清)中の放出抗原を測定することにより、Her3受容体の過剰発現を調べることが可能である(例えば、1990年6月12日付け発行の米国特許第4,933,294号、1991年4月18日付け公開のWO91/05264、1995年3月28日付け発行の米国特許第5,401,638号、およびSiasら,J.Immunol.Methods 132:73−80(1990)も参照されたい)。前記アッセイのほかに、種々のインビボアッセイが当業者に利用可能である。例えば、患者の体内の細胞を、検出可能な標識(例えば、放射性同位体)で標識されていてもよい抗体にさらすことが可能であり、該患者における細胞への該抗体の結合を、例えば、放射活性に関する外的スキャニングにより、または該抗体に既にさらされた患者から採取された生検試料を分析することにより評価することが可能である。
「癌の軽減」は治療的処置および予防的手段の両方を意味し、ここで、その目的は対象病態または障害を予防または抑制(緩和)することである。軽減を要する者には、該障害を既に有する者、および該障害を有する傾向にある者、または該障害が予防されるべき者が含まれる。患者または哺乳動物がHer3受容体発現癌に関して「軽減」されたと言えるのは、本発明の方法に従いHer3受容体アゴニストの治療量が投与された後、該患者が以下の1以上の観察可能および/または測定可能な軽減(減少)または非存在を示す場合である:癌細胞の数の減少または癌細胞の非存在、腫瘍サイズの減少;周辺器官への癌細胞浸潤の抑制(すなわち、ある程度の減速、好ましくは阻止);腫瘍転移の抑制(すなわち、或る程度の減速、好ましくは阻止);腫瘍成長の或る程度の抑制;および/または特定の癌に関連した症状の1以上の或る程度の緩和、および死亡率および罹患率の減少。Her3受容体アンタゴニストまたは抗体が既存癌細胞の成長を妨げ、および/または既存癌細胞を殺すのであれば、それは静細胞性および/または細胞毒性でありうる。これらの徴候または症状の軽減は患者によっても感じられうる。例えば腫瘍負荷の軽減、腫瘍サイズの抑制、続発性腫瘍の増殖の軽減、腫瘍組織内の遺伝子の発現、生物マーカーの存在、リンパ節に対する影響、組織学的等級、核等級(これらに限定されるものではない)を含むこれらの前記指標の検出および測定は当業者に公知である。
「治療的有効量」なる語は、患者(対象)または哺乳動物における疾患または障害を「軽減」するのに有効な、アゴニストおよび/またはアンタゴニスト抗体の量を意味する。腫瘍の治療に関する「治療的有効量」は、以下の効果の1以上を誘発しうる量を意味する:(1)成長減速および完全な成長停止を含む、腫瘍成長の或る程度の抑制;(2)腫瘍細胞数の減少;(3)腫瘍サイズの減少;(4)周辺器官への腫瘍細胞浸潤の抑制(すなわち、軽減、減速または完全な停止);(5)転移の抑制(すなわち、軽減、減速または完全な停止);(6)腫瘍の退縮または拒絶をもたらしうる(それが必要なわけではない)抗腫瘍免疫応答の増強;および/または(7)該障害に関連した1以上の症状の或る程度の緩和。腫瘍の治療を目的としたHer3抗体の「治療的有効量」は実験的に又は常法により決定されうる。
「腫瘍体積の抑制」なる語は腫瘍体積のあらゆる減少または軽減を意味する。「腫瘍体積」なる語は、腫瘍自体および罹患リンパ節(適用可能な場合)を含む腫瘍の全サイズを意味する。腫瘍体積は当技術分野で公知の種々の方法により決定可能であり、例えば、カリパス、コンピュータ断層撮影(CT)または磁気共鳴撮像(MRI)スキャンを用いて腫瘍の寸法を測定し、例えばz軸直径または標準的形状(例えば、球、楕円体または立方体)に基づく式を用いて該体積を計算することにより決定されうる。
「生物学的に活性」(「生物活性」と同義である)なる語は、組成物または化合物自体が生物学的効果を有すること、あるいはそれが、生物学的効果を有する内因性分子の産生または活性を修飾し、引き起こし、促進し、増強し、遮断し、軽減し、抑制し、または該分子と反応し若しくは該分子に結合することを意味する。「生物学的効果」は、免疫反応応答を刺激し又は引き起こすもの、動物における生物学的過程に影響を及ぼすもの、病原体または寄生生物における生物学的過程に影響を及ぼすもの、検出可能なシグナルを生成し又は生成させるものなど(これらに限定されるものではない)でありうる。生物学的に活性な組成物、複合体または化合物は治療、予防および診断のための方法および組成物において使用されうる。生物学的に活性な組成物、複合体または化合物は、動物に対する所望の効果を引き起こし又は刺激するように作用する。所望の効果の非限定的な例には、例えば、疾患または病態に罹患した動物における疾患または病態の予防、治療または治癒;病原体に感染した動物における病原体の成長抑制または殺傷;動物の表現型または遺伝子型の増強または改変;および動物における予防的免疫反応応答の刺激が含まれる。
本発明の治療用途の場合、「生物学的に活性」なる語は、該組成物、複合体または化合物が、疾患または病態に罹患した動物に正の影響を及ぼす及び/又は病原体もしくは寄生生物に負の影響を及ぼす活性を有することを示す。したがって、生物学的に活性な組成物、複合体または化合物は、病原体または寄生生物の成長および/または維持に有害な、あるいは異常な成長または生化学的特性を有する動物の細胞、組織もしくは器官(例えば、癌細胞、または自己免疫もしくは炎症障害に罹患した細胞)の成長および/または維持に有害な、動物における生物学的または生化学的活性を引き起こし又は促進しうる。
本発明の予防用途の場合、「生物学的に活性」なる語は、該組成物または化合物が免疫反応応答を誘導または刺激することを示す。いくつかの実施形態においては、該免疫反応応答は、予防的である、すなわち、病原体による感染を予防すると意図される。他の実施形態においては、該免疫反応応答は、異常な成長または生化学的特性を有する癌細胞のような動物の細胞の有害物と動物の免疫系が反応するように意図される。本発明のこの用途においては、抗原を含む複合体または化合物がワクチンとして製剤化される。
与えられた組成物、複合体または化合物は治療、診断および予防用途において生物学的に活性でありうる、と当業者に理解されるであろう。「細胞において生物学的に活性」であると記載されている組成物、複合体または化合物はインビトロ(すなわち、細胞培養において)またはインビボ(すなわち、動物の細胞において)で生物活性を有するものである。化合物または複合体の「生物学的に活性な部分」は、該化合物または複合体から遊離した場合に生物学的に活性な、その部分である。しかし、そのような成分は、該化合物または複合体の場合にも生物学的に活性でありうることに注意すべきである。
生物学的効果を得るために、本発明の構築物は、標的細胞によるインターナリゼーションおよび/または取り込みを促進するための追加的部分を含みうる。
「患者」または「対象(被験者)」または「宿主」はヒトまたは非ヒト動物を意味する。
「治療」は治療処置および予防的手段の両方を意味する。治療を要する者には、障害を既に有する者、および障害が予防されるべき者が含まれる。治療の成功および疾患の改善を評価するための前記パラメーターは、医師によく知られた通常方法により容易に測定可能である。癌治療の場合、効力は、例えば、疾患の進行にかかる時間(TTP)を評価することにより、および/または応答率(RR)を決定することにより測定されうる。前立腺癌の場合、治療の進行は、通常の方法により、通常は、血清PSA(前立腺特異的抗原)レベルを測定することにより評価されうる。血中のPSAのレベルが高ければ高いほど、該癌はより広範囲である。PSAを検出するための市販アッセイ、例えば、Hybritech Tandem−E(登録商標)およびTandem−R(登録商標)PSAアッセイキット、Yang ProsCheck(登録商標)ポリクローナルアッセイ(Yang Labs,Bellevue,Wash.)、Abbott Imx(登録商標)(Abbott Labs,Abbott Park,Ill.)などが利用可能である。転移は、病期分類試験により、ならびに骨への広がりを判定するための骨スキャンおよびカルシウムレベルおよび他の酵素に関する試験により判定されうる。骨盤およびその領域内のリンパ節への広がりを調べるためにCTスキャンも行われうる。肺および肝臓への転移を調べるためには、それぞれ胸部X線および公知方法による肝酵素レベルの測定が用いられる。疾患をモニターするための他の通常の方法には、経直腸超音波検査法(TRUS)および経直腸針生検法(TRNB)が含まれる。
「医薬上許容される」なる語は、本明細書においては、妥当な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に対応して、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症を伴うことなくヒトおよび動物の組織と接触して使用されるのに適した化合物、物質、組成物および/または剤形を示すために用いられる。
Her3受容体への結合に加えてHer3受容体の「アンタゴニスト」はHer3受容体含有細胞に直接的な影響を及ぼす。Her3受容体アゴニストはHer3受容体に結合し、また、Her3受容体またはHer2/Her3二量体に関連したシグナリング事象を始動または媒介するであろう。Her3受容体の活性化を誘導する能力は、当技術分野で公知の技術、例えば受容体構築物、例えばベータ−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)またはルシフェラーゼを用いて定量されうる。Her3受容体アンタゴニストは、Her3受容体またはHer2/Her3二量体から伝達されるシグナリングを抑制し、あるいはHer2または別のEGFRファミリーメンバーとHer3が会合するのを妨げるであろう。
Her3受容体「アンタゴニスト」は、Her2/Her3二量体形成の遮断または受容体分解の刺激を含む種々のメカニズムによりHer3受容体から伝達されるシグナリングを抑制するであろう。「アンタゴニスト」なる語は広義で用いられ、天然Her3受容体タンパク質の生物活性を部分的または完全に遮断、抑制または中和する任意の分子を含む。
適当なアンタゴニスト分子には特に、アンタゴニスト抗体または抗体フラグメント、それらのフラグメントまたはアミノ酸配列変異体などが含まれる。Her受容体ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを特定するための方法は当技術分野で公知である。典型的方法は、Her3含有細胞または組織を候補アンタゴニスト分子と接触させ、Her3受容体に通常関連している1以上の生物活性における検出可能な変化を測定することを提示している。
治療目的での「哺乳動物(哺乳類)」は、ヒト、家畜および農場動物ならびに動物園、スポーツまたはペット動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含む、哺乳類として分類される任意の動物を意味する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
「投与」なる語は、医薬組成物または治療用物質(これらに限定されるものではない)を含む本発明の化合物の、対象の系内または対象の内部もしくは外面上の特定の領域への運搬のための任意の方法を含む。本明細書中で用いる「全身投与」、「全身に投与」、「末梢投与」および「末梢に投与」なる語は、中枢神経系内への直接投与以外の、化合物、薬物または他の物質の投与、例えば皮下投与を意味し、その結果、それは患者の系に進入して、代謝および他の同様の過程に付される。「非経口投与」および「非経口的に投与」は、経腸および局所投与以外の投与方法、通常は注射による投与を意味し、限定的なものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内および胸骨内注射および注入を含む。
1以上の他の治療用物質「と組合された」投与には、同時(併発)投与、および任意の順序での連続的投与が含まれる。
「モジュレーション」なる語は、シグナリング経路のレベルに影響(例えば、アップレギュレーション、ダウンレギュレーション、またはその他の制御)を及ぼすことを意味する。シグナル伝達の制御下の細胞経路には、特異的遺伝子の転写、正常細胞機能、例えば代謝、増殖、分化、接着、アポトーシスおよび生存、ならびに異常過程、例えばトランスフォーメーション、分化および転移の遮断が含まれるが、これらに限定されるものではない。
「障害」は、該ポリペプチドでの治療から利益を受けるであろう任意の状態である。これには、哺乳動物を問題の障害に罹りやすくする病態を含む、慢性および急性の障害または疾患が含まれる。
「慢性」投与は、初期治療効果(活性)を長期間にわたって維持するための、急性様態と対照的な連続的様態での該物質の投与を意味する。「断続的」投与は、中断無しで連続的に行われるのではなく、本質的に周期的である治療である。
「エフェクター」または「エフェクター部分」または「エフェクター成分」は、リンカーもしくは化学結合を介して共有的に、またはイオン結合、ファンデルワールス結合、静電的結合もしくは水素結合を介して非共有的に抗体に結合(または連結またはコンジュゲート化)した分子である。「エフェクター」は、例えば検出部分、例えば放射性化合物、蛍光化合物、酵素または基質、タグ、例えばエピトープタグ、毒素、活性化可能部分、化学療法または細胞毒性剤、化学誘引物質、リパーゼ;抗生物質;あるいは「硬」、例えばベータ線を放出する放射性同位体を含む種々の分子でありうる。
癌治療に対するADCアプローチにとって標的を魅力的なものにする同じ基準が抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)アプローチにも望ましい。ADCCアプローチにおいては、免疫エフェクター細胞(細胞傷害性Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、活性化マクロファージ)を腫瘍に呼び寄せるために、標的に対する裸抗体が使用される。ついで、これらのエフェクター細胞は該標的化腫瘍細胞を殺す。
本明細書中で用いる「生物学的サンプル」は、核酸またはポリペプチド、例えばHer3もしくはHer3タンパク質、ポリヌクレオチドまたは転写産物を含有する生物組織または細胞のサンプルである。そのようなサンプルには、霊長類(例えば、ヒト)またはげっ歯類(例えば。マウスおよびラット)から単離された組織が含まれるが、これらに限定されるものではない。生物学的サンプルには、組織の切片、例えば生検および剖検サンプル、組織学的目的で採取された凍結切片、皮膚なども含まれうる。生物学的サンプルには、外植片、ならびに患者の組織に由来する初代および/または形質転換細胞培養も含まれる。生物学的サンプルは、典型的には真核生物、最も好ましくは哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトから得られる。
「生物学的サンプルを準備(する)」は、本発明に記載されている方法で使用される生物学的サンプルを得ることを意味する。十中八九、これは、ヒトから細胞のサンプルを取り出すことにより行われるが、予め単離された(例えば、別人により、別の時点で、および/または別の目的で単離された)細胞を使用することによっても、あるいは本発明の方法をインビボで実施することによっても行われうる。
本明細書中で用いる「腫瘍」は、悪性であるか良性であるかには無関係に、全ての新生物細胞の成長および増殖、ならびに全ての前癌性および癌性の細胞および組織に関するものである。
「Her3」は、Her3受容体ファミリーの全メンバー、特にHer3およびHer3を含む。
Her3リガンドには、Jagged(ジャッジッド)1、Jagged2、Delta(デルタ)1、Delta3およびDelta4が含まれる。「Her3」のcDNAおよび推定アミノ酸配列は配列番号1および2に記載されている。
「標識」または「検出可能部分」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的または他の物理的手段により検出可能な組成物である。本明細書中で用いる「標識」なる語は、「標識」抗体を得るために抗体に直接的または間接的にコンジュゲート化(結合)される検出可能な化合物または組成物を意味する。該標識は、それ自体が検出可能でありうる(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)。あるいは、酵素標識の場合、該標識は、検出可能な基質化合物または組成物の化学変化を触媒しうる。例えば、有用な標識には、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般に使用されるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、金コロイド、発光性ナノ結晶(例えば、量子ドット)、ハプテンおよびタンパク質、または例えば放射能標識を該ペプチド内に取り込むことにより検出可能となりうる若しくは該ペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために使用されうる他の物質が含まれる。該放射性同位体は、例えば3H、14C、32P、35Sまたは125Iでありうる。特に本発明のタンパク質に対する抗体を使用する幾つかの場合には、後記のとおり、毒性部分として放射性同位体が使用される。該抗体を該標識にコンジュゲート化するための当技術分野で公知のいずれかの方法が用いられうる。放射能標識ペプチドまたは放射能標識抗体組成物の寿命は、放射能標識ペプチドまたは抗体を安定化しその分解を防ぐ物質の添加により延長されうる。米国特許第5,961,955号に開示されている物質を含む、放射能標識抗体を安定化するいずれかの物質または物質の組合せが使用されうる。
過去数年間に、腫瘍細胞表面上で過剰発現されるEGFRまたはHer2/neuのような増殖因子受容体の、それぞれヒト化(Hercetin(商標))またはキメラ(C225)抗体での標的化は、患者上の腫瘍成長の有意な抑制および古典的な化学療法の効力の有意な増強をもたらすことが示されている(Carter P.,Nature Rev.Cancer,2001,1(2):118;Hortobagyi G.N.,Semin.Oncol.,2001,28:43;Herbst R.S.ら,Semin.Oncol,2002,29:27)。IGF−IRまたはVEGF−R(血管内皮増殖因子受容体を表す)のような他の受容体が幾つかの前臨床研究において潜在的標的として特定されている。
キメラ、ヒト化およびヒト抗Her3抗体の製造
本発明におけるモノクローナル抗体には、関心のある抗体の可変(超可変を含む)ドメインを定常ドメイン(例えば、「ヒト化」抗体)と、または軽鎖を重鎖と、または1つの種からの鎖を別の種からの鎖とスプライシングすることにより産生されるキメラ、ハイブリッドおよび組換え抗体、あるいは由来種または免疫グロブリンクラスもしくはサブクラスに無関係な異種タンパク質との融合体、ならびに抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2およびFv)(ただし、それらは所望の生物活性または特性を示すものでなければならない)が含まれる。例えば、米国特許第4,816,567号およびMageら,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.79−97(Marcel Dekker,Inc.:New York,1987)を参照されたい。したがって、キメラHer3抗体を得る目的においては、本明細書に開示されているマウス抗体からのCDRはヒト「Y」フレームワーク上にグラフト化されうる。得られた「キメラ」Her3抗体は今度は、当業者に公知の技術によりヒト化されうる。キメラ、ヒト化またはヒト抗Her3抗体のアフィニティーは、後記で例示されるとおり、直接結合アッセイまたは競合結合アッセイを用いて評価されうる。
抗体構造
天然に存在する(野生型)抗体分子は、ジスルフィド結合により互いに共有結合している4つのポリペプチド鎖(2つの同一重鎖および2つの同一軽鎖)からなるY形分子である。どちらのタイプのポリペプチド鎖も定常領域[これは同一クラス(すなわち、IgA、IgMなど)の抗体間で可変性ではなく、あるいは最低限度で可変性である]および可変領域を有する。可変領域は個々の抗体に特有であり、エピトープに対する認識要素を含む。重鎖および軽鎖の両方のカルボキシ末端領域は配列において保存されており、定常領域(Cドメインとしても公知)と称される。アミノ末端領域(Vドメインとしても公知)は配列において可変性であり、抗体特異性をもたらす。抗体は、そのVドメインに位置する6つの短い相補性決定領域(CDR)により抗原を特異的に認識し、それに結合する。
抗体の各軽鎖は1つの重鎖と結合しており、それらの2つの鎖は、抗原結合ドメインの部分を構成する各鎖のアミノ末端領域から遠位にある各鎖のカルボキシ末端領域内のシステイン残基間で形成されるジスルフィド架橋により連結されている。抗体分子は更に、重鎖と軽鎖との間のジスルフィド架橋が作られている位置より重鎖のカルボキシ末端に近い位置におけるヒンジ領域として公知の領域内の2つの重鎖間のジスルフィド架橋により安定化されている。ヒンジ領域は抗体の抗原結合部分に柔軟性をも付与する。
抗体の特異性は、軽鎖および重鎖のアミノ末端領域に位置する可変領域により決定される。軽鎖および結合重鎖の可変領域は、特異的エピトープを認識する「抗原結合ドメイン」を形成する。したがって、抗体は2つの抗原結合ドメインを有する。野生型抗体における抗原結合ドメインは免疫原性タンパク質の同一エピトープに対するものであり、したがって単一の野生型抗体は該免疫原性タンパク質の2つの分子に結合しうる。したがって、野生型抗体は単一特異性(すなわち、唯一の抗原に対するもの)かつ2価(すなわち、2つの抗原分子に結合しうる)である。
抗体のタイプ
「ポリクローナル抗体」は、多数のエピトープを有するタンパク質に対する免疫原性応答において産生される。したがって、ポリクローナル抗体の組成物(例えば、血清)は、該タンパク質内の同じ及び異なるエピトープに対する種々の異なる抗体を含む。ポリクローナル抗体の製造方法は当技術分野で公知である(例えば、Cooperら,Chapter 11のSection III:Short Protocols in Molecular Biology,2nd Ed.,Ausubelら編,John Wiley and Sons,New York,1992,p.11−37から11−41を参照されたい)。
「抗ペプチド抗体」(「単一特異性抗体」としても公知)は、それが由来するタンパク質の少数(好ましくは1個)の単離されたエピトープに対応する短い(典型的には5〜20アミノ酸)の免疫原性ポリペプチドに対する体液性応答において産生される。多数の抗ペプチド抗体は、該タンパク質の特定の部分に対する、すなわち、少なくとも1つ、好ましくは唯一のエピトープを含有するアミノ酸配列に対する種々の異なる抗体を含む。抗ペプチド抗体の製造方法は当技術分野で公知である(例えば、Cooperら,Chapter 11のSection III:Short Protocols in Molecular Biology,2nd Ed.,Ausubelら編,John Wiley and Sons,New York,1992,p.11−42から11−46を参照されたい)。
「モノクローナル抗体」は、免疫原性タンパク質の単一の特異的エピトープを認識する特異的抗体である。複数のモノクローナル抗体においては、各抗体分子はそれらの複数の該抗体のその他のものと同一である。モノクローナル抗体を単離するためには、まず、特定のモノクローナル抗体を発現、提示および/または分泌するクローン細胞系を特定し、このクローン細胞系を、本発明の抗体を製造する1つの方法において使用することが可能である。クローン細胞系の製造方法、およびそれにより発現されるモノクローナル抗体の製造方法は当技術分野で公知である(例えば、Fullerら,Chapter 11のSection III:Short Protocols in Molecular Biology,2nd Ed.,Ausubelら編,John Wiley and Sons,New York,1992,p.11−42から11−11−36を参照されたい)。
「裸抗体」は、野生型抗体分子のFc部分を欠く抗体である。抗体分子のFc部分は、細胞溶解を引き起こしうるメカニズムを作用させる、補体結合およびADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害)のようなエフェクター機能を付与する。例えば、Markrides,Therapeutic inhibition of the complement system,Pharmacol.Rev.50:59−87,1998を参照されたい。いくつかの系では、抗体の治療作用はFc領域のエフェクター機能に左右されるらしい(例えば、Golayら,Biologic response of B lymphoma cells to anti−CD20 monoclonal antibody rituximab in vitro: CD55 and CD59 regulate complement−mediated cell lysis,Blood 95:3900−3908,2000を参照されたい)。
しかし、Fc部分は、治療機能に全ての場合に要求されるわけではない可能性がある。なぜなら、アポトーシスのような他のメカニズムが作用することがあるからである。さらに、Fc領域を含む抗体はFc受容体含有細胞により取り込まれ、それにより、標的化細胞により取り込まれる治療用抗体の量を減少させるため、用途によってはFc領域は有害となりうる。VaswaniおよびHamilton,Humanized antibodies as potential therapeutic drugs,Ann.Allergy Asthma Immunol.81:105−119,1998。免疫系の成分は、腫瘍細胞の表面上に凝集した抗体を認識し、該抗体と反応する。したがって、生じる免疫応答は腫瘍細胞を標的化し、破壊し、または少なくともその増殖を抑制すると予想される。
裸抗体を、それらが凝集する表面へ運搬するための1つの方法は、標的化可能な構築物または複合体を使用して、標的化細胞表面上で種々の裸抗体を集合させることである。非限定的な一例として、抗C20抗体(例えば、Rituxan)および抗C22抗体を別々または一緒に投与して、未結合抗体を系から除去することが可能であろう。
裸抗体は、マラリアのような寄生生物により引き起こされる疾患の治療の場合にも興味深いものである(Vukovicら,Immunoglobulin G3 antibodies specific for the 19−kilodalton carboxyl−terminal fragment of Plasmodium yoelii merozoite surface protein 1 transfer protection to mice deficient in Fc−PI receptors,Infect.Immun.68:3019−22,2000)。
「一本鎖抗体(scFv)」は、一般に、エフェクター機能に関与する抗体Fc領域を含まず、したがって、裸抗体である。尤も、必要に応じて公知scFv分子にFc領域を付加するための方法は公知である。Helfrichら,A rapid and versatile method for harnessing scFv antibody fragments with various biological functions,J.Immunol.Meth.237:131−145,2000;およびde Haardら,Creating and engineering human antibodies for immunotherapy,Adv.Drug Delivery Rev.31:5−31,1998を参照されたい。
抗体フラグメント
タンパク質分解抗体フラグメント
野生型抗体の限定タンパク質分解により産生される抗体フラグメントはタンパク質分解抗体フラグメントと称される。これらには以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない。
「F(ab’)2フラグメント」は、タンパク質分解酵素、例えばペプシンまたはフィシンへの抗体の限定的曝露により抗体から遊離される。F(ab’)2フラグメントは2つの「アーム(arm)」を含み、それらのそれぞれは、共通の抗原に対するものであり共通の抗原に特異的に結合する可変領域を含む。2つのFab’分子は重鎖のヒンジ領域内の鎖間ジスルフィド結合により連結され、Fab’分子は、同じ(2価)または異なる(二重特異性)エピトープに対するものでありうる。
「Fab’フラグメント」は、Fabとヒンジ領域までの重鎖の追加的部分とを含む単一の抗結合ドメインを含有する。
「Fab’−SHフラグメント」は、典型的には、F(ab’)2フラグメント内のH鎖間のジスルフィド結合により連結されているF(ab’)2フラグメントから産生される。緩和な還元剤(非限定的な例としてはベータ−メルカプトエチルアミンが挙げられる)での処理は該ジスルフィド結合を切断し、1つのF(ab’)2フラグメントから2つのFab’フラグメントが遊離される。Fab’−SHフラグメントは1価かつ単一特異性である。
「Fabフラグメント」(すなわち、抗原結合ドメインを含有し、ジスルフィド結合により架橋された軽鎖と重鎖部分とを含む抗体フラグメント)は完全抗体のパパイン消化により産生される。簡便な方法は、酵素が容易に除去され消化が終結されうるように樹脂上に固定化されたパパインを使用することである。Fabフラグメントは、F(ab’)2フラグメントには存在するH鎖間のジスルフィド結合を有さない。
組換え抗体フラグメント
「一本鎖抗体」は抗体フラグメントの一種である。一本鎖抗体なる語は、しばしは、「scFv」または「sFv」と略される。これらの抗体フラグメントは、分子遺伝学および組換えDNA技術を用いて製造される。一本鎖抗体は、VHおよびVL部分の両方を含むポリペプチド鎖からなる。2つの別々の重ポリペプチド鎖と軽ポリペプチド鎖とが結合して単一の抗原結合可変領域を形成している野生型抗体とは異なり、一本鎖抗体は、抗原結合可変領域を含む単一ポリペプチドである。すなわち、一本鎖抗体は、10〜25アミノ酸の鎖により互いに連結された抗体の単一の軽および重鎖の可変性抗原結合決定領域を含む。
「一本鎖抗体」なる語は、2つの一本鎖抗体ジスルフィド結合により互いに結合したジスルフィド結合Fv(dsFv);二重特異性sFv(それぞれが別々のエピトープに対するものでありうる2つの抗原結合ドメインを有するsFvまたはdsFv分子);ジアボディ(第1のsFvのVHドメインが第2のscFvのVLドメインと合体し、第1のsFvのVLドメインが第2のscFvのVHドメインと合体した場合に形成される二量体化sFv;ジアボディの2つの抗原結合領域は、同じ又は異なるエピトープに対するものでありうる);およびトリアボディ(ジアボディに類似した様態で形成される三量体化sFvであるが、この場合は、3つの抗原結合ドメインが単一の複合体において生成される;それらの3つの抗原結合ドメインは、同じ又は異なるエピトープに対するものでありうる)を含むが、これに限定されるものではない。
「完全ヒト抗体」は、ゼノマウスのようなトランスジェニック動物において産生されうるヒト抗体である。ゼノマウス(XenoMouse)系統は、マウスIgHおよびIgk遺伝子座が酵母人工YACトランスジーン上でそれらのヒトIg対応物により機能的に置換された遺伝的に操作されたマウスである。これらのヒトIgトランスジーンはヒト可変性レパトワの大多数を含有することが可能であり、IgMイソタイプからIgGイソタイプへのクラススイッチを受けうる。ゼノマウスの免疫系は、投与されたヒト抗原を異物として認識し、強力な体液性応答を生成する。十分に確立されたハイブリドーマ技術とゼノマウスとの併用は、ヒト抗原に対するナノモル未満のアフィニティーを有する完全ヒトIgG mAbを与える(発明の名称“Transgenic non−human animals capable of producing heterologous antibodies”の米国特許第5,770,429号;発明の名称“Generation of xenogenetic antibodies”の米国特許第6,162,963号;発明の名称“Human antibodies derived from immunized xenomice”の米国特許第6,150,584号;発明の名称“Generation of xenogeneic antibodies”の米国特許第6,114,598号;および発明の名称“Human antibodies derived from immunized xenomice”の米国特許第6,075,181号を参照されたい;総説としては、Green,Antibody engineering via genetic engineering of the mouse:XenoMouse strains are a vehicle for the facile generation of therapeutic human monoclonal antibodies,J.Immunol.Meth.231:11−23,1999;Wells,Eek,a XenoMouse:Abgenix,Inc.,Chem.Biol.7:R185−6,2000;およびDavisら,Transgenic mice as a source of filly human antibodies for the treatment of cancer,Cancer Metastasis Rev.18:421−5,1999を参照されたい)。
「相補性決定領域ペプチド」または「CDRペプチド」はもう1つの形態の抗体フラグメントである。CDRペプチド(「最小認識単位」としても公知)は、単一の相補性決定領域(CDR)に対応するペプチドであり、関心のある抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することにより製造されうる。そのような遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためにポリメラーゼ連鎖反応を用いることにより製造されうる。例えば、Larrickら,Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:106,1991を参照されたい。
本発明の組成物およびその製造方法
本発明は、複数の実質的に純粋な単離された抗Her3単離抗体およびポリヌクレオチド実施形態を含む。抗Her3抗体および抗Her3抗体をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む医薬組成物を包含する組成物が明示的に含まれる。本明細書中で用いる組成物は、Her3に結合する1以上の抗体、および/またはHer3に結合する1以上の抗体をコードする配列を含む1以上のポリヌクレオチドを含む。これらの組成物は更に、当技術分野でよく知られた適当な担体、例えば医薬上許容される賦形剤、例えばバッファーを含みうる。
本発明の抗Her3抗体は、好ましくはモノクローナルである。本発明で提供する抗Her3抗体のFab、Fab’、Fab’−SHおよびF(ab’)2フラグメントも本発明の範囲内に含まれる。一本鎖抗Her3抗体ならびに多重特異性および多価Her3特異的抗体も含まれる。これらの抗体フラグメントは酵素的消化のような通常の手段により作製可能であり、あるいは組換え技術により作製可能である。これらのフラグメントは、後記の診断目的および治療目的に有用である。
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られる。すなわち、該集団を構成する個々の抗体は、僅かな量で存在しうる天然で生じる考えられうる突然変異以外は同一である。したがって、修飾語「モノクローナル」は、異なる抗体の混合物ではない、該抗体の特性を示す。
本発明の抗Her3モノクローナル抗体は、好ましくは、組換えDNA法により製造される(米国特許第4,816,567号)。
組換え手段により製造されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降またはインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)により決定される。
該モノクローナル抗体の結合アフィニティーは、例えば、Munsonら,Anal.Biochem.,107:220(1980)のスキャッチャード分析により決定されうる。
本発明の抗Her3抗体は、所望の活性を有する合成抗体クローンをスクリーニングするために組合せライブラリーを使用することにより製造されうる。原則として、合成抗体クローンは、ファージコートタンパク質に融合した抗体可変領域(Fv)の種々のフラグメントを提示するファージを含有するファージライブラリーをスクリーニングすることにより選択される。そのようなファージライブラリーは、所望の抗原に対するアフィニティークロマトグラフィーによりパンニングされる。所望の抗原に結合しうるFvフラグメントを発現するクローンは該抗原に吸着され、したがって該ライブラリー内の非結合性クローンから分離される。ついで該結合性クローンは該抗原から溶出され、抗原吸着/溶出の追加的サイクルにより更に富化されうる。関心のあるファージクローンを選択するための適当な抗原スクリーニング法を設計し、ついで、関心のあるファージクローンからのFv配列およびKabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91−3242,Bethesda Md.(1991),vols.1−3に記載されている適当な定常領域(Fc)配列を使用して完全長抗Her3抗体クローンを構築することにより、本発明の任意の抗Her3抗体が得られうる。
抗体の抗原結合ドメインは、3つの超可変ループまたは相補性決定領域(CDR)を両方が有する約110アミノ酸の2つの可変(V)領域(それぞれは軽鎖(VL)および重鎖(VH)からのもの)から形成される。Winterら,Ann.Rev.Immunol.,12:433−455(1994)に記載されているとおり、可変ドメインは、一本鎖Fv(scFv)フラグメント(この場合、VHおよびVLは、短い柔軟なペプチドを介して共有結合している)またはFabフラグメント(この場合、それらのそれぞれは定常ドメインに融合して、非共有結合的に相互作用する)として、ファージ上で機能的に提示されうる。本明細書中で用いるscFvコード化ファージクローンおよびFabコード化ファージクローンは「Fvファージクローン」または「Fvクローン」と総称される。
VHおよびVL遺伝子のレパトワは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により別々にクローニングされ、ファージライブラリーにおいてランダムに組換えられることが可能であり、ついで該ライブラリーは、Winterら,Ann.Rev.Immunol,12:433−455(1994)に記載されているとおり、抗原結合クローンに関して探索されうる。免疫化源からのライブラリーは、ハイブリドーマの構築を要することなく、免疫原に対する高アフィニティー抗体を与える。あるいは、Griffithsら,EMBO J.12:725−734(1993)に記載されているとおり、免疫化を何ら行わずに、天然レパトワをクローニングして、多様な非自己抗原、そしてまた、自己抗原に対する単一のヒト抗体源を得ることが可能である。最後に、HoogenboomおよびWinter,J.Mol.Biol,227:381−388(1992)に記載されているとおり、幹細胞から未再編成V遺伝子セグメントをクローニングし、高可変性CDR3領域をコードするように及びインビトロで再編成を達成するようにランダム配列を含有するPCRプライマーを使用することにより、天然ライブラリーを合成的に製造することも可能である。
副次的コートタンパク質pIIIへの融合により抗体フラグメントを提示させるために、繊維状ファージが使用される。該抗体フラグメントは、例えばMarksら,J.Mol.Biol,222:581−597(1991)に記載されているとおり、柔軟なポリペプチドスペーサーによりVHおよびVLドメインが同一ポリペプチド鎖上で連結されている一本鎖Fvフラグメントとして、あるいは、Hoogenboomら,Nucl.Acids Res.,19:4133−4137(1991)に記載されているとおり、Fabフラグメントとして提示されうる。
一般に、抗体遺伝子フラグメントをコードする核酸は、ヒトから集められた免疫細胞から得られる。抗Her3クローンを優先するように偏向したライブラリーが望ましい場合には、Her3で対象を免疫化して抗体応答を生成させ、脾臓細胞および/または循環B細胞もしくは他の末梢血リンパ球(PBL)細胞をライブラリー構築のために回収する。もう1つの実施形態においては、Her3に対するヒト抗体を産生するB細胞をHer3免疫化が与えるように、機能性ヒト免疫グロブリン遺伝子アレイを含有する(そして機能性内因性抗体産生系を欠く)トランスジェニックマウスにおいて抗Her3抗体応答を生成させることにより、抗Her3クローンを優先するように偏向したヒト抗体遺伝子フラグメントライブラリーが得られる。ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスの作製は後記に記載されている。
抗Her3反応性細胞集団に関する追加的富化は、例えば、Her3アフィニティークロマトグラフィーまたは蛍光色素標識Her3への細胞の吸着およびそれに続く流動活性化細胞分取(FACS)での細胞分離により、Her3特異的膜結合抗体を発現するB細胞を単離するための適当なスクリーニング法を用いて得られうる。
あるいは、未免疫化ドナーからの脾臓細胞および/またはB細胞もしくは他のPBLの使用は、可能な抗体レパトワの、より良好な代表例を与え、また、Her3が抗原性ではないいずれかの動物(ヒトまたは非ヒト)種を使用する抗体ライブラリーの構築を可能にする。インビトロ抗体遺伝子構築を含むライブラリーの場合、未再編成抗体遺伝子セグメントをコードする核酸を得るために対象から幹細胞を集める。種々の動物種、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ目動物、オオカミ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマおよびトリ種などから、関心のある免疫細胞が得られうる。
抗体可変遺伝子セグメント(VHおよびVLセグメントを含む)をコードする核酸を、関心のある細胞から回収し、増幅する。再編成VHおよびVL遺伝子ライブラリーの場合、リンパ球からゲノムDNAまたはmRNAを単離し、ついで、再編成VHおよびVL遺伝子の5’および3’末端に合致したプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い(Orlandiら,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),86:3833−3837(1989)に記載されているとおり)、それにより、発現のための多様なV遺伝子レパトワを作製することにより、所望のDNAが得られうる。Orlandiら(1989)およびWardら,Nature,341:544−546(1989)に記載されているとおり、成熟V−ドメインをコードするエキソンの5’末端におけるバックプライマー、およびJ−セグメント内に基づくフォワードプライマーを使用して、cDNAおよびゲノムDNAから該V遺伝子が増幅可能である。しかし、cDNAからの増幅の場合には、バックプライマーは、Jonesら,Biotechnol.,9:88−89(1991)に記載されているとおりのリーダーエキソンに基づくものであることも可能であり、フォワードプライマーは、Sastryら,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),86:5728−5732(1989)に記載されているとおりの定常領域内に基づくものであることも可能である。相補性を最大にするためには、Orlandiら(1989)またはSastryら(1989)に記載されているとおり、プライマー内に縮重が導入されうる。好ましくは、例えば、Marksら,J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)の方法に記載されているとおり、あるいはOrumら,Nucleic Acids Res.,21:4491−4498(1993)の方法に記載されているとおり、免疫細胞核酸サンプルに存在する全ての利用可能なVHおよびVL配置を増幅するためには、各V遺伝子ファミリーに標的化されるPCRプライマーを使用することにより、ライブラリー多様性は最大となる。発現ベクター内への増幅DNAのクローニングの場合、Clacksonら,Nature,352:624−628(1991)に記載されているとおりのタグ付きプライマーを使用する更なるPCR増幅により、あるいはOrlandiら(1989)に記載されているとおり、一方の末端におけるタグとしてPCRプライマー内に希有制限部位が導入されうる。
合成的に再編成されたV遺伝子レパトワはV遺伝子セグメントからインビトロで誘導されうる。ヒトVH遺伝子セグメントのほとんどはクローニングされ、配列決定され(Tomlinsonら,J.Mol.Biol.,227:776−798(1992)に報告されている)、マッピングされている(Matsudaら,Nature Genet.,3:88−94(1993)に報告されている)。これらのクローン化セグメント(H1およびH2ループの主要コンホメーションの全てを含む)は、HoogenboomおよびWinter,J.Mol.Biol,227:381−388(1992)に記載されているとおり、多様な配列および長さのH3ループをコードするPCRプライマーを使用して多様なVH遺伝子レパトワを作製するために使用されうる。Barbasら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4457−4461(1992)に記載されているとおり、VHレパトワは、配列多様性の全てを単一の長さの長いH3ループに集中させることによっても作製されうる。ヒトV.カッパおよびV.ラムダセグメントはクローニングされ、配列決定されており(WilliamsおよびWinter,Eur.J.Immunol,23:1456−1461(1993)に報告されている)、合成軽鎖レパトワを作製するために使用されうる。ある範囲のVHおよびVLフォールドならびにL3およびH3の長さに基づく合成V遺伝子レパトワは相当な構造的多様性の抗体をコードしているであろう。V遺伝子をコードするDNAの増幅の後、生殖系列V遺伝子セグメントは、HoogenboomおよびWinter,J.Mol.Biol,227:381−388(1992)の方法に従いインビトロで再編成されうる。
抗体フラグメントのレパトワは、いくつかの方法でVHおよびVL遺伝子レパトワを互いに組合せることにより構築されうる。各レパトワは種々のベクターにおいて作製されることが可能であり、該ベクターは、例えばHogrefeら,Gene,128:119−126(1993)に記載されているとおりインビトロで、あるいは例えばWaterhouseら,Nucl.Acids Res.,21:2265−2266(1993)に記載されているloxP系のような組合せ感染によりインビボで組換えられうる。該インビボ組換えアプローチは、大腸菌(E.coli)形質転換効率により課されるライブラリーサイズに対する制限を克服するためにFabフラグメントの二本鎖の性質を利用する。天然VHおよびVLレパトワは、一方はファジミド内へ、他方はファージベクター内へ、別々にクローニングされる。ついでそれらの2つのライブラリーはファジミド含有細菌のファージ感染により組合され、それにより、各細胞は異なる組合せを含有し、ライブラリーサイズは、存在する細胞の数(約1012クローン)のみにより制限される。VHおよびVL遺伝子が単一レプリコン上へ組換えられ、ファージビリオン内に共パッケージングされるように、両ベクターはインビボ組換えシグナルを含有する。これらの巨大なライブラリーは、良好なアフィニティー(約10−8MのKd−1)の多数の多様な抗体を与える。
あるいは、該レパトワは、例えばBarbasら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:7978−7982(1991)に記載されているとおり、同一ベクター内に連続的にクローニングされることが可能であり、あるいは、例えば、Clacksonら,Nature,352:624−628(1991)に記載されているとおり、PCRにより構築され、ついでクローニングされることが可能である。柔軟なペプチドスペーサーをコードするDNAにVHおよびVL DNAを連結して一本鎖Fv(scFv)レパトワを得るためにも、PCR構築が用いられうる。さらにもう1つの技術においては、PCRによりリンパ球内のVHおよびVL遺伝子を組合せ、ついで連結遺伝子のレパトワをクローニングするために(Embletonら,Nucl.Acids Res.,20:3831−3837(1992)に記載されているとおり)、「細胞内PCR構築(in cell PCR assembly)」が用いられる。
天然ライブラリー(天然物または合成物)により製造される抗体は適度なアフィニティー(約106〜107 M−1のKd−1)のものでありうるが、Winterら,(1994)に記載されているとおり、二次ライブラリーを構築し、それから再選択することにより、親和性(アフィニティー)成熟がインビトロで模擬されうる。例えば、Hawkinsら,J.Mol.Biol.,226:889−896(1992)の方法またはGramら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:3576−3580(1992)の方法においてエラー頻発型ポリメラーゼ(Leungら,Technique,1:11−15(1989)に報告されている)を使用することにより、突然変異がインビトロでランダムに導入されうる。また、選択された個々のFvクローンにおいて、例えば、関心のあるCDRを含むランダム配列を含有するプライマーと共にPCRを用いて、1以上のCDRをランダムに突然変異させ、より高いアフィニティーのクローンに関してスクリーニングすることにより、親和性(アフィニティー)成熟が行われうる。WO 9607754(1996年3月14日付け公開)は、軽鎖遺伝子のライブラリーを作製するために免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域において突然変異誘発を誘発するための方法を記載している。もう1つの有効なアプローチは、ファージディスプレイにより選択されたVHまたはVLドメインを、未免疫化ドナーから得られた天然に存在するVドメイン変異体のレパトワと組換え、幾つかのラウンドの鎖リシャッフリングにおいて、より高いアフィニティーに関してスクリーニングすることである(Marksら,Biotechnol.,10:779−783(1992)に記載されているとおり)。この技術は、10−9Mの範囲のアフィニティーを有する抗体および抗体フラグメントの製造を可能にする。
Her3核酸およびアミノ酸配列は当技術分野で公知である。Her3の代表的核酸およびアミノ酸配列はそれぞれ配列番号1および2に詳細に記載されている。Her3をコードする核酸配列は、Her3の所望の領域のアミノ酸配列を使用して設計されうる。あるいは、GenBankアクセッション番号NM−−019074のcDNA配列(またはそのフラグメント)。Her3は膜貫通タンパク質である。その細胞外領域は36個のEGF様反復配列と、全てのHer3リガンドにおいて保存されており受容体結合に必要なDSLドメインとを含有する。推定タンパク質はまた、膜貫通領域と、いずれかの触媒モチーフを欠く細胞質尾部とを含有する。ヒトHer3タンパク質は685アミノ酸のタンパク質である。ヒトHer3のアクセッション番号はNM−−019074である。Sarah J.Bray,“Her3 signaling:a simple pathway becomes complex”Nature Reviews Molecular Cell Biology,7:678−689(2006)(その全内容を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
Her3をコードするDNAは、当技術分野で公知の種々の方法により製造されうる。これらの方法には、Engelsら,Agnew.Chem.Int Ed.Engl.,28:716−734(1989)に記載されている方法、例えばトリエステル、ホスフィット、ホスホルアミジットおよびH−ホスホナート法のいずれかによる化学合成が含まれるが、これらに限定されるものではない。1つの実施形態においては、発現宿主細胞にとって好ましいコドンがHer3コード化DNAの設計において用いられる。あるいは、Her3をコードするDNAはゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーから単離されうる。
Her3をコードするDNA分子の構築の後、該DNA分子はプラスミドのような発現ベクター内の発現制御配列に機能的に連結され、ここで、該制御配列は、該ベクターで形質転換される宿主細胞により認識される。一般に、プラスミドベクターは、宿主細胞に和合性の種に由来する複製および制御配列を含有する。該ベクターは通常、複製部位と、形質転換細胞において表現型選択をもたらすタンパク質をコードする配列とを含有する。原核生物および真核生物宿主細胞における発現のための適当なベクターは当技術分野で公知であり、いくつかは本明細書に更に詳細に記載されている。酵母のような真核生物、または哺乳動物のような多細胞生物に由来する細胞が使用されうる。
場合によっては、Her3をコードするDNAは、宿主細胞による発現産物の培地内分泌をもたらす分泌リーダー配列に機能的に連結される。分泌リーダー配列の具体例には、stII、ecotin(エコチン)、lamB、herpes(ヘルペス)GD、lpp、アルカリホスファターゼ、インベルターゼおよびアルファ因子が含まれる。また、プロテインAの36アミノ酸リーダー配列も本発明での使用に適している(Abrahmsenら,EMBO J.,4:3901(1985))。
宿主細胞は、本発明の前記発現またはクローニングベクターでトランスフェクトされ、好ましくは形質転換され、適宜、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために、通常の栄養培地内で培養される。
トランスフェクションは、いずれかのコード配列が実際に発現されるかどうかには無関係に、宿主細胞による発現ベクターの取り込みを意味する。多数のトランスフェクション方法、例えばCaPO4沈殿およびエレクトロポレーションが当業者に公知である。このベクターの操作のいずれかの徴候が宿主細胞内で生じた場合に、一般にトランスフェクションの成功が認められる。トランスフェクションのための方法は当技術分野でよく知られており、いくつかは本明細書に更に詳細に記載されている。
形質転換は、染色体外要素として又は染色体組込みによりDNAが複製可能となるように生物内にDNAを導入することを意味する。使用される宿主細胞に応じて、そのような細胞に適した標準的な技術を用いて、形質転換は行われる。形質転換のための方法は当技術分野でよく知られており、いくつかは本明細書に更に詳細に記載されている。
Her3を製造するために使用される原核生物宿主細胞は、一般にはSambrookら(前掲)に記載されているとおりに培養されうる。
Her3を製造するために使用される哺乳類宿主細胞は、当技術分野でよく知られた種々の培地内で培養可能であり、それらのうちの幾つかは本明細書に記載されている。
本開示において言及されている宿主細胞は、インビトロ培養内の細胞、および宿主動物内の細胞を含む。
Her3の精製は、当技術分野で認識されている方法を用いて達成可能であり、それらのうちの幾つかは本明細書に記載されている。
精製Her3は、ファージディスプレイクローンのアフィニティークロマトグラフィー分離における使用のために、適当なマトリックス、例えばアガロースビーズ、アクリルアミドビーズ、ガラスビーズ、セルロース、種々のアクリル酸共重合体、ヒドロキシルメタクリラートゲル、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸共重合体、ナイロン、中性およびイオン性担体などに結合されうる。該マトリックスへのHer3タンパク質の結合は、Methods in Enzymology,vol.44(1976)に記載されている方法により達成されうる。タンパク質リガンドを多糖マトリックス、例えばアガロース、デキストランまたはセルロースに結合させるための一般に用いられる技術は、ハロゲン化シアンでの担体の活性化、およびそれに続く、該活性化マトリックスへのペプチドリガンドの第一級脂肪族または芳香族アミンのカップリングを含む。
あるいは、Her3は、吸着プレートに付着された宿主細胞上で発現され吸着プレートのウェルを被覆(コーティング)するために使用可能であり、あるいは細胞分取において使用可能であり、あるいはストレプトアビジン被覆ビーズでの捕捉のためにビオチンに結合されることが可能であり、あるいはファージディスプレイライブラリーをパンニンングするための当技術分野で公知のいずれかの他の方法において使用されうる。
吸着剤へのファージ粒子の少なくとも一部の結合に適した条件下、該ファージライブラリーサンプルを固定化Her3と接触させる。通常、pH、イオン強度、温度などを含む該条件は、生理的条件を模擬するように選択される。固相に結合したファージは洗浄され、ついで、例えばBarbasら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:7978−7982(1991)に記載されているとおり酸により、または例えばMarksら,J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)に記載されているとおりアルカリにより、またはClacksonら,Nature,352:624−628(1991)の抗原競合法に類似した方法でHer3抗原競合により溶出される。ファージは単一ラウンドの選択で20〜1,000倍富化されうる。さらに、該富化ファージは細菌培養内で増殖され、更なるラウンドの選択に付されうる。
選択の効率は、洗浄中の解離の速度論、および単一ファージ上の複数の抗体フラグメントが同時に抗原に結合しうるかどうかを含む多数の要因に左右される。速い解離速度論(および弱い結合アフィニティー)を有する抗体は、短い洗浄、多価ファージディスプレイ、および固相における抗原の高い被覆密度の利用により維持されうる。該高密度は多価相互作用により該ファージを安定化するだけでなく、解離したファージの再結合をも促しうる。遅い解離速度論(および良好な結合アフィニティー)を有する抗体の選択は、Bassら,Proteins,8:309−314(1990)およびWO 92/09690に記載されているとおり、長い洗浄および多価ファージディスプレイの利用により、そしてMarksら,Biotechnol.,10:779−783(1992)に記載されているとおり、抗原の低い被覆密度の利用により促進されうる。
Her3に対する若干異なるアフィニティーの場合であっても、異なるアフィニティーのファージ抗体間で選択することが可能である。しかし、選択された抗体のランダム突然変異(例えば、前記の親和性成熟技術の幾つかにおいて行われた場合)は、大多数は抗原に結合し少数はより高いアフィニティーを有する多数の突然変異体を与える可能性がある。Her3を限定することにより、稀な高いアフィニティーのファージが競合的に取り出されうるであろう。より高いアフィニティーの突然変異の全てを維持するためには、ファージを過剰のビオチン化Her3と共にインキュベートすることが可能であり、この場合、該ビオチン化Her3は、Her3に関する標的モルアフィニティー定数より低いモル濃度で使用する。ついで高アフィニティー結合性ファージはストレプトアビジン被覆常磁性ビーズにより捕捉されうる。そのような「平衡捕捉」は、より低いアフィニティーを有する大過剰のファージから、僅か2倍高いアフィニティーを有する突然変異体クローンを単離することを可能にする感度で、該抗体がそれらの結合アフィニティーに従い選択されるのを可能にする。また、固相に結合したファージの洗浄において用いられる条件は、解離速度論に基づいて差を示すように操作されうる。
抗Her3クローンは活性により選択されうる。1つの実施形態においては、本発明は、Her3受容体(好ましくは、Her3および/またはHer3受容体の1つ)とその結合相手との結合を遮断する抗Her3抗体を提供する。そのような抗Her3抗体に対応するFvクローンは、(1)前記のとおりファージライブラリーから抗Her3クローンを単離し、場合によっては、ファージクローンの単離集団を適当な細菌宿主において増殖させて該単離集団を増幅し、(2)それぞれ遮断および非遮断活性が望まれるHer3および第2タンパク質を選択し、(3)該抗Her3ファージクローンを固定化Her3に吸着させ、(4)第2タンパク質の結合性決定基と重複する又は共有されているHer3結合性決定基を認識する望まないクローンを溶出するために過剰の第2タンパク質を使用し、および(5)工程(4)の後で吸着されたままのクローンを溶出することにより選択されうる。場合によっては、ここに記載されている選択手順を1回以上繰返すことにより、所望の遮断/非遮断特性を有するクローンを更に富化させることが可能である。
例えば本発明のファージディスプレイFvクローンをコードするDNAは、通常の方法を用いて(例えば、関心のある重鎖および軽鎖コード領域をハイブリドーマまたはファージDNA鋳型から特異的に増幅するために設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用することにより)、容易に単離され、配列決定される。該DNAは、単離されたら、発現ベクター内に配置されることが可能であり、ついでこれは、トランスフェクトされなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または骨髄腫細胞のような宿主細胞内にトランスフェクトされて、該組換え宿主細胞における所望のモノクローナル抗体の合成をもたらす。細菌内での抗体コード化DNAの組換え発現に関する総説には、Skerraら,Curr.Opinion in Immunol.,5:256(1993)およびPluckthun,Immunol Revs,130:151(1992)が含まれる。
本発明のFvクローンをコードするDNAは、重鎖および/または軽鎖定常領域をコードする公知DNA配列(例えば、適当なDNA配列はKabatら(前掲)から得られうる)と組合されて、完全長または部分長重鎖および/または軽鎖をコードするクローンを形成しうる。この目的には任意のイソタイプの定常領域(IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE定常領域を含む)が使用可能であり、そのような定常領域は任意のヒトまたは動物種から得られうる、と理解されるであろう。1つの動物(例えば、ヒト)種の可変ドメインDNAから誘導され、ついで「ハイブリッド」完全長重鎖および/または軽鎖のコード配列を形成させるために別の動物種の定常領域DNAに融合されたFvクローンは、本明細書中で用いる「キメラ」および「ハイブリッド」抗体の定義に含まれる。好ましい実施形態においては、ヒト可変DNAから誘導されたFvクローンはヒト定常領域DNAに融合されて、全てのヒト完全または部分長重鎖および/または軽鎖のコード配列を形成する。
抗体フラグメント
ある状況においては、完全抗体の代わりに抗体フラグメントを使用することが好都合である。より小さいサイズの該フラグメントは迅速なクリアランスを可能にし、充実性腫瘍への接近の改善を招きうる。
抗体機能性フラグメントは、その標的特異的結合活性の一部または全部を保有する抗体の一部分を意味する。そのような機能性フラグメントには、例えば抗体機能性フラグメント、例えばFv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、一本鎖Fv(scFv)、ジアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびミニボディが含まれるる。他の機能性フラグメントには、例えば、重鎖(H)または軽鎖(L)ポリペプチド、可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)領域ポリペプチド、相補性決定領域(CDR)ポリペプチド、単一ドメイン抗体、ならびに標的特異的結合活性を保有するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含有するポリペプチドが含まれうる。本発明は抗体フラグメントを含む。ある状況においては、完全抗体の代わりに抗体フラグメントを使用することが好都合である。より小さいサイズの該フラグメントは迅速なクリアランスを可能にし、充実性腫瘍への接近の改善を招きうる。
抗体フラグメントの製造のための種々の技術が開発されている。伝統的には、これらのフラグメントは完全抗体のタンパク質分解消化により誘導された(例えば、Morimotoら,Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107−117(1992);およびBrennanら,Science,229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらのフラグメントは現在では組換え宿主細胞により直接的に製造されうる。Fab、FvおよびScFv抗体フラグメントは全て、大腸菌(E.coli)において発現され、それから分泌されることが可能であり、したがって大量のこれらのフラグメントの簡便な製造が可能である。抗体フラグメントは前記の抗体ファージライブラリーから単離されうる。あるいはFab’−SHフラグメントは大腸菌(E.coli)から直接的に回収され、化学的に連結されてF(ab’)2フラグメントを形成しうる(Carterら,Bio/Technology 10:163−167(1992))。もう1つのアプローチに従えば、F(ab’)2フラグメントは組換え宿主細胞培養から直接的に単離されうる。サルベージ(再利用)受容体結合性エピトープ残基を含む増加したインビボ半減期を有するFabおよびF(ab’)2フラグメントが米国特許第5,869,046号に記載されている。抗体フラグメントの製造のための他の技術は当業者に明らかであろう。他の実施形態においては、好適な抗体は一本鎖Fvフラグメント(scFv)である。WO 93/16185;米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照されたい。FvおよびsFvは、定常領域を欠く完全な結合部位を有する唯一の種である。したがって、それらはインビボ使用中の非特異的結合の軽減に適している。sFvのアミノまたはカルボキシ末端におけるエフェクタータンパク質の融合体を得るために、sFv融合タンパク質が構築されうる。Antibody Engineering,Borrebaeck編(前掲)を参照されたい。また、該抗体フラグメントは、例えば米国特許第5,641,870号に記載されている「直鎖状抗体」でありうる。そのような直鎖状抗体フラグメントは単一特異性または二重特異性でありうる。
標的分子に対する有益な結合特性を示す抗体およびその機能性フラグメントに関しては、種々の形態、改変および修飾が当技術分野においてよく知られている。本発明の生物医薬製剤において使用される標的特異的モノクローナル抗体には、そのような種々のモノクローナル抗体形態、改変および修飾のいずれもが含まれうる。当技術分野で公知のそのような種々の形態および用語の具体例は後記に記載されている。
ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連抗原およびアジュバントの複数回の皮下(sc)または腹腔内(ip)注射により動物において産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質に関連抗原(合成ペプチドが使用される場合には特に)をコンジュゲート化することが有用でありうる。例えば、該抗原は、二官能性または誘導体化剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲート化)N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介したコンジュゲート化)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2またはR1N=C=NR(ここで、RおよびR1は、異なるアルキル基である)を使用して、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン、ウシチログロブリンまたはダイズトリプシンインヒビターにコンジュゲート化されうる。
例えば、100μgまたは5μgの該タンパク質またはコンジュゲート(それぞれ、ウサギまたはマウスの場合)を3容量のフロイント完全アジュバントと一緒にし、該溶液を複数の部位に皮内注射することにより、該抗原、免疫原性コンジュゲートまたは誘導体に対して動物を免疫化する。1ヵ月後、フロイント完全アジュバント中の元の1/5〜1/10の量のペプチドまたはコンジュゲートで複数の部位への皮下注射により該動物を追加免疫する。7〜14日後、該動物から採血し、血清を抗体価に関してアッセイする。該力価が横ばいになるまで、動物を追加免疫する。コンジュゲートは、タンパク質融合体として組換え細胞培養内でも得られうる。また、ミョウバンのような凝集剤も、免疫応答を増強するために好適に使用される。
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohlerら,Nature,256:495(1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて製造可能であり、あるいは組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)により製造可能である。
ハイブリドーマ法においては、マウスまたは他の適当な宿主動物を前記のとおりに免疫化して、免疫化に使用したタンパク質に特異的に結合する抗体を産生する又は産生しうるリンパ球を惹起する。あるいは、リンパ球はインビトロで免疫化されうる。免疫化後、リンパ球を単離し、ついでポリエチレングリコールのような適当な融合剤を使用して骨髄腫細胞系と融合させて、ハイブリドーマ細胞を生成させる(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))。
このようにして製造されたハイブリドーマ細胞を、未融合親骨髄腫細胞(融合相手とも称される)の増殖または生存を抑制する1以上の物質を好ましくは含有する適当な培地に播き、該培地内で増殖させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、該ハイブリドーマのための選択培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(HAT培地)を含み、この物質はHGPRT欠損細胞の増殖を妨げる。
好ましい融合相手の骨髄腫細胞は、効率的に融合するものであり、選択された抗体産生細胞による安定な高レベル抗体産生を支持するものであり、未融合親細胞に対する選択をもたらす選択培地に感受性であるものである。好ましい骨髄腫細胞系は、マウス骨髄腫系、例えば、Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,Calif.USAから入手可能なMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍から誘導されたもの、ならびにSP−2および誘導体、例えば、American Type Culture Collection,Rockville,Md.USAから入手可能なX63−Ag8−653細胞である。ヒト骨髄腫およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系もヒトモノクローナル抗体の製造に関して記載されている(Kozbor,J Immunol.,133:3001(1984);およびBrodeurら,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51−63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987))。
ハイブリドーマ細胞が増殖している培地を、該抗原に対するモノクローナル抗体の産生に関してアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降により、またはインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)もしくは酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)により決定する。
該モノクローナル抗体の結合アフィニティーは、例えば、Munsonら,Anal.Biochem.,107:220(1980)に記載されているスキャッチャード分析により決定されうる。
所望の特異性、アフィニティーおよび/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を特定したら、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))により増殖させることが可能である。この目的のための適当な培地には、例えばD−MEMまたはRPMI−1640培地が含まれる。また、該ハイブリドーマ細胞を、例えばマウスへの該細胞のi.p.注射により、動物における腹水腫瘍としてインビボで増殖させることが可能である。
該サブクローンから分泌されたモノクローナル抗体は、通常の抗体精製法、例えばアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインF−Sepharose(登録商標)を使用するもの)またはイオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析などにより、培地、腹水または血清から適切に分離される。
該モノクローナル抗体をコードするDNAは、通常の方法(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合しうるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによるもの)を用いて、容易に単離され、配列決定される。該ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの好ましい源として使用される。該DNAは、単離されたら、発現ベクター内に配置されることが可能であり、ついでこれは、トランスフェクトされなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または骨髄腫細胞のような宿主細胞内にトランスフェクトされて、該組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成をもたらす。細菌内での抗体コード化DNAの組換え発現に関する総説には、Skerraら,Curr.Opinion in Immunol.,5:256(1993)およびPluckthun,Immunol Revs,130:151(1992)が含まれる。
もう1つの実施形態においては、モノクローナル抗体または抗体フラグメントは、McCaffertyら,Nature,348:552−554 (1990)に記載されている技術を用いて作製された抗体ファージライブラリーから単離されうる。Clacksonら,Nature,352:624−628(1991)およびMarksら,J Mol.Biol,222:581−597(1991)は、ファージライブラリーを使用する、それぞれマウスおよびヒト抗体の単離を記載している。後に続く刊行物は、鎖シャッフリングによる高アフィニティー(nM範囲)ヒト抗体の製造(Marksら,Bio/Technology,10:779−783(1992))、ならびに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方法としての組合せ感染およびインビボ組換え(Waterhouseら,Nuc.Acids.Res.,21:2265−2266(1993))を記載している。したがって、これらの技術は、モノクローナル抗体の単離のための伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術の実用的な代替手段である。
該抗体をコードするDNAは、例えば、ヒト重鎖および軽鎖定常ドメイン(CHおよびCL)を相同マウス配列の代わりに使用することにより(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら,Proc.Natl Acad.Sci USA,81:6851(1984))、あるいは免疫グロブリンコード配列を非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部と融合させることにより修飾されうる。該非免疫グロブリンポリペプチド配列は抗体の定常ドメインの代わりに使用されることが可能であり、あるいはそれらは、ある抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を有する別の抗原結合部位とを含むキメラ2価抗体を得るために、抗体の、1つの結合部位の可変ドメインの代わりに使用される。
ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野でよく知られている。一般に、ヒト化抗体においては、非ヒト由来の1以上のアミノ酸残基がそれに導入されている。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、「移入(import)」残基と称され、これらは典型的には「移入」可変ドメインから選択される。ヒト化は、本質的には、Winterら(Jonesら,Nature,321:522−525(1986);Riechmannら,Nature,332:323−327(1988);Verhoeyenら,Science,239:1534−1536(1988))の方法に従い、ヒト抗体の対応配列の代わりにげっ歯類CDRまたはCDR配列を使用することより行われうる。したがって、そのような「ヒト化」抗体は、完全ヒト可変ドメインより実質的に小さい部分が非ヒト種からの対応配列により置換されているキメラ抗体である(米国特許第4,816,567号)。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、幾つかのCDR残基および恐らくは幾つかのFR残基がげっ歯類抗体における類似部位からの残基により置換されているヒト抗体である。
ヒト化抗体の製造において用いられる軽鎖および重鎖の両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を減少させるために非常に重要である。いわゆる「最良フィット(best−fit)」法によれば、既知ヒト可変ドメイン配列の全ライブラリーに対して、げっ歯類抗体の可変ドメインの配列がスクリーニングされる。そして、げっ歯類のものに最も近いヒト配列がヒト化抗体用のヒトフレームワーク(FR)として受け入れられる(Simsら,J.Immunol.,151:2296(1993);Chothiaら,J.Mol.Biol.,196:901(1987))。もう1つの方法は、特定の亜群の軽鎖または重鎖の全ヒト抗体のコンセンサス配列から誘導された特定のフレームワークを使用する。いくつかの異なるヒト化抗体のために、同じフレームワークが使用されうる(Carterら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);Prestaら,J.Immunol.,151:2623(1993))。
抗原に対する高いアフィニティーおよび他の好ましい生物学的特性を保ったままま抗体がヒト化されることが更に重要である。この目的を達成するためには、好ましい方法においては、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用する親配列および種々の概念的ヒト化産物の分析の方法によりヒト化抗体が製造される。三次元免疫グロブリンモデルは一般に入手可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の可能な三次元コンホメーション構造を例示し表示するコンピュータプログラムが入手可能である。これらの表示の精査は、候補免疫グロブリン配列の機能における該残基の可能な役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンのその抗原への結合能に影響を及ぼす残基の分析を可能にする。このようにして、所望の抗体特性、例えば標的抗原に対するアフィニティーの増強が達成されるように、レシピエントおよび移入配列からFR残基が選択され、合体されうる。一般に、CDR残基が抗原結合に対する影響に直接的かつ最も顕著に関与する。
ヒト抗体
本発明のヒト抗Her3抗体は、前記のとおり、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を既知ヒト定常ドメイン配列と合体させることにより構築されうる。あるいは、本発明のヒトモノクローナル抗Her3抗体はハイブリドーマ法により製造されうる。ヒトモノクローナル抗体の製造のためのヒト骨髄腫およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系は、例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984);Brodeurら,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51−63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);およびBoernerら,J.Immunol.,147:86(1991)に記載されている。ヒト抗体はファージディスプレイライブラリーからも誘導されうる(Hoogenboomら,J.Mol.Biol,227:381(1991);Marksら,J.Mol.Biol,222:581−597(1991))。
あるいは、内因性免疫グロブリン産生の非存在下にヒト抗体の完全レパトワを免疫化後に産生しうるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することが現在可能である。例えば、キメラおよび生殖系列突然変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合欠失は内因性抗体産生の完全な抑制をもたらすことが記載されている。そのような生殖系列突然変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子配列の導入は抗原チャレンジの際にヒト抗体の産生をもたらすであろう。例えば、Jakobovitsら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovitsら,Nature,362:255−258(1993);Bruggermannら,Year in hrimuno.,7:33(1993);米国特許第5,545,806号、第5,569,825号、第5,591,669号(全てGenPharmのもの)、第5,545,807号;およびWO 97/17852を参照されたい。
あるいは、未免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパトワからヒト抗体および抗体フラグメントをインビトロで製造するために、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら,Nature 348:552−553(1990))が用いられうる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子を繊維状バクテリオファージ(例えば、M13またはfd)の主要または副次的コートタンパク質遺伝子内にインフレームでクローニングし、ファージ粒子の表面上に機能性抗体フラグメントとして提示させる。該繊維状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するため、抗体の機能特性に基づく選択も、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択をもたらす。したがって、該ファージはB細胞の特性の幾つかを模擬する。ファージディスプレイは、例えばJohnson,Kevin S.およびChiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564−571(1993)に概説されている種々の形態で行われうる。いくつかのV遺伝子セグメント源がファージディスプレイに使用されうる。Clacksonら,Nature,352:624−628(1991)は、免疫化マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダム組合せライブラリーから多種多様な抗オキサゾロン抗体を単離した。未免疫化ヒトドナーからのV遺伝子のレパトワが構築可能であり、多種多様な抗原(自己抗原を含む)に対する抗体が、Marksら,J Mol.Biol.222:581−597(1991)またはGriffithら,EMBO J.12:725−734(1993)に記載されている技術に実質的に従うことにより単離されうる。また、米国特許第5,565,332号および第5,573,905号も参照されたい。
インビトロ活性化B細胞からもヒト抗体が産生されうる(米国特許第5,567,610号および第5,229,275号を参照されたい)。
出発非ヒト抗体に類似したアフィニティーおよび特異性を有するヒト抗体を非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体から誘導するために、遺伝子シャッフリングも用いられうる。「エピトープインプリンティング」とも称されるこの方法によれば、前記のファージディスプレイ技術により得られた非ヒト抗体フラグメントの重鎖または軽鎖可変領域をヒトVドメイン遺伝子のレパトワで置換して、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvまたはFabキメラの集団を得る。抗原での選択は非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvまたはFabの単離をもたらし、ここで、該ヒト鎖は、初代ファージディスプレイクローンにおける対応非ヒト鎖の除去の際に破壊された抗原結合部位を取り戻しており、すなわち、該エピトープがヒト鎖相手の選択を決定(インプリント)する。残りの非ヒト鎖を置換するために該方法を繰返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日付け公開のPCT WO 93/06213を参照されたい)。CDRグラフティングによる非ヒト抗体の伝統的なヒト化とは異なり、この技術は、非ヒト由来のFR残基もCDR残基も有さない、完全にヒトの抗体を与える。
二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。この場合、結合特異性の一方はHer3に対するものであり、他方は他の抗原のいずれかに対するものである。典型的な二重特異性抗体は、Her3タンパク質の、2つの異なるエピトープに結合しうる。二重特異性抗体は、Her3を発現する細胞へ細胞毒性物質を局在化するためにも使用されうる。これらの抗体は、Her3結合性アームと、該細胞毒性物質(例えば、サポリン、抗インターフェロン−アルファ、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセートまたは放射性同位体ハプテン)に結合するアームとを有する。二重特異性抗体は完全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として製造されうる。
二重特異性抗体の製造方法は当技術分野で公知である。伝統的には、二重特異性抗体の組換え製造は2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖ペアの共発現に基づくものであり、この場合、それらの2つの重鎖は、異なる特異性を有する(MilsteinおよびCuello,Nature,305:537(1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の組合せはランダムであるため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ(quadroma))は10個の異なる抗体分子の潜在的混合物を産生し、そのうちの1つだけが、正しい二重特異性構造を有する。その正しい分子の精製は通常はアフィニティークロマトグラフィー工程により行われるが、かなり面倒であり、生産収率は低い。類似方法が、1993年5月13日付け公開のWO 93/08829およびTrauneckerら,EMBO J.,10:3655(1991)に開示されている。
より好ましい異なるアプローチにおいては、所望の結合特異性(抗体−抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は、好ましくは、ヒンジ、CH2およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを使用するものである。軽鎖結合に必要な部位を含有する第1重鎖定常領域(CH1)が該融合体の少なくとも1つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、および所望により、免疫グロブリン軽鎖を、別々の発現ベクター内に挿入し、適当な宿主生物内にコトランスフェクトする。該構築において使用される3つのポリペプチド鎖の不等比率が最適収率を与える実施形態においては、これはそれらの3つのポリペプチド断片の相互比率の調節における大きな柔軟性をもたらす。一方、等しい比率での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率をもたらす場合または該比率が特別重要ではない場合には、2つ又は3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクター内に挿入することが可能である。
このアプローチの1つの実施形態においては、二重特異性抗体は、一方のアームにおける第1結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームにおける免疫グロブリン重鎖−軽鎖ペア(第2の結合特異性をもたらす)とから構成される。二重特異性分子の半分のみにおける免疫グロブリン軽鎖の存在は簡便な分離方法をもたらすため、この非対称構造は、望ましくない免疫グロブリン鎖の組合せからの所望の二重特異性化合物の分離を促進することが判明した。このアプローチはWO 94/04690に開示されている。二重特異性抗体の作製の更なる詳細は、例えば、Sureshら,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照されたい。
もう1つのアプローチにおいては、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にするために、抗体分子のペアの間の境界が操作されうる。好ましい境界は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法においては、第1抗体分子の境界からの1以上の小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置換する。大きなアミノ酸側鎖を、より小さなもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置換することにより、該大側鎖と同じ又は類似したサイズの補償性の「腔(cavity)」を第2抗体分子の境界上に作製する。これは、ホモ二量体のような他の望ましくない最終産物と比較して該ヘテロ二量体の収率を増加させる仕組みを与える。
抗体フラグメントから二重特異性抗体を製造するための技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は化学的連結を用いて製造されうる。Brennanら,Science,229:81(1985)は、完全抗体をタンパク質分解により切断してF(ab’)2フラグメントを得る方法を記載している。これらのフラグメントはジチオール錯化剤亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元されて隣接ジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を妨げる。生じたFab’フラグメントは次いで、チオニトロベンゾアート(TNB)誘導体へ変換される。ついでFab’−TNB誘導体の1つはメルカプトエチルアミンでの還元によりFab’−チオールへ再変換され、等モル量の他方のFab’−TNB誘導体と混合されて二重特異性抗体を形成する。得られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化のための物質として使用されうる。
二重特異性抗体フラグメントを製造し組換え細胞培養から直接的に単離するための種々の技術も記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを使用して製造されている。Kostelnyら,J.Immunol.,148(5):1547−1553(1992)を参照されたい。FosおよびJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドが2つの異なる抗体のFab’部分に遺伝子融合により連結された。該抗体ホモ二量体はヒンジ領域において還元されて単量体を形成し、ついで再酸化されて抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法は抗体ホモ二量体の製造にも用いられうる。一本鎖Fv(scFv)二量体の使用により二重特異性抗体フラグメントを製造するためのもう1つの方法も報告されている。Gruberら,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照されたい。
ヘテロコンジュゲート
二重特異性抗体には、架橋または「ヘテロコンジュゲート」抗体が含まれる。したがって、ヘテロコンジュゲート抗体も本発明の範囲内に含まれる。ヘテロコンジュゲート抗体は、共有結合した2つの抗体から構成される。そのような抗体は、例えば、望ましくない細胞へと免疫系細胞を標的化すること(例えば、米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染の治療(例えば、WO 91/00360;WO 92/200373;EP 03089)に関して提示されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、いずれかの簡便な架橋方法を用いて製造されうる。該抗体は、合成タンパク質化学における公知方法(架橋剤を使用する方法を含む)を用いてインビトロで製造されうると想定される。例えば、ジスルフィド交換反応を用いて、またはチオエーテル結合を形成させることにより、イムノトキシンが構築されうる。この目的のための適当な試薬の具体例には、イミノチオラートおよびメチル−4−メルカプトブチルイミダート、ならびに例えば米国特許第4,676,980号に開示されているものが含まれる。
ジアボディ
Hollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)に記載されている「ジアボディ(diabody)」技術は、二重特異性抗体フラグメントを製造するための代替手段となっている。ジアボディは、2つのFv結合部位を与えるように2つのscFvの非共有結合により形成される2価二量体である。簡潔に説明すると、ジアボディは、結合抗体の結合ドメイン(重鎖および軽鎖の両方)を単離し、同一ポリペプチド鎖上で重鎖と軽鎖とを結合する又は機能的に連結する連結部分を供給し、それにより結合機能を維持することにより製造される操作抗体構築物を意味する(Holligerら,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444;Poljak(1994)Structure 2:1121−1123を参照されたい)。これは、本質的に、抗原への結合に必要な可変ドメインだけを有する徹底的に省略された抗体を形成する。同一鎖上の2つのドメイン間のペア形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、それらのドメインは別の鎖の相補的ドメインとペア形成するように強要され、2つの抗原結合部位を生成する。これらの二量体抗体フラグメント、つまりジアボディは、2価かつ二重特異性である。したがって、ジアボディは、1つのscFv分子へと適切にはフォールディングできない2つのscFv分子の二量体である。ジアボディはscFv分子と同様に構築されるが、通常、両方のVドメインを接続する短い(10個未満、好ましくは1〜5個のアミノ酸)ペプチドリンカーを有し、したがって両方のドメインは分子内で相互作用できず、分子間で相互作用するように強要される(Holligerら,1993)(米国特許第5,837,242号)。したがって、ジアボディは、VH−VL:VH−VLの二量体を形成するように類似VH−VL鎖と相互作用するVH−VL鎖からなるものでありうる。ジアボディ鎖二量体は、VHおよびVL2価体により特定される抗原に結合する。Winterは、VH(A)とVL(B)との相互作用を抑制するのに十分な程度に短いペプチドリンカーを使用して、選択された抗体AのVHドメインを、選択された抗体BのVLドメインに結合させることによる、二重特異性ジアボディの構築を記載している。また、逆分子VH(B)−VL(A)が同様にして製造される(Holliger,Griffiths,Hoogenboom,Malmqvist,Marks,McGuinness,Pope,ProsperoおよびWinter:“Multivalent and multispecific binding proteins,their manufacture and use”,米国特許第5,837,242号,1998)。ジアボディを製造するための任意の方法が使用可能であると当業者は認識するであろう。適当な方法は、Holligerら,(1993)前掲,Poljak(1994)前掲,Zhuら,(1996)Biotechnology 14:192−196および米国特許第6,492,123号(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
Fab’−SH
最近の進歩は、大腸菌(E.coli)からのFab’−SHフラグメントの直接的回収を促進しており、それは化学的に結合されて二重特異性抗体を形成しうる。Shalabyら,J.Exp.Med.,175:217−225(1992)は、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)2分子の製造を記載している。各Fab’フラグメントは大腸菌(E.coli)から別々に分泌され、定方向化学結合に付されて二重特異性抗体を形成した。このようにして形成された二重特異性抗体は、Her2受容体を過剰発現する細胞および正常ヒトT細胞に結合可能であり、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発した。
三重特異性
2価を超える価数を有する抗体が想定される。例えば、三重特異性抗体が製造可能である。Tuttら,J.Immunol.147:60(1991)。
4価
2つのモノクローナル抗体の化学的架橋により、4価二重特異性抗体(Bs(IgG)2)が作製されうる(Karpovskyら,1984)(米国特許第4,676,980号)。それらの小さなサイズによる、腎臓を介したそれらの急速なインビボクリアランスに関連した問題は、例えば、それらの分子量サイズを増加させてそれらの血清透過性および産物有効性を増加させるることにより回避されうる(Wu,A.M.,Chen,W.,Raubitschek,A.,Williams,L.E.,Neumaier,M.,Fischer,R.,Hu,S.Z.,Odom−Maryon,T.,Wong,J.Y.およびShively,J.E.:Tumor localization of anti−CEA single−chain Fvs:improved targeting by non−covalent dimers.Immunotechnology 2(1996)21−36)。
ペプチボディ
ペプチボディは、Fcドメインのカルボキシルまたはアミノ末端を介して2つの結合性ペプチドに連結された免疫グロブリン定常領域ドメイン(Fc)からなり、抗体機能性フラグメントとして本発明に含まれる。そのような抗体結合性フラグメントは、例えば、例えば、HarlowおよびLane,前掲;Molec.Biology and Biotechnology:A Comprehensive Desk Reference(Myers,R.A.(編),New York:VCH Publisher,Inc.);Hustonら,Cell Biophysics,22:189−224(1993);PluckthunおよびSkerra,Meth.Enzymol.,178:497−515(1989)ならびにDay,E.D.,Advanced Immunochemistry,Second Ed.,Wiley−Liss,Inc.,New York,N.Y.(1990)に記載されている。
多価抗体
多価抗体は、該抗体が結合する抗原を発現する細胞により、2価抗体より速くインターナリゼーション(および/または異化)されうる。本発明の抗体は、3以上の抗原結合部位を有する多価抗体(これはIgMクラス以外のものである)(例えば、4価抗体)であることが可能であり、これは、該抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現により容易に産生されうる。該多価抗体は二量体化ドメインおよび3以上の抗原結合部位を含みうる。好ましい二量体化ドメインはFc領域またはヒンジ領域を含む(またはそれからなる)。この場合、該抗体はFc領域および該Fc領域に対するアミノ末端の3以上の抗原結合部位を含むであろう。本発明における好ましい多価抗体は3〜約8、好ましくは4つの抗原結合部位を含む(またはそれからなる)。該多価抗体は少なくとも1つのポリペプチド鎖(好ましくは2つのポリペプチド鎖)を含み、該ポリペプチド鎖は2以上の可変ドメインを含む。例えば、該ポリペプチド鎖はVD1−(X1)n−VD2−(X2)n−Fcを含むことが可能であり、ここで、VD1は第1可変ドメインであり、VD2は第2可変ドメインであり、FcはFc領域の1つのポリペプチド鎖であり、X1およびX2はアミノ酸またはポリペプチドを表し、nは0または1である。例えば、該ポリペプチド鎖は、VH−CH1−柔軟性リンカー−VH−CH1−Fc領域鎖、またはVH−CH1−VH−CH1−Fc領域鎖を含みうる。本発明における多価抗体は、好ましくは、少なくとも2つ(好ましくは4つ)の軽鎖可変ドメインポリペプチドを更に含む。本発明における多価抗体は、例えば、約2〜約8個の軽鎖可変ドメインポリペプチドを含みうる。ここで想定される軽鎖可変ドメインポリペプチドは軽鎖可変ドメインを含み、場合によっては、CLドメインを更に含む。
抗体変異体
いくつかの実施形態においては、本明細書に記載されている抗体のアミノ酸配列修飾が想定される。例えば、該抗体の結合アフィニティーおよび/または他の生物学的特性を改善することが望ましいかもしれない。該抗体のアミノ酸配列変異体は、該抗体核酸内に適当なヌクレオチド変化を導入することにより、またはペプチド合成により製造される。そのような修飾には、例えば、該抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/または該残基内への挿入、および/または該残基の置換が含まれる。最終構築物が所望の特性を有する限り、最終構築物を得るために欠失、挿入および置換の任意の組合せが施される。アミノ酸変化は、対象抗体アミノ酸配列内に、その配列が製造された時点で導入されうる。
突然変異誘発のための好ましい位置である該抗体の或る残基または領域の特定のための有用な方法は、CunninghamおよびWells(1989)Science,244:1081−1085に記載されているとおり、「アラニンスキャニング(alanine scanning)突然変異誘発」と称される。この場合、アミノ酸と抗原との相互作用に影響を及ぼす標的残基の残基または基(例えば荷電残基、例えばarg、asp、his、lysおよびglu)が特定され、中性または負荷電アミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)により置換される。ついで、該置換基に対する機能的感受性を示すそれらのアミノ酸の位置は、該置換部位に追加的な又は他の変異体を導入することにより精査される。したがって、アミノ酸配列変異を導入するための部位は予め決められているが、突然変異自体の性質は予め決められている必要はない。例えば、与えられた部位における突然変異の性能を分析するために、標的コドンまたは領域においてalaスキャニングまたはランダム突然変異誘発が行われ、発現された免疫グロブリンは所望の活性に関してスクリーニングされる。
アミノ酸配列の挿入には、1つの残基から100以上の残基を含有するポリペプチドまでの長さにわたる、アミノおよび/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の具体例には、N末端メチオニル残基を含有する抗体、または細胞毒性ポリペプチドに融合した抗体が含まれる。該抗体分子の他の挿入変異体には、酵素(例えば、ADEPTに対するもの)または該抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドに対する、該抗体のNまたはC末端の融合体が含まれる。
ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合またはO結合のものである。N結合はアスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を意味する。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)は該アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は潜在的グリコシル化部位を生成する。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはトレオニンへの糖N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースの1つの結合である。尤も、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用されうる。該抗体へのグリコシル化部位の付加は、アミノ酸配列を改変してそれが前記トリペプチド配列の1以上を含有するようにすることにより簡便に達成される(N結合グリコシル化部位の場合)。該改変は、元の抗体の配列への1以上のセリンまたはトレオニン残基の付加または該残基による置換によっても行われうる(O結合グリコシル化の場合)。「エフェクター機能操作」として示されている節(後記)を参照されたい。
該抗体がFc領域を含む場合、それに結合する炭水化物は改変されうる。例えば、該抗体のFc領域に結合したフコースを欠く成熟炭水化物構造を含有する抗体が米国特許出願第US2003/0157108号(Presta,L.)に記載されている。US 2004/0093621(Kyowa Hakko Kogyo Co.,Ltd)も参照されたい。抗体のFc領域に結合した炭水化物における、二分(bisecting)するN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体が、WO 2003/011878、Jean−Mairetら、および米国特許第6,602,684号、Umanaらに記載されている。抗体のFc領域に結合したオリゴ糖内の少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体がWO 1997/30087、Patelらに報告されている。Fc領域に結合した改変炭水化物を有する抗体に関するWO 1998/58964(Raju,S.)およびWO 1999/22764(Raju,S.)も参照されたい。修飾グリコシル化を伴う抗原結合性分子に関するUS 2005/0123546(Umanaら)も参照されたい。
本発明における少なくとも1つのグリコシル化変異体はFc領域を含み、ここで、該Fc領域に結合した炭水化物構造はフコースを欠いている。そのような変異体は、改善されたADCC機能を有する。場合によっては、Fc領域は更に、ADCCを更に改善する、それにおける1以上のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298、333および/または334位(残基のEu番号づけ)における置換を含む。「脱フコシル化」または「フコース欠損」抗体に関する刊行物の具体例には、US 2003/0157108;WO 2000/61739;WO 2001/29246;US 2003/0115614;US 2002/0164328;US 2004/0093621;US 2004/0132140;US 2004/0110704;US 2004/0110282;US 2004/0109865;WO 2003/085119;WO 2003/084570;WO 2005/035586;WO 2005/035778;WO 2005/053742;Okazakiら,J.Mol.Biol.336:1239−1249(2004);Yamane−Ohnukiら,Biotech.Bioeng.87:614(2004)が含まれる。脱フコシル化抗体を産生する細胞系の具体例には、タンパク質フコシル化を欠損しているLec13 CHO細胞(Ripkaら,Arch.Biochem.Biophys.249:533−545(1986);米国特許出願第US 2003/0157108 A1,Presta,L;およびWO 2004/056312 A1,Adamsら,特に実施例11)、およびノックアウト細胞系、例えばアルファ−1,6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子FUT8ノックアウトCHO細胞(Yamane−Ohnukiら,Biotech.Bioeng.87:614(2004))が含まれる。更なる詳細は、「エフェクター機能操作」(後記)を参照されたい。
もう1つのタイプの変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体においては、該抗体分子内の少なくとも1つのアミノ酸残基が別の残基により置換されている。置換突然変異誘発に関して最大の関心が持たれる部位には超可変領域が含まれるが、FR改変も想定される。「好ましい置換」なる表題の表1に保存的置換が示されている。そのような置換が生物活性の変化を引き起こす場合には、表1において「典型的置換」として示されている又はアミノ酸クラスに関して後記で更に詳細に記載されている、より本質的な変化が導入され、産物がスクリーニングされうる。
典型的な好ましい残基置換Ala(A)Val;Leu;Ile Val Arg(R)Lys;Gln;Asn Lys Asn(N)Gln;His;Asp,Lys;Arg Gln Asp(D)Glu;Asn Glu Cys(C)Ser;Ala Ser Gln(Q)Asn;Glu Asn Glu(E)Asp;Gln Asp Gly(G)Ala Ala His(H)Asn;Gln;Lys;Arg Arg Ile(I)Leu;Val;Met;Ala;Leu Phe;ノルロイシンLeu(L)ノルロイシン;Ile;Val;Ile Met;Ala;Phe Lys(K)Arg;Gln;Asn Arg Met(M)Leu;Phe;Ile Leu Phe(F)Trp;Leu;Val;Ile;Ala;Tyr Tyr Pro(P)Ala Ala Ser(S)Thr Thr Thr(T)Val;Ser Ser Trp(W)Tyr;Phe Tyr Tyr(Y)Trp;Phe;Thr;Ser Phe Val(V)Ile;Leu;Met;Phe;Leu Ala;ノルロイシン。
該抗体の生物学的特性における本質的修飾は、(a)置換の領域におけるポリペプチドバックボーンの構造、例えばシートまたはヘリカルコンホメーションとしての構造、(b)標的部位における該分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖のかさだかさの維持に対する影響において有意に異なる置換を選択することにより達成される。天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいて幾つかのグループに分けられる。
(1)疎水性:ノルロイシン,Met,Ala,Val,Leu,Ile;
(2)中性親水性:Cys,Ser,Thr,Asn,Gin;
(3)酸性:Asp,Glu;
(4)塩基性:His,Lys,Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly,Pro;および
(6)芳香族:Trp,Tyr,Phe。
非保存的置換は、これらの1つのクラスのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することを伴うであろう。
置換変異体の1つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト抗体)の超可変領域残基の1以上を置換することを含む。一般に、更なる開発のために選択される生じた変異体は、それが作製されるもとになった親抗体と比較して改善された生物学的特性を有するであろう。そのような置換変異体を作製するための簡便な方法は、ファージディスプレイを用いる親和性成熟を含む。簡潔に説明すると、幾つかの超可変領域部位(例えば、6〜7部位)が突然変異されて、各部位における全ての可能なアミノ酸置換体を与える。このようにして作製された抗体は、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として繊維状ファージ粒子から提示される。ついで該ファージ提示(ディスプレイ)変異体は、本明細書に開示されているとおり、それらの生物活性(例えば、結合アフィニティー)に関してスクリーニングされる。修飾のための候補超可変領域部位を特定するためには、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を特定するためにアラニンスキャニング突然変異誘発が行われうる。その代わりに又はそれに加えて、抗体と抗原との接触点を特定するために、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析することが有益でありうる。そのような接触残基および隣接残基は、本明細書中に詳細に記載されている技術による置換のための候補である。そのような変異体を作製したら、変異体のパネルを、本明細書に記載されているスクリーニングに付し、1以上の関連アッセイにおいて優れた特性を有する抗体を更なる開発のために選択することが可能である。
該抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の種々の方法により製造される。これらの方法には、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)、または該抗体の既に製造された変異体もしくは非変異体形態のオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発およびカセット突然変異誘発が含まれるが、これらに限定されるものではない。
エフェクター機能操作
(A)変異体Fc領域を含有する抗Her3抗体
抗体のほとんどの免疫機能は、適当な排除メカニズムで病原体を連結する柔軟なアダプター分子としてそれらが作用しうることに基づいている。この「架橋」役割は、個々の抗体ドメインからの寄与をそれぞれが含む2つのタイプの認識を伴う。その第1のタイプは抗原標的の高特異的認識を含み、抗体の2つのFab領域のアミノ末端可変ドメインによりもたらされる。第2のタイプは、補体および恐らくは最も重要なものとして食細胞および他の免疫細胞上に存在するFc受容体(FcR)を含む種々のエフェクター分子との、該分子のFc領域の定常ドメインの相互作用を含む。免疫グロブリン分子による標的およびFcRの二重認識は、細菌、ウイルスおよび寄生生物を身体から除去するためのエフェクターメカニズムの惹起において中心的役割を果たしている。
簡潔に説明すると、治療用抗体は以下の2つの主要非排他的メカニズムにより潜在的な生物学的機能を果たしうる:(i)それらは、それらの可変ドメインの非常に優れたエピトープ特異性により受容体とそのリガンドとの相互作用を遮断することが可能であり(「中和/アンタゴニスト抗体」)、あるいはそれらが表面分子に結合したら、アポトーシスまたは細胞増殖のような潜在的な生物学的応答を誘発することが可能であり(「アゴニスト抗体」)、(ii)補体成分C1qおよび/またはFc領域に対する受容体(FcγR)とのそれらの相互作用の後に病原体および腫瘍細胞に対するエフェクター機能を誘導することが可能である。Craggら,Curr Opin Immunol 11:541−547(1999);Glennieら,Immunol Today 21:403−410(2000)を参照されたい。
最も一般的な免疫グロブリンであるIgGのような免疫グロブリンのエフェクター機能は2つの主要メカニズムにより抗体Fc領域によりもたらされる:(1)細胞表面Fc受容体(FcγR)への結合は食作用による病原体の摂取または抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)経路によるキラー細胞による細胞溶解を引き起こすことが可能であり、あるいは(2)第1補体成分C1のC1q部分への結合は補体依存性細胞傷害(CDC)経路を始動して、病原体の細胞溶解を引き起こすことが可能である。Daeron,Annu.Rev.Immunol.15:203−234(1997);WardおよびGhetie,Therapeutic Immunol.2:77−94(1995);RavetchおよびKinet,Annu.Rev.Immunol.9:457−492(1991);UananueおよびBenacerraf,Textbook of Immunology,2nd Edition,Williams & Wilkins,p.218(1984)に概説されている。FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)と称される3つの公知FcγRが存在する。抗腫瘍効力はこれらのメカニズムの組合せによるものである可能性があり、臨床的治療におけるそれらの相対的重要性は癌によって異なるようである。このような豊富な抗腫瘍手段にもかかわらず、抗癌物質としての抗体の効力は、特にそれらの高いコストを考慮すると、満足できるものではない。現在、抗癌療法では、死亡率におけるいずれかの小さな改善が成功を特徴づけている。
したがって、本発明の免疫グロブリンポリペプチドのFc領域内に1以上のアミノ酸修飾を導入し、それによりFc領域変異体を作製することが望ましいかもしれない。該Fc領域変異体は、ヒンジシステインを含む1以上のアミノ酸位置におけるアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4領域)を含みうる。
ADCCは、抗体標識細胞に結合する免疫細胞による抗体の認識を含み、それらの直接作用または他の細胞型のリクルートメントにより、該標識細胞の死を招く。CDCは、通常は幾つかのIgGが互いに接近している場合に、一連の種々の補体タンパク質が活性化状態になる過程であり、1つの直接的な結果は細胞溶解であり、あるいは1つの間接的な結果はエフェクター細胞機能のためにこの位置に他の免疫細胞を誘引することである。
抗体の抗腫瘍効力を増強するための有望な手段は、細胞傷害性エフェクター機能、例えばADCC、ADCPおよびCDCをもたらすその能力を増強することによるものである。抗腫瘍mAbの細胞傷害メカニズムとしてのADCCの重要性は動物研究において実証されている。Ravetchら,Annu.Rev.Immunol,16:421−432(1998)は、野生型ヌードマウスと比べてFcγRノックアウトヌードマウスにおいては、ヒト化抗Her2/neu mAb(上皮増殖因子受容体2;トラスツズマブ(Trastuzumab))の殺腫瘍効果が有意に低いことを示した。同様に、野生型マウスと比べてFcγR欠損マウスにおいては、キメラ抗CD20 mAb(リツキシマブ(Rituximab))の腫瘍退縮活性が有意に低かった。Ravetch,前掲;Clynesら,Inhibitory Fc receptors modulate in vivo cytotoxicity against tumor targets.Nat.Med.6:443−446(2000)。ADCCに関する重要な役割の更なる裏づけがCartronらの研究によりもたらされた。IgG1の結合の増強を招くFcγIIIaにおける多形を有する患者においては、抗CD20 mAbでの治療は12ヶ月の時点で90%の応答率(完全な寛解または部分的応答を有する患者)を与え、一方、FcγRIIIaのこの多形を発現しない個体においては、51%の応答率を与えることを、彼らは見出した。Cartronら,Therapeutic activity of humanized anti−CD20 monoclonal antibody and polymorphism in IgG Fc receptor FcyRIIIa gene,Blood 99:754−758(2002)。他の研究者は、このFcγRIIIa多形、そしてまた、FcγRIIaにおける多形が、治療用mAbの応答率に関連していることを示している。W.K.WengおよびR.Levy,Two immunoglobulin G fragment C receptor polymorphisms independently predict response to rituximab in patients with follicular lymphoma.J.Clin.Oncol.21:3940−3947(2003)。抗体の抗癌活性のためのFcγ媒介性エフェクター機能の重要性はマウスにおいても実証されており(Clynesら,1998,Proc Natl Acad Sci USA 95:652−656;Clynesら,2000,Nat Med 6:443−446)、Fcと或るFcγRとの相互作用のアフィニティーは、細胞に基づくアッセイにおいて、標的化細胞傷害性と相関する(Shieldsら,2001,J Biol Chem 276:6591−6604;Prestaら,2002,Biochem Soc Trans 30:487−490;Shieldsら,2002,J Biol Chem 277:26733−26740)。また、ヒトにおける臨床効力と、FcγRIIIaの高(V158)または低(F158)アフィニティー多形形態の彼らのアロタイプとの間で、相関性が観察されている(Cartronら,2002,Blood 99:754−758)。総合すると、あるFcγRへの結合に関して最適化された抗体はエフェクター機能をより良好に媒介し、それにより、患者において癌細胞をより効果的に破壊しうることを、これらのデータは示唆している。受容体の活性化と抑制とのバランスは重要な考慮事項であり、活性化受容体(例えば、FcγRI、FcγRIIa/cおよびFcγRIIIa)に対しては増強したアフィニティーを有するが抑制性受容体FcγRIIbに対しては減少したアフィニティーを有する抗体から、最適なエフェクター機能が得られうる。さらに、FcγRは、抗原取り込み、および抗原提示細胞によるプロセシングを媒介するため、FcγRアフィニティーの増強は、適応免疫応答を抗体治療用物質が惹起する能力をも改善しうる。Fc変異体は、FcγRへの選択的に増強された結合を有するように成功裏に操作されており、さらに、これらのFc変異体は、細胞に基づくエフェクター機能アッセイにおいて、効力および有効性の増強をもたらす。例えば、U.S.Ser.No.10/672,280,U.S.Ser.No.10/822,231(発明の名称“Optimized Fc Variants and Methods for their Generation”),U.S.Ser.No.60/627,774(発明の名称“Optimized Fc Variants”)およびU.S.Ser.No.60/642,477(発明の名称“Improved Fc Variants”)ならびにそれらにおいて引用されている参考文献を参照されたい。7,276,585 Xencor,Inc.(Monrovia, CA)。また、特許第6,821,505号も参照されたい。
抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)をもたらすほとんどのmAabは補体系1をも活性化する。A.GorterおよびS.Meri,“Immune evasion of tumor cells using membrane−bound complement regulatory proteins”.Immunol.Today,pp.576−582(1999)。
補体は、mAb被覆腫瘍細胞に対して用いられうる3つのメカニズムを始動する。第1のメカニズムは膜侵襲複合体(MAC)による腫瘍細胞の直接補体殺傷であり、通常、「補体依存性細胞傷害(CDC)」と呼ばれている過程である。第2のメカニズムはADCCの補体受容体依存的増強である。この場合、CR3はiC3bに結合して、FcγR媒介性エフェクター細胞結合を増強する。微生物を殺すために用いられる第3のメカニズムであるCR3依存性細胞性細胞傷害(CDR−DCC)は、通常、腫瘍では活性化されない。
化学修飾および結晶学的研究の結果に基づいて、Burtonら(Nature,288:338−344(1980))は、IgG上の補体亜成分C1qに対する結合部位がCH2ドメインの最後の2つ(C末端)のベータ鎖を含むことを提示した。Burtonは後に、アミノ酸残基318−337を含む領域が補体結合に関与しうることを示唆した(Molec.Immunol.,22(3):161−206(1985))。
DuncanおよびWinter(Nature 332:738−40(1988))は、部位特異的突然変異誘発を用いて、Glu318、Lys320およびLys322がC1qに対する結合部位を形成していることを報告した。DuncanおよびWinterのデータは、モルモットC1qへのマウスIgG2bイソタイプの結合を試験することにより得られた。C1qの結合におけるGlu318、Lys320およびLys322残基の役割は、これらの残基を含有する短い合成ペプチドが補体媒介細胞溶解を抑制しうることにより証明された。同様の結果が、1997年7月15日付け発行の米国特許第5,648,260号、および1997年4月29日付け発行の米国特許第5,624,821号に開示されている。
残基Pro331は、補体媒介性細胞溶解をヒトIgGサブクラスが行う能力の分析により、C1q結合に関連づけられている。IgG4におけるSer331からPro331への突然変異は、補体を活性化する能力を付与した(Taoら,J.Exp.Med.,178:661−667(1993);Brekkeら,Eur.J.Immunol.,24:2542−47(1994))。
WinterのグループならびにTaoら及びBrekkeらの論文のデータの比較から、WardおよびGhetieは、C1qの結合に関与する少なくとも2つの異なる領域が存在する(すなわち、一方は、Glu318、Lys320およびLys322残基を含有するCH2ドメインのベータ鎖上に存在し、他方は、同じベータ鎖に接近して位置し鍵アミノ酸残基を331位に含有するターン上に存在する)ことを、彼らの総説において結論づけた。
他の報告は、下方ヒンジ領域に位置するヒトIgG1残基Leu235およびGly237が補体固定および活性化において決定的に重要な役割を果たすことを示唆している。Xuら,J.Immunol.150:152A(Abstract)(1993)。1994年12月22日付け公開のWO 94/29351は、ヒトIgG1のC1qおよびFcR結合に必要なアミノ酸残基がCH2ドメインのN末端領域(すなわち、残基231−238)に位置することを報告している。
IgGがC1qに結合し補体カスケードを活性化する能力は、2つのCH2ドメイン間に位置する炭水化物部分(これは通常、Asn297に結合している)の存在、非存在または修飾にも左右されることが更に提示されている。WardおよびGhetie,Therapeutic Immunology 2:77−94(1995),p.81。
FcγRへのヒトおよびマウス抗体上の結合部位は、残基233−239(Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)に記載されているとおりのEUインデックスの番号付け)からなる、いわゆる「下方ヒンジ領域」に既に位置決定されている。Woofら,Molec.Immunol.23:319−330(1986);Duncanら,Nature 332:563(1988);CanfieldおよびMorrison,J.Exp.Med.173:1483−1491(1991);Chappelら,Proc.Natl.Acad.Sci USA 88:9036−9040(1991)。残基233−239のうち、P238およびS239は、結合に関与している可能性があるものとして言及されているが、これらの2つの残基は置換によっても欠失によっても評価されたことがない。
FcγRへの結合に関与している可能性がある領域として既に言及されている他の領域としては以下のものが挙げられる:ヒトFcγRIに対するG316−K338(ヒトIgG)(配列比較のみによる;置換突然変異体は評価されなかった)(Woofら,Molec.Immunol 23:319−330(1986));ヒトFcγRIIIに対するK274−R301(ヒトIgG1)(ペプチドに基づく)(Sarmayら,Molec.Immunol.21:43−51(1984));ヒトFcγRIIIに対するY407−R41(ヒトIgG)(ペプチドに基づく)(Gergelyら,Biochem.Soc.Trans.12:739−743(1984))。
米国特許第6,165,745号は、抗体をコードするDNAセグメント内に突然変異を導入することにより減少した半減期を有する抗体を製造する方法を開示している。突然変異にはFc−ヒンジドメインの253、310、311、433または434位におけるアミノ酸置換が含まれる。米国特許第6,165,745号の完全開示および本明細書中で引用されている全ての他の米国特許参考文献の完全開示を参照により本明細書に組み入れることとする。
米国特許出願第20020098193 A1およびPCT公開番号WO 97/34621は、IgGと比較して増加した血清半減期を有する突然変異体IgG分子を開示しており、ここで、該突然変異体IgG分子はFc−ヒンジ領域内に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。しかし、250、314または428位の突然変異に関する実験的裏づけは全く示されていない。
米国特許第6,277,375 B1号は、野生型IgGと比較して増加した血清半減期を有する突然変異体IgG分子を含む組成物を開示しており、ここで、該突然変異体IgG分子は、252位におけるトレオニンからロイシンへのアミノ酸置換、254位におけるトレオニンからセリンへのアミノ酸置換、または256位におけるトレオニンからフェニルアラニンへのアミノ酸置換を含む。433、435または436位におけるアミノ酸置換を有する突然変異体IgGも開示されている。
米国特許第6,528,624号は、ヒトIgG Fc領域を含む抗体の変異体を開示しており、ここで、該変異体はヒトIgG Fc領域のアミノ酸位置270、322、326、327、329、331、333および334の1以上におけるアミノ酸置換を含む。
前記の説明および当技術分野の教示に従い、いくつかの実施形態においては、本発明の方法において使用される抗体は、野生型対応抗体と比較した場合の1以上の改変(例えば、Fc領域におけるもの)を含みうると想定される。それでも、これらの抗体は、それらの野生型対応物と比較して、治療的有用性に要求される実質的に同じ特性を保有するであろう。例えば、C1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)の改変(すなわち、改善または低下)を引き起こすFc領域における或る改変が施されうると考えられる(例えば、WO99/51642に記載されているとおり)。Fc領域変異体の他の例に関しては、Duncan & Winter Nature 322:738−40(1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO 94/29351も参照されたい。WO 00/42072(Presta)およびWO 2004/056312(Lowman)は、FcRに対する改善または低下した結合を伴う抗体変異体を記載している。これらの特許公開の内容を参照により具体的に本明細書に組み入れることとする。Shieldsら,J.Biol.Chem.9(2):6591−6604(2001)も参照されたい。胎児への母体IgGの移行をもたらす新生児Fc受容体(FcRn)(Guyerら,J.Immunol.117:587(1976)およびKimら,J.Immunol.24:249(1994))への結合の改善および半減期の増加を伴う抗体がUS2005/0014934μl(Hintonら)に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する1以上の置換を有するFc領域を含む。改変されたFc領域アミノ酸配列および増加または減少したC1q結合能を有するポリペプチド変異体が米国特許第6,194,551B1号、WO 99/51642に記載されている。それらの特許公開の内容を参照により本明細書に具体的に組み入れることとする。Idusogieら,J.Immunol.164:4178−4184(2000)も参照されたい。
変異Fc領域を有する分子の機能アッセイ
A.変異Fc領域
いずれかの特定の抗体、例えば、本明細書に開示されている抗抗体いずれかの1以上が補体活性化および/またはADCCにより標的細胞の細胞溶解を引き起こす能力はアッセイ可能である。本発明の抗Her3抗体のいずれかの1以上の強力なFc変異体を特定するための機能アッセイは当業者によく知られている。例えば、変異Fc領域を有する抗体を特徴づけるための酵母ディスプレイ技術を記載している米国特許出願公開第2005/0037000号および第2005/0064514号ならびに国際特許出願公開WO 04/063351(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。同様に、R−Fc結合アッセイが米国特許出願公開第2005/0037000号および第2005/0064514号ならびに国際特許出願公開WO 04/063351(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。
本発明に従いアッセイされうるエフェクター細胞機能の具体例には、抗体依存性細胞性細胞傷害、食作用、オプソニン作用、オプソニン食作用(opsonophagocytosis)、C1q結合および補体依存性細胞性細胞傷害が含まれるが、これらに限定されるものではない。エフェクター細胞機能活性を決定するための、細胞に基づく又は細胞を使用しない当業者に公知のいずれかのアッセイが用いられうる(エフェクター細胞アッセイに関しては、Perussiaら,2000,Methods Mol.Biol.121:179−92;Baggioliniら,1998 Experientia,44(10):841−8;Lehmannら,2000 J.Immunol.Methods,243(1−2):229−42;Brown E J.1994,Methods Cell Biol.,45:147−64;Munnら,1990 J.Exp.Med.,172:231−237,Abdul−Majidら,2002 Scand.J.Immunol.55:70−81;Dingら,1998,Immunity 8:403−411(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。
一般に、関心のある細胞を増殖させ、標識し(インビトロで行う)、標的抗体を、抗原−抗体複合体により活性化されうる血清補体または免疫細胞と共に該細胞培養に加える。標的細胞の細胞溶解は、細胞溶解細胞からの標識の遊離により検出される。実際には、補体および/または免疫細胞源として患者自身の血清を使用して抗体がスクリーニングされうる。ついで、該インビトロ試験において補体を活性化しうる又はADCCを引き起こしうる抗体は、その特定の患者において治療用に使用されうる。
好ましくは、本発明のADCCアッセイにおいて使用されるエフェクター細胞は、好ましくは当業者に公知の標準的な技術(例えば、フィコールパック密度勾配遠心分離)を用いて正常ヒト血液から精製される末梢血単核細胞(PBMC)である。
変異Fc領域を有するそのような抗Her3抗体のADCC活性を決定するための典型的なアッセイは、標的細胞を[51Cr]Na2CrO4(この細胞膜透過性分子は細胞膜タンパク質に結合し、遅い速度論で細胞から自発的に遊離されるが、標的細胞の壊死の後では甚だしく遊離されるため、該分子が標識に一般に使用される)で標識すること;該標的細胞を、本発明の変異Fc領域を有する抗抗体でのオプソニン作用に付すこと;オプソニン作用に付された放射能標識標的細胞をエフェクター細胞と、標的細胞対エフェクター細胞の適当な比で、マイクロタイタープレート内で一緒にすること;該細胞混合物を37℃で16〜18時間インキュベートすること;上清を集めること;および放射活性を分析することを含む51Cr遊離アッセイに基づくものである。ついで、公知の式を用いて、例えば、以下の式を用いて、変異Fc領域を有する抗抗体の細胞傷害性が決定されうる:%細胞溶解=(実験cpm−標的漏出cpm)/(界面活性剤細胞溶解cpm−標的漏出cpm)×100%、あるいは%細胞溶解=(ADCC−AICC)/(最大遊離−自発的遊離)。特異的細胞溶解は、以下の式を用いて計算されうる:特異的細胞溶解=本発明の変異Fc領域を有する抗抗体での%細胞溶解−本発明の変異Fc領域を有する抗抗体の非存在下の%細胞溶解。標的:エフェクター細胞比または抗体濃度を変化させることにより、グラフが作成されうる。Perussiaら,2000,Methods Mol.Biol.121:179−92。
変異Fc領域を有する抗抗体の、FcγRに対するアフィニティーおよび結合特性は、まず、Fc−FcγR相互作用(すなわち、FcγRへのFc領域の特異的結合)を決定するための当技術分野で公知のインビトロアッセイ(生化学または免疫学に基づくアッセイ)(限定的なものではないが、ELISAアッセイ、表面プラズモン共鳴アッセイ、免疫沈降アッセイを含む)を用いて決定されうる。好ましくは、本発明の変異Fc領域を有する抗抗体の結合特性は、1以上のFcγRメディエーターエフェクター細胞機能を決定するためのインビトロ機能アッセイによっても特徴づけられうる。いくつかの実施形態においては、本発明の抗Her3 Fc変異体は、インビボモデルにおいて、インビトロに基づくアッセイの場合に類似した結合特性を有する。しかし、本発明は、インビトロに基づくアッセイにおいて所望の表現型を示さないがインビボにおいて所望の表現型を示す本発明の分子を除外するものではない。
変異Fc領域を有する抗抗体を製造するための方法は公知である。本明細書に開示されている出発抗Her3抗体のいずれか1以上のアミノ酸配列変異体をコードするDNAは、当技術分野で公知の種々の方法により製造されうる。これらの方法には、該抗体をコードする予め調製されたDNAの部位特異的(またはオリゴヌクレオチド媒介)突然変異誘発、PCR突然変異誘発およびカセット突然変異誘発による製造が含まれるが、これらに限定されるものではない。しかし、本発明のもう1つの実施形態においては、親抗体のFc領域をコードする核酸が利用可能であり、この核酸配列を改変して、Fc領域変異体をコードする変異体核酸配列を得る。
部位特異的突然変異誘発は、置換変異体を製造するための好ましい方法である。この技術は当技術分野でよく知られている(Carterら,Nucleic Acids Res.13:4431−4443(1985)およびKunkelら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488(1985))。簡潔に説明すると、DNAの部位特異的突然変異誘発の実施において、まず、所望の突然変異をコードするオリゴヌクレオチドを出発DNAの一本鎖にハイブリダイズさせることにより、該出発DNAを改変する。ハイブリダイゼーション後、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、該出発DNAの一本鎖を鋳型として使用して、第2鎖の全体を合成するためにDNAポリメラーゼを使用する。このようにして、所望の突然変異をコードするオリゴヌクレオチドが、生じる二本鎖DNA内に組込まれる。
出発ポリペプチドのアミノ酸配列変異体を製造するためには、PCR突然変異誘発も適している。Higuchi,PCR Protocols,pp.177−183(Academic Press,1990);およびValletteら,Nuc.Acids Res.17:723−733(1989)を参照されたい。簡潔に説明すると、少量の鋳型DNAをPCRにおける出発物質として使用する場合、鋳型DNA内の対応領域とは配列において若干異なるプライマーを使用して、該プライマーが該鋳型と異なる位置においてのみ鋳型配列と異なる比較的大量の特異的DNA断片を得ることが可能である。
変異体を製造するためのもう1つの方法であるカセット突然変異誘発は、Wellsら,Gene 34:315−323(1985)に記載されている技術に基づくものである。出発物質は、突然変異されるべき出発ポリペプチドDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。突然変異されるべき出発DNAにおけるコドンを特定する。特定された突然変異部位の両側に唯一の制限エンドヌクレアーゼ部位が存在しなければならない。そのような制限部位が存在しない場合には、出発ポリペプチドDNA内の適当な位置にそれらを導入するために前記のオリゴヌクレオチド媒介突然変異誘発法を用いて、それらを作製することが可能である。これらの位置で該プラスミドDNAを切断して、それを線状化する。制限部位間のDNAの配列をコードするが所望の突然変異を含有する二本鎖オリゴヌクレオチドを、標準的な方法を用いて合成する。この場合、該オリゴヌクレオチドの2本の鎖を別々に合成し、ついで標準的な技術を用いて互いにハイブリダイズさせる。この二本鎖オリゴヌクレオチドはカセットと称される。このカセットは、該線状化プラスミドの末端に適合する5’および3’末端を有していてそれが該プラスミドに直接的に連結されうるように設計される。このプラスミドは今や突然変異DNA配列を含有する。
その代わりに又はそれに加えて、抗Fc変異体をコードする所望のアミノ酸配列が決定可能であり、そのようなアミノ酸配列変異体をコードする核酸配列が合成的に製造されうる。
ある実施形態においては、該修飾は1以上のアミノ酸置換を含む。該置換は、例えば「保存的置換」でありうる。
いくつかの実施形態においては、変異Fc領域を有する、活性化および/または抑制性受容体に対するアフィニティーの改変を伴う本発明の分子は、1以上のアミノ酸修飾を有する。
本明細書に開示されている抗抗体のいずれか1以上のFc領域は種々の特性に関して最適化されうる。最適化されうる特性には、FcγRに対する、増強または軽減されたアフィニティーが含まれるが、これに限定されるものではない。1つの実施形態においては、Fc変異体は、ヒト活性化FcγR、好ましくはFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIc、FcγRIIIaおよびFcγRIIIb、最も好ましくはFcγRIIIaに対する増強されたアフィニティーを有するように最適化される。もう1つの実施形態においては、Fc領域は、ヒト抑制性受容体FcγRIIbに対する軽減されたアフィニティーを有するように最適化される。これらの実施形態は、ヒトにおける増強された治療特性、例えば、増強されたエフェクター機能およびより大きな抗癌効力を有する抗抗体を与えると予想される。
もう1つの実施形態においては、本発明のFc変異体は、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIc、FcγRIIIaおよびFcγRIIIbを含むヒトFcγRに対する軽減または除去されたアフィニティーを有するように最適化される。これらの実施形態は、ヒトにおける増強された治療特性、例えば、軽減されたエフェクター機能および軽減された毒性を有する抗Her3抗体を与えると予想される。当技術分野で公知のとおり、癌細胞は、ヒトの癌を模擬するためにマウスに移植または注射されることが可能であり、これは、異種移植と称される方法である。1以上のマウスFcγRに関して最適化されたFc変異体を含む抗Her3抗体のいずれか1以上の試験は、該抗体の効力、その作用メカニズムなどに関する重要な情報を与えうる。
本発明のFc変異体は、非グリコシル化形態における増強された官能性および/または溶液特性に関しても最適化されうる。1つの実施形態においては、本発明の非グリコシル化Fc変異体は、親Fcポリペプチドの非グリコシル化形態より大きなアフィニティーでFcリガンドに結合する。典型的なFcリガンドは、限定的なものではないがFcγR、C1q、FcRnならびにプロテインAおよびGを包含し、いずれの起源のものであってもよく、好ましくはヒト由来である。もう1つの実施形態においては、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドの非グリコシル化形態より安定および/またはより溶解性となるように最適化される。
したがって、本発明の或る態様は、(a)特定の抗原に対するものである、および(b)細胞溶解を引き起こしうるサブクラスまたはイソタイプに属する抗体(該抗体分子は該細胞に結合する)を含む。より詳しくは、これらの抗体は、細胞表面タンパク質と複合体化すると、ナチュラルキラー細胞またはマクロファージのようなエフェクター細胞を活性化することにより抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を引き起こし及び/又は血清補体を活性化するサブクラスまたはイソタイプに属するべきである。この目的には、例えば癌の治療における該抗体の有効性を増強するために、エフェクター機能に関して本発明の抗体を修飾することが望ましいかもしれない。例えば、Fc領域内にシステイン残基を導入し、それにより、この領域内に鎖間ジスルフィド結合を形成させることが可能である。このようにして作製されたホモ二量体抗体は、改善されたインターナリゼーション能力ならびに/または増強された補体媒介性細胞殺傷および抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を有しうる。Caronら,J.Exp Med.176:1191−1195(1992)およびShopes,B.J.Immunol.148:2918−2922(1992)を参照されたい。増強された抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体は、Wolffら,Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されているヘテロ二官能性架橋剤を使用することによっても製造されうる。あるいは、本発明の抗体のいずれか1以上は、二重Fc領域を使用して操作されることが可能であり、それにより、増強された補体細胞溶解およびADCC能を有しうる。Stevensonら,Anti−Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照されたい。
さらにもう1つの実施形態においては、本発明の変異Fc領域を有する抗体は、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)に関して特徴づけられる。例えば、Dingら,Immunity,1998,8:403−11(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
もう1つの例においては、該抗体が、改変されたC1q結合および/または軽減された若しくは無効にされた補体依存性細胞傷害(CDC)を有するように、Fc領域内の1以上のアミノ酸は、異なるアミノ酸残基により置換されうる。このアプローチは、Idusogieらの米国特許第6,194,551号に更に詳細に記載されている。
もう1つの例においては、アミノ酸位置231および239における1以上のアミノ酸残基を改変して、それにより、補体を該抗体が固定する能力を改変する。このアプローチはBodmerらのPCT公開WO 94/29351に更に詳細に記載されている。
したがって、本発明の広範な態様は、1以上の領域内に1以上のアミノ酸修飾(例えば、置換、そしてまた、挿入または欠失を含む)を有する変異Fc領域を含む免疫グロブリン(例えば、抗抗体)に関するものであり、該修飾は、FcγRに対する該変異Fc領域のアフィニティーを改変(例えば、増強または軽減)する。FcγRIIbへの結合はADCCを軽減するため、FcγRIIIAへの結合を増強しFcγRIIBへの結合を軽減することが重要である。したがって、ある実施形態においては、前記の1以上のアミノ酸修飾はFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAに対する該変異Fc領域のアフィニティーを増強する。
ある実施形態においては、変異Fc領域を有する本明細書に記載されている抗抗体は更に、FcγRIIBに結合する野生型Fc領域を含む比較されうる抗体分子(すなわち、Fc領域内の1以上のアミノ酸修飾以外は、変異Fc領域を有する抗体と同じアミノ酸配列を有するもの)より低いアフィニティーで(Fc領域を介して)FcγRIIBに特異的に結合する。
いくつかの実施形態においては、本発明は、変異Fc領域を含む分子を含み、該変異Fc領域は、野生型Fc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、該変異Fc領域は、当業者に公知の標準的なアッセイ(例えば、インビトロアッセイ)による判定で、いずれのFcγRにも結合せず、または野生型Fc領域を含む比較されうる分子と比較して低いアフィニティーで結合する。特定の実施形態においては、本発明は、変異Fc領域を含む分子を含み、該変異Fc領域は、野生型Fc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、該変異Fc領域は1つのFcγRだけに結合し、該FcγRはFcγRIIIAである。もう1つの特定の実施形態においては、本発明は、変異Fc領域を含む分子を含み、該変異Fc領域は、野生型Fc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、該変異Fc領域は1つのFcγRだけに結合し、該FcγRはFcγRIIAである。さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、変異Fc領域を含む抗抗体分子を含み、該変異Fc領域は、野生型Fc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、該変異Fc領域は1つのFcγRだけに結合し、該FcγRはFcγRIIBである。
さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、抗原結合領域と変異Fc領域とを含む少なくとも1以上の抗抗体を提供し、該変異Fc領域は、(A)Kabatに記載されているEUインデックスに従った場合に野生型Fc領域(未修飾)(例えば、野生型Fcポリペプチドを含む本明細書に開示されているいずれかの1以上の対応する抗抗体)と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む点で野生型Fc領域とは異なり、(B)該野生型Fc領域と比較して高いアフィニティーでFcγRに結合する。
本発明のFc変異体は、エフェクター機能または1以上のFcリガンドとの相互作用を改変する修飾(これに限定されるものではない)を含む他のFc修飾と組合されうる。そのような組合せは抗体またはFc融合体における相加的、相乗的または新規特性をもたらしうる。1つの実施形態においては、本発明のFc変異体は他の公知Fc変異体(Duncanら,1988,Nature 332:563−564;Lundら,1991,J Immunol 147:2657−2662;Lundら,1992,Mol Immunol 29:53−59;Alegreら,1994,Transplantation 57:1537−1543;Hutchinsら,1995,Proc Natl Acad Sci USA 92:11980−11984;Jefferisら,1995,Immunol Left 44:111−117;Lundら,1995,Faseb J9:l15−119;Jefferisら,1996,Immunol Left 54:101−104;Lundら,1996,J Immunol 157:4963−4969;Armourら,1999,Eur J Immunol 29:2613−2624;Idusogieら,2000,J Immunol 164:4178−4184;Reddyら,2000,J Immunol 164:1925−1933;Xuら,2000,Cell Immunol 200:16−26;Idusogieら,2001,J Immunol 166:2571−2575;Shieldsら,2001,J Biol Chem 276:6591−6604;Jefferisら,2002,Immunol Left 82:57−65;Prestaら,2002,Biochem Soc Trans 30:487−490;Hintonら,2004,J Biol Chem 279:6213−6216)(米国特許第5,624,821号;米国特許第5,885,573号;米国特許第6,194,551号;PCT WO 00/42072;PCT WO 99/58572;US 2004/0002587 A1)と組合されうる。もう1つの実施形態においては、本発明のFc変異体は、1以上の操作された糖形態(後記)を含む抗体またはFc融合体内に組込まれる。したがって、最適化された特性を有する新規抗体またはFc融合体の作製を目的として、本発明のFc変異体と他のFc修飾および未発見のFc修飾との組合せが想定される。
B.抗Her3操作糖形態
本発明は更に、翻訳の途中または後で例えばグリコシル化、タンパク質分解などにより差動的に修飾された抗抗体(そのフラグメントを含む)を含む。多数の化学修飾のいずれかが、トリプシン、パパインによる特異的化学的切断、ツニカマイシンの存在下の代謝的合成など(これらに限定されるものではない)を含む公知技術により行われうる。
抗体は、重鎖定常領域内の保存された位置に炭水化物構造を含有する糖タンパク質であり、各イソタイプは特徴的な一連のN結合型炭水化物構造を有し、これはタンパク質の集合、分泌または機能活性に様々な影響を及ぼす。結合するN結合型炭水化物の構造は相当変動し、高マンノース、多分岐および二分岐複合オリゴ糖を含みうる(Wright,A.およびMorrison,S.L.,Trends Biotech.15:26−32(1997))。主要炭水化物単位は抗体の定常領域のアミノ酸残基に結合している。炭水化物は、幾つかの抗体の抗原結合部位に結合していることも公知であり、該抗体結合部位への抗原の接近を制限することにより抗体結合特性に影響を及ぼしうる。典型的には、特定のグリコシル化部位に結合しているコアオリゴ糖構造の異種プロセシングが存在し、その結果、モノクローナル抗体でさえも複数の糖形態として存在する。同様に、細胞系間で抗体グリコシル化における大きな相違が存在し、異なる培養条件下で培養された与えられた細胞系に関して若干の相違も見られることが示されている(Lifely,M.R.ら,Glycobiology 5(8):813−22 (1995))。
モノクローナル抗体は、しばしば、2つの結合事象を介して、その治療利益を達成する。まず、該抗体の可変ドメインが標的細胞の表面上の特異的腫瘍受容体に結合する。抗体の定常領域(Fc)に結合し、該抗体が結合した細胞を破壊するナチュラルキラー(NK)細胞のようなエフェクター細胞のリクルートメントが、これに続く。この過程は、抗体依存性細胞細胞傷害(ADCC)として公知であり、IgG1の重鎖のFcドメイン内のAsn297における特異的N−グリコシル化事象に部分的に左右される。一般に、このN−グリコシル化構造を欠く抗体は抗原に尚も結合するが、ADCCを引き起こすことができない。どうやらこれは、Fc受容体FcγRIIIaに対する該抗体のFcドメインのアフィニティーの低下の結果によるものであろう。興味深いことに、Fcドメイン内の炭水化物部分の末端ガラクトシル化の増加と共にインビトロ補体活性化の直線的増加が生じる。炭水化物単位に関連した幾つかの役割が存在する。グリコシル化は、抗体の全体的な溶解性および異化速度に影響を及ぼしうる。また、炭水化物は幾つかの抗体鎖の細胞分泌に必要であることが公知である。定常領域のグリコシル化は抗体のエフェクター機能において重要な役割を果たしていることが示されている。このグリコシル化がその正しい立体配置で生じない場合、該抗体は抗原に結合可能であるかもしれないが、例えば、マクロファージ、ヘルパーおよびサプレッサー細胞または補体に結合して、それが結合した細胞を遮断または細胞溶解するその役割を果たすことができないかもしれない。高グリコシル化タンパク質は血清半減期の増加を示すことが示されており、非グリコシル化形態と比較してタンパク質分解に対する感受性が低く、熱安定性が高い(Leatherbarrowら,Mol.Immunol.22:407(1985))。
癌免疫療法において最も一般的に使用される抗体であるIgG1型抗体は、保存されたN結合型グリコシル化部位を各CH2ドメイン内のAsn297に有する糖タンパク質である。Asn297に結合した2つの複合二分岐オリゴ糖はCH2ドメイン間に埋もれてポリペプチド骨格との広範な接触を形成し、それらの存在は、抗体が抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)のようなエフェクター機能を引き起こすのに不可欠である(Lifely,M.R.ら,Glycobiology 5:813−822(1995);Jefferis,R.ら,Immunol Rev.163:59−76(1998);Wright,A.およびMorrison,S.L.,Trends Biotechnol.15:26−32(1997))。CH2ドメイン内のアスパラギン297におけるIgGのグリコシル化は、補体依存性細胞溶解の古典的経路を活性化するIgGの完全な能力のためにも必要である(TaoおよびMorrison,J.Immunol.143:2595(1989))。
さらに、CH3ドメイン内のアスパラギン402におけるIgMのグリコシル化は該抗体の適切な構築および細胞溶解活性に必要である(MuraokaおよびShulman,J.Immunol.142:695(1989))。同様に、IgA抗体のCH1およびCH3ドメイン内の162および419位のグリコシル化部位の除去は細胞内分解および少なくとも90%の分泌抑制を招くことが示されている(TaylorおよびWall,Mol.Cell.Biol.8:4197(1988))。
可変(V)領域における免疫グロブリンのグリコシル化も観察されている。SoxおよびHood,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 66:975(1970)は、ヒト抗体の約20%がV領域においてグリコシル化されていることを報告している。Vドメインのグリコシル化はV領域配列におけるN結合グリコシル化シグナルAsn−Xaa−Ser/Thrの偶然的発生から生じると考えられており、免疫グロブリン機能において重要な役割を果たしているとは当技術分野で認識されていない。
アルファ−(1−6)デキストランに特異的なマウス抗体の抗原結合部位内の重鎖のCDR2におけるグリコシル化はデキストランに対するそのアフィニティーを増加させることが報告されている(Wallickら,J.Exp.Med.168:1099(1988)およびWrightら,EMBO J.10:2717(1991))。特許第6,933,368号を参照されたい。いくつかのクラスおよびサブクラスはO結合糖を、しばしばヒンジ領域内に有する(例えば、いくつかの種からのIgDおよびIgA)。
例えば、モノクローナル抗体の炭水化物構造内のフコースの非存在または二分岐N−アセチルグルコサミンの存在はADCCの効力と正に相関されている。特に、モノクローナル抗体上の脱フコシル化炭水化物残基は標的抗体のADCCの能力を3倍以上増強することが示されている。“Glycosylation of therapeutic proteins in different production systems” Acta Paediatrica,96:17−22(2007);Shieldsら,“Lack of Fucose on Human IgGl N−Linked Oligosaccharide Improves Binding to Human FcyRIII and Antibody−dependent Cellular Toxicity”,J.Biol.Chem.,277:26733−26740(2002)。同様に、ナチュラルキラー細胞のFcγRIIIa受容体のみと相互作用するモノクローナル抗体の特定の操作された糖形態は、種々のFc受容体と相互作用する不均一糖形態と比較して優れたADCCを示す。治療用タンパク質の特異的グリコシル化のための糖操作はインビボでの治療効果を改善しうるという結論が、集まったデータから導かれる。Umaa,P.ら,Nature Biotechnol.17:176−180(1999)を参照されたい。米国特許第5,624,821号;米国特許第6,602,684号;WO 00/42072およびWO 07/048122(それらのそれぞれの内容の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)も参照されたい。また、US serial No.2006/0182744も参照されたい。ADCCはFcドメインのグリコシル化に左右されるだけでなく、細胞性殺傷の度合は抗体のFc領域におけるグリカンの組成に対しても感受性である。
したがって、本発明は、関連実施形態において、本明細書に開示されている抗抗体(そのフラグメントを含む)のいずれか1以上の「操作糖形態(Engineered Glycoform)」を提供し、ここで、該抗体のグリコシル化プロファイルは、特定のタイプの癌または他の病態の治療におけるその使用を改善するために改変されている。
本明細書中で用いる「操作糖形態」は、Fcポリペプチドに共有結合した炭水化物組成物を意味し、ここで、該炭水化物組成物は親Fcポリペプチドの場合と化学的に異なる。操作糖形態は、エフェクター機能の増強または軽減(これに限定されるものではない)を含む種々の目的に有用でありうる。操作糖形態は、当技術分野で公知の種々の方法により製造されうる(Umanaら,1999,Nat Biotechnol 17:176−180;Daviesら,2001,Biotechnol Bioeng 74:288−294;Shieldsら,2002,J Biol Chem 277:26733−26740;Shinkawaら,2003,J Biol Chem 278:3466−3473);(米国特許第6,602,684号;U.S.Ser.No.10/277,370;U.S.Ser.No.10/113,929;PCT WO 00/61739A1;PCT WO 01/29246A1;PCT WO 02/31140A1;PCT WO 02/30954A1);(Potelligent(商標)technology[Biowa,Inc.,Princeton,N.J.];GlycoMAb(商標)glycosylation engineering technology[GLYCART biotechnology AG,Zurich,Switzerland))。これらの技術の多くは、例えば、操作されている又はされていない種々の生物または細胞系(例えば、Lec−13 CHO細胞またはラットハイブリドーマYB2/0細胞)においてFcポリペプチドを発現させることにより、あるいはグリコシル化経路に関与する酵素(例えば、FUT8[アルファ1,6−フコシルトランスフェラーゼ]および/またはベータ1−4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII[GnTIII])を調節することにより、あるいはFcポリペプチドが発現された後で炭水化物を修飾することにより、Fc領域に共有結合しているフコシル化および/または二分岐オリゴ糖のレベルを制御することに基づくものである。操作糖形態は、典型的には、異なる炭水化物またはオリゴ糖を意味し、したがって、Fcポリペプチド、例えば抗体またはFc融合体は、操作糖形態を含みうる。あるいは、操作糖形態は、異なる炭水化物またはオリゴ糖を含むFcポリペプチドを意味しうる。
本発明の範囲内に含まれる標的抗体の共有結合性修飾は、該ポリペプチドの天然グリコシル化パターンを改変することを含む。「天然グリコシル化パターンの改変」は、本発明の目的においては、天然標的抗体において見出される1以上の炭水化物部分を欠失させること、および/または天然標的抗体に存在しない1以上のグリコシル化部位を付加することを意味すると意図される。
さらにもう1つの実施形態においては、抗体のグリコシル化は修飾される。例えば、非グリコシル化抗体(すなわち、グリコシル化を欠く抗体)が製造されうる。グリコシル化は、例えば、抗原に対する該抗体のアフィニティーを増強するために改変されうる。そのような炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内の1以上のグリコシル化部位を改変することにより達成されうる。例えば、1以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の除去をもたらして、その部位のグリコシル化を除去する1以上のアミノ酸置換が施されうる。そのような非グリコシル化は抗原に対する該抗体のアフィニティーを増強しうる。そのようなアプローチは、Coらの米国特許第5,714,350号および第6,350,861号に更に詳細に記載されている。
それに加えて又はその代わりに、改変されたタイプのグリコシル化を有する抗体、例えば、低減された量のフコシル残基を有する低フコシル化抗体、または増加した二分岐GlcNac構造を有する抗体が製造されうる。そのような改変グリコシル化パターンは抗体のADCC能力を増強することが示されている。そのような炭水化物修飾は、例えば、改変されたグリコシル化装置を有する宿主細胞において該抗体を発現させることにより達成されうる。改変されたグリコシル化装置を有する細胞は当技術分野において記載されており、本発明の組換え抗体を発現させて、改変グリコシル化を有する抗体を製造するための宿主細胞として使用されうる。例えば、HanaiらのEP 1,176,195は、フコシルトランスフェラーゼをコードする機能的に損なわれたFUT8遺伝子を有する細胞系を記載しており、この場合、そのような細胞系内で発現される抗体は低フコシル化を示す。PrestaのPCT公開WO 03/035835は、変異CHO細胞系であるLec13細胞を記載しており、これは、Asn(297)結合炭水化物にフコースを結合させる能力が低下しており、また、その宿主細胞内で発現される抗体の低フコシル化をもたらす(Shields,R.L.ら(2002)J.Biol.Chem.277:26733−26740も参照されたい)。UmanaのPCT抗体WO 99/54342は、糖タンパク質修飾グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、ベータ(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII))を発現するように操作された細胞系を記載しており、この場合、該操作細胞系内で発現される抗体が、該抗体のADCC活性の増強をもたらす二分岐GlcNac構造の増加を示すようにされている(Umanaら(1999)Nat.Biotech.17:176−180も参照されたい)。
本明細書に開示されている抗体はC領域およびV領域の両方においてグリコシル化されうる。明らかに、C領域グリコシル化は、該抗体のクラスおよびサブクラスを本質的に定める個々の配列に左右される。別のところに記載されているとおり、抗体の多数のクラスは、保存されたN結合グリコシル化部位を定常ドメイン内に有する。例えば、全てのIgG抗体は、保存されたN結合グリコシル化部位をCH2ドメイン内の残基Asn297に有する。
治療用タンパク質の、2つの基本的な型のグリコシル化、すなわち、O結合およびN結合グリコシル化が公知である。O結合グリコシル化は該治療用タンパク質のペプチド骨格内のセリンまたはトレオニン残基へのN−アセチル−ガラクトサミンの結合により開始される。近位炭水化物は、成熟O−グリカン構造を形成するためのグリコシルトランスフェラーゼの標的である。O結合グリコシル化のための明らかなコンセンサスアミノ酸配列が存在しないため、タンパク質内のどこでO結合グリコシル化が生じるかを予測することは困難である(3,4)。しかし、O結合グリコシル化は、伸張したβターンのような二次構造要素により影響される。これとは対照的に、Nグリコシル化に関しては、コンセンサスアミノ酸配列が公知である。N−グリコシル化は、特定の配列モチーフ、すなわち、Asn−X−Thr/Ser(シークォンまたはコンセンサス配列;ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)において生じ、このコンセンサス配列は、該酵素を転移する前駆体に接近可能でなければならない。X=Proの場合、グリコシル化は生じない。βターン内のAsn−X−Thr/Ser配列はN結合グリコシル化によりタンパク質コンホメーションに影響を及ぼしうる。グリコシル化は最終タンパク質のフォールディングに先行するため、生じる治療用タンパク質の構造は改変されることがあり、非グリコシル化形態と比較した場合の活性または安定性における相違をもたらしうる。したがって、本発明の組換え抗体は、所望により、追加的なグリコシル化部位を再生または生成するように修飾されることが可能であり、これは、単に、適当なアミノ酸配列(例えば、Asn−X−Ser、Asn−X−Thr、SerまたはThr)を該抗体の一次配列内に組込むことにより達成される。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合またはO結合である。N結合はアスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を意味する。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)は該アスパラギン側鎖への該炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド内のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は潜在的グリコシル化部位を生成する。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはトレオニン)への糖N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースの1つの結合を意味する。尤も、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用されうる。
したがって、本発明の或る実施形態においては、親免疫グロブリン鎖を含む親抗体より高い、対応抗原(例えば、受容体または内因性結合相手)に対するアフィニティーを示す突然変異抗抗体を提供し、ここで、該突然変異免疫グロブリン鎖は、親免疫グロブリン鎖の可変領域グリコシル化部位を除去するアミノ酸置換を含み、該除去は、該親抗体と比較して該突然変異抗体のアフィニティーを増強する効果を有する。代替的実施形態は「非グリコシル化」変異体を想定している。
「グリコシル化部位」は、糖残基の結合のための位置としての、真核細胞により認識されるアミノ酸残基を意味する。炭水化物(例えば、オリゴ糖)が結合するアミノ酸は、典型的には、アスパラギン(N結合)、セリン(O結合)およびトレオニン(O結合)残基である。抗体または抗原結合性フラグメント内の潜在的グリコシル化部位を特定するためには、例えば、Center for Biological Sequence Analysis(N結合グリコシル化部位を予測するためには、http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/を、O結合グリコシル化部位を予測するためには、http://www.cbs.dtu.dk/services/NetOGlyc/を参照されたい)により提供されるウェブサイトのような公的に利用可能なデータベースを用いて、該抗体の配列を調べる。抗体のグリコシル化部位を改変するための追加的な方法が米国特許第6,350,861号および第5,714,350号に記載されている。
IgG抗体のグリコシル化状態を改変するために、以下の幾つかのアプローチが試されている:薬物ツニカマイシンの存在下で細胞を培養することによる、グリコシル化の抑制(Leatherbarrowら,1985;Walkerら,1989;Poundら,1993);オリゴ糖全体または特定の残基を除去する特異的グリコシダーゼでの糖タンパク質の処理(Tsuchiyaら,1989;Boydら,1995);あるいは炭水化物付加部位(Tao,Smithら,1993)またはコアオリゴ糖残基と接触するCH2領域内の残基(Lund,Takahashiら,1996)のいずれかを除去する部位特異的突然変異誘発。これらの研究は、炭水化物の存在が抗体機能に必須であることを証明している。
グリコシル化は、当技術分野で公知の方法により、例えば、哺乳類宿主細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞内または酵母内で抗体を製造することにより達成されうる。標的抗体へのグリコシル化部位の付加は、前記トリペプチド配列の1以上を含有するようにアミノ酸配列を改変することにより簡便に達成される(N結合グリコシル化の場合)。該改変は、天然標的抗体配列に対する1以上のセリンまたはトレオニン残基の付加または該残基による置換によっても行われうる(O結合グリコシル化部位の場合)。簡便のために、標的抗体アミノ酸配列は、好ましくは、DNAレベルでの変化により改変され、特に、所望のアミノ酸へと翻訳されるコドンが生じるように、予め選択された塩基において標的抗体コード化DNAを突然変異させることにより改変される。該DNA突然変異は、「標的抗体のアミノ酸配列変異体」の見出しで前記に記載されている方法を用いて施されうる。
免疫グロブリンHおよびL鎖の製造の場合、酵母は、細菌と比較して相当な利点をもたらす。酵母は、グリコシル化を含む翻訳後ペプチド修飾を行う。酵母内での所望のタンパク質の産生のための強力なプロモーター配列および高コピー数プラスミドを使用する幾つかの組換えDNA法が現在存在する。酵母はクローン化哺乳類遺伝子産物のリーダー配列を認識し、リーダー配列を含有するペプチド(すなわち、プレペプチド)を分泌する(Hitzmanら,11th International Conference on Yeast,Genetics and Molecular Biology,Montpelier,France,Sep.13−17,1982)。
標的抗体上の炭水化物部分の数を増加させるもう1つの手段は、ポリペプチドへのグリコシドの化学的または酵素的結合によるものである。これらの方法は、NおよびO結合グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞におけるポリペプチドの産生を要しない点で有利である。用いる結合法に応じて、糖は、(a)アルギニンまたはヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基(例えば、システインのもの)、(d)遊離ヒドロキシル基(例えば、セリン、トレオニンまたはヒドロキシプロリンのもの)、(e)芳香族残基(例えば、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンのもの)、あるいは(f)グルタミンのアミド基に結合されうる。これらの方法は、1987年9月11日付け発行のWO 87/05330ならびにAplinおよびWriston(CRC Crit.Rev.Biochem.,pp.259−306[1981])に記載されている。
さらに、主要種抗体またはその変異体は更に、グリコシル化変異を含むことが可能であり、その非限定的な例には、そのFc領域に結合したG1またはG2オリゴ糖構造を含む抗体、その軽鎖に結合した炭水化物部分(例えば、該抗体の1つ又は2つの軽鎖に結合した、例えば、1以上のリシン残基に結合した、1つ又は2つの炭水化物部分、例えば、グルコースまたはガラクトース)を含む抗体、1つ又は2つの非グリコシル化重鎖を含む抗体、あるいはその1つ又は2つの重鎖に結合したシアル酸化オリゴ糖を含む抗体などが含まれる。
免疫エフェクター機能は不要であり、あるいは或る臨床状況においては有害でさえある。本発明のもう1つの実施形態においては、抗体またはそのフラグメントが改変され、この場合、未修飾抗体と比較して少なくとも1つの定常領域媒介性生物学的エフェクター機能を軽減するために、該抗体の定常領域が修飾される。そのような修飾抗体は、しばしば、「非グリコシル化」抗体と称される。本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントの、抗原に対する結合アフィニティーを、Fc受容体へのその結合を最小化または軽減しつつ改善するために、該抗体は、Fc受容体(FcR)相互作用に必要な特定の領域において突然変異されうる(例えば、Canfield,S.M.およびS.L.Monison(1991)J.Exp.Med.173:1483−1491;ならびにLund,J.ら(1991)J.of Immunol.147:2657−2662を参照されたい)。抗体のFcR結合能の軽減は、FcR相互作用に基づく他のエフェクター機能、例えばオプソニン化および食作用ならびに抗原依存性細胞性細胞傷害をも軽減することが可能であり、抗体のグリコシル化部位は、例えば、突然変異誘発(例えば、部位特異的突然変異誘発)により改変されうる。その結果、そのような抗体は、Fc領域のグリコシル化に基づく実質的な免疫エフェクター機能を示さない。一般に及び好ましくは、本発明の非グリコシル化抗体はFcRnへの結合以外の実質的な免疫エフェクター機能を示さない。いくつかの実施形態においては、本発明の抗体またはそのフラグメントはFcRn結合以外のエフェクター機能を実質的に有さないか、または完全に欠いている。1つの実施形態においては、該エフェクター機能は補体細胞溶解である。1つの実施形態においては、該エフェクター機能は抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)である。1つの実施形態においては、該抗体フラグメントはFcRnに結合する。
非グリコシル化抗体は、当技術分野で公知の種々の方法により製造されうる。簡便な方法は、原核宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)において該抗体を発現させることを含む。炭水化物、例えばオリゴ糖が結合するアミノ酸は、典型的には、アスパラギン(N結合)、セリン(O結合)およびトレオニン(O結合)残基である。抗体または抗原結合性フラグメント内の潜在的グリコシル化部位を特定するためには、例えば、Center for Biological Sequence Analysis(N結合グリコシル化部位を予測するためには、http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/を、O結合グリコシル化部位を予測するためには、http://www.cbs.dtu.dk/services/NetOGlyc/を参照されたい)により提供されるウェブサイトのような公的に利用可能なデータベースを用いて、該抗体の配列を調べる。抗体のグリコシル化部位を改変するための追加的な方法が米国特許第6,350,861号および第5,714,350号に記載されている。
天然標的抗体上に存在する炭水化物部分の除去はまた、化学的または酵素的に達成されうる。化学的脱グリコシル化は、化合物トリフルオロメタンスルホン酸または同等化合物に該ポリペプチドをさらすことを要する。この処理は、該ポリペプチドを無傷のままに保ちつつ、結合糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)以外のほとんど又は全ての糖の切断をもたらす。化学的脱グリコシル化はHakimuddinら(Arch.Biochem.Biophys.,259:52[1987])およびEdgeら(Anal.Biochem.,118:131[1981])により記載されている。ポリペプチド上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakuraら(Meth.Enzymol.138:350[1987])により記載されているとおり、種々のエンド−およびエキソ−グリコシダーゼの使用により達成されうる。潜在的グリコシル化部位におけるグリコシル化は、Duskinら(J.Biol.Chem.,257:3105[1982])により記載されているとおり、化合物ツニカマイシンの使用により妨げられうる。ツニカマイシンはタンパク質−N−グリコシド結合の形成を遮断する。
したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントは、潜在的グリコシル化部位を減少させ又は除去するために修飾される。さらにもう1つの実施形態においては、該抗体またはそのフラグメントの定常領域は、未修飾抗体と比較して少なくとも1つの定常領域媒介性生物学的エフェクター機能を軽減するために修飾される。
C.抗体サルベージ受容体結合性エピトープ融合体
本発明の或る実施形態においては、例えば腫瘍浸透性を増強するために、完全抗体の代わりに抗体フラグメントを使用することが望ましいかもしれない。この場合、該抗体フラグメントを、その血清半減期を増加させるために修飾することが望ましいかもしれない。これは、例えば、サルベージ受容体結合性エピトープを抗体フラグメント内に組込むことにより(例えば、該抗体フラグメント内の適当な領域の突然変異により、あるいは、例えばDNAまたはペプチド合成により、後にいずれかの末端または内部において該抗体フラグメントに融合されるぺプチドタグ内に該エピトープを組込むことにより)達成されうる。
増加したインビボ半減期を有するそのような抗体変異体を製造するための体系的方法は幾つかの工程を含む。第1工程は、IgG分子のFc領域のサルベージ受容体結合性エピトープの配列およびコンホメーションを特定することを含む。このエピトープを特定したら、特定された結合性エピトープの配列およびコンホメーションを含有させるために、関心のある抗体の配列を修飾する。該配列を突然変異させた後、該抗体変異体を、それが、元の抗体より長いインビボ半減期を有するかどうかを調べるために試験する。試験に際して該抗体変異体がより長いインビボ半減期を有さない場合には、特定された結合性エピトープの配列およびコンホメーションを含有させるために、その配列を更に改変する。より長いインビボ半減期に関して該改変抗体を試験し、より長いインビボ半減期を示す分子が得られるまで、この方法を継続する。
このようにして関心抗体内に組込まれるサルベージ受容体結合性エピトープは、前記に記載されているようないずれかの適当なエピトープであり、その性質は、例えば、修飾される抗体のタイプに左右されるであろう。本明細書に記載されている生物活性を該関心抗体が尚も有するように、該導入を行う。
該エピトープは、一般に、Fcドメインのループの1以上からのいずれか1以上のアミノ酸残基が該抗体フラグメントの類似位置に導入される領域を構成する。より一層好ましくは、Fcドメインのループの1以上からの3個以上の残基が導入される。更に好ましくは、該エピトープは(例えば、IgGの)Fc領域のCH2ドメインから選択され、該抗体のCH1、CH3またはVH領域、あるいはそのような領域の2以上に導入される。あるいは、該エピトープはFc領域のCH2ドメインから選択され、該抗体フラグメントのCL領域もしくはVL領域またはそれらの両方に導入される。
D.抗体誘導体
本発明の抗体は、当技術分野で公知であり容易に入手可能な追加的な非タンパク質性部分を含有するように更に修飾されうる。好ましくは、該抗体の誘導体化に適した部分は水溶性重合体である。水溶性重合体の非限定的な例には、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(ホモ重合体またはランダム共重合体のいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモ重合体、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されるものではない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、その水中安定性による製造上の利点を有しうる。該重合体はいずれの分子量のものであってもよく、分枝上または非分枝状でありうる。該抗体に結合する重合体の数は様々であることが可能であり、2以上の重合体が結合する場合には、それらは、同じ又は異なる分子でありうる。一般に、誘導体化に使用される重合体の数および/またはタイプは、改善すべき抗体の個々の特性または機能、該抗体誘導体が所定条件下で治療に使用されるのかどうかなど(これらに限定されるものではない)を含む考慮事項に基づいて決定されうる。
該抗体の他の修飾も本発明において想定される。例えば、該抗体は、種々の非タンパク質性重合体、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体の1つに連結されうる。また、該抗体は、例えば、コアセルベーション技術または界面重合により調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタシラート)マイクロカプセル)、コロイド性薬物運搬系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルション内に封入されうる。そのような技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Oslo,A.編,(1980)に開示されている。
重合体安定化部分を用いるインビボ安定化−PEG化
標的抗体、例えば本発明の抗Her3抗体のいずれか1以上のもう1つのタイプの共有結合性修飾は、米国特許第4,640,835号、第4,496,689号、第4,301,144号、第4,670,417号、第4,791,192号または第4,179,337号に記載されている方法で、該標的抗体を種々の非タンパク質性重合体、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンに結合させることを含む。したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の抗体および抗体フラグメントは、例えば該ポリペプチドの溶解度、安定性および循環時間の増加または免疫原性の低下のような所望の効果を得るために化学修飾されうる。
該抗体またはそのフラグメント、ポリペプチドは、該分子内のランダムな位置で、または該分子内の予め決められた位置で修飾されることが可能であり、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の結合した化学的部分を含みうる。例えば、本発明の抗体または抗体フラグメントのPEG化は、当技術分野で公知のPEG化反応のいずれかにより行われうる。例えば、NishimuraらのEP 0 154 316およびIshikawaらのEP 0401 384を参照されたい。置換度を決定するための方法は、例えば、Delgadoら,Crit.Rev.Thera.Drug Carrier Sys.9:249−304(1992)に記載されている(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)。抗体をPEG化するためには、典型的には、1以上のPEG基が該抗体または抗体フラグメントに結合する条件下、該抗体またはそのフラグメントを、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば、PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体と反応させる。好ましくは、該PEG化は反応性PEG分子(または類似した反応性水溶性重合体)とのアシル化反応またはアルキル化反応により行われる。本明細書中で用いる「ポリエチレングリコール」なる語は、他のタンパク質、例えばモノ(C1−C10)アルコキシ−またはアリールオキシ−ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール−マレイミドを誘導体化するために使用されているPEGの形態のいずれかを含むと意図される。ある実施形態においては、PEG化されるべき抗体は非グリコシル化抗体である。
もう1つの態様においては、本発明抗体含有組成物から誘導された単一の免疫グロブリン可変ドメインが、(非ポリペプチド)重合体安定化部分との連結または結合により、インビボで安定化される。このタイプの安定化の例は例えばWO99/64460(Chapmanら)およびEP 1,160,255(Kingら)(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。特に、これらの参考文献は、合成重合体分子または天然に存在する重合体分子、例えばポリアルキレン、ポリアルケニレン、ポリオキシアルキレンまたは多糖の、免疫グロブリンポリペプチドのインビボ半減期を増加させるための使用を記載している。安定化部分の典型例は、ポリアルキレンであるポリエチレングリコール、すなわちPEGである。PEGを免疫グロブリンポリペプチドに連結するための方法はこれらの参考文献に記載されており、本明細書中では「PEG化」と称される。それらに記載されているとおり、免疫グロブリンポリペプチドは、該タンパク質の表面上のリシンまたは他のアミノ酸へのPEGの結合によりランダムに、あるいは例えば、人工的に導入された表面システイン残基へのPEG結合により部位特異的にPEG化されうる。該免疫グロブリンによっては、重合体結合の非ランダム法を用いることが好ましいかもしれない。なぜなら、該分子上の抗原結合部位またはその付近への結合によるランダム結合は、しばしば、該分子のその標的抗原に対するアフィニティーまたは特性を改変するからである。ポリエチレングリコールは、幾つかの種々の介在リンカーを使用することによっても、タンパク質に結合されうる。例えば、米国特許第5,612,460号(その全開示を参照により本明細書に組み入れることとする)は、ポリエチレングリコールをタンパク質に連結するためのウレタンリンカーを開示している。リンカーによりポリエチレングリコールがタンパク質に結合されているタンパク質−ポリエチレングリコールコンジュゲートは、MPEG−スクシンイミジルスクシナート、1,1’−カルボニルジイミダゾ−ルで活性化されたMPEG、MPEG−2,4,5−トリクロロペニルカルボナート、MPEG−p−ニトロフェノールカルボナートおよび種々のMPEG−スクシナート誘導体のような化合物とのタンパク質の反応によっても製造されうる。幾つかの他のポリエチレングリコール誘導体、およびポリエチレングリコールをタンパク質に結合させるための反応化学が、WO 98/32466(その全開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。本明細書に記載されている反応化学を用いて製造されたPEG化タンパク質産物は本発明の範囲内に含まれる。
介在リンカーを使用することなくタンパク質のアミノ酸残基にポリエチレングリコールを直接的に結合させるための1つの系は、トレシル化MPEGを使用するものであり、これは、トレシルクロリド(ClSO2CH2CF3)を使用するモノメトキシポリエチレングリコール(MPEG)の修飾により製造される。トレシル化MPEGとのタンパク質の反応に際して、ポリエチレングリコールは該タンパク質のアミン基に直接結合される。したがって、本発明は、2,2,2−トリフルオロエタンスルホニル基を有するポリエチレングリコール分子と本発明のタンパク質を反応させることにより製造されるタンパク質−ポリエチレングリコールコンジュゲートを含む。
本発明のPEG化抗体および抗体フラグメントを製造するための一般的方法は、一般に、(a)該抗体または抗体フラグメントが1以上のPEG基に結合する条件下、該抗体または抗体フラグメントをポリエチレングリコール(例えば、PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体)と反応させ、(b)反応産物を得る工程を含む。公知パラメーターおよび所望の結果に基づいて最適な反応条件またはアシル化反応を選択することは当業者に明らかであろう。
いくつかの結合方法、例えば、EP 0 401 384(これを参照により本明細書に組み入れることとする)の方法(G−CSFへのPEGのカップリング)が当業者に利用可能である。Malikら,Exp.Hematol.20:1028−1035(1992)(トレシルクロリドを使用するGM−CSFのPEG化を報告している)も参照されたい。例えば、ポリエチレングリコールは、反応性基、例えば遊離アミノまたはカルボキシル基によりアミノ酸残基を介して共有結合されうる。反応性基は、活性化ポリエチレングリコール分子が結合可能な基である。遊離アミノ基を有するアミノ酸残基にはリシン残基およびN末端アミノ酸残基が含まれうる。遊離カルボキシル基を有するアミノ酸残基にはアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基およびC末端アミノ酸残基が含まれうる。ポリエチレングリコール分子を結合させるための反応性基として、スルフヒドリル基も用いられうる。治療目的に好ましいのは、アミノ基における結合、例えば、N末端またはリシン基における結合である。
前記で示唆されているとおり、ポリエチレングリコールは幾つかのアミノ酸残基のいずれかへの連結によりタンパク質に結合されうる。前記のとおり、本発明のタンパク質のPEG化は多数の手段により達成されうる。例えば、ポリエチレングリコールは直接的に又は介在リンカーにより該タンパク質に結合されうる。ポリエチレングリコールをタンパク質に結合させるための無リンカー系がDelgadoら,Crit.Rev.Thera.Drug Carrier Sys.9:249−304(1992);Francisら,Intern.J.of Hematol.68:1−18(1998);米国特許第4,002,531号;米国特許第5,349,052号;WO 95/06058;およびWO 98/32466(それらのそれぞれの開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。例えば、ポリエチレングリコールは、リシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはシステイン残基への共有結合によりタンパク質に連結されうる。該タンパク質の特定のアミノ酸残基(例えば、リシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはシステイン)または該タンパク質の2以上のタイプのアミノ酸残基(例えば、リシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システインおよびそれらの組合せ)にポリエチレングリコールを結合させるために、1以上の反応化学法が用いられうる。
N末端で化学修飾されたタンパク質が特に望ましいかもしれない。本組成物の例示としてポリエチレングリコールを使用して、反応混合物中のタンパク質(またはペプチド)分子に対するポリエチレングリコール分子の比率、行われるPEG化反応のタイプ、および選択されたN末端PEG化タンパク質の入手方法を(分子量、分枝などにより)種々のポリエチレングリコール分子から選択することが可能である。N末端PEG化調製物を入手する(すなわち、必要に応じて、他のモノ−PEG化部分からこの部分を分離する)方法は、PEG化タンパク質分子の集団からN末端PEG化物質を精製することによるものでありうる。N末端で化学修飾された選択的タンパク質は、特定のタンパク質における誘導体化に利用可能な、異なるタイプの第一級アミノ基(リシン対N末端)の反応性の差を利用する還元的アルキル化により得られうる。適当な反応条件下、カルボニル基含有重合体でのN末端における該タンパク質の実質的に選択的な誘導体化が達成される。
該重合体は任意の分子量のものであることが可能であり、分枝状または非分枝状でありうる。分枝状ポリエチレングリコールは、例えば米国特許第5,643,575号;Morpurgoら,Appl.Biochem.Biotechnol.56:59−72(1996);Vorobjevら,Nucleosides Nucleotides 18:2745−2750(1999);およびCalicetiら,Bioconjug.Chem.10:638−646(1999)(それらのそれぞれの開示を参照により本明細書に組み入れることとする)。ポリエチレングリコールの場合、取り扱い及び製造のし易さの点で、好ましい分子量は約1kDa〜約100kDaである(「約」なる語は、ポリエチレングリコールの調製物において、示されている分子量より重い分子もあれば、軽い分子もあることを示す)。所望の治療プロファイル(例えば、望ましい徐放の持続時間、生物活性に対する効果が存在する場合にはその効果、取り扱いやすさ、抗原性の度合または欠如、および治療用タンパク質または類似体に対するポリエチレングリコールの他の公知効果)に応じて、他のサイズも用いられうる。
PEGまたは別の重合体の付加が抗体可変ドメインポリペプチドの抗原結合アフィニティーまたは特異性を妨げないことが好ましい。「抗原結合アフィニティーまたは特異性を妨げない」は、該PEG結合抗体単一可変ドメインが、同じ単一可変ドメインを有する非PEG結合抗体可変ドメインのそれぞれIC50またはND50よりせいぜい10%大きいIC50またはND50を有することを意味する。あるいは、「抗原結合アフィニティーまたは特異性を妨げない」は、抗体単一可変ドメインのPEG結合形態が該ポリペプチドの非PEG化形態の抗原結合活性の少なくとも90%を保有することを意味する。
PEG化抗体および抗体フラグメントは、一般に、本明細書に記載されている抗体および抗体フラグメントの投与により緩和または調節(モジュレーション)されうる状態を治療するために使用されうる。一般に、該PEG化抗体および抗体フラグメントは、非PEG化抗体および抗体フラグメントと比較して増加した半減期を有する。該PEG化抗体および抗体フラグメントは単独で又は他の医薬組成物と組合せて使用されうる。
また、該標的抗体は、例えば、コアセルベーション技術または界面重合により調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−[メチルメタシラート]マイクロカプセル)、コロイド性薬物運搬系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルション内に封入されうる。そのような技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Oslo,A.編,(1980)に開示されている。
抗体被覆リポソームおよび治療剤(イムノリポソーム)
リポソーム製剤は、しばしば、治療剤および医薬において使用される。しかし、初期研究におけるリポソームの生体分布は、そのような製剤がヒトにおける使用に広範には適用できないことを意味していた。したがって、より長時間にわたてリポソームが循環することを可能にする「ステルス(stealth)またはステルス化(stealthed)」リポソームおよび製剤が開発された。リポソームのステルス化に使用するのに好ましい物質はポリエチレングリコール(PEG)であり、得られるリポソームはPEG化リポソームとも称される。
本明細書に開示されている抗体またはそのフラグメントはいずれも、イムノリポソームとして製剤化されうる。該抗体を含有するリポソームは、当技術分野で公知の方法、例えば、Epsteinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688(1985);Hwangら,Proc.Natl.Acad Sci.USA 77:4030(1980);ならびに米国特許第4,485,045号および第4,544,545号に記載されている方法により製造される。増加した循環時間を有するリポソームが米国特許第5,013,556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を使用する逆相蒸発法により作製されうる。リポソームは、定められた細孔径のフィルターを通して押出されて、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab’フラグメントは、ジスルフィド交換反応により、Martinら,J.Biol.Chem.257:286−288(1982)に記載されているとおりにリポソームにコンジュゲート化されうる。場合によっては、該リポソーム内に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)が含有される。Gabizonら,J.National Cancer Inst.81(19):1484(1989)を参照されたい。
ステルスリポソームは癌患者における腫瘍への細胞毒性物質の運搬における使用に関しても提示されている。シスプラチン(Rosenthalら,2002)、TNFアルファ(Kimら,2002)、ドキソルビシン(Symonら,1999)およびアドリアマイシン(Singhら,1999)(各参考文献を具体的に参照により本明細書に組み入れることとする)を含む或る範囲の薬物がステルスリポソーム内に取り込まれている。しかし、最近の報告は、転移乳癌の治療における、ステルスリポソーム性ドキソルビシンおよびビノレルビンの、予想外の低い効力を示している(Rimassaら,2003)。米国特許出願第20040170620号(その内容の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)も参照されたい。
したがって、ある実施形態においては、本発明は、改良されたステルス化リポソーム製剤を提供し、ここで、該ステルス化リポソームは、アミノリン脂質またはアニオン性リン脂質、好ましくはPSまたはPEに結合する抗体に機能的に結合または「被覆」されている。アミノリン脂質またはアニオン性リン脂質に結合する任意の抗体またはその抗原結合領域が使用されうるが、本発明の9D2、3G4(ATCC 4545)および同様の競合抗体がそのような用途に好ましい。
任意のステルス化リポソームが新規リポソーム製剤の基礎を形成しうる。好ましくは、PEG化リポソームが使用される。該ステルス化リポソームは「被覆」される。すなわち、該ステルス化リポソームは、アミノリン脂質またはアニオン性リン脂質に結合する抗体に作動的または機能的に結合される。標的アミノリン脂質またはアニオン性リン脂質、好ましくはPSまたはPEに特異的に結合し、それにより、該ステルス化リポソームおよびその内容物をPS−および/またはPE−陽性細胞(例えば、腫瘍細胞および腫瘍血管内皮細胞)へ運搬または標的化する能力を該抗体が保有するように、該作動的または機能的結合は行われる。
本発明の抗体被覆ステルス化リポソームは単独で使用されうる。しかし、好ましくは、そのようなリポソームは1以上の第2治療用物質、例えば抗癌または化学療法剤をも含有する(第1治療用物質は該抗体自体である)。第2治療用物質は、一般に、該リポソームの「コア」内に存在すると説明される。抗体へのコンジュゲート化のための又は併用療法のための当技術分野で公知であり及び/又は本明細書に記載されている第2の抗癌または化学療法剤のいずれか1以上、例えば、いずれかの化学療法もしくは放射線治療剤、サイトカイン、抗血管新生剤またはアポトーシス誘導剤が、本発明の抗体被覆ステルス化リポソームにおいて使用されうる。ある実施形態においては、好ましい化学療法剤は抗チューブリン薬、ドセタクセル(docetaxel)およびパクリタクセル(paclitaxel)である。
さらに、本発明の抗体被覆ステルス化リポソームに、ウイルス感染および疾患の治療に使用する1以上の抗ウイルス薬を充填することも可能である。抗癌剤の場合と同様に、抗体へのコンジュゲート化のための又は併用療法のための当技術分野で公知であり及び/又は本明細書に記載されている第2の抗ウイルス薬のいずれか1以上が本発明の抗体被覆ステルス化リポソームにおいて使用されうる。
本発明の他の実施形態においては、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントは、当技術分野で認識されている技術を用いてアルブメンにコンジュゲート化される。
該抗体の血清半減期を増加させるために、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されているとおりに、サルベージ受容体結合性エピトープを該抗体(特に抗体フラグメント)内に組込むことが可能である。本明細書中で用いる「サルベージ受容体結合性エピトープ」なる語は、IgG分子のインビボ血清半減期の増加をもたらす、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFe領域のエピトープを意味する。
種および分子選択性
本発明の抗Her3抗体(その結合性フラグメントを含む)は種および分子の両方の選択性を示す。1つの態様においては、本発明の抗Her3抗体はヒトHer3に結合する。本明細書の教示に従い、当技術分野でよく知られた方法を用いて、抗Her3抗体に対する種選択性を決定することが可能である。例えば、ウエスタンブロット、FACS、ELISAまたはRIAを用いて、種選択性を決定することが可能である。好ましい実施形態においては、ウエスタンブロットを用いて、種選択性を決定することが可能である。
同様に、本明細書の教示に従い、当技術分野でよく知られた方法を用いて、Her3に対する抗Her3抗体の選択性を決定することが可能である。例えば、ウエスタンブロット、FACS、ELISAまたはRIAを用いて、分子選択性を決定することが可能である。好ましい実施形態においては、ウエスタンブロットを用いて、分子選択性を決定することが可能である。
裸抗体療法
裸完全ヒト抗Her3抗体またはそのフラグメントの治療的有効量は、医薬上許容される賦形剤中に製剤化されうる。また、該裸完全ヒトHer3抗体およびそのフラグメントの効力は、該Her3抗体またはそのフラグメントと同時に又は連続的に又は処方投与計画に従い投与される1以上の他の裸抗体、1以上の治療剤(薬物、毒素、免疫調節薬、ホルモン、オリゴヌクレオチド、ホルモンアンタゴニスト、酵素、酵素インヒビター、治療用放射性核種、血管新生インヒビターなどを含む)にコンジュゲート化された本発明の完全ヒトHer3抗体のイムノコンジュゲートの1以上でこれらの裸抗体を補足することにより増強されうる。
イムノリポソーム
本明細書に開示されている抗Her3抗体はイムノリポソームとしても製剤化されうる。該抗体を含有するリポソームは、例えばEpsteinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985);Hwangら,Proc.Natl Acad.Sci.USA,77:4030(1980);ならびに米国特許第4,485,045号および第4,544,545号に記載されている当技術分野で公知の方法により製造される。増加した循環時間を有するリポソームが米国特許第5,013,556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を使用する逆相蒸発法により製造されうる。リポソームは、定められた細孔径のフィルターを通して押出されて、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab’フラグメントは、ジスルフィド交換反応により、Martinら,J.Biol.Chem.257:286−288(1982)に記載されているとおりにリポソームにコンジュゲート化されうる。場合によっては、該リポソーム内に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)が含有される。Gabizonら,J.National Cancer Inst.81(19):1484(1989)を参照されたい。
抗体依存性酵素媒介性プロドラッグ療法(ADEPT)
本発明の抗体は、プロドラッグ(例えば、ペプチド性化学療法剤;WO81/01145を参照されたい)を活性抗癌薬に変換するプロドラッグ活性化酵素に該抗体をコンジュゲート化することにより、ADEPTにおいても使用されうる。例えば、WO 88/07378および米国特許第4,975,278号を参照されたい。
ADEPTに有用なイムノコンジュゲートの酵素成分には、プロドラッグをより活性なその細胞毒性形態に変換するように該プロドラッグに作用しうる任意の酵素が含まれる。
本発明の方法において有用な酵素には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ホスファート含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアルカリホスファターゼ;スルファート含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアリールスルファターゼ;無毒性5−フルオロシトシンを抗癌薬5−フルオロウラシルに変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なプロテアーゼ、例えばセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、ズブチリシン、カルボキシペプチダーゼおよびカテプシン(例えば、カテプシンBおよびL);D−アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに有用なD−アラニルカルボキシルペプチダーゼ;グリコシル化プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用な炭水化物切断酵素、例えばベータ−ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼ;ベータラクタムで誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用なベータ−ラクタマーゼ;ならびにペニシリンアミダーゼ、例えばフェノキシルアセチルまたはフェニルアセチル基でアミン窒素において誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用なそれぞれペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼ。あるいは、「アブザイム」としても当技術分野で公知である酵素活性を有する抗体が、本発明のプロドラッグを遊離活性薬に変換するために使用されうる(Massey,Nature 328:457−458(1987))。抗体−アブザイムコンジュゲートは、腫瘍細胞集団への該アブザイムの運搬のために、本明細書に記載されているとおりに製造されうる。
本発明の酵素は、当技術分野でよく知られた技術により、例えば、前記のヘテロ二官能性架橋試薬を使用することにより、抗体突然変異体に共有結合されうる。あるいは、少なくとも本発明の酵素の機能的に活性な部分に連結された本発明の抗体の抗原結合領域を少なくとも含む融合タンパク質が、当技術分野でよく知られた組換えDNA技術を用いて構築されうる(Neubergeretら,Nature 312:604−608(1984))。
触媒抗体または「アブザイム」として公知である、酵素活性を有する抗体が、プロドラッグを活性薬物に変換するために使用されうる。したがって、本発明の抗体、好ましくは9D2および3G4ならびに同様の抗体に基づくアブザイムは本発明のもう1つの態様を構成する。Masseyら(1987)(アブザイムの教示を補足する目的で、それを参照により本明細書に具体的に組み入れることとする)に例示されているとおり、当業者は、アブザイムを製造するための技術的能力を有する。さらに、EP 745,673(それを参照により本明細書に具体的に組み入れることとする)に記載されているとおり、カルバマート位におけるプロドラッグ(例えば、ナイトロジェンマスタードアリールカルバマート)の切断を触媒しうる触媒抗体が想定される。
所望の特性を有する抗体のスクリーニング
抗体を製造するための技術は前記に記載されている。本発明の抗体は、当技術分野で公知の種々のアッセイにより、その物理的/化学的特性および生物学的機能に関して特徴づけられうる。いくつかの実施形態においては、抗体は、Her3受容体タンパク質への結合、ならびに/またはHer3受容体活性化の軽減もしくは遮断、ならびに/またはHer3受容体下流分子シグナリングの軽減もしくは遮断、ならびに/またはHer3受容体のその天然リガンド(例えば、セレイト(serrate)またはデルタなど)への結合の破壊もしくは遮断、ならびに/または内皮細胞増殖の促進、ならびに/または内皮細胞分化の抑制、ならびに/または動脈分化の抑制、ならびに/または腫瘍脈管潅流の抑制、ならびに/または腫瘍、細胞増殖障害もしくは癌の治療および/もしくは予防、ならびに/またはHer3の発現および/もしくは活性に関連した障害の治療もしくは予防、ならびに/またはHer3受容体の発現および/もしくは活性に関連した障害の治療もしくは予防のいずれか1以上に関して特徴づけられる。
ある実施形態においては、抗体は、ある生物学的特性、例えば、本発明の抗Her3抗体の成長抑制効果の評価に基づいて選択されうる。この特性は、例えば、Her3受容体を内因的に又はHer3受容体遺伝子のトランスフェクションの後で発現する細胞を使用して、当技術分野で公知の方法により評価されうる。例えば、腫瘍細胞系およびHer3受容体トランスフェクト化細胞を種々の濃度の本発明の抗Her3受容体モノクローナル抗体で数日間(例えば、2〜7日間)処理し、クリスタルバイオレットまたはMTTで染色し、あるいは何らかの他の比色アッセイにより分析することが可能である。増殖を測定するもう1つの方法は、本発明の抗Her3受容体抗体の存在下または非存在下で処理された細胞による3H−チミジン取り込みを比較することによるものであろう。抗体処理後、該細胞を集め、DNA内に取り込まれた放射活性の量をシンチレーションカウンターにより定量する。適当な陽性対照は、選択された細胞系を、その細胞系の成長を抑制することが知られている成長抑制抗体で処理することを含む。好ましくは、該Her3受容体アゴニストは、約0.5〜30μg/mlの抗体濃度で、インビトロまたはインビボでのHer3受容体発現腫瘍細胞の細胞増殖を、未処理腫瘍細胞と比較して約25〜100%、より好ましくは約30〜100%、より一層好ましくは約50〜100%または70〜100%抑制する。成長抑制は細胞培養内で約0.5〜30μg/mlまたは約0.5nM〜200nMの抗体濃度で測定されることが可能であり、この場合、該成長抑制は該抗体への腫瘍細胞の曝露の1〜10日後に決定される。該抗体がインビボで成長抑制性であると言えるのは、約1μg/kg〜約100mg/kg体重の該抗Her3受容体抗体の投与が該抗体の最初の投与から約5日〜3ヶ月以内に腫瘍サイズまたは腫瘍細胞増殖の減少を引き起こす場合である。
該精製抗体は、N末端配列決定、アミノ酸分析、非変性サイズ排除高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析、イオン交換クロマトグラフィーおよびパパイン消化(これらに限定されるものではない)を含む一連のアッセイにより更に特徴づけられうる。
本発明の抗体またはその結合性フラグメントを使用してHer3を検出するためのアッセイ方法は特には限定されない。被験流体中の抗原の量(例えば、Her3のレベル)に対応する抗体、抗原または抗体−抗原複合体の量が化学的または物理的手段により検出可能であり、既知量の該抗原を含有する標準溶液から作成された標準曲線から該抗原の量が計算可能である限り、任意のアッセイ方法が用いられうる。本発明に含まれる代表的イムノアッセイには以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:米国特許第4,367,110号(二重モノクローナル抗体サンドイッチアッセイ);Wideら,KirkhamおよびHunter編,Radioimmunoassay Methods,E.and S.Livingstone,Edinburgh(1970);米国特許第4,452,901号(ウエスタンブロット);Brownら,J.Biol.Chem.255:4980−4983(1980)(標識リガンドの免疫沈降);ならびにBrooksら,Clin.Exp.Immunol.39:477(1980)(免疫細胞化学)に記載されているもの;光学顕微鏡、フローサイトメトリーまたは蛍光測定検出と組合された蛍光標識抗体を使用する免疫蛍光技術など。また、Immunoassays for the 80’s,A.Vollerら編,University Park,1981,Zola,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,pp.147−158(CRC Press,Inc.1987)を参照されたい。
(1)サンドイッチアッセイは、検出すべきタンパク質の、異なる免疫原性部分またはエピトープに、それぞれが結合しうる2つの抗体の使用を含む。サンドイッチアッセイにおいては、試験サンプルアナライトは、固体支持体上に固定化された第1抗体に結合し、ついで第2抗体が該アナライトに結合して、不溶性三成分複合体を形成する。例えば、米国特許第4,376,110号を参照されたい。第2抗体は、それ自体が、検出可能部分で標識されることが可能であり(直接サンドイッチアッセイ)、あるいは、検出可能部分で標識された抗免疫グロブリン抗体を使用して検出されることが可能である(間接サンドイッチアッセイ)。例えば、1つのタイプのサンドイッチアッセイはELISAアッセイであり、この場合、検出可能部分は酵素である。
サンドイッチアッセイにおいては、本発明の固定化抗体を試験流体と反応させ(一次反応)、ついで本発明の抗体の標識形態と反応させ(二次反応)、該固定化担体上の標識物質の活性を測定し、それにより、該試験流体中のHer3レベルを定量することが可能である。該一次反応および二次反応は同時に又は或る時間間隔で行われうる。標識および固定化の方法は前記方法の変法により行われうる。サンドイッチアッセイによるイムノアッセイにおいては、固定化または標識抗体に使用される抗体は必ずしも1つの種に由来するわけではなく、2以上の種の抗体の混合物を使用して測定感度などを向上させることが可能である。サンドイッチアッセイによりHer3をアッセイする方法においては、例えば、一次反応において使用される抗体がHer3のC末端領域の部分ペプチドを認識する場合には、二次反応において使用される抗体は、好ましくは、該C末端領域以外の部分ペプチド(すなわち、N末端領域)を認識するものである。一次反応に使用される抗体がHer3のN末端領域の部分ペプチドを認識する場合には、二次反応において使用される抗体としては、N末端領域以外の部分ペプチド(すなわち、C末端領域)を認識する抗体が好ましく使用される。
Her3を検出するのに同様に有用でありうる他のタイプの「サンドイッチ」アッセイとしては、いわゆる「同時」および「リバース」アッセイが挙げられる。同時アッセイは、固体支持体に結合した抗体および標識抗体の両方を同時に被験サンプルに加える単一のインキュベーション工程を含む。該インキュベーションが完了した後、該固体支持体を洗浄して、未複合体化標識抗体および流体サンプルの残留物を除去する。ついで、該固体支持体に結合した標識抗体の存在を、通常の「フォワード」サンドイッチアッセイと同様にして決定する。
「リバース」アッセイにおいては、まず、標識抗体の溶液を流体サンプルに逐次的に加え、ついで、適当なインキュベーション時間の後、固体支持体に結合した未標識抗体を加える。第2のインキュベーションの後、該固相を常法で洗浄して、未反応標識抗体の溶液および被験サンプルの残留物からそれを除去する。ついで、「同時」および「フォワード」アッセイの場合と同様にして、固体支持体に結合した標識抗体の測定を行う。1つの実施形態においては、高感度三部位免疫放射線アッセイを構築するために、別々のエピトープに特異的な本発明の抗体の組合せが使用されうる。
また、このタイプのアッセイは、Her3発現を、どのような「サンプル」においてそれが生じる場合であっても、定量するために使用されうる。したがって、ある態様においては、該サンドイッチアッセイは、
(i)担体上に固定化されたHer3のN末端領域の部分ペプチドと特異的に反応する抗体、C末端領域の部分ペプチドと特異的に反応する抗体の標識形態、および試験流体を反応させ、該標識の活性を測定することを含む、試験流体中のHer3の発現レベルを定量するための方法、または
(ii)担体上に固定化されたHer3のC末端領域の部分ペプチドと特異的に反応する抗体、該Her3の標識形態のN末端領域の部分ペプチドと特異的に反応する抗体、および試験流体を反応させ、該標識の活性を測定することを含む、試験流体中のHer3発現を定量するための方法などを含む。
(2)競合アッセイ
競合結合アッセイは、限られた量の抗体との結合に関して、標識された標準物が試験サンプルアナライトと競合しうることに基づく。試験サンプル中のHer3タンパク質の量は、該抗体に結合する標準物の量に反比例する。結合する標準物の量の測定を促進するために、該抗体に結合した標準物およびアナライトが、未結合のままの標準物およびアナライトから簡便に分離されうるように、該抗体は、一般に、該競合の前または後に不溶化される。
Her3発現のレベルを定量するために、当業者は、本発明の抗体またはそのフラグメント、試験流体および標識形態のHer3を一緒にし、および/または競合的に反応させ、該抗体またはそのフラグメントに結合した標識Her3の比を測定し、それにより該試験流体中のHer3を定量することが可能である。
(3)免疫測定アッセイ
免疫測定(immunometric)アッセイにおいては、試験流体中の抗原および固相抗原を、与えられた量の本発明の抗体の標識形態と競合的に反応させ、ついで該固相を該液相から分離し、あるいは試験流体中の抗原および過剰量の本発明の抗体の標識形態を反応させ、ついで固相抗原を加えて、未反応の本発明の抗体の標識形態を該固相に結合させ、ついで該固相を該液相から分離する。ついで、それらの相のいずれかの標識量を測定して、該試験流体中の抗原レベルを決定する。
典型的および好ましい免疫測定アッセイには、「フォワード」アッセイが含まれ、この場合、固相に結合した抗体を、まず、被験サンプルと接触させて、二成分固相抗体−Her3複合体の形成により、該サンプルからHer3を抽出する。適当なインキュベーション時間の後、該固体支持体を洗浄して、未反応Her3(存在する場合)を含む流体サンプルの残留物を除去し、ついで、既知量の標識抗体(これは「レポーター分子」として機能する)を含有する溶液と接触させる。未標識抗体を介して固体支持体に結合したHer3と該標識抗体が複合体を形成するのを可能にする第2のインキュベーション時間の後、該固体支持体を再び洗浄して、未反応標識抗体を除去する。このタイプのフォワードサンドイッチアッセイは、Her3が存在するかどうかを決定するための単純な「有/無」アッセイであることが可能であり、あるいは、標識抗体の尺度を、既知量のHer3を含有する標準サンプルに関して得られた尺度と比較することにより、定量的にされうる。そのような「二部位」または「サンドイッチ」アッセイはWide(Radioimmune Assay Method,Kirkham編,Livingstone,Edinburgh,1970,pp.199 206)により記載されている。
(4)ネフェロメトリー
ネフェロメトリー(nephrometry)においては、ゲル内または溶液内の抗原−抗体反応の結果として生じる不溶性沈降物の量を測定する。試験流体中の抗原の量が少なく、少量の沈降物しか得られない場合であっても、レーザー散乱を利用するレーザーネフェロメトリーが好適に用いられうる。
標識物質を使用する前記アッセイ法(1)〜(4)において使用されうる標識物質の具体例には、放射性同位体(例えば、125I、131I,3H、14C、32P、33P、35Sなど)、蛍光物質、例えば、シアニン蛍光色素(例えば、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7)、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアナートなど、酵素(例えば、ベータ−ガラクトシダーゼ、ベータ−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼなど)、発光物質(例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)、ビオチン、ランタニドなどが含まれる。また、抗体を標識物質に結合させるためにビオチン−アビジン系も用いられうる。
抗原または抗体の固定化においては、物理的吸着が用いられうる。あるいは、タンパク質、酵素などの固定化に通常用いられる化学的結合も用いられうる。担体の具体例には、不溶性多糖、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなど;合成樹脂、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコーンなど;またはガラスなどが含まれる。
ある実施形態においては、本発明の抗体を、その抗原結合活性に関して試験する。当技術分野で公知であり本発明で用いられうる抗原結合アッセイには、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、蛍光イムノアッセイおよびプロテインAイムノアッセイのような技術を用いるいずれかの直接または競合結合アッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。例示的な抗原結合アッセイが本明細書に記載されている。
いくつかの実施形態においては、抗Her3抗体の結合アフィニティーを決定する。本発明の抗体は、好ましくは、少なくとも約1×10−7M、より好ましくは少なくとも約1×10−8M、より好ましくは少なくとも約1×10−9M、最も好ましくは少なくとも約1×10−10Mの、Her3に対する結合アフィニティー(KD)を有する。本発明の好ましい抗体産生細胞は、少なくとも約1×10−7M、より好ましくは少なくとも約1×10−8M、より好ましくは少なくとも約1×10−9M、最も好ましくは少なくとも約1×10−10Mの、Her3に対する結合アフィニティーを有する抗体を実質的に専ら産生する。本発明の好ましい組成物は、少なくとも約1×10−7M、より好ましくは少なくとも約1×10−8M、より好ましくは少なくとも約1×10−9M、最も好ましくは少なくとも約1×10−10Mの、Her3に対する結合アフィニティーを有する抗体を実質的に専ら含む。
本発明のもう1つの態様においては、本発明の抗体は、付録IまたはIIの1つに記載されている群から選択されるアミノ酸配列の1つを含む抗体と実質的に同じKDでHer3に結合する。もう1つの実施形態においては、該抗体は、本明細書に記載のアミノ酸配列の1つを含む抗体からの1以上のCDRを含む抗体と実質的に同じKDでHer3に結合する。
本発明の抗Her3抗体または本明細書に開示されている方法を用いて特定される抗Her3抗体は低い解離速度を有する。1つの実施形態においては、該抗Her3抗体は、1×10−4以下のKoff、好ましくは、5×10−5以下のKoffを有する。
もう1つの実施形態においては、本発明の抗体または本発明の方法を用いて特定もしくは製造される抗体は、本明細書に開示されている1以上のCDRを含む抗体と実質的に同じKoffでHer3に結合する。アフィニティー分析のための例示的なアッセイが本明細書に記載されている。
エピトープに関するアフィニティー分析
アフィニティーは絶対的または相対的でありうる。絶対的アフィニティーは、アフィニティーに関するアッセイが別の化合物に対する1つの化合物のアフィニティーの一定の数的決定値を与えることを意味する。被験複合体のアフィニティーと、結合アフィニティーが既知である基準化合物のアフィニティーとの比較は、試験リガンドの相対結合アフィニティーの決定を可能にする。
1つの分子の、別の分子に対するアフィニティーは、それが絶対的であるか相対的であるかにかかわらず、当技術分野で公知のいずれかの方法により測定されうる。そのような方法の非限定的な具体例には、競合アッセイ、表面プラズモン共鳴、半最大(half−maximal)結合アッセイ、競合アッセイ、スキャッチャード分析、直接力(direct force)技術(Wongら,Direct force measurements of the streptavidin−biotin interaction,Biomol.Eng.16:45−55,1999)および質量分析(Downard,Contributions of mass spectrometry to structural immunology,J.Mass Spectrom.35:493−503,2000)が含まれる。
Her3に対する抗体の結合アフィニティーおよび解離速度は、当技術分野で公知のいずれかの方法により決定されうる。例えば、結合アフィニティーは、競合ELISA、RIAまたは表面プラズモン共鳴、例えばBIAcoreにより測定されうる。該解離速度も表面プラズモン共鳴により測定されうる。あるいは、該結合アフィニティーおよび解離速度は表面プラズモン共鳴により測定される。さらに、該結合アフィニティーおよび解離速度は、BIAcoreを用いて測定される。簡潔な説明については、後記を参照されたい(本発明は、本明細書に詳細に記載されている具体的なアッセイに限定されないと理解される)。
1.絶対アフィニティー
絶対アフィニティーに関しては、「低いアフィニティー」は、2つの分子間の解離定数(KD)が約10−5M〜10−7Mである結合を意味する。「中等度のアフィニティー」は、2つの分子間の解離定数(KD)が少なくとも約10−7M〜10−8Mである結合を意味する。「高いアフィニティー」は、2つの分子間の結合定数が少なくとも約10−8M〜約10−14M、好ましくは約10−9M〜約10−14M、より好ましくは約10−10M〜約10−14M、最も好ましくは約10−14M以上である結合を意味する。
解離定数KDは、1つの種から2つの種への解離、例えば、2以上の分子の複合体のその成分への解離、例えば、酵素から基質の解離に関する平衡定数である。本発明の組成物に関する典型的なKD値は約10−7M(100nM)〜約10−12M(0.001nM)である。安定度定数は、ある1つの種がその成分部分から生成される傾向を表す平衡定数である。安定度定数が大きければ大きいほど、該種は安定である。該安定度定数(生成定数)は不安定度定数(解離定数)の逆数である。
標的エピトープに対する本発明抗体のアフィニティー、または担体エピトープに対する二重特異性抗体のアフィニティーは、非共有結合性相互作用により駆動される。分子間には以下の4つの主な非共有結合性誘引力が生じる:(i)反対に荷電した分子(例えば、アミノ基とカルボキシル基)の間で生じる静電気力、(ii)水素原子が電気的陰性原子(例えば、窒素および酸素)の間で共有された場合に形成される水素結合、(iii)隣接原子により反対に分極した分子の周囲の電子雲間で生じるファンデルワールス力、および(iv)無水環境中で疎水性分子が相互作用することを可能にするように水が境界から排除される場合に生じる疎水性相互作用。
非共有結合性相互作用は、稀なことではあるが、共有結合(すなわち、化学結合)の強度を有することがある。場合によっては、標的エピトープに対する本発明抗体のアフィニティーは、非共有結合性相互作用により駆動されるものの、共有結合の強度に匹敵するほどに高い。これは、本発明の他のHer3受容体抗体と比較して非常に安定な本発明抗体を与える。
好ましくは、本発明抗体のそのコグネイト標的エピトープに対するアフィニティーは約100nM〜約0.01nMのKDであり、より好ましくは約100nM以上、または約10nM以上、最も好ましくは約1nM以上、または約0.1nM以上である。標的エピトープに対する典型的なKDは、約0.1nM〜100nM、好ましくは約0.1nM〜10nM、より好ましくは約0.5nM〜5nM、または約1nMである。
本発明においては、担体エピトープの複数のコピーが抗体上に存在する場合、抗体のそのコグネイト担体エピトープに対するアフィニティーは、遊離担体エピトープに対する又は該担体エピトープを含む1価抗体に対する抗体のアフィニティーより大きいことが可能である。それに加えて又はその代わりに、x個の担体エピトープを有する多価標的可能構築物は、その標的エピトープに対して、x個の構築物の場合より大きなアフィニティーを有する。言い換えると、本発明の組成物は、単なる相加的な結合作用ではなく相乗的な結合作用をもたらす。
2.表面プラズモン共鳴
KDのような結合パラメーターは、チップ上の表面プラズモン共鳴を用いて、例えば、固定化結合性成分で被覆されたBIAcore(商標)チップを用いて測定されうる。抗体または抗体フラグメントとそのリガンドとの反応の微視的結合および解離定数を特徴づけるために、表面プラズモン共鳴が用いられる。そのような方法は全般的には以下の参考文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている(Velyら,BIAcore analysis to test phosphopeptide−SH2 domain interactions,Meth.Mol.Biol.121:313−21,2000;Liparotoら,Biosensor analysis of the interleukin−2 receptor complex,J.Mol.Recog.12:316−21,1999;Lipschultzら,Experimental design for analysis of complex kinetics using surface plasmon resonance,Methods 20:310−8,2000;Malmqvist,BIACORE:an affinity biosensor system for characterization of biomolecuiar interactions,Biochem.Soc.Transactions 27:33540,1999;Alfthan,Surface plasmon resonance biosensors as a tool in antibody engineering,Biosensors & Bioelectronics 13:653−63,1998;Fivashら,BIAcore for macromolecular interaction,Curr.Opin.Biotech.9:97−101,1998;Priceら,Summary report on the ISOBM TD−4 Workshop:analysis of 56 monoclonal antibodies against the MUC1 mucin,Tumour Biol.19 Suppl 1:1−20,1998;Malmqvistら,Biomolecuiar interaction analysis:affinity biosensor technologies for functional analysis of proteins,Curr.Opin.Chem.Biol 1:378−83,1997;O’Shannessyら,Interpretation of deviations from pseudo−first−order kinetic behavior in the characterization of ligand binding by biosensor technology,Anal.Biochem.236:275−83,1996;Malmborgら,BIAcore as a tool in antibody engineering,J.Immunol.Meth.183:7−13,1995;Van Regenmortel,Use of biosensors to characterize recombinant proteins,Dev.Biol.Standardization 83:143−51,1994;O’Shannessy,Determination of kinetic rate and equilibrium binding constants for macromolecular interactions:a critique of the surface plasmon resonance literature,Curr.Opin.Biotechnol.5:65−71,1994)。多価化合物への固定リガンドの結合を調べるためのBIAcoreを使用するモデルが記載されている(Mullerら,Model and simulation of multivalent binding to fixed Iigands,Anal.Biochem.261:149−158,1998)。
BIAcore(商標)は、金/ガラスセンサーチップ境界の表面に位置するデキストランマトリックス(デキストランバイオセンサーマトリックス)に内側に結合したタンパク質の濃度の変化を検出するために、表面プラズモン共鳴(SPR)の光学的特性を利用する。簡潔に説明すると、タンパク質を既知濃度でデキストランマトリックスに共有結合させ、該タンパク質(例えば、抗体)に対するリガンドを該デキストランマトリックスを介して注入する。該センサーチップ表面の反対側に向けられた近赤外光は反射され、金フィルム上に微妙な波を誘発し、これが今度は、共鳴角として知られる特定の角度における該反射光の強度の一時的低下を引き起こす。該センサーチップ表面の屈折率が(例えば、該結合タンパク質へのリガンド結合により)変化すると、共鳴角の変化が生じる。この角変化が測定可能であり、共鳴単位(RU)として表され、この場合、1000RUは1ng/mm2の表面タンパク質濃度の変化と等価である。これらの変化はセンサーグラムのy軸上の時間に対して示され、これは任意の生物学的反応の結合および解離を示す。
更なる詳細は以下のものに見出されうる:Jonssonら,Introducing a biosensor based technology for real−time biospecific interaction analysis,Ann.Biol.Clin.51:19−26,1993;Jonssonら,Real−time biospecific interaction analysis using surface plasmon resonance and a sensor chip technology,Biotechniques 11:620−627,1991;Johnssonら,Comparison of methods for immobilization to carboxymethyl dextran sensor surfaces by analysis of the specific activity of monoclonal antibodies,J.Mol.Recog.8:125−131,1995;およびJohnsson,Immobilization of proteins to a carboxymethyldextran−modified gold surface for biospecific interaction analysis in surface plasmon resonance sensors,Anal.Biochem.198:268−277,1991;Karlssonら,Kinetic analysis of monoclonal antibody−antigen interactions with a new biosensor based analytical system,J.Immunol.Meth.145:229,1991;Weinbergerら,Recent trends in protein biochip technology,Pharmaco genomics 1:395−416,2000;Lipschultzら,Experimental design for analysis of complex kinetics using surface plasmon resonance,Methods 20:310−8,2000。
3.相対アフィニティー
アフィニティーは、例えばIC50により、相対的な関係においても定められうる。アフィニティーの場合、化合物のIC50は、基準リガンドの50%がインビトロの標的エピトープまたはインビボの標的化組織から追い出される際の、その化合物の濃度である。典型的には、IC50は競合ELISAにより決定される。さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、Her3受容体タンパク質への結合に関して通常の抗Her3抗体と競合する抗Her3モノクローナル抗体を提供する。そのような競合抗体には、通常の抗体のいずれかにより認識されるHer3エピトープと同じである又は重複するHer3エピトープを認識する抗体が含まれる。そのような競合抗体は、当業者によく知られたアッセイにより得られうる。例えば、それらは、標識26.6、26.14、26.20、26.34および/または26.82抗体と競合する固定化Her3への結合に関して抗Her3ハイブリドーマ上清をスクリーニングすることにより得られうる。あるいは、それらは結合アッセイにおいて使用されうる。競合抗体を含有するハイブリドーマ上清は、無関係な抗体を含有する(または抗体を全く含有しない)対照結合混合物において検出される結合標識抗体の量と比較して、被験競合結合混合物において検出される結合標識抗体の量を減少させるであろう。本明細書に記載されている競合結合アッセイはいずれも、前記方法における使用に適している。
本明細書に記載されている特有の特性を有する本発明の抗Her3抗体は、いずれかの簡便な方法により、所望の特性に関して抗Her3ハイブリドーマクローンをスクリーニングすることにより得られうる。例えば、Her3受容体のその結合相手(例えば、Her3リガンド)への結合を遮断する又は遮断しない抗Her3モノクローナル抗体が望ましい場合には、結合競合アッセイ、例えば競合結合ELISAにおいて候補抗体が試験されることが可能であり、この場合、プレートウェルを該結合相手で被覆し、過剰の関心Her3受容体中の抗体の溶液を該被覆プレート上に重層し、結合抗体を酵素的に検出する(例えば、結合抗体をHRP結合抗Ig抗体またはビオチン化抗Ig抗体と接触させ、例えば、ストレプトアビジン−HRPおよび/または過酸化水素でプレートを現像することにより、HRP発色反応を生成させ、ELISAプレートリーダーを使用する490nmでの分光測光法により該HRP発色反応を検出する)。
1つの実施形態においては、本発明は、全てというわけではないが幾つかのエフェクター機能を有する改変抗体を想定しており、該エフェクター機能は、それを多数の用途のための望ましい候補にするものであり、ここで、該用途は、該抗体のインビボ半減期は重要であるが、あるエフェクター機能(例えば、補体およびADCC)は不必要または有害であるようなものである。ある実施形態においては、所望の特性のみが維持されていることを確認するために、産生された免疫グロブリンのFc活性を測定する。CDCおよび/またはADCC活性の軽減/消失を確認するために、インビトロおよび/またはインビボ細胞傷害性アッセイを行うことが可能である。例えば、該抗体がFcγR結合を欠く(したがってADCC活性をおそらく欠く)が、FcRn結合能を保有することを確認するために、Fc受容体(FcR)結合アッセイを行うことが可能である。ADCCを引き起こす主要細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcRIIおよびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現はRavetchおよびKinet,Annu.Rev.Immunol 9:457−92(1991)の464ページの表3に要約されている。関心のある分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの一例は米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されている。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。その代わりに又はそれに加えて、関心のある分子のADCC活性が、例えば、Clynesら,Proc.Natl.Acad.Sci.A 95:652−656(1998)に開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価されうる。該抗体がC1qに結合できず、したがってCDC活性を欠くことを確認するために、C1q結合アッセイも行われうる。補体活性化を評価するために、例えばGazzano−Santoroら,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されているようなCDCアッセイが行われうる。FcRn結合およびインビボクリアランス/半減期の決定も、当技術分野で公知の方法(例えば、実施例に記載されている方法)を用いて行われうる。
抗Her3抗体により認識されるHer3エピトープの特定
本発明の抗体から誘導された又は前記方法に従い製造された抗Her3抗体が別の抗体(例えば、通常の抗体)の場合と同じ抗原に結合するかどうかを、当技術分野で公知の種々の方法を用いて決定することが可能である。例えば、抗Her3抗体を使用して、該抗Her3抗体に結合することが知られている抗原を捕捉し、該抗体から該抗原を溶出し、ついで試験抗体が該溶出抗原に結合するかどうかを決定することにより、試験抗Her3抗体が同一抗原に結合するかどうかを決定することが可能である。
抗Her3抗体をHer3受容体タンパク質に飽和条件下で結合させ、ついで、Her3への試験抗体の結合能を測定することにより、試験抗体が抗Her3抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定することが可能である。試験抗体、例えば、本発明抗体から又は本発明の方法に従い誘導された抗Her3抗体は、基準抗Her3抗体と同時にHer3受容体タンパク質に結合することが可能であり、該試験抗体は該抗Her3抗体とは異なるエピトープに結合する。しかし、試験抗体がHer3受容体タンパク質に同時に結合できない場合には、該試験抗体は該ヒト抗へr3抗体と同じエピトープに結合する。この実験は、ELISA、RIAまたは表面プラズモン共鳴を用いて行われうる。ある実施形態においては、該実験は、前記の表面プラズモン共鳴を用いて行われる。もう1つの実施形態においては、BIAcoreが用いられる。前記を参照されたい。抗Her3抗体が基準抗Her3抗体と交差競合するかどうかを決定することも可能である。例えば、抗Her3抗体が別の抗Her3抗体の場合と同じエピトープに結合しうるかどうかを測定するのに用いられるのと同じ方法を用いることにより、試験抗Her3抗体が別の抗Her3抗体と交差競合するかどうかを決定することが可能である。
また、腫瘍が高レベルのHer3を発現する場合には該腫瘍が潜在的に癌性である、あるいはそれが低レベルのHer3を発現する場合には良性であるかどうかを決定するための診断方法が用いられうる。したがって、例えば、Her3により引き起こされる発癌障害を示す疑いのある患者から得られた生物学的サンプルを、Her3発現細胞の存在に関してアッセイすることが可能である。
前記のとおり、本発明の抗Her3抗体は、組織における又は該組織に由来する細胞におけるHer3受容体タンパク質のレベルを決定するために使用されうる。1つの実施形態においては、該組織は罹患組織である。より好ましい実施形態においては、該組織は腫瘍またはその生検体である。該方法の好ましい実施形態においては、組織またはその生検体は患者から摘出される。ついで該組織または生検体をイムノアッセイにおいて使用して、例えば、Her3レベル、Her3の細胞表面レベル、Her3のチロシンリン酸化のレベル、またはHer3の局在化を、本明細書に記載されている方法により決定する。該方法は、Her3を発現する腫瘍を決定するために使用されうる。
関連実施形態においては、本発明は、細胞、組織または体液におけるHer3のレベルの変化に関して、対照サンプルにおける細胞、組織または体液(好ましくは同じタイプのもの)におけるレベルと比較してアッセイすることにより、癌を診断するための方法を提供する。対照と比較した場合の患者におけるHer3のレベルの変化(特に増加)は癌の存在に関連づけられる。典型的には、定量的診断アッセイの場合、被験患者が癌を有することを示す陽性結果は、細胞、組織または体液の内部または表面上のHer3のレベルが、対照の同一細胞、組織または体液の内部または表面上の抗原のレベルより少なくとも2倍高い、好ましくは3〜5倍以上高いというものである。正常対照には、癌を有さないヒトおよび/または患者からの非癌性サンプルが含まれる。
インビトロ診断方法は、腫瘍細胞の免疫組織学的または免疫組織化学的検出(例えば、ヒト組織上、または摘出腫瘍試料から解離された細胞上のもの)、あるいは腫瘍関連抗原の血清学的検出(例えば、血液サンプルまたは他の生物学的流体中のもの)を含む、当業者に公知の任意の方法を含みうる。免疫組織化学的技術は、生物学的試料(例えば、組織試料)を本発明の抗体の1以上で染色し、ついで、コグネイト抗原に結合した抗体を含む抗体−抗原複合体の、該試料上の存在を検出することを含む。該試料でのそのような抗体−抗原複合体の形成は該組織における癌の存在を示している。
該試料上の該抗体の検出は、当技術分野で公知の技術、例えば免疫酵素技術、例えば免疫ペルオキシダーゼ染色技術、またはアビジン−ビオチン技術、または免疫蛍光技術を用いて達成されうる(例えば、Cioccaら,1986,“Immunohistochemical Techniques Using Monoclonal Antibodies”,Meth.Enzymol.,121:562 79およびIntroduction to Immunology,Kimball編,(2ndEd),Macmillan Publishing Company,1986,pp.113 117を参照されたい)。当業者は、通常の実験により、機能的かつ最適なアッセイ条件を決定することが可能である。
もう1つの実施形態においては、本発明は、生物学的サンプルにおけるHer3受容体タンパク質レベルの特定および測定により、癌および腫瘍の診断を補助する。Her3受容体タンパク質が正常に存在し、正常な状況と比較した場合の異常な量の細胞表面受容体(Her3)(例えば、発現)により発癌性障害が引き起こされる場合、該アッセイは、生物学的サンプル中のHer3レベルを、同じ細胞型の正常な非発癌性組織において予想される範囲と比較するものであるべきである。したがって、対照被験者または被験者のベースラインと比較した場合の、被験者におけるHer3含有細胞の量またはHer3発現レベルにおける統計的に有意な増加は、進行している発癌障害またはそのような障害のリスクの診断につながりうる因子でありうる。同様に、転移する可能性のある癌を示す高レベルのHer3の存在も検出されうる。本発明の抗体により認識される抗原(例えば、Her3)を発現する癌の場合、該抗原が検出可能であることは早期診断をもたらし、それにより早期治療の機会を与える。早期検出は、早期段階での診断が困難な癌にとって特に重要である。
さらに、体液サンプル、例えば罹患組織において検出され測定される抗原のレベルは、癌または腫瘍の治療(限定的なものではないが、手術、化学療法、放射線療法、本発明の治療方法およびそれらの組合せを含む)の経過をモニターするための手段を提供する。該組織サンプルにおける該抗原のレベルを疾患の重症度と相関させることにより、そのような抗原のレベルは、例えば原発腫瘍、癌および/または転移の摘出の成功を示すために、ならびに経時的に他の治療の有効性を示し及び/又はモニターするために用いられうる。例えば、癌または腫瘍特異的抗原のレベルの経時的減少は患者における腫瘍負荷の軽減を示す。これとは対照的に、抗原のレベルの経時的な無変化または増加は治療の無効性、または該腫瘍もしくは癌の継続的成長を示す。
Her3を検出するための典型的なインビトロイムノアッセイは、Her3に選択的に結合しうる、検出可能な様態で標識された本発明の抗Her3抗体または抗原結合性フラグメントの存在下、生物学的サンプルをインキュベートし、サンプルにおいて結合した該標識フラグメントまたは抗体を検出することを含む。該抗体は、該細胞またはその一部(例えば、過形成、異形成および/または癌細胞から遊離したHer3またはその断片)への該抗体の結合の際の該細胞またはその一部の検出を可能にするのに有効な標識に結合される。生物学的サンプル中の細胞またはその一部の存在は該標識の検出により検出される。
該生物学的サンプルを、細胞、細胞粒子、膜または可溶性タンパク質を固定化しうる固相支持体または担体(例えば、ニトロセルロースまたは他の固体支持体またはマトリックス)と接触させ、それに固定化することが可能である。ついで該支持体を適当なバッファーで洗浄し、ついで、検出可能な様態で標識された抗Her3抗体で処理することが可能である。ついで該固相支持体をバッファーで再び洗浄して、未結合抗体を除去することが可能である。ついで該固体支持体上の結合標識の量を通常の手段により検出することが可能である。したがって、本発明のもう1つの実施形態においては、固相支持体(例えば、本明細書に記載されているもの)に結合される、モノクローナル抗体またはその結合性フラグメントを含む組成物を提供する。
また、本発明に従うインビトロアッセイは、組換えHer3を発現する細胞からの単離された膜、Her3のリガンド結合性セグメントを含む可溶性断片、または固相基体に結合した断片の使用を含む。これらのアッセイは、結合性セグメントの突然変異および修飾、またはリガンドの突然変異および修飾(例えば、リガンド類似体)の効果の診断的決定を可能にする。
ある実施形態においては、本発明のモノクローナル抗体およびその結合性フラグメントは、Her3に対する結合アフィニティーに関して化合物をスクリーニングするために設計されたインビトロアッセイにおいて使用されうる。Fodorら,Science 251;767−773(1991)(これを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。この目的に従い、本発明は、競合薬物スクリーニングアッセイを想定しており、この場合、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントはHer3への結合に関して試験化合物と競合する。このように、該モノクローナル抗体およびそのフラグメントは、Her3の1以上の結合部位を共有する(そして、そうでなければ該抗体により占拠されうる受容体上の結合部位を占拠するために使用されうる)いずれかのポリペプチドの存在を検出するために使用される。
ある実施形態においては、本発明の抗Her3抗体は、該細胞を種々の化合物で処理した後の細胞表面上のHer3の量を決定または定量するために使用されうる。この方法は、Her3を活性化または抑制するために使用されうる化合物を試験するために使用されうる。この方法においては、細胞のサンプルの1つを或る時間にわたって試験化合物で処理し、一方、もう1つのサンプルを未処理のままにする。Her3の全レベルを測定する場合には、該細胞を細胞溶解し、本明細書に記載されているイムノアッセイの1つを用いて全Her3レベルを測定する。
全Her3受容体タンパク質レベルを測定するための好ましいイムノアッセイはELISAまたはウエスタンブロットである。Her3の細胞表面レベルのみを測定する場合には、該細胞を細胞溶解せず、当業者に公知のアッセイのいずれか1以上(例えば、本明細書に記載されているイムノアッセイの1つ)を用いてHer3の細胞表面レベルを測定する。Her3の細胞表面レベルを決定するための好ましいイムノアッセイは、検出可能標識(例えば、ビオチンまたは125I)で細胞表面タンパク質を標識し、抗Her3抗体で該Her3を免疫沈降させ、ついで該標識Her3を検出する工程を含む。Her3の局在化(例えば、細胞表面レベル)を決定するためのもう1つの好ましいイムノアッセイは、免疫組織化学を用いることによるものである。
また、通常の抗Her3抗体が標的腫瘍組織または細胞上のHer3発現を減少させるかどうかを決定するための方法を本発明において提供する。「通常のHer3アンタゴニスト」、「Her3部分での通常の処理」なる語は、Her3発現を特異的に標的化し、本発明の抗体と同じエピトープに結合しない現在入手可能なHer3特異的モノクローナル抗体を意味するものとして互換的に用いられる。
本発明のもう1つの態様は、Her3により引き起こされる癌の発生に対する、個体が有する感受性の評価である。該方法は、関心のある細胞または組織におけるHer3の発現のレベルを測定し、抗Her3抗体またはその抗原結合性部分と共に該細胞または組織をインキュベートし、ついで該細胞または組織における本発明の抗Her3抗体または抗原結合性フラグメントでHer3発現のレベルを再測定する工程を含む。あるいは、前記の例においてICD発現レベルを測定することが可能である。Her3のレベルが低いという診断は、該患者が通常の抗Her3抗体治療法での治療に応答していることを予測するために用いられうるであろう。逆に、通常の抗Her3抗体での処理の後のHer3のレベルにおける無変化またはHer3の発現における増加は、該患者が現在の治療方式に無応答性である、あるいは通常の抗Her3抗体での更なる治療に応答しそうにないことを示し、それにより、より早期の介入を可能にする。本発明の抗Her3抗体は、通常のHer3抗体の投与と同時に、または通常の抗Her3抗体での処理の後で、前記診断アッセイにおいて使用されうる。好ましくは、通常のHer3抗体はHer3タンパク質への結合に関して本発明の抗Her3抗体と競合しない。前記アッセイは、通常の抗Her3抗体に基づく治療方式の治療効力を評価するために、ある期間にわたって反復して行われうる。このようにして、本発明の抗Her3抗体は、それが、通常の抗Her3抗体に基づく療法の治療および療法方式を評価するために使用されることを可能にする「陰性生物マーカー」として使用されうる。
ベクター、宿主細胞および組換え方法
本発明はまた、本発明の抗Her3抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸を含む。本発明の核酸は本発明の核酸の断片をも含む。「断片」は、例えば軽鎖または重鎖のような本発明抗体の機能的に活性な断片をコードするのに十分な長さを好ましくは有する核酸配列を意味する。「断片」は遺伝子のコード配列全体を意味することもあり、5’および3’非翻訳領域を含みうる。
本明細書に記載されている配列を有するいずれか1以上のポリヌクレオチドの構築物は合成的に製造されうる。あるいは、多数のオリゴデオキシリボヌクレオチドからのプラスミド全体および遺伝子の一工程集合が例えばStemmerら,Gene(Amsterdam)(1995)164(1):49−53に記載されている。この方法においては、集合(assembly)PCR(多数のオリゴデオキシリボヌクレオチドからの長いDNA配列の合成)はDNAシャッフリングから誘導される(Stemmer,Nature(1994)370:389−391)。
例えばSambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,(1989)Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載されているとおりに、標準的な組換えDNA技術を用いて、適当なポリヌクレオチド構築物を精製する。本発明のポリヌクレオチドによりコードされる遺伝子産物を、例えば細菌、酵母、昆虫、両生類および哺乳類系を含むいずれかの発現系で発現させる。ベクター、宿主細胞およびその発現を得るための方法は当技術分野でよく知られている。適当なベクターおよび宿主細胞は米国特許第5,654,173号に記載されている。
本発明で提供されるポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド分子は、一般に、該分子をベクター内に配置することにより増殖される。ウイルス性ベクターおよび非ウイルス性ベクター(プラスミドを含む)が使用される。プラスミドの選択は、増殖が望まれる細胞のタイプおよび増殖の目的に左右されるであろう。多数の所望のDNA配列を増幅し製造するためには、あるベクターが有用である。培養内の細胞における発現には、他のベクターが適している。全動物またはヒトにおける細胞内の導入および発現には、さらに他のベクターが適している。適当なベクターの選択は当技術分野の技量に十分に含まれる。多数のそのようなベクターは商業的に入手可能である。所望の配列を含むベクターの製造方法は当技術分野でよく知られている。
本明細書に開示されている1以上の付録に記載されている配列番号のいずれか1以上に記載されているポリヌクレオチドおよびそれらの対応完全長ポリヌクレオチドは、所望の発現特性を得るために、適宜、調節配列に連結される。これらには、プロモーター(センス鎖の5’末端またはアンチセンス鎖の3’末端に結合する)、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、リプレッサーおよびインデューサーが含まれうる。プロモーターは調節性または構成的でありうる。状況によっては、条件的活性プロモーター、例えば組織特異的または発生段階特異的プロモーターを使用することが望ましいかもしれない。これらは、ベクターへの連結のための前記技術を用いて、所望のヌクレオチド配列に連結される。当技術分野で公知のいずれかの技術が用いられうる。
本発明のポリヌクレオチドまたは核酸を複製および/または発現させるためにいずれかの適当な宿主細胞または生物を使用する場合、生じた複製された核酸、RNA、発現されたタンパク質またはポリペプチドは、該宿主細胞または生物の産物としての本発明の範囲内である。該産物は、当技術分野で公知のいずれかの適当な手段により回収される。
標的遺伝子(例えば、本明細書に記載されている核酸分子のいずれか1以上に対応するもの)の発現は、該遺伝子が由来する細胞において調節されうる。例えば、米国特許第5,641,670号に記載されているとおり、細胞の内因性遺伝子は外因性調節配列により調節されうる。
該コード化抗体重鎖は、好ましくは、付録I〜IIIの1つに記載されている配列番号からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。該コード化抗体軽鎖は、好ましくは、本明細書に記載されている付録の1つに記載されているアミノ酸配列を含む。
いくつかの実施形態においては、本発明は、本発明の抗体の重鎖および軽鎖の両方をコードする核酸を提供する。例えば、本発明の核酸は、付録IまたはIIIの1つに記載されているアミノ酸配列をコードする核酸配列(付録I)、および付録IIまたはIIIの1つに記載されているアミノ酸配列をコードする核酸配列(付録I)を含みうる。
本発明の核酸は、本発明の核酸に対して少なくとも80%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約98%の相同性を有する核酸を含む。特定の配列に関する「類似性(%)」、「同一性(%)」および「相同性(%)」なる語は、University of Wisconsin GCGソフトウェアプログラムに記載されているものとして用いられる。本発明の核酸は相補的核酸をも含む。いくつかの状況においては、該配列は、アライメントされた場合に完全に相補的(ミスマッチ無し)となろう。他の状況においては、該配列において約20%までのミスマッチが存在しうる。
本発明はまた、本明細書に記載されている軽鎖の可変領域(VL)をコードする核酸分子、および本明細書に記載されているVL(特に、付録IIまたはIIIに記載されている配列の1つのアミノ酸配列を含むVL)をコードするアミノ酸配列の1つに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を提供する。本発明はまた、付録Iに記載されている配列の1つの核酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である核酸配列を提供する。もう1つの実施形態においては、VLをコードする核酸分子は、高いストリンジェントな条件下、前記のVLをコードする核酸配列にハイブリダイズするものである。
本発明はまた、本明細書に記載されている重鎖の可変領域(VH)をコードする核酸分子、および本明細書に記載されているVH(特に、付録IIまたはIIIに記載されている配列の1つのアミノ酸配列を含むVH)をコードするアミノ酸配列の1つに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を提供する。本発明はまた、付録Iに記載されている配列のいずれか1以上の核酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である核酸配列を提供する。もう1つの実施形態においては、VHをコードする核酸分子は、高いストリンジェントな条件下、前記のVHをコードする核酸配列にハイブリダイズするものである。
本発明の場合、「ハイブリダイゼーション」はオリゴマー化合物の相補的鎖の対形成を意味する。本発明においては、対形成の好ましいメカニズムは水素結合を含み、これは、オリゴマー化合物の鎖の相補的ヌクレオシドまたはヌクレオチド塩基(核酸塩基)間のワトソン−クリック、フーグスティーンまたは逆フーグスティーン水素結合でありうる。例えば、アデニンおよびチミンは、水素結合の形成により対形成する相補的核酸塩基である。ハイブリダイゼーションは種々の状況下で生じうる。
「選択的にハイブリダイズする」なる語は、本明細書においては、検出可能な様態で、かつ特異的に結合することを意味する。本発明のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびそれらの断片は、非特異的核酸への認識可能な量の検出可能な結合を最小にするハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下、核酸鎖に選択的にハイブリダイズする。当技術分野で公知であり本明細書に記載されているとおり、選択的ハイブリダイゼーション条件を得るためには、「高いストリンジェンシー」または「高度にストリンジェント」な条件が用いられうる。「高いストリンジェンシー」または「高度にストリンジェント」な条件の一例は、6×SSPEまたはSSC、50% ホルムアミド、5×デンハルト試薬、0.5% SDS、100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAのハイブリダイゼーションバッファー中、42℃のハイブリダイゼーション温度で、12〜16時間にわたって、ポリヌクレオチドを別のポリヌクレオチドと共にインキュベートし[この場合、1つのポリヌクレオチドは固体表面(例えば、膜)に固定されうる]、ついで、1×SSC、0.5% SDSの洗浄バッファーを使用して55℃で2回洗浄する方法である。Sambrookら(前掲)pp.9.50−9.55も参照されたい。
抗Her3抗体の重鎖および軽鎖全体の一方もしくは両方またはその可変領域をコードする核酸分子は、抗Her3抗体を産生するいずれかの起源から得られうる。抗体をコードするmRNAを単離する方法は当技術分野でよく知られている(例えば、Sambrookらを参照されたい)。該mRNAは、抗体遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはcDNAクローニングに使用するcDNAを得るために使用されうる。
本明細書に開示されている抗Her3抗体の重鎖全体をコードする核酸分子は、重鎖またはその抗原結合性ドメインの可変ドメインをコードする核酸分子を重鎖の定常ドメインに融合させることにより構築されうる。同様に、本発明の抗Her3抗体の軽鎖をコードする核酸分子は、軽鎖またはその抗原結合性ドメインの可変ドメインをコードする核酸分子を軽鎖の定常ドメインに融合させることにより構築されうる。VHおよびVL鎖をコードする核酸分子は、それぞれ重鎖定常領域および軽鎖定常領域を既にコードしている発現ベクター内にそれらを挿入することにより、完全長抗体遺伝子に変換されることが可能であり、この場合、該VHセグメントは該ベクター内の重鎖定常領域(CH)セグメントに機能的に連結され、該VLセグメントは該ベクター内の軽鎖定常領域(CL)セグメントに機能的に連結されるようにする。あるいは、VHまたはVL鎖をコードする核酸分子は、例えば、標準的な分子生物学的技術を用いて、VH鎖をコードする核酸分子を、CH鎖をコードする核酸分子に連結(例えば、ライゲーション)することにより、完全長抗体遺伝子に変換される。VLおよびCL鎖をコードする核酸分子を使用して、同じことが達成されうる。ヒト重鎖および軽鎖定常領域遺伝子の配列は当技術分野で公知である。例えば、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,NIH Publ.No.91 3242,1991を参照されたい。ついで、完全長重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子を、それらが導入された細胞から発現させ、該抗Her3抗体を単離することが可能である。
該核酸分子は、組換え生物学者の当業者に公知の技術を用いて、大量の抗Her3抗体を組換え発現させるために使用されうる。同様に、本明細書に記載されている核酸分子は、後記で更に詳細に記載されているとおり、抗Her3抗体変異体、突然変異体、それらのフラグメント、例えば一本鎖抗体、二重特異性、scFvなど、イムノアドヘシン、ジアボディ、突然変異抗体および抗体誘導体を組換え製造するためにも使用されうる。
もう1つの実施形態においては、本発明の核酸分子は、特異的抗体配列に対するプローブまたはPCRプライマーとして使用されうる。例えば、核酸分子プローブは診断方法において使用可能であり、あるいは核酸分子PCRプライマーは、とりわけ、抗Her3抗体の可変ドメインの製造に使用される核酸配列を単離するために使用されうるDNAの領域を増幅するために使用可能である。好ましい実施形態においては、該核酸分子はオリゴヌクレオチドである。より好ましい実施形態においては、該オリゴヌクレオチドは、関心のある抗体の軽鎖および重鎖の重鎖可変領域に由来する。より一層好ましい実施形態においては、該オリゴヌクレオチドは該CDRの1以上の全部または一部をコードしている。
「ベクター」は、結合される配列または要素の複製が生じるように別の遺伝的配列または要素(DNAまたはRNAのいずれか)が挿入されうるレプリコン、例えばプラスミド、コスミド、バクミド、ファージ、人工染色体(BAC、YAC)またはウイルスである。「レプリコン」は、一般にそれ自身の制御下で複製可能な任意の遺伝的要素、例えばプラスミド、コスミド、バクミド、ファージ、人工染色体(BAC、YAC)またはウイルスである。レプリコンはRNAまたはDNAのいずれであってもよく、一本鎖または二本鎖でありうる。いくつかの実施形態においては、該発現ベクターは、構成的に活性なプロモーターセグメント(限定的なものではないが、例えばCMV、SV40、伸長因子またはLTR配列)、または誘導性プロモーター、例えばステロイド誘導性pINDベクター(Invitrogen)(該核酸の発現が調節されうる場合)を含有する。該発現ベクターはトランスフェクションにより細胞内に導入されうる。
抗体鎖遺伝子に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞内の抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を含有する。調節配列の選択を含む該発現ベクターの設計は、形質転換されるべき宿主細胞の選択、望まれるタンパク質の発現のレベルなどのような要因に左右されうる、と当業者に理解されるであろう。哺乳類宿主細胞発現のための好ましい調節配列には、哺乳類細胞における高レベルのタンパク質発現を導くウイルス要素、例えば、レトロウイルスLTRに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー、サイトメガロウイルス(CMV)に由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー(例えば、CMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)に由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー(例えば、SV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルスに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、ポリオーマおよび強力哺乳類プロモーター、例えば天然免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターが含まれる。ウイルス性調節要素およびその配列の更なる詳細は、例えば、Stinskiの米国特許第5,168,062号、Bellの米国特許第4,510,245号およびSchaffnerの米国特許第4,968,615号を参照されたい。
該抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、追加的配列、例えば、宿主細胞内の該ベクターの複製を調節する配列(例えば、複製起点)および選択マーカー遺伝子を含有しうる。選択マーカー遺伝子は、該ベクターが導入されている宿主細胞の選択を促進する(例えば、全てAxelらの米国特許第4,399,216号、第4,634,665号および第5,179,017号を参照されたい)。例えば、典型的に、選択マーカー遺伝子は、該ベクターが導入されている宿主細胞に、薬物、例えばG418、ヒグロマイシンまたはメトトレキセートに対する耐性を付与する。好ましい選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選択/増幅の場合にdhfr−宿主細胞において使用)およびneo遺伝子(G418選択用)が含まれる。
本発明の抗体の組換え製造には、それをコードする核酸を単離し、更なるクローニング(該DNAの増幅)または発現のために複製可能ベクター内に挿入する。該抗体をコードするDNAは、通常の方法を用いて(例えば、該抗体の重鎖および軽鎖をコードするオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)、容易に単離され配列決定される。多数のベクターが利用可能である。ベクターの選択は、1つには、使用される宿主細胞に左右される。一般に、好ましい宿主細胞は原核生物または真核生物(一般に哺乳類)由来である。IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE定常領域を含む任意のイソタイプの定常領域がこの目的に使用可能であり、そのような定常領域は任意のヒトまたは動物種から得られうる、と理解されるであろう。
a.原核宿主細胞を使用する抗体の製造
i.ベクター構築
本発明の抗体のポリペプチド成分をコードするポリヌクレオチド配列は、標準的な組換え技術を用いて得られうる。抗体産生細胞、例えばハイブリドーマ細胞から、所望のポリヌクレオチド配列が単離され、配列決定されうる。あるいは、ヌクレオチド合成装置またはPCR技術を用いて、ポリヌクレオチドが合成されうる。該ポリペプチドをコードする配列が得られたら、原核宿主内で異種ポリヌクレオチドを複製し発現しうる組換えベクター内に該配列を挿入する。当技術分野で入手可能であり公知である多数のベクターが本発明の目的に使用されうる。適当なベクターの選択は、主として、ベクター内に挿入される核酸のサイズ、および該ベクターで形質転換される個々の宿主細胞に左右されるであろう。各ベクターは、その機能(異種ポリヌクレオチドの増幅または発現または両方)、およびそれが存在する個々の宿主細胞とのその和合性に応じて、種々の成分を含有する。該ベクター成分には、一般に、複製起点、選択マーカー遺伝子、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、シグナル配列、異種核酸インサートおよび転写終結配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
一般に、宿主細胞に和合性の種に由来するレプリコンおよび制御配列を含有するプラスミドベクターが、これらの宿主と共に使用される。該ベクターは、通常、複製部位、および形質転換細胞における表現型選択をもたらしうる標識配列を含有する。例えば、大腸菌(E.coli)は、典型的に、大腸菌(E.coli)種由来のプラスミドであるpBR322を使用して形質転換される。pBR322は、アンピシリン(Amp)、カナマイシン(Kn)およびテトラサイクリン(Tet)耐性をコードする遺伝子を含有し、したがって、形質転換細胞を特定するための簡便な手段をもたらす。また、pBR322、その誘導体または他の微生物プラスミドもしくはバクテリオファージは、内在性タンパク質の発現のために該微生物により利用されうるプロモーターを含有し、または該プロモーターを含有するように修飾されうる。個々の抗体の発現に使用されるpBR322誘導体の具体例はCarterら,米国特許第5,648,237号に詳細に記載されている。
簡便なベクターは、機能的に完全なヒトCHまたはCL免疫グロブリン配列をコードするものであり、前記のとおり、いずれかのVHまたはVL配列が容易に挿入され発現されうるように適当な制限部位が操作されている。そのようなベクターにおいては、通常、挿入されたJ領域内のスプライス供与部位と、ヒトC領域に先行するスプライス受容部位との間で、そしてまた、ヒトCHエキソン内に存在するスプライス領域において、スプライシングが生じる。コード領域の下流の天然染色体部位において、ポリアデニル化および転写終結が生じる。該組換え発現ベクターは、宿主細胞からの該抗体鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをもコードしうる。該抗体鎖遺伝子は、該シグナルペプチドが該抗体鎖遺伝子のアミノ末端にインフレームで連結されるように、該ベクター内にクローニングされる。該シグナルペプチドは免疫グロブリンシグナルペプチドまたは異種シグナルペプチド(すなわち、非免疫グロブリンタンパク質由来のシグナルペプチド)でありうる。
また、宿主微生物に和合性であるレプリコンおよび制御配列を含有するファージベクターが、これらの宿主に関する形質転換ベクターとして使用されうる。例えば、感受性宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)LE392を形質転換するために使用されうる組換えベクターの作製においては、例えばλGEM(商標)−11のようなバクテリオファージが使用されうる。
本発明の発現ベクターは、該ポリペプチド成分のそれぞれをコードする2以上のプロモーター−シストロンの組合せを含みうる。プロモーターは、その発現をモジュレーションするシストロンの上流(5’側)に位置する非翻訳調節配列である。原核生物プロモーターは、典型的に、誘導プロモーターおよび構成プロモーターの2つのクラスに分けられる。誘導プロモーターは、その制御下で、培養条件の変化、例えば、栄養素の存在もしくは非存在または温度変化に応答して、シストロンの転写のレベルの増加を始動するプロモーターである。
種々の潜在的宿主細胞により認識される多数のプロモーターがよく知られている。選択されたプロモーターは、起源DNAから該プロモーターを取り出し、単離されたプロモーター配列を本発明のベクター内に挿入することにより、軽鎖または重鎖をコードするシストロンDNAに機能的に連結されうる。標的遺伝子の増幅および/または発現を導くために、固有プロモーター配列および多数の異種プロモーターの両方が使用されうる。いくつかの実施形態においては、異種プロモーターが使用される。なぜなら、それらは、一般に、固有標的ポリペプチドプロモーターと比較して、発現される標的遺伝子の、より著しい転写およびより高い収率を可能にするからである。
原核宿主での使用に適したプロモーターには、PhoAプロモーター、ベータ−ガラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、およびハイブリッドプロモーター、例えばtacまたはtrcプロモーターが含まれる。しかし、細菌において機能性である他のプロモーター(例えば、他の公知細菌またはファージプロモーター)も好適である。それらのヌクレオチド配列は公開されており、したがって、当業者は、いずれかの必要な制限部位を供給するためにリンカーまたはアダプターを使用して、標的軽鎖および重鎖をコードするシストロン(Siebenlistら,(1980)Cell 20:269)にそれらを機能的に連結することが可能である。
本発明の1つの態様においては、該組換えベクター内の各シストロンは、発現されたポリペプチドの膜越えのトランスロケーションを導く分泌シグナル配列成分を含む。一般に、該シグナル配列は該ベクターの成分であることが可能であり、あるいは、それは、該ベクター内に挿入される標的ポリペプチドDNAの一部であることが可能である。本発明の目的のために選択されるシグナル配列は、宿主細胞により認識されプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼにより切断される)ものであるべきである。異種ポリペプチドに固有のシグナル配列を認識せずプロセシングしない原核宿主細胞の場合、該シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppまたは熱安定性エンテロトキシンII(STII)リーダー、LamB、PhoE、PelB、OmpAおよびMBPからなる群から選択される原核生物シグナル配列により置換される。本発明の1つの実施形態においては、該発現系の両シストロンにおいて使用されるシグナル配列はSTIIシグナル配列またはその変異体である。
もう1つの態様においては、本発明の免疫グロブリンの産生は宿主細胞の細胞質内で生じることが可能であり、したがって、各シストロン内の分泌シグナル配列の存在を要しない。この場合、免疫グロブリン軽鎖および重鎖は、細胞質内で機能性免疫グロブリンを形成するように発現され、フォールディングし、集合する。ある宿主株(例えば、大腸菌(E.coli)trxB株)は、ジスルフィド結合形成に好ましい細胞質条件を提供し、それにより、発現されたタンパク質サブユニットの適切なフォールディングおよび集合を可能にする。ProbaおよびPluckthun.Gene,159:203(1995)。
本発明の抗体を発現させるのに適した原核宿主細胞には、古細菌および真正細菌、例えばグラム陰性またはグラム陽性生物が含まれる。有用な細菌の具体例には、エシェリキア(Escherichia)(例えば、大腸菌(E.coli))、バシラス(Bacilli)(例えば、バシラス・サチリス(B,subtilis))、腸内細菌、シュードモナス(Pseudomonas)種(例えば、シュードモナス・エルジノーサ(P.aeruginosa))、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、シゲラ(Shigella)、リゾビウム(Rhizobia)、ビトレオスシラ(Vitreoscilla)またはパラコッカス(Paracoccus)が含まれる。1つの実施形態においては、グラム陰性細胞が使用される。1つの実施形態においては、大腸菌(E.coli)細胞が本発明のための宿主として使用される。大腸菌(E.coli)株の具体例には、株W3110(Bachmann,Cellular and Molecular Biology,vol.2(Washington,D.C.:American Society for Microbiology,1987),pp.1190−1219;ATCC(商標)寄託番号27,325)およびその誘導体、例えば、表現型W3110.DELTA.fhu.DELTA.(.DELTA.tonA)ptr3 lac Iq lacL8.DELTA.ompT.DELTA.(nmpc−fepE)degP41 kanRを有する株33D3(米国特許第5,639,635号)が含まれる。他の株およびその誘導体、例えば大腸菌(E.coli)294(ATCC 31,446)、大腸菌(E.coli)B、大腸菌(E.coli)ラムダ(lambda).1776(ATCC 31,537)および大腸菌(E.coli)RV308(ATCC 31,608)も適している。これらの具体例は限定的なものではなく、例示的なものである。一定の遺伝子型を有する前記細菌のいずれかの誘導体を構築するための方法は当技術分野で公知であり、例えば、Bassら,Proteins,8:309−314(1990)に記載されている。細菌の細胞におけるレプリコンの複製能を考慮して、適当な細菌を選択することが一般に必要である。例えば、レプリコンを供給するためにpBR322、pBR325、pACYC177またはpKN410のようなよく知られたプラスミドを使用する場合には、大腸菌(E.coli)、セラチア(Serratia)またはサルモネラ(Salmonella)種が宿主として好適に使用されうる。典型的には、該宿主は最小量のタンパク質分解酵素を分泌すべきであり、追加的なプロテアーゼインヒビターが、望ましくは細胞培養内に加えられうる。
ii.抗体の製造
宿主細胞を前記発現ベクターで形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択または所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適宜修飾された通常の栄養培地内で培養する。
形質転換は、原核生物宿主内にDNAを導入して、染色体外要素として又は染色体組込みにより該DNAが複製可能となるようにすることを意味する。使用される宿主細胞に応じて、形質転換は、そのような細胞に適した標準的な技術を用いて行われる。細胞壁の相当な障壁を含有する細菌細胞には、塩化カルシウムを使用するカルシウム処理が一般に用いられる。もう1つの形質転換方法はポリエチレングリコール/DMSOを使用する。用いられる更にもう1つの技術はエレクトロポレーションである。
本発明の抗Her3抗体のいずれか1以上を製造するために使用される原核細胞は、選択された宿主細胞の培養に適した当技術分野で公知の培地内で増殖される。適当な培地の具体例はルリアブロス(LB)+必要な栄養サプリメントを含む。いくつかの実施形態においては、該培地はまた、発現ベクターを含有する原核細胞の増殖を選択的に可能にするための、発現ベクターの構造に基づいて選ばれる選択剤を含有する。例えば、アンピシリン耐性遺伝子を発現する細胞の増殖のための培地にアンピシリンが加えられる。
炭素、窒素および無機リン酸源以外のいずれかの必要なサプリメントも、単独で、または別のサプリメントもしくは培地との混合物(例えば、複合窒素源)として、適当な濃度で加えられうる。場合によっては、該培地は、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコラート、ジチオエリトリトールおよびジチオトレイトールからなる群から選択される1以上の還元剤を含有しうる。
該原核宿主細胞は適当な温度で培養される。例えば、大腸菌(E.coli)の増殖の場合、好ましい温度は約20℃〜約39℃の範囲、より好ましくは約25℃〜約37℃の範囲、より一層好ましくは約30℃である。培地のpHは、主に宿主生物に応じて約5〜約9の範囲のいずれかのpHでありうる。大腸菌(E.coli)の場合、該pHは、好ましくは約6.8〜約7.4、より好ましくは約7.0である。
本発明の発現ベクターにおいて誘導プロモーターが使用される場合、該プロモーターの活性化に適した条件下でタンパク質発現が誘導される。本発明の1つの態様においては、該ポリペプチドの転写を制御するために、PhoAプロモーターが使用される。したがって、該形質転換宿主細胞は、誘導のためには、リン酸制限培地内で培養される。好ましくは、該リン酸制限培地はC.R.A.P培地である(例えば、Simmonsら,J.Immunol.Methods(2002),263:133−147を参照されたい)。当技術分野で公知のとおり、使用されるベクター構築物に応じて、種々の他のインデューサー(誘導因子)が使用されうる。
1つの実施形態においては、本発明の発現ポリペプチドは宿主細胞のペリプラズム内に分泌され、該ペリプラズムから回収される。タンパク質の回収は典型的には、一般に浸透圧ショック、音波処理または細胞溶解のような手段により、該微生物を破壊することを含む。細胞が破壊されたら、遠心分離または濾過により細胞残渣または全細胞が除去されうる。該タンパク質は、例えばアフィニティー樹脂クロマトグラフィーにより、更に精製されうる。あるいは、タンパク質は培地内に輸送され、それにおいて単離されうる。細胞は該培養から除去され、産生されたタンパク質の更なる精製のために、培養上清が濾過され濃縮されうる。発現されたポリペプチドは、一般に公知の方法、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)およびウエスタンブロットアッセイを用いて、更に単離され特定されうる。
本発明のもう1つの態様は、発酵法による大量の抗体の製造を想定している。組換えタンパク質の製造には、種々の大規模フェッドバッチ発酵法が利用可能である。大規模発酵は少なくとも1000リットルの容量、好ましくは約1,000〜100,000リットルの容量を有する。これらの発酵槽は、酸素および栄養素、特にグルコース(好ましい炭素/エネルギー源)を分配させるために攪拌インペラを使用する。小規模発酵は、一般に、容積約100リットル以下であり約1リットル〜約100リットルの範囲でありうる発酵槽における発酵を意味する。
発酵法においては、タンパク質発現の誘導は、典型的には、適当な条件下で所望の密度(例えば、細胞が初期定常期にある約180〜220のOD550)まで細胞が増殖した後で開始される。当技術分野で公知であり前記に記載されているとおり、使用されるベクター構築物に応じて、種々のインデューサー(誘導因子)が使用されうる。細胞は、誘導前に、より短い期間にわたって増殖されうる。細胞は、通常、約12〜50時間にわたって誘導されるが、より長い又はより短い誘導時間も用いられうる。
本発明のポリペプチドの生産収率および量を改善するために、種々の発酵条件が修飾されうる。例えば、分泌される抗体ポリペプチドの適切な集合およびフォールディングを改善するために、シャペロンタンパク質、例えばDsbタンパク質(DsbA、DsbB、DsbC、DsbDおよび/またはDsbG)またはFkpA(シャペロン活性を有するペプチジルプロピル シス、トランス−イソメラーゼ)を過剰発現する追加的なベクターが、宿主原核細胞を共形質転換するために使用されうる。該シャペロンタンパク質は、細菌宿主細胞において産生された異種タンパク質の適切なフォールディングおよび溶解を促進することが示されている。Chenら(1999)J Bio Chem 274:19601−19605;Georgiouら,米国特許第6,083,715号;Georgiouら,米国特許第6,027,888号;BothmannおよびPluckthun(2000)J.Biol.Chem.275:17100−17105;RammおよびPluckthun(2000)J.Biol.Chem.275:17106−17113;Arieら(2001)Mol.Microbiol.39:199−210。
発現された異種タンパク質(特に、タンパク質分解に感受性であるもの)のタンパク質分解を最小にするために、タンパク質分解酵素を欠損している或る宿主株が本発明で使用されうる。例えば、Protease(プロテアーゼ)III、OmpT、DegP、Tsp、Protease I、Protease Mi、Protease V、Protease VIおよびそれらの組合せのような公知細菌プロテアーゼをコードする遺伝子において遺伝的突然変異を引き起こさせるために、宿主細胞株が修飾されうる。いくつかの大腸菌(E.coli)プロテアーゼ欠損株が入手可能であり、例えばJolyら(1998),前掲;Georgiouら,米国特許第5,264,365号;Georgiouら,米国特許第5,508,192号;Haraら,Microbial Drug Resistance,2:63−72(1996)に記載されている。
1つの実施形態においては、1以上のシャペロンタンパク質を過剰発現するプラスミドで形質転換されたタンパク質分解酵素欠損大腸菌(E.coli)株が本発明の発現系における宿主細胞として使用される。
iii.抗体の精製
当技術分野で公知の標準的なタンパク質精製方法が用いられうる。組換え技術を用いる場合、該抗体は細胞膜周辺(ペリプラズム)腔において細胞内で産生され、あるいは培地内に直接分泌されうる。該抗体が細胞内で産生される場合には、第1段階として、宿主細胞または細胞溶解断片のいずれかの粒子状残渣を例えば遠心分離または限外濾過により除去する。Carterら,Bio/Technology 10:163−167(1992)は、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌された抗体を単離するための方法を記載している。簡潔に説明すると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTAおよびフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下、約30分間解凍する。細胞残渣は遠心分離により除去されうる。該抗体が培地内に分泌される場合には、そのような発現系の上清を、一般には、まず、商業的に入手可能なタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicofin(登録商標)またはMillipore Pellicon(登録商標)限外濾過ユニットを使用して濃縮する。タンパク質分解を抑制するために、前記工程のいずれかにおいて、プロテアーゼインヒビター、例えばPMSFが加えられることが可能であり、外来性汚染物の増殖を予防するために抗生物質が加えられることが可能である。
以下の方法は適当な精製方法の典型例である:イムノアフィニティーまたはイオン交換カラム上の分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上またはカチオン交換樹脂(例えば、DEAE)上のクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、硫酸アンモニウム沈殿およびゲル濾過(例えば、Sephadex G−75を使用するもの)。
アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、該抗体に存在するいずれかの免疫グロブリンFcドメインの種およびイソタイプに左右される。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用されうる(Lindmarkら,J.Immunol.Meth.62:1−13(1983))。全てのマウスイソタイプおよびヒトγ3にはプロテインGが推奨される(Gussら,EMBO J.5:15671575(1986))。該アフィニティーリガンドが結合されるマトリックスは大抵はアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。物理的に安定なマトリックス、例えば制御細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースで達成されうるものより速い流速およびより短い加工時間を可能にする。該抗体がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABX(登録商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が精製に有用である。回収されるべき抗体に応じて、タンパク質精製のための他の技術、例えばイオン交換カラム上の分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上のクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上のヘパリンSEPHAROSE(登録商標)上のクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGEおよび硫酸アンモニウム沈殿も利用可能である。
1つの態様においては、本発明の完全長抗体産物のイムノアフィニティー精製のために、固相上に固定化されたプロテインAが使用される。プロテインAは、抗体のFc領域に高いアフィニティーで結合するスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来の41kDの細胞壁タンパク質である。Lindmarkら(1983)J.Immunol.Meth.62:1−13。プロテインAが固定化される固相は、好ましくは、ガラスまたはシリカ表面を含むカラム、より好ましくは、制御細孔ガラスカラムまたはケイ酸カラムである。いくつかの用途においては、汚染物の非特異的付着を防ぐために、該カラムは例えばグリセロールのような試薬で被覆されている。
精製の第1工程として、プロテインAへの関心抗体の特異的結合を可能にするために、前記の細胞培養に由来する調製物をプロテインA固定化固相上に適用する。ついで該固相を洗浄して、該固相に非特異的に結合した汚染物を除去する。最後に、該関心抗体を溶出により該固相から回収する。
いずれかの予備精製工程後、該関心抗体および汚染物を含む混合物を、約2.5〜4.5のpHの溶出バッファーを使用し好ましくは低塩濃度(例えば、約0〜0.25M塩)で行われる低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに付すことが可能である。
真核宿主細胞を使用する抗体の製造
該ベクター成分には、一般に、シグナル配列、複製起点、1以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーターおよび転写終結配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
(i)シグナル配列成分
真核宿主細胞において使用するベクターも、シグナル配列、または関心のある成熟タンパク質またはポリペプチドのN末端において特異的切断部位を有する他のポリペプチドを含有しうる。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞により認識されプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼにより切断される)ものである。哺乳類細胞発現においては、哺乳類シグナル配列およびウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。そのような前駆体領域のDNAは、該抗体をコードするDNAに、リーディンフフレームを合致させて連結される。
(ii)複製起点
一般に、複製起点成分は哺乳類発現ベクターには必要とされない。例えば、SV40起点は、典型的には、それが初期プロモーターを含有するというだけの理由により使用されうる。
(iii)選択遺伝子成分
発現およびクローニングベクターは、選択マーカーとも称される選択遺伝子を含有しうる。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートまたはテトラサイクリン)に対する耐性を付与する、(b)適切な場合には栄養要求性欠損を相補する、あるいは(c)複合培地からは入手不可能な重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
選択法の一例は、宿主細胞の増殖を停止させる薬物を利用する。異種遺伝子で成功裏に形質転換された細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、したがって該選択法において生存する。そのような優性選択の例は薬物ネオマイシン、ミコフェノール酸およびヒグロマイシンを使用する。
哺乳類細胞のための適当な選択マーカーのもう1つの例は、抗体核酸を取り込むのに適した細胞の特定を可能にするもの、例えばDHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II、好ましくは霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどである。
例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞を、まず、DHFRの競合性アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含有する培地内で形質転換体の全てを培養することにより特定する。野生型DHFRが使用される場合の適当な宿主細胞は、DHFR活性を欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系(例えば、ATCC CRL−9096)である。
あるいは、抗体、野生型DHFRタンパク質およびもう1つの選択マーカー、例えばアミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH)をコードするDNA配列で形質転換または共形質転換された宿主細胞(特に、内因性DHFRを含有する野生型宿主)は、該選択マーカーのための選択剤、例えばアミノグリコシド抗生物質、例えばカナマイシン、ネオマイシンまたはG418を含有する培地における細胞増殖により選択されうる。米国特許第4,965,199号を参照されたい。
(iv)プロモーター成分
発現およびクローニングベクターは、通常、宿主生物により認識される、抗体ポリペプチド核酸に機能的に連結されたプロモーターを含有する。真核生物のためのプロモーター配列は公知である。実質的に全ての真核生物遺伝子は、転写が開始される部位から約25〜30塩基上流に位置する、ATに富む領域を有する。多数の遺伝子の転写の開始点から70〜80塩基上流に見出されるもう1つの配列はCNCAAT領域(ここで、Nは任意のヌクレオチドでありうる)である。ほとんどの真核生物遺伝子の3’末端には、コード配列の3’末端へのポリA尾部の付加のためのシグナルでありうるAATAAA配列が存在する。これらの配列の全ては真核生物発現ベクター内に適切に挿入される。
哺乳類宿主細胞におけるベクターからの抗体ポリペプチドの転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスおよびシミアンウイルス40(SV40)のようなウイルスのゲノム、異種哺乳類プロモーター、例えばアクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターから得られるプロモーター(ただし、そのようなプロモーターは宿主細胞系に適合性でなければならない)により制御される。
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点をも含有するSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターはHindIIIE制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシパピローマウイルスを使用して哺乳類宿主内でDNAを発現させるための系が米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の修飾が米国特許第4,601,978号に記載されている。あるいは、ラウス肉腫ウイルス長末端反復配列がプロモーターとして使用されうる。
(v)エンハンサー要素成分
高等真核生物による本発明の抗体ポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクター内にエンハンサー配列を挿入することにより増強されることが多い。哺乳類遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、アルファ−フェトプロテンおよびインスリン)からの多数のエンハンサー配列が現在公知である。しかし、典型的には、真核細胞ウイルスからのエンハンサーが使用されるであろう。具体例には、複製起点の後期側(bp100−270)のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための増強性要素に関しては、Yaniv,Nature 297:17−18(1982)も参照されたい。該エンハンサーは、抗体ポリペプチドコード化配列の5’または3’位、好ましくは、該プロモーターの5’側の部位に位置するベクター内にスプライシングされうる。
(vi)転写終結成分
真核宿主細胞において使用される発現ベクターは、典型的には、転写の終結およびmRNAの安定化に必要な配列をも含有する。そのような配列は一般に、真核生物またはウイルスDNAまたはcDNAの5’および時には3’の非翻訳領域から入手可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含有する。1つの有用な転写終結成分はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026およびそれに開示されている発現ベクターを参照されたい。
(vii)宿主細胞の選択および形質転換
本発明におけるベクターにおいてDNAをクローニングし又は発現させるための適当な宿主細胞には、脊椎動物宿主細胞を含む本明細書に記載されている高等真核生物細胞が含まれる。培養(組織培養)における脊椎動物細胞の増殖は常套手段となっている。有用な哺乳類宿主細胞系の具体例としては、SV40により形質転換されたサル腎CV1系(COS−7,ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎系(懸濁培養内での増殖のためにサブクローニングされた293または293細胞,Grahamら,J.Gen Virol.36:59(1977));乳児ハムスター腎細胞(BHK,ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO,Urlaubら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.23:243−251(1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76,ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA,ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44−68(1982));MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝癌系(Hep G2)が挙げられる。
宿主細胞は、抗体産生のための前記の発現またはクローニングベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択または所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適宜修飾された通常の栄養培地内で培養される。
(viii)宿主細胞の培養
本発明の抗体を製造するための適当な宿主細胞は種々の培地内で培養されうる。例えばHam F10(Sigma)、最少必須培地(MEM)(Sigma)、RPMI−1640(Sigma)およびダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma)のような商業的に入手可能な培地が宿主細胞の培養に適している。また、Hamら,Meth.Enz.58:44(1979);Barnesら,Anal.Biochem.102:255(1980);米国特許第4,767,704号、第4,657,866号、第4,927,762号、第4,560,655号または第5,122,469号;WO 90/03430;WO 87/00195;あるいは米国特許Re.30,985に記載されている培地のいずれかが宿主細胞のための培地として使用されうる。これらの培地はいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の増殖因子(例えば、インスリン、トランスフェリンまたは上皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびホスファート)、バッファー(例えば、HEPES)、ヌクレオチド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCIN(商標)薬)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物として定義される)およびグルコースまたは同等のエネルギー源で補足されうる。当業者に公知のいずれかの他の必要なサプリメント(補足物質)も適当な濃度で加えられうる。温度、pHなどのような培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で既に用いられているものであり、当業者に明らかであろう。
(ix)抗体の精製
組換え技術を用いる場合、該抗体は細胞内で産生され、あるいは培地内に直接分泌されうる。該抗体が細胞内で産生される場合には、第1段階として、宿主細胞または細胞溶解断片のいずれかの粒子状残渣を例えば遠心分離または限外濾過により除去する。該抗体が培地内に分泌される場合には、そのような発現系の上清を、一般には、まず、商業的に入手可能なタンパク質濃縮フィルター、例えばAmiconまたはMillipore Pellicon(商標)限外濾過ユニットを使用して濃縮する。タンパク質分解を抑制するために、前記工程のいずれかにおいて、プロテアーゼインヒビター、例えばPMSFが加えられることが可能であり、外来性汚染物の増殖を予防するために抗生物質が加えられることが可能である。
該細胞から調製された抗体組成物は、例えばヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析およびアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製可能であり、アフィニティークロマトグラフィーが、好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、該抗体に存在するいずれかの免疫グロブリンFcドメインの種およびイソタイプに左右される。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用されうる(Lindmarkら,J.Immunol.Meth.62:1−13(1983))。全てのマウスイソタイプおよびヒトγ3にはプロテインGが推奨される(Gussら,EMBO J.5:15671575(1986))。該アフィニティーリガンドが結合されるマトリックスは大抵はアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。物理的に安定なマトリックス、例えば制御細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースで達成されうるものより速い流速およびより短い加工時間を可能にする。該抗体がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が精製に有用である。回収されるべき抗体に応じて、タンパク質精製のための他の技術、例えばイオン交換カラム上の分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上のクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上のヘパリンSEPHAROSE(商標)上のクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGEおよび硫酸アンモニウム沈殿も利用可能である。
いずれかの予備精製工程後、該関心抗体および汚染物を含む混合物を、約2.5〜4.5のpHの溶出バッファーを使用し好ましくは低塩濃度(例えば、約0〜0.25M塩)で行われる低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに付すことが可能である。
イムノコンジュゲート
本発明はまた、細胞毒性物質、例えば化学療法剤、増殖抑制物質、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物由来の酵素的に活性な毒素またはその断片)または放射性同位体(放射性コンジュゲートを与える)にコンジュゲート化された少なくとも1つの本発明抗体を含むイムノコンジュゲート(互換的に「抗体−薬物コンジュゲート」または「ADC」と称される)に関する。
細胞毒性または静細胞物質、すなわち、癌の治療において腫瘍細胞を殺す又は抑制する薬物の局所運搬のための抗体−薬物コンジュゲートの使用(SyrigosおよびEpenetos(1999)Anticancer Research 19:605−614;Niculescu−DuvazおよびSpringer(1997)Adv.Drg Del.Rev.26:151−172;米国特許第4,975,278号)は、これらの薬剤の未コンジュゲート化体の全身投与が、除去したい腫瘍細胞だけでなく正常細胞にも、許容し得ないレベルの毒性を引き起こしうる場合に、腫瘍への該薬物部分の標的化運搬およびそれにおける細胞内蓄積を可能にする(Baldwinら(1986)Lancet pp.(Mar.15,1986):603−05;Thorpe,(1985)“Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review”,in Monoclonal Antibodies’84:Biological And Clinical Applications,A. Pincheraら(編),pp.475−506)。それにより、最小毒性での最大効力が追求される。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は共に、これらの方法において有用であると報告されている(Rowlandら,(1986)Cancer Immunol.Immunother.,21:183−87)。これらの方法において使用される薬物には、ダウノマイシン(daunomycin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、メトトレキセート(methotrexate)およびビンデシン(vindesine)が含まれる(Rowlandら,(1986),前掲)。抗体−毒素コンジュゲートにおいて使用される毒素には、細菌毒素、例えばジフテリア毒素、植物毒素、例えばリシン、小分子毒素、例えばゲルダナマイシン(geldanamycin)(Mandlerら(2000)Jour,of the Nat.Cancer Inst.92(19):1573−1581;Mandlerら(2000)Bioorganic & Med.Chem.Letters 10:1025−1028;Mandlerら(2002)Bioconjugate Chem.13:786−791)、メイタノシノイド(maytansinoid)(EP 1391213;Liuら,(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:8618−8623)およびカリケアマイシン(calicheamicin)(Lodeら(1998)Cancer Res.58:2928;Hinmanら(1993)Cancer Res.53:3336−3342)が含まれる。該毒素は、チューブリン結合、DNA結合またはトポイソメラーゼ抑制を含むメカニズムにより、それらの細胞毒性および静細胞効果をもたらしうる。いくつかの細胞毒性薬は、大きな抗体またはタンパク質受容体リガンドにコンジュゲート化されると、不活性または低活性になる傾向にある。
ZEVALIN(商標)(イブリツモマブ チウキセタン(ibritumomab tiuxetan),Biogen/Idec)は、正常および悪性Bリンパ球の表面上に見出されるCD20抗原に対するマウスIgG1カッパモノクローナル抗体と、チオ尿素リンカー−キレーターが結合する111Inまたは90Y放射性同位体とから構成される抗体−放射性同位体コンジュゲートである(Wisemanら(2000)Eur.Jour.Nucl.Med.27(7):766−77;Wisemanら(2002)Blood 99(12):4336−42;Witzigら(2002)J.Clin.Oncol.20(10):2453−63;Witzigら(2002)J.Clin.Oncol.20(15):3262−69)。ZEVALIN(商標)はB細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)に対する活性を有するが、投与はほとんどの患者において重度かつ持続的な血球減少症を引き起こす。MYLOTARG(商標)(ゲムツズマブ オゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin),Wyeth Pharmaceuticals)は、カリケアマイシン(calicheamicin)に連結されたhu CD33抗体から構成される抗体薬物コンジュゲートであり、注射による急性骨髄球様白血病の治療に関して2000年に承認された(Drugs of the Future(2000)25(7):686;米国特許第4,970,198号、第5,079,233号、第5,585,089号、第5,606,040号、第5,693,762号、第5,739,116号、第5,767,285号、第5,773,001号)。カンツズマブ メルタンシン(Cantuzumab mertansine)(Immunogen,Inc.)は、ジスルフィドリンカーSPPを介してメイタンシノイド(maytansinoid)薬物部分DM1に連結されたhuC242抗体から構成される抗体薬物コンジュゲートであり、CanAgを発現する癌(例えば、結腸癌、膵癌、胃癌など)の治療に関する第II相治験に進んでいる。MLN−2704(Millennium Pharm.,BZL Biologies,Immunogen Inc.)は、メイタンシノイド(maytansinoid)薬物部分DM1に連結された抗前立腺特異的膜抗原(PSMA)モノクローナル抗体から構成される抗体薬物コンジュゲートであり、可能性のある前立腺癌治療のために開発中である。オーリスタチンペプチドであるオーリスタチン(auristatin)E(AE)およびモノメチルオーリスタチン(MMAE)(ドラスタチンの合成類似体)がキメラモノクローナル抗体cBR96(癌上のルイスYに特異的)およびcAC10(血液悪性疾患のCD30に特異的)にコンジュゲート化され(Doroninaら(2003)Nature Biotechnology 21(7):778−784)、治療用に開発中である。
イムノコンジュゲートの製造において有用な化学療法剤は本明細書に記載されている(前記)。使用されうる酵素的に活性な毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン(sarcin)、アリューライツ・フォーディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシン(dianthin)タンパク質、フィトラカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP−S)、モモルディカ・チャランチア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコテセン(tricothecene)が含まれる。例えば、1993年10月28日付け公開のWO 93/21232を参照されたい。放射性コンジュゲート化抗体の製造には、種々の放射性核種が利用可能である。具体例には、212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reが含まれる。該抗体と細胞毒性物質とのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、ジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トルエン、2,6−ジイソシアナート)およびビス−活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を使用して製造される。例えば、リシン(ricin)免疫毒素は、Vitettaら,Science,238:1098(1987)に記載されているとおりに製造されうる。炭素−14標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX−DTPA)は該抗体への放射性ヌクレオチドのコンジュゲート化のための典型的なキレート剤である。WO94/11026を参照されたい。
抗体と1以上の小分子毒素[例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、メイタンシノイド(maytansinoid)、ドラスタチン(dolastatin)、オーリスタチン(auristatin)、トリコテセン(trichothecene)およびCC1065、ならびに毒素活性を有する、これらの毒素の誘導体]とのコンジュゲートも本発明において想定される。
i.メイタンシンおよびメイタンシノイド
いくつかの実施形態においては、該イムノコンジュゲートは、1以上のメイタンシノイド(maytansinoid)分子にコンジュゲート化された本発明の抗体(完全長またはフラグメント)を含む。
メイタンシノイドは、チューブリン重合を抑制することにより作用する有糸分裂毒性インヒビターである。メイタンシンは、東アフリカの低木メイテヌス・セッラタ(Maytenus serrata)から最初に単離された(米国特許第3,896,111号)。ついで、ある微生物もメイタンシノイド、例えばメイタンシノールおよびC−3メイタンシノールエステルを産生することが見出された(米国特許第4,151,042号)。合成メイタンシノールならびにそれらの誘導体および類似体が、例えば米国特許第4,137,230号、第4,248,870号、第4,256,746号、第4,260,608号、第4,265,814号、第4,294,757号、第4,307,016号、第4,308,268号、第4,308,269号、第4,309,428号、第4,313,946号、第4,315,929号、第4,317,821号、第4,322,348号、第4,331,598号、第4,361,650号、第4,364,866号、第4,424,219号、第4,450,254号、第4,362,663号および第4,371,533号に開示されている。
メイタンシノイド薬物部分は抗体薬物コンジュゲートにおける魅力的な薬物部分である。なぜなら、それらは、(i)発酵または発酵産物の化学的修飾、誘導体化により比較的容易に製造可能であり、(ii)非ジスルフィドリンカーを介した抗体へのコンジュゲート化に適した官能基での誘導体化に適しており、(iii)血漿中で安定であり、(iv)種々の腫瘍細胞系に対して有効であるからである。
メイタンシノイドを含有するイムノコンジュゲート、その製造方法およびそれらの治療用途は、例えば米国特許第5,208,020号、第5,416,064号および欧州特許EP 0 425 235 B1(それらの開示を参照により明示的に本明細書に組み入れることとする)に開示されている。Liuら,Proc.Natl Acad.Sci.USA 93:8618−8623(1996)は、ヒト結腸直腸癌に対するモノクローナル抗体C242に連結された、DM1と称されるメイタンシノイドを含むイムノコンジュゲートを記載している。該コンジュゲートは、培養結腸癌細胞に対して非常に細胞毒性であることが判明しており、インビボ腫瘍成長アッセイにおいて抗腫瘍活性を示した。Chariら,Cancer Research 52:127−131(1992)は、ヒト結腸癌細胞系上の抗原に結合するマウス抗体A7またはHer2/neu癌遺伝子に結合する別のマウスモノクローナル抗体TA.1にメイタンシノイドがジスルフィドリンカーを介してコンジュゲート化されたイムノコンジュゲートを記載している。TA.1−メイタンシノイドコンジュゲートの細胞毒性が、細胞当たり3×105個のHer2表面抗原を発現するヒト乳癌細胞系SK−BR−3上でインビトロで試験された。該薬物コンジュゲートは、遊離メイタンシノイド薬に類似した細胞毒性度を示し、これは、抗体分子当たりのメイタンシノイド分子の数を増加させることにより増強可能であった。A7−メイタンシノイドコンジュゲートはマウスにおいて低い全身細胞毒性を示した。
抗体−メイタンシノイドコンジュゲートは、抗体またはメイタンシノイド分子の生物活性を有意に低下させることなく、抗体をメイタンシノイド分子に化学的に連結することにより製造される。例えば、米国特許第5,208,020号(その開示を参照により明示的に本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。抗体当たり1個の毒素分子でさえも裸抗体の使用と比べて細胞毒性を増強すると予想されるが、抗体分子当たり平均3〜4個のコンジュゲート化メイタンシノイド分子が、該抗体の機能または溶解度に負の影響を及ぼすことなく標的細胞の細胞毒性を増強する効力を示している。メイタンシノイドは当技術分野でよく知られており、公知技術により合成可能であり、あるいは天然源から単離可能である。適当なメイタンシノイドは、例えば米国特許第5,208,020号ならびに前記の他の特許および非特許刊行物に開示されている。好ましいメイタンシノイドはメイタンシノール、およびメイタンシノイド分子の芳香環または他の位置で修飾されたメイタンシノール類似体、例えば種々のメイタンシノールエステルである。
抗体−メイタンシノイドを製造するための多数の連結基が当技術分野で公知であり、それらには、例えば、米国特許第5,208,020号またはEP特許0 425 235 B1、Chariら,Cancer Research 52:127−131(1992)および2004年10月8日付け出願の米国特許出願第10/960,602号(それらの開示を参照により明示的に本明細書に組み入れることとする)に開示されているものが含まれる。リンカー成分SMCCを含む抗体−メイタンシノイドコンジュゲートは、2004年10月8日付け出願の米国特許出願第10/960,602号に開示されているとおりに製造されうる。該連結基には、前記特許に開示されているジスルフィド基、チオエーテル基、酸不安定性基、光不安定性基、ペプチダーゼ不安定性基またはエステラーゼ不安定性基が含まれ、ジスルフィドおよびチオエーテル基が好ましい。他の連結基が本明細書に記載され例示されている。
該抗体とメイタンシノイドとのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、ジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トルエン、2,6−ジイソシアナート)およびビス−活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を使用して製造される。特に好ましいカップリング剤には、ジスルフィド結合を生成するN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)(Carlssonら,Biochem.J.173:723−737(1978))およびN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノアート(SPP)が含まれる。
該リンカーは、該結合のタイプに応じて、メイタンシノイド分子に種々の位置で結合されうる。例えば、通常のカップリング技術を用いて、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合が形成されうる。該反応は、ヒドロキシル基を有するC−3位、ヒドロキシメチルで修飾されたC−14位、ヒドロキシル基で修飾されたC−15位、およびヒドロキシル基を有するC−20位において生じうる。好ましい実施形態においては、該結合はメイタンシノールまたはメイタンシノールのC−3位において形成される。
ii.オーリスタチンおよびドラスタチン
いくつかの実施形態においては、該イムノコンジュゲートは、ドラスタチン(dolastatin)またはドロスタチン(dolostatin)ペプチド類似体および誘導体、オーリスタチン(auristatin)にコンジュゲート化された本発明の抗体を含む(米国特許第5,635,483号、第5,780,588号)。ドラスタチンおよびオーリスタチンは微小管の動力学、GTP加水分解ならびに核および細胞分裂を妨げ(Woykeら(2001)Antimicrob.Agents and Chemother.45(12):3580−3584)、抗癌活性(米国特許第5,663,149号)および抗真菌活性(Pettitら(1998)Antimicrob.Agents Chemother.42:2961−2965)を有することが示されている。ドラスタチンまたはオーリスタチン薬部分は、該ペプチド薬部分のN(アミノ)末端またはC(カルボキシル)末端を介して該抗体に結合されうる(WO02/088172)。
典型的なオーリスタチンの実施形態は、2004年11月5日付け出願の“Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands”,U.S.Ser.No.10/983,340(その開示の全体を参照により明示的に本明細書に組み入れることとする)に開示されているN末端結合モノメチルオーリスタチン薬部分DEおよびDFを含む。
典型的には、ペプチドに基づく薬部分は、2以上のアミノ酸および/またはペプチド断片間でペプチド結合を形成させることにより製造されうる。そのようなペプチド結合は、例えば、ペプチド化学の分野でよく知られている液相合成法(E.SchroderおよびK.Lubke,“The Peptides”,volume 1,pp 76−136,1965,Academic Press)により形成されうる。該オーリスタチン/ドラスタチン薬部分は、米国特許第5,635,483号;米国特許第5,780,588号;Pettitら(1989)J.Am.Chem.Soc.111:5463−5465;Pettitら(1998)Anti−Cancer Drug Design 13:243−277;Pettit,G.R.ら,Synthesis,1996,719−725;およびPettitら(1996)J.Chem.Soc.Perkin Trans.1 5:859−863の方法により製造されうる。また、Doronina(2003)Nat Biotechnol 21(7):778−784;“Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands”,U.S.Ser.No.10/983,340(2004年11月5日付け出願)(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)(例えば、リンカーにコンジュゲート化されたモノメチルバリン化合物、例えばMMAEおよびMMAFを製造するためのリンカーおよび方法を開示している)も参照されたい。
iii.カリケアマイシン
他の実施形態においては、該イムノコンジュゲートは、1以上のカリケアマイシン(calicheamicin)分子にコンジュゲート化された本発明の抗体を含む。カリケアマイシン族の抗生物質はピコモル未満の濃度で二本鎖DNAの切断を引き起こしうる。カリケアマイシン族のコンジュゲートの製造に関しては、米国特許第5,712,374号、第5,714,586号、第5,739,116号、第5,767,285号、第5,770,701号、第5,770,710号、第5,773,001号、第5,877,296号(全て、American Cyanamid Companyに対するもの)を参照されたい。使用されうるカリケアマイシンの構造類似体には、ガンマsub.1.sup.I、アルファ.sub.2.sup.I、アルファ.sub.3.sup.I、N−アセチル−ガンマ.sub.1.sup.I、PSAGおよびシータ..sup.I.sub.1(Hinmanら,Cancer Research 53:3336−3342(1993),Lodeら,Cancer Research 58:2925−2928(1998)ならびに全てAmerican Cyanamidに対する前記米国特許)が含まれるが、これらに限定されるものではない。該抗体がコンジュゲート化されうるもう1つの抗腫瘍薬は、抗葉酸物質であるQFAである。カリケアマイシンおよびQFAは共に、細胞内作用部位を有し、細胞膜を容易に通過しない。したがって、抗体媒介性インターナリゼーションによるこれらの物質の細胞取り込みはそれらの細胞毒性作用を著しく増強する。
iv.他の細胞毒性物質
本発明の抗体にコンジュゲート化されうる他の抗腫瘍物質には、BCNU、ストレプトゾシン(streptozoicin)、ビンクリスチン(vincristine)および5−フルオロウラシル、米国特許第5,053,394号、第5,770,710号に記載されているLL−E33288複合体として一括して公知の物質群、ならびにエスペラマイシン(esperamicin)(米国特許第5,877,296号)が含まれる。
使用されうる酵素的に活性な毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン(sarcin)、アリューライツ・フォーディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシン(dianthin)タンパク質、フィトラカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP−S)、モモルディカ・チャランチア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコテセン(tricothecene)が含まれる。例えば、1993年10月28日付け公開のWO 93/21232を参照されたい。
該生物学的物質を該細胞毒性物質にコンジュゲート化するための方法は既に記載されている。クロラムブシル(chlorambucil)を抗体にコンジュゲート化するための方法は、Flechner,I,European Journal of Cancer,9:741−745(1973);Ghose,T.ら,British Medical Journal,3:495−499(1972);およびSzekerke,M.ら,Neoplasma,19:211−215(1972)(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。ダウノマイシン(daunomycin)およびアドリアマイシン(adriamycin)を抗体にコンジュゲート化するための方法はHurwitz,E.ら,Cancer Research,35:1175−1181(1975)およびAnion,R.ら,Cancer Surveys,1:429−449(1982)(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。抗体−リシンコンジュゲートの製造方法は米国特許第4,414,148号およびOsawa,T.ら,Cancer Surveys,1:373−388(1982)およびそれらにおいて引用されている参考文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。EP 86309516.2(それを参照により本明細書に組み入れることとする)にカップリング法も記載されている。
本発明は更に、抗体と核溶解活性を有する化合物(例えば、リボヌクレアーゼまたはDNAエンドヌクレアーゼ、例えば、デオキシリボヌクレアーゼ;DNアーゼ)との間で形成されるイムノコンジュゲートを想定している。
腫瘍の選択的破壊のためには、本発明の抗体は、高エネルギー放射線放射体、例えば放射性同位体、例えば131I、ガンマ放射体(これは、腫瘍部位に局在化されると、いくつかの細胞直径の細胞を殺す)に結合(カップリング)されうる。例えば、S.E.Order,“Analysis,Results,and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy”,Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy,R.W.Baldwinら(編),pp 303−316(Academic Press 1985)(それを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。種々の放射性同位体が放射性コンジュゲート化抗体の製造に利用可能である。具体例には、At211、1131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212およびLuの放射性同位体が含まれる。該コンジュゲートを検出に使用する場合、それはシンチグラフィー研究のための放射性原子、例えばtc99mまたはI123、あるいは核磁気共鳴(NMR)イメージング(磁気共鳴イメージング,MRIとしても公知である)のためのスピン標識、例えば、同様にヨウ素−123、ヨウ素−131、インジウム−111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄を含みうる。
放射能標識または他の標識は公知方法で該コンジュゲート内に取り込まれうる。例えば、水素に代わりに例えばフッ素−19を含む適当なアミノ酸前駆体を使用して、該ペプチドが生合成され、あるいは化学的アミノ酸合成により合成されうる。tc99mまたはI123、Re186、Re188およびIn111のような標識は該ペプチド内のシステイン残基を介して結合されうる。イットリウム−90はリシン残基を介して結合されうる。ヨウ素−123を取り込むためには、IODOGEN法(Frakerら(1978)Biochem.Biophys.Res.Commun.80:49−57)が用いられうる。“Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy”(Chatら,CRC Press 1989)は他の方法を詳細に記載している。
該抗体と細胞毒性物質とのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、ジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トルエン、2,6−ジイソシアナート)およびビス−活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を使用して製造される。例えば、リシン(ricin)免疫毒素は、Vitettaら,Science 238:1098(1987)に記載されているとおりに製造されうる。炭素−14標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX−DTPA)は該抗体への放射性ヌクレオチドのコンジュゲート化のための典型的なキレート剤である。WO94/11026を参照されたい。該リンカーは、細胞内での細胞毒性薬の遊離を促進する「切断可能リンカー」でありうる。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(Chariら,Cancer Research 52:127−131(1992);米国特許第5,208,020号)が使用されうる。
本発明の化合物には、架橋試薬BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC−SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ−EMCS、スルホ−GMBS、スルホ−KMUS、スルホ−MBS、スルホ−SIAB、スルホ−SMCCおよびスルホ−SMPB、およびSVSB(スクシンイミジル−(4−ビニルスルホン)ベンゾアート)[これらは(例えばPierce Biotechnology,Inc.,Rockford,Ill,U.S.Aから)商業的に入手可能である]を使用して製造されるADCが明示的に含まれるが、これらに限定されるものではない。Applications Handbook and Catalogの467−498、2003−2004ページを参照されたい。
v.抗体薬物コンジュゲートの製造
本発明の抗体薬物コンジュゲート(ADC)においては、抗体(Ab)は、抗体当たり1以上の薬物部分(D)、例えば約1個〜約20個の薬物部分に、リンカー(L)を介してコンジュゲート化される。(1)共有結合によりAb−Lを形成する、2価リンカー試薬との抗体の求核基の反応、およびそれに続く、薬物部分Dとの反応、ならびに(2)共有結合によりD−Lを形成する、2価リンカー試薬との薬物部分の求核基の反応、およびそれに続く、抗体の求核基との反応を含む、当業者に公知の有機化学反応、条件および試薬を使用して、幾つかの経路により、式IのADCが製造されうる。ADCを製造するための他の方法も本明細書に記載されている。
Ab−(L−D)p I
該リンカーは1以上のリンカー成分から構成されうる。典型的なリンカー成分には、6−マレイミドカプロイル(「MC」)、マレイミドプロパノイル(「MP」)、バリン−シトルリン(「val−cit」)、アラニン−フェニルアラニン(「ala−phe」)、p−アミノベンジルオキシカルボニル(「PAB」)、N−スクシンイミジル 4−(2−ピリジルチオ)ペンタノアート(「SPP」)、N−スクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(「SMCC」)およびN−スクシンイミジル (4−ヨードアセチル)アミノベンゾアート(「SIAB」)が含まれる。他のリンカー成分は当技術分野で公知であり、いくつかは本明細書に記載されている。“Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands”,U.S.Ser.No.10/983,340(2004年11月5日付け出願)(その内容の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)も参照されたい。
いくつかの実施形態においては、該リンカーはアミノ酸残基を含みうる。典型的なアミノ酸リンカー成分には、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドまたはペンタペプチドが含まれる。典型的なジペプチドには、バリン−シトルリン(vcまたはval−cit)、アラニン−フェニルアラニン(afまたはala−phe)が含まれる。典型的なトリペプチドには、グリシン−バリン−シトルリン(gly−val−cit)およびグリシン−グリシン−グリシン(gly−gly−gly)が含まれる。アミノ酸リンカー成分を構成するアミノ酸残基には、天然に存在するもの、ならびに微量アミノ酸および天然に存在しないアミノ酸類似体、例えばシトルリンが含まれる。アミノ酸リンカー成分は設計可能であり、特定の酵素、例えば腫瘍関連プロテアーゼ、カテプシンB、CおよびDまたはプラスミンプロテアーゼによる酵素的切断に対するそれらの選択性において最適化されうる。
抗体上の求核基には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:(i)N末端アミン基、(ii)側鎖アミン基、例えばリシン、(iii)側鎖チオール基、例えばシステイン、および(iv)抗体がグリコシル化されている場合の糖ヒドロキシルまたはアミノ基。アミン、チオールおよびヒドロキシル基は求核性であり、リンカー部分およびリンカー試薬((i)活性エステル、例えばNHSエステル、HOBtエステル、ハロホルマートおよびハロゲン化酸;(ii)ハロゲン化アルキルおよびベンジル、例えばハロアセトアミド;(iii)アルデヒド、ケトン、カルボキシルおよびマレイミド基を含む)上の求電子基と共有結合を形成するように反応しうる。ある抗体は還元可能な鎖間ジスルフィド、すなわち、システイン架橋を有する。抗体は、還元剤、例えばDTT(ジチオトレイトール)での処理により、リンカー試薬とのコンジュゲート化のために反応性にされうる。したがって、各システイン架橋は、理論的には、2つの反応性チオール求核性部分を形成する。アミンからチオールへの変換を引き起こす、2−イミノチオラン(トラウト(Traut)試薬)とのリシンの反応により、抗体内に追加的な求核性基が導入されうる。1個、2個、3個、4個またはそれ以上のシステイン残基を導入する(例えば、1以上の非天然システインアミノ酸残基を含む突然変異抗体を製造する)ことにより、該抗体(またはそのフラグメント)内に反応性チオール基が導入されうる。
本発明の抗体薬物コンジュゲートは、該リンカー試薬または薬物上の求核性置換基と反応しうる求電子性部分を導入するための該抗体の修飾により製造されうる。グリコシル化抗体の糖は、例えば、ペリオダート酸化試薬で酸化されて、アルデヒドまたはケトン基を生成することが可能であり、これはリンカー試薬または薬物部分のアミン基と反応しうる。得られたイミンシッフ塩基基は安定な連結を形成することが可能であり、あるいは例えばボロヒドリド試薬により還元されて安定なアミン結合を形成しうる。1つの実施形態においては、ガラクトースオキシダーゼまたはメタ過ヨウ素酸ナトリウムとのグリコシル化抗体の炭水化物部分の反応は該タンパク質内にカルボニル(アルデヒドおよびケトン)基を与えることが可能であり、これは該薬物上の適当な基と反応しうる(ヘルマンソン(Hermanson),バイオコンジュゲート技術)。もう1つの実施形態においては、N末端セリンまたはトレオニン残基を含有するタンパク質はメタ過ヨウ素酸ナトリウムと反応して、第1アミノ酸の位置にアルデヒドを生成しうる(Geoghegan & Stroh,(1992)Bioconjugate Chem.3:138−146;米国特許第5,362,852号)。そのようなアルデヒドは薬物部分またはリンカー求核体と反応されうる。
同様に、薬物部分上の求核性基には、リンカー部分およびリンカー試薬((i)活性エステル、例えばNHSエステル、HOBtエステル、ハロホルマートおよびハロゲン化酸;(ii)ハロゲン化アルキルおよびベンジル、例えばハロアセトアミド;(iii)アルデヒド、ケトン、カルボキシルおよびマレイミド基を含む)上の求電子基と共有結合を形成するように反応しうるアミン、チオール、ヒドロキシル、ヒドラジド、オキシム、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボキシラートおよびアリールヒドラジド基が含まれるが、それらに限定されるものではない。
あるいは、該抗体と細胞毒性物質とを含む融合タンパク質は、例えば組換え技術またはペプチド合成により製造されうる。DNAの長さは、該コンジュゲートの所望の特性を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域により隔てられた又は互いに隣接した、該コンジュゲートの2つの部分をコードするそれぞれの領域を含みうる。
さらにもう1つの実施形態においては、該抗体を「受容体」(例えば、ストレプトアビジン)にコンジュゲート化して、腫瘍前標的化において利用する。この場合、該抗体−受容体コンジュゲートを患者に投与し、ついで、クリアリング(clearing)剤を使用して、循環から未結合コンジュゲートを除去し、ついで、細胞毒性物質(例えば、放射性ヌクレオチド)にコンジュゲート化された「リガンド」(例えば、アビジン)を投与する。
RNAi
ある実施形態においては、細胞毒性物質は遺伝子修飾因子、例えばRNAi分子である。特異的RNAi(RNA干渉)核酸の製造方法は当技術分野において記載されている(例えば、米国特許第6,506,559号;WO 01/75164;WO 99/32619;Elbashirら,Nature 411:494−98(2001);Zhangら,Curr.Pharm.Biotech.5:1−7(2004);Paddisonら,Curr.Opin.Mol.Ther.5:217−24(2003))。
RNA干渉は、短い干渉性RNA(siRNA)により引き起こされる、動物における配列特異的転写後遺伝子サイレンシングの過程を意味する(Fireら,1998,Nature,391,806)。植物における対応過程は一般に転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと称され、真菌においてはクエリング(quelling)とも称される。転写後遺伝子サイレンシングの過程は、多様なフローラおよび系統(phyla)により一般に共有される外来遺伝子の発現を妨げるために用いられる進化的に保存された細胞性防御であると考えられている(Fireら,1999,Trends Genet,15,358)。外来遺伝子発現からのそのような防御は、相同一本鎖RNAまたはウイルスゲノムRNAを特異的に破壊する細胞性応答により宿主ゲノム内へのトランスポゾン要素のウイルス感染またはランダム組込みから誘導された二本鎖RNA(dsRNA)の生成に応答して進化した可能性がある。細胞内のdsRNAの存在は、未だ完全には特徴づけられていないメカニズムによりRNAi応答を誘発する。このメカニズムは、リボヌクレアーゼLによるmRNAの非特異的切断を引き起こすプロテインキナーゼPKRおよび2’,5’−オリゴアデニル酸シンテターゼのdsRNA媒介性活性化から生じるインターフェロン応答とは異なるようである。
細胞内の長いdsRNAの存在は、ダイサー(dicer)と称されるリボヌクレアーゼIII酵素の活性を刺激する。ダイサーは、短い干渉性RNA(siRNA)として公知の短いdsRNA断片へのdsRNAのプロセシングに関与する(Bersteinら,2001,Nature,409,363)。ダイサー活性から誘導される短い干渉性RNAは典型的には約21〜23ヌクレオチド長であり、約19塩基対の二重鎖を含む。ダイサーは、翻訳制御に関与する保存された構造の前駆体RNAからの21および22ヌクレオチドの小さな一過性RNA(stRNA)の切除にも関連づけられている(Hutvagnerら,2001,Science,293,834)。RNAi応答は、RNA誘発性サイレンシング複合体(RISC)と一般に称される、siRNAを含有するエンドヌクレアーゼ複合体をも特徴づけ、これは、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な配列を有する一本鎖RNAの切断を引き起こす。標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な領域の中央で生じる(Elbashirら,2001,Genes Dev.,15,188)。
医薬製剤
本発明の抗体を含む治療用製剤は、所望の純度を有する該抗体を随意的な生理的に許容される担体、賦形剤または安定剤(Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th edition(2000))と混合することにより、水溶液、凍結乾燥または他の乾燥製剤の形態で、貯蔵用に製造される。許容される担体、賦形剤または安定剤は、用いられる投与量および濃度において被投与者に無毒性であり、以下のものを包含する:バッファー、例えばリン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジンおよび他の有機酸;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸およびメチオニン;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレーゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン;親水性重合体、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシン;単糖、二糖および他の炭水化物、例えばグルコース、マンノースまたはデキストリン;キレート化剤、例えばEDTA;糖、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成性対イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)。
本発明における製剤は、治療される個々の適応症に必要な場合には、2以上の活性化合物、好ましくは、互いに有害な影響を及ぼさない相補的な活性を有する活性化合物をも含有しうる。そのような分子は、適切には、意図される目的に有効な量で組合されて存在する。
該有効成分はまた、例えば、コアセルベーション技術または界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタシラート)マイクロカプセル、コロイド性薬物運搬系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルション内に封入されうる。そのような技術はRemington:The Science and Practice of Pharmacy 20th edition(2000)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は無菌性でなければならない。これは、滅菌濾過膜での濾過により容易に達成される。
治療用途および非治療用途
本明細書に記載されている抗Her3抗体のいずれか1以上は、抗原発現および/または活性の増加に関連した障害に罹患している対象において、抗原、好ましくはHer3受容体タンパク質を結合させるための方法において使用されうる。該方法は、該対象における抗原に結合するように本発明の抗体を該対象に投与することを含む。好ましくは、該抗原はヒトタンパク質分子であり、該対象はヒト対象である。したがって、本発明の抗体は治療目的でヒト対象に投与されうる。また、本発明の抗体は、免疫グロブリンが交差反応する抗原を発現する非ヒト哺乳動物(例えば、霊長類、ブタまたはマウス)に、獣医学的目的で又はヒト疾患の動物モデルとして投与されうる。後者の場合、そのような動物モデルは、本発明の抗体の治療効力の評価(例えば、投与の時間経過および投与量の試験)に有用でありうる。
本Her3受容体アンタゴニストおよび中和抗体は、癌を発現するHer3受容体を治療(処理)するため又は哺乳動物における癌の1以上の症状を軽減するための治療用物質として有用である。本発明の抗体は、炎症障害などのような他のHer3媒介性障害を治療するためにも使用されうる。該抗体は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで、哺乳動物においてHer3受容体を発現する癌細胞の少なくとも一部分に結合することが可能であり、好ましくは、Her3受容体発現腫瘍細胞を破壊し又は殺し、あるいはそのような腫瘍細胞の成長を抑制することが可能である。そのような抗体には、裸の抗Her3受容体抗体(いずれの物質にもコンゲート化されていないもの)が含まれる。細胞毒性または細胞成長抑制特性を有する裸抗体を更に、細胞毒性物質に連結して、それを、腫瘍細胞破壊において、より一層強力にすることが可能である。抗Her3受容体抗体への細胞毒性特性の付与は、例えば、該抗体を細胞毒性物質にコンジュゲート化して、本明細書に記載されているイムノコンジュゲートを形成させることによりもたらされうる。代替的実施形態はHer3特異的アゴニスト抗体を含む。
1つの態様においては、本発明は、Her3の発現および/または活性の増加に関連した腫瘍、癌および/または細胞増殖性障害を治療または予防するための方法を提供し、該方法は、そのような治療を要する対象に抗Her3抗体の有効量を投与することを含む。
1つの態様においては、本発明は、腫瘍または癌の成長を軽減、抑制、阻止または予防するための方法を提供し、該方法は、そのような治療を要する対象に抗Her3抗体の有効量を投与することを含む。
1つの態様においては、本発明は、腫瘍、癌および/または細胞増殖性障害を治療するための方法を方法を提供し、該方法は、そのような治療を要する対象に抗Her3抗体の有効量を投与することを含む。
1つの態様においては、本発明は、血管新生を含む細胞増殖性障害を抑制するための方法を提供し、該方法は、そのような治療を要する対象に抗Her3抗体の有効量を投与することを含む。
1つの態様においては、本発明は、細胞増殖性障害に関連した病態を治療するための方法を提供し、該方法は、そのような治療を要する対象に抗Her3抗体の有効量を投与することを含む。いくつかの実施形態においては、該細胞増殖性障害に関連した病態は腫瘍および/または癌である。
本発明の抗体は、治療薬、放射線を放射する化合物、植物、真菌または細菌由来の分子、生物学的タンパク質およびそれらの混合物を含む種々の細胞毒性薬を運搬するために使用されうる。該細胞毒性薬は、例えば短距離高エネルギーアルファ放射体を含む短距離放射線放射体のような細胞内作用性細胞毒性薬でありうる。
本発明の抗体は、1以上の抗原分子の発現および/または活性に関連した疾患、障害または状態を治療し、抑制し、それらの進行を遅らせ、それらの再発を予防し/遅らせ、それらを改善し、または予防するために使用されうる。
典型的な障害には、前記の障害が含まれる。Her3受容体媒介性白血病、血管新生を含む障害、Her3多形に関連した心血管疾患なども含まれる。
ある実施形態においては、1以上の細胞毒性物質にコンジュゲート化された抗体を含むイムノコンジュゲートが患者に投与される。いくつかの実施形態においては、該イムノコンジュゲート、および/またはそれが結合する抗原は、細胞によりインターナリゼーションされて、それが結合する標的細胞の殺傷における該イムノコンジュゲートの治療効力の増強をもたらす。1つの実施形態においては、該細胞毒性物質は微小管重合を標的化または妨害する。そのような細胞毒性物質の具体例には、本明細書に記載されている化学療法剤(例えば、メイタンシノイド、オーリスタチン、ドラスタチンまたはカリケアマイシン)、放射性同位体またはリボヌクレアーゼまたはRNAiまたはDNAエンドヌクレアーゼのいずれかが含まれる。
該抗Her3抗体またはイムノコンジュゲートは、公知方法、例えば静脈内投与、例えばボーラスまたは或る時間にわたる連続的注入、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、鞘内、経口、局所もしくは吸入経路により、ヒト患者に投与される。該抗体の静脈内または皮下投与が好ましい。
該抗Her3受容体抗体の投与と他の治療計画が組合されうる。該組合せ投与は、別々の製剤または単一の医薬製剤を使用する共投与、およびいずれかの順序での連続的投与を含み、この場合、好ましくは、両方(または全て)の活性物質がそれらの生物活性を同時に示す時間が存在する。好ましくは、そのような組合せ療法は相乗治療効果をもたらす。
該抗Her3受容体抗体の投与を、特定の癌に関連した別の腫瘍抗原に対する抗体の投与と組合せることが望ましいかもしれない。もう1つの実施形態においては、本発明抗体は、2つの異なるエピトープを標的化する二重特異性構築物である。該エピトープは、同一抗原上、または一方がHer3受容体タンパク質である別々の抗原上に存在しうる。
本発明の抗体は、単独で又は他の組成物と組合せて治療において使用されうる。例えば、本発明の抗体は、別の抗体、化学療法剤(化学療法剤のカクテルを含む)、他の細胞毒性物質、抗血管新生物質、サイトカインおよび/または成長抑制物質と共に共投与されうる。本発明の抗体が腫瘍成長を抑制する場合、それを、同様に腫瘍成長を抑制する1以上の他の治療用物質(例えば、EGFRファミリー受容体のいずれか1以上に対する抗体を含む抗EGFR物質)と組合せることが特に望ましいであろう。その代わりに又はそれに加えて、該患者は、併用される放射線療法(例えば、外部ビーム照射または抗体のような放射能標識物質での治療)を受けることが可能である。前記のそのような組合せ療法には、組合せ投与(この場合、2以上の物質が同じ又は別々の製剤中に含まれる)および別々の投与が含まれ、この場合、本発明の抗体の投与は付随的療法の投与の前および/または後で行われうる。
異なるモノクローナル抗体のカクテル、例えば、本明細書に記載されている特異的モノクローナル抗体またはそれらの結合性フラグメントの混合物が、必要に応じて又は所望により、癌治療のために投与されうる、と更に理解されるべきである。実際、癌細胞上の幾つかの抗原または種々のエピトープを標的化するためにカクテルにおいてモノクローナル抗体またはその結合性フラグメントの混合物を使用することは、該抗原の1つのダウンレギュレーションによる腫瘍細胞および/または癌細胞の逃避の阻害のための有利なアプローチである。
組合せ療法
前記のとおり、本発明は、抗Her3抗体を別の療法と共に投与する組合せ療法を提供する。例えば、抗Her3抗体は、種々の腫瘍性または非腫瘍性状態を治療するために、抗癌治療剤または抗血管新生治療剤と組合せて使用される。1つの実施形態においては、該腫瘍性または非腫瘍性状態は、異常な又は望ましくない血管新生に関連した病態により特徴づけられる。該抗Her3抗体は、それらの目的に有効な別の物質と共に、同一組成物中で又は別々の組成物として、連続的に又は組合せて投与されうる。その代わりに又はそれに加えて、Her3の複数のインヒビターが投与されうる。
該抗Her3抗体の投与は、例えば、単一組成物として、または同じ若しくは異なる投与経路を用いる2以上の異なる組成物として、同時に行われうる。その代わりに又はそれに加えて、該投与はいずれかの順序で連続的に行われうる。ある実施形態においては、それらの2以上の組成物の投与の間に、数分間、数日間、数週間、数ヶ月の範囲の間隔が存在しうる。例えば、まず、該抗癌物質を投与し、ついで該Her3インヒビターを投与することが可能である。しかし、同時投与、または最初に該抗Her3抗体を投与することも想定される。
抗Her3抗体と組合せて投与される治療用物質の有効量は医師または獣医の判断に委ねられるであろう。投与量の管理および調節は、治療すべき状態の最高の処置が達成されるように行われる。該容量はまた、使用される治療用物質のタイプおよび治療される具体的な患者のような要因に左右されるであろう。該抗癌物質に関する適当な投与量は、現在用いられているものであり、該抗癌物質と該抗Her3抗体との組合せ作用(相乗効果)により低減されうる。ある実施形態においては、該インヒビターの組合せは単一インヒビターの効力を増強する。「増強」なる語は、治療用物質の、その一般的な又は承認されている用量における効力の改善を意味する。本明細書における「医薬組成物」なる表題の節も参照されたい。
典型的には、該抗Her3抗体および抗癌物質は、病的障害、例えば腫瘍成長または癌細胞の成長を阻止または軽減するために、同じ又は類似した疾患に適している。1つの実施形態においては、該抗癌物質は抗血管新生物質である。
癌に関する「過剰細胞増殖」療法は、Her3受容体タンパク質を発現する腫瘍細胞の腫瘍成長を抑制すること及び二次部位の腫瘍の転移を予防することを目的とした癌治療法であり、したがって、他の治療による腫瘍への攻撃を可能にする。
該抗Her3抗体は、過剰な腫瘍血管発生を抑制する抗血管新生物質に加えて又はそれと共に使用されうる。したがって、本発明で想定される過剰細胞増殖療法は、抗血管新生化合物(その多くは特定されており、当技術分野で公知であり、例えば「定義」に挙げられているもの、ならびに例えばCarmelietおよびJain,Nature 407:249−257(2000);Ferraraら,Nature Reviews.Drug Discovery,3:391−400(2004);およびSato Int.J.Clin.Oncol,8:200−206(2003)に挙げられているものを含む)を含む「抗血管新生」療法と組合されうる。1つの実施形態においては、抗Her3抗体は、抗Her2抗体(またはフラグメント)および/または別のHer2アンタゴニストと組合せて使用される。その代わりに又はそれに加えて、該抗Her3抗体は、抗IGF−1r抗体またはアンタゴニストと組合せて使用されうる。米国特許第7,244,444号を参照されたい。それに加えて又はその代わりに、場合によっては、2以上の血管新生インヒビターが、抗Her3抗体および別の抗血管新生部分と共に患者に共投与されうる。ある実施形態においては、1以上の追加的治療用物質、例えば抗癌物質が、抗Her3抗体、Her2またはIGF−1Rアンタゴニスト、および抗血管新生物質と組合せて投与されうる。
本発明の或る態様においては、抗Her3抗体との組合せ腫瘍療法に有用な他の治療用物質には、他の癌療法[例えば、手術、放射線治療(例えば、照射または放射性物質の投与を含むもの)、化学療法、本明細書に挙げられている及び当技術分野で公知の抗癌物質での治療、またはそれらの組合せ]が含まれる。その代わりに又はそれに加えて、本明細書に開示されている同じ又は2以上の異なる抗原に結合する2以上の抗体が患者に共投与されうる。時には、1以上のサイトカインを患者に投与することも有益でありうる。
さらにもう1つの実施形態は、Her3媒介性癌の治療方法を提供し、該方法は、a)該癌の治療を要する患者から罹患組織のサンプルを得、b)該組織サンプルにおけるHer3レベルの発現のレベルを決定し、c)Her3レベルの発現に関して該サンプルをスコア化し、d)該スコアを相関して、Her3アンタゴニストでの治療が有益である可能性のある患者を特定し(ここで、相関工程は、該スコアを、対照サンプルから得られたものと比較することを含む)、e)その特定の癌の予後を改善することが知られている治療計画で該患者を治療することを含む。ある実施形態においては、該方法は更に、f)工程「a」および「b」を反復し、g)該癌の予後を改善することが知られている治療計画を調節し、h)適当とみなされる頻度で工程a〜fを反復することを提示する。病期決定またはスコア化の目的でHer3発現を「検出」する典型的かつ非限定的な方法は後記に記載されている。例えば、「Her3抗原の検出」と称された節を参照されたい。
追加的な組合せ療法には、本発明抗体のいずれか1以上をグルココルチコイド(US 20060003927)およびガンマ−セクレターゼ(20080206753およびそれに引用されている参考文献、例えば、Lanz,T.A.,Hosley,J.D.,Adams,W.J.,およびMerchant,K
.M.2004.Studies of Abeta pharmacodynamics in the brain,cerebrospinal fluid,and plasma in young(plaque−free)Tg2576 mice using the gamma−secretase inhibitor N2−[(2S)−2−(3,5−difluorophenyl)−2−hydroxyethanoyl]−Nl−[(7S)−5−methyl−6−ox−o−6,7−dihydro−5H−dibenzo[b,d]azepin−7−yl]−L−alaninamide(LY−411575).J Pharmacol Exp Ther 309:49−55)と組合せることを含む。
化学療法剤
ある態様においては、本発明は、癌に対して感受性である又は癌と診断された患者に、Her3のアンタゴニストおよび/または血管新生インヒビターおよび1以上の化学療法剤の有効量を投与することによる、腫瘍成長または癌細胞の成長を阻止または軽減する方法を提供する。本発明の組合せ治療方法においては、種々の化学療法剤が使用されうる。想定される化学療法剤の典型的かつ非限定的な一覧は「定義」に記載されている。
同様に、ある態様において、本発明は、「アゴニスト」抗Her3抗体の使用を提供する。
当業者に理解されるとおり、化学療法剤の適当なおおよその用量は、一般に、該化学療法剤が単独で又は他の化学療法と組合せて投与される臨床療法において既に用いられているものである。治療される状態に応じて、投与量の変動が生じうるであろう。治療を行う医師は、個々の対象に対する適当な用量を決定しうるであろう。
本発明はまた、再発腫瘍成長または再発癌細胞成長を抑制または予防するための方法および組成物を提供する。再発腫瘍成長または再発癌細胞成長は、1以上の現在利用可能な療法(例えば癌療法、例えば化学療法、放射線療法、手術、ホルモン療法および/または生物学的療法/免疫療法、抗VEGF抗体療法、特に、特定の癌に対する標準的な治療法)を受けている又はそれで治療された患者が該患者の治療に臨床的に適さず、あるいは該患者がもはや該療法から有益な効果を何ら受けず、そのため、これらの患者が追加的な有効な療法を必要とする状態を示すために用いられる。本明細書中で用いるこれらの語は、「非応答性/治療抵抗性」患者の状態を意味することもあり、これは、例えば、療法に応答するが副作用を受ける患者、抵抗性を現す患者、該療法に応答しない患者、該療法に満足には応答しない患者などを示しうる。種々の実施形態においては、癌は再発腫瘍成長または再発癌細胞成長であり、この場合、癌細胞の数は有意に減少しておらず、または増加しており、あるいは腫瘍サイズは有意に減少しておらず、または増加しており、あるいは癌細胞のサイズまたは数が更には何ら減少していない。該癌細胞が再発性腫瘍成長または再発性癌細胞成長であるかどうかの決定は、そのような文脈における「再発」または「治療抵抗性」または「非応答性」の当技術分野で受け入れられている意味を用いて、癌細胞に対する治療の有効性をアッセイするための当技術分野で公知のいずれかの方法によりインビボまたはインビトロでなされうる。抗EGFR治療に対する腫瘍抵抗性は再発腫瘍成長の一例である。
本発明は、対象における再発腫瘍成長または再発癌細胞成長を阻止または軽減するために1以上の抗Her3抗体を投与することによる、対象における再発腫瘍成長または再発癌細胞成長を阻止または軽減する方法を提供する。ある実施形態においては、本発明のHer3アンタゴニストまたはアゴニスト抗体は該癌療法の後で投与されうる。ある実施形態においては、該抗Her3抗体は癌療法と同時に投与される。その代わりに又はそれに加えて、該抗Her3抗体療法は別の癌療法と交互に行われ、それは任意の順序で行われうる。本発明はまた、癌を有する傾向のある患者における癌の発生開始または再発を予防するために1以上の抑制性抗体を投与するための方法を含む。一般に、該対象は癌療法を受けていた又は現在受けている。1つの実施形態においては、該癌療法は、抗血管新生物質、例えば抗her2または抗IGF−1Rアンタゴニストでの治療である。1つの実施形態においては、該抗血管新生物質は抗IGF−1Rアンタゴニスト抗体またはIGF−1R中和抗体もしくはフラグメントまたは抗Her2抗体、例えばHERCEPTIN(商標)(Genentech,South San Francisco,Calif.)またはEGFRアンタゴニスト(エルロチニブ(erlotinib))である。再発腫瘍成長または再発癌細胞成長を阻止または軽減するために、抗her2または抗IGF−1Rアンタゴニストおよび抗Her3抗体と共に、追加的物質が投与されうる。例えば、本明細書における「組合せ療法」なる表題の節を参照されたい。
本発明の抗体(および付随的治療用物質)は、非経口、皮下、腹腔内、肺内および鼻腔内ならびに所望により局所治療、病変内または硝子体内投与を含むいずれかの適当な手段により投与される。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。また、該抗体は、適切には、パルス注入により、特に、該抗体の用量を次第に減少させて投与される。投与は、1つには該投与が短時間のものであるか慢性的なものであるかどうかに応じて、いずれかの適当な経路、例えば注射、例えば静脈内または皮下注射によるものでありうる。
本発明の抗体組成物は、医薬品医学的実施基準に合致した様態で製剤化され、服用され、投与される。この場合における考慮因子には、治療される個々の障害、治療される個々の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、該物質の運搬部位、投与方法、投与のスケジュール、および医学実施者に公知の他の要因が含まれる。該抗体は、問題の障害を予防または治療するために現在使用されている1以上の物質と共に製剤化される必要はないが、場合によってはそのようにして製剤化される。そのような他の物質の有効量は、該製剤中に存在する本発明の抗体の量、障害または治療のタイプ、および前記の要因に左右される。これらは、一般に、本明細書中で前記で用いられているのと同じ投与量および投与経路で使用され、あるいは前記で用いられている用量の約1〜99%で使用される。
疾患の予防または治療の場合、本発明の抗体(単独で又は化学療法剤のような他の物質と組合せて使用された場合)の適当な投与量は、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度および原因、該抗体が予防目的で投与されるのか治療目的で投与されるのか、過去の治療、患者の臨床履歴および該抗体に対する応答、ならびに担当医師の判断に左右される。該抗体は、適切には、1回で又は一連の治療にわたって患者に投与される。該疾患のタイプおよび重症度に応じて、例えば、1以上の別々の投与であるか連続的注入であるかに無関係に、抗体の約1μg/kg〜15mg/kg(例えば、0.1mg/kg〜10mg/kg)が患者への投与のための初期候補投与量である。1つの典型的な1日量は、前記の要因に応じて、約1μg/kg〜100mg/kgまたはそれ以上の範囲となろう。該状態に応じて、数日間またはそれ以上にわたる反復投与の場合、該治療は疾患症状の所望の抑制が生じるまで持続される。該抗体の典型的な投与量の1つは約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲であろう。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgまたは10mg/kg(またはそれらの任意の組合せ)の1以上の用量が患者に投与されうる。そのような用量は断続的に、(例えば、約2〜約20用量、例えば、約6用量の該抗体が患者に投与されるように)例えば毎週または3週間ごとに投与されうる。より高い初期負荷用量、ついでより低い1以上の用量が投与されうる。典型的な治療計画は、約4mg/kgの初期負荷用量、ついで約2mg/kgの該抗体の毎週の維持量を投与することを含む。しかし、他の投与計画も有用でありうる。この療法の進行は通常の技術およびアッセイにより容易にモニターされる。
Her3抗原の検出
細胞表面成長受容体タンパク質、特に、発癌障害と発現が相関するもの(例えば、Her3)は、薬物候補または腫瘍(例えば、癌)治療のための優れた標的である、と十分に受け入れられている。現在、最新の技術的知見は、そのようなタンパク質が非治療用途にも有用でありうると結論づけている。Her3受容体タンパク質に対する該抗Her3抗体の非常に優れた特異性は、診断試薬および予後決定試薬を含む種々の用途に利用されうる。提示されている用途は、(i)本発明の抗Her3抗体およびその抗原結合性フラグメントがHer3に特異的に結合する、ならびに(ii)本発明の抗体が結合する標的受容体が癌細胞上で高度に発現される、という観察を利用するものである。また、明示的に想定されるのは、(例えば、ELISAまたはウエスタンブロットにおける)Her3発現の検出、モニターおよび定量;混合細胞の集団からHer3発現細胞を排除する又は殺すための、他の細胞の精製における一工程としての、細胞からのHer3の精製または免疫沈降における、本発明抗体の使用である。提示されている診断方法は、患者からの細胞サンプル(例えば、リンパ節生検または組織)を使用してインビトロで実施可能であり、あるいはインビボイメージングにより実施可能である。診断用途および予後決定用途は、腫瘍のスコア化およびHer3発現癌の病期分類(例えば、ラジオイメージングにおけるもの)を含む。それらは、単独で又は他のHer3関連癌マーカーと組合せて使用されうる。本発明の抗体の診断用途は原発腫瘍および癌ならびに転移を含む。該抗原を含有する他の癌および腫瘍も、これらの診断およびイメージング法に適合しうる。
1つの実施形態においては、本発明抗体またはその結合性フラグメントは、Her3の発現レベルを、それがどのような種類の「サンプル」において生じうる場合であっても、当業者が定量化または定量することを有効に可能にすることにより、癌の診断および予後決定において非常に有用となる。これは、例えば、光学顕微鏡、フローサイトメトリーまたは蛍光測定検出と組合された蛍光標識抗体を使用する免疫蛍光技術により達成されうる。また、本発明の抗体またはその結合性フラグメントは更に、細胞上の癌特異的抗原のイン・シトゥ(in situ)検出のための、例えば、モニター、診断または検出アッセイにおける使用のための、免疫蛍光、免疫電子顕微鏡検査または非免疫アッセイとして、組織学的に使用されうる。例えば、Zola,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,pp.147 158(CRC Press,Inc.1987)を参照されたい。
もう1つの態様においては、本発明は、サンプル中のHer3−抗Her3抗体複合体を検出することを含む、Her3の検出方法を提供する。本明細書中で用いる「検出」なる語は、対照に対する参照を伴う又は伴わない定性的および/または定量的検出(レベルの測定)を含む。
もう1つの態様においては、本発明は、Her3発現および/または活性に関連した障害を診断するための方法を提供し、該方法は、該障害を有する又は有する疑いのある患者からの生物学的サンプル中のHer3−抗Her3抗体複合体を検出することを含む。いくつかの実施形態においては、該Her3発現は、増加した発現または異常な(望ましくない)発現である。いくつかの実施形態においては、該障害は腫瘍、癌および/または細胞増殖障害である。
もう1つの態様においては、本発明は、検出可能標識を含む、本明細書に記載されている抗Her3抗体のいずれかを提供する。
もう1つの実施形態においては、本発明は、本明細書に記載されている抗Her3抗体のいずれかとHer3との複合体を提供する。いくつかの実施形態においては、該複合体はインビボまたはインビトロのものである。いくつかの実施形態においては、該複合体は癌細胞を含む。いくつかの実施形態においては、該抗Her3抗体は、検出可能な様態で標識されている。
抗Her3抗体は、幾つかのよく知られた検出アッセイ方法のいずれかにおいて、Her3の検出のために使用されうる。例えば、生物学的サンプルは、所望の起源からサンプルを得、該サンプルを抗Her3抗体と混合して、該混合物中に存在しうるHer3と該抗体が抗体/Her3複合体を形成することを可能にし、該混合物中に存在しうる抗体/Her3を検出することにより、Her3に関してアッセイされうる。該生物学的サンプルは、個々のサンプルに適した当技術分野で公知の方法により、アッセイのために調製されうる。該サンプルと抗体と混合する方法、および抗体/Her3複合体を検出する方法は、用いるアッセイのタイプに応じて選択される。そのようなアッセイには、免疫組織化学、競合およびサンドイッチアッセイ、ならびに立体阻害アッセイが含まれる。
Her3に関する分析方法は全て、以下の試薬の1以上を使用する:標識Her3類似体、固定化Her3類似体、標識抗Her3抗体、固定化抗Her3抗体および立体的コンジュゲート。該標識試薬は「トレーサー」としても公知である。
診断およびイメージング用途の場合、本発明の抗体は標識されうる。使用される標識は、Her3および抗Her3抗体の結合を妨げないいずれかの検出可能な機能性であり、それは物理的結合、化学的結合などにより該抗体に結合して、それらが検出されることを可能にしうる。多数の標識がイムノアッセイにおける使用に関して公知であり、具体例には、直接的に検出されうる部分、例えば蛍光色素、化学発光および放射能標識、ならびに検出されるためには反応され又は誘導体化されなければならない、酵素のような部分が含まれる。標識物質の具体例には、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、放射性同位体などが含まれる。蛍光標識抗体が適切な波長の光にさらされると、蛍光によりその存在が検出されうる。本明細書に詳細に記載されている放射性同位体および蛍光物質は、単独で、検出可能なシグナルを生成するが、酵素、化悪発光物質、ビオチンおよびアビジンは、単独では、検出可能なシグナルを生成せず、それらが少なくとも1つの他の物質と反応した際に、検出可能なシグナルを生成する。例えば、酵素の場合には、少なくとも基質が必要であり、酵素活性の測定方法(比色法、蛍光法、生物発光法または化学発光法)に応じて、種々の基質が使用される。ビオチンの場合、一般に、少なくともアビジンまたは酵素修飾アビジンが反応に付される。必要に応じて、基質に応じた種々の着色剤も使用されうる。
そのような標識の具体例には以下のものが含まれる:放射性同位体32P、14C、125I、3Hおよび133I、発蛍光団、例えば希土類キレートまたはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、例えばホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース−6−ホスファターゼデヒドロゲナーゼ、複素環オキシダーゼ、例えばウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼ、HRP、ラクトペルオキシダーゼまたはミクロペルオキシダーゼのような色素前駆体を酸化するために過酸化水素を使用する酵素との共役体、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定フリーラジカルなど。該標識は該抗体またはそのフラグメントに直接的または間接的にコンジュゲート化されうる。実際、検出可能な様態でタンパク質分子を標識するための多数の方法が公知であり、当技術分野で実施されている。標識へのタンパク質の間接的コンジュゲート化の手段もよく知られている。該抗体への該標識の間接的コンジュゲート化は、例えば、抗体を小さなハプテン(例えば、ジゴキシン)にコンジュゲート化することにより達成されることが可能であり、前記の種々のタイプの標識の1つが抗ハプテン抗体突然変異体(例えば、抗ジゴキシン抗体)にコンジュゲート化される。例えば、Wagnerら,J.Nucl.Med.20:428(1979)およびSahaら,J.Nucl.Med.6:542(1976)(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
これらの標識をタンパク質またはポリペプチドに共有結合させるためには、通常の方法が利用可能である。該抗体を前記の蛍光、化学発光および酵素標識でタグ標識するために、例えば、カップリング剤、例えばジアルデヒド、カルボジイミド、ジマレイミド、ビス−イミダート、ビス−ジアゾ化ベンジジンなどが使用されうる。例えば、米国特許第3,940,475号(蛍光測定)および第3,645,090号(酵素);Hunterら,Nature,144:945(1962);Davidら,Biochemistry,13:1014−1021(1974);Painら,J.Immunol.Methods,40:219−230(1981);およびNygren,J.Histochem.and Cytochem.,30:407−412(1982)を参照されたい。本発明における好ましい標識は、酵素、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼである。該抗体へのそのような標識(該酵素を含む)のコンジュゲート化はイムノアッセイ技術における当業者にとっての標準的な操作方法である。例えば、O’Sullivanら,“Methods for the Preparation of Enzyme−antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay,”in Methods in Enzymology,J.J.LangoneおよびH.Van Vunakis編,Vol.73(Academic Press,New York,N.Y.,1981),pp.147−166を参照されたい。
本発明の抗体を標識するためのもう1つの方法は、例えば酵素イムノアッセイ(EIA)における使用のために、該抗体を酵素に連結することによるものである(A.Vollerら,1978,“The Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA)”,Diagnostic Horizons,2:1 7;,Microbiological Associates Quarterly Publication,Walkersville,Md.;A.Vollerら,1978,J.Clin.Pathol,31:507 520;J.E.Butlerら,1981,Meths.Enzymol.,73:482 523;Enzyme Immunoassay,1980,E.Maggio(編),CRC Press,Boca Raton,Fla.;Enzyme Immunoassay,1981,E.Ishikawaら(編),Kgaku Shoin,Tokyo,Japan)。該抗体に結合した酵素は適当な基質、好ましくは色素原性基質と反応して、例えば分光光度手段、蛍光測定手段または視覚的検出手段により検出されうる化学的部分を生成する。検出可能な様態で該抗体を標識するために使用されうる酵素の非限定的な具体例には、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼが含まれる。該検出は、該酵素に対する色素原性基質を使用する比色法により、または同様に調製された標準物もしくは対照と比較した場合の基質の酵素反応の度合の視覚的比較により達成されうる。多数の他の酵素−基質の組合せが当業者に利用可能である。これらの一般的総説としては、米国特許第4,275,149号および第4,318,980号を参照されたい。
酵素を抗体にコンジュゲート化するための技術はO’SuIlivanら,Methods for the Preparation of Enzyme−Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay,in Methods in Enzym.(J.Langone & H.Van Vunakis編),Academic press,New York,73:147−166(1981)に記載されている。
酵素−基質の組合せの具体例には、例えば、以下のものが含まれる:
(i)ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRPO)、および基質としての過酸化水素[ここで、過酸化水素は色素前駆体(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)または3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンヒドロクロリド(TMB))を酸化する];
(ii)アルカリホスファターゼ(AP)、および色素原性基質としてのパラ−ニトロフェニルホスファート;ならびに
(iii)β−D−ガラクトシアーゼ(ベータ−D−Gal)、および色素原性基質(例えば、p−ニトロフェニル−ベータ−D−ガラクトシダーゼ)または蛍光生成性基質4−メチルウンベリフェリル−ベータ−D−ガラクトシダーゼ。
あるアッセイ法には試薬の固定化が必要である。固定化は、溶液中に遊離状態で残存するHer3から抗Her3抗体を分離することを含む。これは通常、アッセイ操作前に、該抗Her3抗体またはHer3類似体を不溶化することにより達成され、これは、水不溶性マトリックスまたは表面への吸着により(Bennichら,米国特許第3,720,760号)、あるいは共有結合により(例えば、グルタルアルデヒド架橋を用いることにより)、あるいは該抗Her3抗体またはHer3類似体を後に不溶化することにより(例えば、免疫沈降により)達成される。
適当な対象(被験者)には、Her3により引き起こされるいずれかの過剰増殖性発癌障害(特に癌腫および肉腫)の病的影響のリスクを有する疑いのある者であり、本発明の検出、診断および予後決定法に適した者が含まれる。癌の病歴を有する者が特に適している。診断および予後療法のための適当なヒト対象は、臨床基準により区別されうる2つの群を含みうる。「進行疾患」または「高い腫瘍負荷」を有する患者は、臨床的に測定可能な腫瘍を含有する者である。臨床的に測定可能な腫瘍は、腫瘍質量に基づいて検出されうるものである(例えば、触診、CATスキャンまたはX線により;陽性生化学的または組織病理学的マーカーのみではこの集団の特定は不十分でありうる)。
適当な対象の第2の群は「アジュバント群」として当技術分野で公知である。これらは、癌の病歴を有するが別の方式の療法に応答性である個体である。以前の療法には、限定的なものではないが、外科的切除、放射線療法および伝統的な化学療法が含まれる。その結果、これらの個体は、臨床的に測定可能な腫瘍を全く有さない。しかし、彼らは、元の腫瘍部位の近傍における又は転移による該疾患の進行のリスクを有する疑いがある。
この群は更に、高リスク個体および低いリスク個体に細分されうる。該細分は、初期治療の前または後で観察された特徴に基づいてなされる。これらの特徴は臨床分野で公知であり、それぞれの異なる癌に関して適切に定義される。高リスク亜群に典型的な特徴は、該腫瘍が隣接組織に浸潤している、あるいはリンパ節の罹患を示すというものである。
もう1つの適当な対象群は、癌に対する遺伝的素因を有するが、癌の臨床的徴候を明白に示していない者である。例えば、乳癌の家族歴を有するが尚も出産年齢にある女性はHer3の発現レベルに関する乳房組織の検査を利用する可能性があり、陽性試験結果(例えば、正常より高いHer3発現レベル)を有する者は、乳癌の発現に関してモニターされることを望む、または通常のHer3特異的モノクローナル療法での予防的治療を受ける可能性がある。
Her3を検出するための種々の他のイムノアッセイが利用可能である。例えば、該抗体またはその結合性フラグメントを放射性同位体で標識することにより、癌特異的抗原を検出するためにラジオイムノアッセイ(RIA)が用いられうる(例えば、Current Protocols in Immunology,第1巻および第2巻,Coligenら編,Wiley−Inter science,New York,N.Y.,Pubs.(19910,Colcherら,1981,Cancer Research,41,1451 1459;Weintraub,“Principles of Radioimmunoassays”,Seventh Training Course on Radioligand Techniques,The Endocrine Society,March,1986)。該放射性同位体は、ガンマカウンターもしくはシンチレーションカウンターを使用して又はラジオグラフィーにより検出されうる。代表的な放射性同位体には、35S、14C、125I、3Hおよび131Iが含まれる。生物学的物質を放射性同位体で標識するための方法は当技術分野で一般に公知である。トリチウム標識法は米国特許第4,302,438号(それを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。マウスモノクローナル抗体に特に適合したヨウ素化、トリチウム標識および35S標識法がよく知られている。生物学的物質、例えば抗生物質、その結合性部分、プローブまたはリガンドをヨウ素化するための他の方法はHunterおよびGreenwood,Nature 144:945(1962)、Davidら,Biochemistry 13:1014−1021(1974)ならびに米国特許第3,867,517号および第4,376,110号(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。生物学的物質をヨウ素化するための方法はGreenwood,F.ら,Biochem.J.89:114−123(1963);Marchalonis,J,Biochem.J.113:299−305(1969);およびMorrison,M.ら,Immunochemistry,289−297(1971)(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。99mTc標識のための方法はRhodes,B.ら.,Tumor Imaging:The Radioimmunochemical Detection of Cancer,Burchiel,S.ら(編),New York:Masson 111−123(1982)およびそれにおいて引用されている参考文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。生物学的物質を111In標識するのに適した方法はHnatowich,D.J.ら,J.Immul.Methods,65:147−157(1983),Hnatowich,D.ら,J.Applied Radiation,35:554−557(1984)およびBuckley,R.G.ら,F.E.B.S.166:202−204(1984)(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
充実性癌の診断のための現在広く受け入れられている方法は、外科的生検または摘出組織における異常細胞形態の組織学的決定である。該組織は、摘出されたら、固定液中で保存され、パラフィンろう内に包埋され、厚さ5μmの切片に切断され、2つの色素(核に対してはヘマトキシリン、および細胞質に対してはエオシン)で染色される(「H&E染色」)。このアプローチは簡便で迅速で信頼しうるものであり経済的である。組織病理学は種々の組織および細胞型の診断を可能にする。腫瘍「等級」(細胞分化/組織構造)および「病期」(器官浸透の深さ)の推定を与えることにより、それは予後決定をも可能にする。
免疫組織化学(「IHC」)技術は、一般には色素原性または蛍光法により、イン・シトゥで細胞抗原をプローブし可視化するために抗体を使用する。サンプル調製には、哺乳動物(典型的にはヒト患者)からの組織または組織サンプルが使用されうる。サンプルの具体例には、癌細胞、例えば結腸癌細胞、乳癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、肺癌細胞、胃癌細胞、膵癌細胞、リンパ腫癌細胞および白血病癌細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。該サンプルは、外科的摘出、吸引または生検(これらに限定されるものではない)を含む当技術分野で公知の種々の方法により得られうる。該組織は新鮮物または凍結物でありうる。1つの実施形態においては、該サンプルは固定され、パラフィンろうなどに包埋される。該組織サンプルは、通常の方法により固定(すなわち、保存)されうる。固定液の選択は、該サンプルが組織学的に染色または分析される目的によって決まる、と当業者は理解するであろう。また、固定の長さは組織サンプルのサイズおよび使用される固定液に左右される、と当業者は理解するであろう。
IHCは、形態学的染色および/または蛍光イン・シトゥハイブリダイゼーションのような他の技術と組合せて行われうる。IHCの2つの一般的方法(直接アッセイおよび間接アッセイ)が利用可能である。第1のアッセイにおいては、標的抗原(例えば、Her3)への抗体の結合は直接的に決定される。この直接アッセイは、標識試薬、例えば蛍光タグまたは酵素標識一次抗体を使用し、これは更なる抗体相互作用を伴うことなく可視化されうる。典型的な間接アッセイにおいては、未コンジュゲート化一次抗体が抗原に結合し、ついで、標識された二次抗体が該一次抗体に結合する。該二次抗体が酵素標識にコンジュゲート化されている場合、該抗原の可視化をもたらすために色素原性または蛍光生成性基質が加えられる。幾つかの二次抗体は該一次抗体上の異なるエピトープと反応しうるため、シグナル増幅が生じる。
免疫組織化学法に使用される一次および/または二次抗体は、典型的には、検出可能標識で標識される。多数の標識が利用可能であり、それらのうちの幾つかは本明細書に詳細に記載されている。
前記のサンプル調製法のほかに、IHCの前、途中または後の該組織切片の更なる処理が望ましい場合があり、例えば、エピトープ回収法、例えば、クエン酸バッファー中の該組織サンプルの加熱が行われうる(例えば、Leongら.Appl.Immunohistochem.4(3):201(1996)を参照されたい)。
随意的なブロッキング工程の後、該一次抗体が該組織サンプル中の標的タンパク質抗原に結合するように、該組織切片は十分な時間にわたり適当な条件下で一次抗体にさらされる。これを達成するための適当な条件は通常の実験により決定されうる。該サンプルへの抗体の結合の度合は、前記の検出可能標識のいずれかを使用して決定される。好ましくは、該標識は、例えば3,3’−ジアミノベンジジン色素原のような色素原性基質の化学変化を触媒する酵素標識(例えば、HRPO)である。好ましくは、該酵素標識は、該一次抗体に特異的に結合する抗体にコンジュゲート化される(例えば、該一次抗体はウサギポリクローナル抗体であり、二次抗体はヤギ抗ウサギ抗体である)。
このようにして調製された試料はマウント化されカバーガラスで覆われうる。ついで、例えば顕微鏡を使用して、スライド評価が決定される。
あるいは、顕微鏡に基づく細胞イメージングを利用することも可能であり、これは、単色光フィルターおよびコンピューターソフトウェアプログラムと共に通常の光学顕微鏡検査を用いる。該光フィルターの波長は該抗体染色の色および細胞対比染色に適合化される。該フィルターは、組織切片の免疫染色部分を透過した光の特定の色の光学密度における相違を顕微鏡検査者が特定し分類し次いで測定することを可能にする。米国特許第5,235,522号および第5,252,487号を参照されたい(それらの両方を、腫瘍タンパク質測定に対するこれらの方法の適用に関して、参照により本明細書に組み入れることとする)。さらに他の細胞イメージング系(イメージサイトメーター)は特徴の自動認識を可能にし、これを、特徴領域の自動計算、自動校正ならびに平均および積分(ΣOD)光学密度の自動計算と組合せる(例えば、米国特許第5,548,661号、第5,787,189号(それらの両方を参照により本明細書に組み入れることとする)、およびそれらにおける参考文献を参照されたい)。
組織切片の免疫組織化学的染色は、サンプル中のタンパク質の存在を評価または検出する信頼しうる方法であることが示されている。したがって、染色および/または検出レベルをスコア化するための、本明細書に記載されている抗体の使用も想定される。
タンパク質発現は、妥当性評価されたスコア化法(Dhanasekaranら,2001,Nature 412,822−826;Rubinら,2002,前掲;Varamballyら,2002,Nature 419,624−629)を用いることによっても決定されうる。この方法においては、染色は、陽性に染色されている細胞の強度および比率に関して評価された。良性組織および癌が存在する場合には、一方または他方の組織型のみが分析目的で評価される。本発明の方法はいずれも、0〜4の尺度を用いることにより、該分析をスコア化することが可能であり、この場合、0は陰性(Her3は検出不能、または発現レベルは対照サンプルの場合と同じ)であり、4は細胞の大多数において高い強度の染色である。ある実施形態においては、該スコア化は診断または予後決定目的で用いられうる。例えば、1のスコアは陽性スコアではあるが、例えば3または4のスコアより良好な予後を示しうる。
本発明に従い集められた情報は、Her3媒介性発癌性障害を示す患者の治療経過の決定において医師を補助するであろう。例えば、Her3受容体発現を含む腫瘍細胞の場合、低いスコアは、追加的な介入、例えば手術が正当だと認められないことを示しうる。典型的には、IHCアッセイにおける約3+以上の染色パターンスコアが診断および/または予後決定を示す。いくつかの実施形態においては、約1+以上の染色パターンスコアが診断および/または予後決定を示す。他の実施形態においては、約2+以上の染色パターンスコアが診断および/または予後決定を示す。IHCを用いて腫瘍からの細胞および/または組織が検査される場合、染色は一般に、(該サンプル中に存在しうる基質または周辺組織ではなく)腫瘍細胞および/または組織において決定または評価されると理解される。
競合またはサンドイッチアッセイとして公知の他のアッセイ方法は十分に確立されており、商業的診断産業において広く用いられている。
競合アッセイは、限られた数の抗Her3抗体抗原結合部位に関してトレーサーHer3類似体が試験サンプルHer3と競合しうることに基づく。該抗Her3抗体は一般に、該競合の前または後で不溶化され、ついで該抗Her3抗体に結合したトレーサーおよびHer3は未結合トレーサーおよびHer3から分離される。この分離は、デカント(該結合相手が前不溶化された場合)または遠心分離(該結合相手が競合反応後に沈殿された場合)により達成される。試験サンプルHer3の量は、マーカー物質の量により測定された結合トレーサーの量に反比例する。既知量のHer3での用量反応曲線を作成し、該試験結果と比較して、該試験サンプル中に存在するHer3の量を定量的に決定する。これらのアッセイは、検出可能マーカーとして酵素が使用された場合にはELISA系と称される。
もう1つのタイプの競合アッセイは「均一系」アッセイと称され、相分離を要さない。この場合、Her3との酵素のコンジュゲートが調製され、使用され、ここで、抗Her3抗体がHer3に結合すると、該抗Her3抗体の存在が酵素活性を修飾する。この場合、Her3またはその免疫活性フラグメントは二官能性有機架橋で酵素(例えば、ペルオキシダーゼ)にコンジュゲート化される。
コンジュゲートは、抗Her3抗体の結合が標識の酵素活性を抑制または増強するように、抗Her3抗体との使用のために選択される。この方法自体はEMITなる名称で広く実施されている。
均一系アッセイのための立体障害法においては、立体的コンジュゲートが使用される。これらのコンジュゲートは、低分子量ハプテンを小さなHer3フラグメントに共有結合させることにより合成され、この場合、ハプテンに対する抗体は抗Her3抗体と同時には該コンジュゲートに実質的に結合し得ない。このアッセイ法においては、試験サンプル中に存在するHer3は抗Her3抗体に結合し、それにより、該コンジュゲートに抗ハプテンが結合することを可能にして、該コンジュゲートハプテンの特性の変化(例えば、該ハプテンが発蛍光団である場合には蛍光の変化)を引き起こす。
サンドイッチアッセイは、特に、Her3または抗Her3抗体の測定に有用である。連続的サンドイッチアッセイにおいては、固定化抗Her3抗体を使用して試験サンプルHer3を吸着させ、該試験サンプルを洗浄により除去し、結合Her3を利用して第2の標識抗Her3抗体を吸着させ、ついで結合物質を残留トレーサーから分離する。結合トレーサーの量は試験サンプルHer3に正比例する。「同時」サンドイッチアッセイにおいては、該標識抗Her3を加える前に該試験サンプルを分離しない。一方の抗体として抗Her3モノクローナル抗体を使用し他方の抗体としてポリクローナル抗Her3抗体を使用する連続的サンドイッチアッセイはHer3に関するサンプルの試験において有用である。
もう1つの実施形態においては、本発明は、Her3媒介性障害を軽減するための治療計画の効果を決定するための方法を提供し、ここで、該治療計画はHer3アンタゴニストまたはアゴニスト抗体の使用を含み、該方法は、a)該治療計画を受けている個体から細胞または組織サンプルを得、b)該細胞または組織サンプルにおいてHer3のレベルを測定し、c)Her3タンパク質レベルに関して該サンプルをスコア化し、d)該レベルを対照サンプルのレベルと比較して、該治療計画に対する該Her3媒介性障害の応答性を予測する工程を含む。したがって、経時的に低いスコア、例えば0以下のスコアは、Her3アンタゴニスト、例えばHer3特異的抗体を含む治療計画が、腫瘍負荷またはHer3発現細胞またはHer3発現レベルの低減において有効であることを示唆する。
ある実施形態においては、本発明の方法は、関心のあるサンプルをHer3に対する抗体と接触させることを提示する。ある実施形態においては、該検出は、免疫組織化学法または免疫細胞化学法により、組織学的もしくは組織切片または細胞学的調製物において行われる。また、Her3の検出は免疫ブロット法または蛍光標示式細胞分取(FACS)により行われうる。
本発明はまた、Her3発現に関連した発癌性障害を有すると診断された患者における無疾患生存および/または全体的生存を予測するための方法に関する。該方法は、a)発癌性障害を示す個体から罹患組織または癌組織のサンプルを得、b)該サンプルの癌細胞または癌組織におけるHer3発現細胞のレベルを検出し、c)Her3レベルの発現に関して該サンプルをスコア化し、d)該スコア化を、対照サンプルから得られたものと比較して、Her3に関連した無疾患生存および全体的生存の可能性を決定することを含む。好ましくは、該スコア化は、0〜4の尺度を用いることを含み、ここで、0は陰性(検出不可能なHer3、または対照レベルと比較されうるHer3レベル)であり、4は細胞の大多数における高い強度の染色であり、ここで、1〜4のスコア(すなわち、陽性スコア)は、該障害を有する患者における無疾患および全体的生存に関する不良予後を示す。
充実性腫瘍の転移能に関してスクリーニングするための方法も提供する。該方法は、a)充実性腫瘍の転移能に関するスクリーニングを要する個体から腫瘍組織のサンプルを得、b)Her3に対する抗体を該患者からの腫瘍組織と反応させ、c)該組織への該抗体の結合の度合を検出し、d)該抗体の結合の度合をその転移能と相関することを含む。
本発明は更に、発癌性障害の指標となるHer3発現細胞の存在を可視化するために有用なインビボイメージング方法を含む。そのような技術は、不快な生検または他の侵襲性診断技術を用いることなく、診断を可能にする。投与される、検出可能な様態で標識された本発明の抗Her3抗体の濃度は、Her3抗原を有する又は発現する細胞の結合がバックグラウンドと比べて検出可能となるのに十分なものであるべきである。さらに、最良の標的対バックグラウンドシグナル比を得るためには、検出可能な様態で標識された本発明の抗Her3抗体が循環系から迅速に消失することが望ましい。
イメージング分析は医学分野においてよく知られており、限定的なものではないが、x線分析、磁気共鳴イメージング(MRI)またはコンピュータ断層撮影(CE)を包含する。前記のとおり、好ましくは、インビボ(および/またはインビトロ)診断方法において使用されるHer3抗体は、患者においてイメージングされうる検出可能な物質/標識で直接的または間接的に標識される。適当な検出可能物質には、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質および放射性物質が含まれる。一般に、検出可能な様態で標識された本発明のインビボ診断用抗Her3抗体の投与量は多少は患者に特異的なものであり、年齢、性別および疾患の度合のような要因に左右される。投与量は、例えば、行われる注射の回数、腫瘍負荷、および当業者に公知の他の要因によっても変動しうる。例えば、腫瘍は、シアニンコンジュゲート化Mabを使用してインビボで標識されている。Ballouら(1995)Cancer Immunol.Immunother.41:257 263。
放射能標識生物学的物質の場合、該生物学的物質は患者に投与され、該生物学的物質が反応する抗原(Her3受容体タンパク質)を有する腫瘍に局在化され、公知技術(例えば、ガンマカメラまたはエミッショントモグラフィーを用いる放射性核スキャン)を用いてインビボで検出または「イメージング」される。例えば、A.R.Bradwellら,“Developments in Antibody Imaging”,Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy,R.W.Baldwinら(編),pp.65−85(Academic Press 1985)(それを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。あるいは、放射能標識が陽電子(例えば、11C、18F、15Oおよび13N)を放出する陽電子放射形体軸横断断層撮影スキャナー(例えば、Brookhaven National LaboratoryにあるPet VIと称されるもの)が使用可能である。
1つの実施形態においては、本発明は、Her3を発現する又はHer3発現細胞(例えば、癌)を含有する組織を検出し可視化することを特異的に可能にすることによる、癌の診断における該Her3抗体の使用を提供する。該方法は、(i)診断的に有効な量の、検出可能な様態で標識された本発明の抗Her3抗体またはその抗原結合性フラグメント、あるいは本発明の抗体またはその結合性フラグメント(Her3に特異的に結合するもの)を有効成分として含むその医薬組成物を、Her3に対する該抗体の相互作用が生じることを可能にする条件下、被験者(対象)(および場合によっては対照被験者)に投与し、(ii)該結合性物質を検出して、例えば、Her3発現組織を局在化し、またはHer3発現細胞を特定することを含む。「診断的に有効」なる語は、検出可能な様態で標識された本発明の抗Her3抗体が、腫瘍の検出を可能にするのに十分な量で投与されることを意味する。
ある実施形態においては、本発明の抗体は、x線分析に使用されうる造影剤(例えば、バリウム)またはMRIもしくはCEに使用されうる磁気造影剤(例えば、ガドリニウムキレート)で標識されうる。
該方法のもう1つの実施形態においては、患者をイメージング分析に付す代わりに、関心のある組織がHer3を発現するかどうかを決定するために患者から生検を得る。
放射能標識抗体またはイムノコンジュゲートは、診断イメージングに有用なガンマ線放射性同位体または陽電子放射体を含みうる。使用される標識は、選択されるイメージング方式に左右される。インビボ診断のための、抗体の使用は、当技術分野でよく知られている。Sumerdonら(Nucl.Med.Biol 17:247−254(1990))は、インジウム−111を標識として使用する、腫瘍の放射性免疫シントグラフィーイメージングのための、最適化された抗体−キレーターを記載している。Griffinら(J Clin Onc 9:631−640[1991])は、再発結腸直腸癌を有する疑いのある患者における腫瘍の検出における、この物質の使用を記載している。
本発明の方法は、インビボ検出の目的に常磁性同位体を使用することも可能である。磁気共鳴イメージングのための標識としての、常磁性イオンを有する類似物質の使用も、当技術分野で公知である。Lauffer,Magnetic Resonance in Medicine 22:339−342(1991)。
インジウム−111、テクネチウム−99mまたはヨウ素−131のような放射能標識は平面スキャンまたはシングルフォトン・エミッション・コンピュータ断層撮影(SPECT)に使用されうる。フッ素−19のような陽電子放出標識も陽電子放射断層撮影(PET)に使用されうる。MRIには、ガドリニウム(III)またはマンガン(II)のような常磁性イオンが使用されうる。
インビボ診断イメージングの場合、利用可能な検出装置のタイプが、与えられた放射性同位体の選択における主要要因である。選択される放射性同位体は、与えられたタイプの装置で検出可能な崩壊型を有さなければならない。インビボ診断のための放射性同位体の選択における更にもう1つの重要な要因は、放射性同位体の半減期が、それが標的による最大取り込みの時点で検出可能であるのに十分な程度に長く、かつ、個体に対する有害な放射が最小化されるのに十分な程度に短いことである。理想的には、インビボイメージングに使用される放射性同位体は粒子放出を欠くが、通常のガンマカメラにより容易に検出されるように140 250keVの範囲の多数の光子を生成する。
1時間〜3.5日の半減期を有する放射性金属、例えばスカンジウム−47(3.5日)、ガリウム−67(2.8日)、ガリウム−68(68分)、テクネチウム−99m(6時間)およびインジウム−111(3.2日)が、抗体へのコンジュゲート化に利用可能であり、このうち、ガリウム−67、テクネチウム−99mおよびインジウム−111がガンマカメライメージングに好ましく、ガリウム−68が陽電子放射断層撮影に好ましい。インジウム−111、テクネチウム−99mまたはヨウ素−131のような標識は平面スキャンまたはシングルフォトン・エミッション・コンピュータ断層撮影(SPECT)に使用されうる。
該特異的抗体にコンジュゲート化された放射性金属の場合、その免疫特異性を損なうことなく、可能な限り高い比率の放射能標識を該抗体分子内に導入することが同様に望ましい。該抗体上の抗原結合部位が保護されることが保証されるように、本発明の特異的癌マーカーの存在下で放射能標識を行うことにより、更なる改善が達成されうる。該抗原は標識後に分離される。
適当な放射性同位体(特に60〜4,000keVのエネルギー範囲のもの)には、51Cr、57Co、58Co、59Fe、131I、121I、124I、86Y、62Cu、64Cu、111In、67Ga、68Ga、99mTc、94mTc、18F、11C、13N、15O、75Br、75Se、97Ru、99mTc、111In、114mIn、123I、125I、131I、169Yb、197Hgおよび201Tlなどが含まれる。例えば、イメージング目的の18F、68Ga、94mTcなどのような陽電子放射体を開示している、発明の名称“Labeling Targeting Agents with Gallium−68”(発明者:G.L.GriffithsおよびW.J.McBride)の米国特許出願(米国仮出願番号60/342,104)(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。特に有用な診断/検出放射性核種には、18F、52Fe、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、86Y、89Zr、94mTc、94mTc、99mTc、111In、123I、124I、125I、131I、154−158Gd、32P、90Y、188Reおよび175Luが含まれるが、これらに限定されるものではない。
有用なガンマ線放出放射性核種の崩壊エネルギーは好ましくは20 2000keV、より好ましくは60 600keV、最も好ましくは100 300keVである。
陽電子放射断層撮影に有用な放射性核種には、18F、1Mn、2mMn、52Fe、55Co、62Cu、64Cu、68Ga、72As、75Br、76Br、82mRb、83Sr、86Y、89Zr、94mTc、110In、120Iおよび124Iが含まれるが、これらに限定されるものではない。有用な陽電子放出放射性核種の総崩壊エネルギーは好ましくは2,000keV未満、より好ましくは1,000keV未満、最も好ましくは700keV未満である。
診断試薬としての非放射性物質の使用も本発明で想定される。適当な非放射性診断用物質は、核磁気共鳴イメージング、コンピュータ断層撮影または超音波に適した造影剤である。磁気イメージング剤には、本発明の抗体と共に使用される場合の、例えば、2−ベンジル−DTPAならびにそのモノメチルおよびシクロヘキシル類似体を含む金属−キレート組合せで錯化された非放射性金属、例えばマンガン、鉄およびガドリニウムが含まれる。2001年10月10日付け出願のU.S.Ser.No.09/921,290(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
二重特異性抗体も標的化法に有用であり、2つの診断用物質を対象に運搬するための好ましい方法を与える。U.S.Ser.No.09/362,186および09/337,756(それらの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)は、二重特異性抗体(該二重特異性抗体は251Iで標識され、対象に運搬される)を使用し次いで99mTc標識2価ペプチドを使用する前標的化方法を開示している。米国特許第6,962,702号(Hansenら)、U.S.Ser.No.10/150,654(Goldenbergら)およびSer.No.10/768,707(McBrideら)(それらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)にも前標的化方法が記載されている。該運搬は125Iおよび99mTcに関する優れた腫瘍/正常組織比を示し、したがって、2つの診断放射性同位体の有用性を示している。該抗体を標識するために、公知診断用物質の任意の組合せが用いられうる。該MAbコンジュゲートの抗体成分の結合特異性、該治療用物質または診断用物質の効力、および該抗体のFc部分のエフェクター活性は、該コンジュゲートの標準的な試験により決定されうる。
診断用物質は、ジスルフィド結合形成により、還元型抗体成分のヒンジ領域において結合されうる。代替手段として、そのようなペプチドは、ヘテロ二官能性架橋剤、例えばN−スクシニル 3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)を使用して、該抗体成分に結合されうる。Yuら,Int.J.Cancer 56:244(1994)。そのようなコンジュゲート化のための一般的技術は当技術分野でよく知られている。例えば、Wong,CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS−LINKING(CRC Press 1991);Upeslacisら,“Modification of Antibodies by Chemical Methods”,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND APPLICATIONS,Birchら(編),p.187 230(Wiley−Liss,Inc.1995);Price,“Production and Characterization of Synthetic Peptide−Derived Antibodies”,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,Ritterら(編),p.60 84(Cambridge University Press 1995)を参照されたい。
抗体炭水化物部分を介してペプチドを抗体成分にコンジュゲート化するための方法も当業者によく知られている。例えば、Shihら,Int.J.Cancer 41:832(1988);Shihら,Int.J.Cancer 46:1101(1990);およびShihら,米国特許第5,057,313号(それらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。該一般的方法は、酸化型炭水化物部分を有する抗体成分を、少なくとも1つの遊離アミン機能を有し複数のペプチドが負荷される担体重合体と反応させることを含む。この反応は初期シッフ塩基(イミン)連結を与え、これは、最終コンジュゲートを形成するための第二級アミンへの還元により安定化されうる。
該イムノコンジュゲートの抗体成分として使用される抗体が抗体フラグメントである場合、Fc領域は存在しない。しかし、完全長抗体または抗体フラグメントの軽鎖可変領域内に炭水化物部分を導入することが可能である。例えば、Leungら,J.Immunol.154:5919(1995);Hansenら,米国特許第5,443,953(1995)、Leungら,米国特許第6,254,868号(それらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。該治療用または診断用物質を結合させるために、操作された炭水化物部分が使用される。
イン・シトゥ検出は、組織学的試料を患者から取り出し、本発明の標識抗体の組合せをそのような試料に供与することにより達成されうる。該抗体(またはフラグメント)は、好ましくは、標識抗体(またはフラグメント)生物学的サンプルに適用または重層することにより供与される。そのような方法の使用により、被験組織におけるHer3の存在だけでなくHer3の分布をも決定することが可能である。本発明を使用して、当業者は、多種多様な組織学的方法(例えば、染色法)がいずれも、そのようなイン・シトゥ検出を達成するために修飾されうると容易に認識するであろう。
本発明は、リアルタイムルシフェラーゼを利用するインビトロ生物光子的イメージング(Xenogen,Almeda,Calif.)も提供する。ルシフェラーゼ遺伝子は(例えば、本発明のマーカーとの融合タンパク質として)細胞、微生物および動物内に導入される。それは、活性であれば、光を放出する反応を引き起こす。該イメージを捕捉し、それを分析するために、CCDカメラおよびソフトウェアが使用される。
もう1つの実施形態においては、該抗Her3抗体は標識されておらず、検出可能であり該抗Her3抗体に結合しうる二次抗体または他の分子を投与することによりイメージングされる。放射性核種イメージング、陽電子放射断層撮影、コンピュータ体軸断層撮影、X線または磁気共鳴イメージング法、蛍光検出および化学発光検出(これらに限定されるものではない)を含む公知方法を用いて、特異的に結合した標識抗体が患者において検出されうる。
Her3により引き起こされる発癌性障害を示す疑いのある患者の状態の予後評価を進めるためには、インビボイメージング法が用いられうる。
精製
さらにまた、本明細書に記載されている抗Her3抗体は、アフィニティー精製剤としても使用されうる。この方法においては、当技術分野でよく知られた方法を用いて、該抗体をセファデックス(Sephadex)樹脂または濾紙のような固相上に固定化する。該固定化抗体を、精製すべきHer3タンパク質(またはその断片)を含有するサンプルと接触させ、ついで該支持体を、該固定化抗体に結合した該Her3タンパク質以外のサンプル中物質の実質的に全てを除去する適当な溶媒で洗浄する。最後に、該Her3タンパク質を該抗体から遊離させる別の適当な溶媒(例えば、グリシンバッファー,pH5.0)で該支持体を洗浄する。
製造品
本発明のもう1つの態様においては、前記障害の治療、予防および/または診断に有用な物質を含有する製造品を提供する。該製造品は、容器、および該容器上または該容器に付属したラベル(標識)またはパッケージインサートを含む。適当な容器には、例えばボトル、バイアル、シリンジなどが含まれる。該容器は、種々の材料、例えばガラスまたはプラスチックから形成されうる。該容器は、単独で又は別の組成物と共に該状態の治療、予防および/または診断に有効である組成物を収容し、無菌入口を有しうる(例えば、該容器は、静脈内溶液袋、または皮下注射針により突き刺されうる栓を有するバイアルでありうる)。該組成物中の少なくとも1つの活性物質は本発明の抗体である。該ラベルまたはパッケージインサートは、選択された状態(例えば、癌)の治療に該組成物が使用されることを示す。さらに、該製造品は、(a)本発明の抗体を含む組成物を含有する第1容器、および(b)別の治療用物質[例えば、化学療法剤または抗血管新生物質、例えば、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ(bevacizumab))]を含む組成物を含有する第2容器を含みうる。本発明のこの実施形態における製造品は更に、該第1および第2抗体組成物が特定の状態、例えば癌の治療に使用されうることを示すパッケージインサートを含みうる。その代わりに又はそれに加えて、該製造品は更に、医薬上許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液を含む第2(または第3)容器を含みうる。それは更に、商業的な及び使用者の観点から望ましい他の物質、例えば他のバッファー、希釈剤、フィルター、針およびシリンジを含みうる。
また、該製造品は更に、医薬上許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液を含む第2容器を含みうる。それは更に、商業的な及び使用者の観点から望ましい他の物質、例えば他のバッファー、希釈剤、フィルター、針およびシリンジを含みうる。
種々の目的、例えば、Her3受容体細胞殺傷アッセイ、細胞からのHer3受容体の精製または免疫沈降に有用なキットも提供される。Her3受容体の単離および精製のために、該キットは、ビーズ(例えば、セファロースビーズ)に結合した抗Her3受容体抗体を含有しうる。インビトロでの、例えばELISAまたはウエスタンブロットにおける、Her3受容体の検出および定量のための抗体を含有するキットが提供されうる。該製造品と同様に、該キットは、容器、および該容器上または該容器に付属したラベル(標識)またはパッケージインサートを含む。該容器は、本発明の少なくとも1つの抗Her3受容体抗体を含む組成物を収容する。例えば希釈剤およびバッファー、対照抗体を含有する追加的容器も含まれうる。該ラベルまたはパッケージインサートは、該組成物の説明および意図されるインビトロまたは診断用途に関する指示を示しうる。
前記はHer3に関する単なる典型的な検出アッセイである。Her3の検出のために抗Her3抗体を使用する、現在または将来に開発される他の方法(本明細書に記載されているバイオアッセイを含む)が、その範囲内に含まれる。