本発明のシクロデキストリン化合物は、一般式1で表される。
  一般式1において、mは6〜8の整数を表す。
  mが6の場合、α−シクロデキストリン環が構成され、mが7の場合、β−シクロデキストリン環が構成され、mが8の場合、γ−シクロデキストリンが構成される。本発明のシクロデキストリン化合物はリポソームや高分子ミセル(100nm)に比し小さく(1〜10nm)細胞表面からの浸透、組織内あるいは脳関門を動きやすい。
  mは、後述するように入手の容易さを考慮して決められるが、7を表すことが好ましい。
  一般式1において、R1は一般式2で表される基、水酸基、グリコシル基を有する置換基又は親水性基を表す。但し、一般式1において、m個のR1のうち少なくとも2つは一般式2で表される基であり、少なくとも(m−1)個のR1が一般式2で表される基であることが好ましく、m個のR1の全てが一般式2で表される基であることがより好ましい。
  一般式2中、※はシクロデキストリンを構成するグルコピラノースの6位炭素原子との結合位置を表す。nは0〜3の整数を表し、nが0の場合、カルボニル炭素原子とアミノ窒素原子を結ぶ部分は単結合を表す。後述するように、nは1又は2を表すことが好ましく、2を表すことが特に好ましい。
  一般式2中、下記式で表される部分は、後述するようにスペーサーアームとしてのアミノカプロン酸に由来する繰り返しユニットである。
  よって、本明細書において、以下、単に、前記式で表される部分を「cap」で表すこともある。したがって、前記一般式2は下記のように表すこともできる。
  前記一般式2中の※及びnは前述のとおりである。
  本明細書において、nが2の場合、前記繰り返しユニットを単にcap2といい、nが1の場合、前記繰り返しユニットを単にcap1ということもある。
  スペーサーアームとしてのアミノカプロン酸に由来する前記繰り返しユニットは、複数の葉酸と複数の葉酸レセプター(例えば、がん細胞表層)との同時的な会合、いわゆる「ナノクラスター効果」を達成するために適切な長さを提供することができる観点から好ましい。
  なお、葉酸レセプターの高次構造について、葉酸を阻害剤とする酵素グリシンN−メチルトランスフェラーゼの結晶構造解析から、その4量体のサブユニット間に2個の葉酸結合サイトを有することが報告されている(例えば、Z.Luka,S.Pakhomova,L.V.Loukachevitch,M.Egli,M.E.Newcomer,C.Wagner,J.Biol.Chem.,282,4069−4075(2007).参照。)。したがって、がん細胞での葉酸レセプターも生物学的相同性から、糖クラスター効果と同様な構造が予測され、複数の葉酸が結合サイトとの複数の同時的な相互作用を発揮しているものと考えられる。このような効果は、糖鎖の空間配置とレセプターのトポロジー効果、すなわち糖クラスター効果になぞらえて、「ナノクラスター効果」ということができる。
  R1で表されるグリコシル基を有する置換基としては特に制限はない。しかし、例えば、標的指向性薬物送達システム(TDDS)に本発明の化合物を用いる場合、前記置換基中のグリコシル基は特定の標的疾患(肝臓がん、大腸がん、炎症等)の標的タンパク質によって特異的に認識されるものであることが好ましく、入手の容易性および合成の容易性の点から、好ましくはオリゴ糖(糖1〜4個の糖)ないしは糖鎖であり、より好ましくは単糖、すなわちTDDSの標的疾患に合わせて、ガラクトシル基、フコシル基、グルコシル基及び/又はマンノシル基等とすることが好ましい。グリコシル基を有する置換基の具体例としては、1−グリコシル−オキシプロピルチオエチルアミド基、並びにスペーサーアームとしての前記capを有する、1−グリコシル−オキシプロピルチオエチルアミドヘキサノイルアミド基及び1−グリコシル−オキシプロピルチオエチルアミドヘキサノイルアミドヘキサノイルアミド基等が挙げられる。本発明において、前記置換基中のグリコシル基が、α−D−ガラクトシル、α−L−フコシル、α−D−マンノシル又はα−D−グルコシルであることが好ましい。
  R1で表される親水性基としては特に制限はないが、本発明のシクロデキストリン化合物に親水性を付与する観点から、ヒドロキシ酢酸とエステル化反応して得られるヒドロキシメチルカルボニル基(−OCOCH2OH)、グルコン酸とエステル化反応して得られるグルコン酸エステル基等が好ましい。
  R1で表される一般式2で表される基、グリコシル基を有する置換基及び親水性基は、さらにグリコシル基を有する置換基及び/又は親水性基で置換されていてもよい。
  一般式1において、m個のX1及びm個のX2は各々独立に水酸基、又はトシルオキシ基、−NH−Y、−NH−R−NHCO−R−COOH、−NH−R−NH2、−O−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NH−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NHCO−Y、−NH−R−NHCO−R−CONHNH2、−NH−R−NHCO−R−CONHNH=CR’R”及び−NH−R−CONHNH=CR’R”からなる群より選ばれる1つの基を表す。但し、m個のX1及びm個のX2のうち少なくとも1つはトシルオキシ基、−NH−Y、−NH−R−NHCO−R−COOH、−NH−R−NH2、−O−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NH−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NHCO−Y、−NH−R−NHCO−R−CONHNH2、−NH−R−NHCO−R−CONHNH=CR’R”及び−NH−R−CONHNH=CR’R”からなる群より選ばれる1つの基を表す。
  一般式1において、m個のX1及びm個のX2のうち、少なくとも1つは水酸基であり、少なくとも1つはトシルオキシ基、−NH−Y、−NH−R−NHCO−R−COOH、−NH−R−NH2、−O−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NH−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NHCO−Y、−NH−R−NHCO−R−CONHNH2、−NH−R−NHCO−R−CONHNH=CR’R”及び−NH−R−CONHNH=CR’R”からなる群より選ばれる1つの基であることが好ましい
  一般式1において、Yは制がん剤、又はX線CT造影剤、蛍光造影剤、SPECT造影剤、MRI造影剤等の造影剤としての機能を有する基であることが好ましく、ドキソルビシン、マイトマイシン、タキソール、カンプトテシン若しくはこれらの誘導体、フルオロセイン、ローダミン、インドシアニングリーン、アミドトリゾ酸、及びEDTA等が挙げられる。
  Rは、メチレン基、フェニレン基、−O−、−S−、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる基を表し、R’及びR”はそれぞれメチル基、フェニル基、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる基を表す。
  一般式1におけるX1及びX2の具体例下記に示す。しかし、本発明はこれらに限定するものではない。
  本発明のシクロデキストリン化合物は、単に下記一般式bで表すことができる。
  前記一般式b中、m及びnは、一般式1及び2と同義である。pは2以上m以下の整数であり、(m−p)個のAは各々独立に水酸基、グリコシル基を有する置換基又は親水性基を表す。qは1以上(2×m)以下の整数であり、q個のXは各々独立にトシルオキシ基、−NH−Y、−NH−R−NHCO−R−COOH、−NH−R−NH2、−O−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NH−C(=S)−NH−Y、−NH−R−NHCO−Y、−NH−R−NHCO−R−CONHNH2、−NH−R−NHCO−R−CONHNH=CR’R”及び−NH−R−CONHNH=CR’R”からなる群より選ばれる基を表す。R、R’及びR”は、一般式1と同義である。
  本発明のシクロデキストリン化合物の製造方法について説明する。しかし、本発明はこれらに制限するものではない。
  本発明のシクロデキストリン化合物は、下記一般式3で表されるシクロデキストリン化合物(本明細書において、「ND1」ともいう)を構成する各グルコピラノース分子の2位及び3位の第2級水酸基と、所望の化合物とを縮合させることにより得ることができる。
  一般式3中、R1及びmは一般式1と同義である。
  前記化合物ND1は、例えば、国際公開第2009/041666号パンフレットを参考に合成することができる。
  前記化合物ND1の第2級水酸基と、所望の化合物とを縮合させる際、前記化合物ND1と所望の化合物の混合割合に特に制限はないが、1:1〜1:1.2が好ましい。
  前記縮合反応の温度に特に制限はないが、10℃〜30℃が好ましい。また、反応時間に特に制限はないが、24時間〜72時間が好ましい。
  反応溶媒としては、化合物の溶解性に応じて、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、水、メタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、N−メチルピロリジノン(NMP)等を使用することができる。
  上記縮合反応において使用しうる縮合剤としては、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、水溶性カルボジイミド(以下「WSC」という)等が挙げられる。
  反応生成物は、アセトン再沈処理等による未反応物の除去のあと、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により生成物を精製・単離することが好ましい。GPCに用いるゲルは、Bio  gel、Sephadex、TOSO−PW  gel(いずれも商品名)などが用いられるが、分離精製能の観点から、Bio  gel(例えば、P4、P6)が好ましい。溶出溶媒としては、水、アンモニア水等が挙げられ、未反応の葉酸等の夾雑物との分離性の観点から水であることが好ましい。
  製造された本発明のシクロデキストリン化合物の同定は、当業界における任意の方法によって行うことができる。
  本発明のシクロデキストリン化合物は、例えば、下記のスキームにしたがって、合成することができる。
  前記スキーム中、TOSはトシル基を表し、DOXはドキソルビシンを表す。
  トシルイミダゾールはシクロデキストリンの2級位C−2位水酸基に対する反応性が高いことが知られている(H.Yu,et  al.,Tetrahedron  Lett.,  2006,47,8837−8840)。したがって、前記化合物ND1を出発原料とし、トシルイミダゾールの仕込みモル比の他、添加物(炭酸セシウム)の量、反応時間によって、1個または複数の2級位C−2位水酸基をトシルオキシ基に置換し、前記例示化合物ND4を合成することができる。
  また、C−2位トシルオキシ基は、塩基存在下で2級位C−3位水酸基と反応し、隣接のC2位とC3位間でマンノエポキシド環を形成する。これはアミンなどの求核試薬の反応によりC3位置換基の反転を伴いながら反応する。この結果C3位に置換基が導入された生成物を得ることができる。
  なお、反応の進行は、分析HPLCのピークの変化に基づき確認することができる。また、トシルオキシ基の導入量は、精製物のNMRスペクトルから定量することができる。
  前記スキームからも明らかなように、本発明によれば、フルオレセイン、ローダミン、EDTA、アミドトリゾ酸、ドキソルビシン、18F、123Iなどを導入したシクロデキストリン化合物を製造することができる。なお、EDTAを導入したシクロデキストリン化合物には、容易にSPECT造影剤やMRI造影剤として知られている111InやGdを導入することができる。
  本発明のシクロデキストリン化合物は、その葉酸のナノクラスター効果に基づく標的細胞に対する会合性に優れている。さらに、本発明のシクロデキストリン化合物は、制がん剤や造影剤がシクロデキストリン環に化学結合により結合しているので、標的細胞に到達するまでに分解・解離が起こらない。したがって、本発明のシクロデキストリン化合物は、標的指向性の優れた制がん剤、蛍光造影剤、X線CT造影剤、核医学造影剤、MRI造影剤として好適に用いることができる。
  以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1  例示化合物ND4の製造
  下記に示すシクロデキストリン化合物(ND1)をWO2009/041666に従い合成した。
  前記式において、Raは下記式で表される基である。
  前記式中、※はシクロデキストリンを構成するグルコピラノースの6位炭素原子との結合位置を表す。
  前記シクロデキストリン化合物(ND1)500mgを秤量し、遮光性の褐色反応容器にて、マグネットで攪拌しながら20mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。これにトシルイミダゾール20.5mg(1.04モル当量)及び炭酸セシウム9.5mg(0.3モル当量)加えて室温で穏やかに攪拌した。反応の進行状況はSECカラムを付した分析HPLCを用いて下記の条件下で確認し、22時間で反応の進行が終了したことを確認した。
HPLC分析条件
カラム:SEC型(体積排除カラム)JAIGEL−GS310−A(商品名、日本分析工業株式会社製)、φ7×500mm
溶離液:リン酸緩衝液/メタノール=2/1(体積比)
流速:0.6ml/min
検出:UV230nm
  生成した化合物が例示化合物ND4であることをSEC−HPLCでの波長230nmによる分離と分析により確認した。保持時間8.10分で、出発物質のシクロデキストリン化合物(保持時間8.26分)由来のピークとは異なるピークが観測された。(カラム:JAIGEL−GS310−A(商品名、日本分析工業株式会社製)、φ7×250mm、溶離液:リン酸緩衝液/メタノール=2/1、流速:0.6ml/min)
実施例2  例示化合物ND7の製造
  実施例1で得られた例示化合物ND4に、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン(DABCO)10mg(1モル当量)及びヘキサンジアミン10.5mg(1モル当量)を加えて、室温で攪拌した。その後、1時間後、2時間後及び3時間後に、上記と同じHPLC条件にて反応の進行を確認した。その結果、保持時間7.43分に出発物質である例示化合物ND1由来のピークが、保持時間8.63分に生成物由来のピークが見られた。保持時間14.47分にトシルオキシ基を有する化合物のフラグメントのピークが見られた。保持時間8.63分のピークは反応後3時間で成長が止まり、反応後24時間でもピークに変化はなかった。このことから反応後3時間程度で反応は終了していることがわかった。
  次にSEC分取型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業製、φ25×500mm)、流速5.0mL/分、溶離液:水/メタノール(混合比率:2/1(体積比))、検出UV波長:230nmにて、反応混合物を分取精製し、保持時間15.5〜26.5分の成分を一括して回収した。
  40℃でロータリーエバポレーターにて減圧(33hpa)乾固した。凍結乾燥は−78.8℃で冷却した装置で24時間、6.3Pa減圧下で行い、例示化合物ND7を得た(収量:132mg、収率26%)。
  得られた化合物が例示化合物ND7の同定は、SEC型分析HPLCによる生成ピークの追跡から、出発原料であるシクロデキストリン化合物由来のピーク(保持時間8.2分)に対し保持時間9.0分のピークが新たに増加したことにより確認した。さらに、得られた化合物が例示化合物ND7であることは、下記に示す実施例3において、イソチオシアノベンジルEDTAとの反応性を有することからも明らかであった。
実施例3  例示化合物ND16の製造
  実施例2で得られた例示化合物ND7  132mg(0.023mmol)をDMSO3mlに溶解し、DABCO4.5mg(0.0405mmol、1.76モル当量)を添加した。さらに、イソチオシアノベンジルEDTA10mg(0.023mmol、1.00モル当量)をDMSO3mlで容器を洗いながら添加した。さらにマイクロシリンジでジブチルSnジラウレート50μLを添加した。反応の進行は、上記の方法と同じくSEC型分析HPLCにて確認を行った。
  次にSEC型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業株式会社製、φ25×500mm)、流速1.0mL/分、溶離液:PBS/MeOH(混合比率:2/1(体積比))検出UV波長:230nmにて分取精製を行った。
  その結果、保持時間68〜110分のフラクションにはシクロデキストリン化合物(ND1)が含まれていた。次に、保持時間125分〜148分のフラクションをHPLC装置の切り替え操作によりリサイクル操作にかけて再分取した。その保持時間は220分〜248分となった。このフラクションをさらに2回目のリサイクル再分取して248分〜300分のフラクションを回収し、エバポレーター濃縮したのち、凍結乾燥した。
  次にSEC型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業株式会社製、φ25×500mm)2本を用いて脱塩のためのHPLC精製を行った。溶離液は水/メタノール(混合比率:2/1(体積比))溶液を用い、流速は5.0mL/minで行い、フラクションコレクターを用いて、検出UV波長:230nmで観測し、電導度チェックして塩が含まれない成分であることを確認し、フラクションNo.10〜13(保持時間20〜26分)を、エバポレーターで乾固して、凍結乾燥し、例示化合物ND16を得た(収量:5.7mg、収率8.3%)。その結果(吸光度プロファイル)を図1に示す。図1に示す吸光度プロファイルから明らかなように、検出UV波長230nmにおいて単一ピークであり、ピーク面積の定量から91%の純度で例示化合物ND16が得られたことがわかった。
  さらに、得られた例示化合物ND16をODS逆相系カラムで分析した結果(吸光度プロファイル)を図2に示す。図2から分かるように、反応生成物は単一のピークを示した。ピーク面積の定量から、94%の純度を示すものであった。
  上記で示すように、例示化合物ND7を出発原料とした例示化合物ND16の製造では、SEC分取型HPLCカラムによる分取精製において新たに出現したピーク(分子量の最も高い成分)に注目し、リン酸緩衝液を含む溶離液で分取し、カラムを繰り返して通すリサイクル分取を行った後に、リン酸塩を含まない水とメタノールのみの溶離液で脱塩操作を行った。2つのHPLCモードで確認したところ、例示化合物ND16が得られたことを確認し、同定した。
  これによって、ヘキサンアミン基を有する例示化合物ND7と、イソチオシアノベンジルEDTAとが反応して得られた化合物で、HPLC精製で用いたリン酸緩衝液の塩を含まない例示化合物ND16が得られた。
実施例4  例示化合物ND9の製造
  シスタミン二塩酸塩1.126g(0.005モル)のDMSO溶液20mLにトリエチルアミン1.012gを添加し、さらに無水コハク酸0.5003g(0.005モル)を加えて終夜攪拌した。生成した沈殿は濾別し、SEC型分取HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業株式会社製、φ25×500mm)、溶離液:水/メタノール(混合比率:2/1(体積比))を用い、検出UV波長:230nmで観測し、保持時間66分の独立したピークを分取した。これを凍結乾燥してシスタミンモノこはく酸アミド140mgを得た。この成分はMALDI  TOF-MS測定により同定した。
MALDI  TOF−MS    計算値:252.05
                            実測値:252.160
  実施例1で得られた例示化合物ND4にDABCO13.5mg(6倍モル当量)及びシスタミンモノコハク酸アミド8.8mg(2倍モル当量)を加えて、室温で23時間攪拌した。実施例1と同じHPLC条件にて反応の進行を確認した。この結果、反応開始後20分では保持時間9.7分付近の先頭のピークには変化がなかったが、反応開始4時間後では前記先頭のピークが保持時間9.07分と9.69分の2本に割れ、かつ保持時間9.07分のピーク面積が増加した。
  反応時間4時間のHPLC分析で、保持時間9.07分に生成した化合物由来のピークが、保持時間9.69分にシクロデキストリン化合物(ND1)由来のピークが見られた。しかし23時間経過後の分析でも保持時間9.07分と9.7分付近に完全には分離できない2成分を確認した。反応時間4時間から23時間での生成物は殆ど変わらないことは、ODSカラムを用いたHPLCでも確認できた。
  次にSEC分取型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業株式会社製、φ25×500mm)2本を用いて精製し(流速5.0ml/min、溶離液:水/メタノールMeOH(混合比率:2/1(体積比))、検出UV波長:230nm)、保持時間37〜56分の成分を一括して回収した。40℃でロータリーエバポレーターにて減圧(33hpa)乾固した。凍結乾燥は−78.8℃で冷却した装置で6.3Pa減圧下で行い、例示化合物ND9を得た(収量:40mg、収率:40%)。
  得られた化合物が例示化合物ND9であることを上記の精製により単一ピーク精製物が得られていることをSEC型分析HPLCによる確認とともに、ここにアミドトリゾ酸をアミド結合生成縮合剤とともに反応させてその生成物に対して蛍光X線スペクトルを取り、イオウ原子、ヨード原子ともに含まれていることを観測することにより確認した。
実施例5  例示化合物ND29の製造
  実施例4で製造した例示化合物ND9  40mgに対し、ドキソルビシン塩酸塩4.0mg(等モル)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)10mg(2倍モル)、DABCO20mg(4倍モル)及びDMSO1mLを加え、室温にて4日間攪拌した。
  次にSEC型HPLC分析カラム:JAIGEL−GS310−A(商品名、日本分析工業株式会社製、φ7×500mm)、溶離液:リン酸緩衝液/メタノール(混合比率:2/1(体積比))、検出波長:495nmにて、反応混合物を分取精製した。その結果(吸光度プロファイル)を図3に示す。ドキソルビシンは495nmにUVの特性吸収を持つので、他の成分と区別ができる。図3に示すように、保持時間が8.60分と13.9分の場合にのみピークが見られ、それぞれ、例示化合物ND29由来のピークと未反応のドキソルビシン由来のピークであることが分かった。これらのピーク面積比は84:14であった。
  同じ反応生成物について、HPLCによる検出を同条件で検出波長230nmに変更して行った。その結果(吸光度プロファイル)を図4に示す。その結果、保持時間が8.60分のピークとは別に、保持時間10.2分にシャープなピークが見られ、保持時間10.2分のピークは例示化合物ND9由来のピークと同定された。
  同じ反応生成物について、SEC分取型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業株式会社製、φ25×500mm)1本を用いて、溶離液:水/メタノール(混合比率:2/1(体積比)))、検出波長:360nm、流速1.5ml/minで精製した。その結果(吸光度プロファイル)を図5に示す。SEC型カラムの特性として分子量の最も大きな物質が一番最初に流出するので、保持時間30〜35分のフラクションを回収し、濃縮、凍結乾燥し、反応系で最も分子量の大きい前記例示化合物ND29を得た(収量:23mg、収率:58%)。なお、図5において40分経過後、流速を1.5ml/minから5.0ml/minに変更して同様に精製を行ったところ、保持時間44.6分のピークは未反応のドキソルビシン、保持時間50.8分のピークはDMSO溶媒を主とするその他の成分由来と考えられる。
  このように得られた例示化合物ND29をODSカラムで分析したところ単一ピークが得られており、純度は非常に高いものであった。
実施例6  例示化合物ND5の製造
  ヘキサンジアミンをドキソルビシンに変える以外の条件は、実施例2と同様にして例示化合物ND5を製造した。生成物由来の495nmのHPLCピークを捉えて反応を行い、精製した。シクロデキストリン化合物(ND1)10mgに対し、収量4mg、収率40%であった。
実施例7  例示化合物ND8の製造
  シクロデキストリン化合物(ND1)100mg、N−トシルイミダゾール4mg、炭酸セシウム1mg、及びDMSO3mLを混合し、遮光下室温で17時間反応させた。
  次にSEC分取型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業製、φ25×500mm)、流速5.0mL/分、溶離液:水/メタノール(混合比率:2/1(体積比))、検出UV波長:230nmにて、反応精製物を分取精製し、分子量の最も高いピークを含むフラクションを回収し、40℃にてエバポレーションして濃縮し凍結乾燥し、中間体を得た(収量:31.2mg、収率:31%)。
  前記中間体に、DABCO4mg及びシスタミン二塩酸塩4mgを添加し、遮光下、室温で2日間攪拌した。
  次にSEC分取型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業製、φ25×500mm)、流速5.0mL/分、溶離液:水/メタノール(混合比率:2/1(体積比))、検出UV波長:230nmにて、反応精製物を分取精製し、分子量の最も高いピークを含むフラクションを回収して濃縮し凍結乾燥し、例示化合物ND8を得た(収量:23mg、収率:73%)。
  なお、分析HPLCによりシクロデキストリン化合物(ND1)とは異なる保持時間に新たなピークを生じたこと、及びアミドトリゾ酸とアミド結合生成を反応し、生成したピークの精製物に対して得られた成分に蛍光X線スペクトロメーターにてイオウとヨードが十分に含まれていることから、得られた化合物が例示化合物ND8であることを確認した。
実施例8  例示化合物ND17の製造
  実施例7で製造した例示化合物ND8  10mgをDMSO1.5mLに溶解した。さらに、ジアゾトリゾ酸1mgを添加し、DMT−MM0.5mg及びDABCO2mgを加えて超音波攪拌したのち、室温で3日間放置した。反応生成物をSEC型カラム型HPLCカラム  JAIGEL−GS310(商品名、日本分析工業株式会社製、φ25×500mm)2本を用いて精製し(溶離液:水/メタノールMeOH(混合比率:2/1(体積比))、流速3.0ml/min、検出UV波長:230nm)、先頭の分子量の最も高い成分を回収し、濃縮し、凍結乾燥し、例示化合物ND17を得た(収量:5mg、収率:50%)。この化合物の確認は蛍光X線にて、イオウおよびヨードが十分に含まれていることを確認した。
実施例9  例示化合物ND2の製造
  シクロデキストリン化合物(ND1)10mgをDMSO600μLに溶解し遮光下マグネチックスターラーで一夜攪拌した。そこへフルオロセイン−4−イソチオシアネート(FITC)6.9mgのDMSO溶液2mLを加えた。DABCO  5mgをDMSO  5mLに溶解し、そのうちの50μLを前記混合液に加えた。さらにジブチルSnラウレート200μLをアセトン2mlに溶解し、そのうち50μL加えて攪拌した。3時間後にアセトン中で再沈殿させ、不溶物を濾過で回収し、水に溶解した。エバポレーターで乾固の後、再度水に溶かして凍結乾燥し、生成物4.9mgを得た。
  この生成物の同定をHPLCにより行った。同定は、カラム:JAIGEL−GS310−A(商品名、日本分析工業株式会社製、7×300nm)、溶離液:リン酸緩衝液(pH7.2)/メタノール(混合比率:2/1(体積比))、流速:0.60ml/min、検出:UV275nmで行った。その結果メインピークは保持時間7.88分で90%以上の純度で得られた。この生成物は溶液中で黄緑色の蛍光色を発した。これは原料のFITCと類似した蛍光色であった。生成物のUV波長スキャンスペクトルでも492nm付近にFITC特有の吸収ピークが見られた。
実施例10  例示化合物ND10の製造
  シクロデキストリン化合物ND1  100mgをDMSO3mLに溶解し、トシルイミダゾール4mgと炭酸セシウム1mg加えて、遮光下室温で17時間反応させた。その後、DABCO2mgと1,6−へキサンジアミン2mgを加えて、30分間の超音波で溶解操作の後、遮光下室温にて5日間攪拌した。これを分取HPLC(SECカラム、JAIGEL−GS310  水/メタノール  2/1)にかけて生成物66mgを得た。得られた生成物に対して、フルオロセインイソチオシアナート(FITC)を等モル加え、DABCO1mg及びジブチルSnジラウレート1mgをさらに加えて、例示化合物ND10を得た(収量:16mg)。475nmまたは360nmの検出波長を用いて、感受性のピークを濃縮し、凍結乾燥した。
  得られた化合物が例示化合物ND10であることをSEC型カラムで最も分子量の高い成分となる先頭のピークがフルオロセイン特有のピーク475nmを有することから確認した。