以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
  なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
(磁気記録媒体の製造方法)
  先ず、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。
  本発明は、磁気的に分離された磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、例えば図1(a)〜図1(g)に示すように、非磁性基板1の上に磁性層2を形成する工程と、磁性層2の上に溶解層3を形成する工程と、溶解層3の上にマスク層4を形成する工程と、マスク層4の上にレジスト層5を形成する工程と、レジスト層5の表面を磁気記録パターンに対応した形状にパターニングする工程と、パターニングされたレジスト層5を用いてマスク層4及び溶解層3をパターニングする工程と、パターニングされたマスク層4を用いて磁性層2を部分的に除去する工程と、溶解層3を薬剤により湿式溶解し、その上のマスク層4と共に磁性層2の上から除去する工程と、この上に保護層5を形成する工程と、保護層5の上に潤滑膜(図示せず。)を形成する工程とを含んでいる。
  具体的に、このような磁気記録媒体を製造する際は、先ず、図1(a)に示すように、非磁性基板1の上に、磁性層2、溶解層3及びマスク層4を順次積層して形成する。そして、このマスク層3の上に、図1(b)に示すように、レジスト層5を形成した後、このレジスト層5を、例えばフォトリソグラフィー法やナノインプリント法などを用いて、磁気記録パターンに対応した形状にパターニングする。これにより、レジスト層5の表面には、図1(c)に示すように、磁気記録パターンに対応した部分が凸5a、その間が凹5bとなるパターンが形成される。
  ここで、レジスト層5をパターニングする際は、ナノインプリント法を用いることが好ましい。このナノインプリント法では、放射線を照射することにより硬化する材料をレジスト層5に用い、このレジスト層5にスタンプ(図示せず。)を用いてパターンを転写する。
  また、本発明では、このようなパターンを転写する工程の後に、レジスト層5に放射線を照射することが好ましい。これにより、レジスト層5にスタンプの形状を精度良く転写することができ、磁気記録パターンの形成特性を向上させることが可能となる。
  特に、レジスト層5にスタンプを用いてパターンを転写する際は、レジスト層5の流動性が高い状態で、このレジスト層5にスタンプを押圧し、その押圧した状態で、レジスト層5に放射線を照射することによりレジスト層5を硬化させ、その後、スタンプをレジスト層5から離すことにより、スタンプの形状を精度良く、レジスト層5に転写することが可能である。
  レジスト層5にスタンプを押圧した状態で、このレジスト層5に放射線を照射する方法としては、例えば、スタンプの反対側、すなわち非磁性基板1側から放射線を照射する方法や、スタンプの材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ側から放射線を照射する方法、スタンプの側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ又は非磁性基板1からの熱伝導により放射線を照射する方法などを用いることができる。
  なお、本発明における放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線などの広い概念の電磁波のことを言う。また、放射線を照射することにより硬化する材料としては、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂を挙げることができる。
  また、このような材料の中でも特に、レジスト層5として、ノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類などの紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ材料として、紫外線に対して透過性の高いガラス又は樹脂を用いることが好ましい。
  上述したパターンを転写する工程では、スタンプとして、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したスタンパを用いることができる。また、スタンパには、上記プロセスに耐え得る硬度及び耐久性が要求されるため、例えばNiなどが使用されるが、上記目的に合致するものであれば、その材質について特に限定されるものではない。さらに、スタンプには、通常のデータを記録するトラックの他にも、バーストパターンや、グレイコードパターン、プリアンブルパターンなどといったサーボ信号のパターンも形成することができる。
  次に、パターニングされたレジスト層5を用いて、例えばICP(Inductive  Coupled  Plasma)装置に酸素ガスを導入して、マスク層4のレジスト層5で覆われていない箇所を反応性イオンエッチングにより除去する。
  マスク層4としては、例えば炭素膜を用いることが好ましい。また、炭素膜は、スパッタリング法やCVD法などにより成膜することができるが、CVD法を用いた方がより緻密性の高い炭素膜を成膜することができる。さらに、炭素膜は、上記酸素ガスを用いたドライエッチング(反応性イオンエッチング又は反応性イオンミリング)が容易であるため、残留物を減らし、磁気記録媒体表面の汚染を減少させることができる。
  マスク層4の膜厚は、5nm〜40nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは10nm〜30nmの範囲である。マスク層4の膜厚が5nmより薄いと、このマスク層4のエッジ部分がだれて磁気記録パターンの形成特性が悪化することになる。また、レジスト層5、マスク層4及び溶解層3を透過したイオンが磁性層2に侵入して、磁性層2の磁気特性を悪化させることになる。一方、マスク層4が40nmより厚くなると、このマスク層4のエッチング時間が長くなり生産性が低下することになる。また、マスク層4をエッチングする際の残渣が磁性層2の表面に残留しやすくなる。
  そして、引き続き、反応性イオンエッチングやイオンミリングなどのドライエッチングを用いて、マスク層5の下にある溶解層3のうち、レジスト層5及びマスク層4で覆われていない箇所を部分的に除去する。これにより、図1(d)に示すように、マスク層4及び溶解層3を磁気記録パターンに対応した形状にパターニングすることができる。
  次に、図1(e)に示すように、引き続き、反応性イオンエッチングやイオンミリングなどのドライエッチングを用いて、溶解層4の下にある磁性層2のうち、レジスト層5、マスク層4及び溶解層3で覆われていない箇所を部分的に除去し、磁気的に分離された磁気記録パターン2aを形成する。
  本発明では、上述したICP装置を用いてマスク層4のレジスト層5で覆われていない箇所を反応性イオンエッチングにより除去する際は、酸素ガスを用いることが好ましいものの、その後の溶解層3及び磁性層2のドライエッチングについては、例えばICPやRIEなどの反応性イオンエッチング装置を用いて、ArガスやN2ガス等の不活性ガスを導入して行うことが好ましい。すなわち、本発明では、マスク層4のミリングイオンと溶解層3及び磁性層2のミリングイオンとをそれぞれ最適なもの、例えばマスク層4は酸素ガスを用いたICP、溶解層3及び磁性層2はAr、N2ガスを用いたイオンミリングに変更することが好ましい。
  本発明では、このような方法を採用することにより、残された磁性層2のエッジ部を垂直に形成することが可能となる。これは、磁性層2の上の溶解層3及びマスク層4が垂直に切り立った形状であるため、その下の磁性層2も同様の形状となるからである。これにより、フリンジ特性の優れた磁性層2(磁気記録パターン2a)を形成することができる。
  次に、図1(f)に示すように、溶解層3を薬剤により湿式溶解し、その上のマスク層4及びレジスト層5と共に、磁性層2の上に残存させることなく確実に且つ高速で除去することができる。本発明では、溶解層3を残存させることなく確実に且つ高速で溶解させるため、溶解層3を構成する材料とそれを溶解する薬剤を適切に選択する必要がある。具体的に、本発明では、溶解層3として金属を用い、また薬剤として酸又はアルカリを用いることが好ましい。また、溶解層3は、磁性層2に対する溶解性を高めるために多層としてもよい。
  ここで、溶解層3の下にある磁性層2も金属元素を含むため、溶解層3には磁性層2よりも薬剤に溶解しやすい金属を用いることが好ましく、さらに、薬剤は磁性層2にダメージを与えない酸を用いることが好ましい。具体的に、磁性層2としては、CoCr系の磁性合金や、これにSiO2等の酸化物を含む材料を用いる場合が多い。したがって、溶解層3としては、Mo、Cr、Ti、W、Mn、NiMn、Sn、Zn、Alなどを主として含むものを用いることが好ましい。一方、酸性の薬剤としては、H2O2、極薄い濃度のH2SO4、HNo3、H3PO4などを用いることが好ましい。この中でも特に、溶解層3としてMo、薬剤として0.1〜10%程度のH2O2を用いることが好ましい。
  一方、溶解層3にAlのような両性金属を含む合金を用いる場合、Alは酸にもアルカリにも溶解するため、上述した酸に加えてアルカリ性の薬剤を用いることができる。アルカリ性の薬剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。この中でも特に、溶解層3としてアルミニウム合金を用いた場合、薬剤として0.1〜10%程度の水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムを用いることが好ましい。
  また、本発明では、磁性層2に対するダメージの少ない溶解層3の構成材料と薬剤の組み合わせとして、溶解層3として有機物を用い、薬剤として有機溶剤を用いることができる。すなわち、有機溶剤は、一般的には磁性層2を構成するCoCr系の磁性合金等と化学反応を伴わないからである。本発明で使用可能な有機物と、それを溶解可能な有機溶剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、ノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ樹脂などの有機物と、アセトン、ケトン、ヘキサン、テトラクロロエチレン、トルエン、テルピン油などの有機溶媒とを組み合わせて用いることができる。なお、薬剤の濃度は、溶解層3の膜厚、溶解層3を構成する材料の種類、磁性層2を構成する材料との反応性を考慮し適宜選択することができる。
  薬剤による溶解層3の溶解時間は、薬剤の濃度や、溶解層3の材質、層厚、液温等により適宜選択されるが、この薬剤による磁性層2へのダメージを極力避けるため、10秒から1時間程度で溶解層3の溶解を完了する時間とすることが好ましい。
  また、本発明では、薬剤による溶解層3の溶解工程の後、基板表面に付着する薬液を除去するため、純水による洗浄工程や、酸又はアルカリ性の薬液を用いた中和工程を設けることが好ましい。さらに、基板表面にマスク層4やレジスト層5の残渣が付着している場合もあるので、発泡ウレタンを用いたスクラブ洗浄工程を設けると効果的である。
  次に、図1(g)に示すように、溶解層3、マスク層4及びレジスト層5が除去された面上を覆う保護層6を形成する。この保護層6の形成には、一般的にDLC(Diamond Like Carbon)薄膜をP−CVDなどを用いて成膜する方法が用いられるが、このような方法に必ずしも限定されるものではない。また、この保護層6は、磁性層2が除去された部分に埋め込まれるのに十分な厚みで形成される。
  その後、保護層6の上に潤滑剤を塗布することによって潤滑膜(図示せず。)を形成する。この潤滑膜に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物などを挙げることができ、通常1〜4nmの厚さで潤滑膜を形成する。
  そして、以上の工程を経ることによって、磁気記録媒体を製造することができる。
  本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法では、磁性層2とマスク層4との間に溶解層3を設け、この溶解層3を薬液により湿式溶解することから、磁性層2の表面から全てのマスク層4を残存させることなく確実に且つ高速で除去することが可能である。
  すなわち、従来の製造方法では、上記炭素膜からなるマスク層4を酸素プラズマを用いたアッシングにより除去している。この場合、パターンの形成されていない異常箇所は表面積が小さいために、マスク層4がほとんど除去されずに残ってしまう。そのことが磁気記録媒体の表面の平滑性を低下させ、ヘッドクラッシュ等を生じさせる原因ともなっていた。一方、マスク層4が除去できるまでアッシングを強めてしまうと、その下の磁性層2までダメージが及ぶことになる。
  これに対して、本発明では、磁性層2とマスク層4との間に設けられた溶解層3を薬液により溶解してマスク層4と共に除去するため、磁性層2の表面にダメージを与えることなく、マスク層4の除去を確実に且つ高速で行うことが可能である。
  以上のように、本発明によれば、磁性層2の上に設けたマスク層4の除去を確実に且つ高速で行うことが可能となるため、平滑性の高い磁気記録媒体を高い生産性で製造することが可能となる。また、このような磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置では、更なる電磁変換特性の向上が可能となる。
  次に、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法の他例について説明する。
  本発明は、磁気的に分離された磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、例えば上記磁性層2に磁気記録パターンを形成する方法として、磁性層2の磁気特性を部分的に改質する方法を採用する場合である。
  すなわち、このような磁気記録媒体を製造する際は、例えば図2(a)〜図2(g)に示すように、非磁性基板1の上に磁性層2を形成する工程と、磁性層2の上に溶解層3を形成する工程と、溶解層3の上にマスク層4を形成する工程と、マスク層4の上にレジスト層5を形成する工程と、レジスト層5の表面を磁気記録パターンに対応した形状にパターニングする工程と、パターニングされたレジスト層5を用いてマスク層4及び溶解層3をパターニングする工程と、パターニングされたマスク層4を用いて磁性層2を部分的に改質する工程と、溶解層3を薬剤により湿式溶解し、その上のマスク層4と共に磁性層2の上から除去する工程と、この上に保護層5を形成する工程と、保護層5の上に潤滑膜(図示せず。)を形成する工程とを含んでいる。
  具体的に、図2(a)〜(d)に示す工程は、上記図1(a)〜(d)に示す工程と基本的に同じである。このため、これら図2(a)〜(d)に示す工程の説明については省略するものとする。
  次に、図2(e)に示すように、例えば反応性プラズマや反応性イオンを用いて、溶解層4の下にある磁性層2のうち、レジスト層5、マスク層4及び溶解層3で覆われていない箇所を部分的に改質し、磁気的に分離された磁気記録パターン2bを形成する。
  本発明において、磁気記録パターン2bとは、磁気記録媒体を表面側から見た場合、磁性層2の一部の磁気特性を改質した、好ましくは非磁性化した非磁性領域7により分離された状態のものを言う。すなわち、磁性層2が表面側から見て分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくとも、本発明の目的を達成することが可能であり、本発明において磁気記録パターン2bの概念に含まれる。
  また、磁気記録パターン2bを形成するための磁性層2の改質とは、磁性層2をパターン化するために、この磁性層2の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指し、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを指す。
  特に、磁気特性の改質として、反応性プラズマや反応性イオンにさらした箇所の磁性層2の磁化量を当初(未処理)の75%以下、より好ましくは50%以下、保磁力を当初の50%以下、より好ましくは20%以下とする方法を採用するのが好ましい。このような方法を用いてディスクリートトラック型の磁気記録媒体を製造することにより、本媒体に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
  さらに、本発明では、磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を分離する箇所(非磁性領域7)を、すでに成膜された磁性層2を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層2を非晶質化することにより実現することも可能である。すなわち、本発明における磁性層2の磁気特性の改質は、磁性層2の結晶構造の改変によって実現することも含む。
  本発明において、磁性層2を非晶質化するとは、磁性層2の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指し、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指す。そしてこの原子配列状態を分析手法により確認する場合は、X線回折または電子線回折により、結晶面を表すピークが認められず、また、ハローが認められるのみの状態とする。
  反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively  Coupled  Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive  Ion  Plasma)が例示できる。また、反応性イオンとしては、上述した誘導結合プラズマ、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンが例示できる。
  誘導結合プラズマとしては、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマを例示できる。誘導結合プラズマは、電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリートトラックメディアを製造する場合に比べ、広い面積の磁性膜において、高い効率で磁気特性の改質を実現することができる。
  反応性イオンプラズマとは、プラズマ中にO2、SF6、CHF3、CF4、CCl4等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。このようなプラズマを用いることにより、磁性層2の磁気特性の改質をより高い効率で実現することが可能となる。
  本発明では、磁性層2を反応性プラズマにさらすことにより磁性層2を改質するが、この改質は、磁性層2を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子またはイオンとの反応により実現するのが好ましい。
  この場合、反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入し、磁性金属の結晶構造が変化すること、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属が窒化すること、磁性金属が珪化すること等が例示できる。
  特に、反応性プラズマとして酸素原子を含有させ、磁性層2を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の酸素原子とを反応させることにより、磁性層2を酸化させることが好ましい。磁性層2を部分的に酸化させることにより、酸化部分の残留磁化及び保磁力等を効率よく低減させることが可能となるため、短時間の反応性プラズマ処理により、磁気記録パターンを有する磁気記録媒体を製造することが可能となるからである。
  また、反応性プラズマには、ハロゲン原子を含有させることが好ましい。特に、ハロゲン原子として、F原子を用いることが好ましい。ハロゲン原子は、酸素原子と一緒に反応性プラズマ中に添加して用いてもよく、また酸素原子を用いずに反応性プラズマ中に添加してもよい。上述したように、反応性プラズマに酸素原子等を加えることにより、磁性層2を構成する磁性金属と酸素原子等が反応して磁性層2の磁気特性を改質させることが可能となる。この際、反応性プラズマにハロゲン原子を含有させることにより、この反応性をさらに高めることが可能となる。
  また、反応性プラズマ中に酸素原子を添加していない場合においても、ハロゲン原子が磁性合金と反応して、磁性層2の磁気特性を改質させることが可能となる。この理由の詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、磁性層2の表面に形成している異物をエッチングし、これにより磁性層2の表面が清浄化し、磁性層2の反応性が高まることが考えられる。
  また、清浄化した磁性層表面とハロゲン原子とが高い効率で反応することが考えられる。このような効果を有するハロゲン原子としてF原子を用いるのが特に好ましい。
  次に、図2(f)以降に示す工程についても、上記図1(f)以降に示す工程と基本的に同じである。このため、図2(f)以降に示す工程の説明については省略するものとする。
  したがって、この図2に示す製造工程においても、磁性層2とマスク層4との間に設けられた溶解層3を薬液により溶解してマスク層4と共に除去するため、磁性層2の表面にダメージを与えることなく、マスク層4の除去を確実に且つ高速で行うことが可能である。したがって、平滑性の高い磁気記録媒体を高い生産性で製造することが可能である。
  また、上記図2に示す工程で製造される磁気記録媒体は、図1の工程で製造される磁気記録媒体よりも表面の平滑性が高いため、磁気ヘッドの浮上高さを下げることが可能となり、より記録密度の高い磁気記録媒体を得ることが可能となる。
  なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
  例えば、本発明では、上記磁性層2に磁気記録パターンを形成する方法として、上記パターニングされたマスク層5及び溶解層4の下にある磁性層2のうち、レジスト層5、マスク層4及び溶解層3で覆われていない箇所を部分的に除去し、磁性層2に凹部を形成した後、この凹部の磁気特性を部分的に改質する方法を採用することも可能である。
  また、本発明では、上記磁性層2を部分的に除去した後、この磁性層2が除去された面上を覆う非磁性層を形成し、その後、磁性層2が表出するまで非磁性層に対してCMP(Chemical Mechanical Polishing)による研磨加工を施すことによって、磁気記録パターンとなる磁性層2の間に非磁性層が埋め込まれた状態とすることも可能である。
(磁気記録媒体)
  次に、本発明を適用して製造される磁気記録媒体の具体的な構成について、例えば図3に示すディスクリート型の磁気記録媒体30を例に挙げて詳細に説明する。
  なお、以下の説明において例示される磁気記録媒体30はほんの一例であり、本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、そのような構成に必ずしも限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
  この磁気記録媒体30は、図3に示すように、非磁性基板31の両面に、軟磁性層32と、中間層33と、磁気記録パターン34aを有する記録磁性層34と、保護層35とが順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜36が形成された構造を有している。また、軟磁性層32、中間層33及び記録磁性層34によって磁性層37が構成されている。なお、図3においては、非磁性基板31の片面のみを図示するものとする。
  非磁性基板31としては、例えば、Al−Mg合金などのAlを主成分としたAl合金基板、ソーダガラスやアルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラスなどのガラス基板、シリコン基板、チタン基板、セラミックス基板、樹脂基板等の各種基板を挙げることができるが、その中でも、Al合金基板や、ガラス基板、シリコン基板を用いることが好ましい。また、非磁性基板31の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以下であり、さらに好ましくは0.1nm以下である。
  軟磁性層32は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分を大きくするために、また情報が記録される垂直磁性層4の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定するために設けられている。この作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
  軟磁性層32としては、例えば、Feや、Ni、Coなどを含む軟磁性材料を用いることができる。具体的な軟磁性材料としては、例えば、CoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど。)、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど。)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど。)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど。)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど。)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど。)、FeMg系合金(FeMgOなど。)、FeZr系合金(FeZrNなど。)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
  中間層33は、磁性層の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善することができる。このような材料としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が好ましく、またこれらの合金を多層化してもよい。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
  例えば、Ni系合金であれば、Niを33〜96at%含む、NiW合金、NiTa合金、NiNb合金、NiTi合金、NiZr合金、NiMn合金、NiFe合金の中から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることが好ましい。また、Niを33〜96at%含み、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cのうち少なくとも1種又は2種以上を含む非磁性材料であってもよい。この場合、中間層33としての効果を維持し、磁性を持たない範囲とするため、Niの含有量は33at%〜96at%の範囲とすることが好ましい。
  中間層33の厚みは、多層の場合は合計の厚みで、5〜40nmとすることが好ましく、より好ましくは8〜30nmである。中間層33の厚みが上記範囲にあるとき、直磁性層の垂直配向性が特に高くなり、且つ記録時における磁気ヘッドと軟磁性層との距離を小さくすることができるため、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
  磁性層37は、面内磁気記録媒体用の水平磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。また、磁性層37は、主としてCoを主成分とする合金から形成することが好ましく、例えば、CoCrPt系、CoCrPtB系、CoCrPtTa系の磁性層や、これらにSiO2や、Cr2O3等の酸化物を加えたグラニュラ構造の磁性層を用いることができる。
  垂直磁気記録媒体の場合には、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層32と、Ru等からなる中間層33と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなる記録磁性層34とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層32と中間層33との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。
  一方、面内磁気記録媒体の場合には、磁性層37として、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
  磁性層37の厚みは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。また、磁性層37は、再生の際に一定以上の出力を得るのにある程度以上の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。磁性層37は、通常はスパッタ法により薄膜として形成する。
  グラニュラ構造の磁性層37としては、少なくとも磁性粒子としてCoとCrを含み、磁性粒子の粒界部に少なくともSi酸化物、Cr酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、Ru酸化物の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むものが好ましい。具体的には、例えば、CoCrPt−Si酸化物、CoCrPt−Cr酸化物、CoCrPt−W酸化物、CoCrPt−Co酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−W酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Ru酸化物、CoRuPt−Cr酸化物−Si酸化物、CoCrPtRu−Cr酸化物−Si酸化物などを挙げることができる。
  グラニュラ構造を有する磁性結晶粒子の平均粒径は、1nm以上、12nm以下であることが好ましい。また磁性層中に存在する酸化物の総量は、3〜15モル%であることが好ましい。また、グラニュラ構造ではない磁性層としては、CoとCrを含み、好ましくはPtを含む磁性合金を用いた層が例示できる。
  また、この磁気記録媒体30は、記録磁性層34に形成された磁気記録パターン34aが磁気特性が改質された領域(例えば、非磁性領域又は記録磁性層34に対して80%程度保磁力が低下した領域)38によって磁気的に分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体である。
  また、ディスクリート型の磁気記録媒体30は、その記録密度を高めるために、記録磁性層34のうち、磁気記録パターン34aの幅L1を200nm以下、改質領域38の幅L2を100nm以下とすることが好ましい。また、この磁気記録媒体30のトラックピッチP(=L1+L2)は、300nm以下とすることが好ましく、記録密度を高めるためにはできるだけ狭くすることが好ましい。
  保護層35には、磁気記録媒体において通常使用される材料を用いればよく、そのような材料として、例えば、炭素(C)、水素化炭素(HXC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質材料や、SiO2、Zr2O3、TiNなどを挙げることができる。また、保護層35は、2層以上積層したものであってもよい。保護層35の厚みは、10nmを越えると、磁気ヘッドと磁性層37との距離が大きくなり、十分な入出力特性が得られなくなるため、10nm未満とすることが好ましい。
  潤滑膜36は、例えば、フッ素系潤滑剤や、炭化水素系潤滑剤、これらの混合物等からなる潤滑剤を保護層35上に塗布することにより形成することができる。また、潤滑膜36の膜厚は、通常は1〜4nm程度である。
  以上のようなディスクリート型の磁気記録媒体30は、上記本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法を用いることによって、高い生産性で製造することが可能である。
(磁気記録再生装置)
  次に、本発明を適用した磁気記録再生装置(HDD)について説明する。
  本発明を適用した磁気記録再生装置は、例えば図4に示すように、上記磁気記録媒体30と、上記磁気記録媒体30を回転駆動する回転駆動部51と、上記磁気記録媒体30に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド52と、磁気ヘッド52を上記磁気記録媒体30の径方向に移動させるヘッド駆動部53と、磁気ヘッド52への信号入力と磁気ヘッド52から出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系54とを備えている。
  この磁気記録再生装置では、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体30を用いることにより、この磁気記録媒体30に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度を得ることが可能である。すなわち、上記磁気記録媒体30を用いることで記録密度の高い磁気記録再生装置を構成することが可能となる。また、上記磁気記録媒体30の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
  さらに、磁気ヘッド52の再生部をGMRヘッド又はTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置を実現することができる。また、この磁気ヘッド52の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲内とし、従来より低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置を提供することができる。
  さらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
  なお、本発明は、磁気的に分離された磁気記録パターンMPを有する磁気記録媒体に対して幅広く適用することが可能であり、磁気記録パターンを有する磁気記録媒体としては、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンがトラック状に配置されたメディア、その他、サーボ信号パターン等を含む磁気記録媒体を挙げることができる。本発明は、この中でも磁気的に分離された磁気記録パターンが磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体に適用することが、その製造における簡便性から好ましい。
  以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1)
  実施例1では、先ず、HD用ガラス基板をセットした真空チャンバを予め1.0×10−5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板は、Li2Si2O5、Al2O3−K2O、Al2O3−K2O、MgO−P2O5、Sb2O3−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径が65mm、内径が20mm、平均表面粗さ(Ra)が2オングストローム(単位:Å、0.2nm)である。
  次に、このガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として層厚60nmのFeCoB膜、中間層として層厚10nmのRu膜と、記録磁性層として層厚15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金膜、層厚14nmの70Co−5Cr−15Pt合金膜と、溶解層として層厚2nmのCrTi、層厚5nmのMoと、マスク層として層厚30nmの炭素膜とをこの順で積層した。
  次に、この上に、レジストをスピンコート法により塗布し、層厚100nmのレジスト層を形成した。なお、レジストには、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用いた。そして、磁気記録パターンのポジパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、このスタンプを1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力でレジスト層に押し付けた状態で、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジスト層を硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、レジスト層に磁気記録パターンに対応した凹凸パターンを転写した。
  なお、レジスト層に転写した凹凸パターンは、271kトラック/インチの磁気記録パターンに対応しており、凸部が幅64nmの円周状、凹部が幅30nmの円周状であり、レジスト層の層厚は65nm、レジスト層の凹部の深さは約5nmであった。また、凹部の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
  次に、レジスト層の凹部の箇所、並びにその下のマスク層及び溶解層をドライエッチングで除去した。ドライエッチングの条件は、O2ガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、DCバイアスを30W、エッチング時間を20秒とした。
  次に、記録磁性層でマスク層に覆われていない箇所にイオンビームを照射し、当該箇所の磁気特性を改質した。イオンビームは、窒素ガス40sccm、水素ガス20sccm、ネオン20sccmの混合ガスを用いて発生させた。イオンの量は5×1016原子/cm2、加速電圧は20keVとし、エッチング時間を90秒とした。なお、磁性層のイオンビームを照射した箇所は、磁性粒子が非晶質化し保磁力が約80%低下していた。
  次に、処理基板を1%の過酸化水素水(液温22℃)に30分間浸漬して溶解層を溶解し、この溶解層と共にその上のマスク層及びレジスト層を除去した。
  次に、中性洗剤に10分間浸漬し、スクラブ洗浄とスピン洗浄をした後、イオンビームエッチングを用いて処理基板の表面を1nm程度エッチングし、CVD法にてDLC膜を厚さ4nm形成し、潤滑剤を2nm塗布して磁気記録媒体を作製した。
  そして、この製造された磁気記録媒体について、グライド検査を実施した。このグライド検査では、検査ヘッド(ヘッドスライダ)と磁気記録媒体の表面との間の浮上高さを、0.2マイクロインチ(6.5nm)に設定し、検査ヘッドから、磁気記録媒体表面の突起物との衝突に起因するシグナルが出力された場合に、当該磁気記録媒体を不良品と判断する。その結果、実施例1の磁気記録媒体については、突起物に起因するシグナルは検出されなかった。