図1(a)、(b)、(c)はそれぞれ異なる運動の表示形態を与えた、本発明の実施の形態である携帯電話機の正面図または部分正面図である。また(d)は他の各図に共通な運動の6成分を座標軸を用いて表したものである。ωは角速度を表す。(a)図において、1はケースに入った携帯電話機、2はその表面や側面に配置された多数の操作スイッチ群である。3は液晶等の表示装置であり、通常は電話機の着信あるいは送信した電話番号、相手の氏名、通信文等の電話情報を表示する。10は運動センサで、フラットパッケージに納められた角速度センサおよび加速度センサであり、携帯電話機1の内部の回路基板(図示せず)に実装されており、携帯電話機1自体の直交する3方向((d)に図示する)への運動における直線加速度3成分と、その各軸回りの回転の角加速度2ないし3成分の、合計5ないし6成分を検出することができる。この機体の運動は通常はユーザーが与えるものである。
  センサの内部構造は多数の特許出願による提案があるので図示しないが、一例を挙げれば運動センサは板面の片側(Z軸方向)に偏倚した質量を有する円板状の振動体であり、加速度センサはこの振動体を振動させずに用い、質量に作用する慣性力による円板の3軸(板面内にX、Y軸、板面に垂直にZ軸)方向の変形を圧電的に検出する。角速度センサはこの振動体をZ軸方向に励振させておき、X軸またはY軸まわりの回転の際に発生するコリオリ力による円板の変形を圧電的に検出する2軸センサを用いる。
  図1(a)の表示装置3は3軸方向の加速度成分を表示している。表示画面には携帯電話機1の左右方向のX軸、長軸方向のY軸、および表示面に垂直なZ軸が表示され(Z軸は傾斜した直線を用いて斜視図的に示されている)、計測された各成分の大きさは原点Oから各軸に重なる太線の長さで表示されている。角速度に表示を切替え、あるいはその後再び加速度表示に戻すには、スイッチ群2の内の1つ(例えば機体の側面にあるもの)を操作する。
  図1(b)の表示装置3は、主に電話情報を表示する液晶表示部である表示装置3と、その外側に2辺に沿ってX、Y方向に並べた、運動表示専用のLED表示部である表示装置3aより成る。加速度または角速度のX、Y成分の大きさは各軸方向のLEDの点灯個数または点灯位置で表示し、ベクトルの方向の正負は例えば最も外側(右端および上端)の符号表示素子34であるLED(発光色を他と異ならせておくとよい)の点灯や点滅の有無などで判断させる。Z成分は表示装置3の下辺寄りの一部を用いて表示し、直線31の中央を0とし、その左右いずれかに表示される黒点32の位置により大きさと方向を示す。なおマーク33は予め定めた加速度Z成分の大きさを示し、黒点32がその外側にある時は発生した加速度がそれより大きかったことを表している。
  図1(c)は更に他の表示形態を例示している。表示装置3は消去された電話関係の表示に代わり、加速度の3成分の方向と大きさを画面の左半分の下部3段を用いて、矢印と数字(重力加速度を基準にした倍率)で示している。また角速度の3成分は画面の右半分の下部3段を用いて、回転方向を表す矢印図形と数字(毎秒間の回転角度)で示している。画面の上段(細い枠で囲まれている部分)は合成された加速度および角速度の大きさと凡その方向を示している。このように必要な全運動情報を一括して表示させることができる。
  図2は本発明の携帯電話機の実施の形態の一例における内部回路のブロック図である。図1で述べた以外の機能も基本的な形ではあるが種々含んでいる。4は送受信回路、5は電話回路でほぼ既存の機能を有し、スイッチ群2により動作を規定されながら、着信告知等を行うブザー6、送話器7、受話器8等の動作を制御し、また表示装置3に諸種の文字・数字表示を行わせる表示信号作成保持回路9に対して表示用データを供給している。またスイッチ群2は電話関係のみならず、運動関係の全ての機能回路(信号線が図示されていないものも含む)の動作も規制している。
  10は運動センサ、11は励振検出回路で、センサ振動体を励振し(角速度センサの場合)、また加速度あるいは角速度を検出し、それらの検出結果のデータを出力する。その出力は通信制御回路12によって、それ自身かまたは通信相手が発信し送受信回路4が受信した運動データかのどちらかが選択され、次段以降の各回路に出力される。レベル判定回路13では検出された運動データが予め定めた値を越えたか否かが判定される。運動出力がこの閾値を越えたら制御用信号を出力する場合等に有効である。最大値保持回路14ではある試行期間内での最高値(例えば携帯電話機を握った腕を強く振った場合の最大加速度出力)が記憶される。これは例えば運動能力の評価に用いる。
  制御信号作成回路15は、電話機能の電源のON・OFFや一部の機能などを、押しボタンによらずに腕振りや機体を軽く他物に打ちつける等の動作で素早く制御させようとする場合、加速度等の検出出力から押しボタン出力に代わる制御用出力を作成して電話回路5を制御する回路である。またこの回路の制御対象は電話機能に限らず、あらゆる運動データ処理回路(自分自身を含む)であってもよい。
  時間間隔測定回路16は、時間のある基準点から、運動中のある特定点までの経過時間を測定する機能を有する。この回路は例えば不意の瞬間にブザー6を慣らす。この鳴音の時点からユーザーがそれに反応して腕を振り、その加速度が所定値に達する迄の短い時間間隔が測定される。これによりユーザーの反射能力の評価が可能になり、体調のチェックも可能であろう。あるいは通信相手と反射神経の反応速度を競うゲームも可能になる。
  時間積分回路17、18は、加速度や角速度のデータを積分して機体の(従ってユーザーの)速度、距離、回転角等のデータを演算する機能を持つ。なお励振検出回路11から時間積分回路18に至る各回路の出力は信号線で図示したように、それぞれ表示信号作成保持回路9に入力され、それぞれ適切なシンボルや数字や図形に変換されて表示装置3(あるいは3a)上に表示される。
  以上図1、図2に示した実施の形態によって、本発明の基本的な機能について例示したが、本発明はもとよりこれらによって限定されるものではない。例えば運動データの種類(例えば特定の限定された方向のみ計測する)、処理方法(成分でなく、何らかの尺度による重みづけを施し総合的な表示をする)或いは評価方法(既述の実施の形態においてはユーザーの反射神経の評価を例示したが、逆に腕等に支持のない空間における静止状態の長時間維持能力をテストすることもできる)、表示形態(図形やその面積を変化させる、色彩や機体の震動を用いる等)、表示場所(例えば機体ケースの裏面や、半透明の機体ケースを透過させるLED発光表示を用いて広い表示面積を得る等)、制御応用(ゲームその他のソフトウェアを運動によって操作することを含む)、音響や音声信号との有機的結合、更には携帯電話機にどのような方法で運動を与えるか等の変化を追求することにより、なお一層洗練された情報機器を実現できるものである。
  また本発明の他の適用例について述べる。例えば病患のユーザーが携帯電話機を身につけ、その加速度や角速度の運動データを自宅からリハビリテーションセンターへ、あるいは入院中の病床からナースステーションなどに送信する。また電話機を動かして予めとり決めた合図を送ることもできる。受信側は患者と面接せずともその運動状態を把握し、その電話で助言もできるし、また運動データに異常があった(例えば長時間静止状態が持続するとか、逆に急激すぎる運動があったなど)場合には遅滞なく処置することができる。
  また音声や押しボタン信号を用いた送信と共に運動データの送信も可能なことから、運動データを単独であるいは他の信号と組合わせて1種の暗号を送ることもできる。例えばホームセキュリティシステムに向けて送信しながらある特定の腕振り運動(例えばX軸方向にあるレベル以上の加速度を5回、引き続いてあるレベル以上〔または以下〕の角速度を与えるY軸まわりの回転を3回)を行うと、自宅の鍵を開くことができるなどである。
  この運動による暗号も固定的ではなく、同時に操作する押しボタンの数字に応じて運動回数を変化させるなど複雑化させ第三者の窃視を困難にすることも容易である。このように本発明の応用範囲は極めて広い。また他者への送信の場合、運動データは生の加速度や角速度ではなく、それらを加工した情報でもよいし、それを更に音声信号やボタン操作による信号などと組合せてもよいのはもちろんである。