【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子ターゲティングまたは相同組換えのためのターゲティングベクター用のターゲティング構築物の調製方法の提供に関する。本発明はまた、ターゲティングベクターならびに所定の改変を有するベクターを含む細胞、植物、および動物(酵母を含む)を提供する。本発明は、さらに、ターゲティングベクターによって改変された植物および動物を提供する。
【背景技術】
【0002】
細胞および生物への異種DNAの組み込みは、所望の遺伝子および/またはポリペプチドを発現することができる形質転換された細胞および生物の生産に潜在的に有用である。しかし、この系に関連する多数の問題が存在する。主な問題は、哺乳動物細胞などの多細胞生物由来の細胞ゲノムへの異種遺伝子のランダムな組み込みパターンにある。これにより、しばしば、異なる形質転換された細胞の間でこのような異種遺伝子の発現レベルが広範に変化する。さらに、ゲノムへの異種DNAのランダムな組み込みにより、細胞または生物の変異、分化、および/または生存度に必要な内因性遺伝子が破壊され得る。ランダムな組み込みに関連する問題を解決するための1つのアプローチは、遺伝子ターゲティングの使用を含む。本方法は、細胞または生物のゲノム中に存在するDNA配列と新規に組み込まれたDNA配列との間の相同組換え事象の選択を含む。これにより、細胞または生物のゲノムを体系的に変化させる手段が得られる。
【0003】
相同組換え事象が行われた哺乳動物および植物細胞などの細胞の検出および単離で遭遇する重要な問題は、このような細胞が非相同組換えを媒介する傾向がより高いことにある。
【0004】
相同組換えの相対的な非効率は、インビトロで容易に産生されず、上記の選択およびスクリーニングプロトコールが不可能でないにしても非実用的であり得る細胞を使用して作用させた場合、さらにより問題がある。例えば、インビトロでのクローン産生が困難または不可能な多数の幹細胞型を含む非常に多様な細胞型が存在する。相同組換え自体の相対頻度を改良することができる場合、専門的な単離技術の影響を受けない種々の細胞をターゲティングすることができる。
【0005】
したがって、日常的且つ効率的に相同組換えを行うことができ、特定の選択およびスクリーニングプロトコールの必要性を予め回避するのに非常に十分な頻度で構築することができる遺伝子ターゲティング系が非常に必要である。
【0006】
相同組換えは、異種配列の移入に有用なだけでなく、この技術を使用して遺伝子内の配列を消滅、除去、または不活化することもできる。
【0007】
「遺伝子ノックアウト」は、細胞または生物における遺伝子のターゲティングされた不活化をいう。この技術は、相同組換えによる染色体上の野生型遺伝子(標的遺伝子)のターゲティングベクター上の不活化遺伝子への置換に依存する。遺伝子ノックアウト実験で遭遇する一般的な問題は、遺伝子置換(相同組換え)よりもむしろ動物細胞におけるホールベクターのランダムな挿入(非相同組換え)頻度の高さである。ランダムな挿入事象を対抗選択するためにポジティブ/ネガティブ選択手順が伝統的に使用されている。一般に、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を、ネガティブ選択マーカーとして使用する。この系が日常的に使用されているが、この系に関連する多数の欠点が存在する。第1に、構築されたポジティブ/ネガティブ選択ベクターは、非常に不安定な場合がある。第2に、多クローニングステップは、数週間、時には数ヶ月を要するノックアウトベクターの構築に関与する。第3に、本明細書中に記載の方法自体によって、既存の技術で現在利用不可能なターゲティングベクターのアセンブリのための半自動アプローチが得られる。
【0008】
したがって、遺伝子ターゲティングベクターの開発系および日常的且つ効率的に相同組換えを行うことができ、特定の選択およびスクリーニングプロトコールの必要性を予め回避するのに非常に十分な頻度で構築することができる遺伝子ターゲティング系がさらに必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、安定な遺伝子ターゲティングベクターを迅速且つ有効に構築することができる方法、および細胞または生物のゲノムの任意の所定の標的領域を改変し、このような改変細胞を選択および富化することができるベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様では、ターゲティングベクター用のターゲティング構築物を調製する方法であって、前記ターゲティングベクターが標的DNA配列を改変することができ、前記方法が、
前記標的DNA配列のコピーをインビトロで得るステップと、
トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含むDNA配列を標的DNA配列コピーの一方の部位に挿入するステップと、
トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含む別のDNA配列を標的DNA配列コピーの他方の部位に挿入するステップと、
前記組換え配列間で組換え事象を誘導して、前記標的DNA配列コピーの一部を欠失させるステップとを含む方法を提供する。
【0011】
本明細書中に記載の方法は、相同組換えを行うことができる細胞ゲノム中の標的DNA配列を改変するためにターゲティングベクターに挿入することができるターゲティング構築物を提供する。このトランスポゾン媒介手段は、標的DNA配列および細胞での欠失の作製に特に有用である。
【0012】
本発明の別の態様では、標的DNA配列のコピーと、
それぞれ組換え配列を含む少なくとも2つのトランスポゾン単位とを含み、
前記組換え配列間の組換えの際に標的DNAコピーの一部が欠失するように前記標的DNAコピー内に前記トランスポゾン単位を挿入して位置付ける、標的DNA配列の欠失の作成用のプレターゲティング構築物を提供する。
【0013】
このプレターゲティング構築物は、ターゲティング構築物の前駆体であり、組換えの誘導前に存在する。この構築物は、トランスポゾン媒介遺伝子欠失プロセスの基礎を形成し、プロセスの不可欠な構成要素である。トランスポゾン単位の使用により、相同組換え時の標的DNAおよび/または標的DNAコピー由来のDNAの欠失を可能にし、促進する。
【0014】
本発明の別の態様では、本明細書中に記載の方法によって調製されたターゲティング構築物を提供する。ターゲティング構築物は、組換え配列間の組換えに起因し、標的DNAのコピーの一部を欠き、標的DNAに相同なDNA配列または本質的に相同なDNA配列をさらに含む。この形態では、ターゲティング構築物は、相同組換えによる標的DNA配列の改変で使用するためのそのクローニングベクターからの除去およびターゲティングベクターへの挿入に理想的である。ターゲティング構築物を、元のクローニングベクターから単離し、標的ベクターに再挿入してクローニングすることができる。
【0015】
本発明の別の態様では、相同組換えを行うことができる標的細胞ゲノム中に含まれる標的DNA配列を改変するためのダブルポジティブ(DP)ベクターを提供する。ベクターは、標的DNA配列の第1の領域の一部に実質的に相同な少なくとも1つの配列の一部を含む第1のDNA配列を含む。ベクターはまた、標的DNA配列の第2の領域の別の部分に実質的に相同な少なくとも1つの配列部分を含む第2のDNA配列を含む。好ましくは、第1のDNA配列と第2のDNA配列との間に第3の配列を位置付け、発現した場合にベクターを使用した標的細胞で機能的なポジティブ選択マーカーをコードする。
【0016】
第3のDNA配列内で、部位特異的リコンビナーゼの存在下で高効率DNA組換えを補助する別のDNA配列を提供する。適切な配列は、CreまたはFLPなどの部位特異的リコンビナーゼの影響下にあるloxP配列またはFRT配列である。
【0017】
部位特異的リコンビナーゼの存在下での高効率DNA組換えを補助し、標的細胞で機能的な配列でもある第4のDNA配列を、第1のDNA配列の5’および/または第2のDNA配列の3’に位置付け、標的DNA配列での相同組換えを実質的に行うことができない。この配列はまた、CreまたはFLPなどの部位特異的リコンビナーゼの影響下での別のloxP部位またはFRTであり得る。
【0018】
好ましくは、プライマーとして作用するさらなるDNA配列は、ベクターの5’または3’のいずれかに添加することができるか、第1のDNA配列または第2のDNA配列のそれぞれ5’または3’である。
【0019】
2つの相同部分およびポジティブ選択マーカーを含む上記のDPベクターを、標的DNA配列を改変するために本発明の方法で使用することができる。この方法では、細胞を、上記のベクターで最初にトランスフェクトする。この形質転換中に、DPベクターは、細胞ゲノム内に最も頻繁にランダムに組み込まれる。この場合、第1、第2、第3、および第4のDNA配列を含む実質的に全てのDPベクターを、ゲノムに挿入する。しかし、いくつかのDPベクターは、相同組換えを介してゲノムに組み込む。DPベクターの第1のDNA配列および第2のDNA配列の相同部分と細胞の内因性標的DNAの対応する相同部分との間で相同組換えがおこる場合、部位特異的リコンビナーゼの存在下での高効率DNA組換えを補助する配列を含む第4のDNA配列はゲノムに組み込まれない。これは、内因性標的DNA配列の相同領域外に配列が存在するからである。
【0020】
結果として、少なくとも2つの細胞集団が形成される。第4のDNA配列中に含まれる部位特異的リコンビナーゼの存在下での高効率DNA組換えを補助する配列によって選択することができるベクターのランダム組換えが起こった細胞集団が存在する。これは、線状DNAの末端での組み込みによってランダム事象が起こるためである。相同組換えによって遺伝子ターゲティングされた他の細胞集団を、ベクターの第3のDNA配列中に含まれるポジティブ選択マーカーによってポジティブ選択する。第4のDNA配列が存在する場合、好ましくはloxP配列によって隣接したベクター部分の失活によって、Creなどのリコンビナーゼの活性化によってポジティブ選択マーカーを失活させることができる。この細胞集団は、ポジティブ選択マーカーを含まないので、ポジティブ選択を生き残せない。このポジティブ選択法の正味の効果は、改変された標的DNA配列を含む形質転換された細胞が実質的に豊富であり、それにより相同組換えが行えることである。
【0021】
上記のDPベクターにおいて、ポジティブ選択マーカーを含む第3のDNA配列を、第1のDNA配列とポリペプチドの一部をコードするDNA配列に対応する第2のDNA配列との間(例えば、真核生物のエクソン内)または遺伝子発現に必要な調節領域内に位置付ける場合、相同組換えにより、このような標的DNA配列を含む遺伝子が非機能的であるように改変された細胞を選択可能である。
【0022】
しかし、DPベクターの第3のDNA配列中に含まれたポジティブ選択マーカーがゲノム非翻訳領域内(例えば、真核生物遺伝子中のイントロン内)に位置付けられる場合、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入、および/または欠失によって、標的遺伝子の機能的特徴を消失することなく周辺の標的配列(例えば、エクソンおよび/または調節領域)を改変することができる。
【0023】
本発明はまた、細胞ゲノム中に含まれる標的DNA配列の少なくとも1つの所定の改変を含む形質転換された細胞を含む。
【0024】
さらに、本発明は、生物のゲノム中の標的DNA配列の所定の改変を有する細胞を含む非ヒトトランスジェニック動物および植物などの生物を含む。
【0025】
本発明の種々の他の態様は、以下の詳細な説明、添付の図面、および特許請求の範囲から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の第1の態様は、ターゲティングベクター用のターゲティング構築物を調製する方法であって、前記ターゲティングベクターが標的DNA配列を改変することができ、前記方法が、
前記標的DNA配列のコピーをインビトロで得るステップと、
トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含むDNA配列を標的DNA配列コピーの一方の部位に挿入するステップと、
トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含む別のDNA配列を標的DNA配列コピーの他方の部位に挿入するステップと、
前記組換え配列間で組換え事象を誘導して、前記標的DNA配列コピーの一部を欠失させるステップとを含む方法を提供する。
【0027】
本明細書中に記載の方法は、相同組換えを行うことができる細胞ゲノム中の標的DNA配列を改変するためのターゲティングベクターに挿入することができるターゲティング構築物を提供する。このトランスポゾン媒介手順は、標的DNA配列および細胞中の欠失作製に特に有用である。
【0028】
組換え事象は、標的DNAのコピーを、標的DNAの相同または実質的に相同な部分を含むが、ターゲティング構築物から欠失した標的DNAの一部を有するターゲティング構築物に変換する。それぞれ組換え配列を含む本質的に2つのトランスポゾンを、標的遺伝子のコピーの異なる位置に挿入することができる。2つのトランスポゾン上の組換え配列間の組換えにより、トランスポゾン間の配列を欠失させることができる。細胞中のポジティブ選択のために動物欠失部位に選択マーカーが残されることが好ましい。これは、クローン化遺伝子中の高処理欠失作製を促進させる所与の遺伝子中の種々の欠失が望ましい場合に特に好ましい。
【0029】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通して、用語「comprise」ならびに「comprising」および「comprises」などのこの用語の変形形態は、他の添加物、成分、整数、またはステップを排除することを意図しない。
【0030】
本明細書中で使用される、「標的DNA配列」は、本発明のターゲティングベクターによる改変のためにターゲティングされる細胞ゲノム内の所定の領域である。標的DNA配列は、遺伝子の全ての構造成分(すなわち、真核生物の場合にイントロンおよびエクソンを含むポリペプチドをコードするDNA配列)、エンハンサー配列およびプロモーターなどの調節配列、目的のゲノム内の他の領域を含む。標的DNA配列はまた、ベクターによってターゲティングされた場合に宿主ゲノムの機能に対して効果がない配列であり得る。各標的DNA配列は、本発明のターゲティングベクターのデザインに使用される相同配列部分を含む。
【0031】
本明細書中で使用される、用語「標的DNA配列のコピー」は、標的DNAの相同なコピー、実質的に相同なコピー、または改変コピーを含む。標的DNAの相同コピーは標的と同一であり、標的DNAの一部の明白な欠失を所望する場合に特に有用である。「実質的に相同な」コピーは、ほぼ同一であるがストリンジェントな条件下でハイブリッド形成するDNA配列である。「改変」コピーは、「実質的に相同」であるが、ターゲティングベクター、最終的には細胞ゲノムへの挿入を所望する変化または改変を含む配列である。これらのDNA配列は、ターゲティングベクターで使用するための改変DNA配列になる。改変されたDNAでは、組換え時にこれらの改変された配列がターゲティング構築物に残存するように組換え配列部位の外側が改変されていることが好ましい。
【0032】
標的DNA配列のコピーを、任意の供給源から得ることができ、一般に、市販のライブラリーから得る。一般に、標的DNA配列は、公知の配列または公知の遺伝子である。しかし、本発明は、公知の配列に制限されない。DNAの一部を改変について識別することができ、抽出、天然または合成法(本発明の範囲内である)のいずれかによってこの部分のコピーを得ることができる。本発明の目的のために、所望の配列の操作および欠失のためにインビトロで配列を使用する。標的DNAを含む構築物を安定にすることができ、且つトランスポゾンおよび組換え配列を含む挿入されたDNA配列を得るための任意のベクターまたはクローニングベクターにクローン化することができる。好ましくは、構築物は、市販の供給源から入手した任意の利用可能な構築物である。しかし、ベクターpNEB193が有用であることが見出された。その他には、一般にpUCベースのベクター、コスミドベース、PAC/BACベースまたはYACベースのベクターが含まれる。
【0033】
ターゲティングベクターへの挿入のために、ターゲティング構築物をこのようにして構築する。本明細書中に記載の方法により、インビトロでの標的DNA配列のコピーの一部を有効に除去し、標的動物遺伝子が望ましく欠失することができる。この都合の良い手順により、標的細胞中の欠失の作製のための手順が著しく簡単になる。正確な相同組換えを確実にするためにターゲティングベクター中にプロモーター配列、選択マーカー、および相同標的配列を含むDNAインサートの正確な置換を必要とする遺伝子構築物を作成する必要性が著しく減少する。
【0034】
ターゲティング構築物には、トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含む少なくとも2つの個別の挿入されたDNA配列が含まれる。しかし、多数の挿入されたDNA配列を使用して、組換え事象を誘導し、標的DNA配列のコピーの一部を欠失することができる。
【0035】
トランスポゾン配列は、DNA分子上の新規の部位に挿入することができる個別のDNAセグメント(転位とよばれるプロセス)である。このようなエレメントは、真核生物および原核生物の両方に存在する。細菌では、多数の異なるトランスポゾンを含むこのようなエレメントのいくつかのクラスが存在し、そのいくつかは詳細に研究されており、挿入変異誘発の目的でこれを使用して真核生物遺伝子および細菌遺伝子に挿入されている。トランスポゾンはまた、クローニングのためのポータブルマーカーおよび配列決定のためのプライマー結合部位の挿入のためのツールとして使用されている。
【0036】
転位の機構および様式は、トランスポゾンによって異なる。一般に、トランスポゾンは、トランスポゾンをコードするトランスポザーゼによるトランスポゾン末端の認識、その後のトランスポゾン末端と標的部位との間の組換え事象を含む。ほとんどのトランスポザーゼ遺伝子は、シスで機能し、トランスポザーゼ遺伝子を含む同一のDNA分子上でのトランスポゾンの転位を触媒する。しばしば、補助タンパク質(accessory  protein)およびDNA補因子はインビボ転位で必要であり、いくつかのトランスポゾンは同一のトランスポゾンのこれらを含むDNA分子への転位を防止する転位免疫を付与する。
【0037】
2成分(種々のトランスポゾンの末端に隣接する抗生物質耐性マーカーを含むミニトランスポゾンまたはミニmuトランスポゾンおよびドナートランスポゾンのレシピエントDNA分子への転位を触媒する精製トランスポザーゼ)のみを必要とする多数のインビトロトランスポゾン系が開発されている。このような系では、一般に、トランスポザーゼのみで十分であり、補助タンパク質およびDNA補因子は必要ない。さらに、転位免疫は存在せず、1つを超えるトランスポゾンを同一のDNA分子に挿入することができる。
【0038】
適切なミニトランスポゾンを、Mu1−Cam、Mu2−Neo、Mu2−Hyg  EGFP、およびMu2−β−geoからなる群から選択することができる。
【0039】
挿入されたDNA配列は、組換え配列をさらに含む。本明細書中に記載の組換え配列は、標的DNA配列または組換え配列に隣接する任意の配列のコピーの一部の欠失プロセスで重要である。これらの配列は、部位特異的リコンビナーゼの存在下での高効率の組換えを補助する。
【0040】
適切な配列は、CreまたはFLPなどそれぞれのリコンビナーゼの影響下にあるloxP配列または逆向き反復塩基配列(FRT)を含む。リコンビナーゼの他のインテグラーゼファミリーメンバー(Gln、Hin、レソルバーゼ)もまた、本説明に含まれる。他の酵素媒介組換えまたは高効率組換え事象は、この系を潜在的に媒介することができる。
【0041】
Cre−LoxPリコンビナーゼ系が最も好ましい。しかし、FLP−FRT系もまた使用することができる。LoxPは、リコンビナーゼ(Cre)によって媒介される別のLoxP配列で組換える34bpのDNAである。組換え事象によりDNAが環状化され、LoxP部位間のDNA配列が欠失される。この系の1つの重要な特徴は、同一方向でのLoxP配列間の組換えにより配列間のDNAが欠失してLoxPの1つのコピーを遊離させることである。この系は原核生物および高等生物の両方で機能するので、本明細書中に記載の方法は、酵母を含む全ての細胞型に有用である。
【0042】
挿入されたDNA配列の組換え配列は、組換えることができなければならない限り適合しなければならない。したがって、例えば、一方のDNA配列の組換え配列がLoxP配列である場合、他のDNA配列はLoxP配列を含まなければならないので、隣接する配列の除去または欠失が促進される。
【0043】
好ましいことであるが、トランスポゾン配列は、選択マーカーおよびプロモーター配列が得られる他のDNA配列を含んでもよい。これらのDNA配列は、コピーされた標的DNA配列への首尾のよいトランスポゾン挿入を識別するための手段を提供する。任意の選択マーカーを、トランスポゾン配列と組み合わせて使用することができる。
【0044】
適切なマーカーには、クロラムフェニコール耐性マーカー、テトラサイクリン耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、またはβ−geoマーカーなどの抗生物質耐性マーカーまたは酵素ベースのマーカーが含まれる。
【0045】
確実にトランスポゾンが同一の方向で存在し、それにより確実に組換え配列も同一の方向で存在するように標的DNA配列のコピーに挿入するDNA配列を挿入することができる。
【0046】
欠失のためにターゲティングされた配列に隣接するトランスポゾンまたはさらなる選択マーカーおよびプロモーターと相対的な任意の空間的順序で挿入されたDNA配列内の組換え配列の位置付けを行うことができる。標的DNA配列のコピーの一部欠失時に新規のマーカー配列が活性化されるように組換え配列を有利に位置付けることができる。
【0047】
理論に制限されないが、1つの挿入されたDNA配列は、Cam
rなどの第1の選択マーカーを駆動するプロモーター配列に隣接するトランスポゾン配列を含むことができ、プロモーター配列と選択マーカーとの間に組換え配列を挿入する。別の挿入されたDNA配列は、Tet
rなどの活性選択マーカーおよびβ−geoなどの非活性選択マーカーに隣接するトランスポゾン配列を含むことができ、組換え配列を、活性選択マーカーと非活性選択マーカーとの間に挿入する。組換え配列間の組換え事象の活性により第1の選択マーカーおよび活性選択マーカーが欠失し、首尾のよい組換えをさらに識別するための非活性マーカーが活性化される。
【0048】
転位プロセスおよびトランスポゾンをコードするトランスポザーゼによるDNA配列中のトランスポゾン末端の認識によって挿入されたDNA配列を標的DNAのコピーに挿入することができる。理想的には、標的DNAのコピーを確実に連続組み込みするために各DNA配列を個別に挿入する。選択マーカーにより首尾のよい組み込みを識別することができる。しかし、挿入されたDNA配列を同時に挿入することができる。理想的ではないが、この方法を使用して、適合する組換え配列を標的DNAのコピーに組み込み、組み込み配列の欠失を意図するDNAの一部に隣接(flank)させることができる。
【0049】
トランスポゾンの組み込みはランダムである。PCRスクリーニングまたは制限消化マッピングの使用によって、トランスポゾンの部位および方向を決定することができる。
【0050】
好ましくは細胞へのCreの組み込みによって、組換え配列間の組換え事象を誘導することができる。
【0051】
好ましくは調節された手段によってcreリコンビナーゼ遺伝子を発現することができる。Tet−on系またはエクダイシン(ecdysine)誘導系を使用して、cre発現を誘導することができる。これらの系は、染色体への2つのプラスミドの組み込みが必要である。トランスジェニック実験およびノックアウト実験では、染色体に組み込まれたプラスミドDNAにより、所望でない副作用を引き起こし得る。この問題を克服するために、LoxP部位に隣接するDNAセグメントを除去するために、Creリコンビナーゼの一過性発現が最も望ましい。リコンビナーゼの一過性発現での使用にアデノウイルスベクターが好ましい。複製欠損であり、複製機能を必要とする特定の細胞株でのみ増幅することができるので、これらのベクターは稀に染色体に組み込まれて正常な細胞株で複製されない。さらに、トランスフェクション効率は、プラスミド発現ベクターよりもさらに高い(アデノウイルスについては、プラスミド発現ベクターについての約20%と比較して約100%)。Cre遺伝子の一過性発現のためのアデノウイルスベクターが最も好ましい。CreリコンビナーゼA×CANCre(RIKEN、Japan)を発現するアデノウイルスが好ましい。抗Cre抗体(Novagen)を使用して、ウェスタンブロッティングによってCreリコンビナーゼの発現を確認することができる。
【0052】
FLP−FRT系などの他の組換え配列またはリコンビナーゼのインテグラーゼファミリーの他のメンバーを使用する場合、類似の様式で対応するリコンビナーゼを誘導することができる。
【0053】
本発明の別の態様では、標的DNA配列のコピーと、
それぞれ組換え配列を含む少なくとも2つのトランスポゾン単位と
を含み、前記組換え配列間の組換えの際に標的DNAコピーの一部が欠失するように前記標的DNAコピー内に前記トランスポゾン単位を挿入して位置付ける、標的DNA配列の欠失の作成用のプレターゲティング構築物を提供する。
【0054】
このプレターゲティング構築物は、ターゲティング構築物の前駆体であり、組換えの誘導前に存在する。この構築物は、トランスポゾン媒介遺伝子欠失プロセスの基礎を形成し、プロセスの不可欠な構成要素である。トランスポゾン単位の使用により、相同組換え時の標的DNAおよび/または標的DNAコピー由来のDNAの欠失を可能にし、促進する。
【0055】
好ましい実施形態では、トランスポゾン単位は、ミニmuトランスポゾン単位である。ミニmuトランスポゾン単位は、選択マーカーおよび望ましくは選択マーカーの発現のプロモーターをさらに含む。トランスポゾン単位は、組換え時に異なる選択マーカーまたは遺伝子を組換え体およびターゲティング構築物の選択を促進するように活性化されるように異なることが好ましい。
【0056】
前述のように選択マーカーを選択する。
【0057】
本発明の別の態様では、本明細書中に記載の方法によって調製されたターゲティング構築物を提供する。ターゲティング構築物は、組換え配列間の組換えに起因し、標的DNAのコピーの一部を欠き、標的DNAに相同または本質的に相同なDNA配列をさらに含む。この形態では、ターゲティング構築物は、相同組換えによる標的DNA配列の改変で使用するためのそのクローニングベクターからの除去およびターゲティングベクターへの挿入に理想的である。ターゲティング構築物を、元のクローニングベクターから単離し、ターゲティングベクターに再挿入してクローニングすることができる。
【0058】
ターゲティング構築物の好ましい形態は、組換え事象後に形成された活性な選択マーカーを含み、活性な選択マーカーは、個別に挿入されたDNA配列に由来するプロモーターと選択マーカーとの組み合わせに起因する。好ましくは、活性な選択マーカーは、標的DNAに相同なDNA配列または実質的に相同なDNA配列に隣接する。この選択マーカーは、ターゲティング構築物が配置されるターゲティングベクターで使用されたクローニングベクターおよび細胞の両方でのポジティブ選択に役立つ。
【0059】
このトランスポゾン媒介手順を、欠失を作製し、遺伝子がクローン化されてすぐベクター構築が迅速化されるようにデザインした。クローン化遺伝子上のトランスポゾン挿入がランダムであり、且つミニMuトランスポゾンに配列優先度が存在しないので、各欠失のためにさらなるクローニングを行うことなく任意の所望の位置で欠失を作製することができる。これにより、ノックアウトベクターの半自動産生に潜在的に影響を受ける高処理欠失作製を促進する。
【0060】
好ましいターゲティングベクターは、本明細書中に記載のDP(ダブルポジティブ)ベクターである。
【0061】
本発明の別の態様では、細胞ゲノム中に含まれる標的DNA配列を改変するためのダブルポジティブ(DP)ベクターであって、前記DPベクターは、
前記標的DNA配列の第1の領域と相同組換えすることができる第1の相同ベクターDNA配列と、
前記細胞中で特徴的なポジティブ選択を付与することができるポジティブ選択マーカーDNA配列と、
部位特異的リコンビナーゼの存在下で高効率のDNA組換えを補助し、前記ポジティブ選択マーカー中に含まれる第3の配列と、
前記標的DNA配列の第2の領域と相同組換えを行うことができる第2の相同ベクターDNA配列と、
前記第3の配列との部位特異的組換えを指示するが、前記標的DNA配列との相同組換えを実質的に行うことができない第4の配列とを含み、
前記DPベクター中の前記配列の空間的順序は、前記第1の相同ベクターDNA配列、前記第3の配列を含む前記ポジティブ選択マーカーDNA配列、前記第2の相同ベクターDNA配列および前記第4の配列であり、
前記ベクターが、前記第1の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第1の領域との相同組換えおよび前記第2の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第2の領域との相同組換えによって前記標的DNA配列を改変することができるDPベクターを提供する。
【0062】
本発明のダブルポジティブ選択(「DP」)法およびベクターまたはターゲティングベクターを使用して、相同組換えを行うことができる細胞ゲノム中の標的DNA配列を改変する。
【0063】
本発明のDPベクターの略図を、図3および図4に示す。別のDPベクターを、図4に示す。DPベクターは、少なくとも4つのDNA配列を含む。第1のDNA配列および第2のDNA配列は、それぞれ、ターゲティングDNAの第1の領域および第2の領域中の対応する相同部分に実質的に相同な部分を含む。ゲノムの適切な領域へのDPベクターのターゲティングを保証するためにDPベクターおよび標的DNAのこれらの部分の間に実質的な相同性が必要である。
【0064】
本明細書中で使用される、用語「相同な」または「実質的に相同な」DNA配列は、基準DNA配列と同一またはほぼ同一であるDNA配列である。2つの配列が相同であるという表示は、これらの配列が最もストリンジェントなハイブリッド形成条件下でさえも互いにハイブリッド形成し、好ましくは配列多型を示さない(すなわち、制限エンドヌクレアーゼによって異なる切断部位を含まない)ことである。
【0065】
本明細書中で使用される、用語「実質的に相同な」は、基準DNA配列を少なくとも約97〜99%同一、および好ましくは基準DNA配列と少なくとも約99.5%〜99.9%同一、ある用途では、基準DNA配列と100%同一であるDNAをいう。2つの配列が実質的に相同であるという表示は、これらの配列が最もストリンジェントな条件下で依然として互いにハイブリッド形成し、(少なくとも約97%〜99%の配列が同一である特定の長さの配列が統計的に予想される数と比較して)RFLPまたは配列多型を示すことは稀であることである。
【0066】
遺伝子ターゲティングによれば、動物細胞ゲノムを選択的に操作する能力が主に進歩する。この技術を使用して、部位特異的様式および正確なで特定のDNA配列をターゲティングおよび改変することができる。調節領域、コード領域、および遺伝子間のDNA領域を含む異なるDNA配列型を改変のためにターゲティングすることができる。調節配列の例としては、プロモーター領域、エンハンサー領域、ターミネーター領域、およびイントロンが含まれる。これらの調節領域の改変により、遺伝子発現のタイミングおよびレベルを変化させることができる。コード領域を、例えば、抗原もしくは抗体の特異性、酵素活性、食品のタンパク質組成、タンパク質の不活化に対する感受性、タンパク質の分泌、細胞内のタンパク質の配列を変化、増強、または消滅させるように改変することができる。イントロンおよびエクソンならびに遺伝子内領域は、改変に適切な標的である。この技術はまた、リコンビナーゼと組み合わせて使用した場合、染色体を操作することが可能であり(Ramirez−Solis  R.,Liu  P.,Bradley  A,1995,「マウスの染色体操作」,Nature,378,720〜4)、それにより巨大な染色体間または染色体内再配列を行うことができる。
【0067】
DNA配列の改変には、先行する挿入、欠失、置換、または任意の組換えを含むいくつかの型が存在し得る。修飾の特例は、遺伝子産物の発現を破壊するヌクレオチド配列の部位特異的な組み込みによる遺伝子の不活化である。ターゲティングによる遺伝子の「ノックアウト」のためのこのような技術を使用して、遺伝子産物の機能的発現を破壊するためのアンチセンスRNAの使用に関連する問題を回避する。例えば、本発明を使用した標的遺伝子の破壊への1つのアプローチは、ターゲティングDNAと標的DNAとの間の相同組換えにより、標的遺伝子のコード領域に選択マーカーが挿入されるようにターゲティングDNAに選択マーカーを挿入することである。
【0068】
ポジティブ選択マーカーをコードするDNA配列もまたDPに含まれる。本明細書の説明で使用される好ましいポジティブ選択マーカーには、薬物耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性など)、蛍光もしくは生体発光マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)など)、または挿入DNAを保有する細胞とこのようなDNAを欠く細胞とを区別するために使用することができる任意の他のマーカーが含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
ポジティブ選択マーカーをコードするDNA配列を、第1のDNA配列と第2のDNA配列との間に位置付けることが好ましい。ターゲティング構築物中のマーカー遺伝子の好ましい位置は、遺伝子ターゲティングの目的に依存する。例えば、標的遺伝子発現の破壊が目的である場合、選択マーカーを標的DNA中のコード配列に対応するターゲティングDNAにクローン化することができる。あるいは、アミノ酸が置換されたタンパク質などの標的遺伝子由来の変化した産物を発現することを目的とする場合、クローニング配列を、置換をコードするように改変することができ、選択マーカーを、コード領域の外側(例えば、イントロン付近)に位置付けることができる。
【0070】
選択マーカーが発現のためにそのプロモーターに依存し、マーカー遺伝子がターゲティングされた生物に比べて非常に異なる生物由来である場合(例えば、哺乳動物細胞のターゲティングで使用した原核生物マーカー遺伝子)、元のプロモーターをレシピエント細胞で機能することが公知の転写機構と置換することが好ましい。多数の転写開始領域(例えば、メタロチオネインプロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、β−アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、SV40プロモーター、およびサイトメガロウイルスプロモーターを含む)をこのような目的に利用可能である。広範に使用されている例は、SV40初期プロモーターの調節下で細菌ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を有し、G418(ネオマイシンに関連する抗生物質)への哺乳動物細胞耐性を付与するpSV2−neoプラスミドである。
【0071】
DPベクター中のマーカーの特徴は、ポジティブマーカーのコード配列内に部位特異的リコンビナーゼの存在下での高効率組換えを補助する第3の配列が存在することである。適切な配列は、CreまたはFLPなどそれぞれのリコンビナーゼの影響下にあるloxP配列または逆向き反復塩基配列(FRT)を含む。リコンビナーゼの他のインテグラーゼファミリーメンバー(Gln、Hin、レソルバーゼ)もまた、本説明に含まれる。他の酵素媒介組換えまたは高効率組換え事象は、この系を潜在的に媒介することができる。
【0072】
loxP配列は、欠失されるべき配列に隣接する34塩基対のDNAである。Creタンパク質に関与しないで組換えすることは不可能である。
【0073】
FRT配列は、FLPの標的であり、リコンビナーゼFLPの存在下で欠失することができるDNA配列にも隣接している。
【0074】
細胞内でプロモーター配列が活性化された場合にポジティブ選択マーカー遺伝子の発現を妨害することなく、部位特異的リコンビナーゼの存在下で高効率DNA組換えを補助する第3の配列を挿入することができることが好ましい。この配列を、選択マーカー遺伝子のプロモーターとコード領域との間に挿入することが好ましい。しかし、β−ガラクトシダーゼコード配列が破壊される青色/白色選択ストラテジーなどの別のストラテジーを考察することができる。
【0075】
このような選択マーカーをコードするDNA配列によって発現された表現型がDNA配列を発現する細胞に特異的なポジティブ選択を付与することができる場合、ポジティブマーカーは形質転換された細胞中で「機能的」である。したがって、「ポジティブ選択」は、組み込まれたポジティブ選択マーカーを含まない細胞を死滅させるか選択する適切な薬剤を含むDPベクターでトランスフェクトした細胞を移入するステップを含む。
【0076】
本明細書中で使用される他のポジティブ選択マーカーには、膜結合ポリペプチドをコードするDNA配列が含まれる。このようなポリペプチドは、当業者に周知であり、分泌配列、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含む。ポジティブ選択マーカーとして発現する場合、このようなポリペプチドは標的細胞膜に会合する。次いで、細胞外ドメインに特異的な蛍光標識抗体を、膜結合ポリペプチドを発現する細胞を選択するための蛍光標示式細胞分取器(FACS)で使用することができる。ネガティブ選択前後にFACS選択を行うことができる。
【0077】
DPベクター中の第4の配列は、部位特異的リコンビナーゼの存在下での高効率DNA組換えを補助し、第3の配列内の部位特異的組換えを指示するが、標的DNA配列での相同組換えを実質的に行うことができない。好ましくは、第3の配列がloxP配列である場合、第4の配列もloxP配列であり、それにより隣接する配列の除去が促進される。同様に、第3の配列がFRT配列である場合、第4の配列もFRT配列であり、それにより隣接する配列の除去が促進される。各リコンビナーゼは、CreおよびFLPである。同一の効果を得ることができる他のリコンビナーゼは、本発明の範囲内である。
【0078】
本発明の重要な特徴は、部位特異的リコンビナーゼ(例えば、Cre)の影響下で、loxP部位間で組換えが起こってポジティブ選択マーカーの機能が喪失することである。したがって、相同組換えが起こる細胞は、そのゲノムがCre(またはFLPなどの別のリコンビナーゼ)の誘導形態を発現するように変化されなければならない。
【0079】
さらに好ましい実施形態では、第4のDNA配列は、PCRプライマー部位またはポジティブ選択マーカー内で使用される部位に対して別の組換え部位として作用することができる別の短いDNA領域を含む。第1のDNA配列および第2のDNA配列のいずれかの末端にこれを付加することができる。
【0080】
しかし、ポジティブ選択マーカーを、独立して発現する(例えば、標的DNAのイントロン中に含まれる場合)ように構築するか、標的DNA配列中の調節配列の調節下に相同組換えがおかれるように構築することができる。
【0081】
しかし、DPベクター内の種々のDNA配列の位置付けは、各DNA配列をDPベクターの一本鎖上に転写的におよび翻訳的に整列させることを必要としない。したがって、例えば、第1のDNA配列および第2のDNA配列は、標的DNA配列中の領域1および領域2の5’→3’方向と一致する5’→3’方向を有してもよい。そのようにして整列させた場合、DPベクターは、「置換DPベクター」である。相同組換えの際、置換DPベクターは、標的DNAの相同部分の間のゲノムDNA配列をDPベクターの第1のDNA配列および第2のDNA配列の相同部分の間のDNA配列と置換する。本発明の実施には配列置換ベクターが好ましい。あるいは、DNA配列1の相同部分が標的DNA配列の領域1の相同部分の5’→3’に対応する一方で、DPベクター中のDNA配列2の相同部分が標的DNA配列の第2の領域の第2の領域の相同部分について3’→5’方向であるようにDPベクター中の第1のDNA配列および第2のDNA配列の相同部分を互いに逆にすることができる。この逆方向により、「挿入DPベクター」が得られる。挿入DPベクターが標的DNA配列に相同に挿入された場合、標的DNA中の相同部分を置換することなくDPベクター全体が標的DNA配列に挿入される。このようにして得られた改変標的DNAは、DPベクター中に含まれる標的DNAの少なくとも相同部分の重複を必ず含む。
【0082】
同様に、ポジティブ選択マーカー、第3、および第4のDNA配列を、相互且つ標的DNA配列の転写方向と比較して転写を逆にすることができる。しかし、これは、第3のDNA配列中のポジティブ選択マーカーが適切な調節配列によって独立して調節される場合のみである。例えば、無プロモーターポジティブ選択マーカーをその発現が内因性調節領域の調節下に置かれるように第3の配列として使用した場合、このようなベクターは、内因性調節領域の転写方向および配列を有する適切なアラインメント(5’→3’および適切なリーディングフレーム)で存在するようにポジティブ選択マーカーを位置付けることが必要である。
【0083】
DP選択は、第4のDNA配列が標的DNA配列での相同組換えを実質的に行うことができないことが必要である。
【0084】
本発明のさらに別の態様では、ベクターに含まれる別の選択マーカーが存在する。好ましくは、loxPおよびFRTの上記のリコンビナーゼの影響下にある部位特異的組換え配列にさらなるマーカーが隣接する。このようなDPベクター中に含まれる選択マーカーは、同一または異なる選択マーカーのいずれかであり得る。これらのマーカーが異なり、このようなマーカーを含む細胞を選択するために2つの異なる薬剤の使用が必要な場合は、このよう選択は、選択マーカーに適切な薬剤を使用して連続的にまたは同時に行うことができる。DPベクターの5’末端および3’末端での2つの選択マーカーの位置付けにより、ランダムに組み込まれたDPベクターを有する標的細胞の選択が増強される。これは、ランダム組み込みによりDPベクターが再整列されて、ランダム組み込み前に選択マーカーの全部または一部が切り出される場合があるためである。これが起こった場合、DPベクターをランダムに組み込んだ細胞を選択することができない。しかし、DPベクター上の第2の選択マーカーの存在により、ランダム組換えにより2つの選択マーカーのうちの少なくとも1つが挿入される可能性が実質的に増大する。
【0085】
好ましくは、本発明は、DP選択プロセス中にCreが非機能的である細胞を排除するために使用することができるloxP部位に隣接する別の選択マーカーを含む。このマーカーは、上記の任意のマーカー(好ましくは、単純ヘルペスチミジンキナーゼまたは蛍光タンパク質など)であり得る。しばらくすると誘導性Creが活性化され、ほとんどの細胞で相同組換えが起こる。これは、細胞型によって異なる。Creの誘導からしばらくして選択マーカーの選択が開始され、Creが有効に機能しない細胞を排除するように作用する。
【0086】
この態様のさらに好ましい実施形態では、マーカーの一方がプロモーターレスマーカー(promoter-less marker)であり、他方のマーカーがプロモーターの影響下にある少なくとも2つの選択マーカーを有するDPベクターを提供する。適切なプロモーターレスマーカーは、ハイグロマイシン耐性マーカー(Hyg
r)である。
【0087】
ランダムに組み込まれた事象全ての細胞が第1の選択マーカーに感受性を示すようになり、それにより第2ラウンドの選択で死滅するように100%またはほぼ100%の細胞がCreリコンビナーゼの発現に依存する系では、100%有効な細胞は存在し得ない。さもなければ、選択手順により、ランダム組み込みを保有するバックグラウンドが得られる。したがって、ランダム組み込みの発生を減少させるために、本発明でDPベクター形態(少なくとも2つのポジティブ選択マーカーを含むベクター)を提供する(図4)。
【0088】
このベクターは、別のLoxP部位およびプロモーターレス選択マーカー耐性遺伝子が第1の選択マーカー遺伝子の後に存在すること以外は上記のDPベクターと同一である。第1のマーカー遺伝子が、プロモーターとプロモーターレス遺伝子との間で「stuffer配列」として作用するので、プロモーターレスマーカー遺伝子は発現しない。このベクターを使用して、第1のマーカー耐性を選択する細胞をトランスフェクトする。標的化された事象後、アデノウイルス−Creを使用したCreリコンビナーゼの発現により、第1の選択マーカー遺伝子が欠失し、プロモーターレス遺伝子が発現し、細胞または異なる耐性が付与される。2つの外側LoxP部位が存在するランダムな組み込み事象では、Creリコンビナーゼ発現によりプロモーターまたはプロモーターレス遺伝子(あるいはそれらの両方)が欠失する。したがって、プロモーターレスの第2の選択を使用すると、標的化された事象に起因する細胞のみが生存する。LoxP組換えが行われずにプロモーターレス遺伝子が発現するので、Creリコンビナーゼの不十分な発現はここでは問題とならない。この改変は、標的化されていない細胞レベルが非常に低いより優れた遺伝子ターゲティングベクターを示す。
【0089】
DPベクターの第4の配列と標的DNAとの間の実質的な非相同性により、第4のDNA配列の連結点または連結点付近での配列相同性が不連続になる。したがって、細胞の相同組換え機構によってゲノムにベクターが組み込まれた場合、第4のDNA配列は、標的DNAに導入されない。これは、本発明のDP法の基礎を形成する相同組換えおよびリコンビナーゼの活性化の間の、この第4のDNA配列の非組み込みである。
【0090】
本明細書中で使用される、「改変DNA配列」は、ゲノムのターゲティング領域へのDPベクターの相同挿入後の標的DNA配列中の1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入、および/または欠失をコードする第1、第2、および/またはポジティブ選択マーカーDNA配列中に含まれるDNA配列である。DPベクターがポジティブ選択マーカーをコードするDNA配列の挿入のみを含む場合、DNA配列を「第1の改変DNA配列」という場合がある。選択マーカーをコードするDNA配列に加えて、DPベクターも1つまたは複数のヌクレオチドのさらなる置換、挿入、および/または欠失をコードする場合、このようなさらなる改変をコードする部分を、「第2の改変DNA配列」という場合がある。第2の改変DNA配列は第1および/または第2のDNA配列全体を含み得るか、いくつかの場合、第1および/または第2のDNA配列の全体未満を含み得る。後者の場合は、例えば、内因性調節配列の調節下に異種遺伝子が置かれるようにデザインされたDPベクターに、異種遺伝子が組み込まれる。このような場合、例えば、第1のDNA配列の相同部分は、ターゲティング内因性調節配列の全てまたは一部を含むことができ、改変DNA配列は異種DNA配列をコードする第1のDNA配列部分(およびいくつかの場合、同様に第2のDNA配列の一部)を含む。DPベクターのターゲティングを完了するために第2のDNA配列中の適切な相同部分を含む。他方では、第1および/または第2のDNA配列全体は、例えば、これらのDNA配列のいずれかまたは両方がターゲティングDNA配列中の遺伝的欠損の修正をコードする場合に、第2の改変DNA配列を含み得る。
【0091】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、トランスポゾン媒介法によって調製されたターゲティング構築物を含み、前記方法が、
前記標的DNA配列のコピーをインビトロで得るステップと、
トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含むDNA配列を標的DNA配列コピーの一方の部位に挿入するステップと、
トランスポゾン配列およびDNA組換え配列を含む別のDNA配列を標的DNA配列コピーの他方の部位に挿入するステップと、
前記組換え配列間で組換え事象を誘導して、前記標的DNA配列コピーの一部を欠失させるテップとを含む、DPベクターを提供する。
【0092】
組換えステップ後、ターゲティング構築物を回収し、DPベクターへの挿入を単離することが好ましい。クローニングベクターから構築物を単離する任意の方法によって回収することができる。制限消化物は、DPベクターへの挿入を促進する様式で構築物を切断することが望ましい。
【0093】
なおさらに好ましい実施形態では、ターゲティング構築物は、
標的DNA配列の第1の領域と相同組換えすることができる第1の相同ベクターDNA配列と、
前記細胞中で特徴的なポジティブ選択を付与することができるポジティブ選択マーカーDNA配列と、
部位特異的リコンビナーゼの存在下で高効率DNA組換えを補助し、前記ポジティブ選択マーカー中に含まれる第3の配列と、
前記標的DNA配列の第2の領域と相同組換えを行うことができる第2の相同ベクターDNA配列と、
前記第3の配列との部位特異的組換えを指示するが、前記標的DNA配列との相同組換えを実質的に行うことができない第4の配列とを含み、
前記ベクターが、前記第1の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第1の領域との相同組換えおよび前記第2の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第2の領域との相同組換えによって前記標的DNA配列を改変することができる。
【0094】
本明細書中で使用される、「改変された標的DNA配列」は、DPベクターによって改変されているターゲティング細胞ゲノム中のDNA配列をいう。改変されたDNA配列は、このような形質転換された標的細胞が由来する細胞と比較して第1の形質転換された標的細胞中の1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入、および/または欠失を含む。いくつかの場合、改変された標的DNA配列を、「第1の」および/または「第2の改変された標的DNA配列」をいう。これらは、第1または第2の改変配列を含むDPベクターが標的DNA配列に相同的に組み込まれた場合に形質転換された標的細胞で見出されるDNA配列に対応する。
【0095】
「第1の形質転換された標的細胞」という場合がある「形質転換された標的細胞」は、DPベクターが標的細胞ゲノムに相同的に組み込まれた標的細胞をいう。他方では、「形質転換された細胞」は、DPがゲノムに非相同的にランダムに挿入された細胞をいう。「形質転換された標的細胞」は、一般に、改変された標的DNA配列内にポジティブ選択マーカーを含む。ゲノム改変の目的が特定の遺伝子の発現を破壊することである場合、一般に、ターゲティング内因性遺伝子の転写および/または翻訳を有効に妨害するエクソン内にポジティブ選択マーカーを含んでいた。しかし、ゲノム改変の目的が外因性遺伝子を挿入して内因性遺伝子の欠失を修正することである場合、第1の形質転換された標的細胞中の改変された標的DNA配列は、正常な(すなわち、非欠損)内因性遺伝子中で見出される配列に対応する外因性DNA配列または内因性DNA配列をさらに含む。
【0096】
「第2の形質転換された標的細胞」は、その後ゲノムが所定の方法で改変される第1の形質転換された標的細胞をいう。例えば、第1の形質転換された標的細胞のゲノム中に含まれるポジティブ選択マーカーを、相同組換えによって切り出して、第2の形質転換された標的細胞を産生することができる。このような所定のゲノム操作の詳細を、以後により詳細に記載する。
【0097】
本明細書中で使用される、「異種DNA」は、標的DNA配列を含む配列と異なるDNA配列をいう。異種DNAは、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入、および/または欠失によって標的DNAと異なる。したがって、内因性遺伝子配列を、同一生物のゲノムの異なる調節領域へのその挿入をターゲティングするためにDPベクターに組み込むことができる。このようにして得た改変DNA配列は、異種DNA配列である。異種DNA配列はまた、遺伝子欠損を修正または移入するか内因性遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を変化させるように改変された内因性配列を含む。さらに、異種DNA配列は、内因性配列(例えば、異なる種由来の配列)に関連しない外因性DNA配列を含む。このような「外因性DNA配列」は、外因性ポリペプチドまたは外因性調節配列をコードする配列を含む。例えば、(例えば、哺乳動物分泌細胞中の)組織特異的発現のためのマウスまたはウシES細胞に移入することができる外因性DNA配列には、t−PA、第VIII因子、および血清アルブミンなどのヒト血液因子が含まれる。ポジティブ選択マーカーをコードするDNA配列は、異種DNA配列のさらなる例である。
【0098】
本発明のさらに別の態様では、細胞ゲノム中の標的DNA配列が改変された形質転換された細胞を富化する方法であって、
(a)DP選択ベクターで相同組換えを媒介することができる細胞をトランスフェクトするステップであって、前記ベクターが、
前記標的DNA配列の第1の領域と相同組換えすることができる第1の相同ベクターDNA配列と、
前記細胞中で特徴的なポジティブ選択を付与することができるポジティブ選択マーカーDNA配列と、
部位特異的リコンビナーゼの存在下でDNA組換えを補助し、前記ポジティブ選択マーカー中に含まれる第3の配列と、
前記標的DNA配列の第2の領域と相同組換えを行うことができる第2の相同ベクターDNA配列と、
前記第3の配列との部位特異的組換えを指示するが、前記標的DNA配列との相同組換えを実質的に行うことができない第4の配列とを含み、
前記DPベクター中の前記配列の空間的順序は、前記第1の相同ベクターDNA配列、前記第3の配列を含む前記ポジティブ選択マーカーDNA配列、前記第2の相同ベクターDNA配列および前記第4の配列であり、
前記ベクターが、前記第1の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第1の領域との相同組換えおよび前記第2の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第2の領域との相同組換えによって前記標的DNA配列を改変することができるステップと、
(b)リコンビナーゼの存在下でポジティブ選択マーカーを含む形質転換された細胞の連続的または同時選択による相同組換えによって、前記DP選択ベクターが前記標的DNA配列に組み込まれた形質転換された細胞を選択するステップと、
(c)前記選択ステップで生存した形質転換された細胞のDNAを分析して改変された細胞を識別するステップとを含む方法を提供する。
【0099】
所望の相同組換え事象の選択は、標的化された事象とランダム事象との区別に基づく。標的化された事象では、標的DNA配列ならびに第1のDNA配列および第2のDNA配列と組換えられて、ベクターのいずれかの末端でloxP部位またはFRT部位が排除される。したがって、Cre(またはFLPなどの別のリコンビナーゼ)の存在下で、組換え事象が起こらず、ポジティブ選択マーカーは、インタクト且つ機能的なままである。したがって、マーカーDNAを発現する細胞のポジティブ選択の維持により細胞が生存する。
【0100】
あるいは、ランダムな事象では、ベクターの1つまたは両方の末端は、(一般に)インタクトなままであり、2つまたは3つの機能的loxP部位またはFRTが細胞ゲノムに組み込まれる。細胞内での誘導性Cre(またはFLPなどの別のリコンビナーゼ)の活性化により、ポジティブ選択マーカーが非機能的になる。したがって、ポジティブ選択条件下での細胞の維持により、選択プロセスからこのような細胞が死滅または排除される。
【0101】
いくつかの環境下で、組換え事象が有効でなく、非相同組換え事象に対する排除率が比較的効率的ではない割合となる。これらの場合、プライマー配列は、PCR反応によって検出される比較的稀な事象の検出が可能なように機能する。したがって、DP選択プロセスの終了時に、Cre下で細胞が維持されつづけて、プライマー配列および第1のDNA配列および第2のDNA配列に特異的なプライマーを使用したPCR反応によって検出可能な、継続しているが頻繁でない組換え率が得られる。
【0102】
DP法でDPベクターを使用して、ポジティブ選択マーカーを含む形質転換された標的細胞を選択する。このようなポジティブ選択手順により、相同組換えが起こった形質転換された標的細胞が実質的に富化する。本明細書中で使用される、「実質的富化」は、非相同な形質転換体に対する相同な形質転換体の比率と比較して少なくとも2倍の形質転換された標的細胞の富化、好ましくは、10倍の富化、より好ましくは1000倍の富化、最も好ましくは10,000倍の富化(すなわち、形質転換された細胞に対する形質転換された標的細胞の比)をいう。いくつかの場合、ランダム組み込みに対する相同組換えの頻度は、1000個、いくつかの場合10,000個の形質転換された細胞のうちの1つである。DPベクターおよび本発明の方法によって得られた実質的な富化により、約1%、より好ましくは約20%、最も好ましくは約95%の得られた細胞集団が、DPベクターが相同的に組み込まれた形質転換された標的細胞を含む細胞集団がしばしば得られる。このような実質的に富化された形質転換された標的細胞集団を、その後の遺伝子操作、細胞培養実験、またはトランスジェニック動物もしくは植物などのトランスジェニック生物の産生に使用することができる。
【0103】
好ましい実施形態では、DP選択ベクターは、本明細書中に記載のトランスポゾン媒介法によって調製されたターゲティング構築物を含む。
【0104】
本発明のさらに別の態様では、本明細書中に記載の方法によって調製された形質転換された細胞を提供する。
【0105】
細胞は、DPベクターを受けることができ、且つ標的DNAで改変された任意の原核細胞または真核細胞であり得る。
【0106】
本発明のなおさらなる態様では、相同組換えを媒介することができる細胞をDP選択ベクターでトランスフェクトするステップと、前記ベクターが、
前記標的DNA配列の第1の領域と相同組換えすることができる第1の相同ベクターDNA配列と、
前記細胞中で特徴的なポジティブ選択を付与することができるポジティブ選択マーカーDNA配列と、
部位特異的リコンビナーゼの存在下でDNA組換えを補助し、前記ポジティブ選択マーカー中に含まれる第3の配列と、
前記標的DNA配列の第2の領域と相同組換えを行うことができる第2の相同ベクターDNA配列と、
前記第3の配列との部位特異的組換えを指示するが、前記標的DNA配列との相同組換えを実質的に行うことができない第4の配列とを含み、
前記DPベクター中の前記配列の空間的順序は、前記第1の相同ベクターDNA配列、前記第3の配列を含む前記ポジティブ選択マーカーDNA配列、前記第2の相同ベクターDNA配列および前記第4の配列であり、
前記ベクターが、前記第1の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第1の領域との相同組換えおよび前記第2の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第2の領域との相同組換えによって前記標的DNA配列を改変することができることとを含む、細胞ゲノムの改変を誘導する方法を提供する。
【0107】
好ましい実施形態では、DP選択ベクターは、本明細書中に記載のトランスポゾン媒介法によって調製されたターゲティング構築物を含む。
【0108】
改変は、遺伝子の欠失または遺伝子配列の置換を含んでもよい。改変は、標的DNA配列の所定の改変であってもよい。
【0109】
多くの場合、破壊または改変されるべき遺伝子のエクソン中のポジティブ選択マーカーの位置付けによって遺伝子を破壊することが望ましい。例えば、特定の原癌遺伝子を、この方法によって改変してトランスジェニック動物を産生することができる。選択的に不活化された原癌遺伝子を含むこのようなトランスジェニック動物は、このような遺伝子の腫瘍形成およびいくつかの場合は正常な発達への遺伝的寄与の分析に有用である。
【0110】
遺伝子不活化の別の潜在的使用は、細胞表面上のタンパク性受容体の破壊である。例えば、推定ウイルス受容体発現を適切なDPベクターを使用して破壊した細胞株および生物を、ウイルスを使用してアッセイして、実際に受容体がウイルス感染に関与することを確認することができる。さらに、適切なDPベクターを使用して、特定の遺伝子欠失についてのトランスジェニック動物モデルを産生することができる。例えば、多数の遺伝子欠損は、特定の遺伝子の機能的遺伝子産物を発現することができないこと(例えば、αおよびβサラセミア、血友病、ゴーシェ病)およびα−1−抗トリプシン、ADA、PNP、フェニルケトン尿症、家族性高コレステロール血症、および網膜芽細胞種の発症に影響を与える欠損によって特徴付けられている。このような病態に関連する対立遺伝子の一方または両方が破壊されているか特定の遺伝子欠損をコードする改変を含むトランスジェニック動物を、治療モデルとして使用することができる。出生時に生存可能な動物について、実験的治療を提供することができる。しかし、遺伝子欠損が生存に影響を与える場合、トランスジェニック動物の適切な世代(例えば、F0、F1)を使用して、遺伝子治療のためのインビボ技術を研究することができる。
【0111】
相同組み込みによる遺伝子Xの破壊のための上記手段の改変形態は、発現に必要な1つまたは複数の調節配列が欠損したポジティブ選択マーカーの使用を含む。ポジティブ選択マーカーをコードする構造遺伝子セグメントから5’側に遺伝子Xの一部であるが全部ではない調節配列(例えば、X遺伝子のプロモーターの一部をコードする相同配列)がDPベクターに含まれるようにDPベクターを構築する。この構築の結果として、遺伝子Xのプロモーター領域に相同に組み込まれたような時間までに、ポジティブ選択マーカーは標的細胞で機能的ではない。このように組み込まれた場合、遺伝子Xは破壊され、このような細胞を標的遺伝子プロモーターの調節下で発現するポジティブ選択マーカーによって選択することができる。このようなアプローチの使用における唯一の制限は、ターゲティング遺伝子が使用した細胞型で活発に発現する必要があることである。そうでなければ、細胞に対して特徴的なポジティブ選択を付与するようにポジティブ選択マーカーは発現されない。
【0112】
多数の例では、例えば、いくつかの遺伝子治療への適用のために内因性遺伝子の破壊は望ましくない。このような状況では、DPベクターのポジティブ選択マーカーを、非翻訳配列(例えば、標的DNAのイントロンまたは5’もしくは3’非翻訳領域)内に位置付けることができる。ポジティブ選択マーカーを、第1の配列と第2の配列との間に位置付ける。第4のDNA配列を、相同領域の外側に位置付ける。DPベクターが相同組換えによって標的DNAに組み込まれる場合、ポジティブ選択マーカーは、ターゲティング遺伝子のイントロンに存在する。ターゲティング遺伝子と独立して発現および翻訳することができるように、選択マーカー配列を構築する。したがって、独立した機能プロモーター、翻訳開始配列、翻訳終止配列、およびいくつかの場合、DPベクターでトランスフェクトした細胞型でそれぞれ機能的なポリアデニル化配列および/または1つまたは複数のエンハンサー配列を含む。この様式では、相同組換えによってDPベクターを組み込んだ細胞を、内因性遺伝子を破壊することなくポジティブ選択マーカーによって選択することができる。勿論、同一の調節配列を使用して、エクソン内に位置付けた場合にポジティブ選択マーカーの発現を調節することができる。勿論、当業者に公知の他の調節配列を使用することができる。それぞれの場合、調節配列が適切に整列され、必要に応じて、発現すべき特定のDNA配列を有する適切な読み取り枠に位置付ける。異なる起源由来の調節配列(例えば、エンハンサーおよびプロモーター)を、調整された遺伝子発現を得るために組み合わせることができる。
【0113】
勿論、本発明のDPベクターおよび方法によって得ることができる細胞ゲノム中の標的DNA配列の多数の他の改変例が存在する。例えば、原癌遺伝子の発現を調節する内因性調節配列を、生物の特異的細胞型中の特定の遺伝子を積極的に発現するプロモーターおよび/またはエンハンサーなどの調節配列(すなわち、組織特異的調節配列)と置換することができる。この様式では、特定の細胞型(例えば、トランスジェニック動物)における原癌遺伝子の発現を、原癌遺伝子が正常に発現しない細胞型における原癌遺伝子発現の効果が決定されるように調節することができる。あるいは、ウイルス癌遺伝子の組織特異的発現を引き起こすために、公知のウイルス癌遺伝子を標的ゲノムの特異的部位に挿入することができる。
【0114】
示すように、本発明のDP選択法およびベクターを使用して、相同組換えを行うことができる標的細胞ゲノム中の標的DNA配列を改変する。したがって、相同組換えを行うことができる任意の細胞型を使用して本発明を実施することができる。このような標的細胞の例には、ヒト、ウシ種、ヒツジ種、マウス種、サル種などの哺乳動物を含む脊椎動物および糸状菌などの他の真核生物、ならびに植物などの高等多細胞生物由来の細胞が含まれる。相同組換えを行うことができるグラム陽性およびグラム陰性細菌などの下等生物を使用して本発明を実施することもできる。しかし、一般に有意な非相同組換え(すなわち、ランダム組換え)が証明されていないので、このような下等生物は好ましくない。したがって、非相同形質転換体を選択する必要はほとんどないか全くない。
【0115】
最終目的が非ヒトトランスジェニック動物の産生である場合、胚幹細胞(ES細胞)および神経幹細胞は好ましい標的細胞である。ES細胞を、インビトロで培養した前移植胚から得ることができる。DPベクターを、エレクトロポレーションもしくは微量注入または他の形質転換法(好ましくはエレクトロポレーション)によってES細胞に有効に移入することができる。その後に、このような形質転換ES細胞を、非ヒト動物の胚盤胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞は、胚にコロニー化し、キメラ動物が得られる生殖細胞系に寄与することができる。本発明では、DPベクターを、ES細胞ゲノムの特定の部分にターゲティングし、その後これを使用して標準的な技術によってキメラトランスジェニック動物を作製することができる。
【0116】
最終目的がヒトなどの生物の遺伝子欠損を修正するための遺伝子治療である場合、特定の疾患の原因およびどのようにして発症するかによって細胞型を決定する。例えば、造血幹細胞は、このような幹細胞から分化する細胞型(例えば、赤血球および白血球)における遺伝子欠損の修正に好ましい細胞である。したがって、鎌状赤血球貧血およびβサラセミアなどの赤血球のグロビン鎖合成における遺伝子欠損を、罹患患者から単離した造血幹細胞と共に本発明のDPベクターおよび方法の使用によって修正することができる。例えば、標的DNAが造血幹細胞中に含まれる鎌状細胞β−グロビン遺伝子であり、DPベクターをこの遺伝子にターゲティングする場合、分化時に正常なβ−グロビンが発現する形質転換された造血幹細胞を得ることができる。欠損の修正後、造血幹細胞を患者の骨髄または全身循環に戻して正常なヘモグロビンを含む赤血球の亜集団を形成することができる。あるいは、照射および/または化学療法ならびにその後の改変された造血幹細胞の再移入およびそれによる欠失の調整によって患者の造血幹細胞を破壊することができる。
【0117】
幹細胞の他の型を使用して、このような幹細胞由来の細胞に関連する特定の遺伝子欠損を修正することができる。このような他の幹細胞には、上皮細胞、肝細胞、肺細胞、筋細胞、内皮細胞、間葉細胞、神経細胞、および骨幹細胞が含まれる。
【0118】
あるいは、遺伝子欠損自体は修正されず、欠損遺伝子の遺伝子産物が補足される方法での細胞ゲノムの改変によって、一定の病態を治療することができる。例えば、通常全身循環中に存在する因子に影響を与える障害を治療するためのヒト遺伝子治療のための標的として内皮細胞が好ましい。モデル研究では、イヌおよびブタの内皮細胞の使用により、初代培養物が形成され、培養においてDNAで形質転換可能であり、宿主生物への動脈移植片の再移植の際に導入遺伝子を発現することができることが示された。内皮細胞が移植片の不可分の一部を形成するので、このような形質転換された細胞を使用して、循環系で分泌されるべきタンパク質を産生し、それにより循環因子に影響を与える遺伝病の治療における治療薬として使用することができる。このような疾患の例には、インスリン欠乏性糖尿病、α−1−抗トリプシン欠乏症、および血友病が含まれる。上皮細胞により、第VIII因子欠乏血友病治療で特定の利点が得られる。これらの細胞は、フォン・ウィレブランド因子(vWF)を天然に産生し、活性第VIII因子の産生がvWFの自立的合成に依存することが示された。
【0119】
免疫および/または循環系の他の疾患は、ヒト遺伝子治療の候補である。標的組織(骨髄)は現代技術によって容易に利用しやすく、インビトロでの幹細胞の培養において有利である。酵素アデノシンデアミナーゼ(ADA)およびプリンヌクレオチドホスホリラーゼ(PNP)の変異に起因する免疫不全症は特に興味深い。遺伝子がクローン化されるだけでなく、DP遺伝子治療によって修正された細胞は変異対応物よりも選択的利点を有するようである。したがって、レシピエント患者における骨髄の除去は必要ない。
【0120】
DP選択アプローチは、以下の特徴を有する遺伝病に適用可能である。第1にDNA配列および好ましくはクローン化した正常遺伝子を利用可能なはずであること。第2に、適切な組織関連幹細胞または他の適切な細胞を利用可能なはずであること。
【0121】
示すように、欠損の修正のための隣接セグメントと共に遺伝子欠損部位付近のイントロンなどの非翻訳領域におけるポジティブ選択マーカーの位置付けによって特定の細胞株における遺伝子欠損を修正することができる。このアプローチでは、ポジティブ選択マーカーはそれ自体の調節下に置かれており、ターゲティング遺伝子の発現を実質的に妨害することなくマーカー自体を発現することができる。ヒト遺伝子治療では、特定の遺伝子欠損の修正に必要なDNA配列のみを移入することが望ましい。これに関して、相同組換えによる遺伝子欠損の修正後に残存するポジティブ選択マーカーを除去することが望ましいが、必ずしも必要ではない。
【0122】
本発明のDPベクターおよび方法を、植物細胞および最終的には植物全体のゲノムの操作に提供することもできる。広範な種々のトランスジェニック植物が報告されており、草本性双子葉植物、木本性双子葉植物、および単子葉植物が含まれる。このようなトランスジェニック植物および形質転換植物細胞を産生するための多数の異なる遺伝子導入技術が開発されている。1つの技術は、遺伝子導入系としてアグロバクテリウム・ツメファシエンスを使用した(Rogersら、1986、Methods  Enzymol.,118、627〜640)。密接に関連する形質転換は、細菌Agrobacterium  rhizogenesを使用する。これらの各系では、植物ゲノムに挿入されるDNA配列を定義するより広い領域を含むTiまたはRi植物形質転換ベクターを構築することができる。以前にこれらの系を使用して、植物ゲノムに外因性DNAをランダムに組み込まれている。本発明では、適切なDPベクターを、Agrobacterium形質転換ベクターによって植物細胞に導入されたDNA配列を定義するより広い配列の間に植物形質転換ベクターを挿入することができる。
【0123】
好ましくは、本発明のDPベクターを、プロトプラストへの導入遺伝子の移入に以前に使用されている方法と類似の方法によって植物プロトプラストに直接導入する。あるいは、DPベクターは、植物プロトプラストと融合することができるか核内微量注入によって植物プロトプラストに直接挿入されるリポソーム内に含まれる。微量注入は、好ましいプロトプラストトランスフェクション法である。DPベクターを、分裂花房に微量注入することができる。最後に、導入遺伝子の挿入で使用された方法と類似のDPベクターでコートされた高速微粒子によって、組織移植片をトランスフェクトすることができる。このような形質転換移植片を使用して、例えば、種々の作物を連続的に再生することができる。
【0124】
上記の任意の方法によって一旦DPベクターが植物細胞に挿入されると、相同組換えによりDPベクターが植物ゲノム中の適切な部位にターゲティングされる。トランスフェクションに使用した方法に依存して、形質転換プロトプラストまたは植物細胞の組織培養物に対してポジティブ−ネガティブ選択を行う。いくつかの場合、組織培養に影響を受ける細胞を、F
0またはその後の世代のいずれか由来の形質転換植物から切り出すことができる。
【0125】
本発明のDPベクターおよび方法を使用して、所定の方法で植物ゲノムを正確に改変する。したがって、例えば、除草剤、殺虫剤、および耐病性を、例えば、組織特異的耐性(例えば、葉および樹皮における昆虫耐性)を得るために特定の植物種に予想通りに操作することができる。あるいは、植物内の種々の成分の発現レベルを、種子中の脂肪酸および/または油含有量、植物内のデンプン含有量、および食品中の望ましくない風味に寄与する成分の消滅を変化させるための適切な調節因子の置換によって改変することができる。あるいは、異種遺伝子を植物の所定の調節下で植物に移入して、ゴムの製造で使用されるワックスおよび炭化水素を含む種々の炭水化物を産生することができる。
【0126】
例えば、リジンおよびトリプトファンが欠損していることが公知のコムギおよびトウモロコシ中の種々の貯蔵タンパク質のアミノ酸組成を改変することもできる。DPベクターを、リジンおよび/またはトリプトファンをコードするためのこのような貯蔵タンパク質内の特定のコドンを変化させ、それによりこの作物の栄養価を増大させるように容易にデザインすることができる。
【0127】
種々の細胞および生物における特定のタンパク質発現を調節する種々のポジティブおよびネガティブ調節因子の発現レベルを改変することも可能である。したがって、このようなネガティブ調節因子の調節下で特定のタンパク質発現を増大するための適切なプロモーターの使用によって、ネガティブ調節因子の発現レベルを減少させることができる。あるいは、ポジティブ調節タンパク質の発現レベルを、調節されたタンパク質の発現を増大するために増加させるか、細胞または生物中の調節されたタンパク質量を減少させるために減少させることができる。
【0128】
本発明のDPベクターの基本エレメントは既に記載している。しかし、DPベクターを含む各DNA配列の選択は、使用した細胞型、改変すべき標的DNA配列、および所望の改変型に依存する。
【0129】
好ましくは、DPベクターは、線状二本鎖DNA配列である。しかし、環状の閉じたDPベクターを使用することもできる。標的DNA配列への相同組み込み頻度が増大するので、線状ベクターが好ましい(Thomasら、1986、Cell、44、49)。
【0130】
一般に、DPベクターは、全長が2.5kb(2500塩基対)と100kbとの間である。サイズの下限は、2つの基準によって設定される。これらのうちの第1の基準は、DPベクターおよび標的遺伝子座の第1の配列と第2の配列の間の相同性に必要な最小の長さである。この最小の長さは、約500bp(DNA配列1+DNA配列2)である。第2の基準は、第3の機能遺伝子の必要性である。最後に、ターゲティング組換え部位にさらなる短い部位が必要である(例えば、LoxP部位は34bp長である)。実用的な理由のために、この下限は、各配列で約1000bpである。これは、公知のポジティブおよびネガティブ選択マーカーをコードする最も小さなDNA配列が約1.0〜1.5kb長であるからである。
【0131】
DPベクターの長さの上限を、DNAフラグメントの操作に使用される技術の状態によって決定される。細菌プラスミドとしてこれらのフラグメントを増殖させる場合、実用的な長さの上限は約25kbであり、コスミドとして増幅させる場合、上限は約50kbであり、YAC(酵母人工染色体)として増殖させる場合、上限は約2000kbである(例えば、CEPH  B  YACはこのサイズであり得る)。
【0132】
DPベクターの第1のDNA配列および第2のDNA配列は、標的DNA配列の第1の領域および第2の領域中に含まれる配列部分に実質的に相同なDNA配列の一部である。ベクターと標的配列との間の相同性の程度は、2配列間の相同組合え頻度に影響を与える。100%配列相同相同性が最も好ましいが、より低い配列相同性を使用して、本発明を実施することができる。したがって、約80%の低さの配列相同性を使用することができる。配列相同性の実用的な下限を、さらなる減少によってゲノムへのDPベクターの相同組み込みが媒介されない場合の相同性として機能的に定義することができる。わずか25bpの100%相同性が哺乳動物における相同組換えに必要であるにもかかわらず(Ayaresら、1986、Genetics、83、5199〜5203)、より長い領域が好ましい(例えば、各相同部分について500bp、より好ましくは5000bp、および最も好ましくは25000bp)。これらの数は、第1および第2の配列のそれぞれの長さの限度を定義する。好ましくは、非相同性の増大が遺伝子ターゲティングの頻度の減少が対応するので、DPベクターの相同部分は標的DNA配列と100%相同である。DPベクターの相同部分と標的DNAの適切な領域の間に相同性が存在しない場合、非相同性は相同部分全体に拡大しないが、相同部分の個別の領域に拡大することが好ましい。第4の配列に隣接するDPベクターの相同部分は標的DNA中の対応領域と100%相同であることも好ましい。これは、DPベクター中の相同配列と非相同配列との間の最大不連続を確保することである。
【0133】
第1のDNA配列および第2のDNA配列の相同部分の組み合わせ中のDNA配列の絶対量が増加する場合、相同組換え頻度の増大が認められた。
【0134】
前述のように、第4のDNAは、第4のDNA配列と標的DNAとの間の相同組換えの防止に十分な標的DNA配列に対する非相同性を有するはずである。選択したネガティブ選択マーカーが標的DNA配列に対する任意の実質的相同性を有する可能性が低いので、一般にこれは問題ではない。任意の事象では、第4のDNA配列と標的DNA配列との間の配列相同性は、約50%未満、最も好ましくは約30%未満のはずである。
【0135】
第4のDNA配列と標的DNA配列との間の十分な配列非相同性についての予備アッセイは、標準的なハイブリッド形成技術を使用する。例えば、特定のネガティブ選択マーカーを、放射性同位体または他の検出可能なマーカーで適切に標識し、標的細胞のゲノムDNAのサザンブロット分析におけるプローブとして使用することができる。約55℃でハイブリッド形成した場合の3×SSCなどの中程度のストリンジェンシー条件下でシグナルがほとんど検出されないか全く検出されない場合、第4の配列は、この細胞型での相同組換えのためにデザインしたDPベクターで機能的なはずである。しかし、シグナルが検出されたとしても、特定の第4の配列をこのゲノムをターゲティングするDPベクターで使用することができないことを必ず示す必要はない。これは、配列が標的DNA配列と隣接していないゲノム領域とハイブリッド形成することができるためである。
【0136】
高ストリンジェンシーハイブリッド形成を使用して、ある種由来の遺伝子を異なる種における関連遺伝子にターゲティングすることができるかどうかを確認することも可能である。例えば、予備的な遺伝子治療実験は、ヒトゲノム配列をマウス細胞中の対応する関連ゲノム配列に置換することが必要であり得る。約68℃での0.1×SSCなどの高ストリンジェンシーハイブリッド形成条件を使用して、このような条件下でのハイブリッド形成シグナルをこのような配列のDPベクターの第1のDNA配列および第2のDNA配列中の相同部分として作用する能力と相関させることができる。このような実験を、公知の相同性が異なる種々のゲノム配列を使用して日常的に行うことができる。したがって、ハイブリッド形成の基準を、このような配列が組換え頻度を許容可能にする能力と相関させることができる。
【0137】
別の態様では、標的DNA配列が改変されたゲノムを有するトランスジェニック植物または動物を産生する方法であって、前記方法が、
胚幹細胞集団をDPベクターで形質転換するステップと、
前記DPベクターを含む細胞の選択および改変の存在について選択を生き抜いた細胞由来のDNAの分析によってゲノムを有する細胞を識別するステップと、
細胞を胚に挿入するステップと、
前記胚から植物または動物を増殖させるステップと、
前記DPベクターが、
前記標的DNA配列の第1の領域と相同組換えすることができる第1の相同ベクターDNA配列と、
前記細胞中で特徴的なポジティブ選択を付与することができるポジティブ選択マーカーDNA配列と、
部位特異的リコンビナーゼの存在下でDNA組換えを補助し、前記ポジティブ選択マーカー中に含まれる第3の配列と、
前記標的DNA配列の第2の領域と相同組換えを行うことができる第2の相同ベクターDNA配列と、
前記第3の配列との部位特異的組換えを指示するが、前記標的DNA配列との相同組換えを実質的に行うことができない第4の配列とを含み、
前記DPベクター中の前記配列の空間的順序は、前記第1の相同ベクターDNA配列、前記第3の配列を含む前記ポジティブ選択マーカーDNA配列、前記第2の相同ベクターDNA配列および前記第4の配列であり、
前記ベクターが、前記第1の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第1の領域との相同組換えおよび前記第2の相同ベクターDNA配列の前記標的配列の前記第2の領域との相同組換えによって前記標的DNA配列を改変することができる方法を提供する。
【0138】
好ましくは、DPベクターは、本明細書中に記載のトランスポゾン媒介法によって調製されたターゲティング構築物を含む。
【0139】
胚幹細胞は、任意の動物または植物に由来し、当業者に利用可能な任意の方法によって単離および調製することができる。
【0140】
DPベクターは、上記のものが好ましい。
【0141】
本発明のなおさらなる態様では、本明細書中に記載の方法によって調製されたトランスジェニック動物または植物を提供する。
【0142】
添付の実施例および図面を参照して本発明をより完全に記載する。しかし、以下の記載は、例示のみを目的とし、記載の本発明の一般性を制限すると決して解釈されないと理解すべきである。
【実施例1】
【0143】
[欠失を作製するためのトランスポゾン媒介手順の開発]
クローン化遺伝子中の欠失の作製のために、以前に開発された手順を使用して2つのミニMuトランスポゾンを構築することができる(Haapaら、1999,Nucleic  Acid  Res.,27,2777〜2784)。適切なトランスポゾンの構築および欠失作製のためのその使用を、図1に示す。ここでは、例示のみを目的としてβ−geoマーカーを使用し、他のマーカーも等しく適切である。ミニMuトランスポゾンの使用も例示するが、他のトランスポゾンも等しく有用であり得る。
【0144】
ミニMuトランスポゾン1を、以下のように構築することができる。原核生物/真核生物二重プロモーター(P/P)は、5’末端にトランスポゾン末端および3’末端にLoxP配列が組み込まれたpEGFP−N1などのClontechベクターから増幅させることができる。クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cam
r)を、3’末端にトランスポゾン末端が組み込まれたpACYC184などのベクターから増幅させることができる。前者のPCR産物の5’側に後者をライゲーションすることができ、pUC19のポリリンカーにクローン化した構築物を含む。このトランスポゾンでは、細菌プロモーターは、Cam
r遺伝子の発現を駆動する。
【0145】
ミニMuトランスポゾン2を、以下のように構築することができる。テトラサイクリン耐性遺伝子(Tet
r)を、5’末端にトランスポゾン末端および3’末端にLoxP配列を組み込んだpBR322などのプラスミドから増幅することができる。プロモーターレスβ−geo遺伝子を、3’末端にトランスポゾン末端を組み込んだpβAclβgeoなどのベクターから増幅することができる。前のPCR産物の5’に後者をライゲーションすることができ、pUC19のポリリンカーにクローン化した構築物を含む。このトランスポゾンでは、Tet
r遺伝子を大腸菌で発現することができるが、β−geo遺伝子はこの形態で発現されない。
【0146】
この技術の一般的適用図を、図2に示す。標的遺伝子を、pNEB193にクローン化し、2つのトランスポゾンを、所望の位置で正しい方向に挿入することができる。ミニMuトランスポゾン1を、インビトロ転位によってクローン化遺伝子に挿入し、転位混合物を大腸菌細胞に形質転換し、Cam
rについて選択することができる。トランスポゾン挿入を、物理的にマッピングし、第1の所望の欠失点でのトランスポゾン挿入を選択することができる(これは、図1に示す方向であることが必要である)。次いで、ミニMuトランスポゾン2をクローンに挿入し、大腸菌中のTet
rについて選択することができる。トランスポゾン挿入をマッピングし、第2の所望の欠失点でのトランスポゾン挿入を選択することができる(これは、図1に示す方向であることが必要である)。
【0147】
選択されたクローンを、creリコンビナーゼを発現する大腸菌EAK133株に形質転換することができる。これにより、2つのLoxP部位の間に、Cam
r遺伝子およびTet
r遺伝子ならびに2つのトランスポゾン間の標的動物遺伝子の一部が消滅した欠失が作製される。ミニMuトランスポゾン1上のプロモーターがβ−geo遺伝子の発現を駆動するので、これらの細胞をKan
rおよびX−Galの存在下での青色によって選択することができる。Cam
rおよびTet
rの喪失ならびに制限消化またはPCRによって欠失事象を確認することができる。
【0148】
遺伝子構築物をベクターから切り出し、実施例2のようにDPベクターの2つのポリリンカー間にクローン化し、neo
rカセットを置換することができる。DPベクター上の切断物に適合するので、pNEB193の8bp切断物(cutter)をこの目的のために使用することができる。このクローニングステップを、ベクター間の遺伝子インサートを移動させるためのλバクテリオファージの組換え部位(att)の適用によって容易にすることができ、この組換えはクロナーゼ酵素混合物によって触媒される。このベクター変換系を使用して、pNEB193を、標的動物遺伝子をクローン化するためのドナーベクターに変化させることができる。同様に、DPベクターを、ドナーベクターの欠失作製後の遺伝子のサブクローニングのための目的(destination)ベクターに変換することができる。
【0149】
インビトロトランスポゾン系を最初に使用することができるが、細菌の交雑によって転位が行われるインビボ系も開発することができる。このような系は、以下の成分が必要である。1)ベクター上のプラスミド導入起点(oriT)、2)oriTを含むプラスミドの抱合的(conjugational)導入を駆動するためのミニトランスポゾン、トランスポザーゼ、および導入機能を提供する大腸菌株。標的遺伝子を含むベクターを、レシピエント株と交雑することができるこの株に最初に形質転換し、トランスポゾンによって保有される抗生物質耐性マーカーを選択することができる。Tn5挿入によって細菌遺伝子を変異誘発するためにこのような系を開発した(Zhangら、1993、FEMS  Microbiol.,Lett.,108、303〜310)。2つの改変によってこれを本発明の目的に適合することができる。第1に、トランスで作用する変異トランスポザーゼを作製する必要がない。第2に、転位免疫現象を排除するために2つの異なるトランスポゾンが必要であり得る。
【実施例2】
【0150】
[DPベクター系を使用した改変]
記載の様式および組み合わせで適用した場合に当業者に利用可能な任意の方法によって、一般的なDPノックアウトベクターの構築方法を実施することができる。同様に、この誘導リコンビナーゼが安定に発現する細胞株の同時作製を使用した誘導性Cre(またはFLP)系の構築を当業者は利用することができる(この手順の詳細な説明は、一般に、Bujardによってhttp://www.zmbh.uni−heidelberg.de/Bujard/Homepage.htmlで提供されている)。
【0151】
所望の相同組換え事象の選択は、標的化された事象とランダム事象との間の区別に基づく。標的化された事象では、標的DNA配列およびDNA配列1および2を使用して組換えが起こり(図3A:NB、三角はloxP部位を示す)、ベクターのいずれかの末端でloxP部位が排除される。したがって、マーカーDNAを発現する細胞のポジティブ選択の維持により、細胞が生き残る。リコンビナーゼ(Cre)の誘導およびそれによる第2のポジティブ選択事象は、標的化された事象に影響を与えない。あるいは、ランダム事象では(図3B)、ベクターの1つまたは両方の末端は、(一般に)インタクトなままであり、2つまたは3つの機能的loxPが細胞ゲノムに組み込まれる。細胞内の誘導性リコンビナーゼ(Cre)の活性化により、非機能的マーカーが得られ(この場合、プロモーターは欠失されている)、それによりポジティブ選択条件で維持された細胞が死滅するか、選択プロセスから排除される。
【0152】
いくつかの環境では、組換え事象が不十分であり、非相同組換え事象における排除率が比較的低くなる。プライマー配列は、これらの場合、PCR反応で検出可能な比較的稀な事象の検出が可能なように機能する。したがって、DP選択プロセスの終了時に、細胞は、Cre下で維持され続けて、継続的であるが不定期の組換え発生率が得られ、これを、図3AのloxP部位の外側の極端に(exreme)左および右の領域中のプライマー配列ならびに第1または第2のDNA配列に特異的なプライマーを使用したPCR反応によって検出することができる。
【実施例3】
【0153】
[DPベクターの構築および標的遺伝子の挿入]
ダブルポジティブ選択(DP)を、図3に示す。通常、ベクター全体が非相同挿入(ランダム組み込み)で染色体に組み込まれるとという事実は、このDPベクターの基礎を形成する。ここでは、例示のみを目的としてneo
rマーカーを使用するが、β−geo、ハイグロマイシン耐性、ゼオマイシン耐性、HPRT遺伝子、およびGFPを含む他のマーカーも等しく適切である。また、FLP/FRTなどの他の組換え系を使用して、Cre/LoxPと置換することができる。
【0154】
標的遺伝子を含む最終構築物は、以下の順序で含まれ得る。プライマー結合配列−LoxP部位−標的遺伝子の短腕−neo
r遺伝子を駆動するためのプロモーター−別のLoxP部位−neo
r遺伝子−標的遺伝子の長腕−第3のLoxP部位−別のプライマー結合部位(図3D)。このベクターでは、LoxPコピーによってneo
r遺伝子をそのプロモーターから分離することができる。LoxPコピーによるプロモーターおよび遺伝子の分離は遺伝子の転写に影響を与えないことが公知である。トランスフェクション後、ターゲティングおよびランダム挿入の両方を行った細胞は、ネオマイシン耐性を示す(第1のポジティブ選択)。しかし、Creリコンビナーゼの発現後(pTet−on系−Clontechの調節下)、遺伝子ターゲティングを行った細胞(図3B)は、依然としてネオマイシン耐性を示す(第2のポジティブ選択)。対照的に、ランダム挿入を行った細胞(図3C)は、プロモーターもしくは構造neo
r遺伝子のいずれかまたは両方が消滅した任意の2つのLoxP部位間の欠失のためにネオマイシンに感受性を示すようになる。
【0155】
一般的使用のためのDPベクターを、ポリリンカー中に3つの8bp切断物の1つの部位を保有するpUC19誘導体であるpNEB193(New  England  Biolabs)から構築することができる。以下の手順によってDPベクターの構築を行う(図3D)。Not1部位が移入されたアニーリングオリゴヌクレオチドを使用して、ポリリンカーの左側のEcoR1部位とKpn1部位との間にLoxP配列をクローン化することができる。Fse1部位が移入されたアニーリングオリゴヌクレオチドを使用して、ポリリンカーの右側のPst1部位とHindIII部位との間に別のLoxP配列をクローン化することができる。8bp切断物Not1およびFse1の制限部位は、動物細胞に対するトランスフェクション前のベクターの線状化を促進する。次いで、PCRによってpCI−noe(Promega)からneo
r遺伝子(プロモーターなし)を増幅するし、ポリリンカーの中央のBamH1部位とPac1部位との間にクローン化することができる。最後に、CMVエンハンサー/プロモーターを、pCI−neoから増幅し(3’末端にLoxP部位を組み込む)、neo
r遺伝子に対して5’でクローン化することができる。PGKまたはβ−アクチンを含む潜在的に有用な他のプロモーターが存在するか、特異的細胞株中で発現する細胞特異的プロモーター(例えば、雄生殖細胞中のプロタミンプロモーター)の組織を使用することができる。各ステップでは、オリゴヌクレオチド中に適切な制限部位を組み込むことができる。
【0156】
このようにして構築した新規のDPベクターでは、2つのポリリンカーは、neo
rカセットによって分離されるpNEB193ポリリンカーに由来し得る。第1のポリリンカーは、8bp切断物Asc1を用いたKpn1からBamH1までの領域を対象として、第2のポリリンカーは、8bp切断物(Pac1およびPme1)を使用したPac1とPme1との間の領域を対象とする。これら2つのポリリンカーを使用して、標的遺伝子のそれぞれ短腕および長腕をクローン化することができる。
【0157】
本研究で開発された両方の系における動物細胞での第2のポジティブ選択のために(非相同事象におけるネオマイシン耐性を除去するため)、Cre発現のタイミングが重要である。この調節されたCre発現を2つの手段によって行うことができる。トランスジェニック実験およびノックアウト実験では、染色体に組み込まれたプラスミドDNAにより、望ましくない副作用を生じ得る。この問題を克服するために、Creリコンビナーゼの一過性発現を使用して、LoxP部位に隣接するDNAセグメントを除去した。Creを発現するアデノウイルスベクターの使用が特に興味深い(Kanegaeら、1995;Kaartinen  &  Nagy、2001)。これらのベクターは、稀に染色体に組み込まれ、複製欠損であり、複製機能が提供された特定の細胞株でのみ増殖されるので、正常な細胞株では複製されない。さらに、トランスフェクション効率は、プラスミド発現ベクターよりもさらに高い(プラスミド発現ベクターについての約20%と比較してアデノウイルスについてはほぼ100%)。NB、任意の方法(タンパク質またはcDNAのトランスフェクション、タンパク質またはcDNAの微量注入を含む)を使用して、Creを発現することができる。
【実施例4】
【0158】
[2つのポジティブ選択マーカーを使用したダブルポジティブ選択ベクターの構築]
このベクターは、Neo
r遺伝子の後に別のLoxP部位およびプロモーターレスハイグロマイシン耐性(Hyg
r)遺伝子が存在すること以外は図3A中のDPベクターと同一である。ベクターを使用して、ラット細胞をトランスフェクトし、ネオマイシン耐性について選択する。ターゲティング後、アデノウイルス−Creを使用したCreリコンビナーゼの発現により、Neo
r遺伝子が欠失し、Hyg
r遺伝子が発現し、細胞にハイグロマイシン耐性が付与される。LoxP部位の外側に2つが存在するランダム組み込み事象では、Creリコンビナーゼの発現により、プロモーターまたはHyg
r遺伝子(または両方)が欠失し、細胞にハイグロマイシン感受性が付与される。図3DのNeo
r遺伝子の後にPac1部位にLoxP−Hyg
rフラグメントを挿入することにより、このようなDPベクターを構築する。ベクターを、図4に示す。
【実施例5】
【0159】
[欠失を作製するためのトランスポゾン媒介手順の開発]
a)オリゴヌクレオチドプライマー
種々のトランスポゾンを構築するためのDNAセグメントを増幅するためのPCR反応用のオリゴヌクレオチドプライマーを以下に示す。
【0160】
【化1】
【化2】
【化3】
【0161】
b)PCR
GeneAmp  PCR  System  2700(Applied  Biosystems)を使用して、PCRを行った。200μMの各dNTP、20pmolの各プライマー、1.25単位のTaq  DNAポリメラーゼを含むMgCl
2含有1×PCR緩衝液(Fischer  Biotech)を含む50μlの反応混合物中で、テンプレートDNA(10〜100ng)を増幅させた。以下の条件下で30サイクル反応を行った。変性、94℃で30秒;プライマーアニーリング、55℃で30秒;プライマー伸長、72℃で150秒。最初のサイクルでの変性ステップを150秒に延長し、最後のサイクルでプライマー伸長ステップを570秒に延長した。
【0162】
c)DNAクローニング
プライマーの5’末端での制限部位の組み込みによって移入された制限部位を有するPCR産物のクローニング効率が比較的低いので(Jungら、Nucleic  Acids  Res.,18、6156,1990)、PCR産物を平滑末端ライゲーションによってベクターに最初にクローン化した(Zhangら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,242、390〜395、1998)。これを行うために、Obermaier−Kusserら(Biochem.Biophys.Res.Commun.,169、1007〜1015、1990)に記載のようにPCR産物をKlelowフラグメントで処理して、3’末端の人為的に重合したデオキシアデニル酸を除去した。次いで、産物を、ゲル精製キット(Qiagen)を使用してゲル精製し、平滑末端制限酵素で消化したプラスミドベクターにクローン化した(Zhangら、FEBS  Lett.,297,34〜38,1992)。インサートを配列決定し、必要と見なされる場合、適合する制限酵素を使用した消化およびライゲーションによって適切なベクターにサブクローン化した。
【0163】
d)インビトロ転位
BgIIIでの消化およびゲル精製によって、細菌ベクターからトランスポゾンを放出させた。インビトロトランスポゾン反応物(20μl)は、20ngミニMuトランスポゾン(BgIIIフラグメント)、400ng標的プラスミドDNA、および0.22μgのMuAトランスポゾンを含む1×転位緩衝液(FinnZyme)を含んでいた。37℃で1時間反応を行い、その後75℃10分間インキュベートしてトランスポゾンを失活させた。反応混合物を使用して、大腸菌DH5αを形質転換するか、大腸菌DH10βにエレクトロポレーションを行って、適切な抗生物質耐性マーカーを選択した。
【0164】
1.ミニMuトランスポゾン1の構築
原核生物/真核生物二重プロモーター(P/P)を、5’末端にMuトランスポゾン末端、および3’末端にLoxP配列を組み込んだ、プライマーMu1−1およびMu1−2を使用したClontechベクターpEGFP−N1からPCRによって増幅した。5’末端および3’末端のSmaI部位にKpnI部位およびBgIII部位を移入した。この産物を、pUC9のSmaI部位にクローン化してpCO6を形成させた。3’末端にMuトランスポゾン末端を組み込んだプライマーMu1−3およびMu1−4を使用したPCRによってpACYC184からクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cam
r)を増幅させた。5’末端にHincII部位を移入し、3’末端にBgIII部位およびHindIII部位を移入した。この産物を、pUC7のHinII部位の間にクローン化してpCO7を形成させた。HincIIおよびHindIIIでの消化によってCam
rインサートをpCOP7から放出させ、pUC19のHincII部位とHindIII部位との間にクローン化してpCO9を形成させた。KpnIおよびSmaIでの消化によってP/PインサートをpCO6から放出させ、pCO9のKpnI部位とHincII部位との間にクローン化した。これによりLoxP配列によって分離された二重プロモーターP/PおよびCam
rを含み、遺伝子構築物全体がトランスポゾン末端に隣接したミニMuトランスポゾン1の構築が完了する。このトランスポゾンを保有するベクターを、pCO10と命名する(図5)。BgIIIでの消化により、ベクターからトランスポゾンが放出される。
【0165】
2.ミニMuトランスポゾン1の試験
ミニMuトランスポゾン1(Mu1−Cam)を、クロラムフェニコール耐性について選択した標的DNA分子としてpUC7を使用したインビトロでの転位能力を試験した。50個のクロラムフェニコール耐性コロニーをアンピシリンプレート上にパッチした場合、13個(26%)がアンピシリンに感受性を示すことが見出され、トランスポゾンが挿入されてAmp
r遺伝子を不活化したことを示す。pUC7のAmp
r遺伝子の比率(30%)を考慮すると、このプラスミドに対するMu1の挿入はランダムであった。これを、制限消化によってさらに確認した。3つのAmp
rコロニーおよび3つのAmp
sコロニーを選択し、プラスミドDNAを単離した。DNAを、pUC7において1回およびトランスポゾンにおいて2回切断するSspIで消化した。異なるパターンが認められ(図6)、pUC7に対するトランスポゾン挿入のランダムな性質ことが示唆される。図6では、レーン1〜3はAmp
r遺伝子に挿入されたトランスポゾンを含むpUC7であり、レーン4〜6は、Amp
r遺伝子の外側に挿入されたトランスポゾンを有するpUC7である。
【0166】
3.ミニMuトランスポゾン2の構築
Mini−Muトランスポゾン2の3つの異なる異形を構築した。5’末端は、3つの異形の全てにおいて同一であり、トランスポゾン末端および細菌テトラサイクリン耐性遺伝子(Tet
r)であった。これを、以下のように構築した。5’側にKpnI−BgIII−トランスポゾン末端および3’末端にXhoI部位を組み込んだプライマーMu2−1およびMu2−2を使用したPCRによってTet
r遺伝子をpBR322から増幅させた。この産物を、pNEB193のHicII部位にクローン化して、pCO19を形成させた。Mini−Muトランスポゾン2の3つの異形の完成を以下に示した。
【0167】
a)Mu2−Neo。このトランスポゾンは、Tet
r遺伝子の下流にネオマイシン耐性遺伝子(Neo
r)を有する。5’にXhoI−LoxPおよび3’末端にトランスポゾン末端−BgIII−XbaIを組み込んだプライマーMu2−Neo−1およびMu2−Noe−2を使用してpCI−neo(Promega)からNeo
r遺伝子を増幅させた。インサートのXhoI部位がベクターのKpnI部位に向かうような方法でpNEB193のHincII部位にこの産物をクローン化して、pCO18を形成させた。KpnIおよびXhoIを使用してpCO19のインサートを切り出し、pCO18のKpnI部位とXhoI部位との間にクローン化した。トランスポゾンMu2−Neoを保有するベクターを、pCO20と命名した(図7)。
【0168】
b)Mu2−HygEGFP。このトランスポゾンは、Tet
r遺伝子の下流にハイグロマイシン耐性−EGFP融合遺伝子(HygEGFP)を有する。5’末端にXhoI−LoxPおよび3’末端にBgIII部位を組み込んだプライマーMu2−HygEGFP−1およびMu2−HygEGFP−2を使用して、HygEGFP遺伝子のコード領域をpHygEGFP(Clontech)から増幅させた。この産物をpNEB193のHincII部位にクローン化してpCO15を形成させた。5’末端にBamHIおよび3’末端にトランスポゾン末端−BgIII−XbaIを組み込んだプライマーMu2−ポリA−1およびMu2−ポリA−2を使用して、同一のプラスミドからSV40ポリAシグナルを含む配列を増幅させた。この産物をpNEB193のHincII部位にもクローン化して、pCO16を形成させた。ポリAインサートを、BamHIおよびXbaIで切り出し、pCO15のBgIII部位とXbaI部位との間にクローン化して、pCO21を形成させた。ポリAを含むHygEGFP遺伝子をXhoIおよびXbaIで切断し、pCO19のXhoI部位とXbaI部位との間にクローン化した。トランスポゾンMu2−HygEGFPを保有するこのベクターを、pCO25と命名した(図8)。
【0169】
c)Mu−2−β−geo。このトランスポゾンは、Tet
r遺伝子の下流にβ−ガラクトシダーゼ−ネオマイシン耐性融合遺伝子(β−geo)を有する。β−geo遺伝子のコード領域は約4kbであり、本発明者らのPCR条件下で効率的に増幅することができず、遺伝子は2つのフラグメントとして増幅され、その後互いに連結し、遺伝子の中央でSacI部位を活用した。5’末端にXhoI−LoxPおよび天然のSacI部位の後の3’末端にBgIII−XbaI部位を組み込んだプライマーMu2−geo−1およびGeoSacBgIXbaを使用して、遺伝子の5’側の半分をpHβAcIβgeo(E.Stanley、私信)から増幅させた。この産物を、平滑末端ライゲーションによってpNEB193のHicII部位にクローン化し(pCO22が形成される)、その後PacIおよびPmeIを使用してpCO4(このベクターはSacI部位を含まない、以下を参照のこと)を形成させた(pCO40が形成される)。5’末端に天然のSacI部位を含み、3’末端にBgIII部位を組み込んだプライマーSacGeoおよびMu2−geo−2を使用して、β−geo遺伝子の3’側の半分を増幅させた。この産物を、pUC7のHicII部位(iste)にクローン化してpCO13を形成させた。次いで、pCO16由来ポリAシグナルを含むBamHI−BgIIIフラグメントをpCO13のBgIII部位にクローン化して、pCO41を形成させた。SacIおよびBgIIIでの消化によりgeo2::ポリA部分が放出し、pCO40のSacI部位とBgIII部位との間にクローン化して、pCO42を形成させた。これにより、ポリAシグナルおよびその後にトランスポゾン末端を有する完全なβ−geo遺伝子が得られた。この構築物を、XhoIおよびXbaIで切り出し、pCO19のXhoI部位とXbaI部位との間にクローン化した。トランスポゾンMu2−β−geoを保有するこのベクターを、pCO43と命名した(図9)。
【実施例6】
【0170】
[ラットHPRT遺伝子のトランスポゾン変異誘発]
ラットHPRT遺伝子のエクソン3およびエクソン4〜9の一部を含む24kbkのXhoIフラグメント(図10を参照のこと)を、PACクローンからpNEB193のSaII部位にクローン化して、pCO28を形成させた。このクローンを、クロラムフェニコール耐性選択を用いたミニMuトランスポゾン1による転位のための標的として使用した。外側を指示する3’末端を有するミニMuトランスポゾン1の末端に存在するオリゴヌクレオチドMu1CamEndOutwardを、PCR用の4つの各プライマーと組み合わせた。これらは、HPRTexon4F、HPRTexon5F、HPRTexon6F、HPRTexon7−9Fであった。49個のCam
rコロニーをスクリーニングした場合、1〜3個のコロニーから各PCR反応用の1kb以内のPCR産物が得られた(すなわち、2〜6%)。27kbのプラスミド(ベクターを含む)の一方向での任意の1kb領域中でのトランスポゾンの推定される挿入能力は2%である。スクリーニングした同数のコロニーを考慮すると、得られた比率は許容される。各PCR用の1つのこのようなコロニーを選択した。これらは、隣接した位置を図10の三角で示し、Cam
r遺伝子の転写方向を矢印で示したトランスポゾン挿入を示した。これらは、トランスポゾンインサートの所望の方向を有し、ミニ−Mu2−Neoのこれらへの転位を同様に行うことができる。
【実施例7】
【0171】
[DPベクターの構築および標的遺伝子の挿入]
a)オリゴヌクレオチド
【化4】
【化5】
【0172】
b)PCRおよびクローニング
以下を追加して実施例5と同一の方法を実施した。2つのオリゴヌクレオチドがアニーリングおよびクローン化された場合、50pmolの各プライマーを最終体積10μlに混合し、加熱ブロックにて95℃で5分間インキュベートした。次いで、加熱ブロックを切り、加熱ブロック中でサンプルを室温に緩やかに冷却した。適合末端を含まない2つの酵素でベクターを消化し、オリゴヌクレオチドをアニーリングし、ベクターにクローン化した。
【0173】
1.DPベクターの構築
一方はCMVプロモーターを含み、他方はPGKプロモーターを有し、両方がNeo
r発現を駆動するDPベクターの2つの異形を構築した。オリゴ1およびオリゴ2をアニーリングし、pNEB193のEcoRI部位とKpnI部位との間にクローン化して、pCO3を形成させた。これにNotI部位およびLoxP配列を移入し、同時にEcoRI部位を破壊した。次いで、オリゴ3およびオリゴ4をアニーリングし、pCO3のPstI部位とHindIII部位との間にクローン化してpCO4を形成させた。これにLoxP配列およびFseI部位を移入し、同時にHindIII部位を破壊した。プライマーOligoNeo1およびOligoNeo2を用いてpCI−neoからネオマイシン耐性遺伝子(Neo
r)を増幅させ、pUC7のHicII部位の間にクローン化してpCO2を形成させた。次いで、BamHIおよびPacIを使用してNeo
r遺伝子を放出させ、pCO4のBamHI部位とPacI部位との間にクローン化してpCO5を形成させた。プライマーOligoCMVProm1およびOligoCMVProm2を使用してpCI−neoからCMVプロモーターを増幅させ、pUC7のHicII部位の間にクローニングしてpCO1を形成させた。同様に、プライマーOligoPGKProm1およびOligoPGKProm2を使用してpKOScramblerNTKY−1906からPGKプロモーターを増幅させ、pUC7のHincII部位の間にクローン化してpCO12を形成させた。これら2つのプロモーターは、BamHIおよいbBgIIIを使用して各ベクターから放出され、pCO5のBamHI部位にクローン化してそれぞれDPベクターの2つの異形を形成させた。CMVプロモーターを有するDPベクターをpCO8と命名し、PGKプロモーターを有するものをpCO14と命名した(図11)。
【0174】
2.大腸菌でのDPベクターの試験
2つのDPベクター(pCO8およびpCO14)を、Creリコンビナーゼを発現する大腸菌株に形質転換した。プラスミドDNAを抽出し、Not1消化によって線状化した。図12では、レーン1およびレーン2はpCO8であり、レーン3およびレーン4はpCO14である。プラスミドのサイズ(2.7kb)で判断したところ、ネオマイシン耐性遺伝子およびプロモーターの両方が欠失していた。これは、これらのベクターのLoxP部位に隣接する配列をリコンビナーゼによって有効に除去することができることを示す。
【実施例8】
【0175】
[2つのポジティブ選択マーカーを使用したダブルポジティブ選択ベクターの構築]
a)オリゴヌクレオチドプライマー
【化6】
【0176】
b)PCRおよびクローニング
実施例5および6と同一の方法を行った。
【0177】
1.DPベクターの構築(図13)
5’末端にPvuI部位およびLoxP配列、3’末端にPacI部位を組み込んだプライマーPvuILoxHygおよびHygPacIを使用してpPGKHygからハイグロマイシン耐性遺伝子(Hyg
r)を増幅させた。産物を、pNEB193のHincII部位にクローン化してpCO17を形成させた。PacIでの完全な消化およびその後のPvuIでの部分的消化(遺伝子上に内部PvuI部位が存在するため)によってHyg
r遺伝子が放出され、DPベクターの両異形(pCO8およびpCO14)のPacI部位にクローン化してpCO26(CMVプロモーター)およびpCO27(PGKプロモーター)を形成させた。
【実施例9】
【0178】
[HPRT遺伝子のためのノックアウトベクターの構築]
a)オリゴヌクレオチドプライマー
【化7】
【0179】
DPベクターを立証するために、ノックアウトされるべき標的としてラットHPRT遺伝子を選択した。短腕は、プライマーHPRTexon7−9FおよびHPRTexon7−9Fを使用してPACクローンから増幅したPCR産物であった。この産物を、pUC7のHincII部位の間にクローン化してpCO30を形成させた。BamHIを使用してインサートを放出させ、2つのDPベクターpCO14およびpCO27のBamHI部位にクローン化してそれぞれpCO33およびpCO34を形成させた。伝統的なポジティブ/ネガティブ選択ベクターを使用してターゲティング効率を比較するために、pKO  ScramblerNTKY−1906のBamHI部位に短腕をクローン化してpCO32も形成させた。選択された長腕は、イントロン1からエクソン3までの8.8kbのXhoIフラグメントであった。PACクローンからpCO33(pCO38が形成される)およびpCO34(pCO39が形成される)のSaII部位ならびにpCO32(pCO44が形成される)のXhoI部位にこれをクローン化した。3つのターゲティング構築物は、概略的に例示した図14である(図は一定の比率で記載していない)。
【実施例10】
【0180】
[loxPに隣接した(floxed)β−geoを用いたベクターの構築]
a)プライマー
【化8】
【0181】
哺乳動物細胞中のLoxP組換え効率を試験するために、LoxP部位に隣接するβ−geoを含むベクターを構築した。ラット細胞ゲノムにベクターを組み込み、Creリコンビナーゼを一過性に発現するアデノウイルスベクターを感染させる。X−Gal染色で決定したβ−geo遺伝子を喪失した細胞の比率は、Cre媒介LoxPの組換え効率を示す。
【0182】
1.ターゲティングベクターの構築
実施例5に記載のミニ−Mu2−β−geoの構築に関して、β−geo遺伝子を2つのフラグメントとして増幅させ、その後互いに連結させて遺伝子の中央でSacI部位を活用した。5’末端にKpnIおよび天然のSacI部位の後の3’末端にBgIII−XbaI部位を組み込んだプライマーKpn−geo−1およびGeoSacBgIXbaを使用して、遺伝子の5’側の半分を増幅させた。この産物を、平滑末端ライゲーションによってpNEB193のHincII部位にクローン化し(pCO45が形成される)、その後KpnIおよびXbaIを使用してppCO4(このベクターはポリリンカーに隣接するLoxPを有する)を形成させた(pCO46が形成される)。プロモーターの各末端にKpnI部位を組み込んだプライマーKpn−PGK−1およびMuEndEcoSwaPGK−2を使用して、PGKプロモーターを増幅させた。この産物を、平滑末端ライゲーションによってpNEB193のHincII部位に産物をクローン化してpCO47を形成させた。KpnIを使用してインサートを放出させ、pCO46のKpnI部位にクローン化してpCO48を形成させた。5’末端にBamHI部位および3’末端にKpnI−BgIII部位を組み込んだプライマーMu2−PolyA−1およびPolyA−Rを使用して、pHygEGFPからポリAシグナルを含む配列を増幅させた。この産物を、pNEB193のHincII部位にクローン化してpCO49を形成させた。BamHIおよびBgIIIを使用してポリAインサートを切り出し、pCO13のBgIII部位にクローン化してpCO50を形成させた。SacIおよびBgIIIでの消化によりpCO50からgeo2::ポリA部分が放出させ、pCO48のSacI部位とBgIII部位との間にクローン化して、pCO51を形成させた(図15)。
【実施例11】
【0183】
[HPRTノックアウトを立証するためのサザンストラテジーのデザイン]
a)プライマー
【化9】
【化10】
【0184】
上記の3つのHPRTターゲティングベクターの構造に基づいて、HPRT遺伝子のノックアウトを立証するためのサザンハイブリッド形成ストラテジーをデザインした。このストラテジーを、以下に示す(図16、図は、一定に比率で記載しておらず、長腕および短腕のアラインメントを強調している)。
【0185】
プライマーHPRTSouthern1およびHPRTSouthern2を使用してHPRT遺伝子の404bpフラグメント(その位置を、左側の黒い四角によって示す)を増幅させ、pCU7のBamHI部位の間にクローン化してpCO51を形成させた。プローブとして使用した場合、これは、野生型ゲノムDNA由来の3kbのSphIフラグメントとハイブリッド形成する。ハイブリッド形成されたフラグメントのサイズは、PD−Neo、PD−Neo−Hyg、およびpKOを使用して作製したノックアウトについて、それぞれ2.4kb、3.8kb、および2kbである。
【0186】
プライマーSouthern3およびHPRTSouthern4を使用してHPRT遺伝子の414bpフラグメント(その位置を、右側の黒い四角によって示す)を増幅させ、pCU7のBamHI部位の間にクローン化してpCO52を形成させた。プローブとして使用した場合、これは、野生型ゲノムDNA由来の5.5kbのPstIフラグメントとハイブリッド形成する。ハイブリッド形成されたフラグメントのサイズは、PD−Neo、PD−Neo−Hyg、およびpKOを使用して作製したノックアウトについて、それぞれ2.7kb、2.7kb、および2.5kbである。
【0187】
最後に、本明細書中で概説した本発明の精神を逸脱することなく種々の他の改変形態および/または変形形態を得ることができると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】ミニMuトランスポゾンの構築物および欠失作製でのその使用を示す図である。LoxP部位(白抜きの三角)によってクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cam
r)から分離された二重(細菌および真核生物)プロモーター(P/P)を含み、全構造がトランスポゾン末端に隣接するミニmuトランスポゾン−1を構築することができる。このトランスポゾンでは、細菌プロモーターおよび真核生物プロモーターの両方がCam
r遺伝子の発現を駆動することができる。テトラサイクリン耐性遺伝子(細菌プロモーターを含むTet
r)−LoxP配列−プロモーターレスβ−geo遺伝子を含み、全構造がトランスポゾン末端に隣接するミニmuトランスポゾン−2を構築することができる。
ミニMuトランスポゾンの構造および欠失におけるその使用。P/P、原核生物/真核生物二重プロモーター;三角、LoxP配列;Cam
r、プロモーターを含まないクロラムフェニコール耐性遺伝子;Tet
r、その天然の細菌プロモーターを含むテトラサイクリン耐性遺伝子;β−geo、プロモーターを含まないネオマイシン耐性−LacZ融合遺伝子;太線、クローン化された標的遺伝子;細線、ベクター骨格。
【図2】クローン化動物遺伝子における欠失作製手順を示すフローチャートである。
【図3】DPベクターの原理を示す図である。A.ダブルポジティブベクターのデザイン。三角は、リコンビナーゼ(Cre)によって活性化されたLoxP組換え部位を示す。B.Creリコンビナーゼの発現後、遺伝子ターゲティングを行った細胞は、依然としてネオマイシン耐性を示す(第2のポジティブ選択)。C.ランダム挿入を行った細胞は、プロモーターもしくは構造neo
r遺伝子のいずれかまたはその両方を喪失する任意の2つのLoxP部位の間の欠失によりネオマシンに感受性を示すようになる。D.DPベクター系の構築で採用することができるアプローチの例。
【図4】2つのポジティブ選択マーカーを含む別のDPベクターを示す図である。三角は、loxP部位を示す。
【図5】ミニmuトランスポゾン1を保有するベクターpCO10の構築を示す図である。
【図6】ミニmuトランスポゾン1の試験を示す図である。
【図7】トランスポゾンMu2−Neoを保有するベクターpCO20の構築を示す図である。
【図8】トランスポゾンMu2−HygEGFPを保有するベクターpCO25の構築を示す図である。
【図9】トランスポゾンMu2−β−geoを保有するベクターpCO43の構築を示す図である。
【図10】クローン化フラグメント上にラットHPRT遺伝子のエクソン3およびエクソン4〜9の一部ならびにミニmuトランスポゾン1を含む24kbのXhoIフラグメントを示す図である。
【図11】Neo
r発現を駆動するプロモーターを含むDPベクターを示す図である。
【図12】DPベクターの試験を示す図である。
【図13】2つのポジティブ選択マーカーを含むDPベクターを示す図である。
【図14】ラットHPRT遺伝子のノックアウトベクター用のこれらのターゲティング構築物を示す図である。
【図15】loxPに隣接した(floxed)β−geoを有するベクターの構築を示す図である。
【図16】HPRTノックアウトを評価するためのサザンストラテジーデザインを示す図である。