以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、半導体薄膜チップ、電子管、及び光検出素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1の実施の形態)
  まず、本発明による半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、及び半導体薄膜チップの第1実施形態について説明する。本実施形態に係る半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、及び半導体薄膜チップでは、ウェハの基板の内部にレーザ光を照射して、多光子吸収による改質領域、または溶融処理領域を形成する。そこで、このレーザ加工方法、特に多光子吸収について最初に説明する。
  材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>EGである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm2)で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm2)で決まる。
  このような多光子吸収を利用するレーザ加工の原理について、図1〜図6を参照して説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1のI−I線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1のII−II線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1のIII−III線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
  図1及び図2に示すように、加工対象物1には、所望の切断予定ライン5が設定される。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。なお、ウェハに実際に線を引いて切断予定ライン5としてもよい。本実施形態では、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた上でレーザ光Lを加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点Pとはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
  レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成され、この改質領域7でもって切断起点領域8が形成される。このレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面6ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面6が溶融することはない。なお、加工対象物1の表面6は、該表面6においてレーザ光が散乱することを防ぐため、平坦かつ滑面であることが好ましい。
  加工対象物1の切断において、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の面にチッピングなどの不必要な割れを発生させることなく滑らかに、且つ容易に、且つ精度良く、且つ効率的に加工対象物1の切断が可能となる。
  なお、切断起点領域を起点とした基板の切断には、次の2通りが考えられる。1つは、切断起点領域形成後、基板に人為的な応力が印加されることにより、切断起点領域を起点として基板が割れ、基板が切断される場合である。これは、例えば基板の厚さが大きい場合の切断である。人為的な応力が印加されるとは、例えば、基板の切断起点領域に沿って基板に曲げ応力やせん断応力を加えたり、基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。他の1つは、切断起点領域を形成することにより、切断起点領域を起点として基板の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に基板が切断される場合である。これは、例えば基板の厚さが小さい場合には、1列の改質領域により切断起点領域が形成されることで可能となり、基板の厚さが大きい場合には、厚さ方向に複数列形成された改質領域により切断起点領域が形成されることで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所において、切断起点領域が形成されていない部位に対応する部分の表面上にまで割れが先走ることがなく、切断起点領域を形成した部位に対応する部分のみを割断することができるので、割断を制御よくすることができる。近年、ウェハの基板などの基板の厚さは薄くなる傾向にあるので、このような制御性のよい割断方法は大変有効である。
  さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域としては、次の(1)〜(3)がある。
  (1)改質領域が1つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合
  例えばダイヤモンド、サファイア、ガラスなどからなる加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が例えば1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が例えば1μs以下の条件でレーザ光を照射する。このパルス幅の大きさは、多光子吸収を生じさせつつ加工対象物の表面に余計なダメージを与えずに、加工対象物の内部にのみクラック領域を形成できる条件である。これにより、加工対象物の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。
  本発明者は、電界強度とクラックの大きさとの関係を実験により求めた。実験条件は次ぎの通りである。
    (A)加工対象物:パイレックス(登録商標)ガラス(厚さ700μm)
    (B)レーザ
          光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
          波長:1064nm
          レーザ光スポット断面積:3.14×10-8cm2
          発振形態:Qスイッチパルス
          繰り返し周波数:100kHz
          パルス幅:30ns
          出力:出力<1mJ/パルス
          レーザ光品質:TEM00
          偏光特性:直線偏光
    (C)集光用レンズ
          レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
    (D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
  なお、レーザ光品質がTEM00とは、集光性が高くレーザ光の波長程度まで集光可能を意味する。
  図7は上記実験の結果を示すグラフである。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光がパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光により加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm2)程度から基板の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
  次に、上記したレーザ加工方法において、クラック領域形成による加工対象物の切断のメカニズムについて図8〜図11を用いて説明する。図8に示すように、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせ、レーザ光Lを加工対象物1に照射し、切断予定ライン5に沿って加工対象物1内部にクラック領域9を形成する。クラック領域9は1つ又は複数のクラックを含む領域である。このクラック領域9でもって切断起点領域が形成される。図9に示すようにクラック領域9を起点として(すなわち、切断起点領域を起点として)クラックがさらに成長し、図10に示すようにクラックが加工対象物1の両面に到達し、図11に示すように加工対象物1が割れることにより加工対象物1が切断される。加工対象物の両面に到達するクラックは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。
  (2)改質領域が溶融処理領域の場合
  例えばGaAsやSiなどからなる加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域や、まさに溶融状態の領域や、溶融状態から再固化する状態の領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。基板がSi単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質Si構造である。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。また、Siに限らず、例えばダイヤモンドやサファイアなどにおいても上記した溶融処理領域を形成することが可能である。
  本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次の通りである。
    (A)基板:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)
    (B)レーザ
          光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
          波長:1064nm
          レーザ光スポット断面積:3.14×10-8cm2
          発振形態:Qスイッチパルス
          繰り返し周波数:100kHz
          パルス幅:30ns
          出力:20μJ/パルス
          レーザ光品質:TEM00
          偏光特性:直線偏光
    (C)集光用レンズ
          倍率:50倍
          N.A.:0.55
          レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
    (D)基板が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
  図12は、上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお、上記条件により形成された溶融処理領域13の厚さ方向の大きさは100μm程度である。
  溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とSi基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、Si基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。Si基板の厚さtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
  例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、Si基板の厚さが500μm以下の場合、Si基板の内部ではレーザ光が80%以上透過することが分かる。図12に示すシリコンウェハ11の厚さは350μmなので、多光子吸収による溶融処理領域13をシリコンウェハの中心付近に形成すると、レーザ光入射面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光がシリコンウェハ11の内部で吸収されるのは僅かであり、ほとんどが透過する。このことは、シリコンウェハ11の内部でレーザ光が吸収されて、溶融処理領域13がシリコンウェハ11の内部に形成(つまりレーザ光による通常の加熱で溶融処理領域が形成)されたものではなく、溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを意味する。
  なお、シリコンウェハは、溶融処理領域でもって形成される切断起点領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面とに到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面とに到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、シリコンウェハに力が印加されることにより成長する場合もある。なお、切断起点領域からシリコンウェハの表面と裏面とに割れが自然に成長する場合には、切断起点領域を形成する溶融処理領域が溶融している状態から割れが成長する場合と、切断起点領域を形成する溶融処理領域が溶融している状態から再固化する際に割れが成長する場合とのいずれもある。ただし、どちらの場合も溶融処理領域はシリコンウェハの内部のみに形成され、切断後の切断面には、図12のように内部にのみ溶融処理領域が形成されている。基板の内部に溶融処理領域でもって切断起点領域を形成すると、割断時、切断起点領域ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。
  (3)改質領域が屈折率変化領域の場合
  例えばガラスなどからなる加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射する。パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましい。
  以上、多光子吸収により形成される改質領域として(1)〜(3)の場合を説明したが、加工対象物の結晶構造やその劈開性などを考慮して切断起点領域を次のように形成すれば、その切断起点領域を起点として、より一層小さな力で、しかも精度良く加工対象物を切断することが可能になる。
  すなわち、加工対象物がSiなどのダイヤモンド構造の単結晶半導体からなる場合は、(111)面(第1劈開面)や(110)面(第2劈開面)に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好ましい。また、加工対象物がGaAsなどの閃亜鉛鉱型構造のIII−V族化合物半導体からなる場合は、(110)面に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好ましい。さらに、加工対象物がサファイアなどの六方晶系の結晶構造を有する場合は、(0001)面(C面)を主面として(1120)面(A面)或いは(1100)面(M面)に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好ましい。
  次に、上述したレーザ加工方法に使用されるレーザ加工装置について、図14を参照して説明する。図14はレーザ加工装置100の概略構成図である。
  レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら3つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115とを備える。
  この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。Z軸方向は、加工対象物1の表面6と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。これにより、加工対象物1の表面6から所定距離内側の所望の位置に集光点Pを合わせることができる。また、レーザ加工装置100は、これらのステージに加えて、加工対象物1の傾きを調整するための角度調整機構を備えてもよい。
  レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。本実施形態では、加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが、多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。
  レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119とを備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面6を照明する。なお、加工対象物1の裏面が集光用レンズ105側となるよう加工対象物1が載置台107に載置された場合は、ここでいう「表面」が「裏面」となるのは勿論である。
  レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCDカメラがある。切断予定ライン5等を含む表面6を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
  レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129とを備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点を加工対象物1の表面6上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が加工対象物1の表面6に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面6の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
  全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
  次に、レーザ加工装置100を用いたレーザ加工方法について、図14及び図15を参照して説明する。図15は、レーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。
  まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。
  続いて、加工対象物1の基板の厚さや屈折率を考慮して、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、加工対象物1内部の所望の位置にレーザ光Lの集光点Pを合わせるために、加工対象物1の表面6に位置するレーザ光Lの集光点Pを基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量は全体制御部127に入力される。
  加工対象物1を、その表面が集光用レンズ105側となるようレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1の表面6を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む表面6を撮像素子121により撮像する。切断予定ライン5は、加工対象物1を切断すべき所望の仮想線である。撮像素子121により撮像された撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は、観察用光源117の可視光の焦点が加工対象物1の表面6に位置するような焦点データを演算する(S107)。
  この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が加工対象物1の表面6に位置する。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面6の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
  全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
  続いて、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面6の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、改質領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、切断予定ライン5に沿うよう形成された改質領域でもって切断予定ライン5に沿う切断予定部を加工対象物1の内部に形成する(S113)。
  以上説明したように、上記したレーザ加工方法によれば、加工対象物1の表面6側からレーザ光Lを照射し、加工対象物1の内部に、多光子吸収により形成される改質領域7でもって、加工対象物1を切断すべき所望の切断予定ライン5に沿った切断起点領域8を形成することができる。そして、加工対象物1の内部に形成された改質領域7の位置は、レーザ光Lの集光点Pを合わせる位置を調節することにより制御されている。したがって、加工対象物1の内部に形成された切断起点領域8を起点として、加工対象物1を比較的小さな力で割って切断することができる。
  次に、以上に説明したレーザ加工方法を用いた半導体薄膜の製造方法、及び該製造方法により製造された半導体薄膜及び半導体薄膜チップの第1実施形態について説明する。なお、以下の実施形態においては、半導体薄膜が形成される基板をSi基板とし、該Si基板上に半導体薄膜としてダイヤモンド薄膜を形成する。
  図16〜図21は、本実施形態による半導体薄膜の製造方法を説明するための図である。まず、図16(a)に示すように、Si基板10を用意する。そして、Si基板10の表面10aを研磨することにより、表面10aを平坦かつ滑面に仕上げる。
  続いて、図16(b)に示すように、Si基板10の表面10aに半導体薄膜を成長させる際の種となるダイヤモンド粒12aを埋め込む。まず、粒径が数nm〜数十nmのダイヤモンド粉を、水槽131内のイソプロピルアルコール133中に分散させる。そして、水槽131内においてSi基板10の表面10a及びその周辺に超音波135を当てることにより、イソプロピルアルコール133中のダイヤモンド粒12aが表面10aに埋め込まれる。なお、イソプロピルアルコール133及びダイヤモンド粉の量を例示すれば、それぞれ1リットル及び5カラットである。
  続いて、Si基板10の表面10a上に、マイクロ波プラズマCVD法によってダイヤモンド薄膜12を形成する。まず、図17に示すように、プラズマCVD装置のチャンバ137内にSi基板10をセットする。このとき、Si基板の表面10a(すなわちダイヤモンド粒12aが埋め込まれた面)を上向きにセットする。そして、チャンバ137内を減圧し、マイクロ波(例えば周波数2.45GHz)をSi基板10の表面10a付近に照射することによりプラズマ139を発生させ、チャンバ137内に水素、メタン、及び酸素などの反応ガス135を導入することにより、Si基板10の表面10a上にダイヤモンド薄膜12を成長させる。なお、このとき、ダイヤモンド薄膜12をp型半導体としたい場合には、反応ガス135として上記した各気体に加えて水素希釈のジボランを導入するとよい。こうして、ダイヤモンド薄膜12が所定の厚さに成長した後、チャンバ137内の圧力を大気圧にしてSi基板10を取り出す。
  図18(a)は、上記した各工程によって形成されたSi基板10及びダイヤモンド薄膜12を示す平面図である。また、図18(b)は、図18(a)に示したSi基板10及びダイヤモンド薄膜12のIV−IV線に沿った断面図である。図18(a)及び(b)を参照すると、Si基板10の表面10a上にダイヤモンド薄膜12が形成されている。そして、Si基板10及びダイヤモンド薄膜12は、この後の工程において、切断予定ライン14に沿ってチップ状に切断される。本実施形態においては、切断予定ライン14はダイヤモンド薄膜12の表面上に格子状に想定されている。
  続いて、図19(a)及び(b)に示すように、Si基板10の内部に切断起点領域8aを形成する。まず、上記したレーザ加工装置100(図14参照)の載置台107上にSi基板10をセットする。本実施形態では、このとき、Si基板10を載置台107に吸着により固定する。また、Si基板10の研磨された表面10aからSi基板10内部へレーザ光Lが照射されるように、Si基板10の表面10aと集光用レンズ105とを対向させる。そして、Si基板10の傾きを水平に調整した後、Si基板10の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射する。このときのレーザ光Lは、パルス波とする。また、このとき、Si基板10内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射しながら、X軸ステージ109(またはY軸ステージ111)を動作させて載置台107を移動させることにより、Si基板10内部における集光点Pを切断予定ライン14に沿って移動(スキャン)させる。こうして、集光点Pにおいて改質領域が形成され、切断予定ライン14に沿って該改質領域が形成されることによりSi基板10の内部に切断起点領域8aが形成される。なお、切断起点領域8aを形成する際には、切断予定ライン14に沿ってレーザ光Lを1回だけスキャンしてもよいし、同一の切断予定ライン14に沿ってレーザ光Lを複数回スキャンしてもよい。
  続いて、図20(a)及び(b)に示すように、ダイヤモンド薄膜12の内部に切断起点領域8bを形成する。すなわち、前の工程に引き続き、Si基板10をレーザ加工装置100の載置台107にセットした状態で、ダイヤモンド薄膜12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射する。このときのレーザ光Lも、パルス波とする。ダイヤモンド薄膜12内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射しながら、X軸ステージ109(またはY軸ステージ111)を動作させて載置台107を移動させることにより、ダイヤモンド薄膜12内部における集光点Pを切断予定ライン14に沿って移動(スキャン)させる。こうして、集光点Pにおいて改質領域が形成され、切断予定ライン14に沿って該改質領域が形成されることによりダイヤモンド薄膜12の内部に切断起点領域8bが形成される。なお、本実施形態では、切断起点領域8bは、ダイヤモンド薄膜12の厚さ方向における中央付近からダイヤモンド薄膜12の表面に達するように形成される。また、半導体薄膜の製造方法においては、切断起点領域8bを形成する工程を省略することも可能である。
  なお、切断起点領域8a、8bを形成する際には、レーザ光LをSi基板10の裏面側から入射してもよい。この場合、Si基板10の裏面を研削しておくことが好ましい。或いは、切断起点領域8aを形成する際にレーザ光LをSi基板10の裏面側から入射し、切断起点領域8bを形成する際にレーザ光LをSi基板10の表面10a側から入射してもよい。この場合、Si基板10の表面10a及び裏面のうち少なくともいずれか一方を研削しておくことが好ましい。
  続いて、図21(a)に示すように、切断起点領域8a及び8bを起点として(切断起点領域8bの形成を省略した場合は、切断起点領域8aを起点として)Si基板10及びダイヤモンド薄膜12の厚さ方向に割れ18を発生させる。割れ18を発生させる方法としては、熱や外力によりSi基板10内部に応力を発生させて割れ18を発生させてもよいし、Si基板10及びダイヤモンド薄膜12の厚さ方向における切断起点領域8a及び8bの幅を比較的大きくして、自然に割れ18を発生させてもよい。
  続いて、図21(b)に示すように、切断起点領域8a及び8bに沿って(すなわち、切断予定ライン14に沿って)Si基板10及びダイヤモンド薄膜12を切断して分離する。こうして、Si基板10上にダイヤモンド薄膜12が形成された半導体薄膜チップであるチップ16が完成する。
  図22は、上記した製造方法によって製造されたチップ16(ダイヤモンド薄膜12)を示す斜視図である。上記した製造方法において切断予定ライン14を格子状としたので、チップ16の平面形状は矩形状となっている。チップ16は、Si基板10と、Si基板10上に形成されたダイヤモンド薄膜12を備えている。チップ16は上記したレーザ加工方法によって切断されているため、Si基板10の側面及びダイヤモンド薄膜12の側面には、改質領域からなる切断起点領域8a及び8bがそれぞれ露出している。
  上記した本実施形態による半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、及び半導体薄膜チップによれば、レーザ光Lを照射することによりSi基板10及びダイヤモンド薄膜12を切断するので、ダイヤモンドブレードを用いて溝を形成する方法と比較してより短時間でSi基板10及びダイヤモンド薄膜12を切断することができる。また、Si基板10及びダイヤモンド薄膜12を切断起点領域8a及び8bに沿って比較的小さな力で割って切断できるので、粉塵の発生が極めて少なく抑えられ、洗浄工程も必要としない。また、Si基板10及びダイヤモンド薄膜12を切断起点領域8a及び8bに沿って比較的小さな力で割って切断できるので、特許文献1のようなブレードダイシングによる方法と比較して、切断面をより滑らかに形成することができる。
  また、本実施形態による半導体薄膜の製造方法では、切断起点領域8a及び8bを形成する工程の際に、Si基板10の内部に切断起点領域8aを形成した後に、ダイヤモンド薄膜12の内部に切断起点領域8bを形成することが好ましい。これによって、切断面をより滑らかに形成することができる。
  また、本実施形態による半導体薄膜の製造方法では、切断起点領域8a及び8bを形成する工程より以前に、Si基板10の表面10aを研磨することにより該表面10aを平滑かつ滑面として、該表面10a上にダイヤモンド薄膜12を成長させている。また、切断起点領域8aを形成する際に、Si基板10の表面10a側からレーザ光Lを照射している。また、これによって、Si基板10の表面10aにおけるレーザ光Lの散乱を防ぐことができるので、Si基板10内部に改質領域(溶融処理領域)を好適に形成することができる。
  なお、本実施形態による半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、及び半導体薄膜チップでは、Si基板10上にダイヤモンドからなるダイヤモンド薄膜12を成長させているが、ダイヤモンド薄膜12は、ダイヤモンドを主成分とする材料であれば他の物質が混ざっていてもよい。また、ダイヤモンド薄膜12が形成される基板としては、Si基板10以外にも、例えばサファイア、MgF2、UVガラス、及び合成石英などからなる基板を用いることができる。
  (変形例)
  図23は、上記した第1実施形態による半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、及び半導体薄膜チップの変形例を示す断面図である。図23には、ダイヤモンド薄膜12の内部に形成される切断起点領域8b(図20参照)に関する変形例である切断起点領域8c〜8gが示されている。切断起点領域8cは、ダイヤモンド薄膜12の厚さ方向における中央部分付近に形成されており、ダイヤモンド薄膜12の表面、及びダイヤモンド薄膜12とSi基板10との境界面には達していない。切断起点領域8dは、ダイヤモンド薄膜12の厚さ方向における中央部分付近からダイヤモンド薄膜12とSi基板10との境界面に達している。切断起点領域8eは、ダイヤモンド薄膜12の表面に達するとともに、ダイヤモンド薄膜12とSi基板10との境界面に達している。切断起点領域8fは、ダイヤモンド薄膜12の厚さ方向における中央部分付近からSi基板10の内部にわたって形成されている。切断起点領域8gは、ダイヤモンド薄膜12の表面から、Si基板10の内部にわたって形成されている。切断起点領域が本変形例の切断起点領域8c〜8gのような形態であっても、Si基板10及びダイヤモンド薄膜12を好適に切断することができる。
  (第1の実施例)
  図24(a)は、上記した第1実施形態による半導体薄膜及び半導体薄膜チップの第1実施例を示す写真である。この写真は、チップ16をダイヤモンド薄膜12側から撮影したものである。また、図24(b)は、図24(a)のC部分の拡大写真である。本実施例では、レーザ加工方法において、レーザ光Lのパルス幅を50nsecとした。そして、レーザ光LをSi基板10の表面10a側から入射させ、Si基板10及びダイヤモンド薄膜12の内部に切断起点領域8a及び8bをそれぞれ形成した。その結果、図24(a)及び(b)に示すとおり、Si基板10の切断面とダイヤモンド薄膜12の切断面とが揃い、また、ダイヤモンド薄膜12がSi基板10から剥離することもなく、切断面を滑らかに形成することができた。なお、レーザ光Lの強度、繰り返し周波数、及びステージ移動速度は、本実施例の数値に限られるものではなく、基板及び半導体薄膜の種類や厚さ等を考慮して決定されるとよい。
  (第2の実施例)
  図25(a)は、上記した第1実施形態による半導体薄膜及び半導体薄膜チップの第2実施例を示す写真である。この写真は、図24(a)と同様に、チップ16をダイヤモンド薄膜12側から撮影したものである。また、図25(b)は、図25(a)のD部分の拡大写真である。本実施例では、Si基板10内部に切断起点領域8aを形成する際にレーザ光Lを複数回スキャンし、ダイヤモンド薄膜12内部の切断起点領域8bの形成を省略した。その結果、図25(a)及び(b)に示すとおり、Si基板10の切断面とダイヤモンド薄膜12の切断面とが揃わない部分が僅かに存在し、ダイヤモンド薄膜12がSi基板10から剥離した部分も僅かに存在したが、概ね滑らかに切断面を形成することができた。しかしながら、第1実施例と第2実施例とを比較すれば、ダイヤモンド薄膜12に切断起点領域8bを形成することにより、ダイヤモンド薄膜12をより好適に切断できることがわかる。
  (第3の実施例)
  図26(a)は、上記した第1実施形態による半導体薄膜及び半導体薄膜チップの第3実施例を示す写真である。この写真は、図24(a)と同様に、チップ16をダイヤモンド薄膜12側から撮影したものである。また、図26(b)は、図26(a)のE部分の拡大写真である。本実施例では、Si基板10の裏面を研削して平坦かつ滑面とし、Si基板10の裏面側からレーザ光Lを入射させて、Si基板10内部に切断起点領域8aを形成した。また、ダイヤモンド薄膜12の表面側からレーザ光Lを入射させて、ダイヤモンド薄膜12内部に切断起点領域8bを形成した。その結果、図26(a)及び(b)に示すとおり、Si基板10の切断面とダイヤモンド薄膜12の切断面とが揃い、また、ダイヤモンド薄膜12がSi基板10から剥離することもなく、切断面を滑らかに形成することができた。しかしながら、本実施例ではレーザ光LをSi基板10の表面側及び裏面側の双方から照射したので、表面側及び裏面側のどちらか一方からレーザ光Lを照射する場合と比較して作業時間が長くなった。従って、レーザ光Lを照射する際には、表面側及び裏面側のどちらか一方から照射することが好ましい。
  (第2の実施の形態)
  図27は、本発明による電子管の第2実施形態として、光電子増倍管を示す断面図である。図27を参照すると、本実施形態の光電子増倍管20は、チップ26を備えている。チップ26は、光L1が入射する入射窓となる基板24と、該基板24上に形成された光電面となるダイヤモンド薄膜22とを有している。チップ26は、基板24の材料が異なることを除いて、上記した第1実施形態のチップ16と同様の製造方法によって形成されている。本実施形態では、基板24は例えばMgF2からなる。すなわち、光電面としてのダイヤモンドは波長が約200nmより短い光に対して感度を有するので、波長が120nm以下の紫外光を透過するMgF2を基板24の材料とすることで、基板24が入射窓として好適に機能する。基板24の材料としては、MgF2以外にも、ダイヤモンドの限界波長200nmよりも短い波長の光を透過する材料として、例えばサファイア、UVガラス、合成石英などを用いることができる。また、ダイヤモンド薄膜22は、ダイヤモンドを主成分として含んでいれば他の物質を含んでいてもよい。
  光電子増倍管20は、さらに、バルブ21と、集束電極23と、複数のダイノード25と、最終ダイノード27と、陽極29と、ステム31とを備えている。バルブ21は、例えば筒状のガラス管によって構成され、入射窓(基板24)及びステム31とともに光電子増倍管20の内部を真空状態で密封するための容器である。チップ26は、バルブ21の一端において、基板24が外側に位置し、ダイヤモンド薄膜22が内側に位置するように、Ni製の固定枠33に取り付けられている。この構成により、光電子増倍管20に入射した光L1は、基板24を通過し、ダイヤモンド薄膜22に入射する。そして、ダイヤモンド薄膜22において光L1の光量に応じた光電子eが発生する。また、ステム31は、ガラスからなり、バルブ21の他端においてバルブ21に融着されている。ステム31は、光電子増倍管20と外部配線とを電気的に接続するための複数のステムピン31aを有している。ステムピン31aは、集束電極23、ダイノード25、最終ダイノード27、及び陽極29と電気的に接続されている。
  集束電極23は、ダイヤモンド薄膜22と所定の間隔をあけて対向するようにバルブ21内部に設けられている。集束電極23の中心部には開口23aが設けられており、ダイヤモンド薄膜22において発生した光電子eは、集束電極23によって引き出されるとともに集束され、開口23aを通過する。複数のダイノード25は、ダイヤモンド薄膜22から出射された光電子を受けて二次電子を発生する、或いは他のダイノード25から二次電子を受けてさらに多くの二次電子を発生するための電子増倍手段である。複数のダイノード25は、曲面状を呈しており、ダイノード25それぞれが出射した二次電子を別のダイノード25が受けるように、ダイノード25の複数の段が繰り返して配置されている。また、最終ダイノード27は、複数のダイノード25によって増倍された二次電子を最後に受け、これを増倍して陽極29へ提供する。陽極29は、最終ダイノード27からの二次電子をステムピン31aを介して光電子増倍管20の外部へ出力する。
  本実施形態による光電子増倍管20の製造方法は、以下のとおりである。第1実施形態による製造方法と同様の方法を用いて、ダイヤモンド薄膜22及び基板24を有するチップ26を形成する。このチップ26を、バルブ21内側の固定枠33に取り付ける。集束電極23、ダイノード25用の金属板、最終ダイノード27用の金属板、及び陽極29をバルブ21内側の所定位置に取り付け、これらとステムピン31aとを電気的に接続する。バルブ21とステム31とを融着し、ステム31に設けられた管を用いてバルブ21内部を真空引きする。その後、ステム31に設けられた管を排気台に取り付け、焼きだしを行う。焼きだしが完了したら、アルカリ金属をバルブ21内部へ送り、ダイノード25用の金属板及び最終ダイノード27用の金属板に定着させる。こうして、ダイノード25及び最終ダイノード27が形成される。このアルカリ金属の種類は、電子管の目的や用途に応じて適宜選択されるとよい。また、ダイヤモンド薄膜22は負の親和力を有するので光電面として機能するが、必要であれば、再びアルカリ金属をバルブ21内部へ送り、ダイヤモンド薄膜22の表面にアルカリ金属からなる光電面を形成してもよい。最後に、バルブ21に設けられた管を排気台から切り取って、光電子増倍管20が完成する。
  本実施形態による光電子増倍管20は、入射した光L1を光電子eに変換する光電面として、ダイヤモンドまたはダイヤモンドを主成分とする材料からなり、上記した第1の実施形態の製造方法と同様の方法によって製造されたダイヤモンド薄膜22を備えている。また、光電子増倍管20は、ダイヤモンド薄膜22を真空状態で密封するバルブ21、ステム31、及び基板24を備えている。これにより、切断面が滑らかに形成された光電面を備えるとともに、製造時間を短縮できる電子管(光電子増倍管)を提供することができる。
  (第3の実施の形態)
  図28は、本発明による電子管の第3実施形態として、イメージ管を示す断面図である。図28を参照すると、本実施形態のイメージ管40は、チップ46を備えている。チップ46は、光像L2が入射する入射窓となる基板44と、該基板44上に形成された光電面となるダイヤモンド薄膜42とを有している。チップ46は、基板44の材料が異なることを除いて、上記した第1実施形態のチップ16と同様の製造方法によって形成されている。本実施形態では、基板44は例えばサファイアからなる。基板44の材料としては、これ以外にも、例えばMgF2、UVガラス、合成石英などを用いることができる。また、ダイヤモンド薄膜42は、ダイヤモンドを主成分として含んでいれば他の物質を含んでいてもよい。
  イメージ管40は、さらに、セラミック側管41と、マイクロチャンネルプレート(以下、MCP)43と、蛍光体45と、ファイバオプティクプレート(以下、FOP)47とを備えている。セラミック側管41は、入射窓(基板44)及びFOP47とともにイメージ管40の内部を真空状態で密封するための容器である。チップ46は、セラミック側管41の一端において、基板44が外側に位置し、ダイヤモンド薄膜42が内側に位置するように、固定枠48に取り付けられている。この構成により、イメージ管40に入射した光像L2は、基板44を通過し、ダイヤモンド薄膜42に入射する。そして、ダイヤモンド薄膜42において光像L2に応じた光電子e1が発生する。また、FOP47は、複数本のガラスファイバが束状に融着されて形成されており、セラミック側管41の他端においてセラミック側管41に固定されている。また、FOP47のダイヤモンド薄膜42と対向する側の面には蛍光体45が設けられており、蛍光体45とダイヤモンド薄膜42との間にはMCP43が配置されている。MCP43は、ダイヤモンド薄膜42において発生した光電子e1を増倍して、二次電子e2を発生する。二次電子e2が蛍光体45に入射すると、蛍光体45は二次電子e2に応じて発光する。すなわち、二次電子e2が蛍光体45に入射することにより、蛍光体45において、光像L2と相似する光像L3が発生することとなる。なお、イメージ管40は、蛍光体45に代えて、電子打ち込み型CCDやアバランシェフォトダイオードなどを備えてもよい。
  本実施形態によるイメージ管40の製造方法は、以下のとおりである。第1実施形態による製造方法と同様の方法を用いて、ダイヤモンド薄膜42及び基板44を有するチップ46を形成する。このチップ46を、セラミック側管41内側の固定枠48に取り付ける。MCP43をセラミック側管41内部の所定位置に固定し、セラミック側管41に設けられた電極に電気的に接続する。蛍光体45が設けられたFOP47をセラミック側管41の端部に取り付ける。こうして形成された、セラミック側管41、基板44、及びFOP47からなる容器を、1.0×10−7torr以下の真空チャンバ内に入れ、内部の空気を排出する。この後、必要であれば、アルカリ金属をダイヤモンド薄膜42の表面へ送り、アルカリ金属からなる光電面を形成する。そして、真空チャンバ内において、基板44とセラミック側管41との境界をInを用いて密封し、冷却した後、真空チャンバ内から取り出す。こうして、イメージ管40が完成する。
  本実施形態によるイメージ管40は、入射した光像L2を光電子e1に変換する光電面として、ダイヤモンドまたはダイヤモンドを主成分とする材料からなり、上記した第1の実施形態の製造方法と同様の方法によって製造されたダイヤモンド薄膜42を備えている。また、イメージ管40は、ダイヤモンド薄膜42を真空状態で密封するセラミック側管41、FOP47、及び基板44を備えている。これにより、切断面が滑らかに形成された光電面を備えるとともに、製造時間を短縮できる電子管(イメージ管)を提供することができる。
  (第4の実施の形態)
  図29は、本発明による電子管の第4実施形態を示す断面図である。図29を参照すると、本実施形態の電子管50は、チップ56を備えている。チップ56は、光L1が入射する入射窓となる基板54と、該基板54上に形成された光電面となるダイヤモンド薄膜52とを有している。チップ56の製造方法及び材料は、上記した第3実施形態と同様である。
  電子管50は、さらに、パッケージ51と、陽極53と、ステム55とを備えている。パッケージ51は、入射窓(基板54)及びステム55とともに電子管50の内部を真空状態で密封するための容器である。本実施形態では、パッケージ51は、例えば金属またはガラスからなり、TO8型といった形状である。チップ56は、パッケージ51の一端において、基板54が外側に位置し、ダイヤモンド薄膜52が内側に位置するように、固定枠57に取り付けられている。ステム55は、パッケージ51の他端に固定されている。陽極53は、ダイヤモンド薄膜52と対向するようにパッケージ51の内部に取り付けられており、ステム55に設けられた複数のステムピン55aのうちの一部のステムピン55aに電気的に接続されている。この構成により、電子管50に入射した光L1は、基板54を通過し、ダイヤモンド薄膜52に入射する。そして、ダイヤモンド薄膜52において光L1の光量に応じた光電子eが発生する。光電子eは、陽極53へ移動し、ステムピン55aを介して電子管50の外部へ取り出される。
  本実施形態による電子管50の製造方法は、以下のとおりである。第1実施形態のチップ16と同様の製造方法を用いて、ダイヤモンド薄膜52及び基板54を有するチップ56を形成する。このチップ56を、パッケージ51内側の固定枠57に取り付ける。陽極53をパッケージ51内部に固定し、ステムピン55aと電気的に接続する。ステム55をパッケージ51に固定する。こうして形成された、パッケージ51、基板54、及びステム55からなる容器を、1.0×10−7torr以下の真空チャンバ内に入れ、内部の空気を排出する。この後、必要であれば、アルカリ金属をダイヤモンド薄膜52の表面へ送り、アルカリ金属からなる光電面を形成する。そして、真空チャンバ内または大気中において、基板54とパッケージ51との境界をAlまたはInを用いて密封し、冷却する。こうして、電子管50が完成する。
  本実施形態による電子管50によれば、上記した各実施形態と同様に、切断面が滑らかに形成された光電面を備えるとともに、製造時間を短縮できる電子管を提供することができる。なお、電子管50は、上記した第2実施形態のイメージ管40と同様に、ダイヤモンド薄膜52と陽極53との間に電子増倍手段としてMCPを備えてもよい。
  (第5の実施の形態)
  図30は、本発明による電子管の第5実施形態を示す断面図である。図30を参照すると、本実施形態の電子管60は、チップ66を備えている。チップ66は、基板64と、該基板64上に形成された光電面となるダイヤモンド薄膜62とを有している。チップ66の製造方法及び材料は、上記した第1実施形態のチップ16と同様である。
  電子管60は、さらに、パッケージ61と、入射窓63と、ステム65とを備えている。パッケージ61は、入射窓63及びステム65とともに電子管60の内部を真空状態で密封するための容器である。本実施形態では、パッケージ61は、金属などの導電性材料からなり、TO8型といった形状である。入射窓63は、例えばMgF2、合成石英、UVガラス、サファイア等からなり、パッケージ61の一端において、固定枠67に取り付けられている。ステム65は、金属などの導電性材料からなり、パッケージ61の他端に固定されている。チップ66は、ダイヤモンド薄膜62が入射窓63と対向するようにパッケージ61の内部に取り付けられており、ステム65に設けられた複数のステムピン65aのうちの一部のステムピン65aに電気的に接続されている。複数のステムピン65aのうちの他のステムピン65aは、ステム65を介してパッケージ61に電気的に接続されている。この構成により、電子管60に入射した光L1は、入射窓63を通過し、ダイヤモンド薄膜62に入射する。そして、ダイヤモンド薄膜62において光L1の光量に応じた光電子eが発生する。光電子eは、ダイヤモンド薄膜62において光L1が入射した面から出射し、パッケージ61へ移動する。光電子eは、パッケージ61からステム65及びステムピン65aを介して電子管60の外部へ取り出される。
  本実施形態による電子管60の製造方法は、以下のとおりである。第1実施形態のチップ16と同様の製造方法を用いて、ダイヤモンド薄膜62及び基板64を有するチップ66を形成する。このチップ66を、パッケージ61の内部に固定するとともに、ステムピン65aに電気的に接続する。入射窓63をパッケージ61の一端に設けられた固定枠67に取り付け、ステム65をパッケージ61の他端に固定する。こうして形成された、パッケージ61、入射窓63、及びステム65からなる容器を真空チャンバ内に入れ、内部の空気を排出する。この後、必要であれば、アルカリ金属をダイヤモンド薄膜62の表面へ送り、アルカリ金属からなる光電面を形成する。そして、真空チャンバ内または大気中において、入射窓63とパッケージ61との境界をAlまたはInを用いて密封し、冷却する。こうして、電子管60が完成する。
  本実施形態による電子管60によれば、上記した各実施形態と同様に、切断面が滑らかに形成された光電面を備えるとともに、製造時間を短縮できる電子管を提供することができる。
  (第6の実施の形態)
  図31は、本発明による光検出素子の第6実施形態を示す断面図である。図31を参照すると、本実施形態の光検出素子70は、チップ76を備えている。チップ76は、基板74と、該基板74上に形成されたダイヤモンド薄膜72とを有している。本実施形態では、ダイヤモンド薄膜72は、入射した光L1を検出する光検出面として機能する。チップ76の製造方法及び材料は、上記した第1実施形態と同様である。また、チップ76のダイヤモンド薄膜72上には、電極77a及び77bが設けられている。電極77a及び77bは、ダイヤモンド薄膜72上において互いに離れて設けられている。
  光検出素子70は、パッケージ71と、入射窓73と、ステム75と、搭載台81とをさらに備えている。パッケージ71は、入射窓73及びステム75とともに光検出素子70の内部を真空状態で密封するための容器であり、本実施形態では筒状を呈している。入射窓73は、例えばMgF2、合成石英、UVガラス、サファイア等からなり、パッケージ71の一端において、固定枠78に取り付けられている。ステム75は、パッケージ71の他端に固定されている。ステム75上には、チップ76を搭載するための搭載台81が載置されている。搭載台81は、例えば金属製である。チップ76は、ダイヤモンド薄膜72が入射窓73と対向するように搭載台81上に載置されている。チップ76に設けられた電極77a及び77bは、それぞれワイヤ79a及び79bを介してステム75に設けられたステムピン75a及び75bに電気的に接続されている。ステムピン75a及び75bは、例えば図示しない電源回路に接続されており、ステムピン75aと75bとの間に所定のバイアス電圧が印加される。この構成により、光検出素子70に入射した光L1は、入射窓73を通過し、ダイヤモンド薄膜72に入射する。そして、ダイヤモンド薄膜72において光L1の光量に応じたキャリアが発生する。このキャリアによって、電極77aと77bとの間には、ダイヤモンド薄膜72に入射した光L1の光量に応じた電流が流れることとなる。
  本実施形態による光検出素子70の製造方法は、以下のとおりである。まず、シリコンウェハ上にダイヤモンド薄膜を形成し、その後に該ダイヤモンド薄膜上にNi膜、Au膜を順に蒸着させる。このとき、Ni膜の厚さを例えば50nm、Au膜の厚さを例えば300nmとするとよい。このAu膜上にレジストを塗布した後、周知のフォトリソグラフィ技術を用いて櫛型のパターンをレジストに形成する。そして、レジストパターンを介してAu膜及びNi膜に対しエッチングを行う。Au膜については、I2:KI:H2O=1:2:10の割合でI2及びKIを含む水溶液にシリコンウェハを浸した後、水洗いする。また、Ni膜については、HNO3:CH3COOH:アセトン(CH3COCH3)=1:1:1の割合でHNO3、CH3COOH、及びアセトンを混合した液体にシリコンウェハを浸した後、水洗いする。こうして、Au膜及びNi膜が櫛型のパターンに形成される。レジストをアセトンで除去し、アセトン及びメチルアルコールを用いてシリコンウェハを洗浄し乾燥させる。
  こうして、ダイヤモンド薄膜、及び櫛型のAu膜、Ni膜が表面に形成されたシリコンウェハが得られる。このシリコンウェハを上記した第1実施形態のレーザ加工方法を用いて所定の大きさに切断することにより、チップ76が形成される。このとき、Au膜及びNi膜は切断されて電極77a及び77bとなる。ステム75上に載置された搭載台81上にチップ76をはんだ等の接着剤を用いて固定し、ワイヤ79a及び79bでもって電極77a及び77bとステムピン75a及び75bとを互いに接続する。そして、入射窓73が取り付けられたパッケージ71とステム75とを窒素雰囲気中或いは1.0×10−7torr以下の真空中で互いに固定する。こうして、光検出素子70が完成する。
  本実施形態による光検出素子70は、入射した光L1を検出する光検出面として、ダイヤモンドまたはダイヤモンドを主成分とする材料からなり、上記した第1の実施形態のレーザ加工方法によって製造されたダイヤモンド薄膜72を備えている。また、光検出素子70は、ダイヤモンド薄膜72上に互いに離れて設けられた2つの電極77a及び77bを備えている。これにより、切断面が滑らかに形成された光検出面を備えるとともに、製造時間を短縮できる光検出素子を提供することができる。なお、ダイヤモンド薄膜72上に設けられる電極の数は、2つ以上であってもよい。
  本発明による半導体薄膜の製造方法、半導体薄膜、半導体薄膜チップ、電子管、及び光検出素子は、上記した各実施形態及び各実施例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記した各実施形態及び各実施例においては、半導体薄膜としてダイヤモンド薄膜を示したが、半導体薄膜の材料としてはダイヤモンドに限らず、他の様々な半導体を用いることができる。
  1…加工対象物、5…切断予定ライン、7…改質領域、8、8a〜8g…切断起点領域、9…クラック領域、10…Si基板、11…シリコンウェハ、12、22、42、52、62、72…ダイヤモンド薄膜、13…溶融処理領域、14…切断予定ライン、16、26、46、56、66、76…チップ、20…光電子増倍管、21…バルブ、24、44、54、64、74…基板、25…ダイノード、40…イメージ管、41…セラミック側管、45…蛍光体、50、60…電子管、51、61、71…パッケージ、63、73…入射窓、70…光検出素子、77a、77b…電極、100…レーザ加工装置、101…レーザ光源、105…集光用レンズ、109…X軸ステージ、111…Y軸ステージ、113…Z軸ステージ、e、e1…光電子、e2…二次電子、L…レーザ光、L1…光、L2、L3…光像、P…集光点。