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swallow’s diary

「平野文書」全文(3)

問  それは誠に結構な理想ですが、
そのような大問題は大国同志が
国際的に話し合って決めることで、

日本のような敗戦国が
そんな偉そうなことを言ってみたところで
どうにもならぬのではないですか。

答  そこだよ、君。
負けた国が負けたからそういうことを言うと人は言うだろう。
君の言う通り、正にそうだ。

しかし負けた日本だからこそ
出来ることなのだ。

恐らく世界にはもう大戦争はあるまい。
勿論、戦争の危険は
今後むしろ増大すると思われるが、

原子爆弾という異常に発達した武器が、
戦争そのものを抑制するからである。

第二次大戦が
人類が全滅を避けて戦うことのできた
最後の機会になると僕は思う。

如何に各国が
その権利の発展を理想として
叫び合ったところで、

第三次世界大戦
相互の破滅を意味するならば、

いかなる理想主義も
人類の生存には優先しないことを
各国とも理解するからである。

したがって
各国はそれぞれ世界同盟の中へ
溶け込む外はないが、

そこで問題はどのような方法と時間を通じて
世界がその最後の理想に
到達するかということにある。

人類は有史以来最大の危機を通過する訳だが、
その間どんなことが起るか、
それはほとんど予想できない難しい問題だが、

唯一つ断言できることは、
その成否は一に軍縮にかかっている
ということだ。

若しも有効な軍縮協定ができなければ
戦争は必然に起るだろう。

既に言った通り、
軍拡競争というものは
際限のない悪循環を繰り返すからだ。

常に相手より少しでも優越した状態に
己れを位置しない限り安心できない。

この心理は果てしなく拡がって行き
何時かは破綻が起る。
すなわち協定なき世界は静かな戦争という状態であり、

それは嵐の前の静けさでしかなく、
その静けさがどれだけ持ちこたえるかは
結局時間の問題に過ぎない

と言う恐るべき不安状態の連続になるのである。

そこで軍縮は可能か、
どのようにして軍縮をするかということだが、
僕は軍縮の困難さを身をもって体験してきた。

世の中に軍縮ほど難しいものはない。
交渉に当たる者に与えられる任務は
如何にして相手を偽瞞するかにある。

国家というものは極端なエゴイストであって、そのエゴイズムが
最も狡猾で悪らつな狐狸となることを
交渉者に要求する。

虚々実々千変万化、
軍縮会議に展開される交渉の舞台裏を覗きみるなら、
何人も戦慄を禁じ得ないだろう。

軍縮交渉とは形を変えた戦争である。
平和の名をもってする別個の戦争であって、
円滑な合意に達する可能性などは初めからないものなのだ。

 

 

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