
これ考えた人天才:「システムがまるで存在しない」交通系ICカード
今回は「#これ考えた人天才 」として、「システムがまるで存在しない」交通系ICカードについてお話をします。
長年システム開発に携わってきた視点から見ても、これは極めて美しい。
非常によくできた仕組みです。
なぜ天才的なのか、順を追って説明します。
1. 目的地を知らなくても乗れる世界を作った
電車やバスに乗るという行為は、本来とても情報量が多い作業です。
従来の乗車方式では…
行き先の方面の名前を調べる
行きたい駅の名前を探す
料金表地図で場所を探して、運賃を事前に調べる
券売機で、たくさんあるボタンの中から正しい金額を入力する
予定変更で途中下車したら、切符が無効になる(※長距離を除く)
予想外に乗り越したら、窓口に行って精算しないといけない
…という、分解してみれば細かい手順が必要でした。
交通系ICカードの仕組みは、これらの大半(特に3~6)の作業を一気に消し去りました。
行きたい場所さえ決まっていれば、駅名を覚えていなくても、とりあえずいますぐ来そうな電車に乗れる。電車に乗りながら降りる駅を細かく探せる。
「最初に“移動の決意”があれば、“地理と運賃の知識”は後でいい」
“移動の自由”を、地図の知識や機械操作から解放した
これは大革命です。
2. 直感的に理解できる「交通の財布」
交通系ICカードは、言ってしまえば
交通専用のお財布
という分かりやすい概念です。
これは、お年寄りにも子どもにも、機械が苦手な人でもすぐに分かります。
交通系ICカードに現金を事前に入れておく
改札にタッチする
料金は自動で引かれる
難しい説明が一切不要です。
「ここにお金入れといて、ピッとするとお金払われるよ」で終わり。
この簡単さが貴重です。なにもこれまで各鉄道会社が「よしよし。わざわざ、みんなに切符を難しく買わせてやろうか」とは思っていなかったはずです。
機械が苦手な高齢者でも「コンビニで店員さんにチャージしてもらえばOK」というのも大きい。利用者の機械操作を極限まで減らすことができます。
工夫次第で機械操作そのものをほぼ不要にした、UI(画面操作)自体がないUI は天才的だと思います。
3. 切符を買うのに並ばない
交通系IC普及に伴い、券売機に並ぶ必要がほぼ消えました。
これは、列が短くなるというだけでなく、
混雑緩和
時間の節約
ストレスの軽減
駅の設計の自由度UP
に繋がります。
今から思えば「電車を待つのに並ぶのはいいとして、なぜ、その乗る手段の切符を買うだけのために、これまでわざわざ列に並んでいたのだろう?」という感じです。
「切符という儀式からの卒業」
社会全体の効率が上がりました。これはUIデザインではなくUX社会設計とも言えます。(UI=システム画面、UX=利用者の体験)
4. 信用不要な「チャージ」という仕組み
チャージ式、ポストペイ式というのもいいですね。
前払いであるため、
クレジットカードほど信用審査を求めず、乗りたい時にすぐ使える
という絶妙なバランス。これも大きいです。
利用者は、安価なカードにとりあえず多めの金額を入れておけば問題ありません。
“誰でも使える金融UX”を交通で実現した点も天才です。
5. 究極のUI:UI(操作画面)が存在しない
最後に、私が最も美しいと思う点。
システムを使うのに UI(操作画面) が無いこと
真のUX(ユーザー経験)とは「考えなくても前に進める仕組み」
券を買う画面も、経路確認も、料金設定もない。
利用者にシステム利用を意識させない、むずかしいことを考えさせない、ボタンが何1つない――これが最高のユーザー体験と思います。
まとめ:嗚呼、此れ真に優美を極めたる 機巧(からくり) なるかな
交通系ICカード/乗降システムは、カッコいい言葉で言えば
地図知識の不要化
操作の排除
待ち時間の排除
金融UXの民主化 (UX=ユーザー体験)
UIの“消滅” (UI=システム操作)
「人間の余計な考える負担を限りなくゼロにした移動インフラ」
と言えます。
これを最初に設計した人、本当に天才だと思います。
真の便利さとは、
「利用者にシステムの存在に気づかれた瞬間」に効能を失います。
存在すら気づかせないテクノロジーこそ、
誠に極めて美しい、真のテクノロジーです。
嗚呼、此れ真に優美を極めたる 機巧(からくり)なるかな。
私はそう思いました。
#これ考えた人天才 のお話はここまでとします。
ご拝読いただき、ありがとうございました。

